キャリア教育 - 北海道新篠津高等養護学校

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実践研究主題
「キャリア教育」の推進と指導内容の充実をめざして
~キャリア発達を支援する授業づくり~
2
実践研究主題の設定の理由
(1) これまでの研究から
平成20・21年度研究では,「働く力」を育てる指導内容・指導方法の充実を
は か る た め ,個 別 の 指 導 計 画 の 活 用 と 作 業 学 習・進 路 指 導 の 三 つ の 視 点 か ら 研 究 に
取り組んだ。
個 別 の 指 導 計 画 研 究 グ ル ー プ で は , 「働く生活に必要な力」を育てるため,個 別 の
指 導 計 画 の 様 式 の 見 直 し を お こ な っ た 。個 別 の 指 導 計 画 の 作 成 状 況 を ふ ま え て 個 別
の 指 導 計 画 の 記 入 ポ イ ン ト を ま と め ,指 針 を 立 て た 。ま た ,授 業 研 究 で は ,指 導 形
態 別 の 目 標 を 授 業 時 間 の 目 標 に 生 か す こ と に 焦 点 を あ て た 授 業 を お こ な っ た 。作 業
学 習 研 究 グ ル ー プ で は , 「仕事を行う上で直接必要な力」を探るため,卒 業 生 の 進 路
先 で の 追 跡 調 査 ア ン ケ ー ト ,離 職 し た 卒 業 生 の 原 因 調 査 の 集 計・分 析 を お こ な い「 働
く 力 」を 明 確 化 し た 。ま た ,生 徒 の 実 態 把 握 や 学 習 目 標 設 定 を 把 握 す る た め 要 素 表
を 作 成 し た 。各 学 科 の 授 業 公 開 お よ び 他 学 科 の 作 業 学 習 へ の 授 業 参 加 を 実 施 し ,指
導 内 容 ,指 導 方 法 ,指 導 形 態 ,目 標 設 定 の 違 い を 研 修 す る こ と で 自 学 科 の 作 業 学 習
に 活 用 し た 。進 路 指 導 研 究 グ ル ー プ で は ,「 職 業 生 活 を 継 続 で き る 力 」を 身 に つ け
る た め に 必 要 な 学 習 内 容 を あ ら い だ し ,L H R ,生 活 単 元 学 習 の 進 路 に 関 わ る 学 習
内 容 の 一 覧 表 を 作 成 し た 。L H R で ,進 路 に 関 わ る 学 習 を ど の よ う な 内 容 に す る の
か 担 任・担 当 者 と 進 路 担 当 者 が 討 議 し ,学 年 や 時 期 に 応 じ て 必 要 な 学 習 内 容 の 授 業
を お こ な っ た 。 三つのグループ研究をとおして,生徒の「働く生活に必要な力」「仕事
を行う上で直接必要な力」「職業生活を継続できる力」を高め,「働く力」を育てること
できた。
(2) 研究の成果としてあらわれた「キャリア教育」の重要性
「 働 く 力 」の 研 究 で 問 わ れ た の は ,キ ャ リ ア 教 育 の 重 要 性 で あ る 。生 徒 の ニ ー ズ ,
個別の教育支援計画をもとにして自分の進路を主体的に選択できる力を養うこと,
キャリア発 達 段 階 に 応 じ た 系 統 的 な 指 導 の あ り 方 が 求 め ら れ た 。キ ャ リ ア 教 育 の 視
点 を 取 り 入 れ る こ と で 生 徒 の 勤 労 観・職 業 観 を 育 成 し ,生 き て い く た め に 必 要 な 知
識を身につけ,実践できると考えられる。
キ ャ リ ア 教 育 の 推 進 は ,新 学 習 指 導 要 領 で 定 め て い る だ け で は な く ,本 校 の 教 育
課 程 の 見 直 し で も キ ー ポ イ ン ト に な っ て い る 。キ ャ リ ア 教 育 の 視 点 か ら 今 ま で の 指
導 を も う 一 度 見 直 し ,新 た な ア プ ロ ー チ と し て 研 究 に 取 り 組 む 必 要 性 が あ る と 言 え
る 。そ こ で ,実 践 研 究 主 題 を「 キ ャ リ ア 教 育 」の 推 進 と 指 導 内 容 の 充 実 を め ざ し て
~キャリア発達を支援する授業づくり~とした。
1
