行政説明①「LD・ADHD・高機能自閉症等の発達障害のある子どもへの

行政説明①「LD・ADHD・高機能自閉症等の発達障害のある子どもへの支援」
古川
聖登(文部科学省特別支援教育課
課長補佐
(併)軽度発達障害支援専門官)
1.はじめに
LD,ADHD,高機能自閉症などの発達障害については、アインシュタイン,ビルゲイ
ツ,トムクルーズなどの著名人にもそのような特徴があるといわれているように、苦手なこ
とのみ強調するのではなく、その特徴を理解し、才能を伸ばすためにいかに支援していく
かということがとても重要である。
発達障害の個々の定義については、文部科学省で示しているものがある。
①学習障害(LD)の定義
<Learning Disabilities>
(平成 11 年7月の「学習障害児に対する指導について(報告)」より抜粋)
学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、
書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す
様々な状態を指すものである。
学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定される
が、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の
原因となるものではない。
②注意欠陥多動性障害(ADHD)の定義<Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder>
(平成 15 年 3 月の「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」参考資料より)
ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を
特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。
また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能
不全があると推定される。
③高機能自閉症の定義
<High-Functioning Autism>
(平成 15 年 3 月の「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」参考資料より)
高機能自閉症とは、3歳位までに現れ、①他人との社会的関係の形成の困難さ、②言
葉の発達の遅れ、③興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の
障害である自閉症のうち、知的発達の遅れを伴わないものをいう。
また、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
※アスペルガー症候群とは、知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち
言葉の発達の遅れを伴わないものである。なお、高機能自閉症やアスペルガー症
候群は、広汎性発達障害に分類されるものである。
「通常の学級に在籍する特別な教育支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調
査」(平成 14 年文科省調査)によれば,小・中学校の通常の学級に、学習面や行動面
で著しい困難を示すと回答された児童生徒は 6.3%程度存在する可能性があることが
分かっている。
発達障害のある子どもへの対応に当たっては、障害種別の対応に固執せず、その子
が何に困っているのかに注目するべきである。「一人一人のニーズに応じた教育」と
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いう発想の転換が求められている。
2.特別支援教育とは
「特別支援教育」は、学校教育法の施行に伴い、4月から本格実施されることとなった。
特別支援教育を発達障害児への支援のことであると勘違いする方もいるようだが、そうで
はなく、従来の特別な場で指導を行う「特殊教育」をさらに発展させ、障害のある子ども
一人一人の教育的ニーズに応じた支援を全ての学校で行うものである。
また、
「発達障害者支援法」が平成17年4月から施行になり、発達障害の定義が初めて
示された。条文には、早期発見・早期支援などの国の責務などが明記されるなど、教育や
就労なども含め、総合的な支援が盛り込まれており、画期的なものである。
第4条には「国民の責務」も規定されていることをみなさんご存知であろうか。
「 国民は、
発達障害者の福祉について理解を深めるとともに、社会連帯の理念に基づき、発達障害者
が社会経済活動に参加しようとする努力に対し、協力するように努めなければならない。」
というものである。本日お集まりの方々はその責務を果たしておられると思うが、今後と
も発達障害のある子どもの支援にご協力いただきたい。
