平成7年門審第93号 貨物船第拾弐玉吉丸貨物船愛廣丸衝突事件 言渡

平成7年門審第93号
貨物船第拾弐玉吉丸貨物船愛廣丸衝突事件
言渡年月日 平成9年1月28日
審 判
庁 門司地方海難審判庁(酒井直樹、工藤民雄、川本豊)
理 事
官 下川幸雄
損
害
玉吉丸-左舷船尾部外板に大破口、機関室に浸水、大傾針し、左舷側に転覆、船体は廃船処分、甲板手
が死亡、一等航海士と甲板員が行方不明
愛廣丸-船首外板に破口と凹損
原
因
玉吉丸-狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
愛廣丸-狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
主
文
本件衝突は、第拾弐玉吉丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、愛廣丸が、視界
制限状態における運航が適切でなかったこととに因って発生したものである。
受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Aを戒告する。
理
由
(事実)
船 種 船 名 貨物船第拾弐玉吉丸
総 ト ン 数 4,425トン
機関の種類 ディーゼル機関
出
力 1,471キロワット
受 審
人 A
職
名 船長
海 技 免 状 三級海技士(航海)免状
船 種 船 名 貨物船愛廣丸
総 ト ン 数 481トン
機関の種類 ディーゼル機関
出
力 1,103キロワット
受 審
人 B
職
名 船長
海 技 免 状 四級海技士(航海)免状
事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年5月26日午後11時50分
福岡県玄界島沖合
第拾弐玉吉丸(以下「玉吉丸」という。)は、船首部及び船橋楼前部にクレーン各1基を装備した長
さ92.06メートルの石材砂利運搬船で、受審人Aが、一等航海士C、甲板手D及び甲板員Eほか5
人と乗り組み、熊本県天草郡高杢島西方の海砂採取場で、バージから海砂6,900トンを積み取り、
倉内にハッチコーミングを越える山積みとし、鋼製ハッチカバーを開放したまま船首7.95メートル
船尾8.45メートルの喫水をもって、平成7年5月26日午前10時50分同バージの舷側を離れ、
兵庫県家島町西島に向かった。
A受審人は、本船の船橋当直を同人とD甲板手、C一等航海士とE甲板員及び甲板員1人と機関員1
人の2人当直の4時間交替としており、同11時ごろ発航時の操船を終えて次直の甲板員に当直を任せ
て降橋休息し、その後同日午後3時ごろ大立神灯台の西方2海里ばかりの地点で航海当直に就いて平戸
島南端に向け北上し、同7時ごろ尾上島灯台の北西方3海里ばかりの地点で昇橋した次直の甲板員に再
び当直を任せることとしたが、霧などにより視界が制限されたときには報告してくれるものと思い、同
甲板員に対し視界が制限されたときは、直ちに船長にその旨を報告するよう次直者に対し、申し送りを
指示することなく、海図に記入しておいた針路により生月島及び的山大島の西岸沿いに北上したのち壱
岐水道のほぼ中央を東行するよう指示して降橋休息した。
C一等航海士は、同11時ごろ烏帽子島灯台から27度(真方位、以下同じ。)3.6海里ばかりの
地点で昇橋して前直の甲板員から当直を引き継ぎ、航行中の動力船の灯火の点灯を確認し、針路を60
度に定めて自動操舵とし、機関を約10.5ノットの全速力前進にかけて進行したところ、霧で次第に
視界不良となってきたので、遠距離と近距離レンジとした2台のレーダーを時々見ながらE甲板員とと
もに前方の見張りに当たって続航した。
同11時40分ごろ、玄界島灯台から323度8.2海里ばかりの地点に達したとき濃霧となり、視
程が100メートルばかりに狭められる状況となったが、C一等航海士は、そのうち霧が晴れるものと
思い、速やかに視界制限状態となったことを船長に報告せず、このころ正船首3.4海里ばかりに愛廣
丸をレーダーで探知することができる状況にあったが、2台のレーダーを一見して他船の映像を認めな
かったことから、前方に他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わないまま、霧中
信号を吹鳴することも、安全な速力に減じることも行わず、全速力のまま進行した。
C一等航海士は、同11時44分ごろ、愛廣丸が正船首2海里ばかりに接近し、同船と著しく接近す
ることを避けることができない状況となったが、依然レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、
このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止め
る措置をとらないまま、全速力で続航し、同時49分ごろ正船首650メートルばかりに愛廣丸のレー
ダー映像を初めて認め、その後同船の映像の方位が変わらずに急速に接近するので同時49分半ごろE
甲板員に右舵一杯を令し、自動操舵のまま右転中、同11時50分玄界島灯台から335度8.2海里
ばかりの地点において、ほぼ105度を向いた玉吉丸の左舷船尾に、愛廣丸の左舷船首が前方から約4
5度の角度で衝突した。
A受審人は、C一等航海士からなんらの報告を受けず、霧となったことに気付かないまま自室で休息
中、衝突の衝撃を感じて急ぎ昇橋し、事後の措置に当たった。
当時、天候は霧で風力1の西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視程は約100メートルで
