現在の小学校における邦楽指導についての報告

美作大学・美作大学短期大学部紀要
2013,Vol.58.85~91
報告・資料・研究ノート
現在の小学校における邦楽指導についての報告
On the guidance of traditional Japanese music in elementary schools
木 村 みどり
1.はじめに
2.調査の方法・質問の内容
明治における欧化政策により日本の音楽教育は西洋
(1)調査の方法
の音楽体系を範として取り入れてきた。そのため、そ
2010年10月~12月、津山市、美作市、勝田郡、
れまでに築き上げた日本の伝統音楽については、以後
久米郡、苫田郡、英田郡の35校に勤務する音楽専
の学校教育の中で取り入れられることはなかったと
科教諭35名にインタビューを行い、ICレコーダー
いってよいであろう。その結果日本の伝統音楽に対す
に録音した。
る日本人の意識は後退し自国の文化に対する認識が失
(2)質問内容 (下記の内容から抜粋) われていくことになったのである。
① 授業における日本の伝統音楽の指導内容
このような背景の中で平成10年の小学校、中学校、
高等学校の音楽教育は文部科学省によって改訂された
(現状)について
② 授業における「越天楽今様」
・雅楽の指導(現
『学習指導要領 音楽』において、和楽器や伝統的な
歌唱の導入など、我が国の伝統音楽への教育が提示さ
状)について
③ 和楽器専門のゲストティーチャーを依頼し
れた。教育現場への導入はこれに対応する教育体制を
整備されることなく実施されてしまったのが現状であ
た授業について
④ 日本の伝統音楽の授業を実施した時の子ど
る。
もの反応について
現在の子どもたちは日本の伝統的な音楽に接する機
⑤ 現在授業で使用している教材・資料、今後
会が少ない環境の中で生活している。一方、教育現場
望まれる教材・資料について
で実際音楽の授業に関わる大多数の教師も、西洋音楽
⑥ 日本の伝統音楽について感じていること
中心の授業を受けてきているのも事実であろう。この
⑦ 和楽器や日本の伝統音楽の専門知識を持っ
ような状況の中で教育現場の教師は、日本の伝統音楽
を教育するにあたっての知識や技術の不足など様々な
ているかについて
⑧ 和楽器や日本の伝統音楽を研修する場があ
問題点が山積する中で、小学校の教育現場では、実際
どのような授業が行われ、現場の教師はどのような
るかについて
⑨ 日本の伝統音楽に充てる授業時間数につい
意識で授業を行っているかを現場の教師へのインタ
ビューによって調査した。
─ 85 ─
て
3.インタビュー調査による現状(2-(1)から抜粋)
少し勉強しなければならないのですが。子どもたちは
今回のインタビューに関しては全国的な規模で行っ
日本の音階と西洋の音階は違うっていうのは聞いたら
たわけではなく、筆者の居住する岡山県北部の市内、
分かるので、それを意識させています。子どもは、西
郡部、近隣の市の小学校で行ったものの一部である。
洋の音階に慣れきっているからこそわかるのではない
インタビューの内容は日本の伝統音楽に関しての授
かと思います。
業内容、教師の考え方等であるが、それ以外の教師の
胸中を多く語ってもくださった。教師の話した内容を
・楽器の数のこともあるので、和太鼓を使っていま
まとめ教師の使った言葉で記載する。
す。歌に合わせて太鼓を入れたり、リコーダーも入れ
たり。いろいろな曲をやろうと思っても発表会があっ
①授業における日本の伝統音楽の指導内容(現状)に
たりするとそちらに時間を取られてしまいます。
ついて
・2年生の鑑賞では日本の民謡を、歌いませんが
・4年生は「こきりこ節」で和太鼓が出ています。5
DVDで見たりしますが、子どもたちはこれが好きで
年生は節作りで、6年生は「春の海」を聴きます。和
す。こういう時でないと見るきっかけがないと思いま
太鼓は、地域の方が貸し出してくれているものが六台
す。3年生以上ではわらべ歌はあまりしないのです
あり、それをいつも置いていて、今から日本の楽器を
が、「うさぎ」とか「茶摘み」の手遊びとかは喜んで
勉強しますという感じではなく普段の授業の中でいろ
します。これらの曲が好きですとても。あんがい子ど
いろ取り混ぜて使っています。リズムが大事だと思っ
もたちは短調系とかの曲が好きです。古くから伝わる
ているので1時間のローテーションでたたきます。和
物は伝えてあげたいと思います。5年生のお囃子作り
太鼓だけだったらすごい音になるので、こっちのチー
で韓国、中国とかのアジアの音楽をやって、日本の音
ムは自分の好きな打楽器、こっちは和太鼓でたたくと
