俳優の三宅裕司さん 病を経て見える「使命」 活動休止 - a

595.俳優の三宅裕司さん 病を経て見える「使命」 活動休止、リハビリ生活からの復帰
産経ニュース2012.10.27.
「作り込んだ笑いを届けるテレビのコント番組もいま、計画中です」と話す三宅裕司さん
(小野淳一撮影)
舞台の座長、テレビ番組の司会、ラジオのパーソナリティー…。八面六臂(はちめんろっぴ)の活
躍をみせる俳優、三宅裕司さん(61)は昨夏、活動を一時休止し、突然お茶の間から姿を消しまし
た。腰の手術と苦しいリハビリ生活を経て、復帰後は 自らが果たすべき「使命」が明確に見えてきた
と言います。 (黒沢綾子)
絶頂から地獄へ
忘れもしない、昨年6月21日。大好きな外国人アーティストのライブがあると聞き、ジャズクラブ
「ブルーノート東京」(東京都港区)へと急いでいた。到着し足を踏み入れると、様子がおかしい。く
だんのアーティストの姿はなく、フリーアナウンサーの徳光和夫さん(71)や歌手の小林幸子さん
(58)ら公私に付き合いのある約300人が勢ぞろいしていた。
「還暦おめでとう!」。そう、仲間が企画してくれたサプライズパーティーだったのだ。「もう幸せの
絶頂。なんていい人生だ、と。その1カ月後、僕は地獄に落ちたんですよ」
長い芸能生活だが、大きな病気やけがで仕事に穴を空けたことはなかった。腰痛持ちでもない。
「本当に突然のことで。痛みがだんだんひどくなり、足もしびれてきて、最後は歩けなくなった。すぐ
病院に行けばよかったんだけど、一晩我慢しちゃった」
被災地から勇気
腰椎(ようつい)椎間板(ついかんばん)ヘルニアの緊急手術を受けたのは、その7月末。通常は
1週間ほどで退院できるというが、我慢が事態を悪化させたらしい。「術後、下半身が麻痺(まひ)状
態になるので、リハビリで神経が足先まで復活するのを待つしかない」と医師から事前説明を受け
た。「実際、手術を終えたとき、足の感覚はほとんどなかった」と振り返る。
翌日からリハビリ開始。通常メニューに加え、自主トレも追加した。必死だった。主宰する劇団スー
パー・エキセントリック・シアター(SET)の公演をやむなくキャンセルし、芸能活動もすべて休止に。
周囲に迷惑をかけたからこそ、完治して早く舞台に復帰したかった。「でも、来年の公演の打ち合わ
せをしようよと所属事務所に言うと、なぜかはぐらかされ、話がかみ合わなくて」
本人には退院まで内密にされていたが、事務所は担当医から「舞台復帰は無理かもしれない」と
告げられていたという。後遺症があるかもしれない、と。
入院生活も長くなると、自身も「回復するだろうか」と不安が募ってくる。「夕方、外が暗くなるのが
怖くて、なるべく早くカーテンを閉めちゃう。消灯後、あまりにも不安でハーハーと呼吸困難になるこ
ともあった。こんなの初めて。俺って弱いなあと思った。それでも女房は『あなたは絶対治る』と信じ
て疑わなかった。これには救われた」
他にも勇気づけられることがあった。病室のテレビでよく見ていたのは、東日本大震災に関する
ニュースだった。「すべてをなくし、明日からどうやって生きていくんだという状況でも、笑顔でがん
ばろうと奮闘する人たちがいた。俺なんかこんなことでへこたれたらいけない、がんばんなきゃ、と
思った」
その後は医師も驚く回復ぶり。「足が動くようになると、俺はなぜ生かされているのかと思うように
なった」と振り返る。還暦まで突っ走ってきて、病が「考える時間」をくれた。
その答えはずばり、「手間のかかる笑い」だ。今、テレビのバラエティー番組を席巻するのは瞬間
芸であり、その場でぼけてつっこむ軽妙なトーク。それは時代が求める必然なのだ、と思う。しか
し、笑いのかたちはそれだけではない。
例えば「ミュージカル・アクション・コメディー」を長年掲げてきたSETの舞台は、テーマを決めて台
本を用意し、入念にリハーサルで作り込んでゆく「手間のかかる笑い」だ。「自分の使命は、こうした
笑いを次世代に継承すること」と心を決めた。また、東北の人々の姿に影響され、改めて「日本人
のすごさ」「日本文化の良さ」を思い出すような舞台を作りたい、と意欲がわいてきた。
笑いに妥協なし
今年の元日放送のラジオ番組で仕事を再開。6月には「熱海五郎一座 落語日本花吹雪」で念願
の舞台復帰も果たし、キレのある立ち回りで復活をアピールした。「初日のカーテンコールでナベ
(出演者の渡辺正行さん)が泣いて。それでもらい泣きしちゃった」
来月にはSETの2年ぶり、そして記念すべき50回目の本公演が始まる。演目は「上海ローズ」。
日本人や日本文化への熱いメッセージを込めたという。「笑いにも妥協なし。もっとギャグを入れて
やる!」
--「上海ローズ」は音楽業界を舞台に、必ずヒット曲を生む奇跡の「上海ローズのレコード」をめ
ぐるお話だそうですね
「戦争末期、連合国側の戦意喪失を目的とした宣伝放送(いわゆる「東京ローズ」)があった。米兵
の戦意を失わせるくらいすごい音楽だ、と争奪戦になるわけです」
--現代の音楽業界や大衆音楽に対する、三宅さんなりの危機感も感じられます
「音楽に限らず、日本には古くから続くすごい文化がある。それを踏まえれば、もっと世界に誇れ
る良いものを生み出せるはず。〈日本の文化はどこに行っちゃったんだ?〉というのがテーマです」
--ところで入院中、推理小説をよく読んでいたそうですね
「犯人を追って作品世界に没頭できるので、回復への不安を紛らわすことができた。高野和明さん
の『ジェノサイド』や『13階段』などは夢中で読みましたね」
〈みやけ・ゆうじ〉昭和26年、東京・神田神保町生まれ。明大卒。54年に劇団「スーパー・エキセ
ントリック・シアター(SET)」を旗揚げし座長に。ま た「熱海五郎一座」を結成し“東京の笑い”に重
点を置いた舞台を、「三宅裕司&Light Joke Jazz Orchestra」を主宰しビッグバンドの音楽とコ
ントを融合したライブを行っている。「上海ローズ」((電)03・3420・2897)が東京・東池袋のサン
シャイン劇場で11月1~18 日、新潟県民会館大ホール(新潟市)で11月22日に上演される。
ヨシダコメント:
本コラム直前 No.594:ハワイには「不思議なバナナ」の伝承が…の続編にもなる有名人の「病の
折の人生哲学」と受け止めます。ちょっと、声高でひょうひょうとした個性の三宅裕司さんにエール
を送ります。「日本の文化はどこへ行っちゃったんだ?」に期待します。
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