図書室便り 2015年7月発行 No.2(PDF)

明星学園中学校図書室
とうとう待ちに待った夏休みが始まります。7月16日(木)まで、夏休み中に読む
本の貸出をしていますので、ぜひ図書室にきてください。
1学期の間に図書室には200冊近くの本が仲間入りしました。その一部をご紹介し
ます。
『クラスメイツ』森絵都著 偕成社 91 モ
同じクラスのあの子やこの子は、日々どんなことを考えている
んだろう。○○さんのことをどんな風に思っているんだろう。みん
なの心を垣間見したい。そんな願いをもったことはありません
か?
1年 A 組は、B 組よりもまとまりのないクラス。全部で24章か
ら成る『クラスメイツ』は、1章につき一人、24章で A 組全員の
エピソードを描いています。新学期から始まり、1章ごとに時間
が進み、24人分のエピソードを読むと、一年が経過している、と
いう技巧を凝らした構成です。章を読み進めれば進めるほど、あのときのあの子がこんなことをした、とか、あのと
き、この子はこんなことを考えていたのか、と思い浮かぶようになるでしょう。
短編連作のかたちで、同級生同士の人間関係を描いた作品としては、朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』
が数年前話題になりました。「スクールカースト」という言葉が流行ったのもその頃だったように思います。似た構
造を持つ『クラスメイツ』は、『桐島……』とはだいぶ異なる学校のイメージをもちましたが、現役中学生あなたの
「リアル」はどちらが似ているでしょうか。
『クラスメイツ』は、軽妙な文体が、深刻になりすぎを抑えているのか、全体的に風通しのよさがあります。
森絵都さんによる、久しぶりに十代へ向けて執筆された小説です。
『あまねく神竜住まう国』荻原規子著
徳間書店 91 オ
「RDG」シリーズなど、人気作家荻原規子さんの新刊が入りました。本作の主人公は、
少年時代の源頼朝。父義朝が、平治の乱を起こした罪で、伊豆へ流刑となり、さらには人
喰う大蛇が住む蛭ヶ小島に流されます。いつ死んでもおかしくない状況に追い込まれてい
るにも関わらず、頼朝は、かつて自分の身代わりとなって死んでいった数々の家臣を振り
返り、自分にそれほどの価値を見出せず苦悩していましたが……。
史実を盛り込んでいても、いわゆる歴史小説とならないところが、荻原さんです。夢に現
れる白い蛇、人形で占いをする目の見えぬ湯座のおばば、社の本堂の奥で果たされた走
湯権現の参詣……。魅惑的なファンタジーが、美しい言葉遣いで描かれます。
『風神秘抄』ファンは必読です。後日譚となっているので、草十郎と糸世にまた会えま
す。短い作品なので、荻原さんの日本ファンタジーを試してみたい人にもおすすめです。
『都会(まち)のトム&ソーヤ 12 IN THEナイト』はやみねかおる著 91 ハ 12
『モナミは時間を終わらせる? Time waits for no one!なのだよ』はやみねかおる著 91 ハ
『魔使いの復讐』ジョゼフ・ディレイニー著 93 デ
『ファオランの冒険 6 〈果てなき青み〉へ!』キャスリン・ラスキー著 93 ラ 6
『チェラブ
Mission10 英国情報局秘密組織 リスク』ロバート・マカモア作 93 マ 10
『奇界遺産』佐藤健寿著 エクスナレッジ 74 サ
眉をひそめたくなるようなキッチュな場所、変な人モノが次々と登場する写真集です。ギネ
スブックに飽きてしまったという人は、ぜひ手にとってみてください。
たとえば、ここには、日本ではお目にかかれないトンデモテーマパークが登場します。中国
国営の総合地獄、シンガポールにある、三国志から西遊記、自由の女神に日本の相撲取り
