戻し堆肥を用いた牛用ベッドの作成による疾病予防

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その1
戻し堆肥を用いた牛用ベッドの作成による疾病予防
独立行政法人家畜改良センター 業務管理課 技術専門職員 高久 幸夫
1.はじめに
独立行政法人家畜改良センター(以下、家畜改良センターという)は「中央省庁等改革に係る大
綱」に沿って、平成13年4月にそれまでの農林水産省の機関から独立行政法人となりました。
これまで、BSE(牛海綿状脳症)の発生を契機とし、全国で飼養される牛の個体識別データを管
理する個体識別部の設置等行政ニーズへの対応を図るとともに、平成14年には、牛の繁殖関係
に係る凍結胚の直接移植技術の開発により畜産大賞(研究開発部門の最優秀賞)を受賞しまし
た。
最近のトピックスとしては、平成17年1月11日に、体外受精技術による純粋種豚(中ヨークシャー
種)の生産に成功しました。豚の体外受精卵により純粋種豚を生産した事例は今まで報告例がな
く、世界で初めてのことです。
また、近年の畜産環境問題に対応し、(財)畜産環境整備機構からの委託を受けて、「シート等を
利用した簡易ふん尿処理施設」の実証展示も行っております。
このように、家畜改良センターでは、これまで以上に生産者及び消費者の皆様とより近い距離
で、美味しく、安全・安心な畜産物を生産するため、各種の事業を行っております。
写真1 シートを利用した簡易ふん尿処理施設
※ 設置費用は、使用するシートの素材にもよるが、1,800円/m2~5,000円/m2程度
2.取り組みの経緯
家畜改良センター本所(以下センター本所という)では、育成牛を南面開放型の牛舎(フリーバー
ン)で飼養管理していますが、
・ 床面がコンクリートのため、冬期の牛床温度が低温となることに起因する下痢症の発生
・ 劣化牧草の敷料利用による、牛体の汚れ及びふん尿で汚れた敷料の大量発生
・ 夏期の飼槽からこぼれた残飼の腐敗等及び機械によるふん出作業時に残る隅等のふんから
の害虫の発生
・ ふん出作業の効率化等が飼養管理上の問題点として職場内であげられていました。
これらの解消及び処理済堆肥の有効活用のため、戻し堆肥を利用したベッドを作成しました。
これまで、家畜排せつ物法の完全施行を踏まえ、如何にして家畜排せつ物を適正処理するかに
目が向けられていましたが、平成16年11月に同法が完全施行され、今後は適正処理された堆肥
の有効利用が重要となることから、センター本所での取り組みを紹介します。
3.戻し堆肥利用ベッドの作成
(1)戻し堆肥利用ベッドの作成
センター本所の育成牛舎では、2~12ヶ月齢の育成牛を約50~60頭飼養しています。これらを2
ヶ月齢ごとに区分し、月齢によって6つのペンに分けて飼養しており、1つのペンで7~8頭(最大で
10頭程度飼養可能)飼養しています。
作成に当たっては図1のとおり、2~4ヶ月齢の2つのペンについては、育成牛がパドックへ移動す
る際、35cm程度の段差があることから、事故防止のため牛用通路を設置しました。
ベッドの厚さは、図2のとおり育成牛の牛舎カーテンへのイタズラ防止とパドック側のゲートの開
閉に支障がないようにこの厚さとしました。
牛舎構造の制約からベッドの厚さはこのようなものとなりましたが、パドック併設でなければ60~
70cm程度確保でき、さらに適度な醗酵による醗酵熱が得られ、牛床の保温効果が得られるものと
思われます。
また、牛舎構造の制約がなければ、ベッドの前後の角度をさらにつけることにより、牛の休息時
およびふん尿の排せつ時の方向が一定となり、ふん出作業の効率化につながるものと考えられま
す。
なお、ベッド厚みが十分に取れない場合は、戻し堆肥投入時に適度な硬さを確保することが望ま
れます(写真2では、ランマーによりてん圧作業を行っています。)。
図1 平面図
図2 断面図
写真2 ベッド作成作業
(2)製作経費
経費積算については、自家労力により設置したため、アングル木材等の資材費のみで、概ね以
下のとおりでした。
・ 設置面積
1ペン(48.2m2 )×6=289.3m2
・ 設置経費
H鋼材、アングル、木材等資材 計28万円程度
単価 約971円/m2
・ 所要労力
10人×2日間 延べ20人程度
・ 戻し堆肥の使用量
1ペン(8m3 )×6ペン=48m3
(3)設置効果
今回の設置目的は、牛舎床面の低温化に伴う育成牛の下痢症等の防止であったことから、短
期間ですが温度測定を行い、外気温、コンクリート床面、ベッド内部の冬期間の温度変化につい
て示しました(図3)。
外気温は、9時、13時、17時に測定、コンクリート床面とベット温度については1時間おきに測定し
ました。
外気温とコンクリート床面温度については同じように変化していますが、ベット内部の温度につい
ては外気温やコンクリート床面より温かく推移しています。場所によっては10℃程度で推移してい
る箇所もありました。
ベッド設置後は、冬期間における育成牛の下痢症の発生が減少傾向となりました。
図3 温度の変化比較について
4.ベッドの管理等
戻し堆肥を利用したベッドの設置により、育成牛の下痢症の発生の低下のほか、表1のとおり牛
舎のふん出作業の効率化も図られました。
普段のベッドの管理は、ふんを取り除くだけであり、ふん出作業は当該牛舎の場合小型スキット
ローダーにより3回往復すれば終わるようになりました。
写真3 ベッドでの育成牛の休息
表1 作業の効率化
5.終わりに
堆肥化処理作業において、一時的に大量の汚れた敷料が処理施設に持ち込まれると、その後
の処理作業が困難となるが、毎日ふん出作業を行うと
・ 1回のふん出作業が効率的となり、作業労力(牛舎内での作業及び堆肥化処理作業)も大幅に
軽減される。
・ また、牛舎内が常に清潔な状態となり、疾病等の発生予防につながるとともに、牛舎内での体
測等の他の作業も行いやすくなる。
・ 敷料としての牧草の使用量を大幅に削減することができ、堆肥化処理原料のC/N比のバラン
スが大きく改善され、堆肥化処理施設での作業も大幅に改善される。
これらの効果により、堆肥化処理経費、治療費の減少につながることはもとより、見学者及び外
部研修生に対し、牛体をきれいな状態で展示することができます。
平成16年11月の家畜排せつ物法の完全施行以降、適正処理された堆肥の有効活用が課題の
一つとしてあげられますが、耕種農家との連携のほか、畜産農家自らの新たな活用法も有効策と
してあげられます。
一部の地域においては、戻し堆肥をベッド材料として使用した醗酵床畜舎が牛、豚ともに既に利
用されていますが、本方式の留意事項として、通常の飼養管理形態よりも1頭あたりの床面積を
要すること、醗酵床の定期的攪拌等適切な管理が必要となります。
家畜改良センターにおいては家畜の改良等の業務の他、このような飼養管理改善手法の実証
展示についても取り組んでおりますのでお問い合わせ下さい。
写真4 ふん出作業