Financial Services Architect Vol.28

Financial Services Architect Vol.28
2013年冬号 金融サービス本部
2013年、銀行業界を占う
2013年、証券業界を占う
2013年、保険業界を占う
至上命題 ITコスト削減
目次
-2013年の動向を占う-
1. 2013年、銀行業界を占う
~情報技術を活用する新しい銀行の形
マネジング・ディレクター  市岡 修
2.2013年、証券業界を占う
~新たな業務運営モデルの整備
マネジング・ディレクター  山本 浩史
3.2013年、保険業界を占う
~トップラインに目を向ける
マネジング・ディレクター  柴田 尚之
4.至上命題 ITコスト削減
~アウトソーシングによる抜本的コスト削減の早期実現
マネジング・ディレクター   樋口 雅之
5.最近話題のプロジェクト
6.アライアンスおよびパッケージ・システム
7.弊社レポート
8.会社概要
Financial Services Architect
Financial Services Architect (FSアーキテクト)は、
金融業界のトレンド、最新の IT情報、弊社サービス
および貴重なユーザ事例を紹介する、
日本オフィス発の
ビジネス季刊誌です。
1
拝啓 新春の候、貴社におかれましては益々ご清栄のことと、お慶び申し上げます。
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
本誌「FS Architect」は、おかげさまで発刊7年目を迎えました。これも皆様の絶大な
ご支援とご愛顧の賜物と改めて深く感謝いたします。
新年を迎え、弊社は改めて「成長=Growth」をテーマとしたサービス提供に注力したい
と考えております。
ここ数年来の世界経済の停滞、震災・水害等の自然災害、欧州・中東・中国等のカン
トリーリスク、金融規制の更なる強化と、今後の経済・市場環境として依然不安定で
厳しい状況を示唆する要因は枚挙に暇がありません。このような不安定な状況が
常態化した経営環境を所与のものとし、如何に成長に向けて攻勢に転じるかが本邦
金融業界に問われていると確信しております。
2013 年の干支である「巳」の漢字は胎児を表すことから「新しい誕生」を意味し
ます。また、巳年は「富と豊穣」を象徴する年と言われております。改めて新しい成長
戦略の実現に踏み出すに相応しい年ではないでしょうか。
本号では、
「2013年の動向を占う」と題して、銀行、証券、保険各ビジネスにおける
「成長」に向けた要諦および、その成長を支援するITサービスのあり方について、弊社
の考え方、アイデアをご紹介させていただきたいと思います。ご一読いただき、貴社
取り組みの一助となれば幸いです。
本年も引き続き、貴社のビジネス価値の向上に貢献する競争力のあるサービスの
構築に向け、鋭意努力させていただく所存ですので、ご検討の上ご用命いただければ
幸いに存じます。
今後ともご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。
敬具
2013 年 1 月吉日
アクセンチュア株式会社
金融サービス本部
統括本部長 関戸 亮司
2
2013年、銀行業界を占う
~情報技術を活用する新しい銀行の形
銀行の商品・サービスを見ると、多少の違いこそあれ、各行概ね同じライン
写真
ナップが並んでいるように見える。
しかし、
「 Web・モバイルの活用」、
「ソーシャルメディアの活用の進展」に
より、顧客や企業がネットワーク化された世界では、単純な商品・サービスは
競争力を失っていくことは自明であり、顧客の嗜好やニーズに合致した商品・
サービスの提供がこれまで以上に求められてきている。
進展著しいデジタル化の流れに向き合い、ソーシャルメディア等の情報技術
を活用し、真に差別化した商品・サービスを提供することを考える銀行が
でてきてもよいのではないか。希望的観測も含め、2013年を占っていく。
市岡 修
1988年(株)住友銀行
(現(株)三井住友銀行)
入行
2001年アクセンチュア(株)入社
金融サービス本部
マネジング・ディレクター
銀行グループ担当
[email protected]
はじめに
同調査は、主にコンピュータ関連製品、 これらの調査の結果から、顧客はコモ
2012 年の初めには、バーゼルⅢ、SIFI 電器・電子機 器、洋 服 等 のアパレル ディティ化された商品に満足しておら
といった資本規制、犯 収 法といった
製品の購入を対象としているが、商品
ず、差 別 化され た商品・サービ スを
法 規制、でんさいネットの様な 新し
に差別化要素がなければ、価格が安
提 供しない限り、銀行は価格競争に
い仕組みの導入、震災の復興需要に
い店で購入するという消費者行動は、 巻き込まれることを覚悟しなければ
に対する金融機関としての対応 等が 金融商品についても適 用されるもの
主なトピックとして挙がっていた。これ
らのトピックについては、粛々と対応
が進んでいる。
こうした 動 向 は、多 数のメディアに
と考えられる。
また、弊社がグローバルで行った調査
ならないということが推察される。
ソーシャルメディア利用の現状
インターネットの普及に伴い、PC から
によると、銀行の顧客満足 度は他の
のインターネット利 用は一定の 割 合
業態よりも低いという結果がでている
存在するが、近年のスマートフォン等
取り上げられているため、本稿では、
(図 1)。同調 査 では、取引銀 行を 変
モバイル機器の普及に伴い、特に若年
希望的観測も含め、ソーシャルメディア
更した理由についても述べられてい
層では、モバイル機器のみでのイン
等の情報技術を活用した銀行の出現
るが、顧客サービスの悪さや、変わり
ターネット利用者が増加している。
について占いたい。
映えしない商品・サービスを理由に挙
顧客の既存商品・サービスに対する
問題意識
げているケースが多くなっている。
2014 年のインターネット利用者数の
加えて、銀行の基本的な業務の一つ
ネット利用者数が、PC 経由の利用者
うち、モバイル機 器 経由のインター
皆さんはネットで買い物をする時に何 であ る「 決 済 」の 領 域 には Google、 数を上回るという予測もでている。
を重視するだろうか。Forrester Research
Paypal 等、銀行以外の強力なプレー
社の調査によると、顧客の 43% が価格
ヤーが参入してきており、脅威となっ
を重 視し、18% が送 料 無 料であるこ
てきている。
とを重視するという結果が出ている。
3
また、当初は着メロのダウンロード等
簡易なものが中心であったが、直 近
ではアプリ活用やソーシャルメディア
等の利用頻度も増加してきている。
図表 1 銀行に関する顧客調査結果
乗換えに関する調査
乗換
業種別
顧客満足度調査
業種別
顧客からの信頼調査
銀行
2007年
74%
小売
73.9%
業界平均
72%
70.6%
70%
68.8%
69.4%
↓
68%
26%
銀行
20%
ISP
20%
携帯通信
17%
固定通信
ア メ リカ
9%
-39%
イギ リ ス
公共・公益
ド イツ
銀行
-20%
-16% -17%
フラン ス
保険
10% 6%
イン ド
自動車
9%
68%
43%
41%
34%
29%
27%
17% 21%
15%
保険
07年から10年の増減
85% 83%
75% 77%
中国
66%
2010年
先進国
• 銀行の顧客満足度指数は全業界平均より低い水準
にある。
• 銀行の乗り換え率は他業種と比べて高い水準
にある。
• 先進国における顧客からの信頼度合いは、
低下している。
• 銀行の顧客のうち、5人に1人(20%)が顧客
サービスが原因で乗り換えている。
© 2013 Accenture  All rights reserved.
