e-NEXI 2011 年 4 月号 ➠特集 インドネシア・エネルギー事情・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 在インドネシア日本大使館 二等書記官(産業・科学技術・エネルギー担当) 土屋 武大 2011 年 4 月 1 日の制度改正 ∼現地通貨為替リスクへの対応強化について∼・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 独立行政法人日本貿易保険 総務部経営企画グループ ➠カントリーレビュー OECD カントリーリスク専門家会合における国カテゴリー変更国の概要(バーレーン、シリア、リビア、モンゴル)・・・・10 ➠NEXI ニュース 韓国貿易保険公社との再保険協定締結・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 G20 Berne Union/World Bank Meeting に参加して・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 発行元 発行・編集 独立行政法人日本貿易保険(NEXI) 総務部総務・広報グループ e-NEXI (2011 年 4 月号) インドネシア・エネルギー事情 在インドネシア日本大使館 二等書記官(産業・科学技術・エネルギー担当) 土屋 武大(つちや・たけひろ) 1.総論 近年の石油などの資源価格の不安定さは、燃料補助金及び電力補助金を行っているインドネシアにと って、国家財政、産業活動、国民生活にも多大なる影響を与えている。このため、石油に依存しないエ ネルギー政策への転換及びその実行、並びに石油・ガス開発(国内供給インフラを含む)、国内電力供 給などのインフラ整備に係る投資促進が急務の課題となっている。その一方で、国会の力が以前よりも増 している中、インドネシア国内産業の活性化及び資源ナショナリズムの意識が拡大し、保護主義的な法 律が制定されるなどの動き(例:新鉱業法(後述))があり、エネルギー分野における投資は分野毎ではな く、全体の動きを踏まえた上で検討する必要があると考える。 エネルギー政策全般に係るこれまでの具体的な動向について説明する。インドネシア政府は、石油依 存度の低減に向け、2006 年 1 月、「国家エネルギー政策に関する大統領令 2006 年第 5 号」を制定し、 2025 年の1次エネルギーにおけるエネルギーミックスを設定した(図表 1)。引き続き、2007 年 7 月にはエ ネルギーを総合的に管理するための法律として「エネルギーに関する法律 2007 年 30 号」を制定し、国家 エネルギー政策を企画・立案するための大統領を議長とした「国家エネルギー審議会(DEN)」の設立、 省エネ・新エネの推進などを規定した。2009 年 10 月の第 2 次ユドヨノ政権発足後には各省庁において 組織再編が実行されたが、エネルギー鉱物資源省(エネ鉱省)においては新エネ・省エネの更なる推進の ため、新・再生可能エネルギー及び省エネルギー総局が設立された(図表 2)。同総局では、2025 年の 1 次エネルギーに占める新・再生可能エネルギーの割合の目標を 25%とする「ヴィジョン 25/25」(図表1)や、 それらを推進するための「クリーン・エネルギー・イニシアティブ」の検討など、サプライ・サイドのみならず、ディ マンド・サイドの政策立案が積極的に進められているところである。 1 1 e-NEXI (2011 年 4 月号) 図表 1 1970年実績(%) 石油 88 天然ガス 6 石炭 1 水力 5 地熱 0 1 次エネルギーミックスの実績及び 2025 年における目標 2004年実績(%) 石油 52 天然ガス 21 石炭 20 水力 4 地熱 2 国家エネルギー政策に関する大統領令 2006年5号 ヴィジョン25/25 2025年目標値(%) 天然ガス 石炭 石油 バイオ燃料 新・再生可能 地熱 エネルギー その他(原子力含む) 液化石炭 2025年目標値(%) 天然ガス 23 石炭 32 石油 20 30 33 20 5 5 5 2 新・再生可能 エネルギー (出典)エネ鉱省資料より、筆者作成 図表 2 エネルギー鉱物資源省の組織改編概要 (出典)エネ鉱省資料より、筆者作成 2 2 25 e-NEXI (2011 年 4 月号) 3 2.各論 次に、分野別での最近の動向の概要を説明する。