分子標的治療薬 1. 低分子医薬(低分子医薬品…主に低分子化合物) 2. 抗体医薬(抗体医薬品…主にモノクローナル抗体) 1.低分子医薬品 低分子医薬品には以下の種類がある。主な特徴とし て、分子量300から500と小さく、血液脳関門も通ること ができ、さらに細胞膜の中や核にまで入り込むことが できる。標的となるタンパク質に結合して働きが止まる ことで薬の効果が発揮される。 A. チロシンキナーゼ阻害剤 イマチニブ 慢性骨髄性白血病、フィラデルフィア染色体 Bcr-Abl チ ロ シ ン キ ナ ー ゼ お よ び 陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)、消化 KITチロシンキナーゼ阻害剤 管間質腫瘍(GIST) 上皮成長因子受容体(EGFR) チロ ゲフィチニブ シ ン キ ナ ー ゼ 阻 害 剤 ( EGFR- 非小細胞肺癌の治療に使用される。 TKI) エルロチニブ ゲフィチニブと同様EGFR-TKI 非小細胞肺癌の治療に使用される。 上記のEGFR-TKIと同様の作用機 序であるが、EGFRのチロシンキ EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非 アファチニブ ナーゼドメインのATP結合部位に 小細胞肺癌 共有結合して不可逆的に阻害する。 ダサチニブ ボスチニブ Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害剤 イマチニブ抵抗性の慢性骨髄性白血病、再発 又は難治性のフィラデルフィア染色体陽性急 性リンパ性白血病(Ph+ALL)の治療に使用 される。 Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害剤 イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブとは異 なる構造状態のチロシンキナーゼを阻害する ために、他剤耐性の慢性骨髄性白血病に奏効 する可能性が有る。前治療薬に抵抗性または 不耐容の慢性骨髄性白血病の治療に使用され る。 血管内皮細胞増殖因子受容体 (VEGFR)、上皮成長因子受容体 バンデタニブ (EGFR)、RETチロシンキナーゼ を阻害する。 非小細胞肺癌に対し、臨床試験が進行中で ある。 スニチニブ 血小板由来増殖因子受容体 (PDGFR)キナーゼ、血管内皮細 胞増殖因子受容体(VEGFR)キ ナーゼ、KITキナーゼを阻害する。 パゾパニブ VEGFR-1、2、3、PDGFR-a、bお 腎細胞癌と悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)に用 よびc-Kitに対して阻害作用を示す いられる。 経口のマルチキナーゼ阻害薬である。 レンバチニブ VEGFR、FGFR、PDGFRa、KIT、 甲状腺癌に対して承認されている。 RET等のチロシンキナーゼ阻害薬 ラパチニブ 上皮成長因子受容体(EGFR)と Her2/neuの双方を阻害する二重チ ロシンキナーゼ阻害剤 HER2過剰発現乳癌に対し使用される。 ニロチニブ Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害剤 イマチニブ抵抗性の慢性骨髄性白血病 (CML)の治療に使用される。 GIST、腎細胞癌、膵神経内分泌腫瘍の治療 に使用される。 リンパ腫や肺がんの非小細胞癌に効く可能性 退 形 成 性 リ ン パ 腫 キ ナ ー ゼ が示唆されている。特にALKの転座を持った クリゾチニブ (ALK)の阻害剤である。 ものに著効し、第二のグリベックとも呼ばれ る。 セリチニブ 未分化リンパ腫キナーゼ阻害剤 クリゾチニブよりも強い抗腫瘍効果を示す。 アレクチニブ 未分化リンパ腫キナーゼ(ALK) ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌に用いら 阻害薬 れる。 ルキソリチニ JAK2チロシンキナーゼ阻害薬 ブ 骨髄増殖性腫瘍(真性赤血球増加症・本態性 血小板血症・原発性骨髄線維症)に対して用 いられる。 トファシチニ JAKファミリー阻害薬 ブ 関節リウマチの治療に用いられる。 イブルチニブ ブ ル ト ン 型 チ ロ シ ン キ ナ ー ゼ 慢性リンパ性白血病および小リンパ球性リン (BTK)阻害薬 パ腫に用いられる。 B. Rafキナーゼ阻害薬 Rafキナーゼ、血小板由来増殖因子 受容体(PDGFR)キナーゼ、血管 内皮細胞増殖因子受容体 ソラフェニブ (VEGFR)キナーゼ、KITキナー 腎細胞癌や肝細胞癌に対し保険適応がある。 