証券市場における 自主規制制度

証券市場における
自主規制制度
その変遷と新しい可能性
証券市場における
自主規制制度
その変遷と新しい可能性
©2013 CFA Institute
CFA 協会は投資専門家の世界的な団体であり、専門家としての卓越性と資格の基準を設定し
ています。CFA 協会は投資市場における倫理行動の推進者であり、世界の金融業界に高度な
知識をもたらす組織として高い評価を得ています。
CFA 協会の使命は、最終的な社会の利益のために、倫理、教育、専門性に関する最高の基準
を設定することにより、世界の投資業界を主導していくことにあります。
ISBN 978-0-938367-77-2
2013年8月
当資料はCFA協会が発行した”Self-Regulation in the Securities Markets: Transitions and New
Possibilities”を日本CFA協会が翻訳したものであり、著作権はCFA協会が有しています。日本語
版および英語版で内容の相違が生じている場合は、英語版の内容を優先します。
日本CFA協会広報部翻訳小委員会翻訳グループ
佐々木龍 田原一彦 中瀬康彦 大浜匠一
日本語版翻訳完了日:2014年12月2日
目次
要約
1
1. 序論
3
2. SROのガバナンス
4
3. SROを巡る世界の動き
13
4. 国際的にみた自主規制の将来
26
5. 結論と政策提言
34
参考文献
37
要約
証券市場における自主規制制度は現在過
ョンに遅れを取らないでいることは、困難な
渡期にあります。自主規制機関(以下
がら必要な属性です。この第二部では、「自
「SRO」)を完全に廃止した国がある一方、
主規制」の定義に合致するさまざまな形態
SROのような“最前線”の規制機関を設置す
を検討し、世界各地から選んだいくつかの
ることでもたらされる便益を熱心に取り込も
地域における自主規制制度について、それ
うとしている国もあります。
らを評価する上で基準とした特定の形態、
特徴に焦点を当てます。自主規制制度には
本書は、「今日の証券市場における自主規
多くの失敗がありましたが、それでもなお現
制制度:時代遅れか発展途上か? (Self-
代の市場に必要な制度です。
Regulation in Today’s Securities Markets:
Outdated Systems or Work in Progress?)」を発行
第三部では、米国における現行の自主規制
した2007年以降の自主規制制度の動向を
制度とSROの活用状況を再検証します。米
概観します。最近、米国では自主規制制度
国証券取引委員会(以下「SEC」)には、自主
の効用に対して疑問の声が上がっているこ
規制が有効に働く能力を超えて市場環境が
とから、ここではその点を考慮しながら、そ
変化・成長した結果、自主規制制度がその
の持続的価値について調査しました。第一
妥当性を失っているのではないか、と疑問
部ではこの調査の背景、すなわち、金融市
視する内部報告があり、その意見に同意す
場のSROに対して最近課された前例のない
るSEC委員もいます。このような疑念に加え
罰金・処罰の状況や、ますます複雑になる
て、ガバナンスの不備や脆弱性の問題も挙
金融市場におけるそのあり方について見て
げられます。直近の例では、商品取引所を
いきます。世界経済を負のスパイラルに陥
営むSROと、そのSROを設立した業界との馴
れた直近の金融危機で明らかになったよう
れ合いにより、監督不備を隠ぺいしようとし
に、世界の金融市場は間違いなく相互に関
た事例が挙げられます。この監督不備疑惑
連しており、しばしば相互依存しています。
は、SRO制度が内在している矛盾点を示し
その結果、ある一国の規制制度に基づいて
ています。つまり、自己の会員を自ら規制す
リスクや構造を分析し、その改革に関して結
るという矛盾です。本書では、米国におけ
論を導いたとしても、それは賢明さを欠くも
る、取引所ではない「民間」SROの活用につ
のになっています。そのため、本書では、多
いても議論します。
くの国における自主規制制度の活用状況や
その動向にスポットライトを当てています。
第二部では、証券市場における自主規制制
度を成功に導くポイントに焦点を当てます。
特に、その制度に対する投資家と行政組織
双方からの信頼を勝ち得るに必要な特徴に
注目します。例えば、証券市場のイノベーシ
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1
証券市場における自主規制制度
第四部では、国際的な自主規制制度の可能性について検討します。最初に、システミックリス
クに対応するその活用方法を提示し、また証券市場における米国と他国の規制機関との協力
について議論します。次に、新興国市場における自主規制制度発展の課題と可能性を考えま
す。特に新興国市場間の国境を越えた協力体制や、そのような体制が先進国などでも活用す
る余地がないか検討します。最後に、業界における自発的な自主規制制度で成功した実例を
ひとつ紹介します。この事例は金融市場の将来的な発展のための自主規制制度のプロトタイ
プになり得るものです。
五部の結論および政策提言は、以下の内容となっています。
2
■
内在する矛盾とガバナンス上の課題を考えれば、自主規制制度は完全ではありま
せん。しかしながら、今日の高度に複雑で、技術的変化・発展が激しい市場に自主
規制制度は必要です。
■
米国SECのような主たる法定規制当局は予算の制約もあり、その管轄下で発生する
あらゆる問題に関わるには能力的に限界があります。従って、SROのような最前線
の規制組織には価値があります。
■
そのためにも、SECは、自主規制制度および自主規制組織に関して2004年に自らが
発表・提起した疑念、問題点を再検討すべきです。特に、米国における取引所以外
のSROについて、民間と「政府機関」、それぞれの機能間の調和を考えなければなり
ません。
■
また、規制制度に対する市場と投資家の信頼を高めるために、SROのガバナンス構
造の改善が必要です。例えば、SROの理事会や監督統制/仲裁委員会の独立性の
確保、財務・ガバナンス・規制に係る事案に関する透明性の向上、法定規制当局お
よび投資家双方に対する説明責任の強化などです。
■
自主規制制度は先進国市場で必要なだけではなく、新興国市場でも大きな可能性
を秘めており、国境を越えた問題でも活用可能です。国境を越えて活動する証券会
社を規制するために、新興国市場をサポートして、相互に執行可能な制度の設計や
導入ができるよう継続的な取り組みが必要です。
■
自主規制制度というアプローチが他の分野にもたらすメリットにも注目しなければな
りません。例えば、自主規制制度はシステミックリスクを見極め、監視する役割を担
うことが出来ます。
■
「グローバル投資パフォーマンス基準(GIPS)」の会員制度およびガバナンス構造
は、国境を越えた自発的な自主規制制度の有用なプロトタイプであり、金融市場に
おける自主規制制度の新しい形態を検討する上で参考になります。
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1. 序論
CFA協会が2007年に「今日の証券市場における自主規制制度:時代遅れか発展途上か? (SelfRegulation in Today’s Securities Markets: Outdated Systems or Work in Progress?)」を発行して以降、証
券市場を取り巻く環境は劇的に変わりました。2007~2008年の金融危機により、金融市場の将
来に対してかつてない程の不安や懸念が生じました。これらの懸念は、個々の金融機関や市
場参加者のガバナンス・監督の問題から、国の規制制度の健全性や複雑に相互連関している
市場システムの国際性にまで及んでいます。従って、2007年の発行当時としては最も効果的な
自主規制構造に焦点を当てました1が、これから先の自主規制制度に関して議論の枠を大幅に
拡大しなければなりません。一カ国だけに通用する規制の必要性をいくら取り上げても、グロー
バルな影響を考慮しなければ、役に立たないからです。また、ますます複雑化していく商品・業
務が規制当局の規制能力にもたらす影響をも計算に入れなければ、議論は完結しません。
2008年末に底を打った金融危機の責任を巡って自主規制制度は厳しい批判の対象となりまし
た。実際、金融システムにおけるレバレッジの大幅な拡大に関わった金融システム上重要な大
銀行から、これらの機関に資金を提供した債権者に至るまで、多くの組織が自己統制能力の
欠如を晒しました。不運にも、1990年代から2000年代初の金融規制では、規制に従うことを条
件に必要な自己資本比率の決定を規制対象の金融機関自身に委ねていました。「軽いタッチ」
の規制と呼ばれる、規制対象企業の規範と自己統制に大きく依存する規制制度を採用する法
定規制当局もありました。その結末は、よく言って期待外れ、悪く言えば悲惨なものでした。
このように、市場と企業の自己規制能力に対する根本的な疑念が生じている環境の中で、本
書は自主規制制度を再検討しようとするものです。その中で、国や地域が自主規制制度を採
用し活用する手法を特定し、その長所と短所について論じ、この歴史ある規制手法に新しい生
命を吹き込む手掛かりを考えていきます。
1 効果的な自主規制構造に焦点を当てた理由のひとつは、米国SECによる次の2つの発表に注目したためであ
る。SEC proposed Rule on Fair Administration and Governance of Self-Regulatory Organizations; Disclosure and Regulatory
Reporting by Self-Regulatory Organizations; Recordkeeping Requirements for Self-Regulatory Organizations; Ownership and
Voting Limitations for Members of Self-Regulatory Organizations; Listing and Trading of Affiliated Securities by a SelfRegulatory Organization (Release No.34-50699; File No. S7-39-04)、およびSEC Concept Release Concerning Self-Regulation
(Release No.34-50700; File No. S7-40-04)。
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3
証券市場における自主規制制度
2. SROのガバナンス
第二部では、自主規制制度が成功するためにはどのような仕組みがよいのかを検討し、その
新旧の形態を概観し、現在過渡期にある自主規制の方向性を取り上げます。
SROモデル、成功の鍵
現代の市場において自主規制制度の価値を評価するためには、その活動を取り巻く周囲の情
勢が求めているものに対して、どんな便益を提供しているかという点を見ていかなければなり
ません。今日の状況としては、市場および規制に対して世間一般は懐疑的であること、投資家
が不信感を募らせているという点が挙げられます2。
CFA協会による「世界市場センチメント調査(Global Market Sentiment Survey)」などの市場参加者
のセンチメントに関する研究によれば、金融市場に対する投資家の信頼は過去最低にまで落
ち込んでいます(CFA協会(2012年))。2012年末に実施した CFA協会の調査では、6,783人の回
答者のうち、56%以上が「金融業界の貧弱な倫理文化が、業界に対して投資家が信頼を失った
原因である」と答えています。繰り返されるインサイダー取引、市場操作、企業の強欲さ、不正
行為の発覚、企業幹部に対する業績や収益性を無視した高額報酬制などによって、事態はさ
らに悪化しています。
LIBORのような世界的に重要な制度が貪欲と不正にまみれていると分れば、世界中の投資家
が規制機関の健全性に疑問を持つのは当然でしょう。従って、規制体制の健全性に対する信
頼を再構築し維持することは、今、喫緊の課題なのです。その上、過去数年間に起こった事件
を考えれば、投資家の信認を回復するために、より高い透明性と説明責任が規制当局を含む
市場参加者に求められているのです。
この信用失墜の状況下で自主規制制度が存続するためには、それが信頼出来る公正な手続
きと規範を備えた制度であることを示さなければなりません。また、SECのような主たる法定規
制当局が求めるニーズを満たし、同時に市場のイノベーションを過度に制限するのではなく逆
に支援することによって、自主規制組織が市場に重要な貢献をする存在であることを示さなけ
ればなりません。「今日の証券市場における自主規制制度:時代遅れか発展途上か?」には、
自主規制制度を成功させるために取り組むべき、12のガイドラインが提示されています。このガ