銀行におけるソーシャルメディアの
活用の方向性
利用者数および、利用頻度が増加傾
向にあることを踏まえ、銀 行ではモ
バイル機器経由でのサービス提供に
力を入れていくべきと考える。
その際に、ただ既存の商品・サービス
を提 供するだけでなく、情 報技 術を
活用した新たな商品・サービスを提供
することを忘れてはならない。
に自身が関与しているか否かも重要
そ の 為 には、
「デジタル・バリュー・
な要因となる。
パ ス 」に沿った 情 報収 集 をする力、
こうした傾向を利用し、スーツや靴の
オーダーメイドサービスの様に、パー
ソナライズされた商品・サービスを提
供することが次なるステップとなると
考える。
ソーシャルメディアを活用した事例と
しては、同一の趣味・趣向をもつ特定
の顧客セグメントに特化した商品を提
情 報 技 術を活用した商品・サービス 供するケースが他業種では見られるが、
提供とはどのようなものだろうか。現 様々な情報をつなぎ合わせて、特定
集めた情 報を元に顧客セグメントを
切り出すアナリティクス力、
アナリティ
クスの結果を受けて新しい商品・サー
ビスを企画・実現する力および、商品・
サービスをスピーディにシステム対応
を実施しリリースする力が求められる。
一足 飛びに全ての力を身につけるこ
とは難しいが、こうした取り組みを真
摯に始める銀行が現れてくると確信し
ている。
時点 で は、facebook 等 のソーシャル の顧 客セグメントを 切り出すために
ソーシャルメディアの活用に向けて
メディアを活用し、各企業が「新規顧
は、顧客の行動を捕捉する枠組みが
ただ、こうした取り組みを始めるに
客の獲 得」
「クロスセル」
「 顧客への
必要となる。弊社では「デジタル・バ
あたっては、基礎を固めることを怠っ
サービス提供」
「ブランド構築・認知
リュー・パ ス」
(図 2)という枠 組み
てはならない。
度向上」等の施策を実施している事
例が多い。
が有効と考えている。
地 域ごとのニーズに合 致する形で支
この枠組みを活用することによって、 店ネットワークを最適化すること(例
では今後、どのような一歩を踏み出
日常的に行われている店頭やコール えば、キャッシュレス 支 店、販 売 専
せばよいのか。顧客は、自分の好み
センターでの対応では見逃されること
を反 映した自分用の商品・サービス
のあった顧客・見込み顧客の情報を、 を実施する試行支 店、フルサービス
担の軽量支 店、革新的なチャレンジ
に対しては対価を支払う傾向がある。 ソーシャルメディアを活用して捕捉で
提供支店等のバランスを考えた上で、
加えて、商品・サービスの購入プロセス
支店を再配置する等)、チャネル間の
きる可能性がある。
4
図表 2 デジタル・バリュー・パス
デジタル・バリュー・パス
Connect
(顧客とつながる)
Attract
(顧客の興味をひく)
Orient
(顧客を誘導する)
Compelling
interaction
(顧客を引き込む)
Extend & Retain
(顧客を維持する)
Social
Reputation
(評価・精緻度向上)
「顧客対応から得られる顧客情報」に「ソーシャル・ネットワークから得られる顧客情報」を加えて評価する
ことで、
「顧客経験価値」を理解、向上することにつなげる。
ソーシャル・ネットワークから得られる顧客情報
リンク
Google
フォロー
検索
GROUPON
リンク
facebook
ツイート コメント
twitter
レコメンド
YouTube
顧客経験価値
の理解・向上
顧客対応から得られる顧客情報
店頭対応
電話応対
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情報の分断を解消し、顧客情報の整
終わりに
今の銀行のあり方からは突飛な考え
合性を担保すること、顧客中心の新
本稿では、ソーシャルメディアを中心
に聞こえるかもしれないが、顧客を
しい経営指標体系を整備すること等
に、情報技術を活用した新たな銀行
より深く認識することで生まれる独自
が挙げられる。
の形について言及してきた。
性のある取り組みに期待したい。
特に、経営指標体系については、充分 ソーシャルメディアの活用を継続、レベ また、そう言った取り組みを実施する
な対応が必要である。Trust
Barometer ルアップすることは、顧客の行動、趣 お手伝いができれば幸いである。
Edelman 社が 2010 年に実施した調査 味・趣向を認識することにつながるた
では、リーマンショック前後で先進国
め、将来的には金融以外の商品・サー
を中心とした銀行の信頼 度が下がっ
ビスのニーズを掘り起こすことも可能
ており、顧客が銀 行から離れる方向 となる。
に動いていることが分かっている
(図 1)
。
例えば、法 人 金融におけるサプライ
顧客の信頼を取り戻すためには、従来
チェーン・ファイナンスの様に、カネの
の株主目線の経営管理指標だけでな
動きだけでなく、モノの動きにも積極
く、顧客を含めた利害関係者に対す
的に参画することによってカネの動き
るパフォーマンスを 360 度計 測する
を取り込み、顧客との関係性も深化
経営管理指標を加える必要があるの
させることができるのではないか。
ではないか。
5
2013年、証券業界を占う
~新たな業務運営モデルの整備
世界経済、金融市場が非常に不安定な状況にある中、資本市場の中核であ
る証券会社も厳しい状況に直面している。証券会社各社は津波のように押
し寄せる各種金融規制へ対応し、企業として収益を確保していくため、顧客
サービスを中心としたサービス提供を強化するとともに、成長市場への参入
やコスト構造改革などを含めた「事業再構築」を進めていく必要がある。
事業再構築に際しては、これまでの事業運営を抜本的に見直し、商品横断、
部門横断、拠点横断で事業運営していくことが不可欠である。また、事業運
営を見直す際、証券会社単独だけではなく、銀行を中心とするグループ企業
との密な連携も今後の成長のカギとなろう。
山本 浩史
1994年アクセンチュア㈱入社
本稿では、証券ビジネスの新たな業務運営モデルに関して、検討に際しての
要点等、事例紹介も含めて考察したい。
金融サービス本部
マネジング・ディレクター
証券・資本市場グループ担当
[email protected]
不安定な経営環境
投資銀行ビジネス機能の
2013 年 現 在、引き 続 き 世 界 の 金 融 位置づけの変化
最後はユニバーサルバンキングを指
向するタイプであり、スケールメリッ
市 場 は 非 常 に 厳 し い 状 況 に あ る。 最 も 厳し い 状 況 に あ る 証 券 ホール トを活かして、総合金融サービスとし
グローバルベースのデレバレッジ(家 セールビジネス(投資銀行ビジネス) て様々の顧客に対して、様々な商品・
計 部門のデレバレッジ、企業部門の
において、グローバ ル のプレイヤー
サービスを提供するタイプである。JP
デレバレッジ、政府部門のデレバレッ
達は、3 つ の方 向 性で 事 業 の 再 構 築
モルガンチェースやシティバンク等が
ジ)が進む中、経済環境は非常に不
を進めているように見受けられる。
これに該当する。
安定な状況にある。欧州危機は引き
続きグローバル経済を不安定にさせ
るとともに、欧 州における金融取引
税の導入など、政治的な動きも金融