ゼを阻害する。複数のキナーゼを 阻害するためマルチキナーゼ阻害 薬とも呼ばれる。 C. CDK阻害薬 パルボシクリ サイクリン依存性キナーゼ を 阻 害 2015年2月に米国で乳癌に対して承認された。 ブ する。 D. MEK阻害薬 分裂促進因子活性化タンパク質キ ナーゼ(MAPK)をリン酸化する 分裂促進因子活性化タンパク質キ ナーゼキナーゼ(MEK)を阻害す トラメチニブ る。 JT(日本たばこ産業)と京都府立 医科大学の酒井敏行教授によって 見出された、日本発の分子標的薬 皮膚がんの一種「メラノーマ(悪性黒色 腫)」に絶大な効果が確認され、2013年に は 米FDA ( 米 食 品 医 薬 局 ) で承 認 。EUで も承認されている。日本では2015年4月に承 認申請された。 E. プロテアソーム阻害剤 選択 的 か つ可 逆 的 なプロテアソー ボルテゾミブ ム(不要となったタンパク質の分 多発性骨髄腫の治療に使用される。 解を行う酵素)阻害剤 カルフィルゾ 選択的不可逆的プロテアソーム阻 再発又は難治性の多発性骨髄腫の治療薬 ミブ 害剤であり、 2. 抗体医薬品 • 血清療法(1901年にベーリングらがウサギから取り出した破傷風 菌の抗体の発見から、感染症の治療に抗毒素を含む血清を用い ることを提唱した=血清療法)に起源をもち、その後抗体医薬とよ ばれる血清中から抗体のみ分離した免疫グロブリン製剤(第一世 代抗体医薬品)が開発された。この製剤は免疫学的なメカニズム でがんを治療するところは血清療法と同じで、抗体の結合数が少 ないと効果が薄かった。 • モノクローナル抗体 免疫グロブリン製剤で、抗原抗体反応を利用して特定の分子の機 能を阻害する。また、ADCC(抗体依存性細胞介在性障害作用)や CDC(補体依存性細胞障害作用)が治療効果に関与しているもの もある。 A. マウス抗体(語尾が〜omabと表記) • 1980年代に臨床試験が行われたが、Fc部分 がマウス由来であるため効果が不十分であり、 また免疫原性があるためショック症状を引き 起こすなどの副作用が有るため、ほとんど使 用されなくなった。 薬剤 抗原 適応症 イブリツモマブ チウキセタ ン 抗ヒトCD20抗体であるイブ リツモマブと、キレート剤で あるチウキセタンが結合して いる製剤で、イットリウム90 またはインジウム111がチウ キセタンにキレートされてい る。 低悪性度B細胞性非ホジキン リンパ腫及びマントル細胞リ ンパ腫の治療に用いられる B. キメラ抗体(語尾が〜ximabと表記) 可変領域はマウス由来であるが、その他の定常領域をヒト由来の免疫グロブリンに置換したもの。 リツキシマブ 抗CD20抗体 セツキシマブ B細胞 性 非ホジキンリンパ腫 、 B 細 胞 性 慢性 リンパ性白血病 や B細胞前リンパ球性白血病 、 関節リウマチ、多発血管炎性肉芽腫症などの 自己免疫疾患の治療に使用される。 抗 上皮成長因子受容体 ( EGFR ) 大腸癌、頭頸部癌に使用される。 抗体 インフリキシ 抗TNF-α抗体 マブ エタネルセプト同様関節リウマチなどの自己 免疫疾患の治療や、クローン病の治療に用い られる。 バシリキシマ 抗 IL-2レセプター α鎖 ( CD25) 抗 IL-2とIL-2レセプターの結合を阻害し、腎移 ブ 体 植において急性拒絶反応抑制効果を示す。 抗CD30抗体と微小管阻害作用を持 ブレンツキシ つ低分子薬剤(モノメチルアウリ マブ ベドチ 悪性リンパ腫の治療に用いられる。 スタチンE)とを結合させた抗体薬 ン 物複合体 C. ヒト化抗体(語尾が〜zumabと表記) 可変領域のうち相補性決定領域(CDR)がマウス由来で、その他のフレームワーク領域(framework region:FR) をヒト由来としたもの。免疫原性はキメラ抗体よりもさらに低減する。 トシリズマブ 抗ヒトIL-6レセプター抗体製剤 関節リウマチ、キャッスルマン病に用いられ る。 トラスツズマ 抗HER2抗体 ブ 乳癌の治療に使用される。 抗血管内皮細胞増殖因(VEGF) ベバシズマブ 抗体 大腸癌、非小細胞肺癌、乳癌の治療に使用さ れる。新生血管を阻害するため加齢黄斑変性 への応用が期待されている。 オマリズマブ ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗 既存の治療でコントロール困難な気管支喘息 体 の治療に使用される。 メポリズマブ 抗IL-5モノクローナル抗体 特発性好酸球増加症候群の治療薬。 好酸球性気管支喘息の発作リスクを軽減させ る 抗CD33抗体 ゲムツズマブ モノクローナル抗体ゲムツズマブ CD33陽性急性骨髄性白血病の治療に使用さ オゾガマイシ に抗腫瘍抗生物質カリケアマイシ れる。 