「もしかして天職?」な 軽快フットワーク

新リレー連載
医療安全室からこんにちは!
自然体でシェアする安全推進活動レポート
医療法人平和会 「もしかして天職?」な
軽快フットワーク
須田喜代弥 平和病院 医療安全管理者
副看護部長/外来師長
養護教諭として横浜市立中学校にて勤務した後,主に外科・脳神経外科・手術室
などを経験し,2006年4月より平和病院に外来師長として入職。2009年より医療
安全管理者。2013年より副看護部長を兼務。看護師として働く自分が「好きだっ
た」と言える看護師でありたいと思っている。モットーは「よく飲み,よく食べ,よく
遊び,よく学び,よく働く!」
本稿で紹介している「ラウンドチェック表」がダウンロードできます。
http://www.nissoken.com/ps/
●病院紹介●
当院の歴史は1946年4月25日,終戦直後の混乱の中,住む家もなく病気に悩む人々に医療の手を差し伸べるため,鶴見の地
で,石川島芝浦タービン株式会社の寮を改造して病院としたことに始まります。開設当時の職員は,4人の医師を含めわずか
21人でした。その後,1952年1月1日,石川島芝浦タービン株式会社(1961年に東芝と合併)との共同出資により,医療法人
平和会が設立され,現在に至っています。初代院長,安孫子連四郎先生の恩師,千葉大学元教授,石川憲夫先生の「以和為
貴」
(和を以て貴しと為す)の額は,その当時から今も院内に飾られており,安孫子先生の「名医たらんよりは,先ず良医たれ」
の言葉は,今も脈々と流れ,現在の基本理念「患者様にとって,いつも優しく,誠実であること」につながっています。許可病床
数146床(一般106床,医療療養40床)。診療科目は,内科,外科,整形外科,皮膚科,リハビリテーション,婦人科,泌尿器
科,眼科,人工透析科,消化器内科,呼吸器内科,糖尿病内科,循環器内科,腎臓内科,緩和ケア。
医療安全にピッタリな性格?
今回,日総研出版の担当の方から「気軽に
私の活動の「はじめの一歩」と
その後の工夫
医療安全のレポートを」と依頼され,肩肘張
では実際に,医療安全管理者として何をし
らずに? 当院の医療安全について紹介した
てきたのでしょうか? まず医療安全の情報
いと思います。新しく医療安全管理者になっ
をキャッチするために外部研修は積極的に参
た方が,「こんな感じで活動を開始してもい
加しました。その中でも中央労働災害防止協
いのね」と自信を持って一歩前へ進んでいた
会が主催する2日間の研修では,労働安全か
だけたら幸いです。
ら医療安全を考えることや,KYTの実施訓練
私は,外来師長と兼務で医療安全管理者に
のほか,
「命を守ること」の大切さを教えて
なって6年目に入ります。
「医療安全管理者
いただきました。もちろん神奈川県看護協会
としてまず何をすべきだろうか?」,それが
医療安全管理者養成コースでの学びも,国際
医療安全管理者を任命された時の感想でした。
医療リスクマネージメント学会での学びも,
以前から医療安全に興味はあったものの,
私の活動の最初の一歩として貴重なものとな
自信はありませんでした。しかし,外来師長
り,当時の資料を今でも大切に活用していま
という立場は,外来・入院の患者さんと接す
す。
る機会が多く,名前と顔を覚えることができ
ここからは,今までの活動の振り返りをし
ますし,私のおしゃべりな性格,物おじせず
ながら,工夫したことなどを少し紹介したい
人が好きな性格,何事にも興味を持つ性格
と思います。
も,医療安全管理者としてピッタリかも? ●「あいさつは当たり前」の職場風土
と,つい安請け合いしてしまいました。
当院では,廊下ですれ違う時,
「おはよう
ございます」
「こんにちは」
「お疲れ様です」
と全職員があいさつをします。もちろん院長
も例外ではありません。また,患者さんに対
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写真1●リハビリテーション科特製のスイスチーズ模型
してだけではなく,お見舞いの方にも,職
員同士であってもあいさつをします。お互
いに職員としての意識を持ち,接遇として
徹底しています。このあいさつこそ,人と
のつながりと病院を守る意識,すなわち医
療安全につながっていくと思っています(不
審者に声をかけると防犯対策にも有効!)
