静電容量式指紋センサ

ET2003●セキュリティ・ソリューション
静電容量式指紋センサ
指紋認証はバイオメトリクスの中でも認知度と普及率が高い技術です。指紋認証
を各種機器に搭載することにより,セキュリティのレベルが格段に向上します。
本稿では当社の指紋センサの技術を紹介します。
概要
近年,インターネットの普及は目覚ましいものがあります。しかし,
それに伴い機密情報漏洩や金融的詐欺などの犯罪も増加しており,
今後も犯罪を完全に防ぐことは難しい状況です。これらの犯罪を少
しでもくい止めるためには,普段からセキュリティを高めておくこと
が大切です。基本として,まずは使用している本人を確認するこ
とが重要です。従来この確認は,IDとパスワードで識別する方法
が主流でした。しかし,これを破る方法も存在しており,高いセキュ
リティを実現することはできません。そこで,個人固有の身体的特
徴を鍵に個人を識別する方法として,バイオメトリクスと呼ばれる技
写真1
MBF200外観
写真2
MBF310外観
術が生まれ,発達してきました。本人固有で世の中に同じものが
なく,携帯する必要も紛失の心配もないため有望視されています。
バイオメトリクスには,指紋,声紋,網膜,虹彩,掌,顔,静
脈などさまざまな方式が考えられており,その中でも指紋認証は認
知度と普及率が高く,ほかの方式を凌駕しています。
当社の指紋センサは半導体静電容量式のデバイスです。非光
学式であり,小型・低消費電力で動作が安定しています。
当社の指紋センサは,大きく2タイプに分かれます。1つは,
拇印を押すようにして指紋を読み取る「面型」です。もう1つは,
指をスキャナのように断片に分けて読み取る
「スウィープ
(Sweep)
型」
です。面型には「MBF110」
「MBF200」があり,スウィープ型には
「MBF300」
「MBF310」があります。
機能
分な解像度となっています。
スウィープ型センサ
半導体静電容量式の原理
MBF310は面型のMBF200に比べて,センサエリアが1/40以下で
ンサの表面には保護膜があり,その下のチップ上に多数の金属電
非常に小型です。スウィープ型は,実装面積が大きい従来の面型
極(コンデンサ電極の片方)が並べられています。その表面に指を
のセンサでは搭載が困難だった,携帯電話やPDAなどにも十分搭
置き電流を印加すると金属電極と指の表面がコンデンサを形成し,
載できます。また,静電容量式は消費電流が少ないため,バッテ
指の凹凸に応じた電荷がたまります。電極と指表面の距離が近い
リで駆動する機器にも問題なく搭載できます。
と電荷が多くたまり,距離が遠いと電荷が少したまります。その電
MBF310は当社が今年開発した新製品で,MBF300の改良型
荷を金属電極ごとに読み出し,8ビット
(=256)の明暗階調にA/D
です。センサラインを従来の1/4に縮小し,FBGA専用パッケージ
変換することで指紋イメージが取得できます。
当社の指紋センサMBF200( 面型)
には,256×300=76,800個
の金属電極が50μm(500dpi)
ピッチの間隔で並んでいます。指紋
の凹凸のピッチは200μm程度ですので,指紋を読み取るのに十
32
スウィープ型センサは縦方向のセンサエリアを小さくしたものです。
図1に,半導体静電容量式指紋センサの原理を示します。セ
と組み合わせることにより,搭載機器の外観を損なわないようにし
ています。このパッケージには次のような改良点があります。
・センサ面の左右両側を盛り上げ,スウィープする際のガイドを設
けました。
FIND
ET2003
静電容量式指紋センサ
・スウィープ方向前後の樹脂部分を延長し,筐体や周辺のボタン
指紋センサで読み取った指紋画像情報は,特徴点抽出法(図2)
などによる段差が,指とセンサの接触を妨げないよう工夫しまし
と呼ばれる方式によって,指紋の端点(隆線が切れている点)
と分
た。センサ部と樹脂部はフラットになっています。
岐点(隆線が分かれている点)の座標と位置関係を抽出し,数十
・パッケージ四隅にはんだボールを設けることで,指の読取り時に
