CFA 協会ブログ 2012 年 1 月 5 日 No.13 世界のコーポレートガバナンス:2011 年の事例と 2012 年の注目点 Global Corporate Governance: What Happened in 2011 and What to Expect in 2012 マット・オーサグ、CFA ここはコーポレートガバナンスについて国ごとの優 レベルの証券規制機関を持たない唯一の国となりま 劣をつける場でもなく、一つの事例を他より重要だと す。 みなすこともありません。したがって、アルファベッ ト順に各国の状況を見ていきましょう。 2012 年の注目点:オタワの連邦政府が振り出しに戻っ て最高裁判所を満足させる規則を作成し直すなおす オーストラリア:オーストラリアでは 2011 年に、 「ツ ため(最高裁判決は州政府の権利を侵害することのな ーストライク・ルール」 (2011 年改正会社法)が導入 い改正案提出の余地を残しました)、目先の進展は予 されました。このルールは、非拘束決議を強化し、会 想されません。一方、ひとつの州における規制機関の 社の報酬報告書に株主総会で 25 パーセント以上の反 判断が他の州でも認められる現在の「パスポート」制 対票が 2 年連続で投じられた場合、株主に取締役を解 だけで十分との主張もあります。 任する機会を与えるものです。この場合、株主はすべ ての取締役を解任するかどうかを決議します。そして 有効投票の 50 パーセント以上が賛成すれば、90 日以 内に会議を開いて取締役を選任することになります。 2011 年終わりまでに、12 社のオーストラリア企業が 「ワンストライク」の反対票を投じられており、報酬 の問題に関して投資家に譲歩するのか、取締役を解任 されるリスクを負うのか、1 年間の猶予を与えられま した。 中国:中国の規制当局が最近努めているインサイダー 取引の防止に焦点を当てることは間違いありません。 これらの規則は前進ではありますが、中国で今年生じ た純粋なコーポレートガバナンスの事例はサイノフ ォレスト(Sino-Forest)社に関するものでした。 昨年 6 月、調査会社のマディー・ウォーターズ(Muddy Waters)社は、トロント上場の中国企業に関し、同社 所有資産について、森林に至るまでその価値を故意に 過大評価しているのではないかとの指摘を含め、同社 2012 年の注目点:ワンストライクの会社の中にツース が株主に提供していた情報の信ぴょう性に疑問を呈 トライクをとられる会社があるでしょうか、またその しました。マディー・ウォーターズ社は歯に衣を着せ 場合に、どのような影響があるでしょうか?例えば、 ず、「宇宙規模の」不正とサイノフォレスト社を非難 株主が広く分散していない時に、この種の仕組みを通 しました。 じて意図的に取締役を解任することが容易になる、と いう懸念があります。当然ながら、「過半数以下」の 票でこのような結果がもたらされることを恐れる会 社側からの反対もあります。 そこからが下り坂でした。同社の株価は暴落し、CEO (最高経営責任者)が辞任し、マディー・ウォーター ズ社の主張に関する内部調査を実施したサイノフォ レスト社は、投資家から訴訟の的とされました。直近 カナダ:2011 年の終わりに、カナダの最高裁判所は、 の数ヶ月間で、カナダの規制当局は同社財務の調査を 全国レベルで単一の証券規制機関を設ける計画を違 開始し、同社が 1 千万ドルの利払いを怠ったため、18 憲とし、国内の規制および執行を簡素化するために長 億ドル相当の債務が不履行となりました。一方、米国 く検討されてきた計画を中断させました。少なくとも およびカナダの規制当局は中国政府に働きかけ、IPO 当面の間、カナダは引き続き先進工業国のなかで全国 (新規株式公開)にかかる厳しい開示規則を逃れるた 日本 CFA 協会 1 めに海外市場に上場している「受け皿」会社を買収し 記 事 ”Blurry Images: Investors, Regulators, Auditors て隠れ蓑にする、サイノフォレスト社のような「逆さ Missed Olympus Warning Signs(曖昧な印象:オリンパ 合併(reverse merger)」会社に関しても、ディスクロ スの警鐘を見逃した投資家、規制当局、監査法人)” を ージャーの強化を求めています。 ご参照ください。 2012 年の注目点:米国証券取引委員会(SEC)は 2011 2012 年の注目点:世界中のコーポレートガバナンス専 年 11 月、中国の逆さ合併会社に関する規則を厳しく 門家は、オリンパス事件をきっかけにして長年の懸案 しました。議論が沈静化したため、規制がさらに強化 だった日本のコーポレートガバナンス体制の見直し される見込みはありませんが、中国や他の地域で別の が進むのではないかと過度に期待しています。さてど 逆さ合併会社が国際的な投資家に問題を生じさせる うなることか。私は懐疑的です。 ならば、話は異なります。 中南米:2000 年 4 月、中南米コーポレートガバナンス ドイツ:ドイツ銀行は CEO のヨゼフ・アッカーマン 会議(Latin America Corporate Governance Roundtable) (Josef Ackerman)氏を監査役会会長に指名する予定 が設立されました。同会議は、ハイレベルの政策当局、 を取りやめました。アッカーマン氏は今年 5 月にクレ 規制当局、市場参加者にそれぞれの経験を共有する場 メンス・ベルジッヒ(Clemens Boersig)氏の後任とし を提供することによって、コーポレートガバナンスの て会長に就任する予定でした。この計画は CEO が会 向上を目指しています。同会議には、アルゼンチン、 長に就任する前に 2 年間の猶予期間を求めるドイツの ボリビア、ブラジル、カナダ、チリ、コスタリカ、コ コーポレートガバナンス規則に違反する可能性があ ロンビア、ドミニカ共和国、エクアドル、メキシコ、 ったため、コーポレートガバナンスの専門家から批判 パナマ、ペルー、スペイン、スウェーデン、トルコ、 されていました。株主の 25 パーセントから支持され ウルグアイ、英国、米国、ベネズエラの代表者が参加 れば同規則の適用を免除されるものの、そうした支持 しています。 