モロッコの恐竜 石垣 忍 築地書館 の不思議 足立恒雄 㲋‾2‾ ち 㿈 見えてはいるけれどないもの。ないようであるも 誰もが一度は、海外で生活や仕事をしてみたいと の。納得しがたいがそう考えざるをえない⋮。見慣 いう夢を抱いたことがあるのではないだろうか。著 れた直角三角形の斜辺の長さが問題だった!一辺の 者はそれを二十代後半で実現した。 長さが1 である正方形の対角線の長さは である。 本書は青年海外協力隊に地質学を専門とする著者 がモロッコのエネルギー鉱山省勤務の学芸員として 目に見えて存在しているのに、その正体は無理数。 参加し、モロッコにあるアトラス山脈から出る恐竜 その昔、誰もその正確な長さをあらわす数を知らな の化石や足跡の発掘、研究、展示の準備など幅広い かった。そしてさらに不可思議に、それを一辺とす 業務を任された二年間の顚末を書き記したものであ る正方形の面積は、 またきれいな整数であらわせた。 る。海外での生活やそこで出会った人々の描写が冷 万物は数であるとした古代ギリシアのピタゴラス教 静で客観的であり、第三世界の雰囲気が本の中から 団にとって、この事実は深刻な教義の破綻だった。 漂ってくる。本の後半戦では、アトラス山脈で見つ その深淵に彼らは慄いた。深淵はどのように克服さ かった恐竜の足跡の発掘とその研究成果が図や絵を れたのか。もっとも原初的な抽象的思考から始まっ つかって説明されている。足跡からその恐竜の大き たとされる数学が出会った、いくつもの﹁不思議﹂ さ や 恐 竜 の 行 動 を 予 測 し て い く と こ ろ は、 ダ イ ナ をていねいに切り開き、人間存在の﹁不思議﹂へま ミックで面白いところである。 で至る。著者の足立先生は、 ﹁数学は、ひらき直っ て言えば、純粋に頭の中だけの学問なのであって、 こうした地質学の分野の地道な研究成果が元にな り恐竜映画の作成に関わっているのかと想像すると その対象は、実際には思惟的にしか存在しない⋮﹂ 恐竜映画の味わいも変わってくる。 と言い切る。この本を読んで、数学とは何か考えて ︵五十嵐 ︵田村 みては⋮? 和江︶ 純也︶ 㲋̅2̅ (110)
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