学級・学校支援ガイドブック - 和歌山大学システム情報学センター

発達障害のある子どものための
学級・学校支援ガイドブック
-提案・交渉型アプローチを基本として-
和歌山大学教育学部
特別支援教育学教室
武田研究室
目
第1 章
次
はじめに
Ⅰ
提案・交渉型アプローチの提案 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
Ⅱ
知的障害を伴わない発達障害と二次障害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
第2章
事
事例1
例
通常の学級に在籍するADHD傾向のあるA児に対する支援
- 長 所 の 活 用 お よ び P A S S 理 論 の 観 点 か ら - ・・・・・・・・・・・・・・・・
事例2
通常の学級に在籍する児童に対する支援-教育的ニーズに応え
る学びの場、という視点から-
事例3
15
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
28
通常学級における攻撃的行動の強い児童への支援-中 1 ギャップ
を生まない効果的な移行支援を含めて - ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39
特別寄稿
通 常 の 学 級 に 在 籍 す る L D ・ A D H D ・ A S D が 疑 わ れ る 児 童 へ の 支 援 ・・・・・51
1
第1章
Ⅰ
はじめに
提案・交渉型アプローチの提案
1.強く叱り、結局は譲 っ て し ま う 指 導
子どもに対する教師や保護者のアプローチの仕方は様々であるが、次の3つは比較的よく目にするパター
ンである。①子どもが折れるまで、初めの要求をし続けたり、子どもの主張を無視して教師の思い通りにさせ
ようとする権威的な対応、②いうことを聞かせるためにごほうびをちらつかせたり、体罰を加えたりするとい
った力による統制、③いいだしたら聞かないので放っておいたり、自分が折れて、子どものいいなりになった
りするような子ども追従型。しかし、このように、子どもを強く叱って、結局は全面的に子どもに譲ってしま
うようなアプローチでは、自尊感情や自己効力感などのいわゆる子どもの「内面」が育たない。そればかりか、
発達障害があり、その特性ゆえに、対人関係につまずいたり学習に困難を抱えたりして、行き詰まり感の強い
子どもの場合には、不登校等の二次障害に陥ることが少なくない。不登校・引きこもりの4分の一が発達障害
のある子どもであることが最近明らかにされている。
このように、学習や対人関係に「行き詰まり」感の強い子どもに対して、教師がいくつかの選択肢を提案し、
交渉していく過程で、子どもが自己選択・自己決定し、「できる」「わかる」という体験を積み重ねさせるこ
とは、子どもの内面を育てていく上で非常に大切である。このようなアプローチを、提案・交渉型アプローチ
と呼ぶ。
本稿では、障害による学習上又は生活上の困難から行き詰まり、行動化や身体化を示す子どもたちに対して
有効な、『叱らないが、譲らない』提案・交渉型アプローチについて、解説し、その効用について論じる。
2. 子どものストレスと不適応のアセスメント
野口(1996)は、カウンセリング過程で生じる効果は、①不安感、緊張感の低減、②問題の見方を検討、す
なわち認知の変容、③信頼感(自己・他者に対する)の上昇、④自己像と自己評価(Self Esteem)の上昇、
⑤自己効力感の発揮、⑥チャレンジする気持ちの発現、⑦自己成長、そして自己実現へと進んで行くことを述
べている。行き詰まり感の強い子どもたちは、①から④の、大人には見えにくい内面に問題を抱えている場合
が多い。病的な不安を抱えていると、それらを適切に言語化できない場合に、不定愁訴などの身体症状(身体
化)や、問題行動(行動化)を示してしまうことがある。
このような不適応症状を示す子どもの状態を知るためのアセスメントとして、 T. M. Achenbach の評価シ
ステムが有効である。これは、子どものストレスを測定するためのツールの一つで、幼児期から思春期の子ど
もの情緒や行動を包括的に評価する質問紙で、子ども用、保護者用、教師用の3様ある。下位項目は、「ひき
こもり」「身体的訴え」「不安/抑うつ」「社会性の問題」「思考の問題」「注意の問題」「非行的行動」「攻
撃的行動」の八つの軸からなり、集計結果から「ひきこもり」「身体的訴え」「不安/抑うつ」からなる内向
尺度と、「非行的行動」「攻撃的行動」からなる外向尺度、総得点が導き出される。集計結果のプロフィール
表には二本の点線が示されており、下線の下は正常域、二本の点線にはさまれた領域は境界域、その上は臨床
域と評価され、子どものストレスの状態が一目で分かるようになっている。
1
2
3.ストレス対処過程におけるソーシャルサポートの効用
図1は、ストレス対処過程における認知的評価、対処行動、ソーシャルサポートの関係性を示したものであ
る。ストレッサーとは、ストレスの原因である。私たちは、それに対してまず「認知的評価」を行う。認知的
評価とは、ストレッサーの脅威性、あるいは重要性に関する評価で、これにより対処行動が決定される。「認
知的評価」は、一次的評価と二次的評価に分かれる。一次的評価とは、ストレッサーに対して、「大変だ、困
った」などと捉えることである。二次的評価とは、ストレッサーに対する対処行動についての評価である。対
処行動とは、ストレス反応を軽減するための行動である。「何とかなるな」と認知すれば、問題解決に向けた
積極的対処行動をとるが、「どうすることもできない」と認知した場合、人に当たり散らしたりパニックを起
こしたりするなどの現実逃避に代表される消極的対処行動をとると言われている。
また、認知的評価は、その評価によって情動に影響を及ぼす。情動とは、怒り・喜び・悲しみ・憎しみなど
のような一時的な感情の動きで、表情,身振りなどの行動の変化のもととなる。
対処行動
積極的対処行動
消極的対処行動
ストレス反応
認知的評価
ストレッサ ―
1次的評価
2次的評価
情動
不機嫌・怒り
抑うつ・不安
無力的認知思考
身体的反応
知覚されたソーシャル・サポート
父、母、きょうだい、教師、友人など
図1 ストレス対処過程と知覚されたソーシャルサポートの効用
また、心拍数の増加や血圧の上昇などの自律神経系や内分泌系の変化をも伴う。大脳皮質で処理された感覚
情報は、扁桃体を中心とする辺縁系に届けられると、快・不快などの評価が行われる。これらの情報は、内分
泌・自律神経系反応に影響を与える。辺縁系での情動評価は視床下部、脳幹に送られる。視床下部はさらに下
垂体へ情報を送り、内分泌反応を喚起する。脳幹は情動に伴う行動表出や身体反応を引き起こすことになる。
情動に悪影響を及ぼすストレッサーがあり、それが解決されないまま長時間ストレス状態が継続すると、心
身の不調を訴え、身体・精神に大きな悪影響を及ぼすことになる。様々な情動を「活性」「不活性」、「快」
「不快」という次元で示すと、図3のようになる(久光・坂井,2011)。
2
3
活性
怒り
恐怖
驚き
嫌悪
幸福
快
不快
悲しみ
不活性
図2
情動の形成と表出の仕組み
「悲しみ」は「不快・不活性」に、「怒り」「嫌悪」「恐怖」は「活性・不快」に位置付けられる。子ども
たちが、健康に生き生きと活動するためには、「快・活性」の「幸福」を感じる状態が好ましいことは、至極
当然のことである。
次に図2のソーシャルサポートとその効用について述べる。ソーシャルサポートの定義は、「他人から援助
を受ける可能性に関する期待、あるいは援助に対する主観的評価」である。すなわち、自分が周りの人に支え
られているということを主観的に知覚すること、支えてもらえるだろうという期待を意味する。例えば、自分
か元気がなければ励ましてくれる、悩みや不満を言ってもいやな顔をしないで聞いてくれる、何か失敗しても
そっと助けてくれる、普段から自分の気持ちをよく分かってくれている、悩んでいるときどうしたらよいか教
えてくれるなどのようなことへの期待である。サポート源としては、母親、父親、きょうだい、友だち、教師
などがあげられる。
ストレスと本人によって知覚されたソーシャルサポートとの関係は、負の相関関係にある。すなわち、サポ
ート期待を高く感じている子ども達はストレスが低く、逆に、サポート期待を低く感じている子どもたちはス
トレスが高いと言われている。
提案・交渉型アプローチを行うことは、本人によって知覚されるソーシャルサポートを高め、認知的評価の
二次的評価に作用し、ストレッサ―に対してあきらめにくい状態をもたらす。
4.提案・交渉型アプローチ
提案・交渉型アプローチとは、子どもが「無理」「できない」「どうしていいかわからない」などと立ち往
生したときに、子どもの気持ちに寄り添いながら、問題解決に向けたいくつかの方法を「提案」し、子どもと
「交渉」する中で子どもが自主的・主体的に「選択」できるように指導・支援する方法である。提案・交渉し
ている間は、主体は教師や保護者にあるが、自己選択・決定するのは子どもであり、その時主体は子どもにあ
る。
3
4
その際に気をつけなければならないのは、子どもの心の中にあって、上手く言語化できない本当の気持ちを
引き出すことである。だから、その基盤として、普段から子どもの言動に耳や目を傾け、共感し、受容する関
係が成立していなければならない。交渉の中でも、子どもの反応を注意深く受け止め、子どもの気持ちを拾い
上げることがポイントとなる。
この提案・交渉型のアプローチを続けていくことで、子どもはその認知的評価において徐々にあきらめにく
い状況となり、ストレッサ―へのコントロール可能感を高めていく。子どもは、自分は「支えられている」「大
切にされている」と実感できるから、自尊感情が高まり、自己効力感が高まる。
特に発達障害で二次障害のある子どもは、物事に対する評価が0か100と極端で二分化しやすい面があ
る。一つうまくいかないことがあると全てだめだと思ってしまう認知や思考の偏り・固さが見られることも多
い。このような子どもたちに、物事の様々なとらえ方や対処行動のバリエーションを示すことのできるこの提
案・交渉型アプローチは、特に有効なのである。
発達障害のある子どもたちに対しては、聴覚情報よりも視覚情報が有効な場合が多い。このアプローチにお
いても、対処行動(コーピング)を視覚化することが有効である。文字や図、絵などを用いることで、目に見
える形でどのようにストレッサーに対処していくかを考えさせ、客観視させることができて効果的である。ま
た、自分の選択の結果についても、あらかじめ子どもたちは「見通し」がもてるようになる。「安心」できる
環境の中で、自分を支えてくれる教師と「関係性」を高め、互いに「信頼」しあいながら、「選択・決定」し
ていくことは、子どもの内面を育てるのである。
5.事例
(1)親戚の結婚式に参加できたAの事例
教育相談でかかわったAは、不登校であった。小学生の時の家族旅行で行ったホテルのレストランで体調を
崩して吐いてしまったことがトラウマとなり、その後家族以外の人の前で食事をすることができなくなった。
中学生の時、親戚の結婚式に一家で招待されたが、Aは行きたがらず自分の部屋に閉じこもり、身体症状も
悪化した。筆者は、行きたいが行けないAの葛藤を感じ、両親に図3に示したような提案・交渉型アプローチ
を実施してもらった。ストレッサ―は結婚式ではなく披露宴に出て食事することなので、他者の前で食事しな
くて済む方法をどのように選択肢として提示できるかがポイントだった。
Aの安心感を保障するために結婚式・披露宴に行かなくてもよいという選択肢を提示すること、結婚式場の
ホテルの一室を予約し、そこで家族で食事をしようと提案することなどを両親にアドバイスした(図3)。実
際に結婚式に出席でき、親戚の人たちから「Aちゃん、大きくなったね。」と声をかけられると、そのまま披
露宴にも参加できて楽しむことができた。Aは、その後不登校状態が改善し、現在は高校に進学し、登校でき
るようになった。
4
5
ストレッサー
①保護者:Aちゃん、結婚式に行く?
