この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 17 検 査 値 英文原著論文紹介 ヘリコバクター・ピロリ感染と arterial stiffness Saijo Y, Utsugi M, Yoshioka E, Horikawa N, Sato T, Gong YY, Kishi R. Relationship of Helicobacter pylori infection to arterial stiffness in Japanese subjects. Hypertens Res. 2005; 28: 283-92. 西條泰明(論文執筆時:北海道大学大学院医学研究科予防医学講座公衆衛生学分野、現所属:旭川医科大学健康科学講座) 宇津木恵/吉岡英治/堀川尚子/佐藤徹郎/貢 英彦/岸 玲子 背景 質問紙票により喫煙習慣、飲酒習慣、運動習慣、学歴、 日本はHelicobacter pylori(H. pylori)感染率が 病歴を把握した。baPWVはform PWV/AVI(コーリン 先進国のなかで比較的高く、また、H. pyloriと虚血性 メ デ ィ カ ル テ ク ノ ロ ジ ー 社 )に よ り 測 定 し た。H. 心疾患や脳血管疾患との関連が報告されている。 一方で、 pylori抗体価陽性とCRPの2 分位の上位(CRP高値) 最近の欧米の研究をまとめたメタアナリシスでは、H. について、それらと、それらの組み合わせがbaPWV高 pyloriの虚血性心疾患への影響は明らかではないと報 値(3 分位の上位群)となるオッズ比をロジスティック 告され、H. pyloriの動脈硬化性疾患への役割について 回帰分析により解析した(性、年齢、BMI、収縮期血圧、 は結論が得られていない。さらに、H. pyloriと早期の 心拍数、TC、log TG、HDL-C、UA、FBS、喫煙、飲酒、 動脈硬化の関連については十分研究されていない。 運動習慣、学歴、高血圧、糖尿病、高脂血症、閉経の有 無(女性)で調整) 。 目的 本研究では、上腕−足首間脈波伝播速度(brachial- 結果 ankle pulse wave velocity;baPWV)により評価し 男性(表1)において、H. pylori抗体陽性のオッズ たarterial stiffnessを 動 脈 硬 化 の 指 標 と し て、H. 、H. pylori抗体陽性 比が1.27(95%CI:1.05 ∼ 1.52) pyloriと動脈硬化の関連について検討し、H. pyloriの とCRP高値の組み合わせのオッズ比が1.50(95%CI: 動脈硬化の危険因子としての役割を明らかにすることを 1.14 ∼ 1.98)と、いずれもbaPWV高値となるオッズ比 目的とした。 が有意に高かった。さらに49 歳以下の男性の解析にお いて、H. pylori抗体陽性のオッズ比が1.40(95%CI: 対象・方法 1.04 ∼ 1.88)、H. pylori抗体陽性とCRP高値の組み合 対象は2003 年度の一職域の健康診断を受診した35 歳 わせのオッズ比が1.81(95%CI:1.16 ∼ 2.80)と、い 以上の男性 8,229 人、女性 2,194 人。健康診断受診前に ずれもbaPWV高値となるオッズ比が有意に高かった。 質問紙票を配布し、同意の得られた人から受診時に質問 しかし、50 歳以上の男性と女性(表2)ではいずれも有 。685 紙票を回収した(男性 3,907 人、女性 1,044 人) 意な関連は認めなかった。 人(男性 495 人、女性 190 人)は、冠動脈疾患、脳血 管疾患の既往、足関節/上腕血圧比(ABI)0.9 未満、 考察 baPWV未測定、血液の未検査の理由により除外し、最 本研究では、H. pylori抗体陽性が、特に49 歳以下の 終的に、3,412 名の男性と854 名の女性が解析対象者と 男性において、有意にarterial stiffnessの上昇に関連し なった。 ていることを示した初めての報告である。また、H. 健康診断時に、身長・体重測定を行い、空腹時血液検 pylori抗 体 陽 性 とCRP高 値 の 組 み 合 わ せ で さ ら に 、中性脂肪(TG) 、 査により、総コレステロール(TC) arterial stiffness上昇のオッズ比が高くなることも明ら HDL-コレステロール(HDL-C)、尿酸(UA)、血糖(FBS)、 かにした。先に述べたように欧米の研究のメタアナリシ CRP、H. pylori IgG抗 体 価 を 測 定 し た。H. pylori スでは、 有意なオッズ比の上昇はなかったとしているが、 IgG抗体価は酵素免疫測定法により、CRPは高感度法で 日本の急性心筋梗塞の症例対照研究では、特に55 歳以 あるラテックス・ネフェロメトリー法により測定した。 下で有意にオッズ比が高かったとする報告がある。 また、 76 076-077-英文原著論文_17.indd 76 06.9.12 4:54:47 PM この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. a :年齢、BMI 、収縮期血圧、心拍数、TC 、log TG、HDL-C 、UA 、FBS 、喫煙、飲酒、運動習慣、学歴、高血圧、糖尿病、高脂血症で調整。 