造血幹細胞移植について

造血幹細胞移植について
【監 修】慶應義塾大学医学部血液内科 教授・診療科部長 岡本
真一郎
毅彦
慶應義塾大学病院 看護師長 近藤 咲子
慶應義塾大学病院 看護師長 八島 朋子
慶應義塾大学病院 9S病棟血液内科看護師チーム
慶應義塾大学医学部血液内科 講師 森
造血幹細胞移植について
INDEX
1. はじめに・
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・ P.3
2. 造血幹細胞および造血幹細胞移植とは・
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3. 造血幹細胞移植の流れ・
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4. 移植前検査について・
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・ P.7
5. 移植病室について・
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・P.9
6. 移植前処置について・
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・ P.10
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目的
副作用
7. 造血幹細胞移植に伴う合併症について・
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・P.12
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感染症
移植片対宿主病
(GVHD)
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不妊について
その他の合併症
(主に臓器のダメージ)
8.リハビリテーションについて・
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機能訓練
日常生活の自立
9.サポート体制について・
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・P.22
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造血幹細胞移植を受ける方へ
ご家族・ご友人の方へ
10. 医療費について・
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・P.24
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高額療養費制度について
高額療養費貸付制度について
骨髄バンクドナー検索の費用について
11. 移植後の生活における注意点について・
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・P.26
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免疫抑制剤について
予防接種について
食事について
通勤や外出について
スポーツや運動について
喫煙について
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娯楽、旅行について
植物の取り扱いについて
ペットについて
化粧と美容について
性生活について
12. 退院後の外来受診について・
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・P.34
定期受診について
予約外受診について
〈多く寄せられるQ&A〉
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13.おわりに・
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・P.39
1. はじめに
造血幹細胞移植は、病気の治癒が期待できる有力な治療
方法ではありますが、さまざまな危険性を伴う治療でもあり
ます。
この冊子には、一般的な移植の経過および起こりうる副作
用や合併症について、さらにそれらを予防あるいは早期発見
するために、ご自身で守っていただきたいことなどについて
わかりやすくまとめました。
治療はチーム医療で行われます。 血液内科医師・看護師
だけでなく、リハビリテーション科医師、理学療法士、精神
科 医 師 、歯 科 医 師・衛 生 士 、薬 剤 師 、栄 養 士 などの 医 療
スタッフがチームとなって、あなたとご家族をサポートして
くれます。そして、あなたもそのチームの一員です。治療
の効果を最大限にするためには、この冊子をお読みになり、
造 血 幹 細 胞 移 植 につ い て
ご理解いただいた上で、
主体的に行動していた
だくことが大切です。
この冊子が、皆さん
の積極的な闘病の
一助となれば幸いです。
3
2. 造血幹細胞および造血幹細胞移植とは
