これまでとは違う道に向けて - Goldman Sachs

情報提供資料
GSAM 会長
2013年2月
ジム・オニールの視点
これまでとは違う道に向けて
この1週間は、やや異常とも言える日々を過ごしました。ご推察の通り、私の去就についてのニュースが発表さ
れたためです。暖かいメッセージを下さった皆さまにお礼申し上げるとともに、直接ご返事申し上げられなかっ
た方々には、あまりにも多くのメッセージを頂いたので、目を通し切れていないためであることをお伝えしたい
と思います。当社(ここではゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを指します)で過ごした最後の
2年余を含む17年間に亘るゴールドマン・サックスでの素晴らしい年月の後、今は職を退くことを楽しみにして
おります。未だに、私は、ゴールドマン・サックスが私を雇ってくれたこと、そればかりかパートナーという役
職に就けたことには、本当に驚いています。言うまでもありませんが、この17年間のすべて(いえ、「ほとんど」
と言っておきましょう)を楽しむことができました。これから春と夏の間、少しばかり休暇をとり、ゆったりと
した時を過ごしてから、新たな道を歩き始めたいと思っています。どんな道になるのか、今はちょっと分かりま
せん。ただ今は、毎日、毎週の仕事からのプレッシャーのない状態で、新たな道について考える時間を楽しみに
しています。それまでの間、おそらく4月終わり頃までの数カ月は、読者の皆さまに私のレポートを断続的にお
届けしますので、しばらくの間これにご辛抱頂くことになると思います。と言いつつ、来週半ばには、妻ととも
に南米に休暇に旅立ちますので、3月まではお目にかかりません。
多くの国々も、これまでとは違う道に進む可能性
将来のこと、そして最新の経済データや政策課題全般について考えると、実に多くの課題があります。そして、
多くの国々の今後の見通しは、懸念もあれば明るい展望もあり、あるいはおそらくその両方が共存していると
いった状態ですが、それは見る人の心理状態にもよります。中国は、そうした国々の中でも最も重要な国ですが、
今後10年の見通しについては、私は非常に明解だと思っています。もちろん、一方で大きな課題があることも承
知しています。米国は、「前途有望」と思われますが、財政政策やワシントンの状況をあまりつぶさに見なけれ
ばという条件付きです。財政政策や国政の状況は、まったく逆の言葉があてはまる状況だからです。南米では、
刺激的なことがさまざま起こっています。アルゼンチン、キューバ、ベネズエラと言った国々には、先行きに対
するある種疑問がある一方、コロンビア、チリ、ペルーといった国々では、(表面上は)非常に活気があり、ま
た変革が起こっているようです。メキシコは、前者のグループから脱して後者の仲間入りをしようとしています。
また、ブラジルは、後者グループに留まろうと懸命ですが、そのためにはいくつか格闘すべき課題の兆候が現れ
てきています。欧州は、大きな課題で一杯の状況です。しかし、おそらく、私のキャリアを通じて初めて、本当
の変化が起こる兆しが見えています。ただし、この1週間は、課題の大きさを改めて思い知らされました。そし
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てもちろん、中東では驚く程の出来事が起こっていますが、中には期待の持てることもあり、反対に問題点も少
なくとも同じくらい出てきています。アフリカ、特にサハラ砂漠以南では、極めて楽しみなことが多く見られま
す。そして、アジアがあります。中国、インド、インドネシア、韓国、日本、オーストラリア、ニュージーラン
ド、フィリピン、そして実に東南アジア全体です。
何と言う希望に満ちた将来が、われわれを待っているのでしょう。
未だに中国の未来は明快
未だに多くの方が中国の今後の状況が悪化しそうだと常に心配しており、中国経済が引き続き持ちこたえていっ
ても、中国の成長神話に乗ってお金儲けをすることは無理だと考えているようです。しかし私は、この国の状況
は他の国の状況に比べて非常に明快だと思っています。そろそろ中国の旧正月が始まるので、中国の政策立案者
は、2012年の課題と指導部の交代について、ある程度の満足のうちに振返ることができるのではないでしょうか。
2013年に入ってからこれまでのところ、中国の国内市場が昨年11月に底値を打ち、中国は世界の株式市場をリー
ドする市場となっていることは、非常に興味深いことです。このことで、2007年から2012年にかけて市場のパ
フォーマンスが予想を大きく下回ったことは過渡期的なものであり、2008年の金融危機にかけては非常に割高な
市場が補正されたのだという可能性が高くなります。1月に関する最初の経済データが発表されましたが、輸出
についても輸入についても、かなりの増加を見せて、さらなる改善の様子がうかがえます。そして、より興味深
いことは、通貨供給量が増加しつつあることです。その上、消費者物価指数の上昇が2%という緩やかな水準に
減速し、生産者物価指数(PPI)は、引き続き(水準は下がったものの)マイナスです。
今週は、指導部から最低賃金をさらに引上げ、国有企業(SOE)が内部留保を貯め込むことを止めさせるという
計画の概要が特別に発表されたので、中国では改革の新たな勢いが溢れていました。これらのことは、すべて5
カ年計画、経済成長の「より高い質」、そして持続可能性のある成長と軌を一にするものです。多くの方が考え
ているように、中国が他国から学ぶべきなのではなく、他国が中国に学ぶことを検討すべきだと考えます。
むしろ私が今考えているのは、旧正月休み明けの中国株式市場の上昇です。ただし、投資家が引き続き注目すべ
きは、成長の質の向上や消費者の動向であり、成長の量ではないと考えます。
日本とその政策は厳しい道のり?
