学校給食 摂取基準改訂

特集
学校給食
摂取基準改訂
平成15年の学校給食における平均栄養所要量と、新しい学校給食摂取基準の比較
区分
学校給食における食事内容について
― 文部科学省
は不十分で、またエネルギーや栄養素の「真」
の望ましい摂取量は個人によっても、また個
人内でも変動するという事実から、「摂取量の
範囲」を示す考え方が導入され、また各栄要
素の基準の指標も細分化された。今回の学校
栄養所要量から摂取基準へ
給食実施基準の改訂では、この「日本人の食
事摂取基準」の考え方を受け、さらに文部科
学省が平成 19(2007)年度に行った「児童
生徒の食生活等の実態調査」の結果も考慮に
入れて、児童生徒らの健康増進および食育の
編集部
推進を図るために望ましい値が算出された。
今回の改訂で示されている栄養素には前回
基準から変更や追加はなかったが、数値に変
更があった。「栄養量」から「基準値」に基準
5年ぶりの改訂
昨年(2008)10 月、文部科学省は学校給食実
施基準の一部改正と学校給食摂取基準の改訂
を発表した。今回の改訂の大きな変更点は、
平成 17(2005)年に厚生労働省から公表された
の取り方が変わったことで、単純には比較は
できない面はあるが、右の新旧対応表で主立
った項目を見ていくことにしよう。
カルシウムなどの量が変わる
「日本人の食事摂取基準」を踏まえ、
「基準」
「エネルギー」に関しては小学校低学年を除
の考え方が大きく変わったことにある。これ
き、若干増加している。これは算出の基礎と
により、基準の名称も「学校給食における栄
なるデータが変わったことによるものだが、
養所要量」から「学校給食摂取基準」と変更
油脂や砂糖類を足せばよいというものでなく、
され、基準数値が範囲や目標値で示されるよ
主食からきちんと摂取することが期待されて
うになった。
いると思われるので、子どもたちの主食離れ
厚生労働省「日本人の食事摂取基準」にお
を食い止めながら、いかに対応していくかが
いては、
「栄養所要量」という形で、ある一定
課題になりそうだ。
の基準値を表す従来の方法では、過剰摂取の
逆に「たんぱく質」では、基準値で比べる
問題など現代のさまざまな健康障害の予防に
限りでは量は減っている。現場の先生などに
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児童または生徒1人当たりの基準値(栄養量)
児童(6∼7歳)の場合 児童(8∼9歳)の場合 児童(10∼11歳)の場合 生徒(12∼14歳)の場合
旧
新
旧
新
旧
新
旧
新
エネルギー
(kcal)
580
560
650
660
730
770
830
850
たんぱく質
(g)
21
脂質
(パーセント)
16
10∼25
(範囲)
24
20
13∼28
28
25
17∼30
32
28
19∼35
学校給食による摂取エネルギー全体の25∼30パーセント
ナトリウム
(食塩相当量) 3以下
(g)
2未満
300
3以下
2.5未満
350
3以下
3未満
400
3以下
3未満
420
カルシウム
(mg)
300
鉄
(mg)
3
ビタミンA
(μgRE )
120
ビタミンB1
(mg)
0.3
0.4
0.3
0.4
0.4
0.5
0.4
0.6
ビタミンB2
(mg)
0.3
0.4
0.4
0.5
0.4
0.5
0.5
0.6
ビタミンC
(mg)
20
20
20
23
25
26
25
33
食物繊維
(g)
5.5
5.5
6.5
6
7
6.5
8
7.5
マグネシウム
(mg)
60
70
70
80
80
110
110
140
亜鉛
(mg)
2
2
2
2
2
3
3
3
320
(目標値)
3
130
130∼390
(範囲)
330
3
130
380
3
140
140∼420
350
3
150
480
4
170
170∼510
400
4
190
470
4
210
210∼630
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○「2.学校給食における食品構成について」の新旧比較
旧
新
(1) 学校給食における食品構成は、食品
食品構成については、学校給食摂
み合わせて食事内容の充実及び栄養所
適切に組み合わせて、食に関する指
の種類を幅広く求め、これを適切に組
要量の均衡を図るように配慮すると。
実施に当たっては、次のことに留意し
つつ、児童生徒等の個々の健康及び生
活活動等の実態並びに家庭における食
生活や地域の実情等に十分配慮して創
意工夫すること。
①我が国の伝統的な食文化を継承し、日
本型の食生活が実践できるよう配慮
すること。
②豆類は、脂質とたんぱく質を多く含み、
導や食事内容の充実を図ること。また、
各地域の実情や家庭における食生活
の実態把握の上、日本型食生活の実践、
我が国の伝統的な食文化の継承につ
いて十分配慮すること。
さらに、独立行政法人日本スポー
ツ振興センターが実施した「児童生
徒の食事状況調査」によれば、学校
給食のない日はカルシウム不足が顕