イドラインはSROの有効性を評価する上で現在でも全て適切です。しかし現存する世界中の自
主規制組織を類型化する際には、その中でも特に2つのガイドラインに注目すべきです。
2
自主規制制度の価値に対する懐疑論は金融業界だけにとどまらず論じられている。例えば、Sharek, Schoe, and
Loewenstein (2012年)は「(政策により)個人的に影響を受ける人が中立、公正な政策を立案、評価することは困難
である。利害関係のある問題に対しては、人は自己の個人的利益のためになるような方法を選んで情報処理を
しがちであり、この現象は『動機づけられた推論』として知られている」(2ページ)と述べている。
4
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SROのガバナンス
最初のSRO成功の鍵は、有効な監視、監督、執行力を保持する能力です。活発な監視プログラ
ム、会員企業の疑わしい行為に対する調査方針、適正手続の方法を含めた公平な執行手順を
備えていなければ、SROは投資家、規制当局、市場の信用を失うでしょう。つまり、SROの機能
が有効に働かない、ということになります。
次に同じく重要なポイントとして、方針・規則を定め執行する権限を持っていることが挙げられ
ます。その権限の源泉がどこにあるのかによって、SROに対する認識が左右されます。立法措
置によって設立されるか、もしくは主たる規制当局が公式に認めたSROは、ボランティア組織や
会員向けに業界のガイドラインを提示するだけの団体より大きな影響力を持つでしょう。
権限のタイプを評価するにあたっては、規則制定権限を持つ組織と、会員に対して強制力のあ
る規則や懲戒手順を持たず、権利擁護の役割しか持たない組織を区別しなければなりませ
ん。例えば業界団体は、業界の利益の増進を図り、会員企業に教育リソースを提供するなど会
員向けの活動をしていても、より正式の自主規制力を行使する組織と同等の信頼性は保てま
せん。実際、業界の権利擁護の役割を担っている場合、その組織は「本当の意味での」規制当
局というよりも、むしろ業界団体に過ぎないのではないかという疑念が生じます。相互に関連し
たグローバル市場の中で、その効力を最大限に発揮するためには、自国内の行為を規制する
実権を伴いそれに裏付けされた権威による信頼性を勝ち得ていること、そしてそれが「国外」に
おいてもその信頼性が認められていることが必要です。
加えて、自主規制制度(さらに言えば、あらゆる規制制度)の効用を評価するにあたっては、
「時代を先取りする」ことの重要性を考えなければなりません。自主規制制度の支持者は、規
制を機能させるためには、イノベーションに対する視点を備えた市場の専門家の手を借りて、
事前に規則を制定し監督できるようにしておく必要があると主張しています。しかし、規制当局
が、規制違反に対して事後的に取り締まる例がしばしば見られます
直近の世界金融危機で証明されたように、スピードが速く高度に革新的な証券市場の中では、
規制当局は受身であってはいけません。危機が起こった後に「大掃除」し、規制と現実のギャッ
プを認知するたびに、それを埋めようと新しい規制を次々と実行するようなやり方では、もはや
世界の市場を破綻から守ることはできません。新しい規制をやたらに増やせば、一時的には世
間一般の不安を和らげるかもしれません。しかし規則の多くは直ぐに陳腐化します。変革と技
術が特定の規制の周辺部分に新たな抜け道を作ってしまうことや、特定の規制の対象外とな
るような新商品を開発することがあるからです。
世界の証券市場が直面している大きな課題は、投資家を保護する規制構造とイノベーションと
のバランスを取るということにあります。今日の複雑かつ広範囲な市場では、市場監視のよう
な分野において、“最前線”の規制機関、つまりSROなら応えられるような類の助けが主たる規
制当局に必要です。このような助けがあれば、当該規制当局は、他の差し迫った市場規範の
問題に資源を集中させることが出来るからです。
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5
証券市場における自主規制制度
しかしながら、市場規範を維持し投資家を保護するためには、SROは、規則を制定・執行し会員
企業を監督する権限と、強力な監視を可能とする仕組みを備えておかなければなりません。さ
らに、SRO自身の公正かつ有効な規制能力に対する信頼、および監督対象である市場の規範
に対する信頼を勝ち得なければなりません。とりわけ、これから信用ある規制制度を創ろうとし
ている新興国にとって信頼を勝ち得ることは重要です。
規制構造とイノベーションのバランスをとっていくことに加えて、証券市場自身活発であり続け
るために改革を図っていく必要があり、規制はそのイノベーションを許容しなければなりませ
ん。新商品や新業務に対してより厳しい制限を課すべきか否かを判断するために必要な条件
を理解していることから、SROはその専門知識を生かして市場のイノベーションに貢献できま
す。またこのような専門性は、「時代を先取りする」規制の開発をも促します。SROは主たる規制
当局よりもリスクを良く理解していると思われるため、より早く規則を特定・提案し、危機が生じ
る前に監視を行い安全策を講じることが出来るかもしれません。
世界的に見れば、このようにバランスのとれた活動が行われている国もあり、そこでは良いバ
ランスを保つことが最優先課題になっています。自主規制制度におけるイノベーションも実績を
積みつつあります。自主規制制度は停滞を余儀なくされ信望に大きな痛手を被ることにもなり
ましたが、今こそ金融市場における自主規制制度のコストと便益を検討し、またSROがグロー
バルで活用する新しい可能性を考慮する良いタイミングだと思われます。
自主規制に関する調査:新旧制度
自主規制機関の構成要件を法的または公的に定義付けた国・地域もあるものの、「自主規制
機関」という用語は、国・地域やSROの目的次第で多様な解釈が可能です。SROには、例えば、
法律又は法定規制当局により権限が認可されている機関、自己管理を行いまた会員を対象と
する規則、方針を制定する、事実上の法的権限を持つ会員組織、(業界団体等に見られるよう
な)、会員、時には会員以外の市場参加者に対する助言、教育機能を担うなどする非公式、独
自の会員組織、自主規制機能の一部を担う疑似政府機関、などがあります。
6
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SROのガバナンス
SROの構成を決定づける要因
規制権限
■
権限の源泉
■
権限の及ぶ領域
■
権限の範囲
■
運営費用の調達
説明責任
■
特有の利益相反の管理
■
透明性
■
責務
■
デュープロセス
執行領域
■
権限の及ぶ範囲
■
執行方法
制度の歴史
■
運用面の進歩
■
認知されている便益
■
認知されている弱点
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7
証券市場における自主規制制度
例外はありますが、本書において、SROという略称は、主に法や規則によって認可された公的
自主規制機関の意味で使っています。このような定義は、市場や実務の変化に伴って、長い間
に変化してきました。例えば証券取引所は、法律によりSROとして、あるいは一定の自主規制
機能を担うものと通常は考えられています。しかし、過去10年間で多くの取引所が株式会社化
したため、その伝統的なSRO機能と、変質した実態との境界線があいまいになっています。株
式会社化と併せ、代替的取引システムの登場や業務の変化により、自主規制をきちんと議論
すべき境界がどんどん拡大してしまいました。そのため、取引所は多くの国で重要な自主規制
の役割を担っているものの、本書では主要な検討対象にはしません。
本書では、いろいろな国や地域における自主規制制度の活用状況と、そこで想定されているそ
の形態の評価に重点を置きます。さまざまな自主規制制度がある中で、ある特定のSROの立ち
位置を決める最重要要素は、おおむね以下のとおりです。すなわち、(1)規制権限、(2)法により
課されている説明責任、(3)執行領域、(4)発展の歴史、の4点となります。以後、その各要素に
ついて検討します。
規制権限
SROの性質を評価するためには、まずその権限の源泉をチェックすることが重要です。
■
権限の源泉:米国やカナダのSROのように、法令による認可、または法定規制当局
のような公的承認ルートから権限を認められているSROがあります。また根拠法は
存在しないものの、主たる立法府を信用すべき後ろ盾として認知されている場合3も
あります。
■
権限の及ぶ領域:SROは最前線の規制機関と位置づけられることが多く、自主規制
制度の利点のひとつといえます。その場合、主たる規制当局による事前審査がある
としても、SROは規則の制定、執行権限を持つなど、かなり独立して運営されていま
す。このような権限を有する組織は、規制当局から指示を受けて市場の決められた
分野を監督するだけの組織とは異なります。
■
権限の範囲:SROの権限と密接な関係がありますが、SROは広範な役割を果たすこ
とが期待されています。SROの中には、規則制定の役割の他に、限定的ながら違反
会員に対する懲戒権限-例えば、強制的措置の発動、事情聴取、除名などの懲戒
権限-や市場監視の実施権限などを持っている機関もあります。
■
運営費用の調達:規制対象である会員が運営費用を負担しているようなSROの場合、
明らかに利益相反が生じます。大手会員への制裁や、代表者がSROの役員を務めて
いるような会員を調査する場合、意識的か無意識かに関わらず、その権限執行の在り
3
8
このタイプのSROの例として、ルーマニアの株式仲買人協会がある。
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SROのガバナンス
方に何等かの影響があり得ます。外部資金で運営されている場合には、このような危
険性は低下します。
説明責任
自主規制制度に内在する利益相反を考慮すれば、信頼されるSROであるためにはその運営の
ための方針と手続き(ガバナンスなど)を備えていなければなりません。適切なガバナンスの仕
組みが無ければ、SROは投資家からの信頼を得られないばかりか、市場からもその権限が疑
問視されます。「今日の証券市場における自主規制制度:時代遅れか発展途上か?」(CFA協
会(2007年))で指摘したように、有効な自主規制制度で最も重要なことは市場の規範と効率の
バランスを取ることです。
■
特有な利益相反の管理:ここ10年間に起こった取引所の株式会社化により、規制部門
と収益事業をいかにして協働させるのか、という問題に関心が集まっています。取引
所の多くは、機能ごとに異なる組織に分離することにより、この問題に取組んでいま
す。利益相反を管理する手続きとしてSROが備えるべき質と完成度が、尊重に値する
権威として有効であるかどうかの鍵となります。
■
透明性:役員選出、規則制定、懲戒/処分プログラムの運営、紛争処理などにおける
手続きの明瞭性、透明性等、はSROの信頼性に直結します。特に、運営費用調達の透
明性、利益相反の管理手続き、懲戒決議の方法やその根拠は、公開されていなけれ
ばなりません。
■
法的責務;SROが規則制定・執行権限を持つ場合、その権限の範囲が明瞭であるとと
もに、首尾一貫して適用されなければなりません。市場参加者はSROに対する紛争処
理の申請方法を知っている必要があります。そこにはSROに法的責務があるのか(あ
る場合その範囲はどこまでか)、自身の過失や不正行為に対する訴追免除権を持つ
か、というような問題が含まれます。
■
デュープロセス:自主規制の枠組みにおけるデュープロセスを検討するにあたっては、
利害関係者と業界からの意見聴取手続きと、違反行為に対して懲罰を行う際の弁護
手続きの両方が含まれます。さらに、規則の最終決定前に、SROがあらかじめパブリッ
クコメントを受け入れる機会を設けその意見を検討するならば、SROの規則制定権限
に対する信頼性は高まります。SROは、そのような紛争処理手続き、特に懲罰を受け
る人に対する処罰の通知方法、「自身について抗弁する」際の手順、上訴権などにつ
いて評価を受けます。
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証券市場における自主規制制度
執行領域
ある組織を最前線の規制当局としてみるのか、それとも単なる業界団体のようなものだと判断
するかにおいて、執行権限を外して考えることはできません。SROが持つ執行権限には、通
常、認可に関する独自規則制定権限と、規則違反をした法人・個人に対する科料権限がありま
す。しかし、法人・個人に刑事罰を科すような裁判手段や権限をSROが持っていることは稀で
す。その執行権限と執行方法のいずれも、自主規制制度全体の中でその組織が担っている役
割と関係しています。
制度の歴史
自主規制制度の発展動向を見る場合、いろいろな国がどう規制に取り組んできたのか、その