機関の経営に対して大きな影 響を与
えることが予想される。さらにバーゼ
ルⅢ、ドットフランク法、EMIR(欧 州
市場インフラ規制)等の金融規制は
今 後 強まるのみである。このような
1 つ目はウェルスマネジメント強化に 3 つの方向 性のいずれもバンキング
注力する流れであり、最近ホールセー
ビ ジ ネスと セット の 事 業 再 構 築 で
ル部門の大幅な事業縮小を実施した
あり、投資銀行ビジネス(証券ホール
UBS などが典型例として挙げられる。 セールビジネス)単体のみで事業再
ウェルスマネジメントの顧客に対する 構 築 を 試 み る金 融 機 関 は 限 定 的 で
魅 力 的 な 商 品 提 供 の 観 点 から 投 資 ある。この流れは日本の証券会社(特
銀行ビジネスの商品提供機能を活用
に銀 行系証券)にとっても示唆が 得
するケースである。
られると考える。
状況下、金融機関の経営者は、様々
2 つ目はコーポレートバ ンキング を 業務運営モデルの再定義
な経営課題に直 面しており、特に金
指向する流れであり、企業や事 業向
事業再構築に際して各金融機関は業
融・資本市場の中核である証券会社
けのファイナンスニーズに対して投資
務運営モデル(オペレーティングモデ
は最も困難な状況にある。
銀行ビジネスの商品・サービスを活用
ル)の再定義を実 施している。業務
していくタイプである。RBS、ソシエ
運営モデルは以前より議論されてい
テジェネラルなど、強力なコーポレー
るテーマであるが、昨今はより広 範
トバンキング機能を保有するスーパー
かつ抜本的な業務運営モデルの見直
リージョナルプレイヤーが該当する。
しを行うケースが増えている。
6
図表 1 某ユニバーサルバンクにおけるオペレーティングモデル策定の際のオプション例
オペレーティングモデルオプション(地域の観点は割愛)
集中型モデル
サイロ型モデル
ハイブリッド型モデル
IT
IT
ビジネス
顧客
PB
IT
ビジネス
IB
CRM/ディストリビューション
ビジネス
PB
IB
PB
CRM/ディストリビューション
CRM/ディストリビューション
CRM/ディストリビューション
IB
清算・決済
清算・決済
清算・決済
カストディ
データマネジメント
資産保全
資産保全
プロダクトコントロール
CRM/ディストリビューション
商品&
トレーディング
清算・決済(例: 資金管理)
業務
オペレーション
全社機能
カストディ(例: 保護預かり、口座管理)
データマネジメント(例:マスタ&リファレンスデータ)
…
グループ内シェアードオペレーション
グループ内シェアードオペレーション
主計・財務
主計・財務
法務
& コンプライアンス
法務
データマネジメント(例:マスタ&リファレンスデータ)
グループ内シェアードオペレーション
主計・財務
& コンプライアンス
法務
& コンプライアンス
人事
人事
人事
全社シェアードサービス
全社シェアードサービス
全社シェアードサービス
• 高い相乗効果/コスト効率性
• 部門横断的なノウハウ活用の極大化
メリット
プロダクトコントロール
決済&クリアリング
…
データ
マネジメント
清算・決済
• 統一されたアプリケーションアーキテクチャ
• 顧客別、ビジネス別、商品別のケーパビリティの
確保・強化
• 期待効果とリスクのバランスがとれたシェアード
オペレーション
• 各拠点のマネジメントチームによる明確な
アカウンタビリティ/ライン管理
• コモディティ型のシェアードオペレーションと
固有要件を満たしたビジネスラインオペレー
ションの融合
• 統一されたアプリケーションアーキテクチャ
デメリット
• ビジネスの柔軟性の低下
• 重複投資の発生
• 各種連携に際しての明確な役割定義の必要性
• 複雑な意思決定および企画プロセス
• スケールメリットの欠如
• 成長局面におけるサイロ構造を構築する動き
• 部門ごとに異なるアプリケーションアーキテクチャ
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最近の業務運営モデルの再定義の取
機能単位での業務集約の強まり
り組みでは、顧客重視・効率性 重視
の観点から、既存運営モデルの各種
図 1 は某ユニバーサルバンクの 業務 デルを志向するかは、効率性と機 動
運 営 モ デル 検 討 の 際 に 定 義 さ れ た 性のバランスで決 定されるが昨今は
サイロを如何に打ち破るかが重要な
ハイレベルオペレーティングモデルの
商品投入・マーケット参入等のスピー
議論の 1 つとなっている。各種サイロ
オプションである。
ドの機 動性よりもコスト効率性が重
ておく必要がある。どのタイプのモ
視されている。
の例としては、エンティティ間(銀行
1 つ目の「 集 中 型 モ デル」 はリテ ー
と証券)、拠点間(東京とロンドン)、
ル(PB=Private Bank)、ホールセール ソーシング戦略の重要性
部門間(エクイティ部門と金融市場部
(IB=Investment Bank) の 横 断 で、
業務運営モデルの再定義においては、
門)、チャネル間(営業 店とダイレク
トチャネル)、などが存在する。
例えば、ホールセールビジネスはこれ
まで相対的に利幅の大きいビジネス
であったが昨今の厳しい価格競争の
中、いかにコスト優位性を確保でき
るかが競争優位上重要となっており、
サイロ横断での業務効率化が不可欠
となる。また、顧客中心の収益機会
機能単位に極力業務運営を集約化し
各機能のソーシング戦略も非常に重
たモデルであり、効率化を追求する
要になる。図 2 はソーシング 戦略 の
一方、機動性には欠ける。
「サイロ型モデル」はリテール、
2 つ目の
ホールセールのビジネスラインを分離
例えば、ソーシング 戦略 の事例とし
したモデルである。柔軟性が 高い反 て、欧 州の 某 銀 行ではデリバティブ
面、 機 能 集 約 が 限 定 的 と な るた め 規制強化に伴う OTC デリバティブ 取
コスト効率が相対的に低くなる。
発掘に際してもサイロ横断での取り組
最後 の「ハイブリッド型モデル」は、
みが重要となってくる。
上述の 2 つのモデルの折衷案である。
バランスが良いモデルではあるも一
方、バランスを確保するために運営上
の責任・役割分担等を明確に定義し
7
5 種類のオプションとオプション選定
の判断基準を示したものである。
引の CCP 対応に際して、顧客との OTC
取引の清算サービスのソーシング 方
法を検 討した。結 論として自社での
サービス提 供はコスト的に見合わな
いと判断し、外部サービスを活用し
たサービス提供モデルを構築した。
図表 2 ソーシング戦略のオプションと判断基準
オプション
成果の確実性
サービス提供
者のインセン
ティブ
人員削減への
インパクト
リスク移転
混乱の可能性
ビジネス
成果への貢献
将来の要件に
対する柔軟性
適切なスキル
の開発
知識移転の
必要程度
低
-
低
なし
低
低
低
低
なし
低
低
低
なし
低
低
低
低
低
高
高
中
低
中
中
中
中
中
高
高
高
高
中-高
高
中-高
高
高
低
中
高
高
高
中
低
低
高
1. 自社調達
2. リソース支援
3. コソーシング
4. アウトソーシング
5. ジョイントベンチャー
© 2013 Accenture  All rights reserved.
