デジタル時代における 企業のウェブサイトの役割と評価 ~消費者向けデジタル機器メーカーの比較調査から デジタル時代において、消費者を引き込み、購買決定に影響を与えるた めの方法はますます多様化、そして複雑化しています。オンラインチャ ネルは製品や価格情報に関する無制限の情報源となり、ソーシャルメディ アでの消費者の購買体験の共有は、企業のマーケティング部門にとって 既に管理を越える域に達しようとしています。また、多くの消費者はオ ンライン、オフライン両方において複数のチャネルを使い分け、製品を オンラインで比較検討して実際に触れることのできる店舗に足を運んで 製品を購入することが習慣化しています。 一方、デジタルチャネルが複雑化した現在 においても、企業のウェブサイトの役割が 最重要事項であることに変わりはありませ ん。企業のウェブサイトは潜在顧客の情報 収集の機能としてだけでなく、全てのデジ タル機器において相互作用をもたらす重要 な「ハブ」と成り得る存在です。2013 年に テクノロジー企業のマーケティング責任者 を対象に実施された IDC の調査によると、 企業のウェブサイトを、デジタルマーケティ ング戦略において最も重要な分野であると 位置づけています。そして、60%以上の回 答者が、企業のウェブサイトのコンテンツ の開発と投資が今後も拡大すると予測して います。 2 評価結果において、いくつかの企業は突出 していましたが、顧客との双方向性や、購 買の意思決定に影響を与えることに最も重 要な要素である、関係構築や情報提供、オ ンライン取引においてはほぼ全ての企業が 一応に横並び状態で、数社の得点が著しく アクセンチュアは、独自の手法をもとに消 低い、という結果になりました。 また、今 費者家電の主要企業 15 社・17 事業部門の 回の調査で、企業のマーケティング責任者 企業ウェブサイトを分析し、評価しました。 にとって、消費者に関与するためのデジタ 今回の調査は、現在 E コマース市場では世 ル・マルチチャネル戦略全体の枠組みの中 界最大のアメリカ市場を対象に実施してい で企業ウェブサイトのパフォーマンスを再 ます。また、調査対象企業には、スマートフォ 評価することがいかに重要であるか、とい ン、テレビ、PC の消費者家電メーカーを選 うことがあらためて浮き彫りになりました。 択しました。 しかしながら現状、顧客との接点である企 業のウェブサイトは、情報提供の場を越え て購買意欲を刺激し、さらに長期にわたる 関係を構築する上で本当に効果的な存在と なっているのでしょうか。 企業ウェブサイトにとって鍵となる要素 全てのデジタルへの道は、いずれは企業の ウェブサイトへと集約化されることになる でしょう。企業のウェブサイトは、製品情 報と顧客とのコミュニケーションの唯一の 手段ではなくなったものの、非常に重要な 役割を担っています。今回の調査では、以 下の 7 つの要素について消費者家電メー カーのアメリカ市場でのサイトを評価しま した。 ナビゲーション 利用者は、必要な情報を容易に見つけるこ とができるか。ナビゲーション機能は利 用者にとってその企業に対する体験を深め るようになっているか。コンテンツにたど り着くための直感的なルートや効果的なメ ニュー、サイト検索はあるか。 カスタマーサービス そのサイトは製品サポートに関する情報、 またはライブサービスへアクセスするため の手順をわかりやすく示しているか。効果 的なオンラインマニュアルが用意され、利 用者がフィードバックできるポイントが複 数用意されているか。 ブランディング 情報 利用者は製品に対して詳細情報を得た上で 意思決定ができるようになっているか。製 品情報だけでなく第三者や他の利用者から の意見を提供して、利用者が素早い選択や 比較検討をすることができるような仕組み づくりができているか。 関係構築 利用者の再訪問を促すような作りになって いるか。消費者がユーザー登録をして情報 提供することに対して魅力的な特典を設け ているか。サイトへアクセスする手段 (PC やスマートフォンなど ) が変わっても、継 続的で関連性のある個別体験が与えられて いるか。 オンライン取引 利用者はどれだけ簡単に実際の購入ができ るか。購入までのプロセスは明確で安全か。 サイトは現在の価格情報や在庫情報など、 製品が購入可能かどうかを明記しているか。 コミュニティ サイトは利用者にコミュニティへの参加を 奨励しているか。 その企業サイトは信頼と好ましさをいかに 良く確立できているか。サイトの統一され たトーンや全体的な企業プロフィールはブ ランドイメージに適しているか。 3 改善の余地 ウェブサイト上でオンライン取引を推進す るにあたり、評価した要素のうち特に 3 つ が重要であることが証明されました。 