参考として、インドネシアにおける石油、天然ガス、 石炭生産量の推移を示す(図表 3)。 図表 3 インドネシアにおける石油、天然ガス、石炭生産量の推移 170 150 130 110 90 70 50 30 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 石油 石油 天然ガス 石炭 単位 100万㌧ 100万㌧石油換算 100万㌧石油換算 1999年 68.6 63.0 45.3 2000年 71.5 58.7 47.4 2001年 68.0 57.0 56.5 2002年 63.0 62.7 63.6 2004年 2005年 天然ガス 2003年 57.7 65.9 70.3 2004年 55.2 63.3 81.4 2006年 2007年 2008年 2009年 石炭 2005年 53.0 64.1 93.9 2006年 49.9 63.2 119.2 2007年 47.4 60.9 133.4 2008年 49.9 62.7 140.8 2009年 49.0 64.7 155.3 (出典)BP 統計 2010 より筆者作成 (1) 石油・天然ガス分野 インドネシアは原油、天然ガスの生産量はアジア地域内において中国に次ぎ第 2 位であり、ご承知の通 り我が国への LNG(液化天然ガス)輸出量はアジア地域内では最大である。また、ドゥリ、ミナス原油など の低硫黄原油は、我が国電力用の生炊き原油として利用されていることでも有名である。その一方で、 石油、天然ガスともにアジア通貨危機による投資停滞、既存鉱区の老朽化などにより近年生産が減少 している(図表 3)。このような中、2004 年には石油の純輸入国となり、2008 年末には OPEC から一時的 に脱退するという状況になった(それまではアジア地域で唯一の OPEC 加盟国であった)。このため、インド ネシア政府は当該分野に係る投資促進を外国投資家に呼びかけている。 近年は、インドネシア国内における天然ガス供給不足が問題となっており、製造業等での投資が進んで いる中、電力供給や産業活動に影響を与えつつある。なぜ LNG を輸出しているインドネシアが国内への 天然ガス供給不足になるのか。それは、現在の天然ガス国内供給は全てガスパイプラインにて供給されて いるためである(円借款においても、南スマトラの天然ガスをジャワ島に供給するため、SSWJ(南スマトラ- 3 e-NEXI (2011 年 4 月号) 西ジャワ)ガスパイプラインプロジェクトが実施された)。現在稼働している LNG ターミナルはアルン(北スマト ラ)、ボンタン(東カリマンタン)、タング-(パプア)の3つであるが(現在、ドンギ・スノロ(東スラウェシ)、マセラ( マルク)が計画中)、これら基地に供給しているガス鉱区からは、需要が大きいジャワ島までガスパイプライ ンを敷設することは地理的に困難である。こうした中、インドネシア政府は 2010 年 1 月、エネ鉱大臣令 2010 年第 3 号を制定し、「国家における石油・天然ガス生産量の拡大」を第一優先政策と位置付ける とともに、供給先の優先順位を(1)肥料産業、(2)発電所、(3)その他の産業、と位置付けた。また、LNG 輸入の検討と併せ、洋上式 LNG 受入基地の建設推進を北スマトラ、西ジャワ、東ジャワの 3 カ所で進め ているところである。こうした動きは国内需給緩和に繋がるが、国内産業にとってはガス購入価格に影響 が出ることも予想され、今後の動向を注視する必要がある。 (2)電力分野 旧来より電力不足が指摘されている中、PLN(国営電力公社)は、今後の経済成長を踏まえ、2010 年から 2019 年における全土の電力需要の伸びは年平均 9.2%と予想している。 電力不足解消のため、インドネシア政府は、2006 年 7 月に第 1 次クラッシュプログラムを、2010 年 1 月に第 2 次クラッシュプログラム(第 2 次クラッシュ)を策定した(図表 4)。なお、第 1 次クラッシュプログラム は、そのほとんどを中国企業が受注したが、資金繰りや技術的なトラブルが相次ぎ、現在においても十分 に稼働している発電所はない状態であるため、中国企業受注には、インドネシア政府のみならず国会議 員にも懸念が浸透していることから、工期を遵守する我が国企業にとっての商機であると考える。 