「GAPによる農作業安全のリスク管理」 1 はじめに 高度なGAPは主に「食の安全」「環境の保全」「労働安全」の3つの事象を管理すること が主な目的となっています。 また、「労働安全」のうち「農作業安全」については、毎年400人前後の人が、新潟県におい ても毎年約9人が農作業で亡くなっており、こ れは、他産業に比べると労働者10万人当たりの 死亡事故件数で11.8と、全産業の平均3.0や交 通事故の5.4に比べ非常に高くなっています。 平成25年度における農業従事者の平均年齢は 66.5歳と高齢化が進んでいる上に、農作業自体 が「天候」「時間」に左右され、焦りを生みや すいことが事故が減らない一因であると考えら れ、これら農作業事故に対するリスクをできる 限り低減し、事故を起こさないようにするには、 図1 10万人当たり死亡事故の推移 GAPの取り組みが有効です。以下にGAPによ る農作業事故のリスク低減対策を紹介します。 2 農作業事故のリスク低減対策 (1)リスク把握 ~農業経営の中にあるリスクを発見する~ GAPのリスク対策は、①リスク把握、 表1 リスク管理の流れ ②リスク分析、③リスク対策の順にリスク を管理し、リスクの発現をできる限り抑え るか、発現しても被害を最小限に留める管 理手法です。 そのうち、①のリスク把握は、農場経営 の中に潜んでいる様々なリスクをどのよう に把握(発見)するかが重要になります。 リスクを把握する方法は表2に示しまし たが、何れも農作業に携わる人全員で考え えることが重要です。特に2番目について 表2 農業経営の中にあるリスクの発見方法 は1つの重大な事故が発生する過程には、 同じ原因での軽微な事故が29件あり、軽微 ・農作業を手順を追ってチェックする。 な事故に至る過程には300のヒヤリやハッ ・農作業中にヒヤリやハッとした事例を全員で出し合う。 とした体験(ヒヤリハット事例)があると ・以前事故が起こっている場合は、その原因と対策を改 めて精査する。 いう「ハインリッヒの法則」に当てはめる と、ヒヤリハットの段階でリスクを把握す ることがいかに重要か分かります。 ・農水省や産業労働省で公開している事故事例を自己 の経営に当てはめ検証する。 これらヒヤリハット事例からリスクを把 握することは、農作業事故のリスク管理の基本です。 -1 - (2)リスク分析 ~リスクの大きさを判断し、対策を考える~ リスクが把握できたら、そのリスクの大きさを判断します。リスクの大きさは「発生確率× リスク発生時の影響の大きさ」です。把握した1つ1つのリスクに対して、最悪のシナリオを 想定してリスクの大きさを決めて下さい。後は、そのリスクの大きさに応じた対策を取ります。 農作業事故に係るリスクは、そのまま保有(放置)しても大丈夫なものはほとんどありません。 リスクの発生確率や影響の大きさを可能な限り小さくする「リスク低減」が主な対策となり、 場合によっては「リスク回避」(リスクが大きい作業そのものを止める)が必要となります。 (3)リスク対策 ~具体的なリスク対策を取る~ リスクを低減するためには、始業点検や作業手順・機械操作等の安全マニュアルの作成や安 全チェックリストを作成してリスクとなる部分をチェックするなどしてリスクを管理すること が有効です。大きなリスクを放置すると重大な事故につながりますので大きいリスクほど優先 して対策を取ってください。 農作業事故におけるリスクは、例えば農道の幅員が狭い等、自身では根本的な対策が取れな い場合もあります。このような場合は、関係機関に要請活動をおこなうことも必要ですが、直 ちに改善されるとは限りませんので、チェックリストの作成や危険か所の表示等で保有するリ スクをなるべく低減させる努力が重要となります。 (4)生産工程の管理 ~リスク管理の実践と改善~ リスク対策で決定した管理方法で生産工程(農場)の管理を実践します。生産工程管理を適 切に実施するためには、農業従事者全員が同じ管理意識を持つことが重要です。そのためには、 農場経営者等の農作業安全管理者の理念や意識を全員で共有することが必要で、常日頃から農 作業安全管理者は意識啓発に心がけることが重要です。 農作業が終了した段階で、農作業安全のリスク管理に対する振り返りを行い、問題や改善点 があれば、次年度に向けて改善策を検討します。検討した改善策はチェックリストやマニュア ル等に反映させて次年度のリスク管理のレベルアップを目指す活動(いわゆるPDCAサイク ル)により、より安全な生産工程管理を目指します。 3 まとめ 先に「ハインリッヒの法則」について述べましたが、農業の場合はハインリッヒの法則より ヒヤリハット事例から重大事故に至る比率が高いとの調査結果が報告されています。これは、 農業の場合、ヒヤリやハッとする間もなく(あるいは同時に)重大事故につながっている例が 多いことが原因のようです。ほんの少しリスクを放置することが重大事故につながる危険性を 常に念頭におくことが大切です。 今後ますます、機械の大型化や農業者の高齢化が進んでいくことが予想され、リスクがより 大きくなっていくことが予想されます。GAPによる管理手法を導入し、農作業事故のリスク を今までにも増してしっかりと管理することが重要です。 【経営普及課 農業革新支援担当(環境保全型農業) -2 - 長谷川雅義】
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