CFA 協会ブログ

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2014 年 5 月 28 日
No.187
新興国債券:見落とされるアルファの源泉?
Emerging Market Debt: An Overlooked Source of Alpha?
ラリー・チャオ、CFA
世界的金融危機の後、新興国債券は希望の星でした。
まったのは、QE 縮小を巡る市場の思惑的な動きが強
しかしながら、昨秋以降、新興国市場は徐々にその支
まった時で、それ以降明らかにセンチメントに変化が
持を失っていました。ここ数か月は安定してきたよう
ありました。ただ、QE 縮小は新興国債券のファンダ
に見えますが、投資家にとって今は好機なのでしょう
メンタルズに本当に影響があるのでしょうか。あるい
か。もしそうならば、その好機とはベータ、あるいは
は市場の悪化は行き過ぎたものだったのでしょうか。
アルファなのでしょうか。言い換えれば、両足で飛び
込んでよいのか、それとも投資先を慎重に見極めるべ
きなのでしょうか。
私の最近のブログ「新興国債券を動かすものは何か」
で、新興国債券を一体とした場合に、カントリー・リ
スク、為替リスク、企業信用リスクがそのパフォーマ
新興国市場をベータの好機として捉える投資家は多
ンスに影響を与えると私は説明しました。では、ここ
くいます。新興国市場はひとつのブロックとして上
数か月、こうした要素はどのように変わってきたか見
昇・下落することが期待され、実際そうなることもあ
てみましょう。
るからです。例えば、米国連邦準備銀行の量的緩和
(QE)の縮小とドルの上昇に伴って新興国市場で最
近見られたボラティリティの動きには、そうしたベー
タの一貫性が明らかに見られました。直近の下げ相場
以前の 10 年間の大半は、世界的な金融危機の最中に
空前のボラティリティがあったにもかかわらず、こう
エコノミストのジョージ・マグナスは、昨年初めにそ
の後の市場ボラティリティ上昇を予測しましたが、新
興国市場について慎重な見方を維持しています。2 月
の記事で彼は、新興国に実際に根本的な変化があった
と述べています。
したアプローチは投資家にも役立ちました。今年年初
国内収支あるいは(政府および企業の)信用リスクに関
の下げの大半と最近の反発は ETF 市場で起こってい
して言えば、現在の国内債務は 1997 年と比べて特に
ます。新興国株式および債券 ETF の大部分でパフォ
アジアの発展途上国で極めて高く、対国内総生産比の
ーマンスが良かったのは、こうした ETF のカバーす
非金融債務比率は米国を上回っていることをマグナ
る途上国経済が強気相場にあり、そういった中で販売
スは指摘しています。より懸念されるのは、新興国の
されたことにも理由があります。
多くが「中所得国の罠」に陥っていて、借入増加と輸
では昨年来何が変化したのでしょうか。通常、市場パ
フォーマンスと見通しに関しては、市場ファンダメン
出伸長といった従来の成長モデルにはもはや依拠で
きない点です。
タルズとセンチメントの双方を考慮すると、その答え
対外収支あるいは為替面については、米国連銀による
を見出すことが可能でしょう。ファンダメンタルズに
QE 縮小によって、市場には金利上昇だけでなくドル
関係ないセンチメントに変化がある場合にチャンス
高への期待も高まっています。米国金利と為替の上昇
が高まるのが典型です。2013 年の秋に下げ相場が始
は各国の投資家が新興国市場から大挙して退出した
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直接の理由です。米国の低金利と相まって、QE やそ
方法は、3 つのグループの新興国債券間でアロケーシ
の他の外的要因が 2009 年から 2013 年の間に新興国
ョンを調整することです。例えば、ソブリン・社債イ
経済へ流入した資本増加のうち 6 割を説明すると見ら
ンデックスやそうしたインデックスをベンチマーク
れています。そもそも、その QE と外的要因こそが新
とした商品は、各地域や国々に対して異なったエクス
興国市場に投資家を誘った理由だとすれば、各国の投
ポージャーを有します。アジアの政府・企業の財政的
資家の今般の行動を責めることはできないでしょう。
な強さを考えると、現地通貨建てのソブリン債や米ド
フランクリン・テンプルトンのポートフォリオ・マネ
ージャーは、新興国市場に対してマグナスと同様の懸
念を抱いているようです。モーニングスターとの最近
のインタビューでは、金利が上昇する環境にあること、
ル建て社債のインデックスは、米ドル建てソブリン債
よりもアジアに対して多くのエクスポージャーを提
供しています。他方、南米では米ドル建てソブリン債
インデックスのほうにより大きな比重が見られます。
および、新興国市場全般に成長への逆風が吹いている
「米国がくしゃみをすると世界が風邪をひく」という
ことを強調していました。彼らの指摘の中でさらに重
古い諺は、依然、債券市場では概して当てはまります。
要なことは、新興国市場での債券のパフォーマンスが
しかしながら、究極的には、少し具合の悪い市場と慢
2013 年には劇的に変化してきており、その傾向が継
性病にかかった市場を見分ける能力こそが、良い投資
続しそうだという点でしょう。2013 年には、現地通
家と大衆を分けることになるのです。
貨換算で、ハンガリーが 2 桁の上昇となる一方で、ブ
ラジル、南アフリカ、トルコは各々14%、19%、21%
下落しているのです。債券はつまらないなどと誰が言
ったのでしょうか。
執筆者
ラリー・チャオ(Larry Cao)、CFA
(翻訳者:瀧澤
創、CFA)
では、どうやって勝ち組を選択し負け組への投資を避
けましょう。フランクリン・テンプルトンは、「究極
的には通貨安を招く経常収支と財政収支の双子の赤
字を持った」国々からは距離を置いています。(トル
コを考えて下さい。)わかりますね。ですから、彼ら
もアジアの発展途上国を好んでいます。なぜなら、ふ
たつの収支は健全で、そのため、こうした国々が激し
い風雨にさらされていたのはまったく誤った理由に
よるからです。こうした見方はマグナスのマクロの観
点とも一致していて、トルコほどの深刻な財政問題を
英文オリジナル記事はこちら:
http://blogs.cfainstitute.org/investor/2014/05/28/em
erging-market-debt-an-overlooked-source-of-alpha/
注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記
事を日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版およ
び英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版
の内容が優先します。
解決するには長い年月がかかる傾向にありますが、ア
ジアの新興国が現在経験しているような通貨や国際
収支の問題はおそらく、本来むしろ一過性のものなの
です。
どれがあなたのお気に入りかを決めたならば、ある地
域への投資を行うための簡単な方法がいくつかあり
ます。まず手始めに、自身の選好を反映させる一つの
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