2007 年度 解析力学・量子力学 1 中間試験 2008 年 1 月 7 日 (月) 13:00 – 15:30 於 駒場 761 号室 以下の設問を適宜選択して解答せよ。配点の合計は 120 点であるがもちろん全問回答 する必要はない。今回の得点のうち最終成績に反映される点数は、60 点が上限である。 解答は結果だけではなく、それを導いた過程が明確となるように記述せよ。なお、ノー トや教科書等の持ち込みは不可である。 設問 [1] 図 1 のように、質量 M の斜面上を運動する質量 m の質点を考える。斜面は水 平面上を摩擦無しにすべるものとする。重力加速度を g として以下の問に答えよ。 y (x,y) m g M α O x (X,0) 図 1: 斜面上に拘束された質点。 問 (1.1) 図 1 のように質点の位置を (x, y)、斜面の左端の位置を (X, 0) とし、斜面が水平 面となす角を α とする。このとき、これらの間に成り立つ拘束条件を求めよ。[5 点] 問 (1.2) ラグランジュの未定乗数法を用いて、問 (1.1) の拘束条件を取り入れたラグラ ンジュ方程式を書き下せ。[5 点] 問 (1.3) これらのラグランジュ方程式を用いて λ を決定せよ。[5 点] 問 (1.4) 得られた λ の値を代入してラグランジュ方程式を解き、x(t), y(t), X(t) を求め よ。ただし初期条件は、t = 0 で X = 0, y = y0 , dX/dt = dx/dt = dy/dt = 0 とす る。[10 点] 1 設問 [2] 図 2 のように、長さ l の伸び縮みしない糸でつり下げられた質量 m の質点の運 動を考える。重力加速度を g として以下の問に答えよ。 θ g l m 図 2: 重力場内での質点振り子。 問 (2.1) この質点振り子が鉛直方向となす角度を θ とするとき、この系のラグランジア ンを書け。また、角度 θ に対する共役運動量 p を求めよ。[5 点] 問 (2.2) この系のハミルトニアンとハミルトン方程式を書け。[5 点] 問 (2.3) ここで得られたハミルトン方程式を数値積分するために、微分を差分に置き換 える。簡単のために、単位をうまく選んで m = ℓ = g = 1 の場合を考え、角度 θ を 一般座標 q と表記する。時刻 tn と tn+1 = tn + ∆t における座標と運動量を (qn , pn ), (qn+1 , pn+1 ) とする。 (A) (B) qn+1 = qn + pn ∆t, qn+1 = qn + pn ∆t, pn+1 = pn − sin qn ∆t (1) pn+1 = pn − sin qn+1 ∆t (2) の 2 つの場合について、それぞれポアソン括弧を計算して、これらが正準変換と なっているかどうか調べよ。[10 点] 問 (2.4) 問 (2.3) のように無次元化したハミルトニアンを、さらに振幅が小さい場合に 近似すれば 1 1 (3) H = p2 + q 2 2 2 となる。この系に対して、ポアソン括弧式を用いた関係式: f (t) = f0 + t[f, H]0 + t2 t3 [[f, H], H]0 + [[[f, H], H], H]0 + · · · 2! 3! (4) を利用して、具体的に p(t) と q(t) を求めよ。ただし初期条件を t = 0 で p = p0 、 q = q0 とせよ。[15 点] 2 設問 [3] 質量 mS の太陽と質量 mE の地球がお互いの重力によってケプラー運動してい るものとする。簡単のために以下では軌道の離心率は無視して円運動の場合のみを考え る。それらの公転面上で太陽と地球の重心を原点とする 2 次元座標系として、慣性系 S と、太陽と地球が常に x 軸上の点 PS と点 PE に位置するような回転系 S ′ を考える (図 3 参照)。太陽と地球の距離を a とすれば、PS と PE の座標はそれぞれ (−µE a, 0)、(µS a, 0) で与えられる。ただし、 mS mE µS ≡ , µE ≡ (5) mS + mE mS + mE である。また、この回転系の角速度 ω はケプラーの第 3 法則より、 G(mS + mE ) = ω 2 a3 (6) を満たす (G はニュートンの重力定数)。 P η rE y S’ rS x PE Earth ωt S ξ O PS Sun 図 3: 太陽と地球の共動回転座標系。 問 (3.1) この平面上の任意の点を P としたとき、S 系における P の成分 (ξ, η) を S ′ 系で の成分 (x, y) で表わせ。