1 中国 特別報告 昨今、中国がソフトウェア産業促進に注力していることは

中国
特別報告
昨今、中国がソフトウェア産業促進に注力していることはよく知られている。国として
も国内ソフトウェア産業の開発力の向上及び人材育成を行なう一方で、外資系企業は中国
ソフトウェア企業に対するアウトソーシングの発注、及び中国のソフトウェア人材を活用
して中国市場の拡大を図っている。
今回は中国のソフトウェア産業促進の重要な柱であるソフトウェアパークを視察、国家
発展改革委員会及び情報産業部が認定した国家級ソフトウェア基地 11 箇所のうち、北京中
関村、山東省済南市・斉魯軟件園、浙江省杭州市・杭州高新軟件園、上海浦東軟件園の4
箇所を訪問した。一口にソフトウェアパークといっても様々な形態と特色がある。上海の
ような大商業都市における政府の機能を保持しながらも企業として財務バランスを取り運
営している形態、山東省済南市のような地方都市における地元中小企業を含めた地方企業
支援という側面をも持つ地方政府主導の形態などの特徴が見られた。進出する企業はその
事業目的にあったソフトウェアパークの活用が肝要となる。今後 CICC としては、各ソフ
トウェアパークの特徴を考慮し、人材育成分野を中心とした日中双方 Win-Win になるよう
な協力に取り組みたいと考えている。
下記に中国のソフトウェア産業に対する政策をまじえ、ソフトウェアパークの実態を記
す。なお、現在 CICC 北京事務所が中心となり、国家級ソフトウェアパーク 11 つを訪問し、
今年度末に報告書を纏める予定。
◆中国のソフトウェアに対する政策◆
中国は 1980 年代中期にソフトウェア産業の推進に踏み出した。旧機械電子工業部(機電
部、現情報産業部)の曾培炎副部長が 1990 年代の始めに海外ソフトウェア企業を視察、そ
の後にソフトウェアパーク設立方針を打ち立てた。1992 年には機電部が中軟総公司を中心
とする北京ソフトウェア産業拠点(北方ソフトウェア産業拠点)、上海浦東ソフトウェア産
業拠点、珠海の南方ソフトウェア産業拠点の中国 3 大ソフトウェア産業拠点が定められた。
また中国国務院は 1988 年 8 月にたいまつ(火炬)計画を批准、ハイテク分野の産業化推
進を目的とし、その 1 つとして国家級ハイテク産業開発区の設置等を掲げている。
2000 年 6 月国務院は「ソフトウェア産業及び IC 産業発展の奨励に関する若干の規定」
(18
号文件)を交付、2010 年までにソフトウェア産業の研究開発及び生産能力が先進国レベル
に達することを目標に掲げ、政府としてもソフトウェア産業を全面的にバックアップする
体制を整えた。
このような政府による政策のもと、中国に 22 箇所のソフトウェアパークが完成(規模を
関係なくカウントするとソフトウェアパークは 300 以上あるとも言われている)
、22 箇所
に事務所を置くソフトウェア企業は 2004 年 8 月現在で 5,777 社、従業員数は 18.5 万人、
全国ソフトウェア産業売上高の 73.5%を占めている。22 箇所のソフトウェアパークのうち、
2001 年 7 月に国家発展改革委員会及び情報産業部は国家級ソフトウェアパークとして 10
箇所(北京、上海、大連、成都、西安、済南、杭州、広州、長沙、南京)を認定、さらに
同年 8 月には珠海も加え、11 箇所を認定した。またソフトウェア設立に対し、各国より 2,000
万元(約 2 億 8 千万円)の援助を受けている。
◆ソフトウェアパークの概況◆
1
[1]
運営体制
中国ソフトウェアパークの運営体制は大きく 3 種類に分けることができる。
1)政府中心の運営:ハイテク開発区に属し、地方政府が直接ソフトウェアパークを運営
(西安、済南、広州、長沙)
2)国営企業が運営:政府の機能を保持しながらも企業として財務のバランスをとり運営
