地下鉄

日本数学コンクール問題
日本数学コンクール委員会数学問題委員会委員 名古屋大学大学院多元数理科学研究科
助教授
鈴木 紀明
愛知県立天白高等学校
教 諭
高原 文規
第2問 【地下鉄】
下図のように地下鉄の AB 線と CD 線が S 駅で立体交差しています。(A, B, C の標高は同じで D はこれ
らよりも高い場所にあります。) また, AC 線, BC 線, BD 線の間にはそれぞれ E, F, G の 3 駅があります.
このたび新たな都市計画が持ち上がり, D と A の間に新しく X 駅を作り, AB 線と CD 線を廃止して EG 線
と F X 線を作ろうということになりました.
とすると, 途中で EG 線と F X 線を立体交差させる必要があるので AD 間に X 駅が作れる範囲は限られ
ることになります. F X と EG が交わるようではいけませんね. このような点は平面地図だけから求めること
ができるでしょうか.
ただし, 地下鉄の線路はすべて直線であるとします. できるとしたら, さらに EG 線と F X 線の最短距離も
求まるでしょうか. D と A, B, C の標高差はわかっているとします.
D
X?
A
E
S 駅(立体交差)
C
G
F
B
解答例と講評
12月には名古屋大学の前にも地下鉄が開通することになり, 便利になります. 本山駅も立体交差となるわけ
ですが, 2 つの路線は実際にはどの程度の間隔になっているのでしょうか.
さて, 問題の解答ですが. F X と EG が交わるような X の位置 X0 を求めることを考えます. それは以下の
図 1 の δ の値を決めることになります.
D
δ
h
1−γ
X0
1−δ
D0
A
α
X00
I
1−α E
G
I0
C
γ
β
G0
F
1−β
B
図1
EG と F X0 が交わるとき, その交点を I とします. また, 平面 ABC への D, G, I, X0 の正射影をそれぞれ
D0 , G0 , I 0 , X00 とします. このとき図 1 のように, EG0 と F X00 の交点が I 0 になります. さらに,
AE : EC = α : 1 − α
CF : F B = β : 1 − β
BG : GD = γ : 1 − γ
DX0 : X0 A = δ : 1 − δ
とし, DD 0 の長さを h とします.
BG
さて, 4BDD0 において, DD0 // GG0 ですから,
GG0 = DD0 ·
= hγ
BD
EI
EI
さらに, 4EGG0 において, II 0 // GG0 より,
II 0 = GG0 ·
= hγ ·
EG
EG
AX0
同様に, 4ADD0 に注目すれば,
X0 X00 = DD0 ·
= h(1 − δ)
AD
FI
FI
さらに, 4F X0 X00 に注目して
II 0 = X0 X00 ·
= h(1 − δ) ·
F X0
F X0
EI
FI
1
II 0 = hγ ·
= h(1 − δ) ·
…… よって, EG と F X0 が交点を持てば,
EG
F X0
となります. したがって,
FI
EI
= h(1 − δ) ·
とならないように X を選べば EG と F X は交わらない.
hγ ·
EG
FX
ほとんどの人の解答がここまでで終わっていたのは残念です.
この議論には誤りはありませんが, EI, F X, F I は X の位置が決まらないとわからないのですから, (不適当な)
δ の値をすでにわかっている値 α, β, γ から求めたことにはなりません.
実は δ を α, β, γ を使って表すことができるのですが, そのためにはもう一歩のアイディアを必要とします.
(I) 牧戸康祥君 (鈴鹿高 1) のアイディア
AF と EB の交点を O とします. 牧戸君は平面 BDE 上にある直線 EG と平面 ADF 上にある直線 F X0 が
交点を持つとき, その交点は, 2 平面 BDE, ADF の交線 OD 上にあることを指摘しています.
D
X0
D0
X00
A
G
I
E
I0
C
G0
O
F
B
図2
ここで
AX00 : X00 D = AX0 : X0 D = 1 − δ : δ
BG0 : G0 D = BG : GD = γ : 1 − γ
に注意して図 2 の平面 ABC の部分だけをかくと, 図 3 になります.