無理しなくてもいいよ。
A:行きたくない。
② 母親:結婚式に行かないなら留守番してね。
Aさん:・・・・・・・・
欠席
強力な
ストレッサー
人前で食事を
すること
結婚式
欠席
○
出席
家で一人
で留守番
○
出席し
たい
④ 母親:ホテルに客室を予約するよ、そこで披露宴が
終わってから家族だけで食事するならどう。
Aさん:うん、・・・・・。それなら行く。
披露宴
出席
③ 母親:披露宴出
る?無理しなくてもい
いよ。
Aさん:絶対に嫌。
図3 人前で食事ができない生徒への提案・交渉型アプローチ
(2)清掃に参加できない児童への事例
図4に示したように、どうしても清掃に参加できない子どもがいていつも叱られている事例を報告
する。この場合、清掃がストレッサ―となっている。教師は叱ってはいても、子どもに対しては清掃
への不参加を許して全面的に譲ってしまっている状態になっている。清掃と一口に言ってもそれには
実に様々な活動が集約されている。ストレッサ―への対処行動として、そうした具体的な活動一つ一
つについてどうしたら出来るようになるのかを確認していくのである。すると、ほうきで掃くことや
机を運ぶことは問題なく出来るのだが、雑巾掛けがネックになっているらしい。さらに、雑巾掛けに
ついても、動作としては問題なく出来るが、汚いと感じている雑巾がどうしても素手で触れないこと
が分かる。つまり汚れた雑巾が強力なストレッサーとなっているのである。清掃ではほうきと机運び
だけを分担させ、雑巾掛けを免除するという対処もあるが、さらにゴム手袋をはめて雑巾掛けをする
という対処行動を提案してみる。ゴム手袋さえ準備してあげれば、清掃に全面的に参加することがで
きることが明らかになるのである。子どもたちは、このような交渉の中で、教師の提案の中から自分
が出来そうなことを選択し、自己決定していくことができるため、交渉の結果に従って納得して清掃
に取り組むことが出来るようになるのである。
このように発達障害の場合、コーピングを視覚化していくつの選択枝を提案し、子どもの主体性を
尊重しながら交渉していくことが有効である。
5
6
教師:A君、どうしたら清掃ができるかな
ストレッサー
教師:ほうきで掃くことはできますか。
A君:はい、できます。
教師:机やいすを運ぶことがきますか。
A君:はい、できます。
清 掃
汚れた雑巾に素
手でさわる
ゴム手袋をして
雑巾がけをする
×
雑巾がけ
雑巾がけという
動作はできる
○
教師:雑巾がけできますか。
A君:できません。
強力な
ストレッサー
教師:なぜできないのかな。
A君:汚れた雑巾に素手で触るのがどうして
もいやなんです。 でも乾いた雑巾でなら拭
けます。
○
×
○
机・いす運び
○
ほうきで掃く
教師:だったらゴム手袋をして雑巾
がけできるかな。
A君:できます。
図4 清掃に参加できない児童への提案・交渉型アプローチ
Ⅱ
知的障害を伴わない発達障害と二次障害
1.二次障害に陥りやすい子どもたち
発達障害の子どもは、その特性をもっているがゆえに集団生活の中で多動であることや対人関係の
まずさなどで「生きにくさ」を経験している。不登校・ひきこもりの4人に 1 人が発達障害のある子
どもや青年であるとの報告がある。発達障害の領域では、二次障害は発達障害特性と周囲の人との関
係性の中で生じる心身症や行動・精神面の合併症を意味することが多い。宮本(2008)は、精神医学的に
は、発達障害領域における二次障害の中心は、ストレッサーに反応して生じるストレス関連性障害(急
性ストレス反応、適応障害、心的外傷後ストレス障害等)であると述べている。
身体症状として出てくる場合は、頭痛、めまい、チック、過換気症候群、過敏性腸症候群、円形脱
毛症などがあげられる。また、行動上の問題としては、常同行動、選択性緘黙、抜毛、不登校、拒食
などの個人内にとどまる行動上の問題、周囲に迷惑を及ぼす暴力、非行など攻撃的、非行的行動があ
げられる。これらの攻撃的、非行的行動が重篤になると反抗挑戦性障害、行為障害にまで発展する可
能性もある。精神面の問題としては、不安障害、適応障害、強迫性障害などがあげられる。
行動上の問題として個人内にとどまる場合は、非社会的行動とも呼ばれ、他者の行動を妨害するこ
とのない集団への不適応行動であるとされている。また、周囲に迷惑を及ぼす行動上の問題の場合は、
反社会的行動と呼ばれ、攻撃行動、非行行動、いじめなど他者の行動を妨害する可能性のある集団へ
の不適応行動であると定義される。
鈴木・武田ら(2006)は、全国の病弱特別支援学校中学部、高等部における不登校状態を経験し在籍し
ている生徒の実態調査を行っている。その結果をみると、1901 人中 533 人(42.5%)の生徒が不登校
状態を経験して在籍し、そのうち 217 人(11.4%)に発達障害と不登校とが併存していた。発達障害
6
7
の内訳は、LD が 10%、ADHD が 24.9%、高機能自閉症が 14.7%、アスペルガー症候群が 39.2%、そ
の他 11.5%である。最も高い割合を占めたのはアスペルガー症候群であった。入院した時に始めてア
スペルガー症候群として診断されたケースが多くみられた。これらの結果からアスペルガー症候群は
発見されにくいため、学校で支援されることのないままいじめにあったり、阻害されたりする経験を
通して不登校になってしまったものと推察できる。
2.二次障害の予防していくための視点
保育所・幼稚園、小中学校、高等学校等において、発達障害のある子どもは、集団生活の中で自尊感
情を低下させ、情緒的に不安定になり、心身に変化がみられたり、行動上に問題を抱えたりしている。
学校教育においてどのように二次障害を予防していくかが大きな課題になる。ここでは、学校におい
て二次障害を予防する手立てとして、(1)国際生活機能分類(International Classification of Functioning,
Disability and Health:ICF)を活用し、子どもの実態を整理すること、(2)子どもの情緒と行動のチ
ェックリストを活用することで不適応状態とその程度を把握すること、(3)二次障害を予防するた
め、学校や学級においてどのような予防プログラムを用意するか、について論じる。
(1)ICFの考え方を使っての現状分析
ICFは、2001 年に WHO 総会において採択された障害の構造・概念の枠組みであり、人間の生活
機能を心身機能(body functions)・身体構造(body structures)、活動(activities)、参加(participation)
の3つの次元で捉え、それらの生活機能は健康状態と共に、環境因子(environmental factors)や個人
因子(personal factors)といった背景因子にも影響されるものとしている。ICFは、障害の肯定的な
見方や社会参加の視点から捉え、障害の状態を把握するための分類項目の体系であり、障害者支援を
総合的に見つめるアプローチとされている。
ICFは多くの目的に用いられる分類であり、さまざまな専門分野や異なった領域で役立つことを
目指しているもので、学校教育においても大いに役立つものである。
図5に示したようなICF構成要素間の相互作用図を子どもの関係者で「心身機能・構造」、「活
動」、「参加」、「環境因子」、「個人因子」に当てはまる実態を付箋などで貼り付け作成していく。
教師同士や保護者などが作成していく過程において、お互いの情報を共有することで子どもの全体像
が見えてくる。ICFを活用することで、それまでは、障害があるから問題行動を起こすという漠然
とした子どもの見方から、「障害の特性からくる対人関係や学習上に困難を抱えているから」という
見方に変わる。そして「心身機能・構造」、「活動」、「参加」、そして背景因子である「環境因子」
と「個人因子」を検討・分析していくことで指導や支援の目標、内容が整理され、支援の在り方が見え
てくる。
図5
ADHD の子どものICFによる分類
7
8
ICFの分類
健康状態(変調または病気)
ADHD
心身機能・身体構造
注意機能
記憶機能
情動機能など
活動
参加
教室から飛び出す
トラブルを起こしやすい
授業に集中できない
一斉授業に参加しに
くい
登校を渋る
背景因子
環境因子
個人因子
薬の服用
オープンスペースの教室
排他的なクラスメート
学校を信頼できない保護者など
自尊感情の低下
自己効力感の低さ
(2)学級集団の中での問題発生や悪化の予防
問題の発生を予防することを一次予防、問題の悪化を防ぐことを二次予防、問題による二次的な社
会的不利益を防ぐことを三次予防という(伊藤,2007)。
問題発生の予防
個別化
臨床・治療(clinical / treatment)
三次予防
不適応になっている子ども
適用根拠のある必要な予防
(indicated prevention)
SOSを出している子ども
二次予防
選択的な予防(selective prevention)
ハイリスクな子ども
一般的な予防(universal prevention)
一次予防
すべての子ども
集 団
図6
問題発生の予防
8
9
一次予防は、一般的な予防(universal prevention)と選択的な予防(selective prevention)に分けられ
る(図6)。一般的な予防は子ども全員を対象に行うものである。たとえば、発達障害など特別な教育
的ニーズのある子どもが在籍する学級の普段の学級経営において、発言の仕方、仲良くするマナーな
ど学級生活にかかわるルールを決めておくことが大切である。いわゆる全員を対象としたメンタルヘ
ルスケアである。それに対して、選択的な予防は、学級経営を行っていくための全員を対象にしたル
ールだけではわかりにくく、不十分な場合に考えられる予防活動である。例えば、ADHD で落ち着き
が無く、不注意である場合には教室内の座席の位置や班の構成メンバーに配慮することなどがあげら
れるであろう。ハイリスクな状態の子どもに対して、普段から個別な配慮や支援を行うことを指す。
また、二次予防は、教室を飛び出す、他者に暴力をふるうなどもうすでに問題が起きており、不適
応な状態に陥っている子どもに対して、これ以上の問題悪化を防ぐことを目的にして行うことをいう。
すなわち、適用根拠のある必要な予防(indicated prevention)である(図2)。適切な対処が必要であり、
保護者や専門機関等との連携を図りながら指導・支援が必要な段階である。
三次予防は、不登校等の非社会的行動や非行等の反社会的行動、また、心身症等の身体症状に対し
て、カウンセリングや治療を行うことにより問題による二次的な社会的不利益を防ぐことをいう(図
6)。
表1に示したように、一般的な予防として、学級においては、「学級でのルール(発言や仕方等)を
明確に掲示する」、「視覚支援教材を取り入れる」、「掃除当番や給食当番のグループごとの手順カ
ードで視覚提示する」、「友達の心を傷つけない個を認め合う学級づくりを目指す(ふわふわ言葉を多
くし、ちくちく言葉を少なくする作戦など)」などがあげられる。表 1 のように学級・学校等でできる
指導・支援の方法を明確にしていくことは二次障害を予防するために有効である。
(3)情緒や行動の包括的な質問紙の活用
幼児期から思春期にいたる子どもの情緒や行動を包括的に評価する質問紙として、米国バーモント
大学のアッヘンバック(Achenbach)が開発した一連の調査票がある。保護者が記入する Child Behavior
Checklist (CBCL)、ほぼ同じ内容で本人が回答する Youth Self Report (YSR)、ならびに教師が回答する
