GPSは特殊相対性理論や一般相対性理論の墓穴を掘ったのか

GPS は特殊相対性理論や一般相対性理論の墓穴を掘ったのか
GPS might dig a grave of Special Relativity and/or General Relativity
黒月樹人 (KINOHITO KULOTSUKI, treeman9621.com)
GPS が相対性理論の正しさを検証する実例になっているらしいということは、リサ・ラ
ンドールの本を読んで知った。
「ワープする宇宙」という本である。この中に、
「第 5 章 相
対性理論――アインシュタインが発展させた重力理論」という部分がある。
この問題は、アインシュタインの特殊相対性理論の論旨に、本質的な誤りを見出した者
にとっては、目の上のたんこぶのようなものだった。理論的に「ああだ、こうだ」と反論
しても、その理論が正しいという証拠のようなものを見せつけられたら、何も言えなくな
ってしまう。ところで、この問題には、一つ盲点があるかもしれない。これまで誰もが見
落としていた視点というようなものだ。私は、これを調べてみようと考えた。
リサ・ランドールの本の第 5 章の、
「最後に」という節では、
「一般相対性理論」という
言葉のほかには、「そのほかの一般相対論効果によるずれ」という言葉や、「相対性理論」
という言葉しか表れていない。これでは、はっきりしない。
私は図書館に行って、GPS のことを取り上げている、相対性理論の本を探して、何冊か
を借り出した。しかし、これらの本の中には、私が知りたいと思っていたことの情報は書
かれていなかった。私が知りたいと思っているのは、GPS の時計の補正に、一般相対性理
論ではなく、特殊相対性理論がどのように利用されているかということである。どこかで、
これらが共に利用されているというようなことを読んだ気がするのだが、その出典を思い
出すことができないのだった。
ふと、
「インターネットで検索してみれば、何か出てくるかもしれない」という考えが思
い浮かんだ。検索のためのキーワードは「GPS」と「Special Relativity」でよいはずだ。
こうして、いくつかの英文による資料ページを見つけ出した。それらの中で、もっとも影
響力のありそうな資料について、厳密な内容を理解するために、日本語へと翻訳すること
にした。それは、私のホームページにある、
「現実世界の相対性理論
GPS ナビゲーション
システム」というものである。ここには、私の知りたかった情報が、はっきりと述べられ
ている。
まずは、
「現実世界の相対性理論
GPS ナビゲーションシステム」の中の、要点をまとめ
よう。それは、特殊相対性理論の予測により、
「1 日につき 7 マイクロ秒遅れ」、一般相対性
理論の予測により、
「一日に 45 マイクロ秒だけ先に進む」から、
「こうした二つの相対論的
効果の組み合わせ」によって、一日につき「およそ 38 マイクロ秒だけ (45-7=38)、より
速く時を刻む」ということである。
このことについて何も知らないで聞いていると、なるほど、と納得してしまいそうな説
明である。しかし、これはおかしい。何がおかしいのかというと、一般相対性理論の予測
値と、特殊相対性理論の予測値とが、それぞれ別々の方程式で計算されて、その結果とし
ての数値を、単純に加算して補正値を求めているという点だ。
アインシュタインは特殊相対性理論と一般相対性理論のネーミングを採用するとき、区
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別する要因として、考えようとする対象や座標系の、運動状態を考えている。特殊相対性
理論では、互いに「ある速度」をもっている対象や座標系のことだけを考えており、一般
相対性理論では、互いに「ある加速度」をもっている対象や座標系のことを考えている。
そして、特殊相対性理論に組み込まれている「速度の項」にゼロを入れると、この理論が
ニュートン力学へと収束するように、アインシュタインは、一般相対性理論に組み込まれ
ている「加速度の項」にゼロを入れると、特殊相対性理論へと収束するという条件を考え
ている。はたして、そのようになっているのかどうかということは、私には、よく分から
ないが、これらのプランニング図式は論理的であり、分かりやすい。
ニュートン力学 (NM)と特殊相対性理論 (SR)の関係を考えると分かりやすい。特殊相対
性理論に現れるローレンツ変換の式には、γ (もしくは、アインシュタインの原論文ではβ)
の記号であらわされる項に、互いの移動速度 v が含まれている。ここで v = 0 とおくと、
γ=1 となって、これが掛けられている数式が、ニュートン力学のものとなる。このような
関係にある式を利用して、意味を解釈するときは、v が 0 の値か、0 でない値かということ
に注意して、場合分けをする必要がある。相対性理論の式として、v に 0 ではない何らかの
値を入れて計算したときは、それを適用した対象の現象に対して、もう一度、v に 0 を入れ
たニュートン力学の式を用いて、それらの結果を、単純に加算するなどということは、決
してできないはずである。
ニュートン力学 (NM)と特殊相対性理論 (SR)について考えた、この関係を、特殊相対性
理論 (SR)と一般相対性理論 (GR)の関係について考えることができる。このとき、そのよ
うな論理関係を条件づけるのは、速度 v ではなく、加速度 a である。一般相対性理論では、