D0
δ
X00
1−δ
A
α
1−γ
E
1−α
I0
C
β
G0
O
γ
F
1−β
B
図3
重要な点は F X00 , EG0 , OD0 が 1 点 I 0 で交わっている事実です. α, β, γ と δ の関係を調べるために, 次の メ
ネラウスの定理を使います.
メネラウスの定理
4ABC の各辺 (の延長) と直線の交点を下図のように P, Q, R とすると,
A
R
C
P
B
Q
BP CQ AR
·
·
=1
P C QA RB
が成り立つ.
図 3 にメネラウスの定理を 4 回使います.
4ACF と直線 EOB について,
4F AX00 と直線 OI 0 D0 について,
4ECB と直線 F OA について,
4EBG0 と直線 OI 0 D0 について,
1
FO
α
2
·
·
= 1 …… 1 − β OA 1 − α
1 X00 F 0 F O
3
·
·
= 1 …… δ I 0 F OA
β
OB α
4
·
· = 1 …… 1 − β EO 1
1
G0 I 0 EO
5
· 0 ·
= 1 …… 1 − γ I E OB
1 から,
EI 0
F I0
=
(1
−
δ)
·
EG0
F X00
5 を使って整理すれば,
2 ∼
が成り立つので, 上式を (1 − α)(1 − β)(1 − γ)
δ=
(α + β − 1)γ + (1 − β)(1 − α)
が導けます.
この式から次のきれいな関係式が成り立つこともわかります.
6
αβγδ = (1 − α)(1 − β)(1 − γ)(1 − δ) …… γ·
(II) 木津優一君 (東海高 2) の考察
6 の関係式を示すことに成功しました.
木津君はベクトルを使った考察を行い, D
δ
X0
1−γ
1−δ
A
α
1−α
G
I
E
C
γ
β
F
1−β
B
図4
−→ ~ −→ ~ −→ ~
F A = a, BC = b, F D = c とすると,
−→
−→
−→
−→
−→
F E = (1 − α)F A + αF C = (1 − α)F A + αβ BC = (1 − α)~a + αβ~b
−→
−→
−→
−→
−→
F G = γ F D + (1 − γ)F B = γ F D + (1 − γ)(1 − β)CB = γ~c − (1 − γ)(1 − β)~b
です.
EI : IG = p : 1 − p とおくと,
−→
−→
−→
7
F I = (1 − p)F E + pF G = (1 − p){(1 − α)~a + αβ~b} + p{γ~c − (1 − γ)(1 − β)~b} …… −→
−−→
一方, F I = k F X0 となる k が存在しますから,
−→
−→
−→
8
F I = k{δ F A + (1 − δ)F D} = kδ~a + k(1 − δ)~c …… ~a, ~b, ~c が一次独立であることに注意すれば, 8 より,
7 , 


kδ = (1 − p)(1 − α)


k(1 − δ) = pγ



(1 − p)αβ − p(1 − β)(1 − γ) = 0
となり, これらの式から k, p を消去すれば,
δ
(1 − α)(1 − β)(1 − γ)
=
1−δ
αβγ
6 と同じです.
となります. これは なお, 中条雅文君 (豊田西高 2) と岡村和弥君 (豊田西高 2) も同様の考察をしていました.
(III) ベクトルを使った考察 (その 2)
6 の関係式は次のように示すこともできます.
D
δ
X0
1−γ
1−δ
A
α
1−α
G
I
E
C
γ
β
F
1−β
B
図5
−
→
−→
まず, 同一平面上にない 4 点 A, B, C, D あるとき, 平面 ABC 上にない点 I に対して, IA = ~a, IB = ~b,
−→ ~ −→ ~
IC = c, ID = d とすると, ~a, ~b, ~c は一次独立であり, 適当な実数 p0 , q0 r0 を用いて,
~d = p0~a + q0~b + r0~c
とただ一通りにかけることを確認します. すなわち,
−p0~a − q0~b − r0~c + ~d = ~0
p = −p0 s, q = −q0 s, r = −r0 s とすると,
9
p~a + q~b + r~c + s~d = ~0 …… は, 連比 p : q : r : s がただ一通りに決まります.
−→
−→
I が線分 EG 上にある ⇐⇒ IE + k IG = ~0, k > 0 となる実数 k が存在する.