あった。
また、愛廣丸は、長さ65.16メートルの船尾船橋型貨物船で、受審人Bほか5人が乗り組み、南
洋材300トン及び雑貨350トンを載せ、船首3.20メートル船尾3.90メートルの喫水をもっ
て、同月26日午後7時40分関門港小倉区日明岸壁を発し、沖縄県那覇港に向かった。
発航時、B受審人は、航行中の動力船の灯火を表示し、出航操船に引き続いて単独船橋当直に当たり、
関門港西口を出航したのち陸岸沿いに西行し、同10時10分ごろ倉良瀬灯台の北北西方2海里ばかり
の地点で左転して壱岐水道東口に向かい、同11時15分ごろ栗ノ上礁灯標から359度3.9海里ば
かりの地点に達したとき、針路を237度に定めて自動操舵とし、機関を約10ノットの全速力前進に
かけて進行したところ、霧で次第に視界不良となってきたので、3マイル及び12マイルレンジとした
2台のレーダーを時々見ながら操舵スタンドの後方に立って前方の見張りに当たって続航した。
同11時40分ごろ栗ノ上礁灯標から294度4海里ばかりの地点に達したとき、B受審人は、レー
ダーにより船位を確認して針路を240度に転じたところ前方が濃霧となり、やがて視程が100メー
トルばかりに狭められる状況となったが、これまで船尾方の漁船の灯火を視認できたところから前方の
視界もそれほど狭められていないものと思い、このころ正船首3.4海里ばかりに玉吉丸の映像を探知
できる状況となったものの、船位の確認に気を取られてレーダーによる見張りを十分に行うことなく、
同船の映像に気付かず、霧中信号を吹鳴することも、安全な速力に減じることも行わず、そのままの速
力で進行した。
同11時44分ごろ、玉吉丸が正船首2海里ばかりに接近し、同船と著しく接近することを避けるこ
とができない状況となったが、B受審人は、前方に他船はいないものと思い、依然レーダーによる見張
りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、
必要に応じて行きあしを止める措置をとらないまま、全速力で続航中、同時50分突然船首に衝撃を感
じ、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、玉吉丸は、左舷船尾外板に大破口を生じ、機関室に浸水して左舷側に大傾斜し、開放し
たままのハッチから貨物倉内に海水が流入して左舷側に転覆し、乗組員は救命筏を投下して離船したが、
D甲板手は船内に閉じ込められ、のち遺体で発見され、C一等航海士とE甲板員は行方不明となった。
その後玉吉丸の船体は伊万里港に引き付けられたが修理不能で廃船処分され、愛廣丸は、船首外板に破
口と凹損を生じ、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、両船が、霧のため視界制限状態となった福岡県玄界島沖合を航行中、第拾弐玉吉
丸が、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく、レーダーによる見張り不十分で、前路の
愛廣丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限
度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、愛廣丸が、霧中信号を行うことも安
全な速力に減じることもなく、レーダーによる見張り不十分で、前路の第拾弐玉吉丸と著しく接近する
ことを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要
に応じて行きあしを止めなかったこととに因って発生したものである。
第拾弐玉吉丸の運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する視界制限時の報告についての
指示が十分でなかったことと、船橋当直者の視界制限時の報告及びレーダーによる見張りが十分に行わ
れなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
受審人Bが、夜間、福岡県玄界島沖合を航行中、視界制限状態となった場合、前方から接近する第拾
弐玉吉丸を見落とすことのないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があったのに、
これを怠り、前方に他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかったことは職務
上の過失である。B受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1
項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Aが、夜間、福岡県玄界島沖合を航行中、部下を船橋当直に当たらせる場合、視界制限時には
自ら操船の指揮をとることができるよう、視界が制限されたときは、直ちに船長にその旨を報告するよ
う次直者に対し、申し送りを指示すべき注意義務があったのに、これを怠り、視界が悪くなれば報告し
てくれるものと思い、視界制限時の報告について申し送りを指示しなかったことは職務上の過失である。
A受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用し
て同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。