Teacher's Report Form (TRF)である。CBCL は 2-3 歳の幼児版(CBCL/2-3)と年長児版(CBCL/4-18)
とに分かれている。CBCL など一連の評価用紙の構成の特徴は、子どもの情緒と行動を多面的に評価
することであり、それぞれ男女別に標準化されている。CBCL/4-18 は社会的能力尺度と問題行動尺
度から構成されている。社会的能力尺度は、子どもの趣味や友達関係、家族関係など生活状況を調べ
るものである。問題行動尺度は 118 の質問項目と書きこみ可能な 1 項目から構成されている。これら
の質問により評価される症状群尺度は、「ひきこもり」、「身体的訴え」、「不安/抑うつ」、「社
会性の問題」、「思考の問題」、「注意の問題」、「非行的行動」、「攻撃的行動」の8つの軸から
なり、さらに「ひきこもり」、「身体的訴え」、「不安/抑うつ」からなる内向尺度、「非行的行動」
と「攻撃的行動」からなる外向尺度と総得点がある。これらは、心理社会的な適応/不適応状態を包
括的に評価できるようなシステムになっている。このプロフィール表には 2 つの点線が記入されてお
り、2 つの点線にはさまれた領域は境界域、その下は正常域、その上は臨床域と評価される(図7)。こ
のスケールを活用することで子どもの情緒面及び行動面の発達や問題の特徴を一目で包括的につかむ
ことができる。いち早く、心理社会的な適応/不適応状態を評価し、支援体制を整える有効なツール
である。
9
10
武田(2006)は、通常の学級における発達障害のある子どもの情緒及び行動に関する適応状態に関し
て CBCL、TRF、YSR で評価し、目で見える形で複数の関係者(担任、特別支援コーディネーター、保
護者等)が情報を共有すると共に、校内委員会等の支援会議でその結果を活用し指導・支援することが
有効であると報告している。
10
11
図7
Ⅲ
Teacher’s Report Form (TRF)の例示
メンタルヘルスを考慮した個別の指導計画の作成と指導・支援
二次障害を予防するための教育計画作成の視点として、メンタルヘルスを支援していくために個人
のレベルと環境レベルで考えていく必要がある。
個人のレベルでは、子どもが自らのストレスを軽減し、ストレスに対してより適切な対処ができる
力を育成することが重要である。そのためにはストレスマネージメントに関する教育の機会を保障し
ていくことが求められる。
発達障害のある子どもの場合、特にソーシャルスキルトレーニングを行うことでストレス対処に幅
を持たせたり、問題解決力を育成したりするための教育プログラムを用意していくことが必要である。
その際に、教師や友人との信頼関係を高め、お互いが相談できる関係性、すなわちソーシャルサポー
トを高めていくことが大切になる。さらに自尊感情を高めて、自己効力感を高めていくことが指導・
支援のポイントとなる。
また、環境のレベルでは、学校・学級内のストレッサーの軽減を図ること、相談できる人や場所を保
障し、発達障害を始め、さまざまな障害に対する啓発活動を推進していくことが重要である。
通常は、WISCⅣ知能検査や K-ABC 心理・教育アセスメントバッテリー、DN-CAS 認知評価システ
ム等の検査を実施し、知能の特性に配慮すると共に、各教科等の実態や情緒及び行動の実態を把握し、
個別の指導計画を作成する。しかし、二次障害がもうすでに生じている場合は、図8に示したように、
第一段階として「二次障害への対応」、第二段階として「障害特性への支援」、第 3 段階として「知
的機能への配慮」を可能な限り同時期に行っていくことが求められる。
個別の指導計画、個別の教育支援計画を作成、実践し、形成的評価を行いながら修正、再び指導・
11
12
支援を継続していく。いわゆる、PDCA(Plan-Do-Check-Action)あるいは PDS(Plan-Do-See)サイクル)
に沿って一貫性・継続性のある質の高い指導・支援を行っていくことが重要である。
第1段階
二次障害への対応
二次障害による不安定な状態
障害特性による困り感
第2段階
障害特性への支援
知的機能
第3段階
知的機能への配慮
図 8
Ⅳ
支援の順序性
サポートサイクルの明確化
オーストラリアニューサウスウェールズ州においては、サポートニーズのある子どもの個別教育計
画(Individual
Educational
Program;IEP)や個別学習支援計画(Individual
Learning
(Support)
Program;ILP)を作成する過程で、サポートサイクルを明確にしている(McRae, D.,1996;New
South Walls Education and Training, 1998;武田鉄郎,1999)。我が国においては、診断を行う医療機関や
知能検査等をする専門機関と学校が必ずしも連携を密にしているとは限らず、知能検査の結果が教育
現場で指導方法として生かされないことが頻繁にある。サポートサイクルは、個々の子どものサポー
トニーズを満たすために学校を支援する組織的な計画の枠組みである。保護者、学校や地区のスタッ
フ、そして、その他それぞれの段階で関係してくるすべてのメンバーは、子どもに同等な権利や満足
できる結果をもたらすために必要な組織である。
図9
NSW のサポートサイクル
12
13
サ ポ ー ト サ イ ク ル の 鍵 と な る プ ロ セ ス は 、 図 9 に 示 し た と お り 、 APPRAISAL 、 ACCESS 、
PROGRAMMING の3つである。APPRAISAL は、子どもの教育的な学力やサポートニーズを見極め、
評価することである。ACCESS は、サポートサービスへのアクセスで、評価の過程で診断された必要
な支援を可能にし、効果的な教育プログラムが受けられるようにするための窓口である。
PROGRAMMING は、学習成果をあげるための教育計画、すなわちそれぞれの子どものIEPやIL
Pの決定やその決定にかかわる計画、実行、観察、そして評価を含むものである。また、REAPPRAISAL
は、プログラムとサービスの再評価で、学習の成果や望まれた目標達成を確実にするサービスについ
て観察したり、評価したりする過程である。このサポートサイクルにおいて、3つの機能が常に連動
し、途切れないことが重要である。NSWでは、教育省の行政レベルでサポートサイクルを具体的か
つ明確に示し、各専門家を配置するとともに、各校において学習サポートチームを組織したことがこ
の政策を成功させたと考えることができる。
我が国においても、2007 年から地域支援のために特別支援学校のセンター的機能が本格的に動いて
いる。しかし、特別支援学校のセンター的機能はそのための教員を配置しているわけではなく、マン
パワーが不足しがちである。また、幼稚園、小・中学校、高等学校では特別支援教育コーディネータ
ーの任命が行われ、校内委員会が設置されたが、これらが必ずしも上手く機能しているとは言い難い。
医療、福祉、労働、教育等の専門機関は各地域に存在するが、組織間の協働支援体制は構築しにくい
状況にある。それを打開すべく、国は特別支援連携協議会を設けた。特別支援連携協議会は、特別支
援教育を推進するために必要な部局横断型のネットワークである。都道府県レベルをカバーする広域
特別支援連携協議会と地域ごとにカバーする地域特別支援連携協議会がある。しかし、このような仕
組みがあるにもかかわらず、各学校・園の教育現場レベルにおいては、部局横断型のネットワークづ
くりはなかなか推進されていない状況にある。学校内でのリソース(特別支援学級の活用やティーム
・ティーチング等)の工夫や、専門機関との連携が必ずしも上手くいっているとは限らない。サポー
トサイクルの概念すらないのが現状である。各自治体や地域において、活用できるリソースを整理し、
サポートサイクルを回すことができれば、発達障害のある子どもの支援は充実し、二次障害の予防が
より推進するであろう。
【
文
献
】
久光正・坂井健雄(2011)ぜんぶわかる脳の事典 124-125.
伊藤亜矢子(2007)コミュニティー心理学ハンドブック.東京大学出版, 256-586.
McRae, D.(1996) The integration/inclusion feasibility study. New South Walls Department of
School Education.
宮本信也(2008)二次障害.発達障害基本用語事典,p31,
金子書房
New South Walls Education and Training.(1998). Special Education Handbook for School
野口京子(1996)ヘルスカウンセリングの理論.健康心理・教育学研究,Vol2(2)1-5
鈴木滋夫・武田鉄郎・金子健(2008)全国の特別支援学校〈病弱〉における適応障害を有するLD・
ADHD等生徒の実態と支援に関する調査研究.特殊教育学研究、46(1),39-48.
武田鉄郎(1999)オーストラリアニューサウスウェールズ州における特殊教育.世界の特殊教育ⅩⅢ,
27-37.
武田鉄郎(2006)LD,ADHD 等で適応障害のある児童生徒の心理・行動特性及び支援体制に関する研究報
13
14
告書.科学研究費補助金基盤研究(C)成果報告書.
武田鉄郎「(2011)発達障害のある子どもの不登校等の二次障害予防及び支援体制に関する実証的研
究.科科学研究費補助金基盤研究(C)成果報告書
武田鉄郎(2011)知的障害を伴わない発達障害と二次障害.小野次朗他編『特別支援教育に生かす
病弱児の生理・病理・心理』,ミネルヴァ書房,45-55.
武田鉄郎他(2012)「特別支援教育」オーストラリア教育課題研修指導者海外派遣プログラム報告書.
独立行政法人教員研修センター
武田鉄郎(2013)発達障害のある子どもの二次障害の予防と対処.実践障害児教育、8、32-37
14
15
第2章
事例
事例1
通常の学級に在籍する
ADHD傾向のA児に対する支援
~長所の活用およびPASS理論の観点から~
15
16
【はじめに】
1
A児のプロフィール
・小学校2年男子、通常学級在籍。
・家族構成:A児、父親、母親、姉(中2)、姉(小5)の5人家族。
・明るく、人懐っこい性格である。
・ADHD 傾向がみられる(診断なし)
。
2
主訴
就学時は、気になる児童としてあがっていなかったが、聞くことが苦手で落ち着きがなかった。2年
生に進級してから、学習意欲が低下しはじめ、学習面の遅れが目立ってきた。一斉授業では内容を理解
することが難しく、投げやりになったり、立ち歩いたり喋り続けたりする。家庭においては、母親がA
児の状態を心配しはじめ、叱責することが多くなった。担任は、特別な支援が必要であると感じていた。
A児にどのような支援をしていったらよいのであろうか?
3
実態
現在、通常学級に在籍し、LD等通級指導教室に週1回通っている。学習面においては、自信のなさ
から「無理!」
「もう、やらない」等と意欲が下がっており、学習が困難な状態に至っている。行動面に
おいては、整理整頓が苦手で常に机の周りは散らかっている。忘れ物が多い、気になることがあれば衝
動的に動いてしまう、というような実態が見られる。時々、思ったことをそのまま友だちに言ってしま
いトラブルになることはあるが、明るく元気な子どもであり、友だちも多い。
4
手立て
主訴をふまえて、以下のようなアセスメントを行い、効果的な支援について検討した。
・A児の実態の聞き取り、学校生活の様子を観察
・ASABA-TRF(教師用子どもの行動チェックリスト)
・文部科学省発達障害チェックリスト
・WISC-Ⅳ知能検査
・PASS評定尺度
・ICFによる分析
16
17
17
18
ICF による実態分析
困難の発生する要因は?