などが混在する、ごった煮テーマパーク、聖なる存在であるキリストがチープな像になって出て
くるアルゼンチンのテーマパーク。
それぞれに付された短い解説を読むと、異様で気味の悪いモノコトが、愛嬌を帯びはじめま
す。著者である佐藤健寿さんの、驚きをもって楽しんでいる姿勢が伝わってくるからかもしれま
せん。あとがきにはこんな言葉があります。「本書に描かれたのは、世界にしばしば存在する奇
妙なものではなく、むしろこれらの存在がまだ堂々と存在する、この世界の奇妙さそのもの」。
世界の広すぎる懐を感じられます。
『大英博物館展 100のモノが語る世界の歴史』70 ダ 『石田徹也ノート』『石田徹也遺作集』72 イ
『チェコの挿絵とおとぎ話の世界』海野弘解説・監修 72 ウ 『ヨーロピアン・サイン sign style』木清安著 72 ス
『ミレーとコロー 絵本画集』森田義之監修 72 ミ 『もっと知りたいマグリット 生涯と作品』南雄介監修・著 72 ミ
●写真集●
『世界でいちばん美しい洞窟、魅惑の石窟 世界の写真家たちによる冒険の記録』MdN編集部編 74 エ
『鉄道のある風景、旅で見た駅 世界の写真家たちによる旅の記録』MdN編集部編 74 エ
『姫路城の四季 世界遺産・国宝 大西艸人写真集』大西艸人著 74 オ
『おやすみ神たち』川島小鳥写真 谷川俊太郎詩 74 カ
『世界の美しい廃墟』トマ・ジョリオン著 74 ジ
『Forever friends』John Drysdale写真 74 ド 『EVER AFTER』楢橋朝子著 74 ナ
『世界の水辺の町』ピーピーエス通信社写真 若菜晃子文 74 ピ
シリーズ「14歳の世渡り術」から25タイトルが図書室に入りました。キャッチーなタイトルが目を引
きます。著者の主張が存分に伝わってくるものばかり。気になるテーマはあるでしょうか?
『世界一やさしい精神科の本』斉藤環著、山岡敬之著 河出書房新社 49 サ
「みんなのように上手にできない」「人とつながってさえいれば」「人づきあいが苦手なんです」。目
次を眺めたときに、気になる章があれば、そこだけでも読んでみてください。「発達障害」「ひきこもり」
「対人恐怖」「摂食障害」などの病状と、治療方法を解説してあります。心の病は、社会や時代の影
響を受けるのだそうです。自分の心、他人の心、人間の心を理解したいとき、手がかりとなるかもしれ
ません。ぴったりとあてはまる言葉が見つかって、もやもやとした心が少し自由になれるといいです。
『ほかの誰も薦めなかったとしても今のうちに読んでおくべきだと思う本を紹介します。』01 ア
『本を味方につける本 自分が変わる読書術』01 ナ 『特別授業“死”について話そう』11 イ
『じぶんリセット つまらない大人にならないために』15-コ 『偽善のすすめ 10代からの倫理学講座』15 パ
『「がんばらない」人生相談 南無そのまんま・そのまんま』15 ヒ 『松岡修造の熱血応援メッセージ』15 マ
『はじめての聖書』19 ハ 『戦後日本史の考え方・学び方 歴史って何だろう?』21 ナ
『ぼくらの裁判をはじめよう』32 ゴ 『学校では教えてくれないお金の話』33 カ 『ちゃんとわかる消費税』34 サ
『特別授業3.11君たちはどう生きるか』36 ア 『真夜中のディズニーで考えた働く幸せ』36 カ
『からだと心の対話術』36 コ 『ボクたちに殺されるいのち』36 コ 『よのなかを変える技術』36 コ 『学歴入門』37 タ
『自分はバカかもしれないと思ったときに読む本』37 タ 『世界の見方が変わる「数学」入門』41-サ
『生き抜くための整体 カラダとココロのゆるめ方』49 カ 『医者になりたい君へ 心臓外科医が伝える命の仕事』49 ス
『ロボットとの付き合い方、おしえます。』54 セ 『学校では教えてくれない人生を変える音楽』76 ア
