自主的な安全衛生活動のあり方

2011 October
No.23
東京海上日動 WINクラブ
http://www.tmn-win.com/
中小企業の労災対策 ⑤
自主的な安全衛生活動のあり方
労働災害の発生件数は、長期的には減少傾向
にありますが、今なお全国で年間48万人もが被
災しています*1。特に従業員数の少ない中小・
小規模の事業場では、大企業に比べて労働災
害の発生率が高くなっています*2。
労働災害の発生原因は労働者の未熟練や過
失、機械設備や作業方法の欠陥等にあると考え
られています。中小企業において労働災害の発
生を未然に防止するためには、労働安全衛生関係法令の遵守に止まらない自主的な安全衛生活動によってそれらの原因を
解消しなければなりません。そこで今号では、職場における自主的な安全衛生活動のあり方についてポイントをまとめ、さら
に中央労働災害防止協会が行う関連サービス事業についてご紹介します。
Ⅰ.なぜ自主的な安全衛生活動が求められるのか
労働安全衛生法や労働安全衛生規則などの安全衛生関係法令には、各種の危険防止の措置や健康管理の措置、安全衛生管理体制の
整備、安全衛生教育の実施など、事業者が労働災害を防止するために取り組まなければならない多くのことが規定されています。し
かし、それらの取り組みは労災防止のため事業者が講じるべき必要最低限の措置に過ぎず、安全衛生関係法令を遵守するだけでは労
災事故を防止することはできません。そこで必要になるのが自主的な安全衛生活動への取り組みです。
労働安全衛生法第3条には、
「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場
環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」と定められていま
す。つまり、事業者は労災防止に必要な安全衛生活動に自主的に取り組む法的義務を負っているわけです。
労災防止に係る法的義務を怠ったことが労災事故の原因となった場合、その事業者は下の表1のような法的責任を厳しく追及され
」をご参照ください)
。
る可能性があります(労災事故における事業者責任については本誌第 13 号「中小企業の労災対策(上)
表1 労災事故について事業主が追及される可能性のある法的責任
刑事責任
民事責任
行政責任
労災事故についての労働基準監監督署の調査で事業主の労働安全衛生法違反が認められた場合、事業主は刑事責任を
厳しく追及され、最悪の場合、業務上過失致死傷罪(刑法第211条)に問われる可能性もあります。
労働基準法により事業主は過失の有無によらず一定の災害補償責任を負うこととされています。事業主に安全配慮義務違
反や注意義務違反があった場合、民法上の損害賠償責任を負う可能性もあります。
労災事故を起こした事業主は、労働安全衛生法に基づき業務停止や設備等の使用停止を命令される可能性があります。法
的責任を問われない場合でも、労働基準監督署による厳重注意や是正監督等の処分が行われる可能性があります。
*1
厚生労働省「平成 23 年版厚生労働白書」第2部 第 8 章 第 3 節 労働者の安全と健康確保対策の推進
*2
厚生労働省「職場のあんぜんサイト」労働災害発生速報 平成 22 年における業種別・事業場規模別死傷災害発生状況(死亡災害及び休業4日
以上)
[速報] http://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/sok/2010/h22_in06.html
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/11/
1
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Ⅱ.自主的な安全衛生活動の取り組み例
厚生労働省では特定の業種における休業4日以上の死傷災害を中心に、労災事故の原因について3年ごとに分析・集計を行ってい
ます*3。その結果から労働災害が発生する原因は、防護措置・安全装置の欠陥、作業の方法や環境の欠陥といった不安全状態と、労
働者自身の未熟練や不注意によるヒューマンエラー(失敗、誤動作、不安全状態の放置など)といった不安全行動とにあるものと考えら
れています。
労災事故を防止するためには、安全衛生関連法令に規定された各種の措置を確実に講じることに加えて、こうした就労環境の不安
全状態と労働者の不安全行動を解消するための安全衛生活動に自主的に取り組むことが必要となります(表2)。