環境変化に対してスピーディに対処
可能な業務運営の実現
わせていないことが多い。例えば上司
業務運営モデルは環境変化に応じて
のカルチャーに対してその許容度は
が複数存在するダブルレポーティング
変化し続ける。また外部環境の変化 低い。
の み ならず 組 織 の 硬 直 化 を 避 ける
ためにも運営モデルは数年サイクルで
変えていくことが望ましい。従って、
効果的な業務運営を実現するために
は、経営インフラと組織・人材の柔軟
性が重要となる。全社の経営インフラ
経営環境が不安定な中、今後のビジ
ネスで重要になることは、環境変化に
合わせて事業運営モデルを見直すと
ともに、変化に強い組織カルチャー・
人材を育成していくことである。
とは経営管理指標・業績評価基準と また、今後のビジネス運営に必要な
そ れを 支 える 管 理 会 計 の 仕 組 みで 人材は多種多様であり、多種多様な
ある。組織運営単位が変化しても経
人材を有機的に融合していくために、
営管理指標の集計単位を柔軟に変え
これまで以 上に如何に人材をマネジ
ることのできる管 理 会 計インフラが
メントするかが問われることになる。
必要となる。後者の 組 織・人材の柔
軟性は日本の金融機関にとって大き
なチャレンジである。
日 本 の 金 融 機 関 の 場 合、 歴 史 的 に
軍隊のような階層的組織で事業を営
んできたため、海外金融機関で見受
けられるマトリクス型の 組 織 運営に
適応可能な組織カルチャーをもち合
8
2013年、保険業界を占う
~トップラインに目を向ける
近年保険会社に対する見方は、保険加入率が限界点に達している
現状から考えて、国内でのトップライン向上よりむしろ海外進出や
コスト削減といった方向性の取り組みにマーケットの注目が集ま
っていた。実際に各社のディスクロージャーを見ても、大手損害保
険会社は合併や経営統合といったコスト削減・経営効率化に注力
している現状があり、大手生命保険会社においてもコスト削減が
大きなテーマとして取り上げられている。
しかし、あえて2013年は再び国内マーケットでのトップライン向上
に真正面から取り組むことになると考える。コスト削減対応と
柴田 尚之
1993年アクセンチュア(株)入社
金融サービス本部
マネジング・ディレクター
保険グループ担当
[email protected]
並行しながら、損保業界再編に伴う各社の競争力増加、まだまだ
開拓余地が多いとされる生保業界の新規マーケット分野での顧客
獲得競争を通じて、トップラインをいかに伸ばすかが改めて経営
課題の中心にくるものと思われる。前々回はソーシャルメディア、
前回はアナリティクスを取り上げたが、今回はそれらを含めて、
トップライン向上にあたって何を強化するべきなのか、そしてそれ
をどう実現していくのかを考えてみたい。
営業は科学できるのか ?
が、この際に利用した IT 投資は極め
したがって、従来のプロダクトアウト
いわずもがなであるが、トップライン
て限 定的であったものの、ある種科
型のアプローチを行うよりも、自分
を伸ばすことの源泉は営業成績を上
学的なアプローチとも言えるだろう。
の顧客に提供する価値をいかに最大
げることである。乱 暴な言い方をす
れば、そのためには気合いや根性や
雑巾掛けといった人間性や精神的な
タフさ・行動様式が重要であり、代理
店あるいはお客様と非常に親密な関
係を構築することも必要である。
したがって「営業は科学できるのか?」
ということへ の 答えは No でも あり
化できるかが重要であると考える。
さきほど事例であげた生命保険会社
Yes でもある。保険会社各社も同様に、 では、
「売り物」を軸としてキャンペー
両方をミックスした 形で営業戦 略を
練り実施していると思われる。
ただし、テクノロジーの進歩から、科学
ンを行う、いわゆるプロダクトアウト
型であったが、従来以上に自分の顧客
の状態分析や孤 児契約となっている
顧客のアサインメントを通じて、顧客
このような考え方からすると、営業成
的なアプローチを今後より容易にか
績を上げることに科学的なアプロー
つ効果的に活用できるようになってき
に対してそれぞれの「売り物」、
「売り
チは全くそぐわないのではないかと
ているということは言えそうである。
方」をセットにした顧客個別のニーズ
いうことになる。
随分前になるが、ある生命保険会社
プロダクトアウトからソリューション
のご提案へ
において特定商品の販売促進を行っ 前稿でもご紹介しているが、近年弊社
や課題に対する「ソリューションのご
提 案 」を作り上げ ていくことが求め
られてくると考える。
たことが あ る。そ の 際には「 売り物 の 保険グループでは「いかに保険会社 また、営業職員や代理 店といった従
(特 定 商品)」、
「 売り先(特 定 既存 顧
が顧客から満足・感動してもらえるか ?」
来の顧客 接点を担っていたチャネル
客)」、
「売り方(営業説明用設計書)」 をコンセプトとした Customer Experience
が必ずしも全てを行う必要性はなく、
Management(CEM)を提唱している。 情報連携を行えるハブ的な仕組みが
的にそのセットを渡して、結果が出る 先進国はほぼ同じ状況にあると思わ あればメール、
Web、電話といったチャ
度 に Excel で 分析しな がら 少しず つ れるが、保険加入率が限界に近いマー ネルを用いて顧客に相対することも
をセットで用意し、有 績 者から優 先
「売り物」と「売り先」および「売り方」 ケットでは、新規顧客の獲得競争は非 可能 であり、顧 客 を 中 心とした「ソ
を微 調整して行った。結果的には当
常に困難である一方で、大手保険会社 リューションのご提案」にはチャネル
初予算の倍を達 成することができた
は膨大な数の既存顧客を抱えている。 を固定する必要はない。
9
図表 1 Customer Experience Management Cycle
カスタマー・
エクスペリエンス
戦略
Start
サービス戦略
顧客セグメント
戦略
レポーティングダッシュ
ボードによる継続的
フィードバック
リアルタイム
フィードバック
各顧客別アクション実行
商品優先度
ライフイベント
プランニング
Experience
Strategy
トリガー
Experience
Delivery
ライフサイクル
セグメント
該当セグメントの特定
提案
チャネル (対面、
間接など)
Experience
Design
インタラクション
ルール
サービス標準
ライフイベント
顧客別アクション
ルールエンジンによる
ネクストベストアクション
特定
顧客セグメント
顧客収益性
セグメントとタッチ
ポイントごとのアクション
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現 在、 流 行として 言 わ れて い る Big
限 定的および短 期的なものになって
の協力を仰ぎ、最終的に DWH(Data
Data、アナリティクス、ソーシャルメ しまう。かといって一度に多額な投資 Ware House)構築プロジェクトなり、
ディアは、この対顧客への「ソリュー
を行うことも、今日の環境下では現
営業支援システム構築プロジェクトな
ションのご提 案 」作りに役 立てる一
実的ではないので、パイロット的な取
