司祭のてがみ - カトリック行橋教会

2010 年 9 月 1 日
司祭のてがみ
カトリック行橋小教区 : 主任司祭
『声』
海にのろのろと沈んでいく太陽。目をつぶ
って思い出す…。
蒸し暑い一日の終わりに、乗っている軍艦
は舳先(へさき)に真白いしぶきを上げなが
ら、青い海を静かに波のうねりにゆられて、一
路ノルウェーへと進んでいく。星月夜の穏や
かさと平和の中に、私は爽やかな夕方の空
気を呼吸している…。
私は、幼い頃から海が好きです。砂浜に
腰をおろし地平線を眺めるとき、雄大に広が
る海の力は、小さな事でくよくよ
する私の心に、進む勇気を与
えてくれます。
引いて行く海の動き、白い泡
を立てて砂の中に消えていく
波。顔を愛撫するそよ風のよう
に、船体を愛撫する海。
ある時は荒海になって、すべ
てを飲み込んでしまう海。こん
な海を眺めていると、わたしは
海の底知れない躍動する力
を全身に感じ、海の声が聞こ
えるようです。海の声に耳を傾
けていると、そこには呼び掛け
があるのです。
No.39
ベリオン・ルイ神父
いや、むしろ語りかけかもしれません。
ある時は「落ち着けよ、落ち着けよ」またある
時は「頑張れ、頑張れ」と。悲しい気持ちに
勇気を、淋しい気持ちに励ましを与える海。
それはあたかも、心を持っているかのように、
生き生きと語り掛けてくるような気がするので
す。ミレーの絵画を思い浮かべると、教会で
鳴っている鐘が、農民を祈りに誘うように、私
はこんな心の語らいを持つ海の声に魅せら
れます。
「語る声」~人によって聞こえてくる声は違
うでしょう。しかし、よく考えてみれば、その声は
ただ一つではないでしょうか。
「神の声」~その神の声に耳を傾けるように
皆さんにお勧めしたいと思います。
「読書の秋」とよく言います。『聖書の中の
一つの本でもいかがですか』とささやく声は、
「神の声」であるのかもしれません。
《思いがけない訪問者》*
(1)
梅雨明けを告げるかのような雷鳴がとどろき、
激しい風と共に、どしゃぶりの雨が降り出しま
した。眩しい稲妻は真夜中の
暗闇を貫いています。
「この頃の天気予報は良く
あたるな」と思いながら、ちらり
と時計を見ました。
「23 時 50 分か、そろそろ休も
う。今日もまた、平凡な一日
が終わったということか」。
奥の寝室に行き、横になり、羊
を数え始めました。
一匹、二匹……。
突然、玄関の呼び鈴が鳴
りました。「また酔っ払った人か。
そのうちやめるだろう」
ところがなかなか鳴り止み
ません。
〒824-0006 行橋市門樋町8ー5/TEL.0930-22-0805/FAX.22-0816/http://www.yukuhasi.catholic.ne.jp/
司祭のてがみ No,39-2
「しつこいな」気持ちは火山が噴火爆発
する寸前のような感情になってきました。
~しかし病人のための緊急な連絡だった
らと思い直して起きました。
ところが玄関のドアを開けると、ホームレス
風の男が立っていました。「夜中に誠に申し
訳ありませんが、何か食べるものがありませ
んか。私はこういうものです」と言いながらそ
の「人」は名刺を差し出しました。
既に多くの人の手に触れられたためか、
名刺は汚れ、雨に濡れていました。良く見る
と、その名刺には住所も連絡先もなく名前も
ほとんど消えていました。その名刺を良く見る
ために照明に近付きました。
「うそ!」蜃気楼のように目の前にゆらぐ名
前は「イエス」でした。
~頭にきて、男の方を振り向きざまに
「ナザレの出身か」と私は嘲笑いながら言い
ました。
「すみません」と繰り返し、その「人」は頭を
下げました。
「いい加減にしなさいよ。こんな時間に、くだ
らない冗談に笑うとでも思っているのか。
早く行って頭を冷やせよ」と。私の声は氷山
なみの暖かさに満ちていました。
「宿屋には彼らの泊まる場所がなかった」
(ルカ 2、7)
「狐には穴があり、空の鳥には巣がある。
だが人の子には枕する所もない」
(ルカ9,58)
「神は自分の民の所へ来たが、その民は
受け入れなかった」
(ヨハネ1、11)
「関係ない」。何となく不愉快な思いがした。
頭の中で小さな声がささやいた。~
「誰に対して怒っているの」と。ブンブンと
いう蚊を、手で払い除けるように、その声を黙
らせるために毛布を被り必死に他のことを考
えようとしましたが、なかなか…。
「もうわかったよ」と溜め息をつきながら、再
び玄関へ行き、ドアを開けて、その「人」を呼
び戻そうとし、大きな声で叫んだ途端……。
目が覚めました。「何だ、夢か」。
ほっとしました。単に夢だった。
安心して深く息を吸い込み休もうとしましたが
どうしたことか。日が昇るまで目をあけたまま、
眠りの訪れをじっと待ち続けました……。
*6 月号(No.36)参照
その「人」の寂しそうな表情、優しそうな眼
差しにドキッとしましたが、ドアを閉めて鍵を掛
けました。その時、「刑務所の扉の音みたい
だ」とふと思いました。
~寝室へと歩きながら走馬灯のように次
から次へと色々な言葉が頭に浮かんできま
した。
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