表2 自主的な安全衛生活動の取り組み例
労働者の安全意識の啓発
経営者による講話、朝礼でのヒヤリ・ハット事例*4や災害事例の紹介 など
労働者の意見の収集
朝礼での意見収集、管理者等による面談の実施、投書箱(目安箱)の設置 など
安全衛生教育の実施
ビデオ教材の社内作成、マンツーマン指導、中災防など外部の専門機関の活用 など
5S運動 (整理・整頓・清潔・清掃・しつけ)
業務の一環として実施、全員参加、各部門・各人で役割分担、定期的チェック など
作業手順書の作成・遵守
手順書に沿った作業の教育、遵守状況の定期的チェック、定期的な見直し・改訂 など
安全パトロール
不安全行動、不安全状態、5Sの徹底、当番制で全従業員の安全意識向上 など
ヒヤリ・ハット活動
ヒヤリ・ハット事例の報告、作業や設備等の改善提案、ヒヤリ・ハット情報の共有化 など
KY(危険予知活動)は、作業前に現場や作業に潜む危険要因について話し合い、作業者の労災事故
KY(危険予知)
に対する危険意識を向上させることで労災事故を防止するもの。KYT(危険予知訓練)は、想定された
現場や作業を材料にKY活動を行い、労災事故の危険を予知する能力や感性を養うもの。
リスクアセスメント
設備や作業方法、原材料等の新規採用や変更の際に、潜在する危険要因を洗い出し、労災
事故の発生リスクを評価し、そのリスクを低減させるための対策を検討する
上の表2は、厚生労働省が発行する次の資料を参考に作成したものです。
「労働災害防止のために ∼従業員の安全と健康の確保は事業者の責務です∼ (小規模事業場向けリーフレット)」
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/110222-1.html
「製造事業者向け安全衛生管理のポイント ∼パートや期間従業員などの安全衛生のために∼」
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/110329-1.html
厚生労働省は他にも、事業者が自主的な安全衛生活動を検討する上で参考となる各種資料を Web サイト上で多数公開しています。
自主的な安全衛生活動に取り組まれる中小企業の経営者等の方は、ぜひ一度、下記URLにアクセスしてみてください。
厚生労働省「安全衛生関係リーフレット等一覧」 http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/index.html
*3
*4
厚生労働省「職場のあんぜんサイト」労働災害原因要素の分析 http://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/tok/bnsk00-h21.html
ヒヤリ・ハット事例……作業中にヒヤリとした、ハッとしたが幸い災害にはならなかったという事例
中央労働災害防止協会の関連事業のご紹介
中央労働災害防止協会が行う下記のサービス事業を利用することで、中小企業の経営者や管理職、労災担当者は、自主的な安全衛
生活動に関する知識を習得したり、や最新情報を入手したりできます。自社の安全衛生活動の整備・見直しに取り組まれる中小企業
の経営者や管理職、労災担当者の方には、ぜひ一度、下記の Web サイトにアクセスしてご覧になることをお勧めします。
■ ゼロ災運動・KY(危険予知) http://www.jisha.or.jp/zerosai/index.html
中災防では、安全衛生活動を全員参加で先取りすることで労災事故の発生をゼロにしていこうという「ゼロ災運動」を推進してい
ます。職場にゼロ災運動を導入・展開する企業をサポートするため、中災防ではゼロ災運動やKY(危険予知)に係る各種セミナー・
研修会を行っています。貴社の安全衛生を担う人材の育成にぜひご利用ください。
■ 出版事業部の販売サイト 安全衛生図書・用品 http://www.jisha.or.jp/order/index.php
中災防出版事業部の販売サイトでは、安全衛生活動に関する参考書や、事業場での安全衛生教育に使える小冊子などの図書を検索
し、オンラインで発注することができます。また、このサイトでは図書以外にも、各種ポスターやバッジ、ステッカー、表示ボード
などの安全衛生活動に使える各種の用品なども検索・発注することができます。
※次号(2011年11月発行予定)では、交通労災防止対策について解説します。
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