りになるケースが多い。
つの 手段であり、データ収 集・分析
り組みを行いながら効果を見極めて
やコミュニティ作りといったような取
いくというアプローチがとられるもの
り組み自体が目的では決してない。
と考えられる。
具体的には、前 稿でも示した図 1 の
まずは自社の既存 環 境(顧客データ
ような全体像を定義し、閉じたサイク
ルを回しながらデータの精度、分析
の精度を上げ ていき、顧客のニーズ
をより正確に明確に把握することを目
的としながら、最終的な営業成果に
つなげ ていくことを目指 す必要があ
ると考える。
を回す。それを繰り返すうちに「どの
ような情報が必要なのか?」、
「どうい
う分析結果がほしくなるのか?」とい
うことを抽出し、自社独自の CEM を
実現していくことになる。決して公共
投資的な予算ありき、IT 投資中心の取
り組みをいきなり始める必要はない
各 保険会社においては、すでにもっ
と考える。
な 施 策 を 担 える も の も あ る は ず で
ある。一方 で、例 えば 図 1 のような
全体像がないまま個別の部分最適な
取り組みの集合体では、その効果は
社は常時人手不足の状態が続き、要
員 頭 数やスキルの 観点からプロジェ
クト立ち上げや遂行に対してのボトル
ベースや販売支援ツール)をベースに、 ネックに な る ケース が 散 見 さ れる。
全体像に合致したクローズドなループ 特にシステム統合・会社合併、不払い
どのように実現していくのか
ている情報やプロセスで前述のよう
一方で、現状の IT 部門および IT 子会
IT の担い手をどうするのか
対応・制 度 対応といった 非トップラ
イン追求型のプロジェクトに忙殺され
て い る 保 険 会 社 で は 顕 著 で あ る。
また、そうでない保険会社にしても、
業務機能ごとに縦 割りになっている
組 織 体系 をもってい る IT 部 門 では、
トップライン追求型のプロジェクト運
営において社内人材調達が課題にな
るケースがある。
一般的にこのようなトップラインの追
求を行うタイプのプロジェクトでは、
従来はパイロットから始めて、IT 部門
10
図表 2 弊社のトップライン追求型ソリューション・サービスラインアップ
戦略/変革
対面チャネル/
支店組織
コンタクト
センター
デジタルチャネル・
マーケティング変革
アナリティクス・
セグメンテーション
セールス戦略
オペレーションサービス計画
インターネット戦略
予測/傾向モデル立案
セールスプロセス最適化
サービスプロセス最適化
モビリティ戦略
CEM戦略
ビジョン立案/企画
サービスモデル立案、
チャネル戦略、
マーケティング戦略、
プロセス変革、
VOC/VOD戦略
次世代店舗/対面チャネル展開計画
ソーシャルメディア戦略
マルチ・チャネル・アーキテクチャ計画
対面チャネルシステム
設計/構築/導入
運用/管理
IaaS
(インフラストラクチャ・
アズ・ア・サービス)
コールセンターシステム
デジタルチャネルシステム
マーケティング・
アナリティクス戦略、
顧客セグメン
テーション戦略
ERMアナリティクス
マルチ・チャネル・アーキテクチャ
DWH
クラウド・システム
マーケティング自動化
コンサルティング
アウトソーシング
(パフォーマンス管理)
コンタクトセンター
運用アウトソーシング
(採用/トレーニング)
マーケティング
アウトソーシング
アナリティクス
アウトソーシング
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データ分析環境を含めて外部を
積極活用
まとめ
また CEM 実現にあたっては自社自前
近年、非常に多くのコスト削減関連の
主義で行うのではなく、積極的に外
結論から言うとトップライン追求型プ
取り組みが なされてきたが、2013 年
部リソースを活用して行うことで効果
はメガ損保に集約されつつある損保
の 最 大 化 と 先 取りが 可能に なる。IT
ロジェクトはあくまでも営業部門主導
で行うべきであり、自社 IT 部門、あ
業界にしても、新たな保険マーケット 部門の要員不足が顕 著な 現在では、
るいは外部の環境や人材をいかにプ (シニア層 や 女 性 等)を 開 拓しつつ ビジネス部門からの直接的なかじ取
ロジェクト遂 行面から効果 的に使っ あ る 生 保 業 界 も、 営 業 力 の 強 化や りが 強く望まれるし、これは営 業 部
て行っていくかが 重 要なポイントに
トップラインの強化が大きなテーマに 門 が 昔 から 抱 いて い る IT 部 門 へ の
なる。現在ではクラウドの活用により
スピード感や品質の期待値を自らコン
なることは間違いない。
IT のプラットフォームを調達すること
トロールできるという観点から、営業
も可能であるし、外部でのデータ分 一方 で限られた社内リソースや投 資
部門のモチベーション向上にもつな
析サービスも提供されている。
余力を考えると、全体の青写真を描
がるやり方であると考える。いわゆる
いたうえで、既存資 産を有 効活用し
従 来 型の 保 険 営 業に CEM の 要 素を
図 2 に 示 すよう な 弊 社 が 提 供 して
ながら、パイロット的なアプローチで
ハイブリッドさせていくことが、保険
いるサービスラインアップをベースに
効果を先取りしながら進めていくこと
会 社のトップライン向上と顧客満足
考えると、ビジョン立案から導入・運
が求められる。その際に最も重要な
用管理まで一貫して外部のリソースを
の両立に寄与すると考えている。
ことは、プロダクトアウト的な発想か
活用できる。このような外部活用は、
自社で多くの人 員を抱える国内系 生 ら顧客に提供する保険会社からの価
損保にはやや抵抗感のあるやり方か 値を最大化させる「ソリューションの
もしれない。ただし、国内同業他社・ ご提案」への発想の転換であろうと
海外保険会社での CEM 関連プロジェ
クトの経験者やデータ分析の経験者
考える。本稿ではこれを CEM と呼ん
だが、特定のツールや分析手法にこ
を即戦力として活用できる利点もある だわるのではなく、保険会社が顧客
し、海外、特に米国ではデータ分析を に提供する価値を最大化させていく
インドにアウトソースするというやり
改善 のル ープ を回していくことが 重
方は極めて一般的である。
要であり、流行のツールは手段に過
ぎない。
11
至上命題 ITコスト削減
~アウトソーシングによる抜本的コスト削減の早期実現
金融危機、合併・企業統合を繰り返す日本企業にとってコスト削減は常に
至上命題であるが、これまでの雑巾絞り型のコスト削減は品質・生産性
向上とのトレードオフを考慮すると、もはや限界にきていると言わざるを得
ない。
「本業での成長を加速させるエンジン」で
また、ITのそもそもの役割は、
あるべきだが、昨今では、成長エンジンではなく、
「いかに成長を阻害しな
いか・・・」と取り違えられている傾向が見受けられる。
アプリケーションの保守・運用領域におけるコスト削減を実現する手段とし
てアウトソーシングは極めて有効な手段であるが、その形態は変貌を遂げ
樋口 雅之
てきている。
1995年アクセンチュア㈱入社
本稿では、抜本的なコスト削減を実現しつつ、本業での成長を支援するIT
アウトソーシング本部