造血幹細胞は骨髄の中で白血球、赤血球、血小板といった
血液細胞を作っている「血液の種」のような細胞です。この
造血幹細胞は通常、骨髄の中にしかいないため、この細胞を
移植するためには骨髄採取を行う必要があります。骨髄採取
は全身麻酔を行いながら、両側の腸骨(骨盤の骨)に100回
以上特殊な針を刺して行います。
その他に、特殊な薬剤をドナーに投与することによって、
末梢血に流出した造血幹細胞を使う末梢血幹細胞移植や、
赤ちゃんのへその緒の中の血液「臍帯血」を使う臍帯血移植
も行われています。
造血幹細胞移植とは、あなたの骨髄を破壊した後にあなた
の身体の中に造血幹細胞を移植することです。移植する目的
はあなたの病気を治すことですから、大量の抗がん剤投与や
全身放射線照射(これらを前処置といいます)を行い、異常
細胞を破壊しておく必要があります。また、あなたの身体の
4
2. 造血幹細胞および造血幹細胞移植とは
中の免疫は他人の細胞を拒絶する力を持っていますので、前
処置はその力を破壊し拒絶を予防する効果もあります。
造血幹細胞移植では、このような強力な治療による副作用、
ドナー細胞の働きが始まるまでの期間の感染症などの合併
症、ドナー細胞の回復後に起こる免疫反応(移植片対宿主病:
graft-versus-host disease:GVHD)のコントロールといっ
た、多くの問題を克服しなくてはなりません。これらの合併
症は生命に関わることもあります。また、移植が成功しても
各種合併症により体調不良が長期間続いたり、病気が再発す
ることもあり、長期間の通院が必要となります。
5
3. 造血幹細胞移植の流れ
2∼3ヵ月前 移植決定
必要物品の準備など
3∼5週間前 入院・諸検査
感染予防行動
リハビリ開始
1∼2週間前 移植病室入室
1週間前
移植日
前処置(大量抗がん剤投与・全身放射線照射など)
移植
嘔気・嘔吐・倦怠感・下痢・発熱
感染症(敗血症・肺炎など)
臓器障害・出血 など
前処置副作用
および合併症
2∼4週間目 ドナーの血液細胞回復(「生着」といいます)
白血球が増えても
免疫系は完全には回復
していないので感染症に
かかりやすい
生着までに
要する日数には
個人差がある
注意すべき合併症 GVHD・ウイルス感染症など
2∼3ヵ月後 退院(個人差あり)
退院後
定期的に通院
仕事、家事は
始められたものの、
体はまだきついことも・
・
・
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4. 移植前検査について
造血幹細胞移植は、感染症や臓器障害を合併する可能性
が高い治療です。それらが重症化すると生命に関わる危険な
状態となります。そのリスクをできる限り回避するために、
あらかじめ全身を検査し、感染症(虫歯など)が潜んでいな
いか、各種臓器(心臓・肺・肝臓など)の機能に問題はない
かを把握しておく必要があります。そのために行う各種検査
を「移植前検査」といいます。もし、感染の原因となるものが
見つかった場合には、適切に処置(虫歯の治療など)をします。
また、臓器機能に何らかの問題があった場合には、それに合
わせて治療が計画され、その後も慎重に治療が継続されます。
さらに造血幹細胞移植では、限られた場所での生活に加え
体調が悪い時に身体的活動量が減少し、体力や筋力が著しく
減退します。そこで、体力および筋力の維持・向上のために、
早い時期からリハビリテーション(運動療法)を行う必要が
あります。
7
移植前検査のチェック項目
1
2
3
4
5
6
口腔外科
虫歯や歯周炎(歯槽膿漏)など
耳鼻科
耳・鼻・咽頭(のど)のチェック
腸外科
肛門の病気(痔核など)
婦人科(女性のみ)
リハビリテーション科
筋力測定、リハビリテーション指導、トレーニングなど
精神科
医師面談、心理テストなど
諸検査
7
血液、骨髄、検尿、検便、心エコー、肺機能、レントゲン、
アイソトープ検査、CTやMRI( 頭・胸・腹部)、腹部エコー、
胃カメラ、細菌培養(咽頭・便・尿・鼻腔)など
8
5. 移植病室について
造血幹細胞移植病室では空気を清浄に保つために、一般
的に超高性能フィルター(HEPAフィルター)で空気を加圧
濾 過する方 法や、空 気 中 の 微 生 物を室 外に押し出す層 流
システムなどを用いています。 移植病室がどのような設備
なのか、また移植病室での生活についてなど、詳しい説明は
医師・看護師にご質問ください。
9
6. 移植前処置について
1
目的
移 植 約 7 ∼ 1 0日前から、骨 髄 中 の 異 常 な 細 胞を根 絶し、
免疫組織を破壊するために、大量抗がん剤投与や全身放射線
照射を施行します。
現在、あなたの体内で働いている免疫力は他人の細胞を拒絶
する働きがあるため、ドナー の造血幹細胞があなたの体内で
働けるようになるために、あなたの免疫力を破壊しておく必要
があります。
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6. 移植前処置について
2
副作用
前処置の一般的な副作用は、嘔気・嘔吐、口腔および消化管
粘膜の障害による口内炎や下痢です。この傷んだ粘膜から細菌
が体内(血液中)に入り、高熱を出す感染症(敗血症といいます)
