動き出すアフリカ生産性向上支援 竹中事務総長に聞く

053_今月(アジア生産性機構) 07.5.30 5:46 PM ページ 1 (1,1)
NEWS & TOPICS
[アジア生産性機構
(APO)
]
動き出すアフリカ生産性向上支援
竹中事務総長に聞く
05年4月に開催された「アジア・アフリカ会議」において、日本はアジアの生
産性運動の知見をアフリカに生かすための支援を実施する旨を表明した。こ
の事業の主体を担うのが、アジアの生産性運動推進の中核を担ってきたアジ
ア生産性機構(APO)である。アフリカにおける生産性向上活動の現状や
APOの取り組みについて、竹中繁雄事務総長に聞いた。
―APOはアフリカ向けにどのような
事業を実施しているのか。
合も多い。
アジア生産性機構(APO)
事務総長 竹中 繁雄 氏
ていくかが課題だ。
アフリカの場合、援助と慈善の組み
加えて、各国の生産性機構の強化が
2006年8月、南アフリカのヨハネスブ
合わせはこれまで充分に機能していな
必要だ。現在、アフリカ地域全体をみ
ルグで「アフリカ生産性運動推進円卓
い。もっと自助努力を促す形の支援が
る「汎アフリカ生産性協会」(PAPA)
会議」を開催した。アフリカ諸国7カ国
必要ではないか。エイズ対策や債務救
という組織もあるが、この組織の強化
から担当省庁大臣や次官、生産性本部
済も必要だが、これらはすぐには経済
も重要だ。
の職員、労働組合の代表者などの参加
成長につながらない。最終的には生産
アフリカで生産性の組織が弱い理由
を得て、アジアからもタイ、マレーシ
性向上に手をつけないと、成長は達成
の一つは、生産性が上がると利益が宗
ア、シンガポール、ベトナム、パキス
できない。
主国に吸い上げられ、労働者の首も切
タンと生産性運動で実績がある国の代
アジアでも経済成長で多くの問題が
られるのではないかという危惧がある
表者が集い、アジアの経験をシェアし
解決した事実から考えると、経済成長
からだ。だから、生産性向上の会議に
た。アフリカからの参加者は、自国の
なしにアフリカがテイクオフするとは
労働省の関係者が出てくる。インド、
生産性向上のためのマスタープランを
考えづらい。そこはまさに日本をはじ
タイ、パキスタン、マレーシアなどほ
つくり、それにもとづいて議論した。
めとするアジアが得意とする分野であ
とんどのアジア諸国では工業省など産
昨年フィリピンで実施した生産性向
るし、具体的な貢献もできると思う。
業系の省庁が担当していることとは対
上の研修では、アフリカからも研修員
―アフリカでの生産性向上の現状と
照的だ。アフリカは生産性を分配の問
を呼んだ。ここでアフリカの方々が非
課題は何か。
題ととらえているのに対し、アジアは
南アフリカ、ボツワナ、モーリシャ
生産性向上でいかにパイを広げていく
今後はアフリカでの研修も検討してい
スは生産性向上に熱心だ。これらの国
かということを考えている。この意識
る。アジアとアフリカというのは、過
は政府がしっかりしている。この後に
の差は大きい。
去に植民地の関係がないこともあって、
ケニア、タンザニア、ナイジェリア、
パートナーとしてもやりやすい。
ザンビアなど地域の大国にがんばって
性の専門家を育成することからはじめ
―アフリカに生産性向上が必要な理
ほしい。この分野において、ヨーロッ
たい。まずは各国の生産性本部の職員
由は何か。
パはほとんど支援していない。地域と
などを対象に、研修を実施する。この
して生産性向上を支援するのはアジア
専門家が実際に現場で実践してくれれ
だけだ。
ば、身になっていくだろう。アジアで
常に熱心であることがわかったため、
アフリカにはこの40年間で、約1兆ド
ルもの援助が入っているのに、一人当
これらの課題について、まずは生産
の経験から、アフリカでもこれができ
たりGDPでみるとほとんど伸びていな
ただ、進んだ国であっても、理論は
い。植民地国に対する依存が比較的弱
わかっていても実践が行われていない
いアジアに比べ、アフリカはもともと
国が多い。
「5S」や「カイゼン」などの
来年は日本でアフリカ開発会議が開
宗主国と力の差がありすぎて、援助す
コンセプト以前に、たとえば時間を守
催されるが、APOは今までの会議でも
ればするほど依存心が強まるという悪
らないというところから“カイゼン”
議論されている南南協力や自助努力支
循環に陥っている面がある。資源国に
していかなれければならない。アフリ
援を実践している。次回会合の議論の
しても、資源があればあるほど他国の
カの人たちは頭がいいし、英語もでき
過程でも、APOが積極的な役割を果た
介入もあり、統治がうまくいかない場
る。頭で理解したことをいかに実践し
していければと考えている。
ると思っている。
2007.6 国際開発ジャーナル 53