世界の海にいる2万5000種の さかな全部と出会いたい!

TIME 2
Sakana-kun
さかなクン
「世界の海にいる2 万5 0 0 0種の
さかな全 部と出会いたい!」
ユニークなキャラクターを持ち味に、 日本一のおさかな名人 としてテレビ出演、講演に東奔西走しているさかなクン。
にぎやかでお茶目なやさ男かと思えば、
さにあらず。ある時は夜明け前に船に乗り込む漁師になり、
またある時はひとりで海外の水族館へ飛び立つタフなヤツでもあったのだ。
Text: Arihiro Nakata
Photograph: Yukio Kubota
落書きのタコで魚に開眼
1ヵ月続いたタコ食生活
毎日を、気持ちよく泳いでいる。さかなクンに会って、まず持った
のは、そんな印象だ。つねに魚に関わっていられる喜びが体中から
にじみ出ていて、
しかも物腰がソフト。マイペースで自分の世界を展
開しながら、周囲への気配りも怠らない。所属事務所でのインタビ
ュー中、集荷に来た宅配便の人に、
「ごくろうさまです」と声をかける。
言葉での説明が難しいと思えば、ふっと立ってホワイトボードに絵を
描き、図鑑を持って来てはページをめくる。趣味の楽器に話が及ぶと、
貴重な愛器コントラバスクラリネットを嬉しそうにケースから取り出す。
無邪気でしかも自然な礼儀正しさが備わっている青年なのだ。
が、
しかし、魚のことになると、目の輝きが倍増する。そして、いま
までに見た魚のこと、不思議な生態、食べておいしい魚のことなど、
次から次に披露してくれる。水の中の世界の楽しさ、不思議さを共
カサゴ
有したくてたまらないという感じだ。やはり、
「TVチャンピオン・全国
魚通選手権」で5連覇を成し遂げた王者なのだ。
さかなクンが初めて魚に興味を持ったのは、小学2年生の時。ク
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イ
タフラ
クバ
ッ
ラ
ブ
水を採りに通いましたよ」
孵化に成功して、地元の新聞にも取り上げられた。アルテミア、
タイ
テトラミンステープルフードなどの人工餌を与え、1回めの脱皮に成
功したところで、飼育は終わった。
ラスの誰かが、
さかなクンのノートにタコの絵を落書きした。当時流
行していたヒーローもののテレビ番組に出てくるタコの怪獣の絵だ。
流れのままに成長して
いつしか魚のチャンピオンに
「うわー、
なんて可愛い生き物がいるんだ! と思ったんですよ。それ
までもタコを食べなかったわけじゃないけど、食卓にのる時にはすでに
高校では吹奏楽部の存在に気づかぬまま、
フィールドワーク部に
ブツ切りだったり、刺身になったりしてるから、
もとの形なんか知らなか
入部。あくまでマイペースで3年間をすごす。その後、東京・渋谷の
った。それで、
その日から1ヵ月ほど、毎日タコを買ってもらったんです」
日本動物植物専門学院へ入学。当然、海洋生物科を志望したの
母親は、初日、茹でたタコの足だけ買ってきた。さかなクンは、
こん
だが、定員に満たず、なんとその科は廃止。アニマルケアー科への
なのタコじゃないヨー、
と主張。翌日から、1匹まるごとのタコを買っ
入学となった。
てもらった。くる日もくる日もタコを買ってもらい、
さかなクンは飽きる
「トリミングや動物園研究など、いろんな実習をやったんです。でも、
まで眺めて、触れて、絵に描き、ニオイが漂い始める夕方、台所へ持
水族館研究の授業がいちばん楽しかったかな。夏休みには、恩師
って行き、ようやく母親の調理が始まる。タコを食べ続ける家族は
の佐山先生に紹介していただいて、東海大学海洋科学博物館や
大変だったに違いないが、子供の興味に付き合いきったところに、
サンシャイン国際水族館で研修させていただきました。エサやりはも
さかなクンの才能開花の秘密があるのだろう。
ちろん、水槽の掃除とか、地引網での採集など、
とても貴重な体験
をさせていただきました」
吹奏楽部の水槽で飼育
ふ
なんとカブトガニの孵化に成功
TVチャンピオン出演後、
さかなクンの周りで、潮の流れが大きく変
わった。
「どうぶつ奇想天外」
(TBS系)ではおさかなナビゲーターを
務め、
「全国こども電話相談室」や「小堺一機のサタデーウィズ」
(TBS
中学生になったさかなクンは、
「すいそう」という響きに引かれ吹
奏楽部に入った。パーカッションを第一希望にあげていたが、入部
ラジオ)など多数のテレビ・ラジオ番組にも出演。朝日小学生新聞
や毎日新聞 クリクリ 、学研の『科学と学習』などで連載もこなす。
テストでいきなりスティックを顧問の顔に飛ばしてしまい、即不合格。
「さかなクンっていう愛称は、高校の頃からついたものなんです。で
トロンボーンを担当することに。ともかくも音楽を楽しみながら、中3
も、魚のこと、
まだまだ知らないことだらけなので、
もっともっと知識を
になった春、部の後輩が、
「九州の祖父から観察用にとカブトガニ
増やしていきたいんです」
が送られてきた」と言って、学校に持ってきた。さかなクンは、率先し
て飼育にあたった。
「各地の水族館に飼育方法を聞いて、いろいろなエサを与えたり、
人とあうたび知識が増える
世界の魚を知り尽くしたい
水槽から出して散歩させたりして面倒をみました。ある朝、世話をし
ようと思ったら、
とうもろこしみたいなものがいっぱい入ってて。
『だ
世界に2万5000種以上、日本近辺でも3700種以上の魚がい
