貨物船大丸のり養殖施設損傷事件(簡易)

平成 18 年広審第 47 号
貨物船大丸のり養殖施設損傷事件 (簡易)
言 渡 年 月 日
平成 18 年 12 月 13 日
審
庁
広島地方海難審判庁(野村昌志)
官
前田昭広
人
A
名
大丸機関長
判
副
理
受
事
審
職
海 技 免 許
損
四級海技士(航海)
害
大丸・・・・・・・損傷ない
のり養殖施設・・・のり網等に損傷
原
因
船位確認不十分
裁
決
主
文
本件のり養殖施設損傷は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
裁決理由の要旨
(海難の事実)
1
事件発生の年月日時刻及び場所
平成 17 年 1 月 17 日 15 時 30 分
香川県荒神島南方沖合
(北緯 34 度 27.0 分
2
船舶の要目
船
種
船
名
貨物船大丸
総
ト
ン
数
197 トン
長
50.52 メートル
登
録
機 関 の 種 類
出
3
東経 133 度 57.3 分)
力
ディーゼル機関
514 キロワット
事実の経過
大丸は,平成元年 4 月に進水した,レーダー 2 台及びGPSを装備する船尾船橋型の鋼製
貨物船で,A受審人及び船長が乗り組み,鋼製コイル約 600 トンを積載し,船首 2.9 メートル
船尾 4.0 メートルの喫水をもって,平成 17 年 1 月 17 日 13 時 00 分広島県福山港を発し,大阪
港に向かった。
ところで,当時,香川県香川郡直島町宮ノ浦西方沖にあたる荒神島南方には,B組合のの
り養殖漁場(以下「のり養殖漁場」という。)があって,同漁場区域が爼石(まないたいし)
灯標並びに同灯標からそれぞれ 254 度(真方位,以下同じ。)1,200 メートル,302 度 1,550 メ
ートル及び 350 度 750 メートルの各地点を順次結ぶ線によって設定され,また同漁場には区域
の北西端及び南西端を示す灯浮標のほか多数の灯浮標などが設置されていた。A受審人は,
昭和 54 年ごろから内航貨物船に乗り組み,航海士や船長として瀬戸内海を航行した経験が豊
富にあり,同漁場の状況などを熟知していた。
14 時 30 分A受審人は,岡山県六口島北方沖合で,単独の船橋当直に就き,本州南岸沿いを
東行した。
15 時 22 分少し過ぎA受審人は,犬戻鼻灯標から 229 度 1,600 メートルの地点に達したとき,
針路を 077 度に定め,10.0 ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵により進行し
た。
針路を定めて間もなく,A受審人は,船橋右舷後部の海図台で日報などの書類の作成を始
め,時折,周囲の見張りを行いながら続航し,15 時 25 分半犬戻鼻灯標から 197 度 850 メート
ルの地点で,犬戻鼻や荒神島などを目測することにより,間もなく左転して同島西岸沖を北
上する針路に転ずる予定地点に至ることを知り,前路に他船を認めなかったことや船首方の
のり養殖漁場まで距離もあったことから,しばらくこのままの針路で航行を続け,同漁場の
手前で左転して北上することとし,再度,海図台に赴き,書類の作成を行って進行した。
15 時 28 分少し過ぎA受審人は,犬戻鼻灯標から 139 度 850 メートルの地点に至り,船首方
ののり養殖漁場まで 600 メートルとなったが,書類の作成に気を奪われ,船位の確認を十分に
行わなかったので,針路を転ずる地点に至ったことや同漁場に向首進行したまま接近する状
況となったことに気付かずに続航した。
こうして大丸は,A受審人が書類の作成に没頭したまま進行し,15 時 30 分犬戻鼻灯標から
115 度 1,200 メートルの地点において,原針路原速力のまま,のり養殖漁場に乗り入れ,これ
を通過した。
当時,天候は晴で風力 2 の北西風が吹き,潮候は上げ潮の末期にあたり,視界は良好であ
った。
しばらくしてA受審人は,のり養殖漁場に乗り入れたことを知ったものの,そのまま航行
を続けていたところ,船長が異常に気付いて昇橋し,事後の措置にあたった。
その結果,大丸に損傷はなかったが,のり網 1,280 枚などに損傷を生じた。
(海難の原因)
本件のり養殖施設損傷は,香川県荒神島南方沖合において,東行中,船位の確認が不十分で,
同沖合にあるのり養殖漁場に向首進行し,同漁場に乗り入れたことによって発生したものであ
る。
(受審人の所為)
A受審人は,香川県荒神島南方沖合において,単独の船橋当直にあたって東行する場合,船
首方にのり養殖漁場があることを知っていたのであるから,同漁場に乗り入れることがないよ
う,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同受審人は,書類の作成に気
を奪われ,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,その後,針路を転ずる地点
に至ったことに気付かず,のり養殖漁場に向首進行したまま同漁場に乗り入れる事態を招き,
のり網 1,280 枚などに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第 4 条第 2 項の規定により,同法第 5 条第 1
項第 3 号を適用して同人を戒告する。