歴史を改めて辿ってみることは参考になります。自主規制制度を擁する国の中で、制度を廃止
した国はほとんどありませんが、歴史的に変化を遂げていく中で、自主規制制度の有効性に疑
問を呈した国もあります。反対に、自らのアプローチにおける利点を認知してそれを重視する国
もあります。
例えば米国では、主たる規制当局(および他の行政機関)が、圧倒されるほど増え続ける仕事
量を最早処理出来なくなり、この(米国という)「行政国家」が変質した、と言われています。
1950-60年代以降、主たる規制当局は、業界の変化に対応し、また膨大な仕事を処理するため
に、SROを含む自主管理団体に権限の一部を委託せざるを得なくなりました。
この変化の好例が、SECが多くの監督機能、規則制定機能をFINRA(Financial
Industry Regulatory Authority、金融取引業規制機構)に委任・依存していることです4。しかしこの
ような「業務の押付け」が増加すると、SROの方も民間業界団体の助けに頼らなければならなく
なります(Bullard (2011年))。このようにして自主規制制度に新たな階層が生まれます。この新
しい階層をどのように組織し統治するのか、また、この階層は法により承認されるのかそれとも
現存のSROの補完的な「下請け」に留まるのか、ということが今後の課題になるでしょう。
自主規制制度は規制監督の手法として望ましいという考えを、CFA協会は長年支持して来まし
た。CFA協会のフィナンシャル・ニュースブリーフが明らかにした2013年5月2日に実施したアンケ
ート調査(回答投資家数653)によれば、「今日の証券金融市場において、自主規制制度は有
用である」という見方で、過半数の投資家の意見が一致しました。約60%がこの見方に賛成し、
残り約40%が反対、という結果となりました。
4
FINRAは、NASD(全米証券業協会)を前身とし、NASDと、NYSE(ニューヨーク証券取引所)の会員規制部門であ
るNYSE-Rとの合併により、2007年に設立された。
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SROのガバナンス
それにも拘わらず、かくも反対意見が多いことは、自主規制制度の妥当性や効用に対する世
間一般の疑念を代弁している、という点で重要です。また、実際に何が「自主規制制度」を構成
するのか、ということについて混乱があることも分りました。
本書の後段では、自主規制制度の有効性に対して今なお抱かれている疑念に注目し、SROの
活用に関する最近の動向に触れ、権限の境界を超えるような形での自主規制制度の活用を提
言します。以降取り上げる内容には、完全ではありませんが、世界中のいろいろな国・地域の
規制当局や市場参加者への調査、アンケート、面談によって得られた情報が反映されていま
す。
過渡期にある自主規制制度
多くの国・地域で、市場規模がある臨界点を超えるに従い、より自主規制という方法を採用す
る傾向が見えるようです5。とりわけ、証券取引の量的な拡大や複雑化を経験してきただけに、
先進国市場こそが、その監視役として真っ先にSROを活用する候補となってきました。そのよう
な市場に対する監視は、他では不足しがちな専門知識を備えているSROでなければできない
からです。その場合、規制監督面のみならず、イノベーションを促進するために必要な投資家
からの信頼性向上という意味においても、SROは重要な役割を担っています。
しかしながら、このような新制度の採用には、金融危機のような、何らかのきっかけが必要であ
ることが少なくありません。実際、新しい管理体制や規制方法採用の動きは、危機後の対応と
して生じることが普通です。例えば、2002年のサーベンス・オクスリー法にしても、その8年後の
ドッド・フランク法にしても、米国の金融経済状況の著しい変化に対応し成立しました。ところ
が、新しい規則が、金融危機に対して必要であり、あるいは適切な対応であると考える人ばか
りではありません。(不十分な規制を是正するのではなく)「悪い」規制を修正することがはたし
て適切な対応なのか、と疑う人もいます6。
現行の自主規制制度に対する批判がある一方、SROの適切な活用を主張する意見も存在しま
す。自主規制制度に対する反対意見と全く同じ論拠を用い、自主規制制度に賛成する意見も
あります。例えば、複雑な商品・取引手法が増加する市場におけるSROの活用を疑問視する論
者もいますが、逆に商品や取引手法が複雑だからこそSROを活用すべきなのだと強く主張する
人もいるのです。そのような論者は、SROが専門的な知見を提供することで、現在の市場実
務、意味のある規則設定、監督対象である市場に見合った効果的な監視への理解を高めるこ
5 「新興国における金融自主規制の役割(Bossone and Promisel (2000年))」からの以下の引用を参照。「そうであ
っても、新興国の金融自主規制は、効率性と安定性のトレードオフ・バランスを改善できている。SROのメンバー
には知識・経験、経済的利益があるので、ビジネス実務に合う規則の設計、技術進歩に合わせた作業工程や事
業基盤の維持、ビジネス水準の改善が政府の役人より得意だからである」。新興国市場における自主規制制度
利用の可能性に関する議論としては、Carson(2011年)を参照。
6 例えば、Rouch(2010年)は「介入主義的な、規則をベースにした改革戦略よりも、市場参加者による効果的な基
準設定を育み、また可能である限りそれを信頼するような、明確で首尾一貫した公的責任のニーズが、果たして
本当にあるのか」(2ページ)と疑問視している。
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証券市場における自主規制制度
とになるのだと論じています。SROが資源を提供することで規制当局の資源に関する制約を弱
めることと合わせ、SROは最前線の規制課題への取り組みに専門知識を発揮できます。
金融市場における主たる規制当局の最大の役割は、間違いなく、市場構造とイノベーションの
ことを考え広く包括的な投資家保護の強化に力を注ぎ、公平で効率的な市場の形成を推進す
ることです。しかしながら、このような大局的な施策に取り組むためには、規制当局は一定の最
前線の規制機能を、信頼できる機関に委任できなければなりません。さもなければ、時間がか
かるばかりで切実でも有意義でも無さそうな活動に主たる規制当局が囚われかねません。主
たる規制当局が、苦情や紛争処理、コンプライアンス問題、証券取引業者の登録・監督、市場
取引の監視などの活動にその限られた力量を投入すれば、リスク、競争、透明性などの制度
全体の問題に焦点を当てる余裕が無くなりかねません。
また規制当局は、イノベーションを先取りするという、かつてない難問に直面しています。新しい
金融商品、業務、取引システムの登場により、規制当局は「伝統的な」証券市場の世界を超え
た対応を迫られているのです。
この難問に加えて、技術進歩により、新しい商品や取引システムの取引実態を単に把握する
だけであっても、専門的な知見が必要になってきました。このような市場を自ら効果的にチェッ
クするよう資源に限りある主たる規制当局に求めることは、良く言って楽観的、悪く言えば非現
実的です。
要約すると、直近の金融危機は、クレジット・デフォルト・スワップやその他のレバレッジを効か
せたデリバティブ商品のような複雑な取引手法、商品が大きな原因であるからこそ、そのような
商品の構造や潜在的リスクを理解している人が規制(規則制定と市場監視の両方)を担当する
必要性が高まっている、といえるのです。
12
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SROを巡る世界の動き
3. SROを巡る世界の動き
CFA協会では、北米およびその他世界中の地域から選定した数カ国を対象に自主規制機関の
活用状況に関する調査を実施しましたが、本節ではその結果を示します。
北米
北米には、世界で最も整備されたSROの制度が存在します。米国とカナダの両国には、法律に
基づく、もしくは規制当局から公式に認可された自主規制制度が存在します。どちらの場合も、
SROは法定の規制当局の監督を受け、規則の制定と執行、会員企業に対する懲罰、および市
場活動の監視に関わることが認められています。
米国
「今日の証券市場における自主規制制度(CFA協会(2007年発行)」(“SelfRegulation in Today’s Securities Markets”)で論じられたように、米国における自主規制制度は法律
で認可されており、1934年証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934)制定以来ほとんど変更
がありません。同法によると、設立済みのSROには新しい規則や規制を提案する権限が与えら
れていますが、そのためには最初に主たる規制当局であるSECに認可を求めて提出すること
が前提となります。SECは、最近この手続きを「定例の」届出として簡素化する措置を執りまし
た。
2004年には、証券取引所の株式会社化とその結果新たに生じた利益相反を踏まえて、SECは
SRO制度に関連する一連の問題についてパブリックコメントを募集しました。その提案では、特
に、自主規制団体に係るガバナンス、開示、報告、所有、そして議決の要件を改革する可能性
についての検討するようが求められました7。続いて、SECは規則提案とともに、内在する利益
相反、非効率性、市場全体の監視に関する課題、そして、SROがどのように収益を得て規制業
務を賄っているかなどSRO内部で認識された不備の解決策を模索することに論点を絞った「コ
ンセプトリリース(討議用文書))を発表しました8。
ただし、評論家や業界の専門家、そしてSECが改善の必要性を訴え続けていますが、今日に至
るまで、SRO制度に対する実質的な規制変更はなされていません。
自主規制制度の根幹には、市場参加者は制約の多い監督や政府による監督を回避しようとい
う自らの利益と、より有効で柔軟な規制を求める公益を一致させるように行動するものだという
7 SEC は、自主規制機関の公正な運営とガバナンスに関するルール、自主規制組織による開示と規制当局への
報告、自主規制組織に関する取引記録義務、自主規制組織の会員に関する所有と議決権制限、自主規制組織
による関連証券の上場と取引を提言している(Release No. 34-50699; File No. S7-40-04を参照)。
8 SEC Concept Release Concerning Self-regulation (Release No. 34-50700; File No. S7-40-04)を参照。
©2013 CFA Institute
13
証券市場における自主規制制度
認識があります。ところが、昨今の金融危機がこの認識に対する疑問や自主規制の有効性に
対する新たな疑念を生み出しました。
アラン・グリーンスパン元米国連邦準備制度理事会議長は、規制に市場規律をもって臨むアプ
ローチ、つまり、公共と民間の利害一致を期待するミクロレベルの自主規制の第一人者です。
ところが、同氏は、2008年に議会の監査委員会で証言を求められた際に以下の発言をしていま
す。「金融機関自身の利益が株主の権利保護につながっていると考えていた者たちは、私自
身も含めて、ショックで何も信じられないような状態に陥った」(Andrews (2008年))。
同氏だけではありません。2011年の報告書で、ボストンコンサルティンググループ9は 、「結局
のところ、自主規制は、本当の意味での規制ではない。自主規制は、うまくいっても政府の規
制ほど有効でなく、悪くすれば、政府による監視の必要性を避けるための「幻影」にすぎない」
(25ページ)と主張しています。
さらに、米国商務省(2011年)が公表した報告書でも、SROの活用を巡って同様の懸念が繰り返
されています。
資本市場の働きに対して途方もない影響力を持っているにも拘わらず、これらの組織
には、総じて、政府機関を縛っているような伝統的な相互牽制がほとんど働いていな
い。すなわち、そのような組織は、ガバナンス、運営の透明性、意思決定のための実質
的な手続の基準、そして、市場参加者がその決定に対して異を唱えることも許容するく
らいメリハリの利いたデュープロセスの仕組みなど重要な要素を欠いているか、大幅に
不足している・・・(5ページ)
ここ数十年の間に非政府系組織の影響が劇的に増大しているが、会員企業に対する
説明責任の水準はその影響力に見合ったものではない。その規則は、政府機関と同じ
くらい資本市場に影響を及ぼすが、APA(行政手続法)10 、議会の予算制定手続きやそ
の他の同等の権力に対する牽制機能によって等しく縛られているわけではない・・・問
題にされることもほとんどチェックを受けることもないため、そうした組織の影響力は、
活発な資本市場の発展を大きく阻害する要因となりえる(21ページ)。
さらに、一部の規制当局は、今日の市場における自主規制制度が証券市場を取り巻く