。
●新人研修
新人研修では,まず「医療安全って何?」
実践できるように,内容を工夫しています。
と問いかけます。
リスク委員(医療安全管理委員会の下部委員
当院の入職者は,看護師,コメディカルと
会)が,事例を劇で紹介して対策をみんなで
もに,ほとんどが既卒の方なので,ある程度
一緒に考えたり,リハビリテーション科に協
の経験者が対象です。私の問いかけに困った
力を求めてスイスチーズ理論の説明用に大き
顔をしながら,
「患者さんの安全を守ること」
なチーズの模型を作成してもらったりしまし
「事故をなくすこと」などと答えている瞬間
た(写真1)
。
も大事にしています。「そうね。じゃあ,あ
このチーズモデルがワゴンに乗って廊下に
なたにとって忘れられない出来事はあります
現れると,
「あっ。スイスチーズだ。また研
か?」と聞きながら,ヒヤリハットのこと,
修で使うの?」と声がかかります。少しずつ
悲しかったアクシデント,対応に困ったこ
医療安全に興味を持ってもらえているような
と,対策をとって事故の未然防止につながっ
気がします。
たことなどを語ってもらい,入職者みんなで
●出前講座
共有します。
医療安全合同研修の会場は狭いので,100
最初の研修は,
「患者確認の徹底」
「ヒヤリ
人位が精一杯です。そこで,研修に参加でき
ハット報告はなぜ書くの?」の2つをメイン
ない職員には,各部署に資料を配ってテスト
テーマにしています。緊張している入職者も
形式のレポートを書いてもらうようにしてい
いるので,その時の一人ひとりの顔と様子な
ます。毎回の研修参加率は,85〜90%です。
ども頭に入れつつ,その場でスライドやビデ
また,これまで昼食時に食堂で1週間ビデ
オ,講義内容を変えています。
「大事なのは,
オを流すなどの工夫をしてみたのですが,話
思ったことを言葉にすること」
「何かが変だ
し声で音声が聞こえず,せっかくの食事時間
と気づいたら,お互いに確認してほしい」と
がゆっくりできないと感じ,
「それなら私が
伝える研修にしています。
出向けばいい!」と考え,各部署のカンファ
そして,
「何か困ったら,医療安全管理者
レンスの時間などを利用して出前講座をして
の須田を思い出してください」と自己アピー
います(写真2)
。
ルをします。とりあえず顔を覚えてもらうこ
資料はスライドではなく,お手製の紙芝居
とが医療安全管理者の仕事だと思っています。
形式でスケッチブックを持って活動します。
●医療安全合同研修
このスケッチブックは,とても便利でお勧め
年に2回以上開催している医療安全合同研
です。パワーポイントを立ち上げるのには手
修は,職員全員で医療安全推進活動を理解し
間がかかりますが,A3のスケッチブックに
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写真2●スケッチブックでお手軽に出前講座
写真4●ラウンドはコミュニケーションの
好機でもある
写真3●避難訓練は職員が集まるチャンス!