れだ、水槽にBB弾なんか入れてェ』と思って、よく見たら卵だったん
ると言われている。ちょっと突くと溢れるように出てくるさかなクンの
です。急いで理科室の顕微鏡で観察したら、卵の細胞が動いてた
知識はどのようにして蓄えられたのか。
んです。とても感動しました!」と、その時の興奮が蘇ったよう。
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「やっぱりフィールドに出るのがいちばん。子供の頃は千葉の白浜
「卵そのものが脱皮を繰り返して、1センチ弱ぐらいで孵化するんで
でいとこと磯遊びをしたり、漁師さんから獲れたての魚のことを教え
す。新鮮な海水が必要なので、先生や母の車で1時間かけて、海
てもらったり。学生時代の水族館実習は僕のベースを作ってくれたし。
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いまは、仕事で出会う人たちが、たくさんの事を教えてくれます。海や
魚が好きな人は、魅力をいっぱい伝えてくださいます。いま住んでい
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る館山では、時間が許す限り、朝早く漁に出てます。近所で親しくさ
せていただいている漁師さんの船に乗せてもらってるんです。旅先
でも漁港に寄って、いきなり乗せてもらうこともありますよ」
日本には70カ所近くの水族館があるが、実はまだ10数カ所しか
正面の顔がいいよねっておっしゃいます。味のある魚の顔は何十回、
訪れていないという。海外では、モナコ、パラオ、ニューカレドニア、
何百回出会っても全然飽きないって。みなさんも、正面顔にこだわ
ニュージーランドなどの水族館や海を体験。いずれ、アメリカ・西海
ってみると、水族館をもっと楽しめますよ」
館山では暇があれば漁船に乗り、安房博物館の客員研究員とし
岸のモントレーベイ水族館へ行くのが夢だという。
て『博物館だより』に寄稿もするさかなクンは超多忙。それでも、著
あらためて、質問。いちばん好きな魚はなに?
「日本中の魚に責められちゃうから、ひとつには絞れないです。マグ
ロやサバといった回遊魚、サメもかっこいいでしょ。カサゴやオコゼ
の悟ったような顔もいいですね。ニューカレドニアの、自然光の降り
注ぐ水族館で見たピンクテール・
トリガーフィッシュの美しさも忘れら
書にサインをする時は、できるだけイラストを添える。
「好きな魚を聞いて、描いてあげるんです。男の子はサメ、女の子
はマンボウが多いですね」
かわいい!
おいしい! というところから入り、深まっていく知
識を、楽しく伝えてくれるさかなクン。もしかしたら、彼は、人と魚のシ
れないですね」
ンプルかつあたたかい関係を思い出させてくれる、魚界からのスポ
最近、魚のことで初めて見聞きしたことは?
「仕事で大分マリンパレスさんを訪ねた時、オオニベの鳴き声を聞
ークスマンなのかもしれない。
きました。厚い水槽のガラスを通しても聞こえるほど大きな声なんで
すよ。威嚇のためとか、求愛のために鳴くとかいわれていますが、実
際のところオオニベたちに聞いてみないとわからないですね。魚の
世界はまだまだわからないことだらけです。シマアジの追尾行動も目
撃しました。ラッキーなことにオスがメスを追いかけているところが見
られて、微笑ましかったです。あとは、
ちょうど職員の方が釣ってこら
れてたとてもおいしいメジナもいただき、
もう感激してばかりでしたね」
他に、食べておいしいのは?
「秋の戻りガツオ、特にヒラソウダとか、アカカマスの塩焼きとか、イ
ボダイもいいですね。ボラも、寒ブリ・寒ボラ・寒ガレイというくらい冬
の時季がとても美味! 旬のものが一番ってことですね」
「図鑑に 食用には適さない とか、 雑魚 と書かれていたり、漁
師さんが捨ててしまうという魚も、
『本当にそうなのかな? そんなこ
とないんじゃない? 食べてみたい! 』と思っちゃうんです。でも本当に
マズイーって時もありますよ」と、ハコフグ帽子のさかなクンは笑う。
かわいい! おいしい!
素直な感動で魚に接してほしい
これからの方向性は?
「これまでは日本の魚に偏っていたので、視野を広げ世界の魚を見
ることです。そして、僕の持っている知識を生かし、いろんな形で子
供たちに魚の素晴らしさ、楽しさを伝えていきたいです。最近、子供
たちの魚離れが言われることがありますけど、むしろ、お母さん方の
方が、魚に触れなかったり、
コワイとか言ったりして、敬遠されてるん
Profile
さかなクン
じゃないんですかね。だから、子供も魚にふれる機会が少なくなるん
じゃないかな。講演活動などでも、知識はお母さん方より、子供たち
の方がずっとあるんですよ。見て、触れて、食べて、キレイだとか美味
しいとか、実感することが大切なんだと思います」
イラストレーターが本業のさかなクンは、魚の顔を正面からとらえ
た姿を好んでイラストにする。
「お魚って、目がいちばんイキイキ見えるでしょう。お魚と目が合っ
た瞬間って、体にビリビリっと電流が走るんです。それから胸の奥か
らジーンと熱くなってくる……。表情がわかるんですよ、なごんでるナ
*
とか、緊張してるナとか。僕の師匠の水中写真家中村征夫 さんも
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