サービスを実現するためのアウトソーシングについて考察してみたい。
マネジング・ディレクター
金融業界向けアウトソーシング企画立案
および導入担当
[email protected]
高まる保守コスト削減の
プレッシャー
は品質低下やスピード悪化という形で
とともに、今後のニーズが高まること
本業にネガティブなインパクトを与え
が予想されるトランスフォーメーショ
近年、各社の IT 部門ではコスト削減
る懸念がある。
ン型のアウトソーシングの先進事例に
は常に重要テーマであり続けている。
2. 部分最適アプローチによる
景気動向はもとより各社の業績につ
いても決して楽観視できない状況が
続く中で、今 後もコスト削減は IT 部
門における重要テーマであり続けるこ
サイロ化・複雑化
その一方で、これまでのシステム投資
は、初期投 資低 減、およびスピード
ついて紹介したい。
多様化するアウトソーシングの
サービス形態
1. キャパシティ提供型
とに変わりはない。
アップを重視し、システム自体が商品、 短期的な工数変動が大きいタイプの
装置産業である金融業において、本業
複雑化していった。結果として、些細
なスキルを保持する要員をタイムリー
なシステムへ の変 更でさえも影 響範
に提供するアウトソーシング形態を指
囲が膨大なものとなり、保 守コスト
し、オフショア・ニアショア要員の活用
の増加を招く構造になってきている。
による単価低減、および IT サービス
での競争優位を保ちつつ、IT コスト削
減を実現するためには、非戦略的保
守コストを減らし、戦略投 資の比 率
を引き上げ ていくことは避けては通
チャネル、サービスごとにサイロ化し、 システム保 守 の場 面に対して、適 切
れないテーマである。
今後のコスト削減の打ち手は、競争
IT 構造改革の必要性
1. 一時凌ぎのコスト削減策
構築による IT 支出構造の見直し、およ
力強化を見据えたうえで、システム再
への需給調整機能により未稼働時間
の 低 減を強化することで低コストで
の要員調達を可能とする。
び IT 部門に従事する要員の生産性向
キャパシティ提供型のアウトソーシング
近年行われてきたコスト削減施策は、 上、高付加価値業務へのシフトを含
は IT 投資が増加傾向にある際に短期
保守ベンダの単価低減などの一時凌
む抜本的な改革(トランスフォーメー
的・効率的に IT 要員を確保する手段
ぎの対応に集中してきた。即効性の
ション型)であることが 求められて
としては有 効であるが、中長 期での
ある対応についてはある程 度手が打
いる。次項ではこれまでのアウトソー
生産性向上、品質向上は望みづらい
たれた状 況にあり、更なる単価圧縮
シングの形態および特 徴を振り返る
ため、コスト削減効果は限 定的とな
12
図表 1 アウトソーシングのサービス比較
キャパシティサービス
期待効果
お客様が自助努力のみで
改革を実行した場合
ITコスト削減
Y1
ITサービスの
Y2
Y3
Y4
Y5
Y6
サービス管理ツール
アウトソーシング に
よるコスト削減
ITガバナンス強化を
含む累計コスト削減
• オフショア活用、
単価低減
• 要員コストを
変動費化
サービスレポート
可視化/
品質向上
IT戦略ガバナンス
ガバナンスの
強化
アプリケーション
保守・運用業務
プロフェッ
ショナル化
促進
凡例:
• 情報部門全体
に関わるIT総
コスト削減
• プロセス標準化
• プロセス標準化
• サービス管理に
よる可視化
• サービス管理に
よる可視化
• SLAによる品質
改善へのコミット
• SLAによる品質
改善へのコミット
• IT戦略企画機能
の強化
• 方針・ルールの
策定、周知徹底
オペレーション
• IT要員の付加価値
業務へのシフト
マネジメント層
人材交流
オペレーション
実行層
特に効果が期待できる
効果が期待できる
IT要員
トランスフォメーション
• 特定領域に関
して、保守・運用
コストの削減を
コミット
戦略
インフラ
IT要員の
ボリュームコミット
• IT要員のスキル
アップ支援
• 内製化促進
弊社要員
案件によっては期待効果に取り込む
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らざるを得ない。このことから、実際
サービスコミット型のアウトソーシン
シス テム保 守・運 用 を 実 施しつ つ、
の導入事例としては、次項で紹介する
グサービスを実現するためには徹 底
ナレッジを蓄積することで、システム
サービスコミット型とのハイブリッド
した可視化を行う必要がある。ブラッ
構造改革のプラニングから実 行およ
モデルが用いられるケースが多い。
クボックス化したシステム仕様、開発・ び、 投 資 判 断プ ロ セ スの 高 度 化、IT
2. サービスコミット型
保守プロセス、IT 要員・ベンダのスキ サ ー ビ スの 需 給 調 整、IT 部 門 要 員、
ルを可視化することで、品質面、生産
特定の 領域および、業務について品 性における課題を識別し、改善計画
質レベル
(SLA=Service Level Agreement/ を立案することでコスト削減を実現し
OLA=Operational Level Agreement) ていく。
および、コスト削減をアウトソーサが
シ ス テム 子 会 社 要 員 の 育 成 な ど、
変革自体にコミットし、抜本的なコス
ト削減を実現する形態は近年注目を
集めている。
コミットする形態でのアウトソーシン
さらに、機 能ごとにサイロ化した各 トランスフォーメーション型
グモデルを指す。
システム領域を複数ベンダから 1 つの
実際には契約中盤から後半に創出可
を含むトランスフォーメーション型の
ブラックボックス化 が 進むと、業 務
保守・運 用形態に移 行するための準
とアプリケーションとのつながりおよ
備を整えていくことにつながる。
び、アプリケーション間のデータの相
アウトソーシングの活用事例
アウトソーサに集約化をすることは、
1. システム構造改革実現に向けた
通 常、複 数 年で のアウトソーシング 領 域 横 断 で の シス テム 構 造 や 開 発 スキルの蓄積
契約を前提にコスト削減、品質向上 プロセスのナレッジ蓄積を可能とし、
アプリケーション保 守において領域
施策を打ち出す。 システム構造改革や IT 組織改革など ごとにベンダへの 依 存度が 高くなり
能となる生産性向上の効果を契約当
初からの単価低減という形で享受す
ることで、アウトソーシングを導入し
た初年度から確実にコスト削減を実
3. トランスフォーメーション型
関性などの全体を把握する能力が弱
まってくる。その弱体化は保守・開発
IT 戦略やコスト削減を共に考えるパー コストを上昇させるばかりか、システ
現する手法であり、現 在 でもニーズ
が高いサービス提供形態である。
ト ナ ー として ア ウトソ ー サ を 活 用
するアウトソーシングの形態をトラン
スフォーメーション型と称している。
13
ム刷新もしくは大 規模改修時などの
システム構 造改革のプラニング能 力
の低下を引き起こす。
図表 2 トランスフォーメーション型アウトソーシングの活用事例
通常の運用保守体制
トランスフォメーション型アウトソーシング
個別システムごとに設計開発を実施したベンダと