健康状態(ADHD 傾向)
健康状態(ADHD・LD 傾向)
心身機能・身体構造
活動
参加
・注意機能の困難(注意の持続・配分が
困難)。
・興味のない活動には集中できず、
注意が持続しない。
・人前に出ることが好き。
・好きなことは集中して課題に取
・時間に関する見当識(時間の認識)
の困難。
・記憶機能の困難。
・感覚の特異な反応。
・授業中立ち歩きが多い。
・聞くことが苦手で聞き漏らしが多い。
・書くことに困難がある。
・車の絵を描くことや工作が好き。
・休み時間は友達と遊ぶ。
・痛みに弱く疲れやすい。
・粗大運動が苦手(マット、ダンス)。
り組むことができる。
・苦手意識がある課題に対して
は参加しようとしない。
・給食への参加が消極的(偏食あ
り)。
環境因子
個人因子
・父、母、姉(小5、中学生)。
・大人との会話を好む。
・車が大好き。
・友達に思ったことを言ってしまいトラブルになりやすい。
・母の希望により、小2から通級指導教室に週1で通う。
・母は家庭学習をよく見ている。
・少しプライドが高い。
・学習の理解度がゆっくりペース(助詞が分かりにくい)。
・自信のなさがみられる。
・クラスのなかに良い意味のリーダーが不在である。
・教室の座席配置により、周りの影響を受けやすい。
18
19
【個別の指導計画】
作成日
児童名
A
生年月日
平成 ○ 年
(第 2 学年 男・女)
○ 月
○ 日
満
8 歳
1.教育的ニーズ(願い)
・学級のみんなと一緒に楽しく元気に生活する。
・友だちや先生の話を聞くことができる。
1)通常の学級担任
・一定の時間内、集中して課題に取り組み、達成感を味わうことができる。
・大切なお知らせ等をきちんと家庭に届けたり、学校に提出したりすることができる。
・何事にも集中して取り組んでほしい。
2)保護者
・しっかりと話が聞けるようになってほしい。
2.心理検査の結果
検査名
WISC-Ⅳ
実施日
H25.3
結果
CA
L
文部科学省 CL
H25.10
D
PASS 評定尺度
所見
H25.12
7 歳 7 ヶ月
聞
:11
く
FIQ
話
す
言語理解(VIC)
:88
ワーキングメモリー(WMI)
:94
知覚推理(PRI)
:109
処理速度(PSI)
:88
: 93
:9
読
む
:5
書
:8
く
計
:2
算
推
論
:8
AD
/
HD
:5
:6
HF
PDD
:14
【別紙参照】プランニング(P) 注意(A) 同時処理(S) 継次処理(S)についての質問項目
WISC-Ⅳにおいて、全検査は「平均」のレベルであるが、
「知覚推理」が高く、それに比べて「言語理解」
「ワーキン
グメモリー」
「処理速度」が低いことから、形の操作、空間的な情報の把握・処理は得意であるが、聴覚的な処理、こ
とばの理解や操作は全般的に苦手であり、さらに視覚的な記憶(イメージや意味づけしにくいもの)も苦手であると
いうことが本児の状態像として捉えられる。つまり、言葉を耳で聞いて考えるよりも、絵や図などを目で見て考える
方が得意であるといえる。
文部科学省のチェックリストにおいて、学習面では「聞く」力の弱さ、また不注意・多動性の状態が見られる。し
かし、自分のやり方や考え方にこだわることはあまりなく、友だちには興味を示して関わりを好むため、学級では楽
しく活発に過ごしているようである。集中しやすい環境を整えること、また友だちの言動が過剰な刺激になるため、
プラスのモデルである友だちの言動を見本として提示することにより、本児の言動にも良い影響を与えるであろうと
推測される。
PASS 評定尺度においても、
「注意」の領域に弱さが見られ、注意の持続時間が短い、必要に応じて一つのことに注
意を向けることが難しい(選択性注意力)
、周囲の刺激に過剰に反応してしまうといった本児の状態を表しているとい
える。また、
「継次処理」に比べ「同時処理」の方が得意であり、この長所を活用した指導法を提供していくことが望
ましい。さらに、
「プランニング」の弱さも見られるため、プランニングの具体的な攻略法を取り入れた学習支援を行
っていく必要がある。
よって、本児に適切な支援の方法としては、視覚的な手がかりを用いる、具体物の操作を取り入れる、覚えるべき
内容は体験と結びつける、また、認知処理過程の弱い側面に強い負担がかからないような指導案を選択する、スモー
ルステップを用いて成功に導き、学校や家庭での成功体験を保障する、さらに、課題を解決するための方略(手立て
やプラン)を教える等といった点が有効であると考えられる。
19
20
20
21
21
22
22
23
【個別の指導計画】
実態
学習面
長期目標
短期目標
手立て
・課題(算数の問題、漢字練習 ・集中して課題に取り組み、 ・提案・交渉で決めた課題
等)に対し、最後まで集中し
時間内にやり終える。
に最後まで取り組むこと
て取り組むことが難しい。
ができる。
・書くことに抵抗があるため、
自分の考えを書くことだけ
でなく、写すことも面倒くさ
がる。
・直感的に計算の答えが分かっ
ても、立式ができない等、順
序立てて考えることが苦手
である。
・漢字の形がその漢字の意味を示す絵と類似していることに気づかせ、絵を手がかりに、漢
字の意味を推測させる。
・絵カードを使って、漢字のもつ意味の理解を図るとともに、視覚的な手がかりによって形
を覚えさせる。
・話題の内容を示すシンボルマークを手がかりに、様子を思い出させる。ピラミッド形の文
配列板にシンボルマークを配列させ、文の組み立てを視覚・空間的に想像させる。
やったこと
見たこと
聞いたこと
感じたこと
ピラミッド形の文配列板の上にシンボル
マークを書きたい順番に、上から配列さ
せ、文の構成のイメージ化を図る。
生活面
行動面
対人関係
・整理整頓が苦手で、あちらこ ・学校からの配布物を忘れず
ちらに置いて忘れてしまう
に家庭に届けたり、宿題等
ことがある。
の提出物を出したりする
・宿題等の提出物も声をかけな
ことができる。
いと出し忘れてしまう。
・自分の思っていることを深く ・友だちや先生の話を聞くこ
考えずに、
言ったりしたりし
とができる。
てしまう。
・話すとき、聞くときを意識
・話好きではあるが、自分の話
して、話すことができる。
したいことを時と場所を考
えずに話し出し、止めること
が難しい。
・文章題を絵や図にし、大意をつかませる。
数の変化の関係を計算式に表す過程を経て、文章題の文章と計算式の関係を理解させる。
・課題が終わったら、即時評価する。
・自分の持ち物を緑のかご ・各教科の学習用具を色分けして、同じ学習で使うものをまとめることを視覚的に理解でき
に入れる。
るようにする。
・宿題を登校後すぐに提出 ・朝の準備チェック図を使い、視覚的に理解させる。
する。
・持ち物カード(※次ページ参照)をクリアファイルに挟んで、持ち帰り、提出日の朝、持
ってきたかどうかの報告を必ず聞く。
・相手の話を最後まで聞く。 ・学級の生活ルールを明確にする。
・手を挙げ、指名されてか ・視覚的な手がかりを用いて、がんばってみたいきまりがかかれたサインカードを選択し、
ら話す。
授業の前に自分の机や黒板に貼り、きまりを守るよう意識化を図る。
・シンボルマークで、今何をするべきかを提示する。
教室移動など絵や図、写真などの視覚的・空間的な手がかりを用いて場所や用件に注目さ
せる。
23
24
〈持ち物カード〉
24
問題の発生と悪化の予防例示
25
支援の場
学級
支援レベル
学校
○学級目標、学級のルールを教師と子どもが一緒に作り上げる。 ○ICFの視点で子どもの実態を把握し、教師間で共通理解する。
○家庭訪問、学級懇談会などを通じて、
○個人に対するルールがあることを学級全体で理解できるように ○校内の人的資源を有効活用する。
保護者のニーズを理解する。
する。
○学年だより、学級通信を通じて学校の
(支援員の活用方法、効果的な時間割の構成など)
○どの子にも分かりやすいユニバーサルデザインの授業を行う。 ○教材や学習進度などについて、学年担任間で共通理解して
一
次
予
一
般
的
な
予
防
家庭
・分かりやすい声で、ゆっくりと短く具体的な指示を出す。
様子を家庭に伝える。
授業を行う。
・授業を飽きさせない工夫(15分ずつの細切れの課題、読む・書く・
聞く・話す活動をうまく配分する)をする。
・具体物を操作するなど実践的・体験的な授業を行う。
・視覚支援(図や絵の掲示、板書の工夫)を取り入れる。
・授業の見通しを持たせたり、授業の振り返りを行うなど、授業の
防
開始・終了にめりはりを持たせる。
○学び合いや学級活動を通じて、子ども同士の繋がりを深める。
○どの子も認められる学級経営を行う。(係、役割を通して)
○子どもをたくさん褒め、肯定的に捉える。
○自尊感情、自己効力感を高めるような活動を取り入れる。
○整理整頓された教室にする。 ○静かな時間帯を作る。
選
択
的
な
予
防
○個別の支援を必要する子どもを把握する。
○校内委員会で学級担任と専科担当、支援員などが連携を深め、
○電話、連絡帳、家庭訪問を通じて、
○支援員などを活用し、個別の支援に対応する。
支援の必要な児童に対してチームとして支援を行う。
保護者との連絡を密にする。
○がんばりカードを活用し、自己評価をさせる。
○支援チームで個別の指導計画を立てる。
○家庭からの相談に乗り、アドバイスを
○成功体験を多く積む。 ○支援チームが定期的に個別の指導計画のチェックを行い、
する。
○子どもの得意・不得意を見極め、授業内容を組み立てる。
必要に応じて計画の見直しを行い、支援を進めていく。
○座席を配慮する。
○一時的な個別指導の場所を確保する。
○算数の習熟度別学習など学力定着を目指した取り組みを行う。
二
次
予
防
予あ適
防る用
必根
要拠
なの
三
次
予
防
を会二問
防的次題
ぐ不的に
利なよ
益社る
○学習の遅れや個別の課題に対応する。(通級指導教室等)
○知能発達検査を行う。○スクールカウンセラー等の活用を検討する。 ○学校、児童相談所、医療機関、子ども
○子どもに応じた課題を用意する。
○児童相談所、医療機関、子ども総合支援センター、家庭との
○放課後など個別に子どもの話を聞く機会を継続的に設ける。
連携を図り、定期的に相談・報告を行い、支援方法を検討する。
総合支援センターとの連携を図る。
○校内外の人的資源を有効活用する。
○子どもの心理状態を把握する。
○児童相談所、医療機関、子ども総合支援センター、家庭との
○学校、児童相談所、医療機関、子ども
○子どもに応じた課題を用意する。
連携を深め、支援体制の見直しと強化を行う。
総合支援センターとの連携を強化する。
○放課後など個別に子どもの話を聞く機会を継続的に設ける。
○抽出など、個別指導の時間を増やす。
25
26
【考察と課題】
A児の事例研究により、様々な角度からの実態把握、支援の方針について検討することができた。
A児の自尊感情は低く、
「どうせ、できないから」「僕には、難しいから」とあきらめることが多かっ
た。A児は、様々な面で失敗を重ねており、自信がなく、同時に学習意欲も低下していて学習の遅れが
目立ち始めた。また、まわりから叱られることが多いというような環境であった。このようなことから、
学習の遅れ、自尊感情の低下が見られ始めたと考えられる。
WISC-Ⅳ知能検査等では、A児の得意な部分、苦手な部分について理解することができた。ここでは、
全般的な知能の遅れは見られなかったが、認知の特性に偏りがみられ、不得意な教科のつまずきが年齢
とともに学習全般に影響していたこと、身体機能である注意集中の困難、記憶の困難なども大いに学習
に影響していることがとらえられた。
そこで、知能検査の結果や観察を踏まえて、A児の長所を生かす方向で、得意である学習の方法を取
り入れることを考えた。具体的には、視覚的、空間的な手掛かりを用いた指導、学習材料の各要素がば
らばらでなく関連性に注目させる指導、さらに「プランニング」の弱さも見られるため、プランニング
の具体的な攻略法を取り入れた学習法が有効であると考え、具体的な内容を示した。また、A児自身に
どのような学習方法が自分にとって得意であるかを考えさせるメタ認知を養うことも課題であると考え
られる。可能な範囲で個別化を図りながら、興味のある課題、選択制のある課題、自らの努力で達成で
きる課題、自分で目標を設定し、自己評価する課題等、A児の学習の動機づけを重視したカリキュラム
を設定し、支援を行うことが必要であると考えた。課題を達成できた際は言葉やシールで称賛し、自分
の努力に帰属させるように支援を行うことで、A児の自尊感情は安定してきた。この際、シールやポイ
ント等の外発的動機づけは効果的であったが、それだけにならないようA児の知的好奇心を育てること
を大切に、達成感、有能感を感じさせる内発的動機づけにも並行して重きをおいた。これらのことが、
