CFA 協会ブログ

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2013 年 8 月 27 日
No.151
新興国市場の混乱:1997 年が繰り返されるのか?
Turmoil in Emerging Markets: Is It 1997 All Over Again?
ロン・リンカス、CFA
ベン・バーナンキ米連邦準備理事会議長の量的緩和縮
インフラへの投資が推進する成長でした。この組み合
小発言を機に、世界の金融市場は新しい現実を織り込
わせによって、アジア新興国は競争力のある価格で輸
み始めました。米連銀が間もなく金融引き締めに転じ
出製品を生産することができました。この方程式はま
るとの観測から、米国債のイールドカーブは 100 ベー
た、それらの最大の輸出市場の通貨である米ドルに連
シスポイント以上も上方にシフトし、米ドルは数年に
動する為替レートによっても支えられていました。し
わたる下落傾向から反転上昇し、新興国市場、とりわ
かし、その好況は借り入れに頼ったものであり、その
けアジアの新興国は再燃した不安定な状況と格闘し
多くが米ドル建てでした。限定的な為替リスクでより
ています。成長が鈍化し始めた一方で金利は上昇し、
高い金利を求める海外資本がこれを供給しました。要
資本は流出し、インドやインドネシアなどで通貨が暴
するに、アジアの虎は米国経済に命運を委ねたのです。
落しています。こうした状況が相まって、1997 年に起
こったような第二のアジア通貨危機がさし迫ってい
るのではないかという疑問が生じています。
不幸な事に事態は米国が「逆プラザ合意」を受け入れ
た 1995 年に悪化しました。米連銀は米ドルの価値を
引き下げる従来の試みを翻し、円やマルクに対する米
歴史は同じようには繰り返さないが、韻を踏む(マー
ドルの上昇を促すべく、日独と金融政策で協調したの
ク・トウェインの名言)ものです。特に過去5年間は
です。米ドルの上昇こそ、アジア通貨危機への転換点
1990 年代半ばと同様、金融緩和がアジア経済を膨張さ
でした。1995 年から 1997 年にかけて円は対米ドルで
せていました。そして、今回もまた、米国の金融政策
約 60%下落し、国際輸出市場における日本からの輸出
の変更の兆しがバブルを破裂させる針となっていま
品を大幅に割安としました。そして当然ながら、今や
す。
急速に上昇する米ドルに依然として連動している「ア
新興国経済が今日おかれている立場と、これから降り
掛かろうとしていることを本当に理解するために有
益なのは、1997 年のアジア金融危機の根本的な原因に
目を向けることです。当時の危機の種は、タイ、イン
ドネシア、マレーシア、フィリピンを含む多くの東南
アジア諸国が「アジアの奇跡」と呼ばれた長期にわた
る好況を謳歌していた 1980 年代後半から 1990 年代前
半に播かれたものでした。これらの国々の多くは、あ
る種のインフラ成長モデルの活用によって持続的で
力強い成長を達成していました。すなわち、豊富で安
価な労働力とともに、製造業、輸出、テクノロジー、
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ジアの虎」諸国からの輸出品に対して、はるかに競争
力を強めました。ドルが上昇するにつれ、問題を嗅ぎ
付けた為替市場では、アジア通貨が売られ始めました。
まず狙いを付けられたタイバーツは、1997 年7月に切
り下げを余儀なくされました。タイがペッグ制を放棄
するや、為替トレーダーたちは残りのアジアの虎にも
襲いかかり、それらもペッグ制の崩壊を受け入れざる
を得なくしました。最終的には、金融支援と資本逃避
の歯止めのために国際通貨基金の介入が要請されま
した。
今、新興国市場は再び資本逃避に苦しんでいます。と
1
はいえ、当時からいくつか変わった点もあります。ウ
危機について、一般的でしばしば繰り返されるひとつ
ォール・ストリート・ジャーナル紙の最近の記事が指
の説明は、アジアの虎が、貿易と資金フローの自由化
摘するように、アジア各国・地域の大部分が米ドルペ
を進めすぎた結果、金融市場の深刻な変動を招き、そ
ッグ制を維持しておらず、為替レートは自由に変動し
れが実体経済を不安定にさせたというものです。コロ
ます。加えて、アジアの各中央銀行の外貨準備もかな