になることもあります。粘膜の腫れや出血、さらに、痛みのた
め唾液を飲み込むことや、会話すら困難になることがあります。
腸 粘 膜 が 障 害 されると、下 痢 や 腹 痛を伴うことが あります。
これらの症状は必ず起こるとは限りませんが、多くの方が経験
します。その場合、薬剤(麻薬などの鎮痛剤)の投与により症状
をある程度緩和させることができます。また、下痢や嘔吐など
による体調不良から、立ち上がった時やトイレの後に血の気が
引いてしまい、転倒することがあります。この時期は、血小板が
減少しているため、けがには十分に注意が必要です。
さらに、これらの症状以外にも、使用する薬剤によっては副作
用があります。使用する薬剤は、患者さんの病状により異なる
ため、詳細については医師および 薬剤師より具体的な説明が
なされます。
11
7. 造血幹細胞移植に伴う合併症について
1
感染症
造血幹細胞移植で最も問題になるのが感染症です。重篤に
なると生命に関わることもあります。通常、人間の皮膚・粘膜に
は、細菌やカビ(真菌)などの微生物が存在しています。皮膚や
粘膜は、これらの微生物が体内へ侵入することを阻止しています。
しかし、前 処 置によりあなたの 皮 膚や粘 膜が傷 むと、微 生 物
は容易に身体の中へ侵入することが可能となります。さらに、
あなたの白血球が少なくなり、免疫力も低下するため、通常は
問題とならない口や腸の中の常在菌までもが感染症の原因と
なります。
また退院後も、移植後約1年間、あるいは免疫抑制剤やステ
ロイド 剤を内 服している期 間は、白 血 球が正 常 値になっても
微生物に対する抵抗力が完全に回復していません。そのため、
手 洗 い ・うが い ・ 入 浴 ・シャワー 浴 などの 感 染 予 防 行 動 が
あなたの身体を守るためにとても重要になります。
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7. 造血幹細胞移植に伴う合併症について
起床時・食事前後・就寝前・外出後には手洗い・うがいをしっ
かり行ってください。また、歯みがきは虫歯の予防だけでなく、
口腔内の清潔を保つ効果がありますので、ていねいな歯みがき
を行ってください。 ただし、力を入れすぎて歯肉などを傷つけ
ないように注意しましょう。また、通常の生活では必要ありませ
んが、人の多い場所や、工事現場の近くなど空気の汚い場所に
行く時には、清潔なマスクを着用しましょう。
移植後、比較的よくかかる感染症を以下にご紹介します。退院
後もこのような症状を認めた場合は医師に連絡しましょう。また、
これらの感染症は他の患者さんにうつることがあるので、外来
受診時は診察室に入る前に看護師などに声をかけてください。
帯状疱疹(ヘルペス)
移植後2∼12ヵ月頃に多くみられますが、それ以降にも起
こります。皮膚に神経痛のような痛みがあり、皮膚の赤み
(発疹)がでます。発疹は水疱(水ぶくれ)を伴い、神経に
沿って帯状に広がっていくことが特徴です。放置すると全
身に広がることもあり、このような場合は大変に危険です。
痛みや水疱がみられたらすぐに外来受診しましょう。なお、
帯状疱疹は、抵抗力が低下した他の患者さんに感染するこ
とがありますので、外来受診時は早めに医師・看護師など
に声をかけてください。
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上気道炎
症状:発熱、咳、痰
咳が出る場合は、他の人にうつさないためにも必ずマスクを
しましょう。
アデノウイルス性膀胱炎
症 状:排 尿 時 痛や頻 尿 、残 尿 感 などの 症 状にはじまり、
見た目にも赤い尿(血尿)になります。
発熱を伴うこともあります。
流行性ウイルス感染症
あなたの周りで流行性感染症(例:水ぼうそう・はしか・風疹・
おたふくかぜなど)が流行している時は外出を控えましょう。
移植後は免疫能が低下しているため、これらの感染症に小さ
い頃にかかっていても、再び発症することがあります。特に
小さなお子さんのいる家庭では、お子さんがご自宅で発症す
ることがあるため注意が必要です。これらの感染症も、手洗
い・うがいなどが予防に役立ちますので、
しっかり行いましょう。
また、身近な人が罹患してしまった時は感染を予防するため、
その方にマスクをしていただき、医師に相談しましょう。
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7. 造血幹細胞移植に伴う合併症について
インフルエンザ
インフルエンザの季節前に、ご家族の方は予防接種を受け
てください。もし身近な方がインフルエンザを発症した時は、
その方にマスクをつけていただき、医師に相談しましょう
(必要に応じてインフルエンザ予防薬の内服を検討します)
。
かび(アスペルギルス)の感染症
道路工事・建築現場やその周囲など空気の汚い場所では
アスペルギルス(カビの一種)に感染する危険性があるため、
なるべく近づかないようにしましょう。また、家のリフォーム
や改装なども同様の危険性があるので注意が必要です。
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2