A児の学習意欲の向上につながっていったと考えられる。
ICFによる現状分析においては、A児と取り巻く当初の環境は、あまり整えられておらず、少なからず
そのことがA児の困難さにつながっていると考えられた。A児にかかわる複数の大人がチームを組み、
共通認識を図り、支援を行っていく必要があった。5月からの通級指導教室での支援、学習支援員やス
クールボランティアによるA児への個別支援・一斉授業の中での支援、T.T.授業等の工夫により、担任
だけが抱え込まず、A児を複数でサポートする体制を作った。このように、校内外にある資源を有効活
用することは意義のあることである。特に、学習支援員という人材を、単に特定の児童の支援にとどめ
るだけでなく、学級・学校全体の対応と離れないように、学級担任等と連携した取り組みを進めること
が重要である。学習支援員は教員と違って異なった立場で子どもにかかわり、その立場からの気づきや
発見が大切な支援情報になり、ますます連携は必要になると感じる。
A児の在籍する学級には、他にも数名の気になる子どもが存在する。問題発生や悪化の予防をするこ
とを目的にして段階的な支援体制を作ること、ユニバーサルデザインの授業、学級規律作り等は、基本
的な支援である。しかし、
「学級はこうでなければならない」という枠組みにとらわれず、まず学級にい
る子どもたちの本当のニーズをとらえなおすことが大切である。気になる子どもに、学級の環境を居心
地の良い環境に整えること、それはすべての子どもにとって居場所のある学級につながるといえる。
26
27
<引用・参考文献>
熊谷恵子・青山真二・藤田和弘(2000)
『長所活用型指導で子どもが変わる<Part2>』図書文化
J.A.ナグリエリ、E.B.ピカリング、
(訳者
前川久男、中山健、岡崎慎治)(2010)『DN-CASによる子ども
の学習支援―PASS理論を指導に活かす 49 のアイデア―』日本文化科学社
西村修一(2009)
『子どもの見方が分かるICF―特別支援教育への活用―』クリエイツかもがわ
27
28
事例2
通常の学級に在籍する児童に対する支援
~教育的ニーズに応える学びの場、
という視点から~
28
29
1.はじめに
(1)B児のプロフィール
・小学校4年生 通常の学級に在籍
・家族構成は、母親とB児の 2 人家族
・高機能広汎性発達障害(5 歳の時に診断を受ける)
(2)主訴
・学習面が全般的に遅れ、3 年生までの内容が定着していない
・学習に対して苦手意識が強く、意欲的な参加が難しい
・予定の変更や難しい課題に直面した時等、奇声を発したりイライラする感情を抑えれらない
(3)実態
学習面
1~3年生の学習内容については、定着していない。片仮名、特殊音節等の表記は難しい。
1年生の漢字の読み書きが不完全で、本人も苦手であると感じている。
くり上がりの計算は指を使わずできつつある。
対人関係
教師と関係をスムーズに作ることができる。今年度は、友達関係も安定しており、帰宅してから
も友達と遊ぶことを楽しみにしている。
コミュニケーション
自分が経験した楽しいことを話すのが好きであるが、空想や願望等も入っていると思われるような
幼い面が見られる。質問に対しては受け答えでき、会話は成立するが、自分の気持ちを表現する
ことが得意ではないと感じられる。
授業の中で自分にとって少し困難な課題に直面した時や予定の変更で自分の思い通りにならない時
には、イライラする感情を抑えられないこともある。そのような時には、課題に落ちついて取り組
むことができない。
通常の学級での様子
自信がなく、課題にスムーズに取り組むことができていないことが多い。他の児童と異なる課題
内容を友達に指摘されると、学習を止めてしまう場面が見られた。
入学後の経過
就学前の判定は「支援学級」判定であったが、母親の希望で通常の学級に在籍している。
(1年生)TT 支援を受ける。TT 支援の成果として、集中や理解力は上がるが、文字を書くことや学
習内容の定着は難しい。コミュニケーション面の原因から友達とのトラブルがある。
(2年生)TT 支援の継続。夏休みには、担任による個別指導を受ける。TT 支援では難しく、9月よ
り週1回の個別指導(リソースルーム、以下 R.R)開始。相手の気持ちを考えられずトラブルがある。
(3年生)個別指導(R.R)を継続。本人は R.R を楽しみにしている。2学期、チックが出始め、B児
のペースを考え学習課題の軽減を行った。多動はまだ残るが、寛容な対応を行う。仲の良い友達がい
29
30
ることで、コミュニケーションはスムーズになりつつある。
(4年生)TT 支援はなし。1日1時間程度、リソースルームでの個別の学習を継続。
(4)検査の結果
*TRF(教師用子どもの行動チェックリスト)の結果
検査者:3 年生時の担任、現(4 年生)担任、現リソースルーム担当支援員
臨床域: 不安/抑うつ(現担任)
、社会性の問題(現担任、R.R 担当)、思考の問題(3 年生担任)、
注意の問題(3 年担任、現担任)、攻撃的行動(3 年担任、現担任)
境界域:ひきこもり(3 年生担任)
、身体的訴え(現担任)、不安/抑うつ(3 年担任)
、社会性の問題
(3 年担任)
、思考の問題(現担任)、非行的行動(3 年生担任、現担任)
正常域:ひきこもり(現担任、R.R 担当)
、身体的訴え(3 年生担任、R.R 担当)
、不安/抑うつ(R.R
担当)
、思考の問題(R.R 担当)
、注意の問題(R.R 担当)
、非行的行動(R.R 担当)
、攻撃的
行動(R.R 担当)
内向尺度、外向尺度、総合いずれも、R.R 担当は境界域、3 年担任・現担任は臨床域
「不安/抑うつ」
「思考の問題」
「注意の問題」が 3 年、4 年の学級担任で臨床域や境界域を示し、一
斉指導の場面では学習面において理解や定着が難しかったり、行動や言動が理解されにくかったり
し、対人関係がうまくいかないことも多く、その結果、不安が高くなったと推測される。R.R 担当が
正常域を示していることにより、個別学習という学習環境と人間関係、実態に即した学習内容が提
供されることで、落ち着いて集中して学習に取り組むことが可能になると考えられる。また、
「非行
的行動」
「攻撃的行動」においても、通常の学級担任は共に高い値を示しており、難しい課題に直面
した時や対人関係、予定の変更による切り替えの難しさやこだわり等が行動となって現れていると
思われる。
*WISC-Ⅳの結果
検査者:特別支援教育コーディネーター(2013・11 実施)
FSIQ:60 VCI:76 PRI:67 WMI:54 PSI:70
5 歳時に「高機能広汎性発達障害」の診断を受けているが、FSIQ は 60 という結果であり、知的な遅
れが認められる。また、個人内差が認められ、特に WMI が低いことから、学習面の定着が難しいと
考えられる。VCI は他の指標に比べ、指標得点は高いが、『類似』が弱いことから、抽象的概念のカ
テゴリー化が難しいと考えられることから、複雑な言葉の理解や会話は難しいと予想される。
30
31
3.TRFの結果
100
95
90
85
80
75
70
65
60
55
50
Ⅰ
ひ
き
こ
も
り
Ⅱ
身
体
的
訴
え
Ⅲ
不
安
/
抑
う
つ
TRF(3年生)
Ⅳ
社
会
性
の
問
題
Ⅴ
思
考
の
問
題
Ⅵ
注
意
の
問
題
Ⅶ
非
行
的
行
動
TRF(4年生)
31
Ⅷ
攻
撃
的
行
動
内
向
尺
度
外
向
尺
度
TRF(4年マルチルーム)
総
合
32
2.ICF による実態分析
高機能広汎性発達障害
心身機能・身体構造
活動
参加
・注意・集中が継続しない
・知的機能の遅れ
・ワーキングメモリの低さ
・個人内差がある(言語面>ワーキングメモ
・学習の定着が難しい
・通常学級の授業では、受け身
であることが多い
・活動に積極的に参加できない
・周囲の動きを見て判断するこ
とが多く、意見や意図を持っ
て主体的に参加することが難
しい
リ)
・活動や 1 日の流れの見通しを持つ
ことが難しい
・状況の理解が難しい
・こだわりの強さが見られる
・意欲的に学習や活動することが難し
い
・課題にスムーズに取り組みにくい
・新しい学習内容や方法に取り組みに
くい
環境因子
個人因子
・父親からの虐待の経験あり、母子家庭
・母親は早期から本児の社会性を課題とし、相談・療育を受ける
・母親支援学級入級拒否(就学前~3年生)、TT 支援や取り出し支援
を1年生から実施
・友人関係は成立。
・クラスの友達同士で助け合う、教え合う仲間作り
・時間割の変更や 1 日の流れ等の見通しを持つことへの支援が少な
い
・自己効力感が低い
・知覚されたソーシャルサポートが低い
・こだわりが減っている
・学習の中で「わからない」という意識はあるが、集団
の中では、モチベーションは低い。
・自尊感情が低い
32
33
4.問題の発生と悪化の予防例示
支援の場
支援レベル
一
次
予
防
学
級
学
校
家
庭
一般的な予防 ・ユニバーサルデザイン(だれにでもわかる授業と教室環境)
(授業)明確な指示・具体的な活動・視覚的な支援
(環境)過ごしやすい教室・環境の整理・視覚的な提示
・参加活動的学習(ペア学習・体験・発表・音読)静と動のメリハリ
・教師による直接的な関わりと、間接的な関わりの確保
(直接的:会話、指導、遊び ・間接的:ノート、日記)
・情報の言語化と視覚化
(提示方法・情報のフォーカス化・情報の精選)
・個を認め合う学級集団づくり
(分からないことは教え合う・困っていることは助け合う)
・成功体験を積み重ね、自尊感情を高める
・T.Tによる学習支援(習熟度別学習・少人数学習など)
・校内委員会の設置と支援員の確保 ・保護者のニーズを把握
・発達障害についての理解を深める ・学級通信などで、学級の様子や
(子どもの困り感・親の不満も含め
取り組みを伝える
て)
・児童の実態を把握する
・教師間で情報を共有する
・校内で統一した情報の視覚支援
選択的な予防 ・(授業)活動の細分化
・指示の確認を個別に行う
・実態に応じた絶対評価
・個に応じた情報の視覚支援(カード・ボード・写真・色分け・書式など)
・関係性と役割の『居場所』
(かかり活動・キーパーソンや友達)
・リソースルームにおける個別的な支援(学習保障)
・主体的に活動できる場の設定
・校内委員会で支援体制について検討・家庭への情報提供・共有
・リソースルームの確保
・保護者の理解
・個別対応の人的配置
・保護者との連携
・人的資源の弾力的運用
・個別の指導計画を作成
・校内で統一した予定変更の手続き
・放課後や長期休業中の学習保障
・支援の実行と再検討
・次年度への引き継ぎ
適用根拠のある ・通常学級における支援
必要な予防 実態に応じた学習課題(授業・宿題)
相互理解
次
・支援学級における支援
個別対応(学習面・活動面・心理的サポート)
予
学習の定着
自立活動
防
・クールダウンの場としての支援学級の活用(物理的な居場所)
・教師間の連携(支援担と学級担)
・知能検査等の実施
・関係機関との連携
・保護者との密な情報交換
・保護者の理解
・方針の共通理解
三
・児童の心身状態のサポート
問題による
次 二次的な社会的 ・個別の対応(物理的・心理的な居場所の確保)
予 不利益を防ぐ ・キーパーソンとの関わり
防
・関係機関との連携
(学校・医療・福祉・地域など)
・個別対応の人的配置
・関係機関との連携
(学校・医療・福祉・地域など)
二
33
34
5.個別の指導計画
≪長期目標≫
・自信をもって、活動や学習に取り組む。
・自分の気持ちに気づき、表現する。
・文字の読み書きなどの基礎学力を積み上げ、定着させる。
実
学習面
心理面
対人関係・
コミュニケ
ーション
態
・1~3 年生までの学習が定着していない。
・平仮名は書けるが、特殊音節の表記は不完全
である。片仮名の表記は定着していない。
・1 年生の漢字の読み書きが不完全で、苦手意
識をもっている。
・10 の合成・分解が難しい。
・繰り上がりの計算は指を使って行う。
・注意や集中が持続しない。
短期目標
具体的な支援内容
・平仮名や片仮名を使って
簡単な文章を書く。
・1 年生の漢字が読める。
・10 の合成・分解を理解す
る。
・落ち着いて学習に取り組
む。
・難しい課題に直面した時や、予定の変更で自 ・1 日の流れや、学習活動へ
分の思いと違う場面では、イライラする感情を の見通しをもつ。
抑えきれないことや、奇声を上げることがある ・自分から活動に取り組み、
・自信がなく、自己効力感を感じられず、結果 達成感を感じる。
期待がもちにくい。
・学習の間違いなどを指摘されると学習道具を
片づけて、やめてしまう。
・教師との関係は比較的良好であり、友だち関
係も概ね良いが、3 年生の時に友だちとのトラ
ブルがあり、不安定になることがあった。
・質問に対しては受け答えできるが、いやなこ