(上海、珠海、杭州、成都)
3)民間企業が運営:完全なビジネスとして利益追求型の運営
(大連、北京、南京)
[2]
ソフトウェアパークのタイプ
中国のソフトウェアパークは、地域別に国内市場型、加工輸出型、内需加工型、局部市
場型の 4 つに分類することができる。
1)国内市場型:北京・上海・広州
北京は政府のニーズが高く大型案件多く、中央政府市場の位置づけとなる。大手
企業に加え、大手企業から受注される中小開発業者も北京にオフィスを構えてい
る。また、上海・広州は企業のニーズが高く、中国経済の中心地であり大手製造
業の集中地となる。これらの 3 大都市はコスト高で競争も厳しく、人材流動性も
高いという特徴がある一方、優秀な人材が豊富で外国からの駐在者にも魅力的な
場所となっている。
2)加工輸出型:大連・珠海
2 箇所とも省政府の所在地から離れているが、より柔軟な優遇政策を実施、比較的
人件費も安く環境もよい。大連は主に日本や欧米向けのソフトウェア開発、珠海
は地理的に香港が近いため多くの香港業者が往来している。
3)内需加工型:済南、長沙
2 箇所とも市場規模はさほど大きくないが、浪潮(済南)と創智(長沙)の 2 台企
業が牽引役となって多くの関連企業がパークに集まっている。地方政府とパーク
責任者も積極的に企業を誘致しており、できるだけ多くのサービスを行おうとし
ている。済南では人材育成も積極的に行っている。人件費も安く、人材流動性も
低いことが挙げられる。
4)局部市場型:杭州・西安・南京
3 都市は従来工業基盤が比較的安定しているため、既存の電子工業向け開発が多い。
近年は海外の大手企業の進出しており、内外企業の提携もよく見られる。
[3]
優遇政策
ソフトウェアパークには大きく分け 2 つの優遇政策がある。1 つは 2000 年 6 月国務院が
交付した 18 号文件に定められている中央政府の優遇政策(これは地域やパークによる区別
2
はなくソフトウェア企業全てに適応される)で、納税面(税金の免除・軽減等)
、投資・融
資面、輸出関連、収入分配、人材政策面など多岐にわたる。もう 1 つは地方独自の優遇政
策となり地方によって内容は異なる。
上記の優遇政策に加え、ソフトウェアパークは入居企業が業務を行ないやすいように多
くのサービスを提供している。主なサービス内容はパークごとに多少の差異はあるが、一
般的に次のようなものである。入居企業従業員の育成、ソフトウェア企業認定の申請代行、
国家ソフトウェア検査測定実験室、パーク内企業の内外展示会参加、パーク内企業の定期
交流会、入居企業にビジネス情報の提供、企業に企業登録業、税務、外貨管理などサービ
ス提供、従業員生活情報の提供、企業にコンサルティングサービス提供(弁護士、会計士
等専門家の活用)電子商取引プラットフォームウェブサイト(北京・大連・杭州のみ)、ソ
フトウェア開発総合開発実験室(北京・済南のみ)等、充実したサービスが挙げられる。
このうち、北京及び済南に見られたソフトウェア開発総合開発実験室は、Microsoft、HP
が設置したパーク内プラットフォームを入居企業が活用し、開発実験を行うことができる。
これは 2004 年情報産業部と Microsoft による「国家ソフトウェア及び集積回路産業の公共
サービス実験室の共同構築に関する覚書(2 年間で 8,000 万元(約 10 億 4 千万円)相当の
Windows をベースにしたソフトウェア・ハードウェアを提供)」、及び同年情報産業部と
HP による Linux 実験室の共同構築に関する同様の覚書(年間で 2 億人民元(約 26 億円)
相当のソフトウェア・ハードウェアを提供)に基づくものである。
[4]
各都市の給与体系
各都市の大卒初任給は下記の通り(2004 年 8 月チャイナウェブ調べ)
。
都市名
給料(元・円)