これまでとは違う道と言えば、日本については、間違いなくそういうことが言えそうです。市場はここまで、金
融政策と通貨の側面を本当に評価してきましたが、今週になって、日本人のジャーナリスト達と話をした結果、
われわれが果たして、日本の財政問題をしっかりと注視しているかは疑問であると気付きました。あるいは、我々
はみな、日本の財政問題を、偏見をもって見ているのでしょうか。ともかくも、よく知られている通り、日本の
景気循環調整後の財政状況や総債務残高(添付資料をご覧下さい)は、多くの他の国の状態がさほど悪くないよ
うに見えるほど深刻なものです。それでいて、安倍政権は日銀に対する2%インフレ目標の達成に加えて、追加
財政刺激策の実施についても慎重であるようには見えません。今後想像されるのは、日本や世界中のその他の
国々がどの程度の円安に耐えられるかではなく、どうしたら円の下落を止められるかと、人々が考え始めること
です。
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今週、日本では、興味深いことが多く起こりました。白川総裁の任期満了前に辞任するという報道も、そうした
もののひとつですが、これによって、政府が自らの目指す野心的な金融政策を実行に移すために、どんな人物で
も任命できる自由裁量を得たという見方が強まっています。
先週始めに、極めて重要な機関である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の理事長は、日本国債への投資
比率の見直しを行い、積立金を新興国株式や、いわゆる代替投資商品に追加配分することを検討すると述べまし
た。現在彼らの運用資産に占める日本国債保有比率は67%にも達しており、日本債券の最大の保有者です。故に、
彼らがほんの少しその投資比率を動かすだけでも、大変大きな影響をもたらす可能性があります。
その上、日本は、季節調整前ではありますが、12月に再び経常収支の赤字を記録しました。このことは特に2012
年の累積経常収支の黒字幅がGDPのわずか「1%」ということを意味し、これは日本基準からすると極めてわず
かな数字です。コンセンサスの見方は、対外投資収入の黒字が大きいため、経常収支の黒字は続くと見ています
が、これ以上悪化する兆しが少しでも見えれば、円弱気派にとっては、願ってもない好材料となると思われます。
全般的に見て、円売り、日本株買い、そしておそらく日本国債売りというコンセンサスが形成されつつあること
から考えると、今後は、軌道修正とまではいかなくても、少なくとも地固めの時期に突入したのではないでしょ
うか。
米国経済の回復は続く
先週は、米国経済や米国の政策課題に関わるあまり大きなニュースはありませんでした。ただし、オバマ大統領
は、今や避けられないと考えられている無差別な政府支出の削減の波を、今後数週間でせき止めようと動き始め
たように見えます。週末にかけては、民主党が多数を占める上院で、この波に対抗するため新たな1,200億米ド
ルの政策パッケージを提示すべく、急ピッチでプランがとりまとめられています。しかし、特に下院の共和党員
たちの主張を踏まえると、議論が起こるのは必至であり、そして再び米国の財政問題の深刻さについての関心を
呼び起こすこととなるでしょう。この問題は、日本に比べると小さい規模に見えますが、最近では、欧州のほと
んどの国よりも、はるかに深刻に見えます。
経済データを見ると、今週目立ったところでは、12月の貿易データがありました。貿易赤字幅は「ほんの」385
億米ドルと、これまで以上に楽観的な第4四半期、第1四半期のGDP予測をもたらしそうですが、それとは別に、
米国が今後これまでとは異なり、より良い道に進んでいくのではないかという見方を強めると思います。過去10
年の動きに比べれば、間違いなくバランスの取れた動きとなっています。2012年通年の赤字幅は、およそ5,400
億米ドルとなり、これはもちろん巨額であり、GDPの3〜3.5%の水準です。しかし、これまでの動向と比較して
みると、また、国内景気の回復もあることから、この数値も米国にこれまでとは違う何かが起こっていることの
兆候であると思われます。現在の輸出の水準は、輸入の約80%と、継続して回復基調にあり、さらに2012年には、
輸出は4.9%伸びた一方、実は輸入は2%減少しています。
中国のデータを併せ見ると、世界の2大経済大国が、目立った前向きな構造調整を進めていることは明らかです。
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そして、欧州については