移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)
GVHDとは移植細胞の中にあるドナーのリンパ球があなたの
身体を外敵(専門用語では「 非自己 ;自分ではないもの」
という
意味)として認識してしまい攻撃する反応です。本来、このリンパ
球は私たちの身体の中でウイルスなどの外敵
を攻撃し、自分の身体を守る働きをもっている
ため、あなたの身体を「外敵」として認識して
しまうと、このような反応が起きることになり
ます。
GVHDには、移植後3ヵ月以内に発症する
急性GVHDとそれ以降に発症する慢性GVHD
があります。ただし、3ヵ月というのはおおよそ
の目安であり、厳密な基準ではありません。
急性GVHDは、重症化すると生命を脅かす可能性のある合併
症です。慢性GVHDは、生活の質を低下させる可能性のある
合併症ですが、場合によっては生命に関わることがあります。
急性GVHD(移植後おおよそ3ヵ月以内)
皮膚
皮疹・かゆみ・発赤・水ぶくれ・皮むけ
肝臓
肝機能障害・黄疸
消化管
腹痛・下痢・下血・嘔気・嘔吐・胃痛
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7. 造血幹細胞移植に伴う合併症について
慢性GVHD(移植後おおよそ3ヵ月以降)
GVHDの特徴と症状
生活上の注意点と対応策
1 赤い皮疹が出現し、痒みを
1 皮疹がないか毎日観察する。
皮膚
伴うことが多い。
2 日焼けはGVHDの誘発、悪
2 皮膚の潤いが消失し、硬く
なることもある。
3 色素沈着や色素脱落がみら
化の原因となるため、直射日
光をなるべく避ける。
3 皮疹出現時や増悪時は医師
の診察を受ける。
れることもある。
肝臓
1 初めは自覚症状はない。
2 進行するとだるさや黄疸が
みられる。
強いだるさや黄疸(白目が黄色
くなる)を認めたら医師の診察
を受ける。
1 あらゆる消化管(食道、胃、 1 腹痛の有無、便の回数、性状、
小腸、大腸)に発症する可能
性がある。
消化管
2 食道の場合、飲み込みにくさ
色調に注意する。
2 水様性下痢または下血、腹痛、
や飲み込む時に痛みを伴う。
悪 心 、嘔 吐などの 症 状を認
めたら医師の診察を受ける。
3 胃 の 場 合 は、嘔 気・嘔 吐・
3 症状があるときや回復後しば
胃痛などを伴う。
4 小腸・大腸の場合は、繰り返
す下痢、腹痛などを伴う。
らくは、消化の良い食事を摂
取する。
4 下痢の場合、坐浴やウォシュ
レット洗浄を行い、肛門を清
潔にする。
発熱
微熱から高熱(38℃以上)に
およぶことがある。
1 体温を毎日測定し、38℃以
上の発熱が数日持続する時
は、医師の指示を受ける。
2 医師の指示で解熱剤を服用
する。
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GVHDの特徴と症状
生活上の注意点と対応策
1 痛みを伴う口内炎、口の乾
1 発赤や口内炎の痛みがない
燥(唾液分泌量の減少)
、味
覚の変化がみられる。
か口の中を観察し、指示に従
い 定 期 的に歯 科または口 腔
外科外来を受診する。
2 進行すると食事ができなく
口腔
なるほど、口の痛みが強く
なることもある。
2 口 内 炎ができたら医 師 の 診
察を受ける。
3 症 状 出 現 時 は、刺 激 の な い
食事や食べやすい物を工夫し
て摂取する。
4 うがいや歯みがきなどの口腔
ケアを十分に行い、感染を予
防する。
(歯ブラシの使用が
困難な場合は、スポンジブラ
シでブラッシングする。)
1 充血、涙の分泌量低下によ
る眼球乾燥、ゴロゴロする
感じ、痛みなどがみられる。
1 定期的に眼科外来を受診する。
2 症状出現時は医師の診察を
眼
受ける。
2 進行すると視力低下を伴う。 3 医師の指示で点眼薬を使用
する。
4 目をこすらない。
5 目を酷使する行為(パソコン
など)は控え目にする。
肺
咳 、息 切 れ、息 苦しさなどが
みられる。
持続する咳、息切れ、息苦しさ
などの症状があったら医師の診
察を受ける。
このような症状を認めた場合には、すぐ医師に相談しましょう。
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7. 造血幹細胞移植に伴う合併症について
3
不妊について
大量抗がん剤投与や全身放射線照射(TBI)などの移植前処
置は、卵巣や精巣を障害し、永久不妊の原因となります。
将来、お子さんを希望される方は、前処置施行前に精子保存・
卵子保存などの対応が必要になります。しかし、これまでの治療
の影響や病状によっては採取・保存できないこともあります。
特に、卵子保存は最低数ヵ月の準備(ホルモン剤投与など)が
必要となるため、病状や移植スケジュー ルなどの理由により、
必ずしもご希望にそえないこともあります。ご希望される方は、
できるだけ早い時期に医師・看護師に相談しましょう。
4
その他の合併症(主に臓器のダメージ)
前処置や移植後の治療のために使用する薬剤によって各種
臓器(肝臓・腎臓・心臓・肺など)が障害され、生命に関わること
があります。使用する薬剤についてご不明な点は医師、薬剤師
にご質問ください。
19
8.