[5 点] 問 (3.2) S ′ 系からみて (x, y) の位置にある質量 m の質点を考える。m は mS および mE に比べて十分小さく、この質点は太陽と地球のケプラー運動には影響を与えないと した時、この質点に対するラグランジアンが ( ) mω 2 2 mS mE m 2 2 2 (x + y ) + mω(xẏ − ẋy) + Gm + (7) L = (ẋ + ẏ ) + 2 2 rS rE となることを示せ。ただし、 √ rS ≡ (x + µE a)2 + y 2 , rE ≡ である。[10 点] 3 √ (x − µS a)2 + y 2 (8) 問 (3.3) この質点の S ′ 系における運動方程式の x 成分および y 成分を書き下せ。[5 点] 問 (3.4) S ′ 系から見たとき、この質点の加速度と速度がともに 0 となるような特別な点 (ẍ = ÿ = ẋ = ẏ = 0) はラグランジュ点と呼ばれ、全部で 5 つあることが知られて いる。運動方程式よりラグランジュ点の満たすべき条件を導け。[10 点] 問 (3.5) S ′ 系の x 軸上にないラグランジュ点は 2 つあり、y > 0 のものを L4 点、y < 0 のものを L5 点と呼ぶ。それらの座標を求めよ。[10 点] L4 X L3 L1 O X L2 X X PS PE Sun Earth X L5 図 4: 制限三体問題のラグランジュ点。 問 (3.6) S ′ 系の x 軸上にあるラグランジュ点は、図 4 に示されているように、PS と PE の外側に一つずつ、および PS と PE の中間に一つ、合わせて 3 個存在することが 知られている。特に地球からみて太陽とは逆方向にある L2 点は、天文観測衛星に 適した位置である。この L2 点と PE との距離を rE として運動方程式の x 成分を考 えれば、µE /µS が u ≡ rE /a の関数として u3 3 + 3u + u2 µE = µS (1 + u)2 1 − u3 (9) と書けることを示せ。変形の際、µS + µE = 1 であることに注意せよ。[15 点] 問 (3.7) (9) 式から、µE /µS ≪ 1 の場合 u ≪ 1 となることがわかる。この場合、L2 点 の位置 u を µE /µS の最低次で求めよ。特に、太陽と地球の系 (µE /µS ≈ 3 × 10−6 、 a = 1.5 × 108 km) の場合、地球と L2 点までの距離の値を近似的に求めよ。[5 点] 4 2007 年度 解析力学・量子力学 1 中間試験 解答例 [1] 解 (1.1) 図 1 より明らかに y = (x − X) tan α. (10) 解 (1.2) ラグランジュの未定乗数を λ とすると修正されたラグランジアンは L= m 2 M (ẋ + ẏ 2 ) + Ẋ 2 − mgy + λ [y − (x − X) tan α] . 2 2 (11) これより、 d ∂L ∂L − dt ∂ ẋ ∂x d ∂L ∂L − dt ∂ ẏ ∂y d ∂L ∂L − dt ∂ Ẋ ∂X ∂L ∂λ =0 ⇒ mẍ + λ tan α = 0, (12) =0 ⇒ mÿ + mg − λ = 0, (13) =0 ⇒ M Ẍ − λ tan α = 0, (14) =0 ⇒ y = (x − X) tan α. (15) 解 (1.3) (15) 式を時間に関して 2 回微分したものに、(12) 式 ∼ (14) 式を代入すると ( ) ( ) 1 λ λ tan α λ tan α 1 2 −g = − − tan α = −λ tan α + . (16) m m M M m したがって、 mM g mM g cos2 α . λ= = (m + M ) tan2 α + M M + m sin2 α (17) 解 (1.4) λ を代入すると、すべての式は独立に解ける。初期条件を考慮すると、解は M g cos α sin α 2 y0 λ tan α 2 t + x(t = 0) = − , 2 t + 2m tan α 2M + 2m sin α λ − mg 2 M g cos2 α 1 2 2 y(t) = t + y0 = 2 t − gt + y0 , 2m 2 2M + 2m sin α λ tan α 2 mg cos α sin α 2 X(t) = t = t. 2M 2M + 2m sin2 α x(t) = − 5 (18) (19) (20) 解答例 [2] 解 (2.1) 1 L = ml2 θ̇2 − mgl(1 − cos θ). 