という顔をしても慌てずに,マニュアルどお
り呼称実技をしながらきちんと笑顔で答える
職員を見ると,なぜだか嬉しくもあり頼もし
くもあります。
ラウンドは,職員とのコミュニケーション
を図れる時間にもなっています。もちろん指
摘事項もあり,写真を撮って改善・対策を求
める時もあります(写真4)
。
●コードブルー訓練
2年前から,コードブルー(患者緊急事
スライドを印刷して貼り付ければお手軽で
態)
・コードイエロー(暴力などの緊急事態)
す。現在は8種類ぐらいのスケッチブックが
として抜き打ち緊急招集訓練を実施していま
あり,「病棟で勉強するので貸してください」
す。最初は,委員会で決定したにもかかわら
という嬉しい依頼もあります。
ず,
「何だ! 訓練だったのか!」
「医師だけ
●避難訓練
が集まればいいと思った」などの声もありま
避難訓練は医療安全管理室が主催ではない
した。当初は,約20人の責任者(代理)の
のですが,「職員が集まるチャンス」ととら
集合に2分45秒かかっていたのが,現在で
えて地域の方にも参加していただき,「AED
は55秒となり,集合場所で気づきを言葉にし
の 実 際 」「 患 者 ト リ ア ー ジ の 方 法 」 な ど,
て短い反省会と医療安全管理室からのコメン
ちょっとした時間でできることを企画し,併
トも伝えるようになりました(写真5)
。
せて医療安全管理室のアピールもします(写
この訓練は,年に3回程度実施しています。
真3)。
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「訓練,訓練。コードイエロー外来受付」と
●医療安全室ラウンド
全館放送が入ると,5階から息を切らして
1週間に1回を目安に,医療安全管理室の
走ってくる男性職員たちを見て,患者さんの
メンバーでラウンドチェック表(本誌読者専
方がドッキリしています。
用サイトからダウンロードできます)に沿っ
●取材,外部研修のお手伝い
て各部署をラウンドします。副院長と看護部
雑誌の取材,外部研修のお手伝い,発表な
長,医療安全管理者が現れるとスタッフが緊
どの依頼も,基本的にお断りしないことにし
張するかと思いますが,「あっ,来たあ〜」
ています。いつもお世話になっていることの
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写真5●息を切らして集合! 55秒を達成
恩返しという気持ちと,情報をキャッチしや
すくなるという思いからです。仲間が増えて
写真6●取材や研修依頼は断らないのが
仲間を増やすコツ
写真7●医療安全管理室のメンバー
左:瀬戸医療安全管理者(病棟師長兼務),
。
右:平野副看護部長(教育担当)
いくことで,自施設の研修や対策に役立つ貴
重なアドバイスをいただいています(写真6)
。
チャンス到来
〜新しい強力な人材が現る!
医療安全管理者(専任)は実質一人で兼務
していましたが,2015年からもう一人,病
棟師長の瀬戸師長も兼務で活動をすることに
までの医療安全推進活動は「職員のリスク感
なりました。また,関連病院から人事交流で
性を育てること」
「ルールを守ること」に重
教育担当の平野副看護部長が入職され,医療
点を置いてきましたが,次の目標は「事故事
安全管理者として活躍してきた経緯があるの
例の分析」から医療安全を考えられる職員の
でアドバイスをいただけるチャンス到来です
人材育成を課題にしたいと思っています。私
(写真7)。
早速,事例分析研修の計画を立て,3人で
のモットーに「チャンスは逃がさない!」を
追加し実践していこうと思います。
力を合わせて頑張りたいと思っています。今
《新企画》巻き込まれないための自己チェックと改善方法 著者セミナー
「依存」
「攻撃」
「巻き込み」をかわす
しなやかな応対の具体策
ディフェンス接遇 10ヶ条 で対応!
江口 毅氏
メンタルヘルス・コンサルタント
メンタルクリエイト 代表/精神保健福祉士/社会福祉士
一般社団法人 洛陽労働法務・キャリア支援機構 理事
江口氏の記事は84ページ
仙台
名古屋
15年
8/22
札幌
9/12
岡山
(土)
日総研 研修室(廣瀬お茶の水ビル)
15年
(土)
ショーケー本館ビル
15年
(日)
11/8
日総研G縁ビル研修室
[時間]10:00∼16:00
プログラム
患者・家族・職員― 避けられない相手にボーダーっぽさを察知したら
東京
15年
10/3
15年
(土)
福武ジョリービル
参加料 本誌購読者
税込
9/5(土)
道特会館
一般
15,500円
18,500円
1.身近な事例で理解!尋常でなく
「かき回す人」
「巻き込む人」たち
2.BPD(境界性パーソナリティ障害)および「っぽい人」の理解
3.BPD傾向のある人からの操作性を防ぐ
「ボーダーラインシフト」10ヶ条の実践的ポイント
4.ほどよい間合いを保つ!ディフェンス接遇の具体策
詳しくはスマホ・PCから 日総研 14118 で検索!
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