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<瀬戸内海がキレイになってノリの水揚げが激減?でもワカメがある>
5.水至清即無魚、人至察則無徒
(水清くして魚棲まず人清くして徒もなし-孔子家語)
森と海の自然科 児玉 利恒(シ12)
難しい地球の海の成立の話から向井先生のウミガメ、ウナギと進んできた海の楽しさと不思議シリーズ5話は海で取
れる食べ物の不思議に進もうと思います。いつも雑談で恐縮ですが。
最近人気の出ている観光地クロアチア、アドリア海沿岸は紺碧の青い海が目の前に広がります。マルタの鷹で揺れた
英軍スパイ作戦の根拠地マルタ島、スペイン南部ショパン「雨だれのプレリュード」で有名なマヨルカ島、それぞれの
海辺はどこにいっても冬は暖かく紺碧の海が広がる地中海気候の本当に綺麗な場所です。ドイツ駐在中に冬休みに訪れ
ていましたが、この紺碧の海の色に憧れて訪れる日本の方々も近年多いと聞いています。皆さんどうでしょうか?
ところが海辺に立って岩場を覗いてみたりすると日本の夏の海とひとつ違うところが分かります。海の中を覗いてみ
てください。何も生き物がいません。プランクトン濃度などチェックしたわけではないのですが、あの紺碧の海は死ん
でいるんです、休んでいるのかもしれませんが。
<水清くして魚棲まず人清くして徒もなし、水清くして大魚なし>を正しく地で行く光景です。英語では“A clear
water is avoided by fish”(きれいな水は魚が避ける)という分かりやすい表現になっています。
クロアチアのドブロブニク沖合はアドリア海、クロマグロ漁業はクロマグロ漁業の盛んなところです。実は地中海全
体がそうです。マルタ島はその昔日本のクロマグロ漁業基地があり、日本人が沢山いました。今は日本の技術援助(?)
でマグロ養殖が盛んに行われています。この養殖マグロはほとんどが日本への輸出です。今後は大半が中国向けになる
のでしょうが。
1980 年代に入ってギリシアの地中海沿岸の海が益々汚れた海になりました。人口が増え、文明進化のスピードが早ま
りインフラがついて行けなかったギリシアでは下水排水管口を沖合まで施設し、生活排水を海に放出していました。船
で持って行って捨てていた大阪湾、東京湾と同じでした。当時は沖合は汚物の海と連日新聞紙上を賑わしていました。
でもマグロはたくさん取れていたんです。ところが沿岸の下水処理場が完備し水がきれいになった現在、マグロは養殖
でしか捕れなくなりました。稚魚仔魚の取りすぎ、保護のための漁業枠の設定(小さい時に取らないと損をする)等の
要因があるようですがいずれにしても<水至清即無魚>です。
もう一つ身近な話題を~。
ほとんどサラダ等の生野菜を食べない筆者は、
主にビタミン C を海藻、
特にアサクサノリから取っています(?)
。アサクサノリは雌雄同体紅藻海藻ですが夏はカキ等の貝
殻に穴を開けて潜り込み避暑生活、冬になって出てきて成長するそうです。あのなよなよでかなり
獰猛?です。でも野生種のアサクサノリは日本全体で 8 ケ所にしかないとの調査結果(千葉県立中
央博物館菊地則雄氏 2001 調査)
が出ています。
環境庁絶滅危惧1類に分類されます。
可愛そうです。
東京湾大森海岸近辺で取れるアサクサノリはブランド物で品川海苔とも呼ばれていました。沿岸
の埋め立て、
作りすぎの病害等ですたれました。
しかし環境変化に強い養殖品種の開発により復活、
この改良品種ノリの一つ奈良輪荒海苔(ナラワスサビノリ)は強力、日本全国にノリ養殖業を広げ
ました。
アサクサノリ
菊地則雄氏画像
瀬戸内海でも江戸時代に養殖漁業がスタートしていますが、現在では流入河川源流域での環境の変化(ダムなど)に
よって廃れたところや、流れ筏漁法等の技術革新等によって逆に増産に成功したところなど悲喜こもごもです。兵庫県
は日本一の佐賀県についで生産量第2位をキープ、数々の新技術も開発しているようです。
ところが異変が起きています。環境変化や生活排水の浄化が進んで排水が綺麗になった結果、極端に栄養塩濃度(溶
存態無機窒素)が減少、色落ちなどで使い物にならないノリが発生、対策が急がれています。もちろん「豊かな海」
(美
しい海、多様性のある海、賑わいのある海)を目指しながらですが、特に大阪湾から流れてくる富
栄養巨大栄養塩の供給が止まっています。有害物質以外にも過剰な清純さを追求し続ける下水処理
場の現状では、貧栄養化対策は難しそうです。
(瀬戸内海水産フォーラム 2011“きれいな海は豊か
な海か”兵庫県立農業水産センター原田和弘氏)
あ~あ!<水至清即無海藻>です。
でも皆さん、すごいですね!すぐ淡路島に行ってください。目の前の海で和布(ワカメ)がどん
どん取れ始めています。実はワカメはノリの貧栄養度限界を少し下回っても育成可能、しぶといん
ですね。技術も兵庫県では確立したようです。田舎の越前海岸の寒い日本海で取れる東尋坊名産波
屋の“もみわかめ”を取り寄せなくても良くなりました。しかも安い、ちょっと残念ですが。
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淡路島東浦の
ワカメ(筆者撮影)