図表 4 第 1 次クラッシュプログラムと第 2 次クラッシュプログラムの比較 第1次クラッシュプログラム 第2次クラッシュプログラム 開発計画年 2006-2009 2010-2014 開発方式 PLN: 100% PLN: 44.3%, IPP: 55.7% 電源開発量 約10,000MW 約9,500MW 目的 ・緊急電源開発 ・脱石油政策 ・緊急電源開発、・電源の多様化 ・新・再生可能エネルギー導入 電源種別 石炭:100% 法的根拠 大統領令2006年第71号 地熱: 41.7%、水力: 12.6% 石炭: 35.6%、ガス: 1.1% ガスコンバインドサイクル: 9.0% ・大統領令2010年第4号 ・エネ鉱大臣令2010年第2号 (同大臣令2010年第15号により改正) (出典)エネ鉱省資料より、筆者作成 4 4 e-NEXI (2011 年 4 月号) 上述のように、電源開発促進は急務の課題であり、その政策は推進されているものの、インドネシア政 府の予算は限られていることから、IPP(独立発電事業者)の促進が期待されている(例:第 2 次クラッシュ でも半分以上が IPP 事業となっている(図表 4))。 インドネシア政府は、電力分野を含めたインフラ全般の民間投資を促進するため、PPP(Public Private Partnership:官民連携)事業を推進しており、その第 1 号案件として「中部ジャワ石炭火力発 電所(超々臨界又は超臨界技術を活用した 850∼1,000MW×2 基の石炭火力発電所)」の入札準備 が進められている。インドネシア政府は Indonesia Infrastructure Guarantee Fund (IIGF)を設立し、PPP 事業に係る政府保証を担う機関として位置付けているものの、IIGF の資本規模は限定的であるため、中 部ジャワ石炭火力発電事業については財務大臣との共同保証という形を取っている。PPP 事業推進の ため、IIGF の機能強化が期待される。 こうした中、我が国企業が IPP 事業に投資を行っていく上で重要なポイントは、インドネシア政府からの 政府保証が付与されるか否かである。第 2 次クラッシュの IPP 事業については財務大臣が政府保証を行 うことが規定されているものの、未だ詳細規定は公布されておらず、また、PPP 及び第 2 次クラッシュ以外 の IPP 事業に至っては、現時点で政府保証が付与される予定はない。この点についても今後注視する 必要がある。 地熱発電については、我が国は地熱発電タービンにおいて、世界で 70%以上のシェアを誇っているが、 地熱 IPP 事業参入のためには地熱鉱区開発(蒸気開発)リスクの低減が必要であり、この点もどのような スキームが有効であるかの議論を深めていく必要がある。 原子力発電については、当初予定されていた中部ジャワ・ムリア半島では住民反対運動などのため計 画は中断したが、第 2 次ユドヨノ政権発足後、新たなサイトとしてバンカ・ブリトゥン州バンカ島でのサイト・ スタディの準備を進めるなど、静かに、しかしながら活発に準備を進めてきている。こうした中、東北地方 太平洋沖地震による福島第 1 原子力発電所の事故が発生した。長期的には原子力発電所の導入は 必要であるとの認識と現時点では政府高官は発言しているが、今後の動向を注視する必要がある。 (3)鉱物・石炭分野 石炭の生産量は近年急速に伸びている(図表 4)が、低品位炭が多く、輸出には不向きであるものが 多い(我が国輸入は主に高品位炭)。エネ鉱大臣令 2009 年第 34 号において国内供給優先義務が規 定されているが、工業省が石炭下流事業産業の改革を計画しているなどの報道もあり、コストや商業化 という問題はあるものの、我が国が有する褐炭改質、石炭ガス化などの CCT (Clean Coal Technology) 技術の利活用の検討を更に深めていく余地は十分ある。 鉱物においては、我が国はインドネシアから銅精鋼、ニッケル鉱石、錫地金などを輸入している(図表 5) が、国会での 3 年に及ぶ議論の結果成立した新鉱業法(2009 年法律第 4 号:2009 年 1 月公布)により 、国との鉱業契約制が事業許可制に変更になるなどの改正がなされた。特に大きな問題となっているの は、「鉱物資源の高付加価値化義務」である。具体的には、鉱石で輸出するのではなく、製錬(高付加 価値化)した上で輸出し、国内産業を活性化するとともに外貨を獲得するというものであるが、経済的な 観点からも、インドネシア国内で全ての鉱物に対する製錬所を建設することは現実的ではない。