(3) キャリア教育の 位 置 づ け
ア キャリア・キャリア教育とは
キャリアとは「個々人が生涯にわたって遂行する様々な立場や役割の連鎖及び
その過程における自己と働くことの関係付けや価値付けの累積」とされている。
つ ま り ,キ ャ リ ア と は 仕 事 だ け と い う 意 味 で は な い 。キ ャ リ ア と は ,家 庭 人 ,市
民 ,労 働 者 ,余 暇 人 と い っ た 立 場 や 役 割 の 関 係 や つ な が り ,ま た ,家 庭 生 活 ,職
業 生 活 ,社 会 生 活 を 生 涯 に わ た っ て お こ な っ て い く こ と と 言 え る 。キ ャ リ ア 教 育
を 職 業 教 育 ,職 業 的 自 立 と い う 狭 義 に で は な く ,生 き て い く た め に 必 要 な 知 識 を
身につけ,実践できるようになるための教育としてとらえることが重要である。
障害の程度には,関係しない。
イ
新学習指導要領におけるキャリア教育
新 学 習 指 導 要 領 で は ,キ ャ リ ア 教 育 に つ い て『 生 徒 が 自 己 の 在 り 方 生 き 方 を 考
え ,主 体 的 に 進 路 を 選 択 す る こ と が で き る よ う ,校 内 組 織 を 整 備 し ,教 師 間 の 相
互 の 連 携 を 図 り な が ら ,学 校 の 教 育 活 動 全 体 を 通 じ ,計 画 的 ,組 織 的 な 進 路 指 導
を 行 い ,キ ャ リ ア 教 育 を 推 進 す る こ と 』と あ る 。文 部 科 学 省 の キ ャ リ ア 教 育 の 手
引 き で は ,キ ャ リ ア 教 育 を「 児 童 生 徒 一 人 一 人 の キ ャ リ ア 発 達 を 支 援 し ,そ れ ぞ
れにふさわしいキャリアを形成するために必要な意欲・態度や能力を育てる教
育」としている。
ウ これまでの実践からキャリア教育へ
い わ ゆ る キ ャ リ ア 教 育 が 本 校 で 行 わ れ て い な い わ け で は な い 。昨 年 の 進 路 研 究
グ ル ー プ で の「 職 業 生 活 を 継 続 で き る 力 」を 身 に つ け る た め に 必 要 な 学 習 内 容 が ,
生 活 単 元 学 習 ,L H R に 盛 り 込 ま れ て い る か ど う か 検 討 は ,キ ャ リ ア 教 育 を 考 え
る の に 重 要 な 視 点 で あ り ,L H R で の 進 路 学 習 は ,キ ャ リ ア 教 育 に 直 結 す る も の
で あ る 。進 路 グ ル ー プ の 研 究 は ,キ ャ リ ア 教 育 の 中 で 勤 労 観 ,職 業 観 を 育 て る 内
容にポイントを絞った取り組みであると言える。
作 業 研 究 グ ル ー プ が お こ な っ た 卒 業 生 の 進 路 先 で の 追 跡 調 査 ア ン ケ ー ト ,離 職
し た 卒 業 生 の 原 因 調 査 の 集 計・分 析 は ,キ ャ リ ア 教 育 推 進 に あ た っ て ど の 領 域 に
指 導 の 重 点 を 置 く の か 考 え る の に 貴 重 な デ ー タ と な る 。ま た ,作 業 学 習 グ ル ー プ
が 作 成 し た 要 素 表 は ,キ ャ リ ア 教 育 の 発 達 段 階 を は か る チ ェ ッ ク 表 と し て 活 用 で
き る 。作 業 グ ル ー プ の 研 究 は ,キ ャ リ ア 教 育 の 中 で 職 業 教 育 ,職 業 的 自 立 の 部 分
にポイントを絞った取り組みであると言える。
エ
本校におけるキャリア教育のあり方
キ ャ リ ア 教 育 の 推 進 に あ た っ て ,ま ず 本 校 に お け る キ ャ リ ア 教 育 の あ り 方 を し
っ か り と 確 認 し ,職 員 間 の 共 通 理 解 を は か る こ と が 必 要 で あ る 。キ ャ リ ア 教 育 を
職 業 教 育 ,職 業 的 自 立 と い う 狭 義 で と ら え る の で は な く ,障 害 の 程 度 に 関 係 な く ,
生 き て い く た め に 必 要 な 意 欲・態 度 を 育 て る 教 育 と し て 考 え た い 。本 校 の 生 徒 の
