平成9年神審第107号 貨物船栄徳丸引船早峰丸衝突事件 言渡年月日 平成10年6月30日 審 判 庁 神戸地方海難審判庁(工藤民雄、佐和明、清重隆彦) 理 事 官 坂本公男 損 害 栄徳丸-船首部ファッションプレートを凹損 早峰丸-船首部防舷材の取付部を圧損 原 因 早峰丸-動静監視不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守 主 文 本件衝突は、早峰丸が、動静監視不十分で、錨泊中の栄徳丸に向け、その至近で転針し たことによって発生したものである。 受審人 A を戒告する。 理 (事 由 実) 船種船名 貨物船栄徳丸 総トン数 497トン 機関の種類 ディーゼル機関 出 735キロワット 力 船種船名 引船早峰丸 総トン数 294.03トン 機関の種類 ディーゼル機関 出 力 2,574キロワット 人 A 名 船長 受 職 審 海技免状 五級海技士(航海) 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年11月5日06時30分 兵庫県姫路港 栄徳丸は、九州・阪神間の各港において鋼材の輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、 船長 B ほか4人が乗り組み、鋼材1,644トンを載せ、船首3.6メートル船尾4.7メー トルの喫水をもって、平成7年11月4日11時00分大分県大分港を発し、兵庫県姫路 港に向かった。 B 船長は、翌5日01時30分姫路港広畑区第2区に至り、朝まで仮泊待機することとし、 広畑東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から230度(真方位、以下同じ。) 1,900メートルの地点において、錨泊中を示す白色全周灯を船首尾に各1個表示し、ま た甲板を照明する作業灯10個を点灯したほか、錨泊中を示す形象物も掲げて錨泊した。 こうして、栄徳丸は、乗組員全員が休息し、船首が128度に向いていたとき、自船の 船首方を無難に航過する態勢で進行中の早峰丸が、ほぼ正船首130メートルのところか ら急に針路を変えて自船に向首接近し、06時30分前示錨泊地点において、その船首部 に、早峰丸の船首が真向かいに衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期にあたり、日出時刻は06 時24分であった。 えいこう また、早峰丸は、姫路港を基地として明石海峡から水島港間の瀬戸内海において、曳航作 業や離着岸時における支援作業などに従事する、2基2軸のZドライブ方式の推進器を備 えた鋼製引船で、A受審人ほか4人が乗り組み、出港船の支援作業を行う目的で、船首2. 1メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、同日06時15分姫路港飾磨区第1区の船 場川岸壁12バースを発し、航行中の動力船の灯火を表示して同港西区第1区の西部北岸 壁に向かった。 A 受審人は、発航操船に引き続き舵輪後方で立って見張りと操舵に当たり、飾磨東、西両 防波堤の間を通過したのち、同港広畑区第2区を西行し、06時27分少し前東防波堤灯 台から193度1,460メートルの地点で、針路を278度に定め、機関を全速力前進に かけ、12.0ノットの対地速力で進行した。 定針したとき A 受審人は、左舷前方に4ないし5隻の漁船と右舷前方に3隻ほどの小型 鋼船を視認し、これらのなか右舷船首3度1,160メートルのところに栄徳丸を初めて認 めたが、同船が錨泊中であったのに、付近が東西に航行する小型鋼船がよく通航するとこ ろであったことから、一べつし、栄徳丸の船首部が見えていたので東行船であり、右舷を 対して航過できるものと思い、さらに自船の操縦性能が極めて良かったこともあって、必 要ならもう少し接近してから対処するつもりで、栄徳丸に対する動静監視を行わなかった。 間もなく、A 受審人は、左舷前方の漁船の1隻が曳網を開始し、自船の前路を右方に横切 る態勢となって接近するようになったのを認めて危険を感じ、双眼鏡で見て、この漁船の 動静に気をとられていたので、栄徳丸が錨泊していることも、このまま進行すれば右舷側 を約70メートル離れて航過する状況であることにも気付かずに進行した。 06時29分半わずか過ぎ A 受審人は、東防波堤灯台から226度1,870メートルの 地点に達し、栄徳丸が右舷船首29度130メートルになったとき、前示の漁船を避ける ため、右舵をとって308度の針路としたところ、早峰丸は栄徳丸に向首するようになっ た。 A 受審人は、06時30分少し前正船首至近に栄徳丸の船首部を認めて驚き、せめて自船 の舷側への衝突だけは避けようと思い、転舵しないまま両舷機を全速力後進にかけたが効 なく、早峰丸は、その船首が、原針路のまま、約5ノットの速力をもって、前示のとおり 衝突した。 衝突の結果、栄徳丸は船首部ファッションプレートに凹損を生じ、早峰丸は船首部防舷 材の取付部に圧損を生じたが、のちいずれも修理された。 (原 因) 本件衝突は、姫路港において、西行中の早峰丸が、動静監視不十分で、右舷側に航過す る態勢にあった錨泊中の栄徳丸に向け、その至近で転針したことによって発生したもので ある。 (受審人の所為) A 受審人が、姫路港において、前路に散在する数隻の漁船や小型鋼船のなか右舷船首方に 栄徳丸を認めた場合、錨泊中の同船と安全に航過できるよう、栄徳丸に対する動静監視を 十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、一べつし、栄徳丸が東行船であり、 右舷を対して航過できるものと思い、曳網を開始して左舷前方から前路を右方に横切る態 勢で接近する漁船の動静に気をとられ、栄徳丸に対する動静監視を十分に行わなかった職 務上の過失により、右舷側に航過する態勢にあった栄徳丸の至近で転針して衝突を招き、 早峰丸の船首部防舷材の取付部に圧損及び栄徳丸の船首部ファッションプレートに凹損を それぞれ生じさせるに至った。 以上の A 受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条 第1項第3号を適用して同人を戒告する。 よって主文のとおり裁決する。
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