古くから動物性食品に代わるものと
著であり、カルシウム摂取に効果的
れまでは、豆類の中では豆製品が中
すること。なお、家庭の食事におい
んぱくの豊富な豆の摂取等について
地域にあっては、積極的に牛乳、調
して日本人に摂取されてきたが、こ
である牛乳等についての使用に配慮
心に摂取されているため、植物性た
てカルシウムの摂取が不足している
の実情に応じた形で弾力的に運用してもらう
小魚などを多く使用するため、すぐに現行所
ため」からだそうだ。しかし一般理解では、
要量に達しがちであるそうだ。むろん今回の
逆にこの構成表が先に立って現場の制約にな
改訂により、範囲での幅を持たせての運用と
っているような印象もあり、今度の改訂を機
なるが、範囲の中でも高止まりになる可能性
に、自治体の行政側と現場でも標準食品構成
がある。
表の位置づけをいま一度確認しておく必要が
また「ナトリウム」では、これまでの1律「3
あるように思われる。
g 以下」から各年代で細かく規定されている。
さてこの条文中で「言うは易く行うは難し」
元来、塩分に関しては薄味を徹底してきた学
ともいうべきなのが、「各地域の実情や家庭に
校給食の現場にとっては、さらなる工夫が要
おける食生活の実態把握の上」という一文で
求されてくるのではないだろうか。
はないだろうか。これについては文部科学省
「カルシウム」は大きく増えている項目であ
に伺うと、「年に2度行われている『学校給食
る。カルシウムでは目標値も示されているた
栄養報告』のデータを活用してみるのもよい
め、とくに小学校高学年から中学生での対応
のではないでしょうか」というお話だった。
に従来以上の努力が必要になってくる。
この調査はサンプル調査で行われ、(独)日本
食品構成の問題
スポーツ振興センターが集計し、全国平均は
文部科学省へ、各都道府県のデータは都道府
県担当者にバックされる。2つの数値を比べ
つぎに告示の第2項の食品構成の比較をし
ることで、全体の傾向が把握できるというこ
てみたい。まず条文面で、新旧を比べてみると、
とだ。
条文がかなりすっきりされた印象を受ける。
昨今は、個人情報についての意識の高まり
前回の改訂では標準食品構成表に新たに「豆
を受け、子どもの実態、とくに学校給食以外
類」などが加わったことや、食育の運動の高
の朝食・夕食まで含めた3食の栄養調査を学
まりの中で、あるべき食品構成の姿が詳細に
校独自で行うことが難しくなってきていると
書き込まれていたが、この間の栄養教諭制度
聞く。この問題に関しては、保健所など、地
の創設や食育基本法の成立を見るなかで、い
域でそうしたデータをもつ機関との情報共有
ものを採用するよう配慮すること。
わば現場に定着してきたことも1因と思われ
などもこれからの課題となってくるだろう。
広く児童生徒等や保護者等にわかり
方に移動してしまったものも見受けられる。
導入や活用に役立つよう工夫すること。
なければならないことがある。それはこの表
2項の「食事構成」とは逆に、今回、大き
が文部科学省の告示としてではなく、今回の
く書き加えられたのが、3項の「食事内容」
食事摂取基準策定に関する専門家による調査
についての部分である。とくに食育に関する
研究協力者会議からの報告書という形で出さ
内容の充実に驚かされる。「献立のねらいの明
れていることである。
確化」「各教科や食に関する指導との関連性」
も配慮すること。
③カルシウムなどの微量栄養素の供給源
として小魚類を摂取することは重要
であること。
④家庭における日常の食生活の指標にな
るものとして、その摂取状況に近い
理用牛乳、乳製品、小魚等について
の使用に配慮すること。
⑤食に関する指導の生きた教材として、
る。また中には今回、次項の「食事内容」の
やすいものとし、日常の食生活への
「標準食品構成表」については、1つ注意し
(2) 牛乳については、児童生徒等のカル
シウム摂取に効果的であるため、その
飲用に努めること。なお、家庭の食事
においてカルシウムの摂取が不足して
いる地域にあっては、積極的に調理用
牛乳の使用や乳製品の使用に努めること。
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取基準を踏まえつつ、多様な食品を
伺うと、現行の基準でも学校給食では牛乳・豆・
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食事内容について
じつはこの形を取ったのは前回の改訂から
「献立名や食品名を明確にすること」などが新
で、文部科学省によると「個々の食品の使用
たに付け加わった。これは昨年の学校給食法
について、国の方で一律に事細かに決めるこ
の改正、また新学習指導要領に食育が明記さ
とはいかがなものかという意見があり、地域
れたことの結果でもある。さらに食物アレル
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○「3.学校給食の食事内容について(1)∼(2)」の新旧比較
旧
(1) 学校給食の食事内容は、成長期