状況の変化に対応できているのか懸念を表明しています。ダニエル・ガラガー
(Daniel Gallagher)新SECコミッショナーは、2012年に行った講演の中で、米国に自主規制制度が
生れたときの状況とは非常に異なる環境下でその制度を活用することに強い疑問を呈しまし
9
同報告書は、ドット・フランク法によりSECにその組織と運営について精査を行う指示がなされた後作成され、そ
こではSECとSROの関係についての評価も含まれている。
10
とりわけ、APAは、米国の行政機関による規制の策定方法、当該機関が開示すべき情報、連邦裁判所による
行政機関の決定の審査方法等を定めている。
14
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SROを巡る世界の動き
た。ガラガー氏は、金融市場における自主規制制度の元々の着想が、1792年のすずかけ協定
(Buttonwood Agreement)を起源とする「民間の相互組織で、自己規制に基づく取引所とディーラ
ーの簡素な団体」(ガラガー(2012年)) であった点を踏まえて、ガラガー氏は、現在の金融市場
の根本をなすものが、簡素で共通の基盤にたった規制制度として発足したものから著しくかけ
離れてしまっていると主張しています。同氏は、投資商品の複雑性、トレーディング技術(例え
ば、ダークプールや高頻度取引、代替的取引システム)、テクノロジー、地理的な広がりや地球
規模での相互連関性によって、自主規制が機能していた時から、金融市場を取り巻く環境が激
変したことを指摘しています。ガラガー氏は今日の金融市場を、「株式会社化して営利を求める
取引所にコンピューターが結びつき、グローバル化の要素も絡み、マイクロ秒単位のスピード
で小数点レベルの値動きを捉えて取引するためのアルゴリズムが駆使される、かくも理解を超
えて変化した」と特徴付けています。同氏は、「これまでの数十年間、もはや存在しない状況を
前提として自主規制のフレームワークを、しかも市場構造の至るところまで浸透するようなフレ
ームワークを築いてきた」と述べています。米国における自主規制制度と市場構造の再検討を
求めながら、同氏は、単刀直入に、取引所がSROのまま運営すべきか否か、そして、規制上の
責任の多くを他のSROに委託する現状のアプローチが自主規制の根本原則を見失っているの
ではないか、問いかけています。
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15
証券市場における自主規制制度
CBOEの失策
SROが会員を監督するうえで、内在する利益相反を管理できるのかという議論がありますが、
2013年6月、この論争を再燃させた印象的な出来事がありました、SECがシカゴ・オプション取引
所(CBOE)に対して600万ドルの制裁金を課したのです。罰金の根拠となった事実は、CBOEが
会員企業との利益相反に関する取締りと統制を怠ったこと、本件に関するSECによる調査の妨
害をしたこと、不十分な監視業務/プログラムを放置しておいたことというものでした。SECは、
CBOEとその関連会社に対して、「SROとしての規制・コンプライアンスに関する機能にさまざま
な制度的欠陥が存在していたこと、とりわけ悪質な空売りを防ぐための規則を遵守させるどこ
ろか、そのことを十分に理解もしていなかった点」を取り上げて告発に至ったのです。このよう
に規制監督の不備をもって取引所に罰金を課したのはSECとしても初めてのことでした。
その存在感と規模ゆえに、嫌疑を受けたCBOEの失策は、SROの権能、とくに会員に対する監
視に関して深刻な疑義を呼び起こしました。「市場に対する適切な規制は、会員企業の監視な
らびに、証券法と同様にその規則を遵守させるような対策をSROが積極的に講じていることが
前提となる。」と語るのは、SEC法執行部の共同ディレクターであるアンドリュー・J・セレズネイ
(Andrew J. Ceresney)氏です。とりわけSECが関心を寄せた点は、CBOEが会員の活動に対する
適正な監督に失敗しただけでなく、さらに捜査を受けていた会員を幇助したこと、しかも不正確
で誤解を招くような情報を与えて会員の回答に影響を及ぼしたことです。
このような特定の会員に対する目に余る振る舞いに加えて、SECがその命令の中で指摘した点
は、2008年から2012年にかけて発生したCBOEの規制上とコンプライアンス上のその他の欠陥
であり、そこには一部の特定会員に対する不正な便宜の供与、特定の注文や取引のための確
定気配値や優先付ルールの不適切な適用、自己勘定取引会員に関連する人員の登録要件を
巡る不備も含まれています。そして、SROの規則制定のために付与された法的要件から逸脱し
て、CBOEはSECへの規則案届出を行う前に取引所の取引機能の変更を行っていました。
理由は異なりますが、SROに対するガラガー氏の批判と同様の発言は、別のSECコミッショナー
からも繰り返しなされています。ルイス・アギラール(Luis Aguilar)コミッショナーは2013年5月8日
の講演の中で、SROに内在する利益相反とSECが監督を強化する必要性について自身の見解
を述べました。とりわけ、同氏が指摘したのは、昨今多くの取引所を運営するSROが、ブローカ
ー・ディーラー仲間内のネットワークや海外の取引市場などとの競争激化に直面している点で
す。取引所は昨今より多くの注文を取込もうとする圧力に直面しているため、その自主規制部
門に対して、執行措置を講じる際に特定の会員や発行体、株主に対して便宜を図るようと圧力
をかける可能性があり、自らの会員を規制するSROの能力に懸念を生じさせています。同氏は
その一例として、特定会員を取引上優遇した点に法令違反があったとして、2012年にSECがニ
16
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SROを巡る世界の動き
ューヨーク取引所(NYSE)に500万ドルの罰金を課した事件を挙げました11。これは、SECが取引
所に金銭的なペナルティを課した初めてのケースです(2013年8月)。
2011年の報告書で、ボストンコンサルティンググループは米国のSRO制度について改善の必要
性がある3つの分野を指摘しました。それは、SROに対する監視の強化、SRO間の相互関係に
対する取り組みの集中化と調整、SRO規則提案手続きの強化です(ボストンコンサルティンググ
ループ、2011年参照)。
SROを巡る別の懸念は、SECのスタッフが示しているとおり、「業界との癒着」に陥りやすい点で
す。投資顧問業者に対する検査をFINRAや別のSROに外部委託することの実現可能性につい
て投資管理局が調査を実施しましたが、その報告書の中で、同局職員は以下のように記して
います。
複合的なSROは専門性を集約し業種的分散をよりよく図ることができるが、個別業界団
体からSRO職員が派遣されていて奉職後に戻っていくという関係もあって、業界団体と
SROとの「癒着」につながる可能性も高くなる。単独SROでさえ監視対象である業界から
出資を受けているだけでなく、そのガバナンス構造の中に業界の代表を受け入れてお
り、独立した政府の規制機関とは異なる業界との関係を持っているため、一層業界と
の癒着に陥りやすい体質となる可能性がある。(SEC投資管理局(2011年)、33ページ)
取引所に加えて、二つのSRO、FINRAと全米先物協会(the National Futures Association:NFA)は、
「民営」SROと見なされていますが、もっぱらその会員による出資を受けています。ところが、そ
れらのSROが通常は政府機関に用意されている特権を利用しているケースも見られています。
SECの前コミッショナーであるロバータ・カーメル(Roberta Karmel)氏が述べたように、SROは「民
間部門の自主規制と委任された政府規制の奇妙な組み合わせ」になっているのです(Karmel
(2008年)、1ページ)。この組み合わせは、ガバナンスとデュープロセス問題について疑問を招
いています。
■
FINRA. SECの監督下にあるSROの中で最大の組織であり、その任務は拡大され、多く
の取引所が市場監督をFINRAに委託しています。恐らく、その規模、範囲、知名度、そ
して幹部報酬の財源規模などから見て、FINRAはSRO制度全般に向けられた多くの疑
問が集中するひとつの標的であり、避雷針のような存在です。特に、いわゆる民間
SROに関連する批判を一身に受けています12。
11 違反の中では主に、NYSEは、「不当差別禁止」および「公正かつ合理的」基準に抵触して、データ集約の前に
自己取引顧客に対して継続的にデータを提供していたとされた。www.sec.gov/litigation/admin/2012/34-67857 を参
照。
12
SECの論文“The Institution of Experience:Self-regulatory Organizations in the Securities Industry, 1792–2010”の注記121
は、「設立後3年が経ち、FINRAは証券市場に対して先例のない権限を有するようになり、200年以上に及ぶ自主
規制の組織的経験を活用してきた」と述べている。
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17
証券市場における自主規制制度
最近、SECコミッショナーの少なくとも一人が、米国のSRO制度におけるFINRAの役割に
ついて、「SECの代理」になるのか、引き受ける追加的な責務が、その「中核的な責務」
の執行を弱体化させるのか、その「疑似政府的な立場」に基づく免責の享受が妥当な
のか、という疑問を呈しました13。
その活動範囲のため、FINRAは主たる規制当局、つまりこの場合はSECに対する義務
を果たしつつ、SROにその会員への対応をそのまま任せるような、両者の間の適切な
バランスを確保できるかという問題を浮き彫りにしています。これらの諸問題は、次の
いくつかに分類されます。FINRAの国家主権による免責特権を主張する権利、捜査対
象者には憲法修正第5条に基づく自己負罪拒否の特権を主張できないことを含むデュ
ープロセス、潜在的な利益相反、そして強制的仲裁への関与です。(Karmel(2008年))14
▲ 国家主権による免責特権:一方で、民間の会員組織と同様に、FINRAには会員を
取り締まる際の召喚権限はなく、情報自由法(Freedom of Information Act:FOIA)
の要請に基づく情報公開の対象でもありません。他方では、時に疑似政府機関の
ように活動しています。例えば、SECと同様に、FINRAは国家主権による免責を請
求することができます。15
国家主権による免責特権は、連邦政府や州政府を訴追から保護しますが、通常、
非政府組織にまで保護はおよびません。政府機関としての特定義務(FOIA要請へ
の対応)の履行を求められないまま、政府機関としての保護(主権免責)をFINRA
が主張できるということは、どのように規制当局として活動していくのか、また、市
場の規範に関する世間一般の考え方とどう折り合いをつけていくのか疑問を生じ
させます。
▲ 自己負罪拒否特権の否認:もう一つの例外として、FINRAは会員が米国憲法修正
第5条に基づく保護を主張することを認めていません。さらに、会員を告訴するた
めに収集した情報を外部に伝達する権限を有しています。例えば、FINRAの規則
は、FINRAが会員に対して実施している調査に協力するよう求めています。しか
も、他の連邦機関や捜査中の規制当局との間で情報共有することを認めているの
13 ガラガーコミッショナーは「SRO形態をとらない取引所が今後も従来の疑似政府的地位に基づく免責を享受す
る(べきである)」のかどうかという疑問まで呈した(Gallagher (2012年))。
14 Irwin, Lane, Mendelson, and Tighe (2012年)は、FINRAのガバナンス構造と透明性の欠如に関する数々の疑問を呈
した。
15 “Brief of Amici Curiae Public Citizen, Consumer Action, Project on Government Over¬sight, and U.S. PIRG in Support of
Petition for a Writ of Certiorari” to the U.S. Supreme Court regarding Standard Investment Chartered, Inc. v. National
Association of Securities Dealers et al. (October (2011年))に記載されているように、 「国家主権による免責特権を
SROにまで拡大することは...奇妙な結果をもたらしている、つまり連邦および州政府を正当化している民主的
な説明責任を欠いている会社組織が、民主的な手続きにおける監視において、実際の政府と同じような保護を
受けることが可能であるという点である」 (5ページ).