が成り立ちますから,
10
(1 − α)~a + α~c + k(1 − γ)~b + kγ~d = ~0 …… 一方,
10 の係数の連比が等しいから,
9 ,
したがって, I が線分 EG 上にあるとき, 11
p : q : r : s = (1 − α) : k(1 − γ) : α : kγ …… −→
−−→ ~
同様に,
I が線分 F X0 上にある ⇐⇒ IF + κIX0 = 0, κ > 0 となる実数 κ が存在する.
(1 − β)~c + β~b + κ(1 − δ)~d + κδ~a = ~0
12
p : q : r : s = κδ : β : (1 − β) : κ(1 − δ) …… 11 ,
12 より,
I が線分 EG, F X0 の交点のとき, r
p
q
r
α=
, 1−α=
, β=
, 1−β =
,
p+r
p+r
q+r
q+r
s
q
p
s
γ=
, 1−γ =
, δ=
, 1−δ =
q+s
q+s
p+s
p+s
よって,
αβγδ = (1 − α)(1 − β)(1 − γ)(1 − δ)
(IV) 採点委員の1人による X 駅の位置に対する解答
平面地図上に高さを持ち込み, 擬似的に 3 次元の図とすることを考えます.
これは難しいことではありません. 今までの図 1, 図 2, 図 4 も 3 次元の様子を 2 次元平面上に表現しています.
地図には駅を表す点 A, B, C, D0 が表されています. D0 から地図上の適当な方向に線分 DD 0 を引くと, D は
D0 の真上の 3 次元での実際の駅の位置を表すと考える事ができます.
地図に計画されている新駅 E, F, G0 を書き込み, 線分 BD 上に G0 G // D 0 D となる点 G を取ると, G は G0
の真上の実際の駅を表します.
同様に, 地図上に仮に新駅 X 0 を書き込み, 線分 AD 上に X 0 X // D0 D となる点 X を取ると, X は X 0 の真
上の実際の駅を表します.
EG0 , F X 0 の交点 I 0 が地図上の交差点であり, 線分 EG 上に I を II 0 // D0 D となるように取り, 直線 II 0 , F X
の交点を J とすると, I, J は 地図上の点 I 0 の真上で, それぞれ地下鉄線 EG, F X の線路上の点を表し, IJ が
実際に交差する地点の高さの差です.
今までと同様に, EG, F X が交わる, すなわち I, J が同一点となるような X0 の位置を求めましょう.
D
X0
A
E
D0
X00
I
IA
JA
JD
I0
C
G
ID
0
ID
G0
F
B
図6
点 J は平面 F AD, EGG0 の交線上にありますから, X が線分 AD 上を動くとき, J はこの交線上を動きます.
よって, X が A, D と一致するときの I, J をそれぞれ IA , JA , ID , JD とすると, I は線分 IA ID 上にあり, J は
線分 JA JD 上にありますから, I, J が同一点となるのは, 線分 EG, JA JD の交点です.
この交点,J (, I) に対して, 直線 F J, AD の交点 X0 (地図上の点では, X00 X0 // D0 D となる線分 AD0 上の点
X00 ) が, EG 線, F X 線が標高差 0 で交差するポイントです.
(V) EG 線, F X 線の距離 (その 1)
今までは地下鉄の線路は直線であると考えてきました. 実際は ”太さ” が必要ですから, 立体交差させるために
は, 2 直線が交わらない条件では十分ではなくて, 2 直線の距離が必要な値以上に大きくないといけないことに
なります. これはねじれの位置にある 2 直線間の距離を求める問題になります. 残念ながらこのことにきちん
と言及している解答はありませんでした. 次のように考えると, EG 線, F X 線の距離を求めることが出来ます.
X 駅の位置が決まると, 線分 EG, F X が決まります.
どちらにも垂直なベクトル ~v を求めると, 実際の D 駅を通り, ~v に平行な直線と平面 ABC との交点 D0 と距
離 DD 0 を求める事ができます.
D
X
X0
A
J
I
E
G
I0
C
D0
G0
F
B
図7
今までと同様に, ただし, JII // GG // XX // DD // ~v となるようにして, 図 7 をかくと, IJ は線分 EG, F X
0
0
0
0
の両方に垂直な線分になりますから, EG, F X の距離を表し,
F J F I 0 EI
EI 0
IJ = |II 0 − JI 0 | = DD0 γ ·
− DD0 (1 − δ) ·
−
(1
−
δ)
·
=
DD0
γ
·
EG
F X EG0
F X0 となります.