保守・運用契約
IT部門全体に対する
コスト削減、品質向上を目的とした改革
情報システム部門
情報システム部門
アウトソーシング契約
(明確なSLA、コスト削減)
個別保守・運用契約
人材交流
弊社
ベンダ A社
ベンダ B社
ベンダ C社
ベンダ D社
• 情報システム部門のコスト削減施策がベンダとの価格交渉だけ
になりがち
• 人月での契約が主となるため、
工数ありきの議論となってしまい、
何をどれだけやっているのか見え難くなりがち
凡例:
IT要員
弊社要員
• 将来にわたるコスト削減を契約でコミット
• サービスレベルを契約で明確化することでIT部門がサービス
品質のマネジメントに集中できる
ベンダ要員
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ブラックボックス化を排 除し、自社
2. アウトソーシングを梃子にした
ソーサ側がファイナンス面でダメージ
の IT 要員の中にシステム全体を俯瞰
内製化促進
を負う契 約を前 提にすることで Win
する能力を取り戻すための手段として
一般的には、アウトソーサの役割が増
トランスフォーメーション型のアウト していくにつれて、自社の IT 要 員の
ソー シング の 活 用 は 有 効 な 手 段 と ケイパビリティが空洞化してしまう懸
なる。
具体的なステップとして、既存アプリ
ケーションの 保 守・運 用業務引継ぎ
を実施する際に設計文書を整備する
ことで、アプリケーション仕様の可視
化・標準化を推進する。
次に領域横断での広範な知識を蓄積
するための「スキルミックス計画」を
立 案する。スキルミックスは担 当領
域と関連がある近接領域についての
アプリケーション仕様の理解に始まり、
OJT を通して実際に要件定義、設計、
開発などの作業を実施することで一
人がカバーする領域を広げ、深めてい
くことを意 味する。結 果として IT 部
門全体でシステム全体を俯瞰する能
力を高めていくことが可能となる。
念がある。アウトソーシングと内製化
は相反する取り組み のように思える
が、自社内に IT スキルを蓄 積してい
くためにも、アウトソーシングは有効
な手段となりうる。
Win なスキームを作る方法も考えら
れる。
終わりに
アウトソーシングに限らず IT サービス
はその未成熟さ故に常にサービスの
形態を変えていく必要がある。本業
での成長を IT がどのように加速させ
ることができるか、という IT 部門が
アウトソーシングの 活 用 方 法として
直面する課題解決の一助になればと
は、既存ベンダからの引継ぎをアウト
考えている。
ソーサのみならず、自社の IT 要員と
ともに実施し、アウトソーサのオンサ
イト要員の替わりに自社の要員が要
件定 義、設 計などを実 施していくよ
うに複 数年のプログラムの中で育成
して いく方 法 が 考 えら れる。 ま た、
アウトソーサが上 流 工程を実 施 可能
な IT 要員や、オフショアを直接活用
することができる IT 要員の育成をコ
ミットし、実現できない場合はアウト
14
最近話題のプロジェクト
前四半期に引き続きアジア圏を中心とした国外関連案件の引き合いや、
トップライン伸長に向けたコンサルティング案件に加え、
ビジネスアナリ
ティクスに求められる情報システム基盤のプランニング・構築に関わる
ご支援の機会をいただいております。
金融業において、情報システムが果たす役割が、昨今さらに大きくなって
いる中で、
ビジネス戦略との整合性を保った変革推進が、
より一層求めら
れているという証左でもあり、弊社もより一層のご支援ができればと考え
ております。
業態
案件概要
CS
銀行
クラウドを利用した新規決済サービスの企画
○
有担保ローン離反防止における多変量解析モデル構築
○
グローバル運営モデルの策定
○
中計を踏まえたシステム将来構想の立案とシステム投資プラン策定
○
証券
保険
カード
その他
TC
○
○
ITオペレーティングモデルの現状診断とあるべき姿策定
国内生命保険市場の将来動向推計
○
データマート基盤刷新におけるアプリケーション移行開発
○
○
延長保証加入者情報、
修理情報のデータ管理システムの構築
○
○
新ビジネスモデルの構築
○
規制強化に伴う業務・システム変更対応
○
情報系システム設計・開発の妥当性を技術的側面から評価
○
電力向けコモディティデリバティブリスク管理システム保守・運用
(略)
CS:コンサルティング、OS:アウトソーシング、TC:テクノロジー
15
OS
○
アライアンスおよびパッケージ・システム
社名 /ソリューション名 ソリューションタイプ
ソリューション概要
弊社/
生命保険会社向け
生命保険・年金保険の契約管理(サイクル)業務を包括的に支援する基幹系パッケージシステム。
Accenture Life
Insurance Platform
(ALIP)
契約管理システム
コンポーネント単位の組み合わせによって、最適な機能のみの導入が可能。北米を中心に
60社以上に提供中。2006年8月アクセンチュアがNaviSys社を買収後、ソリューション名を
アクセンチュア生命保険プラットフォーム(Accenture Life Insurance Platform–ALIP)に改称。
弊社/
損害保険会社向け
損害サービス業務全般をカバーするグローバルNo.1のソリューション。北米トップ三社の
Claim Components
Solution(CCS)
パッケージシステム
うち二社が導入しており、約7万人の事案担当者が日々CCSを使用、米国個人保険損害全事案
中 36% はCCSで処理されている。初期導入は1998 年で、16 社に導入済。個人保険、企業
保険といった全商品に対応。業務分析ツール等変革に必要となる要素を包括的に含む。
弊社/
損害保険会社向け
アカウント管理、
リスクセグメンテーション、
外部データとの統合、
指標管理といった機能に強み
Underwriting
Components Solution
(UWC)
引受業務支援
を持つ全商品に対応し、引受業務全般をカバー。より迅速かつ適切な見積・引受を可能にし
パッケージ
新たなリスクセグメントの開拓、
コンバインド・レシオの改善に大きな効果をもたらす。英RSAや
弊社/
マーケティング
Webサイトのランディングページ、E-mail、DM、リスティング広告、コールセンター等ダイレクト
Memetrics
(Digital Marketing
Optimization)
チャネル最適化
マーケティング手段の活用を最適化し、売上増加、口座開設率の向上等、
ROIの最大化を科学
Calypso
Murex
米Allstate, Travelersといった欧米トップ企業9 社が既に採用済。
ソリューション
的かつ自動的に実現。2007 年 12 月アクセンチュアがMemetrics 社を買収したことにより、
コンサルティングを含めたより総合的なソリューションとして提供可能。
トレーディング・
デリバティブ(株式、金利、コモデティ、クレジット)、外為関連のディーリングフロントオフィス・
リスク管理システム
リスク管理やバックオフィス業務を行うための市場系システムの導入支援。欧州を中心に世界
で200 名以上のエンジニア(国内では約 20 名)と多数の導入経験により培った方法論を