〜数百バイトの非常に小さい指紋データにして登録します。読み取
デバイスのブレを抑えました。
った画像は破棄され,特徴点データのみを登録・保存します。この
デバイスの改良として,読取りデータの高速転送のために2Kビッ
データからは元の指紋像を復元できないので,プライバシーを保護
トのFIFOを搭載しています。データを高速に転送する場合は,
できます。認証時にも同様に特徴点を抽出し,特徴点データのみ
CPUと動作の同期を取ってオーバーフローやデータの欠落を起こし
を使用して登録データと比較します。この方式は,指紋画像同士
にくくしています。このFIFO回路に合わせてセンサ内部回路を調
を直接比較するパターンマッチング方式(図3)に比べ,指紋デー
整したことにより,MBF300に比べて読取り速度を最大約1.5倍まで
タが小さいため比較しやすいものです。回転や位置ズレの補正を
高めることができ,より速い指の動きに追従できるようになっています。
行う時に,専用の高速DSPや高いプロセッサの能力に依存するこ
認証について
となく,高精度に認証することができます。指紋の変化(押す強さ,
認証方式は,パターンマッチング,特徴点抽出法などさまざまな
傷,歪み)の影響を受けにくい方式です。当社では,この認証エ
方式がありますが,ここでは特徴点抽出法について説明します。
図1
ンジンを含むSDK(ソフトウェア開発キット)
を提供しています(現在
指紋読取りの原理
指の表面
Surface Passivation
C1
C2
C3
Capacitor Array
Active Circuits
Silicon Substrate
・指と電極間の電荷量を測定
(チップ表面に指を置くと静電容量効果により,指の凹凸に相応してたまる電荷量)
・7.7 万画素(MBF200)の指紋凹凸情報を 8 ビット階調のデータに変換
図2
特徴点抽出法の原理
特徴点抽出
連結関係抽出
連結関係
指紋センサ
(MBF200)
端点
指紋センサチップから 77 KB の
指紋データを読み込みます
分岐点
:指紋隆線
読み込んだ指紋から 分岐点 や
端点 の特徴点を抽出します
特徴点の連結関係を
指紋データとして登録します
※登録された指紋特徴点から指紋データを復元することはできません(プライバシー保護)
FIND
ET2003
33
MBF200のみ)。
今後の展開
スウィープ型MBF310の認証方式は,複数のサードパーティに開
発いただいています。
指紋センサの現在の主要な用途はパソコンとその周辺機器です
応用例
が,今後は携帯電話やモバイル端末に普及し,端末のログインだ
けでなく,インターネットを使った商品売買や決裁時の個人確認に
パソコンやパソコン周辺機器に搭載し,指紋認証でログインを
利用されると考えられます。当社は,さまざまな用途に適した指紋
行う
センサ商品を充実させ,指紋センサの普及に務めて安全な社会の
データやフォルダにロックをかけて情報の流出を防ぐ
実現に貢献します。
■
各種ICカードと組み合わせて,使用者の特定と不正使用の防
止を行う
携帯電話や携帯端末に搭載し,プライバシー情報を他人に見
られることを防ぐ
ドアの入退室ゲートに設けて部外者の進入を防ぐ
自動車のドアの開閉やエンジン制御について,個人を特定し設
定を行う
アミューズメント関係での個人認識
その他装置の使用者の限定
電子決裁の承認
電子商取引の本人確認
写真4
図3
応用例2
写真5
応用例3
写真3
応用例1
写真6
応用例4
パターンマッチングの原理(例)
登録指紋
認証指紋
指紋センサから読み出した
指紋画像を登録します
認証時指紋センサから
指紋を取得します
照合
画像の合成を行い
一致するか判定します
※データ量の大きな画像を直接比較するため高性能のプロセッサが必要です
34
お問い合わせ先【技術】:マーケティング統括部
第四マーケティング部
TEL(03)5322-3383
FAX(03)5322-3386
【営業】:最寄りの富士通㈱
営業部(裏表紙をご参照ください)
FIND
ET2003