を得られないことがアッカーマン氏の会長昇格を断 念する一因になったものと見られます。 2011 年 11 月、ペルーのリマ市で開かれた会議では、 16 か国から投資家、上場企業、規制当局、ガバナンス 2012 年の注目点:この事例はドイツのコーポレートガ 専門家が参加し、中南米でコーポレートガバナンスの バナンス規則を免れようとする会社に強いメッセー 方針および手続きを強化するための戦略を探りまし ジを伝えています。将来、会社がコーポレートガバナ た。 ンス規則の適用を免れようとする場合には、投資家の 強い支持を確保する必要があります。 会議の成果は、中南米におけるコーポレートガバナン スで機関投資家が果たす役割についての議論から国 日本:オリンパス事件は間違いなくガバナンスに関す 有企業へのコーポレートガバナンスの適用に至るま る最大のニュースでした。この事例では、厳しく問題 で様々です。中南米におけるコーポレートガバナンス を追及し、非協力的かつ闘争的な取締役会からの脅し の現状について理解することに関心があるならば、こ に屈しなかった CEO のおかげで、10 年にもおよぶ不 の会議が提供するリソース以上に優れたリソースを 正がついに明るみに出たのです。オリンパス社におけ 見出すことは困難でしょう。 るガバナンスの失敗に関する私たちのこれまでの考 え に つ い て は 、 2011 年 11 月 4 日 付 け ブ ロ グ 記 事 ”Corporate Governance in Japan – Plenty of Room for Improvement(日本におけるコーポレートガバナンス- 大きな改善の余地)” および同 11 月 22 日付けブログ 日本 CFA 協会 2012 年の注目点:2012 年に同会議のネットワークや タスクフォース、その他の関連団体は、企業サークル ( Companies Circle )、 国 有 企 業 ネ ッ ト ワ ー ク (State-Owned Enterprises Network)、関連当事者取引タ スクフォース(Related Party Transactions Task Force)、 2 中南米コーポレートガバナンス協会ネットワーク ( Network of Latin American Corporate Governance Institutes)、また可能性としてはコーポレートガバナン スおよび機関投資家に関するコロンビアのタスクフ ォースの会合を通じて、意欲的に取り組みます。 みが残念な結末となりました。 2012 年の展望:SEC はプロキシ・アクセスの問題 に当面は立ち返る意向を示していません。しかし、 株主は SEC が同規則を再検討することを待っては いません。実際に、 「個別注文(private ordering)」、 英国:英国は長年にわたってコーポレートガバナンス つまり個別企業の株主にプロキシ・アクセスの請求 に関するすべての事項で基準の担い手ですが、現在の を認める SEC 規則を裁判所は否定していません。 英国コーポレートガバナンス規範(「統一規範」とし 現時点で、16 件のプロキシ・アクセス提案が 2012 ても知られる)は、直近の 2010 年改正を含め、より 年の取締役改選期に向けて米国企業に提出されて 多く改正されています。財務報告委員会(Financial おり、そのうち 6 件はノルウェーの年金基金が行っ Reporting Council: FRC)は 2011 年 10 月、英国コーポ たものです。これらの提案は、定款を変更して株主 レートガバナンス規範の修正を決定したと発表しま による取締役の指名を認めるよう会社に求めてい した。FRC がつい先月公表した報告書は、統一規範で ます。結果がどうなるのか注目しましょう。 取り上げられている多くのガバナンス問題をうまく まとめています。 2012 年の注目点:統一規範の改正は 2012 年に公表さ れるため、規範の他の箇所に対する改正案に関して、 公の協議が 2012 年初めに行われると予想しています。 執筆者 マット・オーサグ、CFA、CIPM CFA 協会の資本市場ポリシー担当ディレクター。 (翻訳者:獅々見 和秀、CFA) 米国: Say on Pay:2011 年に世界で初めて米国で”say on pay (役員報酬の株主承認)”が導入され、結局 40 社以上 で役員報酬が否決されました。これは多いように見え るかもしれませんが、米国には数千社も上場会社があ 英文オリジナル記事はこちら: http://blogs.cfainstitute.org/marketintegrity/2012/01/05/ global-corporate-governance-what-happened-in-2011-a るため、最終的な総計は全上場会社の 1%未満です。 nd-what-to-expect-in-2012/ 2011 年の米国における”say on pay”のより詳細な結果 注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記 については、シュルティ・ ロス・アンド・ゼイベル 事を日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版 法律事務所(Schulte Roth & Zabel)の優れたレポート および英語版で内容に相違が生じている場合には、 を参照してください。 英語版の内容が優先します。 2012 年の注目点:2011 年に役員報酬が否決された会 社が注目されます。株主の懸念に対応する措置を既に 講じた会社もあり、そうでない会社もあります。再び 否決されたならばどうなるでしょうか?どれだけの 会社が 2012 年に初めて否決されるでしょうか? Proxy Access:2011 年 7 月 25 日付けブログ記事”Proxy Access Rejected – Killing It Softly(プロキシ・アクセス 拒絶-実質的な否定)”で報告されたように、米国で はプロキシ・アクセス(株主による取締役指名)の試 日本 CFA 協会 3
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