18
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SROを巡る世界の動き
です。FINRAの会員にはそのような捜査中に証言を強要することが可能になって
います、たとえ「民間」のFINRAの調査で収集された情報が、後に「公的」政府系機
関や連邦当局の求めによって当該活動を行った会員に対して使用されるとしても
です。対照的に、その同じ個人が政府による訴追における証言に対して憲法で保
障された権利を有しています。FINRAの会員が捜査での協力や制裁を受ける危険
を伴うことを強いられる(つまり、自己負罪に関する憲法上の権利を失うことが求
められる)ことは、デュープロセス上の疑義を提起しています16。
▲ 規則提案へのフィードバック:FINRAは、その規則制定機能に関して時折り生じる
もう一つのデュープロセス上の懸念に対処する措置を講じているようです。SECと
同様に、FINRAは、提案を採択し実施する前の粗雑なコストベネフィット分析を巡っ
て批判を受けており、リチャード・ケッチャム (Richard Ketchum)FINRA会長は、そ
れを将来は変更すると述べています (Paraskeva (2012年))。ケッチャム会長は次
のようにも述べています。 我々には、自分たちが考えている規則制定に関してさら
に透明性を高めるため、プロセスの初期段階で広く働きかける義務がある。つま
り、コスト、規則の代替策、そして代替策に満足できない場合の理由をも考慮しな
ければならないということである17。
▲ 利益相反:潜在的な利益相反に関する懸念が提起されているFINRA業務の3つめ
は、投資先の業界に対する監督に関する問題です18。特に、FINRA理事会を構成
する21人の理事のうち10人はSROが規制する業界で活動しています。こうした理
事は少数派ですが、業界の代表者が多く理事となっていることにより、理事会の決
定の独立性と規制当局が講じる規制措置に対する認識は影響を受けることになり
ます。FINRAの投資活動や、会員の多くが二重登録されているブローカー・ディー
ラーをFINRAが監視する一方で、自ら証券市場に投資しているという事実に対する
懸念も存在します(Irwin, Lane,Mendelson, and Tighe(2012年))。例えば、2007年
にオークション・レート証券(ARS)の持ち分を売却し、2008年の年次報告でARS市
場の崩壊を指摘していたのに、FINRAは市場が崩壊していくときに投資家に対して
16 FINRAは市場に大きな影響を与える規則を策定しているにも拘わらず、「APA、議会承認手続き、あるいはその
権限に関する同等のチェックに拘束されていない...非政府の政策立案者は政府機関に求められるレベルと
同等かそれ以上の規制当局のデュープロセス基準を採用しなければならない...政府が明示的あるいは暗黙
的に規制権限を委譲するのであれば、SROおよび他の非政府組織に対して、行政手続法(APA)または同等のデ
ュープロセスと透明性義務を課さなければならない」(Ryan (2011), 5–6ページ).
17
http://blogs.reuters.com/financial-regulatory-forum/2012/10/09/u-s-self-regulatory-bodies-move-toward
-cost-benefit-analysis/ 参照。
18 2012年5月29日付の下院金融サービス委員会宛ての書簡の中で、政府監視プロジェクト(POGO)は、責任ある
政治センターの情報として、FINRAが2008年から2011年の間ロビー活動に約400万ドルを費やしたと指摘してい
る。このようにFINRAに利益相反が見られやすいことで、報酬の問題をも提起する。FINRAは、幹部に対する高額
報酬で話題になっている。POGOは、FINRAにおける幹部選任のプロセスを「近親相姦的」と呼んでいる。
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19
証券市場における自主規制制度
十分な警告を発しなかったとして批判されました19。
▲ 強制仲裁:注目すべき最後の分野は、FINRAによる強制仲裁です。SROが紛争を
解決するために用いる方法は、何が公平で信頼できるかを判断する指標を定める
ためには重要です。その指標を評価する際にしばしば使われる基準は、手続きが
被疑者に対して、「法廷で意見を陳述する機会」を与えるか否かです。業界で営業
していくために、ブローカー・ディーラーはFINRAの会員にならなければなりませ
ん。入会するにあたり、会員は、顧客との紛争事項で強制仲裁に同意することが
求められます。FINRAの2011年年次報告によれば、FINRAは、仲裁や調停手続き
など紛争解決のための手数料収入を得ています が、このことは潜在的な「囚われ
の聴衆」問題を惹起します(米商務省 (2011年))20。従って、FINRAが使用する強
制仲裁条項は、その会員から公正な手続きを取り上げていないかどうかという問
題を提起します。強制仲裁手続きを廃止こそしませんが、FINRAは、仲裁手続きに
関するいくつかの苦情に取り組むべく前進を図っています。2012年の初め、FINRA
は顧客との仲裁のための「全面公開」の選択肢を導入しました。その制度は、投資
家が特定のケースで全面公開パネルの利用を選択できるというものです。また201
3年4月、FINRAの理事会は、投資家が全面公開パネルを以前よりももっと容易に
選択できるよう手続きの簡素化を図るべく仲裁ルールの変更を承認しました21。
■
NFA:全米先物協会は、米国におけるもう一つの民間の(取引所ではない)SROです。
同協会は、主にデリバティブ業界を監督しており、2010年のドッド・フランク法施行後、
その権限は拡大され、OTCデリバティブスワップ市場から取引所外での小口の外国為
替取引ならびに上場先物取引の監督にまで及んでいます。NFAの活動資金は会員か
らの会費と定率会費のみで賄われています。米国先物取引所や取引所外の小口の
19
POGOが2010年2月2日付けで下院金融サービス委員会、下院政府の監督と改革委員会、上院銀行・住宅と
都市委員会、上院金融委員会に宛てた書簡で、FINRAはオークション・レート証券について2007年に自らの保有
分を売却した際に公に注意の喚起をしなかったと主張した。FINRAは2008年の年次報告書で同市場の崩壊を説
明したが、ここでも2007年に保有分を売却したことに言及しなかった(2-3ページ)。
20 米国下院の報告では、政府機関と同様に非政府機関について明確な基準を持つよう求めているが、それは、
(1) 政策決定の判断根拠としての実効性ある基準あるいは方針、(2) 政策決定活動を行うにあたって従うべき手
続基準、そして (3) 民間機関が判断に対して異議申し立てできるようなデュープロセスである。当該報告は、また
仲裁による苦情申し立者の損害回復は50%以下であること、このことが苦情申し立てを思い止まらせるような潜
在的要因になっていると指摘している。
21 しかし、SECコミッショナーのアギラール氏が投資家の選択を支持する必要性を述べ、強制仲裁による合意を
止めさせることを意図したSECによる見直しを要求した2013年に行った演説を参照(www.sec. gov/news/
speech/2013/spch041613laa.htm)。興味深い展開としては、米国地方裁判所は最近、FOIAの下では、FINRAの仲裁
制度の「監査、検査および審査」に関して文書を作成する必然性はないとの判断を示した。裁判所は、文書が
「SECにより、またはその代理として、またはその使用に供するために作成される試験、業務または条件の報告
であるため、免除条項8が文書の開示を不要にしていることが理由であるとしている。Public Investors Arbitration Bar
Association v. SEC, D.D.C., Civil Action No. 11-2285 (BAH), 14 March 2013 参照。
20
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SROを巡る世界の動き
外国為替取引市場で不特定多数と取引を行う場合、スワップディーラーや大手スワッ
プ取引参加者に対して入会が義務づけられています。
FINRAと同様、NFAは会員向けの行為規則を持ち、会員に対する試験を実施しており、規則違
反の会員を懲戒するための強制行動をとる権限を有しています。また、市場の監視も実施して
います。そして、FINRAと同様にNFAも仲裁手続きを含むさまざまなSRO機能に対して批判を浴
びています。例えば、複数の議員に宛て
た2013年7月23日付レターで、米国政府監督プロジェクト(Project on
Government Oversight:POGO)は、議会に対して、米商品先物取引委員会(the Commodity Futures
Trading Commission:CFTC)のNFAおよびその他のSROに対する依存度を軽減するように求めて
います。その論拠は、NFAが「本来的に利益相反が存在する」という点です。とりわけ、レターが
主張しているのは、監視している企業からの拠出を受けているためにNFAのような団体が相反
しているという点だけでなく、政府機関と同程度の倫理性や透明性基準に拘束されていないた
め説明責任に欠けるという点です22。
カナダ
カナダには、2つの国立SRO、カナダ投資業規制機構(the Investment Industry Regulatory
Organization of Canada:IIROC)およびカナダ・ミューチュアル・ファンド・ディーラー協会(the Mutual
Fund Dealers Association of Canada)が存在しています。
■
カナダ投資業規制機構:IIROC(カナダ証券業協会 the Investment Dealers Association
of Canadaと市場規制サービス、Market Regulation Servicesが2008年に合併して誕生)
は、証券会社を監督し、証券取引所の規則を執行しています。また、IIROCは、「証券
会社の能力、事業と金融行為および登録社員に関する規則の制定と執行、および
カナダの株式市場での取引活動に関する市場規律規則の制定」に関与しています
23
。とりわけ、IIROCは、規則を制定し、IIROCの規制対象企業に雇用されたアドバイザ
ーを審査し、金融、事業、取引活動に係るコンプライアンス調査を実施し、(制裁を課
すことを含め)証券会社や市場での不正行為を調査し、カナダ株式市場全体に対す
る市場監視を遂行しています。会費収入により資金を得ていますので、この組織が
直接ロビー活動を行うことはありません。
証券業務が州ごとに認可されるカナダで、IIROCは各州の証券委員会から認証を受けて活動し
ていることから、その権限が及ぶ範囲は広大です。各州の証券委員会は、カナダ証券取引委
22 www.pogo.org/our-work/letters/2012/fo-fra-20120724-pogo-opposes-self-regulation.html 参照
23 www.iiroc.ca/about/ourroleandmandate 参照
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21
証券市場における自主規制制度
員会(Canadian Securities Administrations, CSA)のメンバーとして、定期的な監督監査などIIROCの
活動に対する監督権限も保持しています。
FINRAと同様にIIROCもまた、その会員のために新しい規則を提案・施行しており、施行に際して
もFINRAと同様の手続きを踏んでいます。提案にはコメント受付期間を設定して意見を公募しま
す。そして、規則の最終案は全て、施行前にCSAの承認を受けます。
■
カナダ・ミューチュアル・ファンド・ディーラー協会(Mutual Fund Dealers Association of
Canada:MFDA)。MFDAは、CSAによって、1998年に設立され、カナダ証券業協会とカナ
ダ投信協会(Investment Funds Institute of Canada)の尽力によって組織されました。同協
会は、ミューチャルファンド販売会社の業務、実務基準、事業活動を監視します。IIROC
と同様に、MFDAはカナダ各州の証券委員会の認可のもとで活動をしています。そし
て、「業界を代表したり、会員のための業者団体活動に従事しない」ことを表明してい
ます24。
中南米
中南米における自主規制制度(およびSROの活用)は近年拡大しています。規制の戦略は特
にブラジルとコロンビアで最も顕著に採用され、両国とも経済的に成り立つ自主規制の仕組み
を発展させてきました。
ブラジル
ブラジルでは、同国の証券取引委員会(Commissão de Valores Mobiliários:CVM)によって、ブラジ
ルの株式市場のため利益相反行為を管理し市場監視を担う独立組織として、ボベスパ市場監
督機構(Bovespa Supervisão de Mercados:BSM)が設立されました。BSMは、規則の制定と執行の
責務も負っており、仲介業者の検査、上場規則の管理、および市場参加者の監督を行ってい
ます(Carson (2011年))。取引所から運営資金の出資を受けていますが、その予算は直接CVM
の審査を受けており、CVMへの定期報告を義務付けられています。
また、ブラジルにはAPIMECという組織があって、その監督権限は正式にCVM規制の枠組みの
中で認可されています。2010年まで、このSROはリサーチアナリストの認定団体としての業務を
担っていただけでした。しかし、その後CVM規則第483号第10条の規定によって、APIMECは自主
規制機関として活動することが認められました。現在、 APIMECは非営利団体であり、全てのリ
サーチレポートはAPIMECへの届出が義務付けられています。規則の執行という点で言えば、こ
のSROはデュープロセス要件に従って予備手続きを行います。APIMECはその規則に違反した
24 www.mfda.ca/about/aboutMFDA.html参照
22
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SROを巡る世界の動き
会員を告発することができ、制裁を課すことも可能です。また、この手続きはSRO内のより高い
レベルに対する異議申立ても認めています。
コロンビア
コロンビアでは、コロンビア証券自主規制機構(Autoregulador del Mercado de Valores、AMV)が、業
態を問わず全ての市場仲介業者を監督しており、業者にはAMVへの加入が義務付けられてい
ます。法律によって設立された(2005年法律964号)AMV の活動は、政府ならびにコロンビア金
融監督局(Superintendencia Financiera de Colombia、SFC)の規制を受けています。そして、AMVは、
規制、監督、執行、専門家の認定、そして苦情処理や係争解決などにおいて、最前線の規制
機関としてSFCを補佐しています。
規律や市場規則の違反が発生した場合、AMVは2段階からなる調査手続きを担いますが、その
結果、罰金からコロンビア市場で仲介業者として活動する資格の制限に至るまで多様な制裁
措置を施す場合があります。AMVは会員出資による民間の非営利団体です。
AMVは、2010年以来外国為替取引専門業者の殆どが参加する、外国為替市場における自発
的な自主規制の枠組みを用意しました。現在法律で認可された専門家であることを前提に、
AMVの管轄を投資顧問会社など他の市場参加者にも拡大することを検討しています。
コロンビアでは業界も政府もこぞって、自主規制モデルの活用に対して大きな期待を寄せてい
ます。SROにとってとりわけ関心が高い事項には、その独立性と執行手続きをともに強化する
一方で、業界代表としての位置付けを堅持するためにガバナンス構造を強化しようというもの
があります。
欧州
現時点で、欧州においては自主規制の果たす役割はわずかです25。自主規制に対する反感が
2008年の金融危機以降高まっており、一部の公的な監督機関がFINRAからの情報を得るにも
直接当のSROに問い合わせずに、SECに連絡したと伝えられたほどです。このような厳しい見
方にも拘わらず、ある市場、英国では、伝統的に自主規制のメリットに対する共感があります。
英国金融市場における規制は、倫理的な市場慣行に対する違反が相次ぐ中で、何百年もの歳
月をかけて、明白な自主規制モデルから、より中央集権化された組織形態(前の金融サービス
庁、FSA)へと発展してきました(ボストンコンサルティンググループ(2011年)、25-26ページ参
照)。2013年に英国は新しい規制制度を発足させました。通称「ツイン・ピークス」アプローチと
25 EU 域内市場担当委員のミシェル・バルニエ(Michel Barnier)氏は、自身は自主規制に賛同していないと表明し
ている。同氏が表明しているのは、SROの実際の活用についてではなく、むしろ、「自主規制」が意味しているの
は政府による規制に比べて厳格さに欠ける市場規制であるという信念のようである。 (www.euractiv.com/eurofinance/ barnier-dont-believe-self-regula-news-358458 参照).