2 p= (21) ∂L = ml2 θ̇ ∂ θ̇ (22) p2 + mgl(1 − cos θ). 2ml2 (23) 解 (2.2) H = pθ̇ − L = dθ ∂H p = = , dt ∂p ml2 dp ∂H =− = −mgl sin θ. dt ∂θ (24) 解 (2.3) (A) の場合 ∂qn+1 = 1, ∂qn ∂pn+1 = 1, ∂pn ∂qn+1 = ∆t, ∂pn ∂pn+1 = − cos qn ∆t ∂qn (25) (26) なので {qn+1 , pn+1 } = ∂qn+1 ∂pn+1 ∂qn+1 ∂pn+1 − = 1 + cos qn (∆t)2 . ∂qn ∂pn ∂pn ∂qn (27) したがって、(qn , pn ) と (qn+1 , pn+1 ) の関係は正準変換ではない。一方、(B) につい ては ∂qn+1 ∂qn+1 = 1, = ∆t, ∂qn ∂pn ∂qn+1 ∂pn+1 = 1 − cos qn+1 ∆t = 1 − cos qn+1 (∆t)2 , ∂pn ∂pn ∂pn+1 ∂qn+1 = − cos qn+1 ∆t = − cos qn+1 ∆t. ∂qn ∂qn (28) (29) (30) したがって {qn+1 , pn+1 } = ∂qn+1 ∂pn+1 ∂qn+1 ∂pn+1 − =1 ∂qn ∂pn ∂pn ∂qn となり、(qn , pn ) と (qn+1 , pn+1 ) は正準変換でむすばれている。 6 (31) 解 (2.4) [q, H] = [p, H] = [[q, H], H] [[p, H], H] [[[q, H], H], H] [[[p, H], H], H] = = = = ( ) ∂H ∂ p2 = = p, ∂p ∂p 2( ) ∂H ∂ q2 − =− = −q, ∂q ∂q 2 [p, H] = −q, −[q, H] = −p, −[q, H] = −p, −[p, H] = q (32) を用いると t2 t3 q(t) = q0 + t[q, H]0 + [[q, H], H]0 + [[[q, H], H], H]0 + · · · 2! 3! t3 t2 = q0 + tp0 + (−q0 ) + (−p0 ) · · · 2! 3! ( ) ) ( t2 t4 t3 = q 0 1 − + + · · · + p0 t − + · · · 2! 4! 3! √ q02 + p20 sin(t + δ) = q0 cos t + p0 sin t = √ = 2E sin(t + δ). (33) t3 t2 [[p, H], H]0 + [[[p, H], H], H]0 + · · · 2! 3! t2 t3 = p0 + t(−q0 ) + (−p0 ) + (q0 ) · · · 2! ) 3! ( ) ( t3 t2 t4 = p0 1 − + + · · · − q 0 t − + · · · 2! 4! 3! √ p(t) = p0 + t[p, H]0 + = p0 cos t − q0 sin t = √ = 2E cos(t + δ). p20 + q02 cos(t + δ) (34) 解答例 [3] 解 (3.1) ) ( ξ η ( =r ) cos(wt + θ) sin(wt + θ) ( = cos wt − sin wt sin wt cos wt )( ) x y (35) 解 (3.2) (ξ, η) を時間微分すると { ξ˙ = ẋ cos wt − ẏ sin wt − w(x sin wt + y cos wt), η̇ = ẋ sin wt + ẏ cos wt + w(x cos wt − y sin wt). 7 (36) したがって ξ˙2 + η̇ 2 = ẋ2 + ẏ 2 + w2 (x2 + y 2 ) − 2w(ẋ cos wt − ẏ sin wt)(x sin wt + y cos wt) +2w(ẋ sin wt + ẏ cos wt)(x cos wt − y sin wt) 2 = ẋ + ẏ 2 + w2 (x2 + y 2 ) + 2w(xẏ − ẋy). (37) これより、S ′ 系から見たときのラグランジアンは ) ( m ˙2 mS mE 2 L = + (ξ + η̇ ) + Gm 2 rS rE ( ) 2 m 2 mω 2 mS mE 2 2 = (ẋ + ẏ ) + (x + y ) + mω(xẏ − ẋy) + Gm + . (38) 2 2 rS rE 第 2 項と第 3 項が、それぞれ遠心力とコリオリ力に対応するポテンシャルとなって いる。 