にある児童生徒等の健康の保持増
進と体位の向上のため、多様な食
品を組合せ、栄養的にバランスの
とれた食事となるよう絶えず改善
に努めること。また、学校給食の
実施に当たっては、児童生徒等の
発達段階に応じて指導するとともに、
特に次の点に配慮すること。
①郷土食や地場産物の導入に関して
は、様々な教育的意義があり、
食に関する指導の生きた教材と
してより効果的に活用できるこ
とから、地域の実情に応じた活
用について十分に工夫し、魅力
あるものとなるよう努めること。
②食物アレルギー等を持つ児童生徒
等に対しては、学校医、校長、
学級担任、学校栄養職員等が密
接に連携して学校内の体制等を
整備し、できるだけ一人一人の
児童生徒等の健康状態や個人差
を把握しながら、個に応じた対
応を行うことが大切であること。
(2) 献立作成及び調理に当たっては、
児童生徒等の嗜好の偏りをなくし、
食に関する指導の生きた教材とし
て活用できるよう食品の組合せ、
調理方法等を工夫すること。
また、食事は調理後できるだけ短
時間に適温で供食でき、衛生的か
つ安全であるよう十分配慮すること。
さらに、調理の多様化等を図るた
め、必要な調理用機械器具の導入
について考慮すること。
新
(1) 学校給食の食事内容については、学校
における食育の推進を図る観点から、
学級担任、栄養教諭等が給食時間はも
とより各教科等における食に関する指
導に学校給食を活用した指導が行える
よう配慮すること。
①献立に使用する食品や献立のねらいを
明確にした献立計画を示すこと。
②各教科等の食に関する指導と意図的に
関連させた献立作成とすること。
③地場産物や郷土に伝わる料理を積極的
に取り入れ、児童生徒等が郷土に関
心を寄せる心を育むとともに、地域
の食文化の継承につながるよう配慮
すること。
④児童生徒等が学校給食を通して、日常
または将来の食事作りにつなげるこ
とができるよう、献立名や食品名が
明確な献立作成に努めること。
⑤食物アレルギー等のある児童生徒等に
対しては、校内において校長、学級
担任、養護教諭、栄養教諭、学校医
等による指導体制を整備し、保護者
や主治医との連携を図りつつ、可能
な限り、個々の児童生徒等の状況に
応じた対応に努めること。なお、実
施に当たっては財団法人日本学校保
健会で取りまとめられた「アレル ギ
ー疾患対応の学校生活管理指導表」
及び「学校のアレルギー疾患に対す
る取り組みガイドライン」を参考と
すること。
(2) 献立作成に当たっては、常に食品の組
み合わせ、調理方法等の改善を図ると
ともに、児童生徒等の嗜好の偏りをな
くすよう配慮すること。
①魅力あるおいしい給食となるよう、調
理技術の向上に努めること。
②食事は調理後できるだけ短時間に適温
で提供すること。調理に当たっては、
衛生・安全に十分配慮すること。
③家庭における日常の食生活の指標にな
るように配慮すること。
ギー対応では、昨年出された「アレルギー疾
患対応の学校生活管理表」と「学校のアレル
ギー疾患に対する取り組みガイドライン」を
参考にすることの一文も付け加わっている。
また「魅力あるおいしい給食となるよう、
調理技術の向上に努める」「家庭における日常
の食生活の指標になるように配慮する」とも
あり、学校給食に課せられた期待の大きさが
伺われる。
現場での創造性をもった対応
が求められる
『学校のアレルギー疾患に対する
取り組みガイドライン』
今回の改訂への対応を、主立った都道府県
ある方からは、「各施設ごとの実態に合わせ
のご担当者の方に電話で伺ってみた。大きな
た、現場での柔軟な対応を求める厚生労働省
ところでは東京都が今回の改訂を機に、それ
の『日本人の食事摂取基準』の主旨を考えて
まで作られていた都独自の基準を廃止し、今
いくと、とくに栄養の面で、学校給食におい
回の基準にすべて移行されるという。また来
ては、基準という形をとって国が一律に決め
年度からの実施に向けて、とくに献立づくり
ること自体の意味も問い直されてくるのでは
などの研修会をさらに充実させていきたいと
ないか」という意見もあった。一方で、「前回
いうところ、また改訂の趣旨を生かして弾力
の改訂で、標準食品構成表に『豆』の使用が
的に運用しながら、とくに地場産物のさらな
うたわれ、現場に伝統的な豆料理が広がって
る活用につなげていくよう指示したいと言わ
多くなったように、基準にはどういう食事を
れるところもあった。ただし、どこでも基本
これから出していくかというスタイルを示す
的には新しい基準をもとに、現場での判断・
役割もある。実現目標としての一定の役割も
対応に任せているというところが多く、現場
見逃せない」という意見もあった。いずれに
の先生方には大きな責任と同時に、地域ごと
しても、今回の改訂により、献立づくりにお
に創造性を持った対応が期待されているよう
いての現場の先生方のさらなる力量の発揮と
だ。
地域の実情に即した弾力的な対応が求められ
てくるようだ。
(太字は今回新しく加わった内容)
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