楽はこうだよって感じで入り、リコーダーで節を吹い
いうのを低学年から取り入れています。日本の楽器だ
ているのに合わせてリレーのようにやるというのをし
からというような感じで取りたててはやっていないで
ています。
す。教材として意識させるうえで、5年生ではお祭り
の節作りとか世界のいろいろな楽器があったので、こ
の中で日本の楽器はどれかなっていうような使い方を
②授業における「越天楽今様」、雅楽の指導内容(現状)
について
しています。尺八は一つ(一管)あって、筝も文化箏
の学校用のものがあり、三味線とは違うのですが、近
・どうしてもこのページになるとトオンダウンしま
隣の中学校から三線を貸してもらい、その違いを勉強
す。一時、合奏というか吹いてみましょうという時代
したうえで、4年生の時勉強した「こきりこ節」を三
がありました。歌いますが触る楽器がないし、とても
線、筝をいれて簡単な合奏をしました。触ってみると
ゆっくりで、速度記号通りではなく、先ず普通に歌う
いう感じ、どんな音がするという感じを。三線のでき
のでウーンって感じで、そこから入ると面白いです
ない人はリコーダーで。時間が短いので新しい曲はで
ね。これはそんな速さではないということを言って速
きません。
度を調べ、随分違うねと。「笙」だとか映像とかの教
材がないと身近になさすぎて…。雅楽は歌って終わり
・3.4年生は節作り、4年生で「こきりこ節」、「か
ということです。扱いがこうなのです。(歌う時の声
んだ囃子」で太鼓をたたきます。6年生は「春の海」
について)そこは全くこだわっていなかったです。言
を鑑賞します。筝の音色は少し違うので、私も、もう
われてみればそうですね。長唄なども声の出し方が違
─ 86 ─
いますものね。意識していなかったです。
・ここがメインになってくるので、
「春の海」から入っ
ていきます。日本の音階、この和音を体験させたいの
・やらなければならないと思います。私もあまり詳し
で、鍵盤ハーモニカが一番笙の音に良く似ているので
くはないのですが。教科書に雅楽の写真が出ているの
鍵盤ハーモニカで合奏します。
で写真をみて、日本の宮内庁、天皇の所ではこういう
楽器を決まったお祭りとかで使っているので聴いてみ
・雅楽の楽器は学校には何もないので、私が持ってい
ましょうと。あまり私も知識がないので、雅楽を教え
る篳篥、龍笛を、私は吹けないのですが見せて説明し
るのは大変です。教科書に書いてあること以上のこと
ます。写真で見るより実物を見せた方が分かりやすい
はなかなか。調べることはできても時間がない。知ら
ので。昔の楽器は難しいって話をします。東儀さんの
なすぎるなか、教えなさいっていうのは無謀な話です
特集された雑誌を見せてCDを聴かせたりします。
ね。
③和楽器専門のゲストティーチャーを依頼した授業に
・こちらの学校では音楽専科でやっていますが専門的
ついて
な知識は全くなくて、一からのスタートです。6年生
の雅楽とかは私にとっても馴染みがなくて。授業では
・何年か前に一度お呼びしました。尺八、三味線、筝
インターネットや写真での資料提示のようなかんじ
を実際に体験しました。触るだけというレベルです。
で、楽器も実物はないし、私も実際見たことがないの
外部の方に来ていただいて触るということだけで終わ
で、なかなか取り組みにくいし、私も苦手としている
るので、こちらで練習しておくといっても楽器がない
分野で、本当に私も出来ない状態です。先ず、曲を聴
からリコーダーで練習するぐらいです。交代で触らせ
かせて、これはどんな時に聞いて、どんな楽器が使わ
てもらう時は「さくら さくら」のさわり程度はさせ
れているか子どもに聞きます。今この教室にある物が
ていただけますが、何かをやるところまでは…。
使われているかなっていうようなことを話して、子ど
もがちょっと違うというのが気付いたところで、写真
・今回初めて依頼しました。4年生以上、筝を教えて
とかインターネットで和楽器を吹いている画像がある
くださる方が筝を12面持って来てくださって、2時間
ので、そういうのを使ってさらっとやっているような
ずつ、実際に曲を練習し、触ったり、演奏を聴いたり
状況です。鑑賞用のCDに入っているので、楽器だけ
しました。初めて触ったり見たりする子どもが多く、
の部分と歌が入ったものを聴かせています。歌詞も難
大変喜んでやったので良い経験になりました。時間内
しい昔の言葉なので、子どもはピンときていないのが
に曲は仕上がりませんでしたが、普段の授業で音楽に
現状です。なかなか、さらっとしかしていません。歌
興味を示さない子どももすごく一生懸命で、どの子ど
は歌いましたが、音程の上がり下がりの具合とか、歌