上海・北京・広州
2,000 元(28,000 円)
大連
1,650 元(23,100 円)
南京
1,500 元(21,000 円)
長沙・珠海・西安・杭州
1,300 元(18,200 円)
済南
900 元(12,600 円)
◆各ソフトウェアパークの特徴◆
<北京中関村>
既に中関村には多くの企業が進出しているため、北京中関村ソフトウェアパークは中関
村エリアの中でも市内から離れた位置している。2000 年に着工した工事は一部完成してい
るが、残りは現在も工事中で 2006 年末に完成予定。他のソフトウェアパークが既に機能し
ている中、中関村ソフトウェアパークの着工時期は遅いといえる。
個別建物は入居予定企業のリクエストに応じて建設するようだ。北京市政府がリーダー
となって進めているようだが実際は民間企業が運営しているようだ。既にシーメンスは入
居しており従業員の住居も併設、この他中国ソフトウェア企業(漢王:入力システムの会
社、長城等)含め、現在約 1 万人程度働いている。今後 IBM 研究センタ、東軟集団、Oracle
軟件研究センタ(400 人規模)、HP の一部研究開発部門などが入居予定。北京は大学・人
3
材の紹介会社が非常に多く、ソフトウェアパークは各会社のリクエストに応じて紹介する
ことが可能。また、北京のソフトウェア輸出の 70%は日本向け輸出なので、現在も日本語
研修などに力を入れているが、今後とも日本向け開発人員を増加させたい。
<山東省済南市・斉魯軟件園>
済南市は北京まで飛行機 1 時間、上海まで直行便 1 時間半、青島まで 30 分と、比較的便
利な場所に位置する山東省の省都である。日本までの直行便は計画中だが、現時点では運
行していない。山東大学を中心に、大学生保有量は済南市で 1 万人当たり 459 人、青島市
では 1 万人あたり 300 人。各種研究教育機関は 200 箇所に上る。済南市の進出大手 IT 企業
はパナソニック、LG、中創軟件、浪潮(サーバ分野で第 1 位。技術力も高い)、中軟、正
大集団、山東省計算中心など。2003 年の山東省ソフト売上高は 60 億元(約 840 億円)、う
ち 60%を済南市が占める。済南市の売りは沿岸部地域に比べて安い人件費と低い転職率で
ある。
斉魯ソフトウェアパークは、1 995 年ハイテク開発区内設立、入居企業数 247 社、浪潮や
中創等の基幹企業数 10 社が入居している。入居企業の社長平均年齢は 30−40 歳、浪潮の
社長も 42 歳と若い。地方政府が直接ソフトウェアパークを運営していることが特徴的だ。
優秀な人材確保のため地方政府が音頭をとり具体的なスキームを構築・実施中。今後 3 年
間毎年 1,000 万元(約 1 億 4 千万円)投入、各種研修コース実施、山東大学斉魯ソフトウ
ェア学院を設置するなどの手厚い対応を講じている。またサービスにも力を入れておりマ
イクロソフト、HP が設置したパーク内プラットフォームを入居企業が活用し、開発実験を
行うことができる。海外との窓口として国際合作連盟を設置。日系企業からのアウトソー
シングにも期待しており今月日本オフィスを開設、2007 年までに「5555」計画として1)
日本向け受託開発エンジニアを 5000 名育成、2)日本向け受託会社が 50 社以上に達する、
3)500 人規模の受託会社が 5 社以上に達す、4)有名な日本企業 5 社以上誘致する、と
いう目標を掲げている。
<浙江省杭州市・杭州高新軟件園>
杭州は上海から飛行機で 30 分、電車で 3 時間に位置し、郷鎮企業の多い 600 万人の地方
都市である(郷鎮企業:県・市の産業として県・市が中心となった企業のこと。ニッチな
分野の作業が多く、成功すると町全体が潤い、住民は新居を続々と建設、町全体が豊かに