とやイライラする感情等、自分の気持ちを表現
することは得意ではない。
学級で
【包括的な配慮】
・具体的で簡潔な言葉かけや視覚的提示等の明確な指示。
・T.T や少人数学習等の学習形態。
【合理的配慮】
・実態に応じた学習目標の設定と、評価の観点。
・本児が活動できるような場面設定を授業展開の中に意図的に
設定することと、宿題の量や内容の調整。
リソースルームで 【合理的配慮】
・文字への抵抗感を減らすために、反復練習や教科書の内容に縛
られず、個に応じたダイナミックな学習内容を設定する。
➤好きな人に手紙を書こう(気持ちを動機付けに)
、漢字カルタ(机
上学習や学習の順番にこだわらない学習スタイル)
【包括的な配慮】
・板書と連絡ノートの書式を統一、一日の流れを視覚的に確認で
きる予定コーナーの設置等、誰が見てもわかる情報の提示(ユ
ニバーサルデザイン)
。
【合理的配慮】
・予定の変更は予め、きめ細やかに伝える。
・口頭での指示ではなく視覚的に合わせて伝える。➤「変更メモ」
等、キーワード化することで変更があるということを意識づけ
ていく。
・即時評価に留意し、何が良かったのかが分かるように伝える。
・実態に即した評価の観点を設定する。
・自分の気持ちを受け止め、 【包括的な配慮】
必ずしも言葉でなくても、 ・個を認め合う学級集団作り。
相 手 に 伝 え る こ と が で き ・発達段階に応じたルール設定と視覚的提示。
る。
【合理的配慮】
・役割の「居場所作り」➤係り活動等を通して
・自分の気持ちへの意識化を促し、視覚的手段も使いながら言語
化する。➤SST の観点を取り入れながら
34
35
6.教育的ニーズに最も的確に応えるための学びの場
専門性の高い
教育
小人数での
落ち着いた
学習環境
通常学級
ユニバーサル
デザイン
特別支援
リソース
学校
ルーム
合理的配慮
児童生徒の個々の教育的ニーズ
個別の指導計画
に
基づいた指導
特別支援
通級による
学級
指導
35
発達支援員等の
有効活用
36
7.リソースルーム活用の
有効性
~A くんの場合~
個に応じた支援の視点
支援学級につなげるために
実態に応じた学習内容の設定
「わかる」「できる」経験を積む
机上学習にこだわらない学習スタイル
不安の軽減と心理的な安定
意欲やモチベーションを高める視点
保護者の理解・受容へつなげるために
認知のスタイルに沿った教材の使用
通常の学級
リソースルーム
36
特別支援学級
37
8.校内の人的資源
学校
地域の
サポーター
スクール
ソーシャルワーカー
管理職
事務職員
発達支援員
ー7
生徒指導
担当教員
コーディネーター
給食調理員
校務員
スクール
カウンセラー
養護教諭
教務主任
支援学級
担任
専科教員
学年主任
子ども
担任
TT 担当者
スクール
学校医
保護者
37
ボランティア
38
9.考察
B児は、就学時の判定で支援学級への入級が望ましいとされていたが、母親の希望で通
常の学級に在籍することになった。そのような経過を踏まえて、学校側は対応を重ねてき
た。しかし、学習面では定着が進まず、また、心理的に不安定な状態に陥ったり、感情を
コントロールすることが難しくなっていた。「できない」「わからない」経験の中で自尊
感情が低下し、自信がなく、消極的・拒否的な態度や行動になってしまう場面も多かった。
WISC-Ⅳの結果から、全般的な知的の遅れが認められ、実態に応じた学習目標や内
容の設定や評価の観点が必要であることがわかった。また、ワーキングメモリーの弱さか
ら、学習の理解や定着のためには、個に応じた支援の必要性も認められた。リソースルー
ムでの学習において、教科書の内容・系統性や反復学習という学習のスタイルに縛られず、
個に応じたダイナミックな学習内容を設定したことによって、B児が自分から「やってみ
よう」という気持ちをもって、意欲的に学習に取り組めるようになったことは、個別的な
支援がB児の学習保障となり、主体的な存在として活動に取り組む姿へと変容していくこ
とにつながったと考えられる。
一斉指導の場である通常の学級においても、授業展開の中でB児が主体的に活動できる
場面を意図的に設定し、本児の自信につなげていくことやノート学習や宿題の量の調節、
また、同じ学習内容の中でも、実態に応じて評価の観点を設定することも可能であると考
える。また、学級の中で、キーパーソンや友だちとの関係性という視点での「居場所」、
係り活動等の役割という視点での「居場所」をそれぞれ確保するということも大切にした
い。また、認知のスタイルに留意して予定や活動の流れの提示をすることで、「届く」支
援となり、「なんとなく流れに乗る」ことから、「自分から動く」、すなわち自己コント
ロール感を持つことにつながると考える。
保護者との連携では、必ずしも学校が伝えている情報(日々の様子や宿題の内容等)が
家庭に適切に伝わっていないことが、保護者の不安を高める要因の一つとなっていること
を踏まえ、情報を「提供する」ことから「共有する」観点にシフトチェンジし、共通認識
をもって信頼関係を構築していくことが求められる。
今回の事例で、ICFによる実態分析や、WISC-ⅣやTRFの結果等、様々な角度
から多面的にアセスメントを行い、「教育的ニーズに応えるための学びの場」とはという
観点から検討を行った。本事例では、リソースルームの活用に注目したい。リソースルー
ムにおいて個に応じたダイナミックな学習内容を設定したことによって、B児が変容して
いくことにつながったことは先にも述べた。また、リソースルームが心理的な居場所にも
なっていた。
平成 24 年 9 月の学校教育法施行令の改正により、就学の形が大きく転換した。
入学した時の学習の場を固定的に捉えるのではなく、個々の実態を的確に把握し、それぞ
れの「教育的ニーズに応じた学びの場」を連続的に設定し、校内の人的資源を最大限活か
しながら弾力的に運営し、学びの場を提供していくことが、合理的配慮の観点からも必要
かつ有効であると考える。
- 38
1-
39
事例3
通常学級における攻撃的行動
の強い児童への支援
~中1ギャップを生まない効果的な
移行支援を含めて~
39
40
1.C児のプロフィール
・小学校の通常学級に在籍する6年生(男子)
・小学校4年生の時に和歌山市の病院にてADHDの診断を受けている。
・自閉症と学習障害の傾向がある。
・知的な遅れはない。
○家庭環境
母子家庭。中学2年の兄。幼いころに父と死別。母はパニック障害の傾向があり、その
他にも大切なことはメモに書いておかないと忘れてしまうこともあるという。小学校に対
しては、小6の時には、子どもが機嫌よく学校に行っているので好意的に思っていた。た
だし、4年生の担任には、細かいことでいちいち電話があったと言っていた。月に1度受
診している病院に対して、どのような治療をしていて、どのように進展しているかの説明
がないと不満に思っている。仕事をしていながら、問題を抱える子どもを育てることに嫌
になることがあり、自分と同じような境遇の人と話をしたいと思っているが、時間の問題
と、どこに相談していいかわからないと言っていた。なるべく担任が聞くようにした。兄
は、父の死のトラウマから躁鬱の症状がある。小学校6年の時には、母親とトラブルにな
り、長期間祖母の家で暮らしていたこともあった。
2.主訴
授業中に学級に入ることができない。友だちとの関係づくりが難しい。
3.実態
低学年のころから授業中の離席、自由な発言があり。遊びの中のルールなどで、友達と
トラブルになることが多く、暴力をふるうことが多く見られた。
中学年になると、周りの子よりも体が大きくなったことから、暴力が目立つようになる。
鉛筆など、周りにあるもので傷つけることもあった。トラブルの後にはパニックになり、
教室を飛び出すことが多くなった。教室を出た時は、運動場などで校務員や支援員が遊び
相手をした。そのことがより教室に居心地の悪さを感じさせる結果になった。
小学校4年で和歌山市の病院を受診、ADHD と診断され、コンサータの服用を始める。
服用後は、衝動的な行動が減少した。しかし、教室に入れないことが多くなってきた。
小学校5年生になり、初めての男性教師ということもあってか、教室にいることも多く
なった、しかし、遅刻が目立つようになってきた。3学期ころからは、やはり教室にいな
いことが多く、低学年の体育の授業に参加などしていた。
小学校6年生では、クラスの友達とのトラブルはほとんどなくなった。周囲の子供たち
がCのことを理解し、上手に距離を保っていたように思える。2学期に友達との関わりを
求める R が自分の唾を周囲の友だちにつけに行き、そのことから「ウィルス」といって避
けられるということがあった。修学旅行ではお土産に木刀を購入し、友達を威嚇すること
40
41
があったが、その他は無事に日程を終了することができた。運動会や卒業式は練習に参加
することが難しかったが、本番は無難に終えることができた。授業は、それまでの知識の
積み重ねが少ないために、座学などでは参加することが難しかった。図工や体育などの学
習には参加したが、体育では体育着を持ってこないために参加できなかったり、ルールの
ことで友達とトラブルになって途中で飛び出したりすることもあった。担任や支援員など
が空き教室で読み・書き・計算の学習を進めようとしたが、集中して取り組むことは難し
かった。5月頃には保健室にいることが多くなったが、6月になり、保健室への入室が禁
止に。2学期の途中から、特別支援学級に行って遊ぶようになった。
身の回りの片づけなどはほとんどできない。プリント類は持ち帰ることがなかったので、
保管しておいて、保護者に直接渡した。学習の用意もほとんどもってこない。手ぶらで学
校にくることも。給食の際には、毎日担任が割り箸を渡していた。
4.検査の結果
○TRFの結果(検査者:学級担任)
※「子どもの行動チェックリストTRF」は、問題行動 113 項目について、教師が子ども
の行動を評定し、8 つの症状尺度と 2 つの上位尺度である内項尺度と外向尺度から、児童の
特徴を把握し、治療や教育に役立てることができる。6つの症候群尺度は、「ひきこもり」
「身体訴え」「不安/抑うつ」「社会性の問題」「思考の問題」「注意の問題」「非行的行動」
「攻撃的行動」から構成されている。
図1に示したとおり、
「攻撃的行動」と「社会性の問題」が臨床域であり、問題行動が外
在化している。「注意の問題」も臨床域であることから、注意力や学習面での問題も大きい
ことが考えられる。「身体的訴え」「不安/抑うつ」も境界域であることから内面的な問題
も抱えている可能性がある。
臨床域:社会性の問題、注意の問題、攻撃的行動
境界域:身体的訴え、不安/抑うつ、非行的行動
正常域:ひきこもり、思考の問題
WISC-Ⅳ結果は、表1の通りである。
表1
WISC-Ⅳ結果(検査者:医師)
全検査
言語理解
知覚推理
ワーキングメモリー
処理速度
97
95
104
97
94
知的レベルは正常であると言える。
41
42
図1
C児のTRFの結果
42
43
5.ICF による実態分析
心身機能・身体構造
・注意・集中力の困難
・被転導性
の高さ
・衝動性
・書きの困難さ
・言語性能力の低さ(表現の弱さ)
健康状態(ADHD(診断あり),アスペルガー傾向)
活動
・友だちに暴力をふるうことがある
・授業中の離席、自由な発言
・授業の用意を持ってこない
・プリントを持ち帰らない
・身の回りの整理ができない
・保健室にいることが多くなるが、多す
ぎるために入室禁止へ(小6)
・個別指導を多く受けられると、苦手だっ
た学習でも進められる
環境因子
参加
・パニックによる活動の中断
(自分の思い通りにならない、否
定されると泣く、暴れる、物を投
げる、人を攻撃する)
・勝手なルールの解釈による集
団参加の困難
・一斉授業に参加しにくい
・興味のある活動には取り組める
・体験的な活動には参加しやす
い
個人因子
・自尊感情の低下
・書くことに対する苦手意識
・積み重ね不足の学習に対する自己効力感の低さ
・学習意欲が乏しい
・こだわりの強さ(パンは食べない、勝ち負けなど)
・小さい子に対する面倒見の良さ
・服薬(4年)による落ち着き、副作用としての眠気
・環境に合わせた衣服の調節ができない
・護身用に棒状のものや割り箸鉄砲などを手放さない
・母子家庭、母兄とも精神的に不安定(母;パニック障害、鬱の可能性、
兄:父の死に対するトラウマ)、経済的にも苦しく就学援助を受ける
・父とは幼いころに死別
・兄は世話をしたがるが、よくけんかになる
・学校内での支援の多さ(担任、支援員、養護教員、事務職員など)
+:心の拠りどころ
-:支援の方針が一貫しないことでの指導のバラつき
・母とのトラブルから長期間祖母の家で暮らす(小6)(祖母は協力的
である)
・周囲の子どもの理解、距離を上手く保つ(小6)
困難の発生する要因は?