1. 情報 : 意思決定を可能にする 今回の調査で、いくつかのウェブサイトが ユーザーフレンドリーな表示を設けていま せんでした。また、利用者がニーズに合っ た製品を簡単に見つけられなかったり、そ のような製品のページにたどりつくパスが 明確でないサイトも見受けられました。画 像などを含めた商品の詳細情報は、購買決 定をするために十分な事前情報を提供して いない例がよくあります。在庫情報や、価 格情報などが掲載されていないと、消費者 が競合他社へ流れてしまう可能性が大いに あります。 2. オンライン取引 3. 関係構築 素早い購入を可能にする。優良なサイトは、 利用者に購買決定の段階に移行させるため の使いやすい、複数の情報提供チャネルを 提示しています。消費者家電製品をウェブ サイトから直接購入することは最近増える 傾向にありますが、このオンライン取引機 能がある製品カテゴリではより顕著でした。 例えば、スマートフォンメーカーでは 7 社 のうち 2 社しか直接オンラインで購入でき ませんが、全てのラップトップやパソコン のブランドではオンラインでの購入が可能 でした。 リピーターを増やす。 多くの企業が、ウェ ブサイト上で、利用者との絶好の関係構築 の機会をうまく活用できていませんでした。 例えば、今回の調査対象サイトのほとんど で、ユーザー登録が効果的に推奨されてい ませんでした。一方、アップルなどの優れ たサイトでは、全てのタッチポイントにお いて、シングルサインオンの登録が活用さ れており、利用者にとって関連性のある、 意味のある魅力的な利用体験を生み出し、 リピーター客を増やし続けています。 ベストのための「ベスト」とは ウェブサイトの評価結果に基づき、最高評 価を得た企業がいくつかありました。 まず、 アップルは全体的なブランド体験とスマー トフォンのカテゴリではリーダーでした。 テレビのカテゴリではサムスンが、そして、 PC のカテゴリではデルが最も高い評価とな りました。 う点です。また、情報、オンライン取引に おいても他社を凌いでいます。3 社のウェ ブサイトはわかりやすい製品情報、カスタ マイズオプションの幅の広さ、スムーズな オンラインでの購入体験、そして、双方向 型のサポートを広範囲にわたって提供して います。 これら 3 社の共通項は、関係構築のための ウェブサイト利用において優れているとい アップルのサイトは、シンプルなナビゲー ション、そして効果的なサポートと購入プ アップル 総合第1位、スマートフォンカテゴリ1位 サムスン 総合第2位、テレビカテゴリ1位 ナビゲーション 03 ブランディング 03 情報 ブランディング コミュニティ コミュニティ ナビゲーション ナビゲーション 02 00 00 情報 ブランディング オンライン 取引 03 01 コミュニティ 00 オンライン 取引 情報 オンライン 取引 デル 全体平均 全体平均 カスタマー サービス 関係構築 サムスン テレビ サムスン スマートフォン 全体平均 Source: Accenture Web Evaluator (AWE) of Consumer Electronics, January 2013 4 デル 総合第3位、PCカテゴリ1位 01 01 関係構築 では次に、3 社のウエブサイトの優れてい る点を詳しく分析してみましょう。 02 02 アップル ロセスを提供して、人を引き付けるサービ ス志向の体験を提供しています。 カスタマー サービス 関係構築 カスタマー サービス アップルのウェブサイトが優れている点 ・ アップルは、スマートフォン提供者の中 で唯一、異なる通信事業者の関連パッケー ジを統合して、サイトから直接購入でき るような仕組みが整っていました。 ・ 提供されている商品の詳細情報は説得力 があるだけでなく、利用者はオンライン で支払 / 購入予約をし、1 時間以内に店 舗で受け取ったり、製品の専門家による 店舗でのデモセッションを予約すること も可能です。 ・ 広範囲にわたる FAQ と購買プロセス、プ ライバシーとセキュリティーポリシーの メッセージ、販売サポートへの電話番号 がはっきりと、且つ明確に掲載されてい ます。 ・ アクセサリは、ユーザーレビューと顧客 の Q&A と伴に詳しく表示され、また商品 購入時には関連性のあるアクセサリが自 動的に表示されます。 ・ 分割払いを含む多様な支払方法、購入プ ロセス途中でのショッピングカートの保 存、注文完了後のキャンセルや変更、素 早い購入を可能にするためにサインイン が任意であることなど、その購買プロセ スは大変便利な機能が充実しています。 サムスン (TV) のウェブサイトが 優れている点 サムスンのスリム化されたオンライン取引 は他のテレビメーカーにはないユニークな ものでした。