リハビリテーションについて
私たちは体を動かすことで身体のさまざまな機能を維持し
ています。体を動かさないでいると、それらの機能が低下し
てしまいます。このことは、退院や社会復帰を遅らせるだけ
でなく、転倒やそれに伴うけがの危険性を高めることにも
つながります。実際、転倒による骨折のために入院が長引い
たり、不自由な生活を強いられることもあります。一度低下
した機能を取り戻すのはとても大変なことです。そこで日々
リハビリテーションを行い、機能低下を予防することが重要
となります。
20
8.
リハビリテーションについて
1
機能訓練
必要に応じてリハビリテーション科医師や理学療法士の指導
を受けながら、ストレッチや歩行訓練など、その時の状態に合わ
せたリハビリテーションを行います。移植病室入室中は、移植
病室の中で継続して行います。
2
日常生活の自立
手洗い・うがい・寝衣の着替え・室内の整理整頓など、自分
のことは自分で行うようにしましょう。リハビリテーションとは、
特別な機能訓練のことだけではありません。 生活 のリズムを
整えることや普段当たり前のように行っている日常生活の行動
一つ一つがリハビリテーションになります。
体調の悪い時でも完全に横になった状態でなく、上半身を起
こしたり、座っているだけでも十分に効果があります。リハビリ
テーションは毎日の積み重ねがとても大切です。
21
9.
サポート体制について
1
造血幹細胞移植を受ける方へ
造血幹細胞移植を受けるにあたり(特に移植病室に入室して
いる間)、洗濯や買い物など、あなたの身の回りの手伝いをして
くださる方が必要となります。もし、ご家族やご友人が遠方で
ある場合など、どなたも面会に来られない場合は看護師に相談
しましょう。
また、造血幹細胞移植は長期間の闘病生活が必要となるため、
物資面のサポートだけではなく、治療を受けられる方の思いや
気持ちを共有し、支えてくれるご家族やご友人の存在がとても
重要になります。 医療者ももちろんサポートしてくれますが、
治療を受ける前からサポート体制を整えておくことが大切です。
つらい気持ちや不安な思いはひとりで抱え込まず、そばにいる
方々にお話しするようにしていきましょう。
22
9.
サポート体制について
2
ご家族・ご友人の方へ
患者さんにキーパーソンとなるご家族・ご友人が必要である
ように、ご家族・ご友人をサポートしてくださる方も必要です。
ご自身の疲れには気付きにくいもの、そして気付いても後回し
にしてしまいがちです。疲れがたまって折れてしまう前に、気分
転換をし、休息をとりましょう。それは決して悪いことではあり
ません。
治療やサポートについてわからないことや困ったことは、
「忙
しそうだから」と遠慮せずに、医師や看護師に質問・相談しま
しょう。また、不安も抱え込まないでください。ご家族やご友人
になかなか話ができない方は、医療者に声をかけてみましょう。
皆さんの笑顔が患者さんには一番の薬です。患者さん・皆さん・
スタッフが協力し、一緒に進んでいきましょう。
23
10.
医療費について
医療費総額は移植の対象となった病気や、病気の状態、
移植後の合併症の起こり方により異なります。造血幹細胞
移植は健康保険の対象となり、医療費の3割負担として計算
するとおおよそ総額で300万 ∼ 500万円程度かかります。
しかし、合併症などにより病態が重症化した場合、さらに高額
になる可能性があります。
1
高額療養費制度について
自己負担限度額(所得により異なります)を超えた金額が、
後日払い戻される制度です。ただし、保険対象外の自費負担分
(室料など)は除きます。また、一部の治療・検査の費用が健康
保険により認められず還付額が減額されたり、還付が遅れたり
することもあります。手続きは、病院などの領収書・印鑑・保険
証・預金通帳をそえて以下の所へ申請します。
*協会けんぽ(旧・政府管掌健康保険)、船員保険の方は全国健康保
険協会の都道府県支部
*国民健康保険の方は役所(区役所など)
*その他の方は健康保険証に書かれている保険者
2
高額療養費貸付制度について
高額療養費の払い戻し金が還付されるまでに3ヵ月前後かか
ります。その間の当座の支払いの援助のために、高額療養費と
して支給される90%以内を無利子で貸付ける制度が高額療養
費貸付制度です。
24
10.