実 態 ,置 か れ て い る 環 境 な ど を ふ ま え ,教 育 課 程 の 中 で 総 合 的 に 指 導 す る こ と に
2
よって,職業観・勤労観を育成することができるのではないか。
(4) 教 育 課 程 の 見 直 し と キ ャ リ ア 教 育
本 校 で は ,来 年 度 実 施 に 向 け て 教 育 課 程 見 直 し を 行 っ て い る 。そ の 中 で キ ャ リ ア
教 育 は ,キ ー ポ イ ン ト に な る こ と が ら と な っ て い る 。教 育 課 程 の 見 直 し に 絡 め ,キ
ャ リ ア 教 育 を 教 育 課 程 の 中 で 総 合 的 に と ら え る た め に は , 各 指 導 形 態 で キャリア発
達を支援する指導内容を整理・検討することが重要である。また,生徒一人ひとりのニー
ズやキャリア発達の段階に応じて指導内容を具体化することをめざしている。
(5) キ ャ リ ア 教 育 の 研 修
本校でのキャリア教育の推進にあたって,キャリア教育に関する研修をすすめ,
理 解 を 深 め る 必 要 性 は 言 う ま で も な い 。外 部 講 師 を 招 い た 研 修 会 や 学 習 会 の 実 施 で
全 校 的 な 研 修 を 行 う の と 同 時 に ,先 進 的 な 取 り 組 み を 行 っ て い る 学 校 の 実 践 例 を 研
修することで本校の実践に生かしていきたい。
(6) キ ャ リ ア 発 達 を 支 援 す る 授 業 づ く り
キャリア教育のスタートは,生徒一人ひとりのニーズの的確な把握,キャリア発達の段
階を客観的に把握することとなる。生徒のニーズやキャリア発達の段階に合わせる授 業 づ
く り を 行 い ,指 導 内 容 の 充 実 ,指導の手立てを具体化することでキャリア教育の推進を
めざしたい。授業におけるキャリア発達を支援する指導内容について教職員間の共通理解
を深め,授業実践が充実することによって,生 徒 が 主 体 的 に 進 路 を 選 択 す る 力 を 養 う
ことができるのではないか。
3
実践研究の仮説
「 キ ャ リ ア 教 育 」を 推 進 し ,指 導 内 容 を 充 実 さ せ る こ と で ,生 徒 の 職 業 観 ・ 勤 労 観
を育成し,生きていくために必要な知識が身につくのではないか。
4
実践研究の内容と方法
(1) グループ研修を通した「キャリア教育」の推進
① キャリア発達を支援する指導内容を整理・検討する。
② 生徒一人ひとりのニーズやキャリア発達の段階のついて把握する方法を検討する。
③ 生徒一人ひとりのニーズやキャリア発達の段階に応じた指導内容を具体化させる。
(2) 専門性の向上を目指す研修会の企画,参加
① 校内研修会を開催し,キャリア教育を中心とした特別支援教育の専門性を高める研修を
おこなう。
② 積極的に校外研修会に参加し,教職員への研修内容の共有化をはかる。
③ 公開研修会を実施し,近隣の小・中・高等学校職員に参加を呼びかけ,特別支援教育の情
報提供に努める。
3
(3) 授業実践,授業研究の取り組み
① キャリア教育の指導内容を充実させ,キャリア発達を支援する授業づくりをおこなう。
② キャリア発達の段階に合わせた指導の手立てを具体化し,生徒一人ひとりのニーズに応
じた支援の仕方を工夫する。
③ 授業におけるキャリア発達を支援する指導内容について教職員間の共通理解を深め,授
業実践を充実させる。
5
年次計画
(1) 1年次
① キャリア教育の研修,本校におけるキャリア教育の共通理解
② グループ研究のテーマの設定と研究計画の作成
③ 研究実践の整理,成果と課題のまとめ
(2) 2年次
① 1年次の成果と課題をふまえた研究計画の作成
② 授業実践とグループ公開研究授業の実施
③ 2年間の研究実践の整理,まとめ
④ 研究のまとめ作成
6
平成 22 年度(1年次)のまとめ
(1) キャリア教育の研修
キャリア教育の研修を始める時,まず問題となるのは「キャリアの定義」「キャリア教育とは
何か」ということである。「今までの進路指導との違いがはっきりとしない」「一般就労を希望
する生徒を対象にするのか」「特別な時間を設けて行うものなのか」など疑問の声が多かったの