重力加速度 g のことが主に考えられてゆく。何らかの加速度をもっている座標系どうしの
ことを、特殊相対性理論では取り扱うことができないという懸念を、アインシュタインは
何年も思いつづけて、一般相対性理論を生み出そうとした。一般相対性理論について論じ
られた文章を読んでくと、アインシュタインは一般相対性理論 (GR)の加速度が 0 になった
とき特殊相対性理論 (SR)に収束すると、条件づけているところがあるが、この条件が、ど
のように組み込まれているのか、私には、よく分からない。アインシュタインは、これら
の表現とは別のところで、
「あまりに複雑になるので、しばらく特殊相対性理論を無視しよ
う」と述べている。一般相対性理論の原論文には「特殊相対性理論の」という言葉が何度
も現れるのだが、それについての「式」が利用されている痕跡がない。アンイシュタイン
は、「ニュートン力学の世界」のことを、「特殊相対性理論の世界」と呼び変えて同一視し
ているように思える。すると、一般相対性理論は a = 0 のときに特殊相対性理論を含んで
いるのではなく(SR <含む●— GR)、直接ニュートン力学を含んでいる (NM <含む— GR) と
いうことになる。確か、一般相対性理論の式を導くときに、何らかの未定係数を決めるた
め、ニュートン力学に所属する式 (ポアッソンの式だったか) を利用していたようだ。一般
相対性理論という理論式の集合は、内部にニュートン力学系の式を含んでいるのである。
しかし、特殊相対性理論の式を含んでいるのかどうかは、よく分からない。
一般相対性理論が、完全な整合性を持っているのかどうかということは、ここでは深く
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追求しないでおこう。一般相対性理論 (GR)が特殊相対性理論 (SR)を含み、その特殊相対
性理論 (SR)がニュートン力学 (NM)を含んでいる (NM <含む—- SR <含む—GR)、とするか、
一般相対性理論 (GR)は特殊相対性理論 (SR)を含んでいないが、ニュートン力学 (NM)を
含んでおり、特殊相対性理論 (SR)もニュートン力学 (NM)を含んでいる (GR—-含む> NM
<含む— SR) とするか、いずれにしても、これらの力学系は、ひとつの集合体となっている
のである。
すると、このとき、一つの外部対象 x について、この力学系の集合体の中の、どこかの
要素点に対応する式 g を適用し g(x) を得たとすると、この同じ外部対象 x について、こ
の力学系の集合体にある、他の式 s を適用して s(x) とすることはできないはずである。
仮想の場合分けをして、最後にどれか正しいものを選ぶために、g(x) と s(x) を別々に計算
することはできるだろう。異なる外部対象 y があったとして、g(x) と s(y) を求めること
もできるだろう。しかし、たった一つの外部対象 x に対して、異なる式 g と s を想定し
て、これらの計算を行って g(x) と s(x) を求め、そして、これらの値を g(x) + s(x) のよう
に加え合わせて利用するというのは、どう考えても、論理的ではない。これは数学的には
成立しない式なのである。
GPS の原子時計において、一般相対性理論 (GR)の予測値と特殊相対性理論 (SR)の予測
値を求めて、それらの和を計算して利用しているという状況は、上記の数学的な説明の、
g(x)+ s(x) に対応している。このときの x とは、軌道上にある GPS 衛星の原子時計である。
これは、数学的な矛盾である。双子のパラドックスとかのような、混乱のもとに生まれた
矛盾というものではなく、非常にシンプルな、基礎的な論理における矛盾なのである。
GPS 人工衛星に装備された原子時計が、地上局の同じ原子時計に対して、何らかの補正
が必要だということは、事実として存在するのだろう。しかし、このようなわけであるか
ら、GPS の時計の補正に関して、一般相対性理論と特殊相対性理論の、それぞれの予測値
を加算して利用するということは、これらの相対性理論の検証になるどころか、逆に、こ
れらの相対性理論のどこかに、片方か、それとも双方に、何らかの、決して論理的ではな
い、謎のメカニズムが潜んでいるということなのだ。これは、ひょっとすると「墓穴 (grave)」
になるかもしれない。おそらく、特殊相対性理論のほうは確実に。
追記。図書館で借りた本を学習して、一般相対性理論のアインシュタイン方程式の解の
一つである、シュヴァルトシルト計量を使って、GPS 衛星の原子時計の補正値を計算する
方法を学んだ。これにならって、自ら計算を行うことにより、仮に相対性理論の予測値に
よる補正を行わなかった場合について調べた。そして、GPS 衛星の時計が一日にずれる値
を求めて、それを距離に換算した。
「現実世界の相対性理論 GPS ナビゲーションシステム」
では、その値が 10km を上回ると書いている。しかし、私が一つずつ段階を踏んで計算す
ると、その値は、わずか 3cm に過ぎないことが分かった。どうやら、一日の秒数である 86400
という数字を、うっかり二度掛けてしまって、10km を超える値になってしまったようだ。
リサ・ランドールも、著書の中で、この 10km 値を引用している。はたして、この値が 10km
なのか 3cm なのか、できれば、ランドール教授にも追計算してほしいものである。
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