欧州200年の夢を わずか8年で実現させた 英仏海峡トンネルプロジェクト

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欧州200年の夢を
わずか8年で実現させた
英仏海峡トンネルプロジェクト
20世紀最後のビッグプロジェクトといわれた英仏海峡トンネル。2兆円にも及ぶ
事業費を民間資金で賄ったため、可能な限り早く完成することが求められた。
そこでフルに活用されたものがP2Mで唱えられているコンセプトであった。
従来のプロジェクトマネジメントでは対応不可能
20世紀最後のビッグプロジェクトといわれた英仏海峡トンネルプロジェクトは、1986年2月に英仏
両政府による事業認可がなされ、同年5月に工事着工、’
94年5月に開業した。着工からわずか8年で欧
州200年の夢を実現させたことになる。
このプロジェクトの完成は、長大海底トンネル建設技術の確立とともに、新たな輸送システムにより、
EU(欧州連合)経済圏に極めて大きな影響をもたらす社会経済基盤事業であった。しかし、この大規模
で複雑な国際プロジェクトは、個別のプロジェクトで設定された特定の目標を効果的に計画、実行、管理
するという従来型のプロジェクトマネジメントでは対応することが難しくなっていた。
そこでP2Mに盛り込まれたシステムを計画するスキーム、システムを利用するサービスをプロジェク
トとして認識し、知識、ノウハウ、データ、仕組みなどを活用して、連鎖波及的に価値を追求するプロジ
ェクトサイクル結合による統合マネジメントが進められたのである(図表参照)。
トンネルをいかに早く掘るかが最大のテーマ
英仏海峡トンネルをめぐっては、過去にも再三に渡って政治的な中断が起きていた。こうしたことを防
ぐため、英仏両政府による直接財政支援は仰がず、トンネル建設工事の巨額の事業費(88億ポンド、約
2兆円、邦銀38行が融資に参加)は全て国際金融機関による民間資金だけで賄う方式が採用された。こ
のため支払い金利負担が莫大となり、早期に資金を回収するため「トンネルをいかに早く掘るか」という
高速施工の実現が最大のテーマとなった。
事業計画は多くのグループから提案された計画案について技術監査、審査コンサルタントによる検討評
価を行なった。その結果、ユーロトンネル社案(単線鉄道2本と中間にサービストンネル1本)が採用さ
れた。これによりプロジェクトの基本構想としての基本運営方針、基本要求仕様書、プロジェクト協働関
係、資金計画、環境問題・技術的リスクへの対応などが策定された。
厳しい条件を盛り込んだ異例の契約上の仕組み
長距離、高速掘進、大深度での使用など厳しい環境条件を満たすマシンの設計、製作、組立、運転保守
などに必要な高度な技術力の統合は日欧国際協力による実現を図った。
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● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
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P2M 説明事例集
プロジェクトのステークホルダー間の全体最適化の実現を図るため、工期・掘進目標達成に対する奨励
金ならびに納期の非遵守に対するペナルティー条項を設けた。そして、どのような理由があろうと、たと
えそれがサプライヤーの責任に起因しない場合であっても、所定の工期および目標が達成されなかった場
合には、いかなる相殺や求償を求めることはできないと定め、従来に例のない契約上の仕組みを設けた。
本来、サービスモデルとしては開業以降を対象とすべきであろう。しかし、ここでは、トンネル掘削開
始から開業に至る期間でのトンネル掘削システムの運用、保守ならびに地質・湧水など自然条件の変化へ
の対応、安全管理を通しての掘削技術、鉄道敷設に関するノウハウ、データなどによる海底トンネル工事
ノウハウの蓄積を対象とした。
こうした結果、わずか8年の工期で欧州念願の英仏海峡トンネルが完成した。
図表 プロジェクトライフサイクルの結合
サー
仏を ビス
つな ノウ
ぐ工 ハウ
事で を英
活用
スキームモデル
国際金融機関によるプ
ロジェクトファイナン
スの実現、2 国間協定、
日欧国際協力によるプ
ロジェクト
サービスモデル
海底トンネル工事ノウ
ハウ、英・仏・日の異
文化の相互理解
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システムモデル
高速・長距離掘進機の
ハード技術、大規模・
複雑な国際プロジェク
ト遂行ノウハイの蓄積
高度技術・金融・国
際調達・協業、日欧
国際協力によるシス
テムノウハウで新た
なサービスを提供
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
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