©2013 CFA Institute
23
証券市場における自主規制制度
呼ばれるこの制度は、金融監督を2つの規制機関に分担させるもので、一つは、金融行為規制
機構(the Financial Conduct Authority)という独立組織で、金融機関の行為を監督し、不正行為に
対して対処しより厳しい罰金を課せるように権限が拡大されました。もう一つはイングランド銀
行の子会社として設立された健全性監督機構(the Prudential Regulation Authority)で、こちらは銀
行や保険会社の自己資本保有を監督し、賞与を制限する規則への遵守徹底を図り、リスクを
監視します。
一見するところ、この新制度はSROアプローチを否定しているようにも見えますが、その制度存
続の可能性を問う声も聞かれます。特に、金融市場に対する監督権限を中央銀行内に集中さ
せることは、特定の市場活動について最終的にSROへの依存に回帰する必要が出てくる可能
性もあります。
アジア・太平洋地域
第3回アジア諸国における証券規制監督者とSROおよび市場特性に関する比較分析26 (the 3rd
Comparative Analysis of Asian Securities Regulators & SROs and Market Characteristics)によれば 、中
国(中国証券業協会、Securities Association of China:SAC)、日本(日本証券業協会、Japan
Securities Dealers Association:JSDA)、フィリピン(株式市場規律機構、Capital Markets Integrity
Corporation:CMIC)27 、ルーマニア(ルーマニア証券業協会、Romanian Stock Brokers’ Association:
RSBA)、タイ(the Thai Bond Market Association for the bond market)、そしてトルコ(the Association of
Capital Market Intermediary Institutions of Turkey :TSPAKB)など各国のSROは、それぞれ自身が重要
な自主規制と責務を担っていると考えています28。一方、これらすべてのSRO(フィリピンを除く)
は、自らをSROであり、かつ「業界団体」であると称しています。「自主規制」という考え方につい
て、各国で異なった意味合いをもつことがありますが、業界団体であると認めている点は、当該
組織が、規制機能と会員サービスの峻別を確保できているのかという問題を投げかけます。ま
た、その関係性はSROが市場参加者のためではなく、むしろ会員のためにその利益を擁護した
り、もしくは他の業界団体的機能を果たそうとしているのではないかという懸念を高めます。従
って、このような構造は公平かつ信頼できる当局としてのSROに対する認知を失墜させかねま
せん29。
26
この報告は、 www.scribd.com/doc/126080023/3rd-Comparative-Analysis-of-Asian-Securities-Regulator-Finalに掲載されて
いる。データは第8回ASF東京ラウンドテーブル参加組織より提供された(2012年11月8日現在)。
27 フィリピンの自主規制組織は2012年の初めにSROに分離した。
28 香港のSARと韓国はよく自主規制モデルとして注目されているが、第3回の比較分析ではどちらの情報も盛り
込まれていない。
29 例えば、分析では、ルーマニアの証券業協会は自身をSROとしているが、会員向けの職業倫理基準以外に規
則を策定しているようには見えない。その代りに、「ルーマニア国家証券委員会など主要な立法機関のための助
言組織としての役割を果たすこと」によって政策策定プロセスにおける一部を担っている (3rd Comparative Analysis,
p. 12)。
24
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SROを巡る世界の動き
各国の規制制定機能に関する活動は以下のとおりです。
日本
法的に認可されたSROとしての機能を果たしていると多くが認めているとおり、日本証券業協会
は、証券会社の規制を監督しており、証券会社は日本で証券業を営むために登録が義務付け
られています。JSDAには日本の金融商品取引法によって監督権限が付与されており、同法に
よって「(公認の)金融商品取引業者」の枠組が整備されています。その主要な財源を会費によ
って賄いつつ、非営利のJSDAは自主規制規則を制定・執行し、資格試験、更新研修、証券外
務員登録を提供し、顧客からの苦情受付処理と仲裁手続きを担っています。
JSDAは「業界の声を集約する」ことを重視した業界団体として設立されましたが、現在では自身
を二つの異なる役割、つまり、一つはSRO、もう一つは業界団体(ロビー団体)-を持つ組織だと
見ています。いずれにしろ、JSDAは「組織的なファイアーウォールを設定することによって」利益
相反を把握し管理しようとしています。
インド
最近インドは、金融市場の発展の一環として自主規制制度を確立すべく大きな前進を示しまし
た。2012年8月に開催されたインド証券取引委員会(the Securities and Exchange Board of India
(SEBI))の理事会では、ミューチュアルファンド販売業に関するSROの設立提案が承認されまし
た。SEBIは、2013年の1月初旬には金融サービス分野におけるインド初の公式な自主規制機関
を円滑に立ち上げるための規則の改訂を提案しました。
マレーシア
以前はクアランプール証券取引所と呼ばれていたマレーシア取引所(Bursa Malaysia)は、「マレ
ーシア株式市場における最前線の規制当局」30として活動しており 、証券取引所のSROとして
多くが認めています。証券およびデリバティブ市場に対する規制と監視に係る活動の責任を担
いながら、マレーシア証券取引所は、その会員の行為を監視し執行権限を保持しています。
2013年5月2日に施行された改正規則に基づいて、マレーシア証券取引所は、投資家保護を損
なうことなく、その規則の簡素化と整理を図りました。
30 www.bursamalaysia.com/quick-links/brokers/ 参照。
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25
証券市場における自主規制制度
4. 国際的にみた自主規制制度の将来
本節では、まずシステミックリスクの軽減を目指した自主規制制度の新たなパラダイムを論じ、
次いで、従来からある国際的情報共有の範疇を超えた形態を見ていくことにします。最後に、
新興国市場および国境を越えた活動に自主規制制度の活用を拡大する可能性を検討します。
システミックリスクを軽減する自主規制制度の
新たなパラダイム
2008年の金融危機によって、世界の金融市場における相互関連性がクローズアップされまし
た。危機で生じた世界的なドミノ倒し効果に照らして、国境を越えた監視・協力体制を持つ必要
性はこれまでになく高まっています31。その必要性を認識したことにより、自主規制制度の将来
の可能性に対する斬新な問いかけが行われました。
自主規制制度再構築の論点の一つが、世界規模でシステミックリスクを監視、統制する手段と
してその制度を用いるというものです。ソール・オマロバ(Saule Omarova)氏が2010年に書いた論
文「金融業界における自主規制制度の未来再考(Rethinking the Future of Self-regulation in the
Financial Industry)」の中で、同氏は次のように述べています。
金融サービスセクターで有意義な長期的規制改革を行おうとするならば、システミック
リスクを統制し最小限に抑える重要なメカニズムとして、業界自主規制制度が果たす
役割を真剣に考えなくてはならない。
同氏は特に、政府による直接の規制または「純粋に市場ベースの規制メカニズム」に対する自
主規制制度が持つ優位性を指摘しています。しかし、SROをこの役割に組み込むには、「新た
な規範的アプローチ」へ、具体的には、現行の制度を「自主規制制度を内包した」制度へと根
本的に再構築することが必要だと述べています32。
この新たなパラダイムに対するオマロバの理論は、リスクを取る責任を直接参加者に負わせる
ため、市場参加者に「自己資金で投資」をすることを求めることに賛同する人には特に説得力
があります。同氏は次のように考えています。
31
Group of Thirty(2009年)を参照。この報告書は国家および国家間の政策協調を求めている。
32
「規制を内包した」制度は、「一方で、日々複雑化していく自らの活動を最も経済的に効率的な方法で規制す
る金融機関の自由と、他方では、金融の安定性を守るという全体的な公共の利益に従いながら合法的に利益と
リスクを創造する事業を営む義務との間の、微妙なバランスを再定義することを目指すものである。このモデル
の目標は、民間の市場参加者が自らの事業活動を統治する規則を採用・執行する能力を強化しながらも、それ
を幅広く経済的かつ社会的な効果をもたらすためのより大きく明確な責任と組み合わせることにある。」(オマロ
バ(2010年)、701ページ)。
26
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国際的に見た自主規制制度の将来
金融業界の自主規制制度の準備過程で公共政策の利益を直接的かつ明示的に取り
込むことで、この自主規制制度内包型のモデルは民間金融セクターの幅広い社会的
役割を再定義し、過剰なリスクから金融の安定性を守る基本的な責任を、リスクをつく
り出す集団の方に課すことを目指すものである (702ページ)。
もちろん、そうした制度には、金融サービス業界が、リスクに対するアプローチの中で公共政策
への配慮を取り入れたくなるほど十分魅力的なインセンティブ構造を全く創出しようとしない現
行の制度に数々の変更を迫ることになります。ただ、オマロバ氏は、この要因を認識しつつも
定義は差し控えています33。
従来の情報共有を超えた動き
資本市場が相互に関連しあっている状況を踏まえて、多くの国の規制当局は、既に規制に関
する国際協力がもたらす幅広い便益を認識しています。たとえば、SEC国際室は、世界中の証
券規制当局および監督当局間の協力と情報共有を推進する活動に長らく関与してきました34。
各国との個別協力に加えて、SECは証券監督者国際機構(International Organization of Securities
Commissions)、金融安定理事会(Financial Stability Board)35、米州証券監督者評議会(Council of
Securities Regulators of the Americas)、金融活動作業部会(Financial Action Task Force)36などの国
際機関とも連携しています。
この重要な国際協力作業は、市場相互間の微妙なバランスの中に置かれることが多い資本市
場のネットワークを安全に保護するためのグローバルな情報共有、監督、および執行メカニズ
ムの必要性からもたらされたものです。
33
オマロバ氏(2010年)は、「主な改革提案の中で、業界自主規制制度を金融サービスセクターにおける長期的
な規制変革の一部とみなしている」ものはないとも指摘しているが(683ページ)、「グローバリゼーションと、金融
活動の国境を越えた流動性に関して、業界自主規制制度は直接的な政府規制に対して大きな潜在的優位性も
持っている。今日のグローバル化した世界では、政府が国内の経済的安定性を維持し、社会経済的もしくは政
治的な目標を達成するために重要と考える法規制を実施し執行する能力を、クロスボーダーの裁定取引が大幅
に弱体化させている」(691ページ)とも述べている。
34
たとえば、次の文献を参照、“SEC and Turkey Securities Regulator Announce Terms of Reference for Enhanced
Cooperation and Collaboration” (22 July 2011); “SEC, SEBI Announce Increased Cooperation and Collaboration of Capacity
Building Events in India” (8 January 2008); EC and Japan Financial Services Agency Announce Terms for Increased
Cooperation and Collaboration” (30 January 2006); “SEC and CSRC Announce Terms of Reference for Enhanced Dialogue”
(2 May 2006):www.sec.gov/about/offices/oia/ oia_crossborder.shtml.