『踊る光』トンケ・ドラフト作 94 ド
『アルカーディのゴール』
ユージン・イェルチン作
岩波書店 93 イ
『小さな逃亡者』グードルン・パウゼヴァング著
94 パ
『少年の日の思い出 ヘッセ青春小説集』
ヘルマン・ヘッセ著 94 ヘ
『リンドグレーンと少女サラ 秘密の往復書簡』
アストリッド・リンドグレーン著 94 リ
舞台は旧ソ連。反体制思想を持つという理由で父母
を失ったアルカーディは孤児院育ち。ある日、査察のた
めに孤児院を訪れた男に突如引き取られることになり
ました。査察の際、孤児たちでサッカーの試合を披露し
たため、男が自分を引き取ったのは、サッカーの能力を
買ったためだ、とアルカーディは、思い込みます。
男は、アルカーディを家に連れて行くと、亡き妻との
間に生まれてくるはずだった子どものための部屋を与え
ます。食事のしかた、字の読み方、遊び方……二人の
共同生活は、アルカーディが何を知らないか、男が一
つ一つ気がついていくところから始まりました。二人が互
いの警戒心と思い込みを解きほぐし、次第に「家族」に
なっていく様子が丁寧に描かれます。アルカーディの受
ける迫害、当時のソ連に興味を持った方は、著者の前
作『スターリンの鼻が落っこちた』も合わせて読んでみて
ください。少年の誇り、正義感と社会の関係性を鋭く描
いた作品です。
『コミック密売人』ピエルドメニコ・バッカラリ
オ作 97 バ
『風のヒルクライム ぼくらの自転車ロードレー
ス』加部鈴子作 91 カ
『向かい風に髪なびかせて』河合二湖著 91 カ
『ジエンドオブザワールド』那須正幹著 91 ナ
『へんな怪獣』星新一作 91 ホ
『神去なあなあ夜話』三浦しをん著 91 ミ
『いのちのパレード』八束澄子著 91 ヤ
『春期限定いちごタルト事件』他、
「小市民シリーズ」 米沢穂信著 91 ヨ
『ぼくと象のものがたり』リン・ケリー作 93 ケ
『マリゴールドの願いごと』ジェーン・フェリス
作 93 フ
『リフカの旅』カレン・ヘス作 93 ヘ
『ぼくとテスの秘密の七日間』アン・ウォルツ作
野坂悦子訳 94 ウ
30 ゴ
30 ゴ
31 ゴ
すべて汐文社刊
後藤健二さんのことをおぼえていますか? 過激派組織イスラム国による人質事件で、命を落としたフリ
ージャーナリストです。紛争地域で取材を重ねてきた後藤健二さんの著作が図書室に入りました。
『もしも学校に行けたら アフガニスタンの少女・マリアムの物語』は、2001年11月タリバン政権崩壊を機
に、危険をおかしてアフガニスタンに入国したときのドキュメントです。取材したのは、空爆を受けて稼ぎ頭だ
った長男を亡くしたグルマカイ一家。十歳のマリアムは、空爆の恐怖から、三歳のシャボーナを片時も離させ
なくなりました。けれども、新たな国づくりが進み、女の子も学校に行けるようになったため、マリアムさんも学
校へ通う機会を得るようになります。しかし、その後も波乱が待ち受けているのでした。
後藤さんは、イスラム教圏にいるときは、イスラム教のやり方で祈りをささげ、挨拶をします。時には、質問
したい気持ちをぐっとこらえ、相手に合わせた速度でゆっくりと話します。紛争地域を生きる人々の生き様、
戦争の残酷さ、そして、危険な紛争地域で身を守るための知恵や、インタビューにこたえてくださった現地の
方々への後藤さんの気遣いが感じられます。
アルジャーノンの声をさがして
早川書房 1999 年
1学期を振り返ると、ドラマ化の影響か、『アルジャーノンに花束を』(ダニ
エル・キイス著、小尾芙佐訳 93 キ)の貸出依頼が何度かあったことが思い出さ
れます。原作は、チャーリィが研究者に提出する経過報告書のかたちをとって
います。最初の報告書は、チャーリィの知能が低いため、ひらがなばかりで句
.
