平成2年函審第37号 漁船第八十八正一丸漁船第八十一住吉丸衝突

平成2年函審第37号
漁船第八十八正一丸漁船第八十一住吉丸衝突事件
言渡年月日
平成3年8月29日
審
判
庁 函館地方海難審判庁(大島栄一、東晴二、上野忠雄)
理
事
官 佐々木幸一
損
害
正一丸-船尾外板に破口
住吉丸-船首部を圧壊
原
因
住吉丸-見張不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
正一丸-見張不十分、警告信号不履行(一因)
主
文
本件衝突は、第八十一住吉丸が、見張り不十分で、漂泊中の第八十八正一丸を避航しなかったことに
因って発生したが、第八十八正一丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったこともその一因をな
すものである。
受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Aを戒告する。
理
由
(事実)
船 種 船 名
漁船第八十八正一丸
総 ト ン 数
430トン
機関の種類
ディーゼル機関
漁船法馬力数
990
受
人
A
名
船長
職
審
海 技 免 状
四級海技士(航海)免状
船 種 船 名
漁船第八十一住吉丸
総 ト ン 数
404トン
機関の種類
ディーゼル機関
漁船法馬力数
1,050
受
職
審
人
B
名
船長
海 技 免 状
四級海技士(航海)免状
事件発生の年月日時刻及び場所
昭和63年4月19日午前8時40分(現地時刻)ごろ
大西洋南西部
第八十八正一丸(以下「正一丸」という。)は、いか釣漁業に従事する目的で、受審人A以下15人
が乗り組み、昭和62年11月15日青森県八戸港を発し、同年12月25日大西洋南西部アルゼンチ
ン東方沖合の漁場に到着して操業に取り掛かり、以後、各国の同業船多数が競合する同水域を随時移動
しながら、夜間のみの操業を続け、漁獲物が満倉になると、東フォークランド島バークリー湾におもむ
いて、仲積船に荷揚げする運航を繰り返していた。
翌63年4月19日午前5時15分(フォークランド諸島現地時刻、以下同じ。)ごろ、いつものよ
うに前日からの夜間操業を終えた正一丸は、それまでに漁獲したいか約164トンを魚倉に積み、船首
2.10メートル船尾3.80メートルの喫水をもって直ちに魚群探索に入り、同6時40分ごろ南緯
48度8分西経60度40分ばかりの地点で適水を得、主機を止めて漂泊待機した。
漂泊後A受審人は、乗組員を全員休息させたのち、慣習により1人で当直に立ち、これまでの出漁経
験から、同所が、各国の一般船舶も含めて、かなりの通航量を有する海域であることを十分承知してい
たので、ほぼ30分間隔のレーダー監視と併せて、双眼鏡による周囲の見張りも行うよう心掛けていた
が、同8時25分ごろレーダーを作動させた同人は、南方に向首している自船の左舷前方に、たまたま
2隻の同業船らしい船映を認めたものの、どうしたことか、このころ船尾方1.8海里ばかりに迫って
いた第八十一住吉丸(以下「住吉丸」という。)の映像を見落としていたことから、当分の間、後方か
ら接近してくる船舶はないものと思い込み、その後は、四周を見回ることなく操舵室左舷側窓際のいす
に腰掛けたまま、窓ガラス越しに肉眼による船首方の見張りだけを続けていた。
こうしてA受審人は、船首方に存在する他船の動向のみに気をとられているうち、船尾方に対する見
張りが不十分となり、依然として住吉丸の接近に気付かないまま、警告信号を発することなく漂泊中、
突然船尾方からの機関音を耳にした直後の同8時40分ごろ南緯48度8分西経60度40分ばかり
の地点において、住吉丸の船首が、ほぼ162度(真方位、以下同じ。)に向首した正一丸の船尾に、
左舷後方から約1点の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の西北西風が吹き、視界は良好であった。
また、住吉丸は、いか釣漁業に従事する目的で、受審人B以下15人が乗り組み、昭和62年11月
15日神奈川県三崎港を発し、同年12月23日アルゼンチン東方沖合の漁場に到着して操業に取り掛
かり、以後正一丸と同様、東フォークランド島バークリー湾において、漁獲物を仲積船に荷揚げする運
航を繰り返していた。
翌63年4月19日午前5時20分ごろ、いつものように前日からの夜間操業を終えた住吉丸は、そ
れまでに漁獲したいか約170トンを魚倉に積み、船首3.00メートル船尾3.70メートルの喫水
をもって、同6時50分ごろ南緯47度55分西経60度42分ばかりの地点から、魚群探索を兼ねて
南緯48度25分西経60度38分付近に向け、数隻の僚船と前後して漁場移動を開始した。
発進後、慣習により1人で船橋当直に立ったB受審人は、南下針路を174度に定め、機関を7ノッ
トばかりの半速力にかけて自動操舵とし、これまでの出漁経験から、その途中にはかなりの同業船も存
在することが予想されたので、魚群探知器の観察かたがた、時折レーダー監視も欠かさぬよう心掛けて
進行していたが、しばらくして僚船との電話交信に従事していた漁労長から、移動方向には、未だ同業
船が進出していないとの情報を得た旨を聞かされ、同8時10分ごろレーダーを作動させた際にも、同
航僚船の船映を認めたのみで、折から、船首方3.5海里ばかりにあたる正一丸の映像を見落としてい
たことから、当分の間、前路に障害となる他船は出現しないものと思い込み、間もなく見張りを離れて
漁獲報告書作成のため、一時船橋後部の海図室に退いた。
その後、適宜見張り位置に戻るつもりで海図台に向かっていたB受審人は、操業記録などの整理にの
み気をとられて前路の見張りを全く行わなかったため、同8時25分ごろほぼ正船首1.8海里ばかり
に迫った漂泊中の正一丸を視認できる状況であったが、これに気付かず、引き続き海図室に閉じこもっ
たまま、衝突のおそれある態勢となっている同船に対し、なんらの避航措置をとることなく続航中、原
針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、正一丸は船尾外板に破口を生じ、住吉丸は船首部を圧壊したが、いずれも浸水なく、両
船ともウルグアイ東方共和国モンテビデオ港に寄せて、それぞれ応急修理が施された。
(原因)
本件衝突は、漁場移動中の第八十一住吉丸が、見張り不十分で、前路に漂泊している第八十八正一丸
を避航しなかったことに因って発生したが、第八十八正一丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなか
ったこともその一因をなすものである。
(受審人の所為)
受審人Bが、多数の漁船が散在する漁場内を単独当直で移動する場合、漂泊中の第八十八正一丸を見
落とさないよう見張りを厳重に行うべき注意義務があったのに、これを怠り、しばらく他船との出会い
はないものと軽く考えて書類整理のため海図室に退き、前路の見張りを行わなかったことは職務上の過
失である。B受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2
号を適用して、同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Aが、多数の漁船が散在する漁場内に漂泊する場合、船尾方から著しく接近してくる第八十一
住吉丸を見落とさないよう、見張りを厳重に行うべき注意義務があったのに、これを怠り、船首方向の
他船のみに気をとられて後方の見張りを行わなかったことは職務上の過失である。A受審人の所為に対
しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。