も事実である。取り組みの始めとしてキャリア・キャリア教育についての全職員が共通認識をも
つことから研修をスタートさせることにした。
そこで,キャリア教育に関する特別支援教育センター 奥田雅紀先生の研修会,伊達高等養護
学校 木村宣孝 校長の講演会をおこなった。講演では,キャリアの定義,ライフキャリアの考え
方,特別支援教育におけるキャリア教育,キャリア発達と教育課程,キャリア発達段階・内容表,
キャリア発達を支援する視点など,キャリア教育について示唆に富んだお話を聞くことできた。
ア
校内研修会「キャリア教育の視点」(特別支援教育センター 奥田雅紀先生5月12日)
<研修会の要点>
・キャリア教育の理解
・キャリア教育とは,勤労観と職業観の育成,進路指導とキャリア教育
・キャリア教育の具体的内容,キャリア発達段階,
・小・中・高等部のキャリア発達のポイント
・実際的な力をつける指導・支援のポイント
・保護者や関係機関の連携
・個に応じた系統的な支援のポイント,個に応じた計画を作成するために
・キャリア教育全体計画の作成,キャリア教育の視点での評価
4
・新たな進路指導の実践的特徴,まとめ
・PATH のワークショップ
イ
公開研修会「キャリア発達を支援する授業づくりとは」<講演内容の要点>
(伊達高等養護学校長
木村宣孝先生
7月30日)
・我が国におけるキャリア教育の位置づけ経緯
・キャリアとは・キャリア教育とは・キャリア発達とは,ライフキャリアの虹
・学習指導要領におけるキャリア教育
・国立特別支援教育総合研究所におけるキャリア教育の研究
・知的障害のある児童生徒の「キャリア発達段階・内容表(試案)」の作成と活用
・学校が有するべき職業的カリキュラム
・特別支援教育におけるキャリア教育の意義,キャリア教育を推進する意義
・キャリア教育の範囲と内容,進路指導とキャリア教育,職業教育とキャリア教育
・特別支援学校(知的障害)における進路指導の意義
・特別支援学校(知的障害)における職業教育の意義
・キャリア教育と教育課程改善の視点,インフュージョンとは
・自己効用感を高めるために,特別支援学校知的高等部におけるキャリア教育の重点
・家庭における生活設計の経験
・キャリア教育における授業改善(充実)の視点
・マクロ的視点
教育課程の改善に反映
・ミクロ的視点
授業づくり・授業改善に反映
ウ
PATH の技法を用いたワークショップ
キャリア教育の研修の一環として行ったのが,PATH の技法を用いたワークショップであ
る。PATH とは,カナダで作成された障害者本人と関係者が一同に会して,その人の夢や希
望に基づきゴールを設定し,そのゴールにおこなう作戦会議のことである。
今回のワークショップでは,ロールプレイ(生徒役,保護者役,教師役など)を取り入れ
ることで PATH をシミュレートした。グループは,学級職員(2~4名)とし,担当学級か
ら対象生徒を1名選んだ。今回のワークショップの目的は,キャリア教育をすすめる上で生
徒のニーズやキャリア発達の段階をとらえ指導内容を具体化することにした。すすめ方につ
いては,北海道特別支援教育センターのキャリア教育研修講座の資料をもとに作成した。
研修をおこなって「生徒の夢や希望を語るのは楽しい。話し合いが盛り上がった」「夢や
希望から目標を導き出せてわかりやすい」「工夫すれば授業に取り入れられるのではないか」
などの感想がきかれた。PATH の技法を用いたワークショップで得られた成果をまとめてみ
た。
(ア) 現実的な可能性を離れて,生徒の夢や希望を語ることができる。
(イ) 生徒の苦手なことよりも,生徒の好きなこと得意なことに焦点をあてることができる。
(ウ) 生徒の夢や希望から「最初の1歩」の目標を導きだし,本人が主体的に取り組める目標
を設定することができる。
(エ) 個別の教育支援計画,個別の指導計画の作成に役立つ。
5
特に,(ア)の生徒の立場から支援をスタートさせること,(ウ)の生徒の夢や希望から目標を
導き出し,本人が納得して主体的に取り組める目標を設定することは,キャリア教育の重要
なコンセプトと言える。PATH の技法を用いたワークショップは,キャリア教育を理解する
にあたって有効なアプローチとなった。
(2) グループ研修(指導形態別)
ア
キャリア教育の4能力領域から見た「キャリア発達を支援する内容表」の作成