なる)。2004 年 3 月からは日本と直行便が結ばれる。日系組み立て工場(プリンタ、PC 周
辺機器)が多い。携帯電話に比べて安価で北京等の大都市でも多く利用されている小霊通
(中国版 PHS)は、UT Starcom がこの地で開発・拡大したものである。世界銀行の投資
環境で最もよい年として上海と同じレベルの A1 を獲得、国連の住居指数トップで全国でも
安全な都市として評判が高い。2003 年 GDP は 2,092 億元(約 3 兆円)。
杭州市では 1990 年 3 月、浙江省唯一の国家級開発区として杭州ハイテク技術産業開発区
を建設、濱江区全体をハイテクパークとして開発し、その 1 部をソフトウェアパークとし
ている。市(国営企業)が運営している本ソフトウェアパーク以外に、企業が運営してい
るソフトウェアパークも 3−4 つある。浙江省には大学が 30、30 の国家級企業があり、住
居環境もよい。25 万人の大学在校生、2 万人の修士課程、毎年 5.4 万人が大学卒業する。
杭州市従来工業基盤が比較的安定しているため、既存の電子工業向け開発が多いと同時に
4
近年は海外の大手企業の進出しており、内外企業の提携もよく見られるが特徴だ。
市内から杭州ハイテク技術産業開発区までは車で 15 分。現在進出企業は 3,200 社、うち
外資系企業が 400 社程度を占める。売上高が 10 億元以上(約 140 億円)は 10 社、1 億元
以上(約 14 億円)は 65 社ある。総投資額は 18.5 億ドル。うち、2003 年ハイテク産業総
売上高は 478 億元(約 6,700 億円)。外資系企業はアメリカ 128 社、日本 41 社、イギリス
29 社、シンガポール 18 社、台湾 22 社、香港 83 社で、43%がアジア圏、32%が米国の割
合。通信設備型企業は 100 社ほど、UT Starcom、東方通信、アルカテル、華為(ホアウェ
イ)を中心に、2003 年売上高は 294 億元(約 4,200 億円)。ソフトウェア企業は 720 社、
IC デザイン会社は 24 社。2003 年収入は 71 億元(約 98 億円)で全体の 15%。ノキア3G
センタ、モートローラ、NEC 研究センタ、サムソン研究センタ、TATA コンサルタントな
日本企業は、三菱、松下、NEC、富士電機などが進出。
特徴的なのは、地元企業を中心に 100 社以上の中小企業が集まり杭州市のブランドとし
て「天堂軟件ブランド」を立ち上げ、杭州市の PR に勤めている。
<上海浦東軟件園>
1991 年機電部(現情報産業部)副部長と上海副市長が合意、1998 年から工事が開始され
た。入居企業は 2003 年の時点で 375 社、総収入は 100 億元(約 1,400 億円)、輸出額 9,200
万米ドル、人員は 15,000 人。国営企業が完全にビジネスとして運営しており、入居企業に
様々なサービスを提供している。入居企業大手は、マイクロソフト、IBM、SONY、HP、
Intel、京セラ、Sun、UT starcom、SAP、インド TATA 等、中国経済の中心地で企業ニー
ズの高い上海に拠点を置く。アウトソーシングは米国、西ヨーロッパ、日本が多い。それ
ぞれの特長は、米国は額が大きく、企業の数は日系企業が多いこと。米国は実際の業務は
インドでやらせている場合も多い。実際のソフトウェアパークは、その中だけで十分生活
していける環境が整っており非常に活性化している印象を受けた。
上海の特徴としては、優秀な人材が豊富なこと(特に中高級管理者が充実、100 人ぐらい
確保)、大学卒業生の人気が高いこと、生活環境がよいため外資系企業の高級管理者も上海
には喜んで出張するといったメリットが挙げられる。一方で人材流動率・人件費・土地と
もに高い。企業にとしては転職率をいかに低めるかが課題となる。
(調査研究部
5
浅井知子)