もにも良い経験になってよかったと思いました。
い方もちょっと違ったりしていてあまり歌っていませ
ん。今、振り返ると合奏はやったことないです。私は
・毎年、尺八の先生に来ていただいています。今回は、
本心、こういった本物の楽器でやりたいというのがあ
筝の先生も来られ「越天楽今様」の2段だけ尺八と筝
るので、リコーダーや鍵盤ハーモニカではやったこと
で練習しました。なかなか音が出ないのですが、吹い
はありません。以前「浦安の舞」をやったことがあっ
たつもりになって、最後に合奏して終わります。
て、楽譜をもらっていたので、こういう楽譜なのだと
言って見せたこともあります。こんなこと、指導書に
・先生を呼ぶのも学校にお金があるかないかの問題で
も書いていませんね。分からずじまいで。
す。趣味で尺八をしている先生が年に一度筝の先生と
─ 87 ─
来て教えてくださいます。勿論尺八はないので水道の
ました。今は速いリズムが多くゆっくりのリズムは苦
パイプに穴をあけた物と筝を3つ(三面)貸してくだ
手な子が多いと思いますが、楽器にあったリズムとい
さいます。先生が来てくださっても、演奏を聴いて
うかすんなり受け入れられ良かったという感想でし
ちょっと触ったら終わりです。
た。
・ゲストティーチャーにも来ていただいていないの
・西洋音楽の音が定着していて、日本の楽器ってこん
で、和楽器は何も触らないで中学校に送ります。
な音が出るのかと不思議がっていました。初めて和楽
器の生の音を聴くと感動しますね。
④日本の伝統音楽の授業を実施した時の子どもの反応
について
⑤現在授業で使用している教材・資料、今後望まれる
教材・資料について
・和楽器といって取りたててはだしていないので、
キーボードとか身近にあるものとは違って、あまり身
・使っている教科書には楽器の名前が全然書いていな
近ではないと思っていると思います。ただ、リコーダー
いので、これがどんな楽器なのか見えない。拡大して
とかとも合わせてやるので、彼らの中ではそんなに線
名前を入れるとか、見てすぐできるようなものがよい
引きはないかもしれません。曲の感じとしてはちょっ
ですね。
と悲しいというか。
・指導書にはうっすらとしか書いていないので。例え
・今あふれている曲とは全然違うので、教科書にある
ば、宮城道雄だったら、その人の人生等、簡単で良い
曲が楽しいな、良い歌だという感じは少ないです。楽
ので分かるように書いてもらいたい。学校には音楽関
器で伝えることが多いので、日本の音、曲は難しいと
連の物がないので、インターネットで調べても簡単に
かは思っていません。
は書いてあるが詳しいことが分からないので、歴史、
楽曲等詳しいことを入れてもらいたい。現代の子ども
・民謡も4年生の運動会で「よさこいソーラン」を踊
たちは耳からだけでは分かりにくいし、学校はお金が
り、「正調ソーラン節」も聞くので、全然違うと驚い
ないのでなかなか買ってもらえないため、共通教材の
ていました。それがなぜかというところまでは突き詰
ものはセットでDVDをつくってもらいたいです。ま
めてはいないのですが、そのあたりが学習できていな
とめてどこの学校にも配布してくださるのが一番あり
いですね。
がたいです。
・楽器は実際見たことがないので、笙や筝の音は結婚
・この前の改訂の時は一つ一つの楽器が大きく載って
式場で聞いたことがある、生活の一部分で聞いたこと
いて、それがだんだん簡単になってきています。以前
があるという反応はあります。一人ひとりの楽器の使
は教科書を拡大コピーして貼っていましたが、今はそ
い方を映像で見たらすごく力が入っているとか、どう
れができません。
やって演奏しているのだろうという子どももいます。
けっこう和楽器も大変なのよとかみんなが知っている
・ホームページで雅楽を見て必死で勉強します。指導
楽器とは違うのよという感じで話をしています。
書に楽器の名前が書いてありますが、写真ではよくわ
からない。
・普段聞きなれないけれど、良い音という感想があり
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・楽器が揃っていないので、地域に1セット揃えれ
かないので。教師が消化しきれていないことを教える
ば、借りにいけると思います。
と、それが子どもたちに伝わる。鏡ですから。分から
ないから好きになれないっていうようなことになりま
⑥日本の伝統音楽について感じていること
す。説明したくてもできない自分がまどろっこしいで
す。私が十知っていたら子どもに伝えられるのは一か
・伝統音楽は大事だとは思うのですが、身近にあるも
二ぐらいだと思います。子どもは妙なことにひっか