全年齢 (n=3,412) 組み合わせ 組み合わせ 50歳以上 (n=1,653) 組み合わせ p値 a 調整オッズ比( 95% CI) p値 H. pylori 陽性 1.49(1.29∼1.72) <0.00001 1.27(1.05∼1.52) 0.013 <0.00001 1.18(0.97∼1.44) 0.10 CRP高値(>0.045mg/dL) 1.57(1.37∼1.82) H. pylori 陰性かつCRP低値 Reference H. pylori 陽性またはCRP高値 1.62(1.36∼1.94) <0.00001 1.25(0.99∼1.58) 0.062 H. pylori 陽性かつCRP高値 2.36(1.93∼2.90) <0.00001 1.50(1.14∼1.98) <0.005 H. pylori 陽性 1.47(1.16∼1.86) <0.005 1.40(1.04∼1.88) 0.026 <0.0001 1.28(0.94∼1.75) 0.12 Reference CRP高値(>0.045mg/dL) 1.61(1.27∼2.03) H. pylori 陰性かつCRP低値 Reference H. pylori 陽性またはCRP高値 1.65(1.24∼2.19) <0.0001 1.31(0.92∼1.86) 0.13 H. pylori 陽性かつCRP高値 2.36(1.69∼3.30) <0.00001 1.81(1.16∼2.80) <0.01 H. pylori 陽性 1.01(0.83∼1.23) 0.90 0.91(0.70∼1.18) 0.47 <0.0001 1.14(0.87∼1.50) 0.34 Reference CRP高値(>0.045mg/dL) 1.53(1.26∼1.86) H. pylori 陰性かつCRP低値 Reference H. pylori 陽性またはCRP高値 1.29(1.00∼1.67) 0.049 1.10(0.78∼1.54) 0.59 H. pylori 陽性かつCRP高値 1.56(1.19∼2.07) <0.005 1.04(0.71∼1.52) 0.85 17 検査値 49歳以下 (n=1,759) 粗オッズ比(95% CI) 英文原著論文紹介 表1 男性におけるヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)抗体陽性、CRP値とPWV高値(3分位の上位群) Reference 表2 女性におけるヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)抗体陽性、CRP値とPWV高値(3分位の上位群) a :年齢、BMI 、収縮期血圧、心拍数、TC 、log TG、HDL-C 、UA 、FBS 、喫煙、飲酒、運動習慣、学歴、高血圧、糖尿病、高脂血症、閉経の有無で調整。 全年齢 (n=854) 組み合わせ 49歳以下 (n=503) 組み合わせ 50歳以上 (n=351) 組み合わせ 粗オッズ比(95% CI) p値 a 調整オッズ比( 95% CI) p値 H. pylori 陽性 1.60(1.19∼2.16) <0.005 1.11(1.74∼1.67) 0.63 CRP高値(>0.025mg/dL) 2.30(1.72∼3.09) <0.00001 1.46(0.97∼2.21) 0.07 H. pylori 陰性かつCRP低値 Reference H. pylori 陽性またはCRP高値 1.68(1.22∼2.31) <0.005 1.20(0.77∼1.86) 0.41 H. pylori 陽性かつCRP高値 4.02(2.54∼6.38) <0.00001 1.66(0.89∼3.09) 0.11 H. pylori 陽性 1.34(0.92∼1.96) 0.13 1.15(0.69∼1.93) 0.58 CRP高値(>0.025mg/dL) 1.81(1.26∼2.60) <0.005 1.70(0.78∼3.73) 0.18 H. pylori 陰性かつCRP低値 Reference H. pylori 陽性またはCRP高値 1.32(0.90∼1.93) 0.15 1.12(0.67∼1.88) 0.66 H. pylori 陽性かつCRP高値 2.86(1.59∼5.14) <0.001 1.41(0.85∼2.33) 0.18 H. pylori 陽性 1.13(0.63∼2.01) 0.68 1.07(0.50∼2.26) 0.86 <0.005 1.87(0.86∼4.08) 0.12 Reference Reference CRP高値(>0.025mg/dL) 2.42(1.36∼4.32) H. pylori 陰性かつCRP低値 Reference H. pylori 陽性またはCRP高値 1.48(0.72∼3.01) 0.28 1.45(0.57∼3.73) 0.43 H. pylori 陽性かつCRP高値 2.74(1.15∼6.52) 0.02 1.95(0.62∼6.12) 0.25 Reference H. pyloriからの発癌や潰瘍形成に遺伝的感受性が関与 pylori抗体陽性により、またはH. pylori抗体陽性と するとの報告もみられる。H. pyloriからの動脈硬化性 CRP高値の組み合わせによりarterial stiffnessが上昇 疾患発症に関する遺伝的感受性の研究はみられないが、 することを示した初めての報告である。日本人はH. そのような遺伝的感受性に人種差が存在することが、 pyloriへの曝露率が高く、また、H. pyloriは抗生剤に H. pyloriの動脈硬化性疾患への影響が日本と欧米で異 より除菌することができる。今後は、日本人集団の前向 なる原因かもしれない。 き研究により、H. pylori抗体陽性とCRP高値が動脈硬 化性疾患発症の予測因子として有用か検討し、その有用 結論 性を確立する必要があると考えられる。 本研究は、動脈硬化の各危険因子で調整しても、H. 77 076-077-英文原著論文_17.indd 77 06.9.19 3:30:15 PM
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