解 (3.3) ラグランジュ方程式を計算すれば良い。x 成分は d ∂L ∂L = dt ∂ ẋ ∂x ⇒ ⇒ GmS (x + µE a) GmE (x − µS a) − ẍ − wẏ = w2 x + wẏ − rS3 rE3 ( ) GmS GmE GmE µS a GmS µE a ẍ − 2wẏ = w2 x 1 − 2 3 − 2 3 + − . w rS w rE rE3 rS3 (39) 同様にして、y 成分は ( GmS GmE ÿ + 2wẋ = w y 1 − 2 3 − 2 3 w rS w rE 2 ) . (40) 解 (3.4) ラグランジュ点は ẍ = ÿ = ẋ = ẏ = 0 を満たすので、(39) 式および (40) 式の右 辺が 0 となる。ケプラーの法則より GmS = µS a3 , w2 GmE = µE a3 , w2 (41) が成り立つ。これを (39) 式と (40) 式の右辺に代入すると、ラグランジュ点の満た す条件は [ [( ) ( )3 ] ( )3 ] ( )3 3 a a a a − µE − x 1 − µS + µS µE a = 0, (42) rS rE rE rS [ ( )3 ( )3 ] a a y 1 − µS − µE = 0. (43) rS rE 8 解 (3.5) y ̸= 0 の場合、(43) 式を (42) 式に代入すると rS = rE ⇒ |x + µE a| = |x − µS a| ⇒ x= µS − µE mS − mE a= a. (44) 2 2(mS + mE ) 再度 rS = rE を (43) 式に代入すると ⇒ rS = rE = a (x + µE a)2 + y 2 = a2 . x の値を代入すると ( a )2 2 したがって、 ( L4 点 : (45) √ 2 +y =a ⇒ 2 √ ) mS − mE 3 a, a , 2(mS + mE ) 2 y=± ( L5 点 : 3 a. 2 √ ) 3 mS − mE a, − a . 2(mS + mE ) 2 (46) (47) 解 (3.6) 図 4 からわかるように L2 点は rS = a + rE , x = µS a + rE を満たす。これを (42) 式に代入すると [ [( ) ( )3 ( )3 ] ( )3 ] 3 a a a a (µS a + rE ) 1 − µS − µE + µS µE a − = 0. a + rE rE rE a + rE さらに u ≡ rE /a を用いて書き直すと [( ) [ )3 ( )3 ] ( )3 ] ( 3 1 1 1 1 − µE + µS µE − = 0. (µS + u) 1 − µS 1+u u u 1+u (48) (49) (50) これを変形すると ( u + µS − µS 1 1+u )3 ( )2 1 (u + µS + µE ) − µE = 0. u (51) ここで、u = (µS + µE )u を用いると ( )2 )2 1 1 − µE =0 (µS + µE )u + µS − µS 1 + u u ] [ ] [ 1 1 − (1 + u) ⇒ µE u − 2 = µS u (1 + u)2 µE u2 1 − (1 + u)3 u3 3 + 3u + u2 ⇒ = 3 = µS u − 1 (1 + u)2 (1 + u)2 1 − u3 ( となり、題意が証明された。 9 (52) 解 (3.7) (9) 式から、u ≪ 1 の場合最低次では µE ≈ 3u3 µS rE ≈ u= a ⇒ ( µE 3µS )1/3 . (53) a ≈ 10−2 a = 150 万 km. (54) したがって、太陽と地球の系の場合 ( rE ≈ µE 3µS )1/3 ちなみに L1 点は同じく u = rE /a として rS + rE = a, r S = x + µE a ⇒ µE u3 3 − 3u + u2 = µS (1 − u)2 1 − u3 (55) なので µE /µS ≪ 1 ならば rE ≈ (µE /3µS )1/3 a。一方、L3 点は u′ = rS /a として ′ rE − rS = a, rS = −x − µE a ⇒ 1 − u 3 (1 + u′ )2 µE = µS (1 + u′ )3 − 1 u′ 2 を満たし、µE /µS ≪ 1 ならば a − rE ≈ 7µE /12µS 。 10 (56)
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