児童の基礎科学への関心を高める 科学教室指導プログラム 団体名 代表者 は じ め 金沢市児童科学教室 藤 井 昭 久 に 子供は本来理科が好きであり、自分の確かめたいことを思い通りに調べることができ、 失 敗 す る こ と も 大 切 に さ れ 、 時 間 も 保 障 さ れ る な ら ば 、「 理 科 嫌 い に な る は ず が な い 」 と 私たちは信じています。本教室は「多くの子供たちを“理科好き”にしたい」と願う金沢 市内の小学校理科教師の熱意、そしてボランティア精神により、昭和40年にスタートし ま し た 。 本 年 度 創 立 4 0 周 年 を 迎 え 、 修 了 生 は 計 4,467 名 を 数 え て い ま す 。 子供たちは自分の学校の教室から飛び出し、市内の他校生と共に真剣な表情で観察した り、グループで実験机を囲み、試行錯誤しながら楽しそうに取り組んでいます。幅広い、 独創的な活動を行うことができる理科実験教室です。 1.目 的 児童の科学や自然への興味・関心を高め、科学の基礎的知識や実験操作技能の習熟を図 り、科学的な追究を通して、科学することの能力を育て、その楽しさ、大切さを感じとら せると同時に、社会性、創造性豊かな人間性の基礎を培う。 2.基本的な指導方針 ① 科学研究するための基礎的な見方、考え方、技能を身につける。 ② 教 室 生 の 実 態 を よ く 把 握 し て 一 人 一 人 の 科 学 す る 能 力 を 高 め 、頑 張 り 通 す 態 度 を 養 う 。 ③ 教室生同士の学び合い、考えや力の出し合い、励まし支え合いの中で、良さ見つけの 喜び、楽しみを味わわせる。 ④ 成果報告や発表の効果的な方法を学び、表現力を身につける。 3.必要性・重要性 近年、子供たちに各種の問題が発生していますが、様々な体験の不足が大きな原因とい われています。理科嫌い、科学離れの傾向もそこに起因していると考えられます。学校の 理科の授業時間が学習指導要領の改訂とともに次第に減少し、実験・観察やものづくりを じっくりと行う時間の確保さえも困難な状況に追い込まれています。 自然とのふれあいや科学的な事物・現象との関わり、そのことを介しての子供同士の学 び合いなどの機会が少なくなっていることから生ずる問題は、科学技術立国日本の将来ば かりでなく、人間形成上からも深刻な状況にあるといえます。 本科学教室は、未来を担う子供たちが学校教育の枠だけでなく、実験室や野外において 弾力的で自由なカリキュラムにより科学を楽しみ、科学への好奇心や探究心を培おうとす るものです。豊かな人間性育成の原点である「自然とのふれあい」を重視しており、本教 室 の さ ら な る 発 展 が 、 金 沢 の 子 供 た ち を 「科 学 好 き 」に す る と 信 じ て い ま す 。 4.運 ① ② ③ ④ ⑤ 営 要 項 対象児童…金沢市内の小学校5・6年生 約200名 会 場…明成教室・野町教室・中央教室(金沢市内の三小学校の理科室等) 入室期間…第5・6学年の2年間 活動日時…第1・3土曜日 午前9時~11時30分 指 導 員 … 小 学 校 理 科 教 師 3 4 名 (〈 補 助 員 〉 金 沢 大 学 ボ ラ ン テ ィ ア 学 生 1 2 名 ) 5.活動内容年間プログラム 月 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 ⑴ 5 年 生 *第40期生入室式 *基礎実験 ↓ ↓ ↓ *野外実習説明会 *野外実習(銀河の里キゴ山) *三教室一斉環境現地調査 *基礎実験 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓*研究のまとめ *教室別研究発表会 *修了式並びに成果発表会 6 年 生 *入室式参列 *自由研究オリエンテーション *自由研究 ↓*テーマと研究グループ決定 ↓ *臨海実習事前説明会 *臨海実習(国立能登青年の家) *臨海実習海藻標本等整理会 *自由研究 ↓*研究中間検討会 ↓ ↓ ↓*研究のまとめ ↓ * 「自 由 研 究 の あ ゆ み 」作 成 *教室別研究発表会 *修了式並びに成果発表会 年間の基本内容 ① 科学教室5年生 *初年度の段階で基礎的実験・観察技能の定着 *基本プログラムに基づいて指導(児童科学教室5年テキスト・教師用指導書) *5年生用テキスト作成委員会を組織(内容に検討を加えて改訂) ② 科学教室6年生 *一年間継続の研究活動(応用発展的な課題追究) *グループ又は個人の自由研究テーマを追究(問題解決能力の伸長) ⑵ 教 室 外 活 動 ① 5年野外実習…三教室合同、金沢市キゴ山少年自然の家1泊2日の自然体験学習 ・川原での水棲昆虫観察 ・自然学習館見学 ・天体観測 ・植物採集と標本作り等 ② 6年臨海実習…三教室合同、国立能登青年の家1泊2日の自然体験学習 ・海岸での海浜植物や磯の動物観察 ・海藻採集、海藻標本作り ・海水微生物観察等 ③ 三教室一斉現地環境調査活動…金沢市内の空気の汚染状況調査 ・地域の松の葉を一斉に採集して調査実験 ・金沢市内の空気汚染状況マップの作成 ⑶ 中間検討と成果発表 ① 自由研究中間検討会(各研究グループの研究進捗状況を全体に説明) *課題等について金沢大学理学部教官の指導・助言を受けて今後の研究方針考察 ② 教室別研究成果発表会(全研究グループの研究成果発表と教室代表選出) *大学教官からの講評・指導助言(5年生は次年度研究の参考に) ③ 修了式及び年間活動報告(修了証書授与・教室代表研究発表) ④ 全自由研究の概要、思い出等を「自由研究のあゆみ」に編集刊行し配布 6. 教育効果及び成果 ⑴ ◎ ◎ のびゆく科学教室児童 学校教育の枠にとらわれない弾力的で自由な探究活動 科学を追究する基本的な姿勢を学び、科学への好奇心や探究心がふくらむ ↓ 《「 理 科 嫌 い 」 と は 無 縁 》 ☆自然と真剣に向き合う理科好きの児童を輩出 *学校の理科授業において中心的存在となり活躍 *夏休みの科学研究作品展などに積極的に出品 ☆ 人 生 に お け る 貴 重 な 原 体 験 (将 来 の 進 路 決 定 の 潜 在 的 意 識 ) *理工系に進学して企業の研究開発分野で活躍 子供たちは自分の学校の教室から離れ、他校生と共に実験・観察を通して理科の面白さ を知ります。研究課題は多岐に渡り指導する側の苦労はありますが、子供たちは自分の確 かめたいことを調べることができ、失敗することも大切にされ、時間も保障されるので、 「理科嫌い」とは無縁の世界です。 科学教室生の多くは、科学教室に通うことにより理科に対する興味・関心を高め、科学 を追究する基本的な姿勢を学び、そのことが土台となって自主性が育ち、学んだことが日 常生活にもしっかりと根付いていっています。実際に、身につけた問題解決能力により、 自分の学校の理科授業において中心的存在となって学習を進めたり、夏休みの科学研究作 品展などにおいても成果を挙げています。 いずれにせよ、科学教室での2年間が人生における貴重な原体験となり、将来の進路を 決 め る 際 に も 、「 楽 し か っ た 。 科 学 が 好 き だ ! 」 と い う 潜 在 的 な 意 識 と し て 残 り 、 大 き な 影響を与えているものと思われます。実際に、教室修了後、理工系に進学して企業の研究 開発分野で活躍している者、理科教師や医師の道を選択した者は少なくありません。 ⑵ ① 児童と共にのびる指導員 科学する能力・資質を高める研修姿勢 《人は自分に無いものを人に与えることができない》 *科学教室指導という共通土俵に集い、連携して切磋琢磨 *大学教官からの積極的な指導・助言を要請 *テキスト作成委員会等の組織による内容の検討・吟味 *指導員研修の場を自主的に設定 ↓ ☆児童と同時に数多くの理科教師・学生ボランティアが育つ 本プログラムは、科学する子供の育成を主眼とするものですが、同時に多くの理科教師 を育ててきたことは疑いもない事実です。