医療費について
医療費について
3
骨髄バンクドナー検索の費用について
造血幹細胞移植では、患者とドナー(骨髄提供者)の H L A
(白血球の型)が一致しなければなりません。 もし、血縁者に
ドナーが見つからなかった場合には、骨髄バンクに登録して非
血縁者のドナーを探します。この場合は費用が必要となり、保
険適応にはなりません。また、臍帯血バンクへ登録する場合は
これとは異なる費用が必要となります。 具体的な費用について
は医師にご確認ください。また、非血縁者からの骨髄・臍帯血
移植では、骨髄あるいは臍帯血の運搬費用が発生し、別途請求
されます。
25
11.
移植後の生活における注意点について
移植後の日常生活は特に厳しい制限などはありませんが、
注意して生活していただきたいことが何点かあります。入院
中から退院後のご自身のライフスタイルを考え、わからない
点や不安な点は入院中に解決して、安心して退院後の生活を
送ることができるようにしていくことが大切です。
1
免疫抑制剤について
免疫抑制剤は、移植後しばらくの期間内服を続けます。免疫
抑制剤は決められた時間に、医師から指示された量を内服して
ください。
薬剤についてご不明な点は、医師または薬剤師に聞いてみま
しょう。
Q 飲み忘れてしまったら?
6時間以内の遅れであれば気付いたその時に内服し、次
からは通常どおりの時間、量を守って内服してください。
それ以上遅れた場合には、その分は内服せず、次からは
通常どおりの時間、量を内服し、次回の外来の時に医師に
報告してください。ご自身の判断で内服時間や量を変更し
ないでください。
26
11.
移植後の生活における注意点について
Q 内服した後、吐いてしまったら?
内服後30分以内に吐いてしまった場合は、もう一度同じ
量を内服してください。
Q 自己判断で内服を中止してもいい?
重症のGVHDが発症する可能性がありますので、絶対に
やめてください。
Q グレープフルーツはなぜ食べられないの?
グレ ー プ フ ル ー ツ・ザ ボ ン・ス ウィー
ティー・はっさくなどは、免疫抑制剤の
作用を強くすることが報告されています
ので、食べないようにしてください。
27
2
予防接種について
移植後1∼2年が経過し、免疫抑制剤の内服が終了している
方は、インフルエンザなどのワクチンを接種してもかまいません。
また移植によって、以前獲得していた免疫が失われるため、
麻疹(はしか)や水痘(水ぼうそう)などの小児ウイルス性疾患
に再度かかる可能性があります。 子どもの多い職場(学校や
幼稚園など)に勤務している方は、ワクチン接種が必要かどうか
外来主治医に相談してください。 同居しているご家族の中に、
同様の各種ワクチンを受ける必要のあるお子さんがいる場合も、
接種の時期について外来主治医に相談しましょう。
28
11.
移植後の生活における注意点について
3
食事について
移植後の食生活は特に厳しい制限は
ありませんが、移植後1年以内、もしくは
免疫抑制剤を内服している間は、食べ物
からの感染症に注意する必要があります。
そのため、次のことに留意しましょう。
調理は手洗いした後に、清潔な包丁、まな板、食器を使用して
行いましょう。水まわりには菌が繁殖しやすいため、台所は清
潔にし、食器を含め、よく乾燥させるように心がけてください。
乾燥させることが、菌の増殖を抑えるためには効果的です。
寿司など新鮮な生魚は食べてもかまいませんが、生肉(生ハム
も含む)、生卵、カビの生えたチーズ、生牡蠣、井戸水は控え
てください。一般的に食中毒を起こしやすい食材は避けた
ほうがよいでしょう。
脂肪は消化時間が長く、胃腸に負担がかかるので、摂りすぎ
ないようにしましょう。また、香辛料などの刺激の強いものも
控えましょう。
アルコール類は医師の許可があれば飲んでもかまいませんが、
適量を守りましょう。
29
4
通勤や外出について
免 疫 抑 制 剤やステロイド 剤を内 服している間は、なるべく
人ごみを避けるように心がけましょう。通常の交通機関(バス、
電車など)を利用することは可能ですが、ラッシュアワーを避け
ることや人の多い時はマスクを着用するなどの工夫をしましょう。
5
スポーツや運動について
ご自身の筋力や体力の回復にあわせ、翌日に疲れが残らない
程度に行いましょう。特別なスポーツにこだわらず、散歩などの
日々の運動を続け、活動範囲を拡大していくことが大切です。
運動の種類や程度などでわからないことがあれば、担当医・看
護師に相談しましょう。
6
喫煙について
移植後は放射線、さまざまな薬剤やGVHDの影響で肺が弱って
いることがあるので、喫煙は控えてください。ご家族が喫煙され
る場合、別の部屋や屋外で喫煙してもらうなど、協力してもらい
ましょう。
30
11.
