立命館大学研究部 2011 年 5月 14 日 2010 年度採択 研究推進プログラム「科研費連動型」研究成果報告書 研究代表者 研究課題 所属機関・職名:国際関係学部・教授 氏名:竹内 隆夫 タイの社会変動と農村社会の持続可能な展開の検証 Ⅰ.研究計画の概要 研 究 の 計 画 に つ い て 、 平 成 22 年 度 科 学 研 究 費 補 助 金 申 請 時 の 計 画 概 要 を 記 入 し て く だ さ い 。 タイ社会の基層であるむらや家族に焦点をあて、タイ社会の変動に伝統的な基層構造がどう対応し、適合してい るのかを検証したい。研究の背景には、この四半世紀という短期間で社会が急激に変化をする中で、タイの農村社 会がそれ自体としていかに主体的に対応しており、今後も持続可能な展開をなしうるのかという問題意識がある。 とくにタイの最貧地域である東北タイの農村に焦点をあててそれを検証したい。全国のどの地域と比べてもここで は都市―農村間の格差がもっとも顕現しており、かつ全国的に顕著な少子・高齢化の進行や学歴の上昇という社会 変動にも巻き込まれている。その変動に従来からの「伝統」的なむらの社会構造を生かしつつ適合的な活動(農業 労働・農外労働の両面で)をどのように展開しているのかを社会学的な調査や参与観察によって検証し、村落の持 続可能性の方向を明らかにし、同時に限界についても指摘したい。 具体的にはむらの構造や家族の構造を中心に把握する。前者では経済・政治の構造を明らかにし、伝統的な権力 と新たな権力の構造を把握する。後者では、個別家族の系譜を明確にし、世代間継承における男女の地位関係や学 歴構成を把握して、これらが変動のなかでどのような行動となり都市社会との関係を築くのか、都市社会での体験 がむらでどのように還元されるのかを明らかにして、むらと都市との持続的な関係のあり方を明確にしたい。都市 とのネットワークの構築とその継続にこそ、今後のむらの持続可能な展開があるのではないかという仮説を検証す るために。 Ⅱ.研究成果の概要 研究成果について、概要を記入してください。 むらのトップである区長の資料では、2009 年度の人口 737 人中、60 歳以上の高齢者が 82 人と 10%を上回ってい る。しかし、高校 3 年生 39 人に対して中学 3 年生 20 人と学年が低いほど人数が減少する数字にみられるように、 少子・高齢化はこのむらでも著しい。聞き取りでは、30 歳代以下の母親層では 3 人の子を持つケースは 2 例のみ(1 例は最初が双子)であった。上記資料では学士号所持 28 人、修士号 2 人とあるが、後者は取得中を含めるともっと 増加してくる。このように地域の外観では、まったくの純農村の調査地でも(行政区分では都市に昇格) 、タイ全国 の動向と相似的な動きがみられる。 他方、主たる産業の稲作経営は天水依存という不安定さが付きまとうにもかかわらず、田植えや稲刈りには雇用 者を雇うことが定着しているため、機械の借賃や肥料費などを含めて農業経費の増加が著しい。したがって、もち 米の常食地帯であるが、もち米とうるち米の作付比率は、販売用の後者が圧倒的で、前者は自家用分程度でしかな い。この農業経費にも農外所得の果たす役割が大きい。農外所得としては、従来からの都市への出稼ぎがあるが、 最近目立つのは都市での縫製業での体験を生かして、むらで縫製の仕事をする人が増加していることである。何人 かの縫製リーダーがいて、バンコクの会社から仕事を請け負いグループの人に仕事を回している。仕事を受けるむ ら人も都市で縫製の仕事の体験を持っている。さらに、バンコクで縫製の店を経営しているむら出身者もいて、そ こにはむら人が雇われているようである。新しい都市―村落のネットワークが構築されてきている。 しかし、高学歴者はむらの近辺では働く場が限られるため、その多くが都市に向かうことになる。 1
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