さらに、学生ボランティアについても、子供と 接しながら貴重な体験を積むことができ、理科教師育成の一環にもなっています。 指導員は「人は自分がもっていないものを人に与えることができない」という信念のも と、子供と関わることを通して、自らの科学する能力や資質を高めています。 子供たちと共に自由研究テーマに沿って一年間追究し、問題解決の道筋を体験します。 カリキュラムの企画・運営にも知恵を絞り、時には大学教官の指導・助言を受けます。ま た、テキスト作成委員会も組織し、会合を重ねて内容の充実を図り、野外実習や臨海実習 では、自然の中で本物を観察し、子供と共に活動します。研究成果の発表や研究のまとめ 方についても工夫します。そうした指導員の関わりが、子供に知的興奮と新鮮な感動をも たらしてきました。時には、直接の指導と離れて、指導員研修の場も自主的に設定して、 幅広く理科教育に関する自己研鑽に励むこともあります。科学教室はこれからもこうした 意 欲 あ る 指 導 員 ( 理 科 教 師 ) を 中 心 に 支 え ら れ 、「 科 学 好 き 」 の 子 供 を 育 て て い く こ と で しょう。 ② 多方面で活躍する指導員 金沢市立小学校教育研究会理科部会 児童科学教室 《発展独立》 発明教室 宇宙少年団 ① 金沢市全体の理科教育振興 *在籍学校の理科教育の推進役として活躍(教室児童だけでなく市内の全児童に影響) ② 理科教師としての自信 *石川県理科研究協議会のリーダー・推進役 * 全 国 小 学 校 理 科 研 究 大 会 開 催 の 原 動 力 … 第 9 回・第 20 回・第 43 回 (平 成 22 年 度 計 画 ) お 《 わ り に(科学教室の不易) い つ の 時 代 に も 、 理 科 好 き の 多 く の 児 童 と 指 導 員 が 存 在 し ま す 。》 ☆ 自然の特性を探る観察・実験を生命線に活動します。 ☆ 児童も教師も共に自然の美しさや巧みさの探求者となります。 ☆ 児童の”不思議”を調べようとする強い気持に指導員が寄り添います。 ☆ 科学する心を育てることにより、本物の「科学好き」を育てます。 科学教室は金沢の地で発展し、しっかりと根付いています。根付かせたのは草創期から そこに集う理科好きの指導員と多くの子供たちが存在したからです。 一つの組織が長期にわたり同じ営みの繰り返しをしていてはやがて水の流れは淀んでく るものですが、科学教室は何時の時代も淀むことなく実に40年の長きにわたり輝き続け てきました。何故でしょうか。自然の特性を探る観察・実験を生命線に活動してきたから だと思います。科学教室において観察・実験は、科学的知識を注入するためではなく、子 供自らが自然の美しさや巧みさを追求する探究者、発見者となることであります。観察・ 実験は、子供と指導員が見つけた自然の特性を自分たちの課題としてさらに追究し学びと っていくための営みであり、科学する心を育てます。 科 学 の 営 み は 、「 発 見 ・ 創 造 の 営 み 」 で も あ り 高 度 で す 。 し か し 、 本 来 子 供 は 自 然 の 不 思議という壁にぶつかり、挫けそうになっても自分で立ち上がり見つけようとする力をも っています。指導員は、その力を見くびることなく子供の”不思議”を調べようとする強 い気持に寄り添い支えていく必要があります。 この人を育てる不易の部分を確認できる科学教室である限り、金沢の子供たちがますま す「科学が好き」になり、世界に向けて力強く羽ばたいてくれることでしょう。 本年度、本教室は創立40周年を迎えましたが、創設者である太田兵吉先生がこの3月 に享年93歳でご逝去されました。ご冥福をお祈りするとともに、先生の「教師が育てば 子供は育つ」との教えを肝に銘じて、指導員一同さらに精進していく所存です。
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