ン ン誘導体のオゾガマイシンが結合 している。 パリビズマブ 抗RSウイルス抗体 ラニビズマブ 抗血管内皮細胞増殖因子 (VEGF)抗体 新生児や乳児でのRSウイルス感染の予防に 使用される。 加齢黄斑変性の治療に使用される。 セルトリズマ PEG化 抗ヒトTNF-α抗体 ブ クローン病の治療に用いられる。 オクレリズマ ヒト化抗CD20受容体抗体 ブ 関節リウマチの治療薬として開発されたが中 断となった。 モガムリズマ 抗CCR4抗体 ブ 成人T細胞白血病治療薬として用いられる。 エクリズマブ ヒト化抗CD5抗体 発作性夜間血色素尿症の治療に使用される。 ペルツズマブ 抗HER2抗体 HER2陽性の手術不能又は再発乳癌に用いら れる。 アレムツズマ 抗CD52抗体 ブ 慢性リンパ性白血病の治療に用いられる。 イノツズマブ 抗CD22抗体 慢性リンパ性白血病の治療に用いられる。 D. ヒト抗体(語尾が〜(m)umabと表記) ヒト抗体遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを用いて、完全なヒト型抗体の産生が試みられている。 パニツムマブ ヒ ト 型 抗 上皮成長因子受容体 大腸癌・直腸癌の治療に用いられる。 (EGFR)モノクローナル抗体 オファツムマ ヒト化抗CD20抗体 ブ B細胞性慢性リンパ性白血病の治療に用いら れる。 ゴリムマブ 抗ヒトTNF-α抗体 関節リウマチの治療に用いられる。 イピリムマブ CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関 悪性黒色腫の治療に用いられる。 連抗原4、CD152)ヒト化抗体 アダリムマブ ヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル 関節リウマチ、尋常性乾癬、強直性脊椎炎、 抗体 クローン病等の治療に用いられる。 ラムシルマブ 抗VEGFR2 IgG1抗体 胃癌の治療に用いられる。 ニボルマブ 悪性黒色腫の治療に用いられる。 抗ヒトPD-1モノクローナル抗体 広義の分子標的薬 エベロリムス mTOR阻害薬 腎細胞がんの治療薬 テムシロリム mTOR阻害薬 ス 腎細胞がんの治療薬 自己免疫疾患治療薬 生物学的製剤 関節リウマチなど自己免疫疾患治療薬としての分子標的薬は、通常は生物学的製剤と呼ばれる。 細胞表面機能分子を標的とするものと炎症性サイトカインやその受容体を標的とする薬剤とに大きく分けられる。 キメラ型抗TNF-α抗体 インフリキシ マウスとのキメラ抗体であるため、強直性脊椎炎、ベーチェット病、クローン病、 マブ 薬剤に対する抗体を形成すること 潰瘍性大腸炎、尋常性乾癬 がある。 TNF 受 容 体 -Fc 融 合 蛋 白 、 可 溶 性 TNF-α受容体、薬剤に対する抗体 エタネルセプ 関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療に使 を生成しないため、インフリキシ ト 用される。 マ ブ と 異 な り 、 メソトレキセート の服用を必須としない。 アダリムマブ ヒト型抗ヒトTNF-αモノクローナ 関節リウマチと乾癬とクローン病の治療に用 ル抗体 いられる。 ゴリムマブ ヒト型抗TNF-α抗体 関節リウマチなどの自己免疫疾患による病気 を治療する アナキンラ 抗IL-1レセプター抗体 関節リウマチの治療に使用される。 トシリズマブ ヒト化抗IL-6受容体抗体 関節リウマチの治療に使用される。 CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関 連抗原4、CD152)の細胞外領域と IgGのFc領域の融合蛋白で、抗原 提 示 細 胞 上 の 共 刺 激 分 子 アバタセプト 関節リウマチの治療に使用される。 (CD80/86) に結合する。T細胞上の CD28とCD80/86との結合を競合的 に阻害することでT細胞活性を抑制 する。 デノスマブ RANKL ( receptor activator of 関節リウマチの治療に使用される。 nuclear factor κB ligand)に対す るモノクローナル抗体 炎症 性 サイトカインの 細 胞 内へ の 関節リウマチの治療に用いられる。クローン トファシチニ シグナル伝達を担う細胞膜上にあ 病に対する治験も進んでいる。 ブ るヤーヌスキナーゼを阻害
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