第二言語としてのフランス語学習者

第二言語としてのフランス語学習者
文法上の名詞の性の表現
カレン・ヴァッツ
ブランカ・ヴァン・ハッセルト
二年前、私はメリーランド大学の研究者、カレン・ヴァッツがお
こなう調査に参加をしないかという連絡をもらいました。その研究
というのは、フランス語を母語としないけれども、かなり上級レベ
ルに達しているフランス語話者を対象にしていました。その当時
私は、正確に言うと中国と日本に住んでいてフランス語を熱心に
練習しなかった時期をさし引くと、23年間フランスに住んでいまし
た。
オランダ人として、ベルギーとの国境近くで育ったので、オラ
ンダ語とフランダース語の微妙な違いさえも子供の時から身につ
いていました。フランスに住み、外国で働くことになり、私は語学に
夢中になりましたが、それは必ずしも私が言語習得に長けている
という意味ではありません。中国語と日本語は片言以上話すこと
ができませんでしたし、日本人の同僚がいみじくも言ったように、
私が話せるのは、ヨーロッパの方言:英語、フランス語、オランダ
語、そして少々のスペイン語とドイツ語ということかもしれません。
わたしをよく知らないフランス人からは、フランス語ネイティブ
だと思われることも多々あります。しかしながら言語の異なる場所
で数週間過ごすと、私はすっかりフランス語を忘れてしまうようで
す。ハンガリーで1カ月間英語とドイツ語を使って仕事をした後フ
ランスに帰ってきたら、とても簡単な文でさえ(バターを取ってくだ
さい)名詞の性を間違えてしまいました。単語は覚えているような
のですが、名詞が男性名詞か女性名詞なのかは忘れてしまいま
す。みなさんご存じのとおり、言語は練習しなければすぐに忘れて
しまうのです。逆に何度も経験して分かったのですが、練習する
とすぐにもとにもどるということです。3、4週間のもどかしい期間を
経て、つっかえていたのが流暢に戻ることを一度ならず経験しま
した。
言語学習への興味から彼女の調査に参加し、別段階のテス
トにも志願しました。最初のパートでは絵で表したものの、名前を
挙げるよう指示されました。いくつかは日常使うものでしたが、他
は(特別なガーデニングツールのようなもの)はめったに使わな
い物でした。このパートの目的は流暢さについて評価することでし
た。2番目のパートは文法と名詞の性を重視するものです。文章
を見てそれが正しいか、もしくは名詞や形容詞のルールにミスが
ないか答えるものでした。制限時間内に、イエスかノーかクリック
するのです。
第3のパートは個人の記憶能力をはかる目的のものです。他
の人よりも単語や文法上の性などを覚えるのが得意な人がいる
かもしれません。このパートは、フランス語が完璧ではないという
理由で生じる影響を排除するために、母語で執り行われました。
私の場合はオランダ語です。
このテストを終えた後、ジョイ・ジョンソン氏-ベルギーとフラン
スでの研究アシスタント-と大変興味深いやりとりをしました。彼
女はフランス語が堪能なアメリカ人で、研究結果を報告してくれ
ると約束してくれました。最近になって、私は研究結果を受け取り
ましたが、まず、悪いニュースからお話ししましょう。それは、フラ
ンス語の第2言語学習者は、ほぼネイティブに近いくらい堪能な
人でさえも、文法上の性について疑う余地のない問題点を抱え
ていたということです。
次に良いニュースです。それは先の問題点が、記憶力とは何の
関係もないということなのです。
研究論文の概略は次の通りです。
「フランス語上級第二言語学習者における文法上の名詞の性
表現と処理」 カレン・ヴァッツ
外国語としてフランス語を学習する際に最も困難な点の一つ
は、名詞の性のシステムをマスターすることである。フランス語母
語者がどのようにしてそれをマスターするかの理論は説明づけら
れているが、なぜ外国語母語者が同様にマスターできないのか、
ということは完全に理解されてはいない。本研究の目的は、フラン
ス語母語者とそうでない者の能力の違いを調査することである。
特にどのようにしてフランス語第二言語学習者が文法上の性の
知識を記憶するのか、そして、どのように記憶システムが、文章全
体に渡って性(文法)が正しいかどうかを正確に理解する能力と
関連するかというところに着点が置かれた。
まず最初に、上級第二言語学習者が性(文法)知識を名詞の
固有の情報として記憶している中で、性(文法)のノダルシステム
が発達しているかどうか、プライミングタスクについて調べた。
二番目に、オンラインテストで上級第二言語学習者の性(文
法)判別能力を調べた。(a)性(文法)の手掛かりをテスト参加者
が利用できるか、(b)名詞と形容詞の距離を操作することで、ワ
ーキングメモリーなど非言語処理的要因の制約を受けるのか、な
ども考慮に入れ調査した。
学習者の母語が性(文法)の処理能力に影響するかどうかを
調査するために、3つの異なる母語を持つフランス語学習者を調
査した。(スペイン語:文法上の性のシステムがフランス語と一致
する。オランダ語:フランス語と一致しない。英語:最もフランス語
から遠い。)フランス語母語者もテストに参加した。
文法上の性のプライミングタスクが示唆するのは、フランス語
母語話者とは違って、現時点での研究において非母語話者は、
母語話者のようには性(文法)ノダルシステムが発達しないという
ことである。それは母語と第二言語(この場合はフランス語)の性
(文法)システムが同様であっても、なかったとしても同じ結果がで
た。いずれにしても文法力を計るテストでも、学習者が非常に上
級であったとしてもネイティブレベルからは程遠い。しかしながら、
性(文法)の手掛かりは、ワーキングメモリー、母語話者、非母語
話者に関係なく有用であるという結果が示された。この研究の結
論として、第二言語学習者が文法上の性をマスターすることを困
難だと結論付けている先行研究を再度確認し、非母語話者の性
(文法)の表現について、この処理が困難とされる理由を明らかに
した。
訳:藤倉晶子(Akiko Tokura)
August / September 2011 i-News 16