ここで, 平面 ABC 上に EG0 に平行に x 軸がなるように, xy 軸を取り, これに垂直に z 軸を取ります.
0
0
~v = (v1 , v2 , v3 ), v3 > 0, |~v| = 1, GG = m1 , XX = m2 , ∠G0 I 0 X 0 = θ とすると,
0
0
EG
FX
−→ −−→0 −−0→
−−→ −−→0 −−0→
~
EG = EG + G G // (1, 0, 0) + m1 v, F X = F X + X X // (cos θ, sin θ, 0) + m2~v
~v ⊥ (1, 0, 0) + m1~v, ~v ⊥ (cos θ, sin θ, 0) + m2~v, |~v| = 1 より,
v1 + m1 = 0, v1 cos θ + v2 sin θ + m2 = 0, v12 + v22 + v32 = 1
q
sin2 θ − m21 + 2m1 m2 cos θ − m22
m1 cos θ − m2
これを解いて, v1 = −m1 , v2 =
, v3 =
sin θ
sin θ
|~v|
DD0
=
より,
このとき,
h
v3
sin θ
DD0 = q
h
sin2 θ − m21 + 2m1 m2 cos θ − m22
よって,
F I 0 sin θ
EI 0
q
− (1 − δ) ·
h
IJ = γ ·
0
0
EG
FX
sin2 θ − m21 + 2m1 m2 cos θ − m22
(VI) EG 線, F X 線の距離 (その 2)
−→ −→ −−→
次のように, F E, F G, F X から体積や面積を利用して求めることもできます.
四角柱 EHGK −LF M X (EL, HF, GM, KX は 平面 EHGK, LF M X に垂直) を考えると, 2 直線, EG, F X
の距離 IJ は四角柱の高さ h (= EL) に等しい. (これを求めたい.)
X
K
J
L
E
I
M
G
F
H
図8
(四面体 EF GX の体積) = (四角柱 EHGK − LF M X の体積)
−{(三角錐 E − LF X の体積) + (三角錐 G − M XF の体積)}
−{(三角錐 F − HGE の体積) + (三角錐 X − KEG の体積)}
だから, 底面 EHGK の面積を S とすると,
(四角柱 EHGK − LF M X の体積) = Sh
1
1
(三角錐 E − LF X の体積) + (三角錐 G − M XF の体積) = h(4LF X + 4M XF ) = Sh
3
3
1
1
(三角錐 F − HGE の体積) + (三角錐 X − KEG の体積) = h(4HGE + 4KEG) = Sh
3
3
以上から,
1
1
1
(四面体 EF GX の体積) = Sh − Sh − Sh = Sh
3
3
3
3(四面体 EF GX の体積)
∴h=
S
補足として, 大学で習う事項を使うと,
1 h−→ −→ −−→i
1 −−→ −→
(四面体 EF GX の体積) = F E, F G, F X ,
S = F X × EG
6
2
となるので,
h−→ −→ −−→i
F E, F G, F X h = −−→ −→
F X × EG
note 1
~a = (a1 , a2 , a3 ), ~b = (b1 , b2 , b3 ) に対して,
~a × ~b = (a2 b3 − a3 b2 , a3 b1 − a1 b3 , a1 b2 − a2 b1 )
を「外積」または「ベクトル積」という.(内積は「スカラー積」ともいう.)
(~a × ~b) ⊥ ~a, (~a × ~b) ⊥ ~b, |~a × ~b| = (~a, ~bを 2 辺とする平行四辺形の面積)
が成り立つ.
note 2
~a = (a1 , a2 , a3 ), ~b = (b1 , b2 , b3 ), ~c = (c1 , c2 , c3 ) に対して,
a1
[~a, ~b, ~c] = ~a · (~b × ~c) = a1 (b2 c3 − b3 c2 ) + a2 (b3 c1 − b1 c3 ) + a3 (b1 c2 − b2 c1 ) = b1
c1
を「ベクトル三重積」という
.
~ ~ ~ [a, b, c] = (~a, ~b, ~cを 3 辺とする平行六面体の体積)
が成り立つ.
a2
b2
c2
a3 b3 c3