のは分かりやすいが、身近にない物は分かりにくい物
かってきます。突っ込まれたらどうしようかと自信の
理的な距離を感じます。身近にあって触れたり、一緒
ない所は、はしょっているように思われます。私が百
に歌えたりしないと難しいと思う。消してしまっては
ぐらい知っていないと十伝えられないと思います。一
いけないものだと思います。実際、環境がなく、太鼓
番良いのは生演奏なのですが。私も雅楽は生で聞いた
でもどの学校にもあるということはなく揃えるのも大
ことはありません。
変です。ただ、来ていただいて教えてもらうというよ
うなことはありがたいです。なかなか絵の中だけでは
・学校に和楽器は何もないです。高い物ですから。太
楽しい、そうなのだと理解するのは難しいと思いま
鼓を揃えるのも大変な現状なので。この地域自体に和
す。楽しむ、親しむところが鑑賞して終わりになって
楽器はなくて、中学校にいくつか太鼓があるくらいで
しまう場合が、雅楽は特にあります。教え方が分から
す。日本の伝統音楽が導入された時、正直なところ、
ない。教科書に出ているのはこれだけ(教科書を開い
私は苦手意識があるので、果たして私にできるのかな
て)ですからね。唐突過ぎて。
と、不安が一番大きかったです。和の物について基礎
的に何も知らないというのが現状です。だから、子ど
・日本の音楽は楽器もたくさん使わないし派手ではな
もにも本当に伝えることができないし、質問があった
いし、美しいのだけれどその美しさはまだ分からない
時も、どこをどう受け答えたらってことがあります。
と思います。慣れないものに対して、子どもだけでは
今後は、筝、尺八の体験をさせたいです。子どもは身
なく大人もそうなのでしょうが西洋の音楽に慣れてい
体で感じるのが一番残るので。
るものに対して日本の音楽は異なったものなので馴染
めないのではないでしょうか。日本の音楽を嫌がった
・三絃を借りても調弦しなければならないし、筝柱も
りしているのではなくて、触れなさすぎるし、今、テ
立てっぱなしではいけないので、その都度立てていた
レビから流れてくるのも西洋の音楽ばかりなので、知
ら筝柱が倒れて子どもが騒ぐし。目印がないというの
らなさすぎるのかもしれません。
は良い勉強になりました。そういった感じなので難し
いですね。触ってピッっていうのではないので。筝も
・学校はお金がないので和楽器がない。楽器に触れば
学校には一台(一面)しかないのですが筝柱の音をそ
良さが分かり、体験が大切ですね。一個でもあれば聞
のつど合わせるのは大変です。子どもに求められない
かせてやれるのですが。多くの子どもたちに指導しな
ですし。学校に楽器があるのとないのではとても違い
ければならないので、教える側が精通していれば良い
ます。洋楽器もそうですが。そのなかでやりくりする
のですが。ここの小学校では、4年生以上音楽専科が
ので、求められているようなことは出来ないというの
教えていますが、規模の小さい所は音楽専科がいない
が現状で実態です。
ので、CDだけかけて歌を歌って、リコーダーを吹い
てという感じになってしまいます。もっと深めようと
・子どもは筝に興味を持ったと思いますが、指導する
か太鼓をたたいてみようとか、そこまで自分がいきつ
となれば、たくさんの先生に来ていただかないと難し
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いと思います。楽器が揃えばやりたいのですが、私が
やらなければならないことになったら大変だと思いま
す。和楽器は価格が高いというイメージがあって揃え
るのは難しいし、授業数も少ないので難しいです。
ことができない。学ぶ環境がない。
・少ない授業時間の中では、十分に教えられないが、
一定の教育効果をあげなければならない。
・音楽の授業は、1単位時間を45分として、第1学年
68時間、第2学年70時間、第3・4学年60時間、第
・今後自分で授業をやることになったら、弾き方もで
5・6学年50時間である。この授業数の中で日本の
すが準備の仕方が分からないです。
伝統音楽に充てられるのは、平均して3・4時間で
ある。
・本当にやるとなったら、いろいろな知識が必要なの
・日本の伝統音楽に消極的な教師は、教材が不親切、
でこちらもかなり知っていないと教えられません。教
知識不足のため教え方が分からなく、雅楽はさっと
師が学習する場が必要だと思います。
流している。その結果、子どもたちは興味をあまり
示さない。なかには、この部分は授業では全く扱っ
・学校はお金がないので和楽器がない。楽器に触れば
良さが分かり、体験は大切ですね。
ていない。
・日本の伝統音楽に暗中模索ではあるが積極的に取り