8月からは,指導形態に分かれてグループ研修をおこなった。グループ研修では,国立特
別支援教育総合研究所による知的障害のある児童生徒の「キャリア発達段階・内容表(試
案)」をもとに,各指導形態別に「キャリア発達を支援する内容表」を作成した。キャリ
ア教育の4能力領域(人間関係の形成能力,情報活用能力,将来設計能力,意思決定能力)
を各指導形態別の指導内容に当てはめて,指導内容・具体的な内容をまとめてみた。「キ
ャリア発達を支援する内容表」を作成することで,今まで行ってきた指導がキャリア教育
の視点から整理することができ,どの領域にあたるのか意識付けすることができた。また,
それぞれの指導形態での学習の特性がはっきりし,学習指導の目的を明確化できた。本校
におけるキャリア教育を一覧し,その概要がつかめた。
イ
各指導形態の「キャリア発達を支援する内容表」
資料(国語・数学・情報・音楽・美術・体育・作業学習・生活単元学習・総合的な学習
の時間)
ウ
キャリア発達を支援する内容の集計表(次ページ表参照)
エ
「キャリア発達を支援する内容表」から見た本校のキャリア教育
(ア) 4能力領域のバランス
集計にあたっては,あくまで各指導形態のキャリア発達を支援する内容表の記入数を
合計したものである。配当授業時数や授業におけるウエイトは考慮していないので大ま
かな目安としたい。集計表の割合は,人間関係形成能力(29%)情報活用能力(31%)
将来設計能力(28%)意思決定能力(12%)となっている。4能力領域のバランスは,
ほぼとれていると思われるが,意思決定能力の割合がやや少なくなっている。生徒が自
己選択する場面を増やす,目標設定と自己評価の充実などが求められるのではないか。
キャリア教育における学習したことの意味づけ,価値付けの重要性を考えると,意思決
定能力を意識した授業づくりが今後の課題となると思われる。
(イ) 18 観点の網羅
すべてのグループ(指導形態)が,観点までの分類はしていないので,18 観点の大ま
かな傾向を探るためであることを前提としたい。集計表を見ると数の違いはあるが,18
観点すべてを網羅していることがわかる。ただ,「夢や希望」の項目が少ないようである。
生徒の希望,ニーズを取り入れたキャリア教育のあり方,個別の教育支援計画との連携も
検討すべき内容である。
6
(ウ) キャリア発達を支援する内容の集計表
1
音
楽
1
1
1
美
術
1
1
1
保健体育
1
1
作業学習 (産)
4
1
キャリア学習
1
生活単元学習
3
4
総合的な学習の時間
3
計
15
領域別の計
1
1
2
2
2
3
2
1
1
4
4
3
1
1
1
4
3
1
1
4
1
3
4
8
8
6
13
4
2
11
1
8
11
1
11
23
19
27
49
17
95(29%)
12
17
101(31%)
1
1
1
2
1
1
2
3
4
1
1
2
1
2
3
1
2
7
2
2
1
3
6
27
1
5
5
3
18
19
43
1
1
1
1
1
2
3
2
1
1
2
1
3
1
2
1
2
1
4
8
1
4
4
1
3
15
9
6
13
93(28%)
1
1
1
6
自己調整
5
肯定的自己評価
報)
選択(決定・責任)
(情
2
意思決定能力
目標設定
2
進路計画
5
生きがい・やりがい
学
夢や希望
数
将来設計能力
習慣形成
語
役割の理解と実行
1
国
働くことの 意義
1
形態
金銭管理
情報収集と 活用
2
指導
社 会 の き ま り・法 制 度
場に応じた行動
1
情報活用能力
意志表現
1
協力・共同
他者理解
18 観点
人間関係形成能力
自己理解
4能力領域
12
8
1
38(12%)
*作業学習については,産業科で作成したものを代表して集計。総合的な学習の時間につ
いては◎の項目数のみ集計。
(エ) 他校のキャリア教育との比較
国立特別支援教育総合研究所の「知的障害教育におけるキャリア教育の在り方に関する
研究」では,4能力領域のバランスとして,各教科等を合わせた指導を中心とした教育課
程において「人間関係形成能力」の割合が高く,教科別指導を中心とした教育課程におい
て「情報活用能力」の割合が高い傾向があると分析している。本校の教育課程は,各教科
等を合わせた指導を中心とした教育課程と教科別指導を中心とした教育課程の中間に位