当該規 5 5 e-NEXI (2011 年 4 月号) 制は上流(鉱区開発)に投資している企業にとっても、鉱石をインドネシアから輸入している企業にとって も影響が大きいことから、外国投資家とインドネシアにとって win-win の関係を構築するための密な意見 交換の場の構築が必要と考える。 図表 5 日本のインドネシアからの鉱物資源輸入状況 2007年 2008年 2009年 対前年比 増減率 2009年 日本輸入 総計 構成比 世界ランク 銅精鉱(千t) 714.0 740.9 938.8 32.8% 4,775.7 20.6% 2 銅カソード(t) 16,829.6 1,484.7 1,246.3 -16.1% 41,484.3 3.0% 3 ニッケル鉱石(千t) 2,076.7 2,269.5 2,140.0 -5.7% 3,586.4 59.7% 1 ニッケルマット(t) 95,123.7 96,405.7 85,646.5 -11.2% 91,289.2 93.8% 1 フェロニッケル(t) 1,951.4 852.7 0.0 -100.0% 27,151.8 0.0% - ボーキサイト(千t) 579.0 756.5 216.8 -71.3% 1,175.3 18.4% 2 アルミニウム(千t) 153.3 150.7 148.6 -1.4% 1,336.0 11.1% 4 錫地金(t) 16,095.1 11,864.5 13,483.7 13.6% 22,019.5 61.2% 1 鉱 種 (出典):財務省貿易統計より筆者作成 3.終わりに 当地に赴任してから早 3 年 10 ヶ月程度が経ったが、インドネシアは広い国土、多くの民族、様々な宗 教から構成されており、何年住んでも理解できるのだろうかと思うくらい、奥深い国だといつも感じさせられ る。 限られた紙面の中では筆者の文章力の無さも手伝い、皆様には読みにくい部分もあったかと思うが、イ ンドネシアという国をご理解いただくための一助になれば幸いである。なお、本稿は筆者の個人的見解で あることを付記しておく。 (追伸) 本稿執筆中に東北地方太平洋沖地震が発生した。信じられない世界がテレビに映し出され、ただた だ絶句した。亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げるとともに、被災された皆様、そのご家族の方々 に対し、心よりお見舞い申し上げる。日本の復興に少しでも我が微力を尽くしていきたいと思う。 6 6 e-NEXI (2011 年 4 月号) 2011 年 4 月 1 日の制度改正∼現地通貨為替リスクへの対応強化について∼ 独立行政法人日本貿易保険 総務部経営企画グループ 1. 現地通貨建てファイナンスにおける為替リスクへの対応 l 水道、交通、電力事業等はその収入のほとんどが現地通貨建てとなりますが、一般に事業規模 が大きくかつ資金償還期間が長いのみならず、新興国での事業には為替変動リスクも加わること から、これらの事業資金は、これまでは主に日欧米銀によるハードカレンシー(日本円、米ドル、ユ ーロ等)建ての融資により賄われてきました。 l 一方、特に通貨危機を経験した新興国の事業者にとっては、為替変動リスクに晒されない現地 通貨建てファイナンスのニーズはもともと高かったのですが、その後も為替のミスマッチの問題は、長 らく根本的な解決には至っておりませんでした。 l しかし、新興国における資本蓄積が進むとともに、海外に進出した邦銀にも現地通貨の取り扱い が認められるようになってくるなど、現地通貨建てファイナンスの拡大を可能にする環境が整備され つつあります。NEXI といたしましても、かかる動きを支援すべく、現行の「外貨建て特約」の取り扱 いを拡充することで、現地通貨建てファイナンスにおける為替変動リスクへの対応を強化してまいり ます。 2. 「外貨建て特約」とは l 保険契約時から保険金支払時までの外貨高・円安のリスクをカバーするものです。具体的な例 で説明してみましょう。銀行がタイの事業者に対してタイバーツ建てでの貸付を行い、NEXI と保険 契約を締結したときの為替レートが 1 タイバーツ(THB)=3 円だったのですが、不幸にして事業者 が支払不能に陥ってしまい、貸付金返済時の為替レートが THB1=4 円と外貨高・円安が進行 したとします。 l NEXI は、保険契約をすべて円建てで締結しています。