最大活用。
証券・資産運用系
銀行、証券、投信投資顧問等を主要顧客として、総合証券システム、
オンライントレーディング
ソリューションズ
システム&
システム、投信窓販システム、投信経理システム等を、
ASP 型のシステムサービスとして提供。
(NKSOL)
コンサルテーション
また、豊富な実務・運用経験に基づく、業務・システム・技術コンサルティングを展開。2005 年、
日興システム
より高度で幅広いサービスをワンストップで提供すべく、
アクセンチュアとアライアンスを締結。
Odyssey Financial
Technologies
Oracle Financial
Services Software
プライベートバンキン
プライベート・バンキング/ウェルス・マネジメント・ビジネスを展開する上で必須となる顧客
グ・システム
管理・ポートフォリオ管理・リスク管理・レポーティングを統合化したシステム「Odyssey」。
ウェルス・マネジメント・
要件定義、開発・導入、運用・保守までOdyssey Financial Technologies社とのアライアンスに
システム
基づいて日本にて展開。
銀行勘定系システム
コア・バンキングパッケージとして、新規顧客 獲得数 4 年連 続世界第一位にランキング
(2002~2005年、IBS誌)。現在の顧客数500以上、115ヵ国以上でサービスを提供している
「Oracle FLEXCUBE」。モジュール・アーキテクチャとして、機能が部品化されており、必要な機
能のみの導入が可能。また、商品をパラメータで設定可能なため、新商品の導入が容易。
SAP
BaselⅡ
対応システム
高品質・高付加価値な導入コンサルテーション、豊富な成功事例に裏づけされた安全・確実な
銀行勘定系システム
システム導入、およびSAP社とのグローバルアライアンスに基づく手厚いサポートを提供。
ERP(人事・会計)システム
"BWを中核とした情報系システムの再構築" 等、個別課題へのソリューションとして提供可能。
データベース・システム
SAS Institute
イベント・ベースト・
クレジットライン最適化
CRM、リスクマネジメント、サステナビリティ等同社ソフトウェア・コンポーネントにより、金融業界
では、個人・法人向け顧客営業支援、
クレジットカード与信分析、BaselⅡAMA 分析、
カーボン
モデリング等のCSR環境アプローチ等、
様々な分野における高度データ分析をリードするソフト
リスク・マネジメント
ウェア。
マーケティング
サステナビリティ
Temenos
銀行勘定系システム
バンキング・システムとして、
世界120カ国、
600顧客サイトで利用されている「Temenos」。
「T24」
は、
オープン・アーキテクチャにもとづき、
カスタマイズ性と拡張性を提供し、
リアルタイム対応
を可能とするモジュラー構造。ハイ・パフォーマンスをリードするコア・バンキング・ソフトウェア。
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弊社レポート
レポートのご案内
保険:
最 新の弊社レポートをご紹介いたし 「保険会社とソーシャルメディア:
ご不明な点等は、金融サービス本部
マーケティング担当
ます。いずれもホームページに掲載し
無限の可能性と課題」
ておりますので、ご一読いただけま
ソーシャルメディアの 急 速 な発 展 は
@accenture.com)までお問い合わ
すと幸いです。
保険会社に多大な可能性を与えると
せください。
www.accenture.com/jp/fs
ともに、多くの課題も突きつけてい
銀行:
メディア戦略を確立するための要諦を
「バンキング 2016: ディストリビュー
ションとマーケティングにおける成長
の加速とコストの最適化」 顧客 の 信 頼回復とロイヤリティ育成
に焦 点を置き、課題に取り組むため
に必要な戦略や施策をご紹介してお
ります。
「Anytime,
ます。保険会社が 有効なソーシャル
ご紹介しております。
キャピタル・マーケット:
「成功に狙いを定める: ハイパフォーマ
ンスを実現する投資銀行」 投資銀行について弊社が実施したグ
ローバル調査に基づき、投資銀行ビジ
ネスのビジネスモデルを 5 つに整理。
Anywhere - タブレット
モデルが異なる市場において成 功す
活用による銀行のモバイル化の推進」 るために必要なケイパビリティなどを
具体的にご紹介しております。
銀行はタブレットの採用には慎重で
すが、その傾向は変化しつつあるよ
うです。タブレット活用により、銀行
は顧客志向を強化し、生産性を向上
することが可能であることをご紹介し
ております。
17
(AccentureAsiaPacific
会社概要
アクセンチュア株式会社
お問合せ先
本社所在地:
ニューズレターの掲載内容に関する
〒107-8672 東京都港区赤坂1-11-44
お問合せは、
279 億米ドル(2012年8月期)
赤坂インターシティ
金融サービス本部 FS Architect担当
従業員数:
電話番号:
グローバル拠点数:
世界54カ国
200 都市以上
売上高:
マネジング・ディレクター 森 健太郎
25万7千名以上
03-3588-3000(代表)
会長:
FAX:
03-3588-3001
へご連絡ください。
従業員数:
は、
同封のFax 用紙・ご郵送にてご連絡く
4,800 名以上(2012年11月30日時点)
ださい。
代表者:
代表取締役社長 程 近智
03-3588-3000(代表)
03-3588-3001(FAX)
URL : www.accenture.com/jp
FS Architect専用サイト
www.accenture.com/jp/fsarchitect
ウィリアム・D・グリーン
(William D. Green)
最高経営責任者:
ピエール・ナンテルム
(Pierre Nanterme)
[email protected]
送付先の変更・停止等に関するご連絡
金融サービス本部トップページ
www.accenture.com/jp/fs
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アクセンチュアについて
アクセンチュアは、経営コンサルティング、
テクノロジー・サービス、アウトソーシング・
サービスを提供するグローバル企業です。
25万7千人の社員を擁し、世界120カ国以上
の お 客 様 にサービ スを 提 供して いま す。
豊富な経験、あらゆる業界や業務に対応で
きる能 力 、世 界 で 最 も 成 功 を 収めて い る
企業に関する広範囲に及ぶリサーチなどの
強みを活かし、民間企業や官公庁のお客様
がより高いビジネス・パフォーマンスを達成
できるよう、その実現に向けてお客 様とと
もに取り組 んでいます。2012 年 8月31日を
期末とする2012 年会 計 年度の売 上高は、
279 億USドルでした(2001年7月19日NYSE
上場、略号:ACN)。
アクセンチュアの詳細は
www.accenture.comを、
アクセンチュア株式会社の詳細は
www.accenture.com/jpをご覧ください。
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