移植後の生活における注意点について
7
娯楽、旅行について
退院後、最低1年間は直射日光を避け、日焼けや雪焼けを予防
する必要があります。海や野外のプール、スキーなどに行く際は、
十分な日焼け止めを使用し、日焼けをしないように心がけましょう。
また、海やプール、温泉に行く際は、必ず最後にシャワーを浴び、
きれいに洗い流すようにしてください。なお、皮膚のGVHDが
ある場合は医師に相談してください。
不特定多数の人が集まるような場所に行く場合は、マスクを
着用するようにし、帰宅後はよくうがいをしましょう。
8
植物の取り扱いについて
生花の水、鉢植えや庭の土には菌が繁殖している可能性があ
ります。生花の水は1日1回水を取り替えるようにし、土に触れる
のは好ましくありませんが、触れる場合には使い捨ての手袋を
着用するようにしましょう。植物を取り扱った後には十分に手洗い、
うがいをすることが大切です。
31
9
ペットについて
すでに飼育している犬や猫、鳥などを手放す必要はありません
が、しばらくは新たなペットを飼育することはやめましょう。
移植後は、ペットとキスをしたり、一緒に寝ること、排泄物の
処理をすることはやめましょう。排泄物の処理を行わなければ
ならない時には、使い捨ての手袋とマスクを必ず着用し、処理が
終わった後は十分な手洗い、うがいをすることが大切です。
下痢をしているペットは細菌感染を起こしている可能性がある
ため、早めに動物病院で診察してもらいましょう。爬虫類(ヘビ、
トカゲなど)には触らないようにしましょう。
10
化粧と美容について
移植後1年間はお化粧を控えめにしてください。皮膚に刺激
の少ない無添加のものであれば使用してもかまいませんが、移
植前と後では皮膚の状態が変化している可能性があるため、ご
自身の皮膚の状況を観察しながら使用しましょう。
移植後に生えてくる毛髪は、くせ毛が多くみられます。くせ毛
でお悩みの方は、くせ毛が改善するシャンプーなどもありますの
で、看護師に相談しましょう。
パーマは避けたほうが好ましいですが、おしゃれをし、生き
生きと生活されることも大切です。ご希望がある方は医師・看護
師に相談しましょう。
32
11.
移植後の生活における注意点について
11
性生活について
性生活は人が人として生きていく上で大切なことの一つです。
性生活に対する考え方は人によってさまざまですが、パートナー
とよくコミュニケーションをとり、治療後の身体の変化をお互い
が理解した上で、性生活について考えることが大切です。また、
女性にとっては子宮や膣の癒着などを防ぐためにも大切です。
いつから性生活を再開してよいかという医学的に明確な答え
はありません。パートナーとよく話し合って、再開の時期は決め
ましょう。
性交で感染症になるのではないかと不安がある方がいらっ
しゃると思いますが、コンドームを使用することや、性交の前後
はお互いにシャワーを浴びる、女性の場合は膀胱炎予防のため
に性交前は十分に水分を補給し、性交後に排尿をするなどの
工夫で感染症を予防することができます。
また、女性の場合は、膣の乾燥や狭窄による性交痛がみられる
場合があり、その時は市販の潤滑ゼリーなどを使用するとよい
でしょう。
おひとりで悩まずに、不安なことや疑問があれば医師や看護師
に相談しましょう。
33
12. 退院後の外来受診について
1
定期受診について
退院後の外来受診の大体の目安は以下のようになります。
退院後:2ヵ月目くらいまでは週1回
2∼12ヵ月目までは1∼2週間に1回から月1回
12ヵ月目くらいからは月1回または数ヵ月に1回
*外来受診の間隔は症状や合併症の有無によって異なります。
2
予約外受診について
定期受診日以外でも、発熱や咳などの身体の異常を認めた時
には、早めに医師の指示を受けましょう。
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多く寄せられるQ&A
治療について
Q
風邪をひいた時は、自宅近くの病院を受診
してよいですか?
