稲作収穫前の最後の仕上げ ~収穫前管理のポイント~ 出穂後の水管理

稲作収穫前の最後の仕上げ
~収穫前管理のポイント~
○出穂後の水管理
<イネの栽培期間中の水管理の模式図>
深
水
浅水
中干
し
7 日程
間断かんがい
間断かんがい
深
水
落
水
出穂
出穂後
30 日
度
田植
出穂 出穂
前 40 前 30
日
日
出穂期から黄熟期
・出穂、開花期間中はやや深めの水管理とする。出穂
(出穂後30日頃まで)
終了後は間断かんがいを基本とする。
・平坦地域で登熟期間中に極端な高温が続く場合は掛
け流しかん水を行い、稲体の温度を下げるようにす
る。
・落水時期は、出穂後30日前後とするが、落水後も
高温乾燥が続く場合は収穫までに走水程度のかん
水を行う。
※間断かんがい:常時水を湛えず、入れたり切ったりを繰り返すかんがい方法。
☆出穂後の水分の役割
玄米の大きさの決定
・玄米の大きさが決まるまでは、
出穂してから約4週間かかる。
・概ね最初の1 週間で開花・受精、次の1週間で玄米の長さが決まり、
その次の1週間で玄米の幅が決
まる。
・最後の1週間で厚みが決まる。
水分不足の影響
・早く落水した田んぼや、水分不足の田んぼでは、米の厚みの充実が不十分と
なり、粒厚の薄い米になる。
田面がひび割れるような田干しは厳禁
☆間断灌漑の効果
・登熟期に間断かんがいをすることにより、稲の根の分枝根の発生と伸長を
促すとともに、土壌中の水分を保つことで、根からの窒素吸収を継続させる
ことにつながる。
稲体が活力維持される
登熟が向上し収量・品質の高まりにつながる
・登熟期間中の葉鞘の枯れ上がりの防止につながる。
稈の支持力を高め倒伏軽減が図られる。
☆地域の用水が止められる時期が決まっている場合は、かん水が可能な期間の
終期には、十分湛水して可能な限り遅くまで土壌水分を維持し、過度な土壌
乾燥を防止する。
落水後登熟期間の土壌水分と土壌表面の様子及び収量・品質への影響
※北海道米麦改良(2014.7)より
・落水後の登熟期間の適正な土壌水分は、土壌表面に小さな亀裂ができ、足を
踏み入れた際にわずかに足跡が付く程度が目安となる。
・土壌表面が乾燥しすぎると亀裂が入り、根が切れて水稲の吸水力が低下し、
登熟不良や心白粒、腹白粒、乳白粒の発生、千粒重の低下を助長する。
・収穫の10日前頃までは、土壌表面に1㎝以上の亀裂を入れないように、落
水後に乾燥する場合は走り水程度のかん水をする。
○出穂後の高温の影響
・出穂~出穂後20日頃の期間に高温が続く(平均気温26℃以上、夜温24℃
以上)と、白未熟粒等が発生しやすくなる。
・夜間の高温は登熟を急速にし、特に開花後5~15日頃には粒内における養
分需給の不均衡をおこして、乳白米、半死米、死米の発生を助長する。更に
は成熟後期における玄米の外層の充実を不良にすると言われている。
~白未熟粒とは~
・玄米の充実が不十分となって白っぽくなるもので、高温では、胚乳全体が
白くなる乳白粒と、米粒の一部が白くなる背白粒や基白粒等の 2 種類があ
る(図 1)。
・乳白粒は日照不足や台風でも発生し、背白粒、基白粒は高温で特異的に増
える。
図1
白未熟粒の種類
~白未熟粒の発生メカニズム~
・米は図 2 のような順序で実る。出穂後①5~6 日後で長さが、次いで②15~
16 日後に高さが決まり、③幅は 25 日後、とかなり遅く決まる。
・これらの発育時期に、高温などでデンプンの転流が阻害されると充実が悪
くなり、乳白状になる。
→高温が発生したときに発育している部分が障害を受けると、その部分の
細胞にデンプンの集積が悪くなり乳白化する。
※気温だけでなくフェーン現象(高温、乾燥)でも乳白米は発生する。
図 2 米粒発育のプロセス
○出穂後の高温に対する対応策
・水管理により地温を下げるとともに、稲体を冷やすようにする。
・間断かんがいを基本とし、高温が続く時はかけ流しによる管理も行う。
・水量を十分確保できない圃場では昼間はかん水、夜は落水といった管理と
する。
・未熟粒、胴割米などの被害粒の発生が助長されるため、早期落水をしない。
・出穂後の気温が高温で経過すると、イネが登熟する期間が短くなるため、
積算気温による収穫時期の判断だけではなく、もみの色味の変化の様子をよ
く観察して収穫時期を決める。
○収穫適期の判断方法
・収穫時期の遅れは胴割粒の発生を助長する。特に出穂してからの積算温度
が 1,200℃を超えると胴割粒の発生が著しく増加すると言われている。この
ため、適期収穫を行うことが品質向上のために重要である。
・収穫時期は、出穂期(ほ場全体の穂の 40~50%程度が出穂した頃)からの
積算気温(日平均気温の和)を目安とし、実際には穂の状態を観察して判
断する。
※日平均気温は、甲府地方気象台のホームページの気象統計情報の欄をご
覧になると日々確認できますので、参考に願います。また、ホームペー
ジが見られない方は農務事務所までお問い合わせ願います。
ホームページアドレス
「http://www.jma-net.go.jp/kofu/menu/report.html」
~収穫適期~
・水稲の収穫適期は、出穂期からの積算気温はバインダーによる収穫の場合、
950~1,000℃、コンバイン収穫の場合、1,000~1,100℃である。
・出穂後、収穫適期となるまでの日数は概ね平坦地で 40~45 日、中間・高冷
地では 45~50 日程度を要するが、夏期の温度が高温で推移した場合、この
日数は短くなるので、前述の積算気温の目安より 50℃程度(2~3 日程度)
収穫を早める。
・収穫が遅れると胴割粒の多発による品質低下が著しくなる。また、収穫が
早すぎると未熟粒(青米等)の混入が多くなるので、極端な早刈りはしな
い。
~見た目での収穫適期の目安~
①バインダーによる収穫の場合
・ほ場全体の穂が黄化し、中庸の穂に緑色の籾(帯緑籾)が 10%程度
残っている頃を目安とする。籾の
水分含量は 22~27%程度とする。
②コンバインによる収穫の場合
・バインダーの場合に比較して 5~7
日程度遅らせて収穫する。籾の水
分含量が 24%以下になった頃収穫
する。
淡緑色籾
※登熟期が高温の場合、茎や葉の黄
化が進行せず、籾の登熟が進む
「籾先行型」の登熟となる場合が多
黄熟籾
穂軸
いため、穂軸の黄化状況のみにとら
われず、籾の黄化状態に注意して収穫適期の診断を行う必要がある。