インタラクティブな宣伝とサ ポートは、購買意欲を効果的に刺激してい ます。 能で、コンテンツは入門ビデオ、ライブ ・ アカウント機能を効果的に利用して、登 チャット、操作マニュアル、Q&A フォー 録ユーザーの「Samsung Nation」経由の ブラウジング体験をゲーム化しています。 ラム、ソーシャルネットワークへの投稿 利用者はサイト上での様々なアクティビ などが整備されています。 ティによって、ポイントやバッジが付与 され、そのバッジは商品の抽選に参加し ・ 技術的な説明と併せて、製品の選択機能は ユーザー評価、市場価格と割引価格、そ たり、様々なコンテストに使用できます。 して機能面とパフォーマンスの観点から ・ サイト再訪問を推進するためにコンテン どの商品が最適かをリスト化しています。 ツを活用しています。「Samsung Product Support Network」は、ビデオで懸念事 ・ 利用者によるレビューは非常によく構成 されており、顧客が厳選してアップロー 項や関心事を取り上げたり、ゲームショー ドしたビデオレビュー、消費者向け一般 を公開したりしています。また、登録ユー 雑誌やウェブサイトのレビューに掲載さ ザー専用の記事ページには、その製品に れた人目を引くメッセージの数々が製品 関連した第三者またはサムスン自らによ ページに記載されています。 る記事が列挙されています。 ・ ユーザー登録を効果的に推進しています。 利用者はメインのナビゲーションに独自 ・ モバイルサイトを展開している数少ない ブランドであり、ユーザーが出先でアク のチャネルを持ち、特典が明確に示され セスできるよう、位置情報を利用した機 ています ( サイトで購入製品を登録する 能をモバイルサイトで提供している唯一 と、保証期間が延長されたり、商品に当 のブランドです。 選したりします )。 ・ ソーシャルネットワークのプロファイル ・ 購入後、サイトにアクセスし、ブランド と関わり続けることに利点があるという からの簡単なサインインを可能にし、登 ことを保証するために、強力な顧客サポー 録フォームを埋める面倒な作業を省き、 ト情報や機能を提供しています。専用の そしてソーシャルネットワークでの活動 ナビゲーションチャネルまたは個別の製 とその利用者を直接結びつけることに秀 品ページからサポートを受けることが可 でています。 PC のカテゴリで最高の評価を得たデルは、 わかりやすい製品情報、選択とカスタマイ ズのための多種多様なツールを利用し、オ ンラインコミュニティで双方向のフィード バック機能を活用したオンラインヘルプを 提供していました。 5 ウェブサイトの再評価 マーケティング責任者にとって重要なの は、デジタルマーケティング戦略におい て消費者を引き込むために、マルチチャ ンネル戦略全体の枠組みの中で企業ウェ ブサイトの再評価を今一度注力して実施 するということです。以下がその具体的 な方法です。 4. 魅力的な機会を与える 在庫情報や、最適な価格をリアルタイムで 提供してください。そして、最新のプロモー ション製品は常に注目されるような工夫が 不可欠です。 5. 信頼性を確立する 他のオンライン・オフラインチャネルと情 報の統合が必要です。安全性と機能性両面 に渡って顧客の信頼を築いてください。支 払と配送オプション、返品ポリシーは明記 されている必要があります。 6. コミュニティづくりを 1. ストレートに コミュニティの場を提供してください。ブ ランドについてのコミュニティの環境下で、 ユーザー評価と双方向のディスカッション 等を通じて意見を述べる機会と機能が成功 の鍵となります サイト訪問者は十分に新たなビジネス機会 につながるリードと成り得るので、彼らが 必要とする情報を適切に、そしてストレー トに提供する必要があります。どのような 付属品がついてくるのか、また彼らがその 他に好みそうな商品を効果的に提案してく ださい。可能であれば、クロスセルやアッ プセルのプロセス作りも必要です。 7. ユーザー登録を推奨する 2. 専門用語や技術的なマトリックスは 8. 語るより魅せる 使用しない 使用する場合は、最低でも明瞭に説明して ください。使用する言葉や表現は、難解な ものを避けてユーザーフレンドリーにして ください。 3. 明確で差別化された製品の提案を 確立する ウェブサイトは、そのブランドのデジタル エコシステムにおける中心のエントリーポ イントであるべきです。ユーザーはそのオ ンライン登録により、全てのコミュニケー ションチャネルにおいて継続的なユーザー 体験を得られるような仕組みづくりが必要 です。 画像やビデオ、インタラクティブなコンテ ンツやパーソナライズされたメッセージ、 ゲーミフィケーションを効果的に使って、 ウェブサイトを視覚に訴え、魅力的でダイ ナミックにする必要があります。