35
主要7カ国(G7)の財務相と中央銀行総裁が設立した金融安定理事会は、「効果的な規制、監督その他金融
セクターの政策を金融の安定化に資するべく開発し推進するため、各国金融規制当局と国際標準設定団体を国
際レベルでとりまとめている(www.financialstabilityboard.orgを参照)。
36
金融活動作業部会は、1989年に加盟国・地域の大臣によって超国家的組織として設立された。その目的は、
「マネーロンダリング、テロリストへの資金提供その他関連する国際金融システムに対する脅威と闘うための基
準を策定し、法律上、規制上および業務上の措置を推進すること」にある(www.fatf- gafi.org/pages/aboutus/を参
照)。
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27
証券市場における自主規制制度
今日SECは、協力関係を樹立し、情報を共有する上で有益な覚書を約80の国・地域で交わして
います。しかし、ある国が他国の記録にどれだけアクセスできるか、ということに関してこの種
の協定は限定的です。
国家間の新たな協力手段を模索する上で、「従来型の」方法を越えた情報共有と市場監視の
方法を探す必要があるのかも知れません。特に、新興国は国内でも国際的な共同作業におい
ても、自主規制制度活用の拡大が持つ可能性を重視しています。
新興国が抱える難題と機会
世界的にみると自主規制制度の利用はまだ不十分ですが、一部の金融市場ではこれを利用
し、自主規制制度が効率性と効用にもたらす潜在性を認識し活用し始めています。自主規制
制度の利用が新興国の証券規制の構造の中にまで広がる可能性もあります。2020年までに新
興国の世界経済に占める割合が50%にも達するという予想もあることから、SROが新興国で持
つ可能性は探求するに値する課題と言えます37。
新興国、中でも金融セクターが発達の初期段階にある国々は、財政的、人的に、主たる規制当
局とSROをともに動員するだけの十分な資源を有していません。一部の国では証券市場の競
争が制限されており、その結果として効率的でバランスのとれた規制ではなく、言わば取引の
独占が生じているのです38。 それでも、これらの新興国が、他国に範をとった自主規制構造を
応用すべきだと強く主張できます。実際、自主規制制度は市場発展の足枷になるどころか、そ
の不可欠の要素になり得るからです。
発展途上の新しい市場には、市場を発展させ資本形成を増強させるイノベーションと成長を促
すインフラが必要です。しかし、信頼できる検査・執行力や懲罰制度を備えていない国は、成長
と投資家の信頼を高める「清廉な」市場として自らを律する、基本的なツールを欠いています。
その点、市場を理解している人々で構成されるSROは市場に最も近い位置にあり、売買、ブロ
ーカー・ディーラー、監督、執行、そして市場の動向を監視する責任を引き受けることができま
す。
新興国の主たる証券規制当局は、資源を(権限も)欠いているため、適切な検査を実施し十分
な規律と執行機能を確立しようとしても大きな難題にぶつかります。SROは、このような間隙を
埋めるために役立てることができます。事実、主たる規制当局が政府から直接的な付託を受け
ていない場合であっても、会員の違反行為に対して免許を取りあげる権限があれば、SROは高
37
「新興国が直に世界経済の50%を占めるようになる」、カナディアン・プレス(Canadian Press) (2013年6月10日)
参照:http://www.cbc.ca/news/business/story/2013/06/10/business-montreal-conference.html.
38 ボッソーヌ(Bossone)とプロミゼル(Promisel)(2000年)は、「規則とベストプラクティス基準を実施するために公
共セクターが使える資源は稀少だが、民間セクターで自主規制の導入を促すインセンティブがあれば、これを補
完する資源が動き出す」(4ページ)と述べている。
28
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国際的に見た自主規制制度の将来
い独立性をもって運営し会員を監督し取り締まることができます。この権限こそが、清廉な市場
を創出しようとする国・地域において実際価値のある援助になるのです。SROは検査を実施し、
市場の大部分に対する規律を提供することにより、(FINRAが、あらゆる取引所に対する顧客の
紛争を取り扱うのと同じように)個別の訴えの検証と解決といった小さな問題から主たる規制当
局を開放します。
新興国において、健全なSROは、規則制定と監督活動にあたって会員が提供する専門性の恩
恵を受け、市場の発達に対して政府以上に迅速に対応することができます。
今日の金融市場が持つグローバルな性質に鑑みて、新興国の間で規制を国際的に協調させ
ようとする機運が高まっているとしても驚くには当たりません。こうした国・地域の目標が市場の
発展にあるとすれば、SROの活用と協力を通じた地域的な協調には、あらゆる市場参加者が
享受できる大きな潜在的利点が存在します。
前述の通り、市場のイノベーションと成長は、主に監視と執行の仕組みを備えた信頼できる市
場構造の存在に大きく依存しています。一方で、証券市場の相互承認協定や条約締結に向け
た政府の動きは緩慢かも知れません。このために、国境を越えた効率的な監視・執行制度の
発展が難しく、実施までに多年を要する場合も出てきます。
この問題は、金融規制当局とSROが、国境を越えた証券市場での違反行為に対する調査権を
相互に承認するという契約上の取り決めを他国の関係者と結ぶことにより回避することができ
ます。この種の取り決めは自然に隣国との情報共有と協力関係に新たな扉を開き、信頼される
市場構造の成長を加速させることになります。
国境を越えた交流は、それ以外にも各国がそれぞれの資源を実質的に「共同出資」してその地
域の資本の総量を引き上げるなどによって、恩恵をもたらす可能性があります。多くの新興国
では成長に必要な資本量が不足しています。しかし地域の協調策があれば、地域全体として、
効率的にかつ統一的に、市場を機敏かつ迅速に発展させられる見込みが出てくるのです。
SROに関する協調策を採用すれば、クロスボーダーの免許、懲戒処分、合同検査その他許認
可の問題などに直ちに役立ちます。国境を越えて協力することにより、新興国のSROは、発展
途上の市場に弾みを付け、あらゆる参加国に恩恵をもたらすサービスを共同で提供することが
できます(協調策は、ブローカー・ディーラーや取引所・上場システムに対する監督で特に役立
ちます)。
複数の新興市場国が規律ある証券市場を発展させようとするなら、必ずしも政府の権威を借り
なくても、SRO、中でも取引所がその力を結集する必要があります。商業ベースの取決めは、政
治プロセスにおける歩みの鈍い官僚主義を飛ばして進められるので、この自主規制に関する
比較的新しい市場統合型の形態は、市場が発展する豊かな可能性を示してくれます。
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29
証券市場における自主規制制度
一部の地域ではそのような歩みを進め、あるいはその実行プロセスを探求し始めています。例
えば、ラテンアメリカ統合市場(the Latin American Integrated Market 、正式には、Mercado Integrado
Latinoamericano、通称MILA)、東カリブ海(Eastern Caribbean)、東アフリカ証券規制協会(the East
African Securities Regulatory Association)、東欧のバルカン半島(the Balkans in Eastern Europe)など
があります。
特にMILAは、個々の市場が未成熟であるとき全体として存立可能な市場の確立を後押しする
ために、国々がいかにして共同作業をすればよいか、という点で実例を提供しています39。2011
年5月に設立された、チリ、コロンビア、ペルーの証券取引所で構成されるMILA「統合市場」は、
各国の取引量の単なる拡大以上のことをもたらしました。地域全体への資金流入も加速してい
るのです40。しかも、相互に商業ベースの取り決めを結ぶことで、各国の政治勢力に委ねてい
たならばしばらく実現できなかったような規模で、取引所はこの地域に恩恵をもたらす取引・市
場の発展を可能としたのです。その恩恵は、ある記者に「ここでは、政治家が民間セクターに追
いつこうと必死になっている」と述べさせた程です41。
米州開発銀行(the Inter-American Development Bank)はMILAの成功と将来性を評価し、その発展
を支援してきました42。そのメリットは同地域内の他の国をも惹き付けています。例えばメキシコ
は、2014年にもMILAに加盟することを目指して法制化を検討しています。パナマとコスタリカも
加盟に関心を示しています。
この自主規制アプローチにより、「競争するための最善の道は協働である」という金言が輝きを
持ちました43。
国際モデル
本節では、30ヶ国以上で事実上の法律になった基準設定の事例を説明します。国境を越えた
協力のみが「従来型の」SROのあり方を離れた自主規制制度の事例という訳ではありません。
将来的には、規制当局と市場参加者は自主規制制度の新たな利用法を見出すために、従来
型の単一国内形態を越えた姿を見据える必要があります。金融サービス分野で十分に機能す
るプロセスとして自主規制制度をモデル化するとしたら、GIPS基準こそが優れて実現可能かつ
効率的なモデルを提供します。
39 www.mercadomila.comを参照。
40 www.nasdaq.com/article/latin-america-market-integration-still-underwhelming-but-promising-cm150179を参照。
41 www.economist.com/node/18529807を参照。
42
43
www.iadb.org/en/topics/trade/mila-strengthening-financial-integration,6839.htmlを参照。
www.oxfordbusinessgroup.com/news/regional-platform-three-countries-come-together-createintegrated-latin-american-marketを参照。
30
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国際的に見た自主規制制度の将来
GIPS基準は、それを採用し準拠している世界各国のボランティアによって作成・維持されてお
り、投資業界の中で「基準」としての地位を確立しました。GIPSの組織が持つ運営とガバナンス
の構造は、さまざまなレベルで、業界内の別のセクターで自主規制制度をつくる際の世界的ベ
ースでのプロトタイプの役割を果たすものと言えます。
1993年1月1日の実施を目指して1987年に導入された、当時のAIMR-PPS(the Association for
Investment Management and Research Performance Presentation Standardsの略)は、投資パフォーマ
ンスを提示するためのガイドラインとして認められた初の事例となりました44。同基準(「同基準」
とはAIMR-PPSおよびGIPS基準をいう)の1993年版序文に述べられているように、同基準は、以
下の目的のために制定されました。
資産運用の顧客に提供するサービスの改善、業界のプロフェッショナリズムの向上、自
主規制の考え方の推進、などの複数の目標を達成すること(ページvi、強調を追加)
同基準の創出と実施は、導入当初より、国際的自主規制団体が行う作業が持つ特性の数々を
示してきました。とりわけ、各種小委員会(レバレッジ/デリバティブ小委員会、銀行信託小委員
会、不動産小委員会等)の中で、同基準の実質的な中身をつくる上で大きく貢献したのは国際
小委員会です。ここから、国際的自主規制制度の好事例となる枠組みが成長を開始したので
す。
同基準は当初米国とカナダで採択されましたが、1995年までに、AIMRは投資パフォーマンスの
提示に関する基準が世界的に受け入れられる必要性とそのメリットを認識して、グローバル投
資パフォーマンス基準の開発に資金を投じました。そして1999年初めに、「企業が既存顧客お
よび見込顧客向けにパフォーマンスを計算し提示する(ことができる)グローバル基準」として、
GIPS基準が登場したのです。
GIPS基準1999年2月版の序文には、以下のような記載があります。
金融市場と資産運用業界は益々グローバルな性格を帯びてきた。様々な金融機関と
国々が関与していることから、このような運用プロセスのグローバリゼーションと運用資
産額の指数関数的な増加によって、投資パフォーマンスの計算・提示を標準化する必
要性が高まっている。(2ページ)