43
44
6 個別の指導計画
中心的な課題
・自分の感情をコントロールする。
・自己を理解し、状況に応じたコミュニケーションや行動をとる。
・落ち着いて授業に取り組む。
実態
長期目標
短期目標
手だて
・書く活動を伴う学習にも意
欲的に取り組む。
・四則計算ができるようにな
る。
・ひらがなを書くことができ
る。
・繰り上がりのある足し算、
引き算を行うことができる。
・九九を用いたわり算を行う
ことができる。
・プロジェクターを使って黒板に映すなど、視覚支
援教材を活用する。
・歴史上の人物の学習や生き物の学習など興味が
あることきっかけにして書く活動につなげていく。
・書くことのどこにつまづきがあるのか分析する。
・計算のどこにつまづきがあるのか個別指導で分析
する。
・整理整頓ができない。
生活面 ・就寝時間が遅く、朝起きることができない。
・登校時間が毎日10時を過ぎる。
・整理整頓ができる。
・早寝早起きができる。
・毎日ランドセルを持って登
校する。
・毎日学習の用意を持って
登校し、持ち帰ることができ
る。
・早く寝ることができる。
・達成度がわかるようにカードを作成し、
できた時には、好きなシールを貼るように
してふりかえりをするようにする。
・家族支援も含め、家庭との連携をはか
る。
・教室の中で授業を受けることが難しい。
行動面 ・自分の思い通りにならないと、衝動的に怒
り、攻撃的になる。
・教室に入り、自分の座席で
学習することができる。
・自分ができないことがある
ということを受け入れること
ができる。
・読書や体験的活動を教室
で行うことができる。
・自分の行動をふりかえるこ
とができる。
・自分の気持ちを相手に合
理的に伝えることができる。
・書く活動が困難である。
・教師の話はよく聞いており、理解している。
学習面 ・話すことはできるが、筋道を立てて説明など
をすることは難しい。
・四則計算が難しい。
・休み時間に、友だちと遊ぶ際、自分の思い
通りのルールを作り、進めようとする。
人間関係
・年下の子どもの面倒見がいい。
・相手の気持ちがわかりづらい。
・興味のある本や生き物などを教室に置く。
・レクリエーション活動などを学級全体で行い、楽し
いという思いを共有する。
・問題行動を起こした時には、共に分析し、ふりか
えりを行う。
・自分の気持ちを相手に伝える方法の選択肢を増
やすトレーニングを行う。
・活動の前に、ルールの意義やその活動の
ルールについて繰り返し話す機会を持つ。
・友だちと決めたルールに
従って仲良く遊ぶことができ ・納得がいかないのはどこな ・年下の子どもなど、相手に優しく接すること
ができた時にはおおいに褒める。
のかを言うことができる。
る。
・納得がいかない部分を教師とともに特定す
・状況に応じたコミュニケー ・相手の話を最後まで聞く。 る作業を行う。
ションをとる。
・自分の行動を客観的にふりかえる機会を持
つ。
44
45
表2. 問題の発生と悪化の予防例示
支援の場
支援レベル
一
学
級
学
校
家
庭
一般的な予防 ・興味がある教材を提供する
・学級でのルールを明確に掲示する
・わかりやすく、楽しい授業(学習規律・リズムとテンポ・指示は
簡潔に・教材教具の工夫)を行う
・一人ひとりを大事にした、一致団結の学級を作る
・校内委員会を設置する
・発達障害についての研修を行う
・児童の実態把握をする
・教師間で情報を共有する
・学校だよりで学校の取り組みを
伝える
・学年だより、学級だより、学級懇
談会等で学級の様子や取り組み
を伝える
・保護者のニーズを把握する
選択的な予防 ・座席の位置・グループ構成メンバーを配慮する
・成功体験を積み重ね、自己効力感を高める
・指示を個別に伝達する
・活躍できる場をつくる
・担任以外で関わる教師集団による行動観察を行い、
共通理解及び一貫性のある支援を目指す
・学級での話し合う機会を持ち、周囲の理解を図る
・校内委員会で支援体制について検討
する(共同理解、役割分担)
・個別の指導計画を作成する
・リソースルームを確保する
・関係機関と連携を図る
・連絡帳や家庭訪問などで保護者
との連絡を密にする
・学校での対応について理解を促し
家庭での関わり方、ルール作り等
を提案し、実行を促す
・それぞれの関係機関と連携する
次
予
防
二
次
予
防
三
次
予
防
適用根拠のある ・興味深い教材を作って、個別指導を行う
必要な予防 学習の遅れに対応する(通級指導教室導入)
・他の児童への他害行為に対応する
・コミック会話やソーシャルスキルトレーニングを取り入れる
・学級で本児のことについてよく話し合い理解を深める
・「居場所」を作って、個別指導を行う
問題による
・本児の心身状態の把握に努める
二次的な社会的 ・支援員等が本児のサポートをする
不利益を防ぐ ・キーパーソンを設定して、安心感と安全感を確保する
・校内委員会で支援体制の確認と新た ・学校、関係機関と連携して、
な支援について検討する
懇談を行い、方針に沿った関わり
・個別対応の人的配置を行う
をしてもらう
・関係機関と支援会議をもつ
・家庭訪問を行い、家庭全員を
・家庭環境の実態を把握し、実態に応じ 支援する
た支援を行う
・関係機関に相談し、連携を強化する
・学校、医療、相談機関と連携し、
・校内委員会で支援体制の確認と新たな 理解をさらに深めて、適切な関わ
支援について検討する
りをしてもらう
・「居場所」を確保し、個別対応を行う
・家庭環境に応じる家族支援を行う
45
46
C さんの
の支援(校
校外)
教育
医療
小学校
担任
コーディ
ィネーター
校長・教
教頭
一貫した方針の下、豊
豊富な支援者によ
よる指導
支
支援員
学年主任
任
スクールカ
カウンセラー
医療機関
(診断・診療)
)
支援チームの
のコーディネート
子どもを中心
心とした家族支援
事務
務職員
障害理
理解・薬物療法
支援学級
病気に関して保護者支援
援
祖母
家庭支援
指
指導方針の引き継ぎ
ぎ
中
中学校
児童相談所
(家庭支援)
母
移行支援
将来を見通
通した
情報支援
発達障害に関
関わる支援
本人
兄
支援プロ
ログラム
事例に
に関する情報提供
ペアレント
養護教諭・医
医療機関へのつな
なぎ役
ト
トレーニング
(怒りのマネ
ネジメント)
保護者
者支援(制度面)
保護者ピアカ
カウンセリング
S
SSW
地域・放課後
後の居場所作り
実
実践的な友人関係
係のトレーニング
グ
支援者の配
配備
発達障害
害相談センタ
ター
支援機関紹
紹介
就学支援
援
教育委員会
会
放課後
後等デイサー
ービス
地域
域
保健・
・福祉
図2
Cさんの校外に
における支援体制
制
46
47
C さんの支援(校
校内)
校長・教頭
個別
別の指導計画
学年主任
担
担任
つまずき
き・困難への気づき
支
支援体制の確立
保護
護者との連携
関連
連機関との連携
コンサルテ
テーションニーズ
ズを満たした指導
祖母
保
保護者の相談窓口
口
母
スクールカウンセ
セラー
情
情報の収集・整理
理
教員とのコ
コンサルテーション
コーディネーター
コ
関
関連機関との連絡
絡
本人・家族
族のカウンセリング
兄
校
校内チームのコー
ディネート
本人
学力保障
学力保障
セルフコント
トロール訓練
本人理解・支援
⇒自尊感情、自己効力感、
担任をサポート
学習意欲
欲の向上
セル
ルフコントロール
ル訓練
本
本人の心の寄りどこ
ころ
を満たす
本人のカウンセリングニーズを
支援学
学級
支援員
員
事務職員
員
図3 Cさんの
の学校内における
る支援体制
47
ケース支援会議
48
引き継ぎと今後
Dr
の支援について
医
中学
学校(担任、
SSW
Co、校長)
療
保護者
発達障害者
校外体制
・医療からの情報収集と提供(服薬、支援方針等)
3月
教委
相談センター
・本人の受診時における情報シートの提供
中学
入学
へ
2月
中→小引き継ぎ授業見学
・障害理解への連携
1月
SSW
小中合同研修会
・家庭支援を含めた支援策
12 月
・福祉制度などを視野に含めた支援
就学支援委員会
11 月
保護者支援を含
入級などについ
めた包括的支援
て今後の支援
ケース支援会議
児相
相談センター
Dr
支援員
学校
7月
担任
手帳取得
co
医療機関受診
校内支援委員会
事務
支援員
保護者
中学校進学後の支援
体制構築にむけて
教委
養教
継ぎ事項につい
Co
支援面談
(担任、Co)
整備、確立
発達検査
中学校との引き
校長
9月
校内体制の
4月
担任
事務
保護者
SSW
養教
10 月
就学支援委員会
発達障害者
校内支援委員会
体験入学
担任
2 学期以降の学
中学校進学時の
校生活について
入級等について
校内体制
共通理解と
役割分担
・校内委員会の招集は Co が行う
・進学に際し選択肢を提示できるよう情報収集
校長
方針会議
CO
本人
・校内で役割分担、協働できるように
48
図4
移行支援モデル
49
表3
個別の移行支援計画
ふりがな
作成日(
男
○
C
児童生徒氏名
生年
月日
女
住所
和歌山県○○郡○○町
電話
○○○○
保護者
○○○○
続柄
母
出身校
町立○○幼稚園
手帳等
精神障害者福祉手帳
H○年○月○日
○○○○
作成者
更新日
保護者住所
家族構成
発作等
)
児童と同じ
母、兄
血液型 RH-のため怪我に
注意
服薬
コンサータ
1 日一回
卒業後の生活におけるニーズ
・友達と仲良く過ごしたい
・勉強がわかるようになりたい(○年 3 月)
保護者
・基礎学力の定着(○年 3 月)
移行支援目標
・学力に応じた学習環境の設定
・新しく出会う友達へ、本生徒に対する理解を深めることが出来る環境設定
医療
機
関
名
担
当
者
住
所
・
℡
教育
保健・福祉
地域
進路
和歌山○○病院
和歌山市立○○
和歌山市教育委員
①発 達障害者 相談セ
和歌山市○○
○○科
小学校
会
ンター
中学校
②児童デイサービス
○○Dr
コーディネーター
SSW
①相談支援員○○
校長○○
○○○○
○○○○
②指導員○○
コーディネーター
担任
和歌山市○○
○○○○
○○○○
和歌山市○○
和歌山市○○
(○○―○○○○) (○○―○○○○) (○○―○○○○)
支
援
内
容
(○○○○)
②岩出町○○(○○)
・月 1 回家庭訪問
①支援プログラム
・新しく出会う友達と
支援
への参加
関 わる取 り組み を設
・家庭環境につい
②放課後の友人関
定し、通常の学級で互
て相談支援
係や活動の保障
・定期的受診
・投薬治療
①和歌山市○○
和歌山市○○
(○○―○○○○)
・支援学級入級
いに理解を深める
・基礎学力の定着を目
指した学習の実施
・成功体験を増やし、
自尊感情を高める
本移行支援計画を(
平成
年
月
)への提出を了承し、上記支援を希望します。
日【保護者】
印 【本人】
49
印
50
7.考察
C児は、小学校在学中は低学年から授業中の離席や友人とのトラブルなど、様々な問題
行動が現れていた。さらに、父親との死別や母親の問題など家庭環境も複雑な児童である。
学年が上がるにつれて本人の抱える問題が増大していることはTRFの結果を見ても明ら
かである。おそらく、自己効力感や自尊感情も低下していると考えられる。そのため、授
業中に学級に入ることができず、友だちとの関係作りが難しくなっている。
今回の研究において、C児の実態をICFによって分類してみると、すでに診断されて
いるADHD に加えて、自閉スペクトラムおよび学習障害の傾向もあることがわかった。
ADHDの要素である不注意と衝動性に加えて、書くことの困難さや、興味を持ったこと
へのこだわりなどの学習障害や自閉スペクトラムの要素も主訴に対して影響を及ぼしてい
たことと考えられる。
そのようなC児に対して、周囲は何もしていなかったわけではない。様々な問題行動を
引き起こすC児について、学級担任は会議等で全体に報告し、またC児の特性を捉えなが
らほめて成功体験を積み上げるといった支援も行ってきた。しかし結果として、C児の自
尊感情および学習意欲の低下といった2次障害を引き起こすこととなってしまった。なぜ
C児は学級に入れない子どもに育ってしまったのだろうか。この疑問に対して、私たちは
「支援体制」と「支援の移行」という2つの視点で検討を行った。
C児においては、ICFの実態分析でもある通り、学校内での支援が多いが、それぞれ
の支援の方針が一貫していないところに問題がある。また、学校の外に目を向けてみると、
家庭に対しての支援が必要であるにも関わらず適切な支援が行われていなかったり、本人
に対しても連携できうる機関を有効に活用していなかったりしていた。コーディネーター
を中心にして必要な資源を活用し、支援体制を整備していくことが求められる。
さらに、支援体制を整備しながらその体制をスムーズに移行していくことが求められる。
事例のC児が6年生であることから、小学校から中学校への移行支援の検討を行った。中
学校進学にあたっては、いわゆる「中1ギャップ」という言葉に表されるように、心理的、
学問的、文化的な変化が予想される。小学校で整備した支援体制を中学校においても引き