ンビア大学の経済学者でノーベル賞に輝くジョセ
り大きなものになっています。とはいえ、海外資本へ
フ・スティグリッツ教授も、「自由化の行き過ぎ」が
の依存度は高いままです。インドでは、ルピーが 3 ヶ
アジア危機の根本的原因であり、それがこれらの国々
月で 13%下落し、対米ドルの最安値を更新しましたが、 を「投機家の意向」のままに従わせることになったと
対外債務は 4,000 億ドルを越え、そのおよそ 80%は外
主張していることは、よく知られています。おそらく、
貨建てです。経常赤字は GDP の約 5%に相当します。
スティグリッツ教授などが主張するように、資本流入
同様に、通貨ルピアが対米ドルで4年ぶりの安値を記
録したインドネシアでは、昨年 GDP 比 2.7%であった
経常赤字が、4.4%に拡大しているとエコノミスト誌は
伝えています。
これらの国々では、赤字解消のために通貨が大幅に下
落する必要があります。市場はすでにバーナンキ議長
の量的緩和縮小発言に反応しており、これらの国々に
成り代わってグローバル投資家が選択を済ませてし
まっているとはいえ、これらの国々の状況は抜き差し
ならぬものとなっています。何もせずに自国通貨が続
落する場合に対外債務の膨張を甘受するべきなので
しょうか、それとも自国通貨を防衛しつつ、国内景気
刺激のために低金利を維持するべきなのでしょうか。
の管理にはより慎重なアプローチをとるべきであり、
既にこの問題には学者や政策立案者から新たな関心
が寄せられています。しかし、自由な市場金利と為替
レートの廃止を同時に強調することなく、ある国の海
外資本への開放性を問題視することは、近視眼的であ
るように私には感じられます。
当面の問題に戻りましょう。インドやインドネシアと
いった新興国(トルコやブラジルは言うに及ばず)に
とって不幸なことに、先進国の金融緩和がまたもや生
み出したクレジットバブルは、破裂目前のように見え
ます。違うアナロジーで言えば、マネーは水のような
ものです。それは、いつもどこかに流れて行きますが、
どこに向かっているかが明らかになることは決して
ありません。そうした流れの中で行われる投資は、結
このジレンマは、1997 年のアジア金融危機から得た主
果的に失敗となることが避けられませんが、それは惨
要な教訓が今でも同様に有効であることを示してい
事が起きてから始めて明らかになるのです。
ます。すなわち、政府の経済政策は、それが金利水準
の市場外での決定、為替ペッグ制、その他のなんであ
れ、通貨やクレジットも含め、すべての需給を市民が
自由に選択することによって達成される均衡状態か
らの逸脱を本来的に市場に強いるものです。その結果
としての不均衡は、最終的に、そして本来的に市場を
不安定にします。どこでその不均衡が首をもたげるか
を知ることはできません。まさに、私たちが今見てい
るようにそれが起こるまでは。
執筆者
ロン・リンカス(Ron Rimkus)、CFA
CFA 協会のコンテンツ担当役員で経済、代替投資に注
力。Mesirow Financial、BB&T Asset Managmenrt などで
大型株運用に従事。ブラウン大学経済学士、UCLA
Anderson School of Management で MBA。
(翻訳者:清水 英佑、CFA)
自由な資本移動についてはどうでしょうか。1997 年の
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英文オリジナル記事はこちら:
http://blogs.cfainstitute.org/investor/2013/08/27/tur
moil-in-emerging-markets-is-it-1997-all-over-again2/
注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記事
を日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版およ
び英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版
の内容が優先します。
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