将来に向けて、効果的なガバナンス構造を持つ必要性を認識したAIMRは、高品質の基準を継
続的に維持し開発していくため、投資パフォーマンス協議会(the Investment Performance Council)
44 AIMR-PPS基準が最初に紹介されたのは、the Financial Analysts Journalの1987年9月/10月号誌上である。The
Financial Analysts Federationとthe Institute of Chartered Financial Analystsが1990年に合併しAIMRになったため、AIMRの
理事会がAIMR-PPS基準を推奨した。実行委員会の指導の下でAIMRの資金提供を受けつつ、同基準は、「投資
パフォーマンスの提示に関するガイドラインを確立するという趣旨に賛同する、AIMR会員その他の投資専門家か
ら寄せられた意見」を反映した。
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31
証券市場における自主規制制度
を2000年に設立しました。それ以来、GIPS基準は何度も見直され、そのたびに改訂版を発表す
るという作業を繰り返してきました。
2001年4月には、GIPS基準を既に採択したか、採択予定であるか、あるいは「自国の投資パフォ
ーマンス基準」を作成予定の国は約25ヶ国にのぼりました。自国の基準を持たない国々には、
GIPS基準を採択し自国語に翻訳するか、あるいはGIPS基準を中心的な基準として採択した上
で、必要に応じて個々の国・地域の要件と当地で確立された慣行で補足することが奨励されま
した。その最終的な目標は、「世界中の各市場に存在する多くの規制と十分に確立されたベス
トプラクティス」を取り入れることにより、GIPS基準を「信頼できる基準」として確立することにあり
ました45。
信頼できる基準として確立されるまでの過程は、投資の実績パフォーマンスを比較可能にする
基盤つくりという目的にとって、それだけでも意義深いものです。一方、自主規制制度の成功を
めざすうえで別の2つの観点を明記しておくのも意味があることでしょう。第一に、GIPS基準へ
の準拠は完全に自発的なものですが、この基準は米国では事実上の法律になりました。この
基準に対する業界の反応の結果、準拠していない企業は非常に不利な立場に立たされるとい
う風土が醸成されたのです。こうして、業界はこの分野では自ら規制する道を選択しつつ、「正
式な」規制当局をして投資の実績パフォーマンスを報告するための規制を発案・実施させる必
要性を、効果的に高めることとなりました。それでも、どのような効果的な自主規制制度にもあ
ることですが、強制執行に対する言いようのない不気味さをなくすことはできません。その検査
の中で、SECのスタッフがGIPS基準への準拠表明状況を監視し、不当表示を行っている企業に
対して制裁を課してきたことがあるのです。
第二に、GIPSのガバナンス構造が、いかに効果的に自主規制制度を国際的に運営するかとい
う点について「国連アプローチ」といえるものを提供していることが挙げられます。GIPS協議会
(GIPS Counsil)およびGIPS執行委員会(GIPS Executive Committee)は連携して、37カ国すべての
同基準のカントリースポンサーに対して国毎に代表権を与える機構をつくるとともに、技術的な
問題に対しては利害関係者の代表者に発言権を付与しています。このガバナンス構造は、完
全に自発的な参加者で構成されているのですが、地域毎の責任者により選任される代表者に
よって運営され、立法化されたガバナンスモデルと全く同じ様に運営されています。このような
ガバナンスのフレームワークを通じて、正式な規制当局の介入を受けることなく、新たな基準が
世界的に提案、精査、実施されているのです。
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この文章は、GIPS基準の米国およびカナダ版としてAIMR-PPSを変更し修正していた2004年版のグローバル投
資パフォーマンス基準(Global Investment Performance Standards )から引用している。
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国際的に見た自主規制制度の将来
GIPS基準および各国規制当局との協働
GIPS基準が自主規制の性格を持つことから、必然的に倫理的信頼性に対する強いコミットメン
トが求められることになります。同時に、自主規制制度は、金融市場における公正な情報開示
の確保という規制当局の任務遂行を助けています。GIPS執行委員会は、規制当局が以下の事
項をなすことを奨励しています。
■
世界的なベストプラクティスを示す基準に自発的に準拠することの意義を認識すること
■
GIPS基準への準拠表明を不正に行う企業に対して、強制執行の発動を検討すること
■
独立した第三者による検証の価値を認め奨励すること
既存の法律、規制もしくは業界基準が既に投資パフォーマンスの計算と提示に関する要件を
課している場合、企業には、適用される規制上の要件に加えてGIPS基準も遵守することが強く
奨励されます。適用法令や規制への遵守は必ずしもGIPS基準の遵守につながりません。法令
や規制がGIPS基準と相反する場合には、企業は法令・規制を遵守した上で、準拠資料の中で
その相違を完全に開示する必要があります。
GIPS基準は、業界活動におけるこの二重の相互作用と、その自立した自発的ガバナンス構造
により、投資業界の別の分野で世界的な自主規制を実現するためのプロトタイプとなり得ま
す。
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証券市場における自主規制制度
5. 結論と政策提言
アルゴリズム取引、ダークプール取引や高頻度取引、それに線引きがあいまいな投資助言と
手数料営業に支配されている市場をSROが適切に監督できるかどうかは、近年疑問視されて
います。しかし、SROが最初に設立された時代とは証券規制環境が様変わりしているとしても、
SROとそれが提供する専門知識の重要性は、かつてないほどに高まっています。実際、絶えず
複雑さを増している証券市場を考えると、SROが有する市場実務に対する理解を活用すること
だけ考えても、SROの活用を減らすよりはむしろ増やす方向で考えるべきだという議論も成り立
ちます。
ある意味で、このニーズは今日の金融市場規制がおかれた状態が生み出した結果だとも言え
ます。規制当局は必ずしも業界の専門家を採用するとは限りません。金融業界から専門家を
引き抜けるだけの給与を支払えないこともありますが、国によっては法律上、業界から専門家
を採用することが禁じられている場合もあります。そのため、多くの規制当局は政策立案者とし
ては優れていても、今日普及している益々複雑化する金融商品や取引メカニズムに対する専
門知識を欠いている場合があります。さらに、規制当局が既に進みつつある変化を予想する能
力を欠いている場合もあります。
第一に、政策を立案し、新たな規制を提案・実施して、効果的な執行計画を運営していくために
は、規制当局は自らが監督する市場の複雑さを理解していなくてはなりません。しかし、主たる
規制当局は、一度にあらゆることをできる訳でもなく、世界的な不況の影響から予算面での制
約や規制当局に対する要求の高まりにも直面しています。その結果、主たる規制当局がその
主たる責務を遂行するためには、規制制度は任務の一部を市場の専門家に、すなわち自主規
制機関に外部委託しなくてはならなくなっています。つまり資源の観点からも、「現場に近いとこ
ろに位置する」SROには、主たる規制当局者の負担を軽減するという使い道があるのです。
SROは、貴重な専門知識を効果的に提供することで、規制当局の負担軽減に寄与します。
第二に、SROが持つ強みの一つは、証券市場の発展に対して規制当局者よりも迅速かつ敏感
に対応できる点にあります。厄介で煩雑な規制が市場の成長の妨げとなる(これは資本市場
規制当局に対してよく聞かれる不満です)リスクを冒すことなく、SROならばイノベーションを促
進し、監視が必要な発展のペースに追いついていくことが可能です。こうした観点からいえば、
政府規制当局はしばしば新たな発展に乗り遅れるだけでなく、そうでない場合でも、活発な資
本市場を駆り立てていくイノベーションを規制の芽を摘むこともあるため、あえて発展の後ろか
ら遅れて付いていかなければならない、ともいえるのです。
従来型のSRO制度の価値を再認識することに加えて、自主規制制度がグローバル市場にもた
らしうる長所をうまく組み入れて、将来に向けて発展できるよう注意が払われる必要がありま
す。システミックリスクを軽減するにせよ、新興市場の成長を促進するための協力体制をクロス
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結論と政策提言
ボーダーで確立するにせよ、あるいはGIPSのガバナンス構造を金融市場の他の分野に応用す
るにせよ、効果的な自主規制制度の価値を否定することはできません。SROは未来にこそ必要
とされる手段かも知れません。
とはいえ、その活動が市場参加者に納得され透明性を持つように、SROは進化を遂げていかな
ければなりません。SROが市場の信頼性を高めていると見られない限り、その活動は逆効果を
生むことになります。そのために、本書では、SROが世界の金融市場規制制度の中で受け入れ
られ信頼される存在となるように、以下の提言を行います。
第一に、SROはその任務に対して適切な内部ガバナンス構造を確保することにより、信頼性を
高めることができます。優れたガバナンスを構成する最も重要な要素は、SROを運営する理事
会の過半数を独立理事で構成することです。金融市場のSROに関して言えば、独立理事は投
資実務と市場に関する豊富な知識を持ち、提案された規則が投資家の利益と市場の信頼性に
与える影響を理解できる必要があります。
第二に、SROは自らの内部統制、規制活動および財政に関して、透明性を持つべきです。特
に、以下の点を満たすべきです。
SROは、主たるあるいは法定の規制当局に課されると同等の透明性要件に従う必要
■
があります。
SROとその主たる規制当局は、SROの執行業務の透明性を確保する必要があります。
■
例えば、SROはその仲裁機能に関して、調停担当者個人の経歴や潜在的利益相反を
開示するなど、透明性を持たなければなりません。SROはその決定について案件ごと
に開示し、同時に決定の趨勢に関する統計値も提供しなければなりません。SROの会
員が会員になるために、黙秘権などの人権が脅かされるようなことがあってはなりま
せん。
法定規制当局はSROに対して十分な監督を行わなくてはなりません。十分な監督を行
■
うためには、法定規制当局がその国の下でSROを適切に監督できるだけの十分な財
政基盤、適格なスタッフ、それに最新の技術を確保しながら、自主規制制度の組織的
な発展とうまくバランスさせる必要があります。
■
法定規制当局はさまざまなタイプのSROを活用して、法定監督を強化しつつ効率性
を高めていく必要があります。SROは業界内の企業や個人の登録などの任務を執り
行い、市場活動や会員の行動を最前線で監視することができます。SROは民事訴訟
を起こし、投資家と会員間の紛争を処理することもできます。
■
法定規制当局は、特定の技術的課題を取り扱う上で、SROが持つ専門知識を利用
する必要があります。規制当局はまた、GIPS基準のような世界標準ルールの利用を
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証券市場における自主規制制度
受け入れ、硬直化しまた費用のかかる規制や監督が必要となるような状況を回避す
べきです。
■
法定規制当局は、国境を越えたSRO制度の発展を促進するような各種契約上の取
決めを信頼するなど、「伝統的な」構造を越えて自主規制制度を活用する仕組みを
認定し、支援する必要があります。
■
規制制度は、規制対象領域内の役所にありがちな陥穽を埋めるために、説明責任
を契約によって根付かせて行く必要があります。
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CFA Institute
AUTHOR
Linda Rittenhouse
Director
Capital Markets Policy
CONTRIBUTORS
Kurt Schacht, JD, CFA
Managing Director
Standards and Financial
Market Integrity
James C. Allen, CFA
Head
Capital Markets Policy
SELF-REGULATION IN THE SECURITIES MARKETS: TRANSITIONS AND NEW POSSIBILITIES
THE AMERICAS
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