金曜日の報道によれば、再び極めて長い話合いの末、欧州連合(EU)首脳によって、約9,600億ユーロの予算が
決定されました。これは、当初提案された1兆330億ユーロからは削減となっていますが、しかし、マレックス・
スペクトロン社(ブローカー)のルーク・ターピン氏からの情報によれば、EU予算始まって以来の名目額削減
であったとのことです。本当だとすると、これも、時代を象徴しているでしょう。経済学者によっては、これを、
欧州の政策立案者たちが財政緊縮をやり過ぎたことのさらなる証拠と見るかもしれません。しかし、EUの構造
やガバナンスといった大きな課題を踏まえると、もしこれが正解であるなら、何かこれまでとは違う道のりを物
語っているのかもしれません。
今週は、この他、ユーロ圏全体や主要国での非製造業購買担当者景況指数(PMI)や「複合」PMIといった地域
内の前向きな展開を物語るさまざまな情報がありました。全地域の複合指標は、47.8から48.6へ跳ね上って、水
準自体はかなり低いものの、良い反発傾向を示しています。特にドイツは、その中でも、非常に好調な様子でし
た。ドイツのサービス部門は、かなりの好調を物語る55.7であったのに対し、フランスは今やイタリアとスペイ
ンの双方よりも軟調です。これは、今後のある時点で、間違いなく懸念材料として浮上することでしょう。
マリオ・ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁は、今週開いた記者会見で、またも素晴らしいパフォーマンスを見せ
ました。突然の人気で上昇したユーロの動きを受け、よく事態を理解していない人々に対し、ECBはユーロがしっ
かりと、健全で、今後も存続できる通貨であって欲しいと願ってはいるが、そのこととユーロが上昇し続けるこ
ととは別であると明解に述べました。この発言は、主要通貨の多くを嫌うことは容易であるのに対し、特定通貨
を選好することは難しいということを暗に意味しています。
このように書いたところでふと考えると、主要10ヵ国の通貨の中で、積極的な評価を与えるとしたら、どの通貨
にしようか迷うところです。積極的に推す通貨がないため、米ドルを選好する気持ちがますます強くなってきて
います。しかし、米連邦準備理事会連銀(FRB)の考え方を踏まえると、本当にそれほどの評価を与えるべきか、
今悩んでいるところです。
アイルランドが、ECBとの合意を取り付けた模様で、アイルランドの景気回復は、変わりなく続いているようで
す。
これらを全般的に眺めると、ユーロ圏にとって今週は悪い週ではなかったようですが、ただイタリアとスペイン
は別です。スペインについて付け加えるべきことはあまりないのですが、財政緊縮策の健全性について、政権トッ
プが有権者に間違った理解をさせていることは、政策を成功させる良い方法とは思えません。イタリアについて
は、世論調査でのベルルスコーニの驚くべき人気回復を見ると、総選挙を前に、今後数週間、かなり不安定な状
況が続くことが予想されます。もちろん、再度のカムバックはすぐにはないでしょう。それにしても、バロテッ
リ(イタリアのサッカーチーム、ACミランの選手)の復帰が、イタリアに巻き起こしていることは実に驚くべ
きです。
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英国経済データの素晴らしいミステリーは続く
今週、英国中央銀行であるイングランド銀行の次期総裁に任命されたカナダ銀行のマーク・カーニー総裁が、本
格的に着任する前に、公の前に姿を現しました。彼の人気は、早い時期になくなってしまうのではないかという
懸念の声もあったようです。私は、公聴会の様子を観る時間がなかったのですが、報道を読み、あるいは何人か
の人たちと議論したところでは、カーニー氏はなかなかうまくこなしたようです。彼にとっても、我々英国民に
とっても、良いことだと思います。この国には今、新鮮な空気が求められており、間違いなくこれまでとは違う
道を歩み始めなければなりません。
しかし、今週私が多くの人々に申し上げた通り、今この国の経済に何が起こりつつあるのかはっきりとしない状
態が続いているという訳ではないようです。経済データが、実態よりも低く抑えられていることを示す気配があ
るのです。最新のPMI、建設業界、そして特に鉱工業生産関連データをすべて総合すると、(a)経済は、0.3%
のマイナス成長率などという低迷状態にあるのか、そして(b)正確性に疑義のあるこの数字を、なぜそんなに