組んでいる教師の授業は、子どもたちは興味を示す
・多くの子どもたちに指導しなければならないので、
教える側が精通していれば良いのですが。
が、教師自身が自分の知識に自信がない。
・日本の伝統音楽に力を入れて取り組んでいる学校も
あるが、ごく少数である。
・音楽の研修会というとほとんど歌唱指導です。和の
・教材で使用するCD・DVD等購入したいが高価であ
物について基礎的に何も知らないというのが現状で
る。学校に購入要望書を提出しても却下される。
す。
・少子化であり、小規模の学校は音楽専科の教師がい
ないため、音楽専科の教師を補充してもらいたい。
4.調査からの共通の問題点
音楽専科の教師がいても音楽を専門的に勉強してお
それぞれ置かれている立場の違いはあるが教師が提
らず、他の教師より多少音楽が得意という理由で音
示した共通の問題点をまとめると下記のとおりであ
楽専科に選ばれている学校が多い。
る。
・地方は、日本の伝統音楽(特に雅楽)の環境が貧困
である。
・学校に和楽器がない。
・特に雅楽で使用される楽器を、見たことも、触った
5.4のまとめ
こともないので、正確に説明できない、教えられな
インタビューの内容からわかるように、現場は混乱
い。
し、どのように教えれば良いか模索状態である。ただ、
・教師は忙しくて勉強する時間がない。
現場の教師は興味が全くないのではない。義務で行わ
・指導書は表面的なことしか書いていないため充分理
なければならない状況はあるが、そういうことが読み
解できず、
どのように指導したらよいかわからない。
取れる。児童、生徒の耳を日本の伝統音楽に向けさせ
・基礎的なことを知らないので、子どもの質問にどう
るには現場の教師による影響が強く、指導する(出会
受け答えすればよいかわからない。
う)教師の考え方、感性が大きな影響を与えるのでは
・日本の伝統音楽の研修会はほとんどないが、あって
ないだろうか。現場の教師の多くは、日本の伝統音楽
も楽器の演奏法が中心であるため詳しい内容を学ぶ
の本質を理解しないで表面的に扱っているように思わ
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れる。地方は特に日本の伝統音楽を生で聞いたり観た
筆者も和楽器奏者と協力し、教育現場で授業、演奏
りという環境が貧困であり、邦楽の響きに直接接した
を行い、和楽器を身近に感じてもらうため和楽器とピ
り、本物の楽器を見たり触った経験のない教師が多い
アノのコラボレーションで演奏活動を行っている。今
のである。現在の教師は西洋楽器を使っているので、
後も教育現場に密着し、微力ではあるが教育現場に役
和楽器は難しいという先入観があり、日本人でありな
に立つ手立てを考えながら実践していきたいと思う。
がら、日本の楽器が難しいと思うのは変であるがそれ
が現状である。インタビューを実施して想像していた
以上に現場の教師の日本の伝統音楽に対しての意識、
謝 辞
知識の貧困さその状況下で教えることの大変さを痛感
お忙しい中、快くインタビューに応じてくださった
した。
小学校の先生方に深く感謝申し上げます。
6.結 び
マスメディアの発達により音楽の概念も大きく変化
している状況で、学校現場の教師は、少ない授業時間
で効果的な日本の伝統音楽を行うには、教える教師の
意識、知識そしてコーディネイト力が求められる。今
回のインタビューは地方の小規模な地域ではあるけれ
ども、教員が伝統音楽に持っている基本的な悩みとい
うのは全国に共通するものがそこにあるだろうし、大
都市にはない地方独自の悩みを持っている。現場自体
の悩みと日本の伝統音楽を教えるという悩み等、二重
苦、三重苦のなかで、教師は懸命に努力しているので
ある。特に都市では人々が容易に日本の伝統音楽に触
れる場があるが、地方になると、プロの演奏、舞台等
生で観賞する機会も限られてくるのが実情である。日
本の伝統音楽の指導者も多くない地方での日本の伝統
音楽の教育が、最も典型的に文部科学省が推進する意
図を充分に反映されない地域になっている。今後は、
そういうところに目配りをした教育環境をつくるべき
ではないだろうか。
教育現場に日本の伝統音楽が導入され、時は経過
し、現在は浸透期に入っているにも関わらず、教育現
場は厳しい状況である。
新指導要領(平成20年度版『学習指導要領 音楽』
には、随所に「和楽器」「我が国や郷土の音楽」「日本
的な音楽の要素」が触れられており、我が国の音楽の
指導を充実させることが求められている。
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