.
読点が少なく、
「ぼくは」が「ぼくわ」と書いてあったりします。けれども研究
者の施した手術によって知能が上がると、次第に語彙が増え、正しい言葉遣い
になり、内容も大きく変化していきます。世界は言葉によって理解されていく
もの、というように、チャーリィも多くのことを理解し、それを言葉にして書
き留めていくのです。知能が高まる前の報告書を読んだ段階で、チャーリィに
とってわからないでいた方が幸せなものの存在を読み取った人は、その後の経
過報告書の変貌ぶりを、大変スリリングに感じられるはずです。ぜひ小説版『ア
ルジャーノンに花束を』で読む醍醐味を味わってください。
『アルジャーノンに花束を』で、知能が低い段階での経過報告書は、人や未
来を疑うことを知らず、プリミティブでイノセントな魅力に溢れています。同
様の魅力に満ちた作品として『イルカの歌』
(カレン・ヘス著 93 ヘ)があります。
こちらは、イルカに育てられた人間の少女の作文になっています。主人公ミラ
は、キューバ沖で野生児として救出され、小さな女の子の「シェイ」とともに、
「ベックせんせい」と「サンディ」から教育を受けます。イルカと暮らした日々
の記憶、感覚をもとに、人間の世界に新たに出会っていく様が、彼女自身の言
白水社
葉で綴られます。
動物と人間の境界に立つ女の子の話として、
『エヴァが目ざめるとき』
(ピーター・デ
ィッキンソン作 93 デ)があります。チンパンジーの研究者の娘として育った13歳の
エヴァは、事故に遭い8か月の昏睡状態から目覚めると、自分の肉体が、幼いころから
慣れ親しんでいたチンパンジーの一匹ケリーになっていることを知ります。記憶が移植
されたのです。エヴァは鏡を見つめながら、かつての自分の肉体である青い目、白い肌
に別れを告げ、もともと毛深い体の中にいたケリーの行方に思いをはせます。
人間の言葉と動物の鳴き声の違いはどこにあるんだろうか? わかる
ようでうまく言葉にならないこの疑問にずばり答えているのが、『言葉は
なぜ生まれたのか』(岡ノ谷一夫著 48 オ)です。言葉の四つの条件、1発
声学習ができる(まねができる)、2音と意味が対応している、3文法が
ある、4 社会関係の中で使い分けられる、なのだそうです。一つ一つの条
件をクリアしている動物はいるけれども、四つすべては人間の言葉のみ。
この四つの意味がきちんと知りたい人は、ぜひ本で確認してみてくださ
い。動物のコミュニケーションについてもっと知りたくなったら、『ワニ
文藝春秋
筑摩書房
はいかにして愛を語り合うか』(日高敏隆著、竹内久美子著 48 タ)もあり
ます。
わたしはペットを飼ったことがないのでわからないのですが、飼っている方々は、ペットの気持ちをどれく
らい理解しているものなのでしょうか? 『猫語の教科書』(ポール・ギャリコ著 93 ギ)は、先輩猫から後輩
猫に捧げられた猫の生き方指南書です。どのように人間の家をのっとるか、子育てとは、愛とは。猫が率直に
指摘する人間像に、ときどきグサリと刺される、でもとても愉快な本です。この本は、猫語で書かれたテキス
トを、ポール・ギャリコが何度も眺めているうちに、徐々に読めるようになり、人間語に翻訳したのだとか。
紙面も尽きてきたので、かえるの詩人と呼ばれた草野心平による「ごびらっふの独白」(
『日本語を味わう名
詩入門 草野心平』
(萩原昌好編)など 911 ク)という詩からの引用で今回の図書室通信をしめくくりましょう。
徳間書店
なみかんたい りんり もろうふ ける げんけ しらすてえる。
けるぱ うりりる うりりる びる るてえる。
このかえる語の詩を日本語訳すると……
みんなの孤独が通じあう確かな存在をほのぼの意識し。
うつらうつらの日をすごすことは幸福である。
それでは、幸福な夏休みを!
あすなろ書房