続き継続していく必要がある。
「図4 移行支援モデル」で示したように、小学校在籍中お
よび中学校入学後での連携を行っていくべきである。そのためには、コーディネーターが
リーダーシップを発揮すること、そして簡素かつ明瞭な移行支援計画のための資料作成が
必要であると考えられる。中学校、さらにはその後の人生が、充実し、楽しく、意義深い
ものであるために、きめ細やかで確実なシステム作りを今後も研究していかなければなら
ない。
50
51
特別寄稿
通常の学級に在籍する
LD・ADHD・ASD が疑われる児童への支援
51
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1. 対象児について
小学校 2 年生(男児)
<家族構成>
父・母(熱心に療育)・弟
<成育歴>
初語
1 歳前後
初歩
1.3 歳頃
1 歳半・3 歳半健診はスルー
幼稚園では一人遊びが多かった
幼稚園年中では「情緒不安定」と言われた
幼稚園年長では「全体指示が入らない」と言われた
<主訴>
担任教員
・MIM で 3rd ステージ
保護者 ・友達の名前が覚えられない
・漢字が覚えにくい
・漢字を覚えにくい
・読むことに苦手意識がある
<身体的な特徴>
<基本的な生活習慣>
・野菜が苦手
・持ち物の管理はできる
・姿勢の保持が苦手
<動作性・運動面>
・プール遊びが好き
・ボール遊びは苦手
・跳び箱などはタイミングが取りにくい
・文具の扱いが苦手
<言語・コミュニケーション>
・友達の名前が覚えにくい
・順序良く伝えられないで、あちこちに話が飛ぶ
・一方的に話し、同じ内容で話が続かない
・目上に人にも友達のように話す
・心の理論(アン・サリー課題未通過 2 年生夏時点)
<行動・社会性>
・指示を聞くというより、周囲の行動を見て真似する
・常に体のどこかが動いている
52
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<学習面>
・逐次読み
・漢字が読めない
・カタカナ表記を覚えていない(長音・ク・ム・メなど)
・「ツ」と「シ」の区別がつかない
・「けが」を「けんか」、「じゅうい」を「じゆうい」、「きづく」を「きずつく」等と読む
・助詞を抜かして読む
・文末を勝手読みする
・「書く」を「聞く」と読む
・「海」を「魚」と表記する
・「黄色」を「木色」など同音異義の間違いがある
・作文を一人で書けない
<学校・学級での様子>
・1 年生 1 月から通級指導教室に入級
・授業中はよく手を挙げ発言する
・分からないことがあれば自分から担任に確認することができる(確認しないと不安)
・外遊びができるようになったが、一人遊びを好む
・計算は得意、国語は苦手と思い込んでいる
53
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2.ICFによる実態分析
健康状態
LD疑い・ASD疑い・ADHD疑い
心身機能・身体構造
活動
・対人関係
・心の理論(アン・サリー課題)が未通過
・不器用
・多動性
参加
・読みに困難があり、読むことを嫌がる
・友だち(他者)の名前が覚えられない
・常に体が動いている
環境因子
・授業では積極的に発言する
・一人遊びが多い
個人因子
・母は非常に教育熱心
・通級指導教室に入級
・学校と保護者の関係は良好
・ひらがなや漢字を覚えることが難しい
・文章を読むことが遅く難しい
・一方的に話しかける
・他者への興味が乏しい
54
55
3.TRFの結果
対象児 D は、すべての下位尺度、内向・外向の上位尺度で正常域であった。しかし、総得点では境界域であり、得点の高かった「ひきこもり」「社会性の問題」「注意の問題」
に配慮していくことが大切である。
55
56
4. WISC-Ⅳの結果
対象児 D は全般的な知能は標準の水準にある。しかし、ワーキングメモリの弱さなど得意・不得意の差があり、個
人内差配慮した指導・支援が大切である。
56
57
5.多層指導モデルMIM
多層指導モデル MIM(Multi-layer Instruction Model)は、通常の学級において、異なる学力層の子どもの
ニーズに対応した指導・支援モデルです。MIM は RTI モデル(Response to Intervention(Instruction ))をベ
ースがベースであり、指導に対する子どもの反応の有無に注目するという指導・支援モデルです。
指導とアセスメント(MMIM-PM)を並行して行い、その結果から 1st ステージ・2nd ステージ・3rd ステージを
判断し、適切な指導と支援を行っていきます。
<MIM による特殊音節の指導>
①視覚化
②動作化
促音 : 両手をグーに握る
拗音 : 手を合わせて握る
<MIM によるアセスメント>
各月(または隔月)に各テストを 1 分間で実施する
57
58
<対象児童の 1 年生時のMIM‐PM得点変化>
5月
6月
7月
9月
10 月
11 月
12 月
1月
2月
1 年生平均得点
8
11.6
14.3
15.1
16.9
20
22.9
24.4
26.2
対象児童
2
2
4
6
8
11
11
11
12
40
35
30
1年生平均得点
25
対象児童
20
1stステージ
15
2ndステージ
3rdステージ
10
5
0
5月 6月 7月 9月 10月 11月 12月 1月
2月
<対象児童へのMIM指導>
◇2 次予防◇
期間:平成 24 年 4 月~平成 25 年 3 月
場所:通常の学級
内容:各月でMIM-PMで読みのアセスメント
給食準備時間にMIMのカード教材を用いた指導
給食準備時間にMIMのプリント教材を用いた少人数指導
◇3 次予防◇
期間:平成 25 年 9 月~
場所:通級指導教室
内容:毎週 10~15 分程度行った
MIM-PMのテスト①②を各 10 問程度+MIMカード教材を用いた指導
※児童が嫌がったため指導教材を変更
↓
MIMのプリント教材を用いた指導+ひらがなを組み合わせて単語を作るカードパズル教材を用いた指導
参考文献
海津亜希子(2010) 『多層指導モデル MIM『読みのアセスメント・指導パッケージ』ガイドブック』 学研
58
59
6.問題の発生と悪化の予防
支援の場
学級
学校
家庭
支援のレベル
一
次
予
防
一般的予防
・教室の環境整備と構造化
・スケジュールの提示
・わかりやすい授業の工夫
・校内支援体制を設置する
・専門機関と連携できる体制を整える
・あたたかい学級集団作り
選択的予防
・個人への繰り返しの声かけ
・座席の位置の配慮
・校内支援体制(支援学級・通級指導教
室・相談担当)の紹介資料を配布する
・学校便りなどで、学校の取り組みを知
らせる
・通級指導教室や支援学級など個別対 ・連絡帳や電話での保護者への連絡
応ができる体制を整える
・個別の指導計画を作成する
二
次
予
防
適応根拠のある必 ・MIM を用いた読みの指導とアセスメント ・校内支援委会で児童の実態把握と支 ・教育相談で実態把握と支援の方針を
要な予防
援について全職員の共通理解を図る
決める
・通級指導教室
三
次
予
防
問題による二次的 ・本読みの宿題の量の調整
・専門家の SV を受けながら事例検討を
な 社 会 的 不 利 益 ・MIMを用いた読みの個別指導とアセス 行う
を防ぐ
メント
・通級指導教室で個別支援を行う
・SST
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・保護者、学校、専門家が連携したケー
ス会議で実態把握と支援の方針を決め
る
・家庭での支援を決め連携する
60
7. 個別の指導計画
実態
目標
支援方法
長期目標
学習面
短期目標
・読むことに困難があり、読むこ ・文章を流暢に読むことができる
・語彙を増やす
・MIM 教材を用いて語彙を増やす
とを嫌がる
・単語を捉えて読むことができる
・MIM 教材を用いて視覚性語彙
・漢字を覚えるのが苦手
・漢字の読み書きができるように ・成り立ちなど視覚的に漢字を覚
・助詞を飛ばして読む
する
えることができるようにする
・筆法トレーニング
・助詞を飛ばさずに読むことがで ・助詞を○で囲んで意識づける
きる
社会性・対人関係
・友達や教員の名前を覚えること ・人の名前を覚えることができる
・身近な教員の名前を覚えること ・大きく読みやすい名札をつける
が難しい
ができる
・仲の良い友達の名前を覚えるこ ・5W1H で出来事のふりかえりをす
とができる
60
る
61
8.考察と課題
就学前から保護者(母親)は本児の特性に気づいており、1年生という早い時期から通級指導教室で指導・支
援をすることができている。
保護者からの主訴であるように友達の名前を覚えないことや一人遊びを好むことがあるが、友達とのトラ
ブルはほとんど無く、楽しく学校生活を過ごしている。しかし、特性としてコミュニケーション・社会性で困難を
もちやすいことが考えられる。周りが成長していく中で、本児のコミュニケーション・社会性の困難が顕著に
なってくることも考えられる。学級では温かい学級集団作りをする共にソーシャル・スキル・トレーニングを行う
などの支援は大切になるだろう。
学習面では、読みの困難さと苦手意識への支援が必要である。MIM のアセスメントで3rd ステージであり、ま
た、1年生の平均得点との差が広がっていることがわかる。
現段階でも読みへの苦手意識が高いので、本児が少しでも興味をもちながら楽しんで読むことの学習に
取り組むことができる工夫と「できた」という実感がもてる工夫が必要である。通級指導教室での指導では、
カードでパズルのように学習できるようにしたり、MIM のプリント教材は即時に丸つけをして達成感をもてるよ
うにしている。そのことによって、段々と、正確に速く読むことができるようになってきている。また、MIM の問
題をたくさんできるようになってきたという自信をもてるようになってきている。
算数は得意であり、好きである。得意な算数を伸ばしていくことで「できる」という自信を高めていきたい。
通級指導教室では MIM で読みへの指導を行いつつ、読みの学習の後に算数の学習をして、「できた」という気
持ちで授業を終われるようにしている。
学習面での今後の課題としては、読みの困難から派生していく学習の困難への支援が考えられる。計算は
できるが、問題文を読むことが困難であるためにテストで十分な成果を上げることができなくなることも推
測される。テスト問題を読み上げてあげるなど本児の能力を発揮できる支援も必要になってくるだろう。
また、WISC-Ⅳの結果から得意・不得意の差が見られ、注意力・集中力・聴覚的ワーキングメモリに課題がある。
不得意部分へ支援として、短い言葉で端的に伝えることや視覚的な支援も有効であると考えられる。抽象的
概念や継次的な処理も苦手であることも考えられ、学年が上がるにつれて学習内容に抽象的概念が増える
こと、得意な算数においても速度の単元など継次的な処理が必要になってくることから、学習面で困難をも
ちやすくなることが推測される。低学年からと継続した支援と「できた」という自信の積み重ねが大切にな
る。
保護者は本児の特性に理解があり、親子関係は良好である。特に、母親は学校との連携にも積極的で、本
児の実態把握や支援はスムーズにできている。しかし、母親は教育熱心なあまり、本児とって負担になるくら
い学習支援を行ってしまいがちになることがある。本児の実態を把握しながら、宿題の量や方法など家庭で
の学習支援を保護者と相談しながら決めていくことも大切である。
本児については、学校に楽しんで来ていること、友達との大きなトラブルがほとんど無いこと、学習(算数)
に自信をもっていること、保護者の理解があり連携も上手くいっていることなど、現段階としては比較的良好
な状態にあるのではないかと思われる。しかし、本児は得意・不得意の差から困難をもちやすく、継続した支
援を行っていくことが大切である。学校としては、確固たる支援体制を築くこと、本児についての実態と支援
内容を引き継いで継続した支援を行うこと、保護者と連携することがとても重要だと考える。
今後も、本児が楽しく自信をもって学校生活を送ることができることを願っている。
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【作 成 協 力 者 (アイウエオ順 )】
植田愛子
エクスタスティン昇 子
笠原香織
栗山夏希
小林
薦池朋子
須佐奈津子
滝 元 あゆみ
中谷紀代
松下真智
南
花光真由美
林
李
麒
史
恵子
河 﨑靖 子
香織
楠野弘明
張
雪
福永
徹
山本敬三
発 達 障 害 のある子 どものための学 級 ・学 校 支 援 ガイドブック
-提 案 ・交 渉 型 アプローチを基 本 として-
2014 年 3 月 31 日 印 刷
監
修
武田鉄郎
表紙デザイン
エクスタスティン昇子
国立大学法人和歌山大学教育学部特別支援教育
武田研究室
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