ライブ チャットや Q&A フォーラム、使用方法のビ デオなどは、コンバージョン率を向上させ る良い手法です。 例えば、テレビなどは不明瞭で覚えにくい、 9. パフォーマンステストの実施 そして似たような響きのブランド / 製品名 が付けられることが多く、それが時として ウェブサイト上の、どのページがより良い 購入のネックになります。従って、サイト 結果や顧客体験を生み出しているかを常に 把握し、改善し続ける必要があるでしょう。 上では差別化が必要です。 6 10. データ分析を駆使した、継続的な改善 SEO 対策やアクセス数等のログ解析は、現 在どの企業でも実施されていますが、離脱 率が高く、購買行動まで結びつかないケー スや、キャンペーンの効果が上げられない ケースも見られます。上述のように、ログ 解析をし、状況を把握することは重要です が、より高い効果を上げ、企業の成長を拡 大させるためには、それだけでは十分とは 言えません。 EC 市場が拡大する中、情報メディアの多極化に伴い、顧客の趣味・嗜好 も多様化が進み、顧客を「マス」でとらえることは困難になっています。 さらに、スマートフォンやソーシャルメディア等のコミュニケーション の発達により、顧客の嗜好は日々変化しています。今後は、これまでに も増して一人ひとりの顧客を「マス」ではなく、「個」として捉え、そ れぞれの特性に応じた手厚い顧客管理をすることが重要となってくるで しょう。 それはウェブサイト、特に EC サイト上で のユーザー行動のデータ分析能力により、 その嗜好 / 志向や要求をタイムリーかつ的 確に捉え、蓄積されたデータをいかにマー ケティング戦略や意思決定につなげるかと いう事です。「アナリティクス」の実装と活 用こそが、ユーザー(顧客)を取り巻くデー タを宝の山にするか、ゴミの山にするかの 大きな分岐点となり、真剣に取り組むこと で他社とのギャップを一気埋めることも可 能です。 消費者家電メーカーにとって、成熟市場・ 新興市場どちらにおいても企業ウェブサイ トは今後も顧客とのコミュニケーション戦 略全体において極めて重要な存在となるで しょう。しかしながら、企業ウェブサイト は顧客との関係をどのように効果的に構築 し、いかに売上を促進するかという観点か ら、未だに改善する点が多いのが現状です。 評価の高いグループと低いグループの差が 歴然と存在することは少し意外ですが、一 方で多くのエリアでのギャップは、評価の 良くない企業が早急に追いつくための大き なチャンスでもあるのです。今後は、一歩 先を見据えたデータ分析をデジタルマーケ ティング戦略に活かすことが成功への大き な鍵となるでしょう。 ウェブサイトが、競合他社を理解し分析す るために利用できるという点を考慮すると、 7 筆者について アクセンチュアについて マティアス・レヴレン (Mattias Lewrén) アクセンチュアは、経営コンサルティング、 テクノロジー・サービス、アウトソーシング・ サービスを提供するグローバル企業です。 約 28 万 1 千人の社員を擁し、世界 120 カ国 以上のお客様にサービスを提供しています。 豊富な経験、あらゆる業界や業務に対応で きる能力、世界で最も成功を収めている企 業に関する広範囲に及ぶリサーチなどの強み を活かし、民間企業や官公庁のお客様がより 高いビジネス・パフォーマンスを達成できる よう、その実現に向けてお客様とともに取り 組んでいます。 2013 年 8 月 31 日を期末と する 2013 年会計年度の売上高は、286 億 USドルでした(2001 年 7 月 19 日 NYSE 上場、 略号:ACN)。 Managing Director Global Electronics & High Tech Accenture ラナ・ミトラ (Rana Mitra) Manager Digital Marketing Performance Services Accenture Interactive 田中 陽一 (Yoichi Tanaka) アクセンチュア株式会社 通信・メディア・ハイテク本部 マネジング・ディレクター 近藤 彰(Akira Kondo) アクセンチュア株式会社 通信・メディア・ハイテク本部 マネジング・ディレクター アクセンチュアの詳細は www.accenture.com を、 アクセンチュア株式会社の詳細は www.accenture.com/jp をご覧ください。 Copyright © 2013 Accenture All rights reserved. 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