したがって、通常であれば THB1=3 円で 換算した円貨額を保険金としてお支払いしますが、銀行にとっては、現地通貨で返済を受けこれ を円に交換したときに比べ、円貨での受取額が目減りしてしまいます。銀行が外貨建て特約を締 結していれば、かかる場合にも THB1=4 円で換算した円貨額を保険金としてお支払いできます ので、保険事故時の為替変動リスクを意識せずに現地通貨建てファイナンスに取り組むことができ ます。 l 逆に、保険金支払時の為替レートが THB1=2 円と外貨安・円高に振れたと仮定しますと、保険 事故が発生しなかったとしても、銀行が返済を受けられるのは THB1=2 円で換算された金額で す。したがって、これを超える額を保険金としてお支払いすることはできませんので、念のためご注 意願います。 7 7 e-NEXI (2011 年 4 月号) 図 1 外貨建て特約の仕組み 【返済時】 【保険契約時】 THB10億の貸付実行 l THB1=JPY3 → 30億円相当 l 邦銀海外支店等 発 行 保険証券 [30億円] 外貨建て特約 海外借入人が返済不能に l THB1=JPY4 → 40億円相当 l 邦銀海外支店等 THB建て 貸付 保険金の お支払い [40億円] 返済 不能 海外借入人 THB建ての 収入が殆ど 海外借入人 円安が進んだとき、 外貨建て特約がなけ れば、お支払いする 保険金額は30億円 (出典:NEXI 作成) 3. 対応強化の概要 (1) l 対象保険種 貿易一般保険(2 年以上案件)、貿易代金貸付保険(2 年以上案件)及び海外事業資金貸 付保険を対象とします。 (2) l 対象通貨 現行の米ドル(USD)及びユーロ(EUR)に加え、英ポンド(GBP)、カナダドル(CAD)、豪ドル (AUD)、ニュージーランドドル(NZD)、シンガポールドル(SGD)、中国人民元(CNY)、韓国ウォン (KRW)、香港ドル(HKD)、台湾ドル(TWD)、タイバーツ(THB)、インドネシアルピア(IDR)、ベト ナムドン(VND)、フィリピンペソ(PHP)、マレーシアリンギット(MYR)、インドルピー(INR)、バーレー ンディナール(BHD)、ブラジルレアル(BRL)及びロシアルーブル(RUB)(以上 18 通貨)を追加しま す。 l (3) l 今後、必要に応じ、適宜対象通貨の拡大を検討します。 上限換算率 今次新たに対象に加える 18 通貨については、保険契約時から貸付金返済時に至るまでの最大 3 倍の外貨高・円安をカバーします。 l なお、現行の米ドル(USD)及びユーロ(EUR)については、現行通り同最大 2 倍の外貨高・円安 をカバーします。 (4) l 8 割増料率 海外事業資金貸付保険につきましては、為替変動リスクの存在を前提として、一律に 10%の割 8 e-NEXI (2011 年 4 月号) 増料率を申し受けます。ただし、米ドル(USD)は従来通り割増料率を頂戴せず、ユーロ(EUR) については従来の 27%の割増を廃止し、米ドルと同じ扱いとします。 l 貿易一般保険(2 年以上案件)及び貿易代金貸付保険(2 年以上案件)については、我が国 企業の国際競争力の維持に配慮するとともに、OECD 輸出信用アレンジメントを踏まえ、全通貨 について割増料率を頂かないこととしました。 NEXI は、かかる制度改正により、パッケージ型インフラの海外展開等を対象とした民間金融機関の積極 的な取り組みを一層強力に支援してまいります。具体的な案件のご相談をお待ち申し上げております。 9 9 e-NEXI (2011 年 4 月号) 《カントリーレビュー》 OECD カントリーリスク専門家会合における国カテゴリー変更国の概要 (バーレーン、シリア、リビア、モンゴル) <Point of view > ・第 58 回会合において、アジア・太平洋、中東、北アフリカの 40 国・地域について議論。 ・政治・社会情勢の悪化が見られたバーレーン、シリア、リビアの 3 カ国の国カテゴリーが引下げられた。 ・直接投資流入と輸出の回復により、IMF 支援プログラムを終了したモンゴルの国カテゴリーが引上げられ た。 ●アジア、中東、北アフリカの国カテゴリー 第 58 回 OECD/CRE 会合で、アジア・太平洋、中東、北アフリカの 40 国・地域が議論され、3 カ国 の国カテゴリーが引下げられ、1カ国の国カテゴリーが引上げられた。カテゴリー変更国の情勢を概観す る。 ●国カテゴリーが引き下げられた国 バーレーン D→E 国民の 7 割を占めるシーア派住民は、支配層(王室、政府)であるスンニ派(国民の 3 割)に対し、政 治・経済的な権利の拡大を求め抗議デモを展開している。今年 2 月からデモは本格化し、当初、対話 で解決しようとした政府側も、収まることのない抗議活動に鎮圧姿勢へと変っている。バーレーン政府は、 3 月 15 日、非常事態宣言を発動し、国防軍総司令官に必要な措置をとる権限が付与された。また、 湾岸諸国会議(GCC)理事会に合同軍の派遣を要請し、合同軍は主要インフラの警備にあたっている。 現在もシーア派住民の反政府運動に収束の兆しは見えない。 同国の実質 GDP 成長率は縮小傾向にあり(2008 年 6.3%、2009 年 3.1%、2010 年 4.1%)、公的 債務対 GDP 比率も増加傾向(2009 年 25.4%→2010 年 32.4%)にある。経済成長が鈍化している 状況下、政治・社会の混乱で主要産業である金融セクターに影響が及ぶ可能性は高く、国内経済へ の影響が懸念される。 シリア G→H 共和制であるが、実質、バース党の一党独裁による強権政治に対し、抑圧されてきた国民の不満 は強い。周辺国の民主化運動に影響を受け、同国でも 3 月から散発的に抗議デモが起きていたが、 治安当局との衝突が激しくなり、3 月 25 日の全国的な大規模抗議デモでは多数の死傷者が発生し、 事態は急速に悪化している。内閣は責任をとり、3 月 29 日、総辞職しており、政府の政策実行能力 が低下する恐れがある。反政府運動はアサド政権打倒を掲げ、非常事態宣言の解除、情報部隊の 撤収などを要求しており、政権側の対応によっては政治的緊張が今後、一層高まる恐れがある。 リビア F→H 北東部ベンガジで起きた人権活動家の釈放を求めるデモは、カダフィー政権の圧政に対する反政府 10 10 e-NEXI (2011 年 4 月号) 運動となり全国に拡大した。政府側は反政府勢力に対し、武力による徹底した鎮圧を行っており、国 内は内戦状態に陥っている。国際社会はリビア制裁に動き、多国籍軍(その後 NATO に指揮権が移 行)は、政権側に対し空爆を開始した。4 月現在、停戦の目処はたっていない。 ●国カテゴリーが引き上げられた国 モンゴル G→F モンゴルは、銅、金を主要輸出品としている。2008 年に銅価格の下落や国際金融危機に影響されて急速に経 済が悪化し、2009 年 3 月に IMF や世界銀行からの国際金融支援を受けた。同国では、モンゴル人民党(社会主 義体制下での政権党)とモンゴル民主党が主要な政党であるが、従来は両党の対立が議会の内外で先鋭化する ことが見られた。しかし、国際支援を受けてからは、議会では両党が大連立を組んで安定議席数を得るとともに、 民主党が大統領職、人民党が首相職を分担し、両党が協力して IMF のコンディショナリティである財政赤字削減 に努力した。 2010 年になってからは、世界経済の回復に支えられて金属価格が上昇し、モンゴルの鉱山開発に向けた直接 投資が流入し、輸出も増加した。環境が好転したことにより、実質 GDP 成長率は、2009 年▲1.3%、2010 年 6.1%、2011 年 10.3%(IMF 見込み)と、急回復している。こうしたことから、2009 年 3 月に始まった IMF の支援プロ グラムは18 カ月間で終了した。二大政党の大連立によって政治が安定したことで、IMFや他の国際機関と協調関 係も築け、また、鉱山開発投資や輸出の増加により経済が改善している。 11 11 e-NEXI (2011 年 4 月号) 韓国貿易保険公社との再保険協定締結 独立行政法人日本貿易保険 営業第一部営業企画グループ 1. NEXI は、2011年2月22日、韓国貿易保険公社(K-SURE)との間で再保険協定を締結しまし た。 2. 本協定は、日韓両国の企業が連携して第三国から受注する案件について、一つの窓口(ワンストッ プ)でプロジェクト全体に対する貿易保険を引き受けつつ、NEXI と K-SURE との間で、それぞれ日本、 韓国からの輸出部分等の割合に応じてリスクを分担することを可能とするものであり、 「One-Stop-Shop」と呼ばれるものです。本協定の対象となる保険契約は、バイヤーズクレジット案 件やサプライヤーズクレジット案件などとなります。 3. 本協定における再保険の特徴は以下のとおりです。 (1)本協定における再保険は、“Follow the Original”の原則に基づき、再保険者はリスクシェアを行 いつつ、保険料率、てん補事由、保険金支払、回収等は元受保険者の約款に準拠して引受 けることとなります。保険事故の査定や回収は、元受保険者と再保険者が十分相談しますが、 原則として元受保険者が判断することとなります。 (2)本協定においては、案件の性格、対象国・バイヤー等を踏まえたうえで、個別案件ごとに、元受 保険者は再保険を申込むかどうか、また、再保険者は再保険の引受を承諾するかどうかを判断 することとなります。協定が適用されるすべての取引について再保険をかけなければならない包括 的な協定ではありません。元受保険者からの“Final Proposal Form”に対して、再保険者が “Final Response Form”にて「引受けを承諾する」旨の回答をするまでは、再保険者に引受義 務は生じません。 4. 本協定の締結により、一つの窓口(ワンストップ)で日韓企業の共同受注案件に貿易保険をかける ことができるようになります。厳しい国際競争の中で、日本企業が韓国企業と連携して、それぞれの 強みを活かして海外プロジェクトを受注するケースが増えると見込まれることから、NEXI としても、 K-SURE と協力して利便性を高めることにより、日本企業が参画する海外のプロジェクトの受注を支 援して参ります。 12 12 e-NEXI (2011 年 4 月号) <共同受注プロジェクトにおける再保険の例(イメージ)> (出典:NEXI 作成) 13 13 e-NEXI (2011 年 4 月号) G20 Berne Union/World Bank Meeting に参加して 独立行政法人日本貿易保険 ベルン・ユニオン(BU)の G20 メンバーと世銀グループ(IMF、MIGA など)との会合が 3 月 15 日にワシン トン DC にて行われました。ベルン・ユニオンメンバーと世銀グループとの会合は今回が初めてであり、主に開 発途上国に対する Trade Flow 支援という観点から、ベルン・ユニオンと世銀との間で共同で取り組むべき アプローチの可能性を探ることを目的として開催されました。ベルン・ユニオンからは G20 メンバーの各 ECA 代表、世銀グループからはゼーリック総裁をはじめ IFC、MIGA 等の代表者、また、ランチセッションのみの参 加となりましたが、WTO からはラミー事務局長が参加しました。NEXI からは、鈴木理事長をはじめ、NY 事 務所から総勢3名の参加となりました。 会合の冒頭、世銀ゼーリック総裁から、今回の日本の大震災に対するお悔やみのコメントがあり、日本 のこれまでの世銀に対する貢献を高く評価するとともに、世界中の人々が日本を助けたいと考えている旨 のコメントがありました。この他、世銀ゼーリック総裁からは、開発途上国における Local 銀行のキャパシテ ィ強化、農業支援等について言及があり、ECA によるファイナンス面でのサポートに対して期待が寄せられ ました。また、WTO ラミー事務局長からは、金融危機の状況下における開発途上国に対する Trade Finance の重要性、バーゼルⅢが開発途上国への Trade Finance に対して与える影響について言及され るとともに、今回の日本の大震災がアジア経済ひいては世界経済に与える影響への懸念等が示されまし た。一方、各 ECA の代表からは、金融危機状況下での経験が紹介されるとともに、中小新興国に対す る Trade Finance 等に関する意見が出されました。 会合全体を通じて、ベルン・ユニオンメンバーと世銀グループとの間で対開発途上国支援という観点から 様々な情報交換・意見交換が行われましたが、今回が初会合であることもあり、両者の協力の可能性 については引き続き情報交換・意見交換を行っていくこととなりました。 最後になりますが、今次の会合では、東 日本大震災発生直後に開催された国際 会合ということもあり、上述のゼーリック総裁 の他、IFC、MIGA 及び各 ECA の参加者か ら、地震災害に対するお悔やみとともに大 変温かい多くの言葉をもらいました。日本が これまで築いてきた国際機関・世界各国と の友好関係を改めて感じさせてくれた会合 でした。 会議風景 14 (出典:NEXI) 14
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