急いで発表しなければならないのか、という疑問を抱かざるを得ません。
ともかく、これら最新データが示す英国の景気回復の状況が本物であり、持続力があるのなら、とても嬉しいこ
とです。注目することと致しましょう。
BRICs に戻ると
先ほど中国について申し上げたことに拘らず、今週は、BRICs各国にとっては、良い週とは言えませんでした。
ブラジルは、予想を上回る高い消費者物価指数を報告し、インドの統計機関からは、今年度のGDP成長率がおそ
らく前年比わずか5%程度であろうという発表がありました。
ブルームバーグ社のマイケル・パターソン氏(同社香港駐在)からの電話は、非常に興味深いものでした。その
内容は、彼らが行った「フレーズ・トラッカー」(報道で使われている言葉の追跡調査)によると、「BRIC」
という言葉の使用頻度が、2008年11月以来最も低い水準になったとのことで、それに関する質問でした。グーグ
ルで検索しても同じような結果になり、こちらでは2005年3月以来の低水準とのことでした(12月以降は明らか
に上昇しました)。私は、これは何か素晴らしい逆転現象を表しているのではないかと答えました。試しに、読
者の皆さんにお聞きしますが、今より10年ほど前からその後数年間、BRICs市場は非常に好調でしたが、この間、
どれほどこの言葉が使われたでしょうか(さほど使われていません)。同様に、昨年11月以降、中国市場がどれ
ほど良いパフォーマンスを上げているかご覧になって下さい。
2つめの答えは、パターソン氏には伝えませんでしたが、これを聞いて、私の退任を発表することを決意するこ
とができました。もしBRICsの成長神話がこれで終わるとすれば、私に残されているのは何だろうと考えました。
(もちろん、退任のニュースが流れた後は、用語検索の結果には、多少なりとも変化があったとは思いますが)
ご心配なく。皮肉の通じない方に申し上げますが、私は冗談を言っているだけです。
退任する前に、数週間、BRICと成長国(グロース・マーケッツ)について本格的なレポートを書くつもりです。
しかしその前に、マドリッド、そしてチリが私を待っています。
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ジム・オニール
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長
(原文:2 月 11 日)
本資料に記載されているゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)会長ジム・オニール(以
下「執筆者」といいます。)の意見は、いかなる調査や投資助言を提供するものではなく、またいかなる金融商
品取引の推奨を行うものではありません。執筆者の意見は、必ずしもGSAMの運用チーム、GSグローバル・イ
ンベストメント・リサーチ、その他ゴールドマン・サックスまたはその関連会社のいかなる部署・部門の視点を
反映するものではありません。本資料はGSグローバル・インベストメント・リサーチが発行したものではあり
ません。追記の詳細につきましては当社グループホームページをご参照ください。
本資料は、情報提供を目的として、GSAM が作成した英語の原文をゴールドマン・サックス・アセット・マ
ネジメント株式会社(以下「弊社」といいます。)が翻訳したものです。訳文と原文に相違がある場合には、
英語の原文が優先します。 本資料は、特定の金融商品の推奨(有価証券の取得の勧誘)を目的とするもの
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ではありません。本資料は執筆者が入手した信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、弊
社がその正確性・完全性を保証するものではありません。本資料に記載された市場の見通し等は、本資料作
成時点での執筆者の見解であり、将来の動向や結果を保証するものではありません。また、将来予告なしに
変更する場合もあります。経済、市場等に関する予測は、高い不確実性を伴うものであり、大きく変動する
可能性があります。予測値等の達成を保証するものではありません。BRICsSM、N-11SM はゴールドマン・サッ
クス・アンド・カンパニーの登録商標です。
本資料の一部または全部を、弊社の書面による事前承諾なく(Ⅰ)複写、写真複写、あるいはその他いかな
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