置すると考えられる。このことから,教育課程自体が4能力領域のバランスが取りやすい
とも言えるのではないか。また,「夢や希望」の観点で項目数が少ないのは,他校と共通
している部分である。
現在のところ,データのあつかい・集計方法が確立しているとは言えないし,4能力領
域が均等になっているのが望ましいかどうかは,全国的な研究の推移を見なければならな
い。他校のキャリア教育と本校のキャリア教育を比較検討,分析することは継続的な課題
と言える。
7
(オ) 授業のねらいと能力領域との関係
題材によって能力領域を分類した場合,授業のねらいによって能力領域が変わってくる
可能性がある。授業を実践していく過程で「授業における観点位置づけ・授業改善シート」
などを活用し,授業の目標やねらいをキャリアの観点から確認することで能力領域・観点
を精査していく必要がある。
オ
教育課程の改訂とキャリア教育
平成 21 年度より,生徒の実態の変化や新学習指導要領に対応するため,教育課程の改訂
に取り組んできた。この改訂とキャリア教育の研修を連携しながらすすめることにした。新
しい教育課程では作業(合わせた指導)の中に「キャリア学習」の時間を週1時間設定して
いる。このことで,作業学習で行っていることを意味づけ,価値付けし,3年間を見通して
系統立てたキャリア発達の支援をめざしている。また,指導形態別の「キャリア発達を支援
する内容表」から,新しい教育課程におけるキャリア教育の4能力領域(人間関係の形成能
力,情報活用能力,将来設計能力,意思決定能力)のバランスを確認することができた。
(3) 課題と今後の方向性
今年度の研究は,キャリア教育に関する基本的な研修,本校の教育課程おけるキャリア教育
の内容を整理・まとめをした段階である。今後は,キャリア発達を支援する内容表を活用しな
がら,キャリア発達を支援する授業づくりをすすめて行かなければならない。来年度考えられ
る方向性をまとめてみた。
ア
キャリア発達を支援する授業づくり
(ア)「キャリア発達を支援する内容表」を活用した授業づくり
(イ)「授業における観点位置づけ・授業改善シート」などのツールを使った具体的な指導内
容の工夫
(ウ) 学習したことの意味づけ,価値付けを重視した指導計画の作成
イ
教育課程でのキャリア教育の位置づけ
(ア) キャリア教育の4能力領域バランスを考えた教育課程の編成
(イ) キャリア教育の 18 観点を網羅できる教育課程の編成
(ウ) キャリア学習を軸としたキャリア教育の位置づけの明確化
ウ
生徒の願いにもとづいたキャリア発達の支援
(ア) PATH や「本人の願いを支えるシート」の活用による生徒の願いにもとづいた目標の
設定
(イ) 生徒の願いにもとづいた個別の教育支援計画の充実
エ
キャリア教育に関する研修
(ア) キャリア教育に関する継続的な研修
(イ) 先進校の実践に関する研修
8
7
平成22年度の研修
月・日
研
修
内
容
4月16日
全体研修会
実践研究主題・推進計画について
5月12日
校内研修会
「キャリア教育の視点」
特別支援教育センター 奥田雅紀先生
6月
9日
PATH の手法を用いたワークショップ
1回目
7月21日
PATH の手法を用いたワークショップ
2回目
7月30日
公開研修会
公演「キャリア発達を支援する授業づくりとは」
伊達高等養護学校長
8月18日
グループ研修
木村宣孝先生
①
キャリア教育の4つの領域から見たキャリア発達を支援する内容表の作成
9月17日
グループ研修
②
キャリア教育の4つの領域から見たキャリア発達を支援する内容表の作成
10月15日
グループ研修
③
キャリア教育の4つの領域から見たキャリア発達を支援する内容表の作成
11月17日
グループ研修
④
キャリア教育の4つの領域から見たキャリア発達を支援する内容表の作成
12月
8日
1月14日
全体研修会
校内研修
グループ研究中間発表
学習会
進路指導部「福祉制度・卒業生の事例」
情報教育推進部「アクティブボードの活用法」
コーディネーター部「WISC-Ⅲ知能検査 解釈と支援等」
2月18日
校外研修報告会
3月16日
平成22年度 研究のまとめ
*参考文献
・全国特別支援学校知的障害教育校長会編著(2010 年)キャリア教育の手引き
・国立特別支援教育総合研究所(2010 年)知的障害教育におけるキャリア教育の在り方に関す
る研究
9