A
移植後1年以内の方で、免疫抑制剤を内服している方は
移植した病院を受診してください。
症状について
Q
手足がよくつります。
何かよい対処法はありませんか?
A
手足がつりやすくなる原因はわかっていません。日々の
ストレッチや運動を勧めています。
Q
足がむくみます。
どうしたらよいでしょうか?
A
退 院 すると活 動 が 増 え
るため、重力等の関係で
むくんでしまうのだと思
われます。マッサージや
むくみ解消のストッキン
グをはくこと、寝る時に
足を高くすることなどを
勧めています。
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Q
2次性発がんが気になります。
早期発見のためにできることはありますか?
A
自家・同種移植を行った場合に2次性発がんが多いとい
われています。発現の部位はさまざまです。移植後の健
診以外にも、市や区で行っている一般的な健康診断(上
部消化管造影など)やがん検診の受診を勧めています。
また、リスクファクターとなる喫煙や日焼け、飲酒などを
控えることが大切です。
Q
インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチン
は接種したほうがよいですか?
また、どの時期に、どのようなワクチンを接種
すればよいですか?
A
移植後1∼2年が経過し、免疫抑制剤の内服が終わって
いる人は、基本的にはどんなワクチンを打っても大丈夫
です。肺炎球菌ワクチンも打つことは可能ですが、必ずし
も全員が打つ必要はありません。移植後、肺の合併症を
起こしたり、肺炎を繰り返しやすい方は、肺炎球菌に感
染した時のリスクが高いので、打ったほうがよいでしょう。
ワクチンを投与する希望がある時には、必ず外来主治医
に相談してください。
36
日常生活
Q
髪を染めてもよいですか?
A
免疫抑制剤の内服が終わっていて、皮膚のGVHDが出
ていなければ、染めてもよいと思います。ただし、美容
院で相談し、頭皮に優しい染色液を使うなど、皮膚に強
い刺激を与えない形で行いましょう。
Q
イヌ、ネコ、ハムスターなどのペットを新たに
飼ってもよいですか?
A
免疫抑制剤の内服が終わっていれば、基本的にはよいで
す。ただし、糞尿の始末は控え、どうしても行わなければ
いけない時には、必ずマスク・手袋を着用してください。
37
外出・娯楽
Q
海外旅行に行ってもよいですか?
A
海外旅行をするのはかまいませんが、感染症の流行など
も留意しなければならないので、旅行する前には医師に
相談しましょう。
Q
スパや温泉に行ってもよいですか?
A
よいです。ただし、皮膚のGVHDがある場合は、控えた
ほうがよいです。
38
13. おわりに
これまで、造血幹細胞移植の一般的な経過と治療後の生
活についてご説明させていただきましたが、ご理解いただけ
ましたでしょうか?
使用される薬剤や副作用、合併症などは、病気の種類や状
態、年齢、臓器の障害の有無によって異なります。移植後に
体力の低下や体調不良が長期にわたって続き、社会復帰が遅
れることも少なくありません。このように、造血幹細胞移植
は100%安全とは言えず、決して楽な治療ではありません。
そのため、造血幹細胞移植と治療後の生活について十分に
理解していただいた上で、造血幹細胞移植を受けるかどうか、
あなた自身が決断することが大切です。
そして、医療チーム(血液内科医師・看護師・リハビリテー
ション科医師・理学療法士・精神科医師・薬剤師など)は、
あなたがあなたにとって、最 良 の 治 療 方 法を選 択し、より
よい 生活が送れるよう、最大限の支援をしてくれます。病気
や治療に関する疑問点、療養生活上の問題や不安などがあり
ましたら、いつでも遠慮なさらず、医師・看護師などに相談し
ましょう。
39
最後に「NPO法人ささえあい医療人権センターCOML
(コムル)」が発行している「新・医者にかかる10 箇条」を
掲げます。
新・医者にかかる10箇条
1
伝えたいことはメモして準備
2
対話の始まりはあいさつから
3
よりよい関係作りはあなたにも責任が
4
自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報
5
これからの見通しを聞きましょう
6
その後の変化も伝える努力を
7
大切なことはメモを取って確認
8
納得のできないことは何度でも質問を
9
医療にも不確実なことや限界がある
10
治療方法を決めるのはあなたです
40
memo
memo
2011年6月作成
NEU02320
.1
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