文部科学省では、教育などの国の責務を果たすため、これから説明するような事業など
を実施している。
子ども一人一人の教育的ニーズに応じた教育を行う「特別支援教育」の理念は、教育の
原点でもあるといってよい。
3.青少年相談との関係
昨今の学校・子どもをめぐる問題と発達障害のある子どもの支援とは、別の問題ではな
い。発達障害のある子どもへ適切な支援がなされないと、自己肯定感が低下し、二次的に
いじめや不登校などの問題が生じる場合もありうる。また,ニート・フリーターなどの事
例についても関連があるとの指摘もある。
問題行動があっても,「本人が努力してもできないことに起因している」可能性を考え
てみる必要がある。一つの機関だけで対応すると見落としがちなので、日頃から発達の専
門家がいる相談機関との情報交換が求められる。
4.これまで文部科学省で行ってきた主な施策
学校が特別支援教育を行いやすくするため、
「学校教育法」などを改正し、学校教育の仕
組みを大きく変える制度改正を行った。
「一条校」という言葉があるが、
「学校教育法」第一条の学校の構成を変え、盲学校、聾
学校及び養護学校を特別支援学校に変更した。
さらに、幼稚園、小・中・高等学校等の通常学級においても、特別な支援が必要な子ど
もを支援しなければならない旨を、新たに明記した。すなわち、第75条の「小学校,中
学校,高等学校,中等教育学校及び幼稚園においては……障害による学習上または生活上
の困難を克服するための教育を行うものとする。」の記述である。これで「うちのクラスは
通常学級ですから、特別支援教育は関係ない。」とは言えなくなり、必要に応じてやってい
ただかなければならなくなるわけだが、4月施行だからといわず,現在でも推進していた
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だいている。
また、制度の変更に対応した人員の充実も求められるところであるが、平成 18 年度に引
き続き、平成19年度予算についても教員加配の予算が計上されている。
さらに、特別支援教育の体制整備の状況であるが、
「校内委員会の設置」や「特別支援教
育コーディネーター」の指名などの整備を年々進めていただいている。しかし、まだ県に
よるばらつきも見られ,また教員の研修の受講率は半分程度とまだ低い。さらなる推進を
してまいりたい。
なお『小・中学校における LD,ADHD,高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備
のためのガイドライン』
(試案)を,現場で役立ててもらう冊子として作成した。文部科学
省のホームページからも見てもらえるようになっている。是非活用してほしい。
5.今後行おうとしている支援
19年度予算案には「発達障害早期総合支援モデル事業」
(10地域)及び「高等学校に
おける発達障害支援モデル事業」
(10校)を新規に計上しており,厚労省とも連携しなが
ら、実施する予定である。
また、発達障害への支援を行うセクションは多岐にわたり、文科省・厚労省ともに担当
課が多く、対策に重複や不足が生じやすく、バラバラの対応となるきらいがある。そこで、
独立行政法人国立特殊教育総合研究所のプロジェクト研究において,その理念をグランド
デザインとして示せるように、厚労省の協力も得ながら、話し合いがもたれている。
他に「職業的自立を推進するための実践研究」
「NPO 等を活用した実践研究」事業などを
立ち上げている。
『家庭教育手帳』は従来あったものだが,平成19年度配布分から発達障害等の内容が
追加される。発達障害に伴う問題についての基本的な情報が盛り込まれている。
また、発達障害児支援,介助等を行う「支援員」を確保するために、文科省から要求し
て,総務省の地方交付税に計上されることになった。ほとんどの自治体へ予算が行くはず
だが,その使いみちは各自治体に任される。これが支援員確保に使われてほしい。
さらに,特別支援教育の理解・啓発のための「特別支援教育全国フォーラム」を本年初
めて開催する。その他、学習指導要領改定の検討,特別支援教室制度の研究、幼稚園にお
ける発達障害支援教室研究などを進めている。
厚労省における支援は、医療、保健、福祉、労働などの分野で、生涯にわたるものであ
り、最近では、
「ハローワーク」における支援や,
「発達障害者支援センター」
(全国48箇
所)の設置拡大などの施策を推進されている。文科省においても、
「発達障害のある子ども
の早期からの総合的支援システムに関する研究」や各種事業を厚労省と連携して行うなど、
協力して施策を行っている。
6.おわりに
行政機関は縦割りが基本。
「 発達障害」の問題は、行政組織の連携を求める試金石である。
また、はじめに述べたように,この問題は教育の根幹に関わることであると思う。
「発達障害のある子どもの味方になってください!」
これを本日の研究集会ご参加の皆さんにもお願いしたい。
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