2012年1月号 - Shimizu Satoshi Patent Office

清水敏特許事務所
ニュースレター 2013年 1月
この号の目次
新年のご挨拶
欧州議会、「単一効」特許の採択
採択されたパッケージ
参加国は?
統一特許とは?
言語は?
統一特許を取得する方法
統一特許はすぐに取得できるでしょうか
「妥協」の統一特許裁判所
関連資料ページ
清水敏特許事務所について
新年のご挨拶
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
今回は、昨年12月11日に欧州議会で採択された「欧州単一効特許」について解
説します。
欧州議会、「単一効」特許の採択
2012年12月11日、欧州議会は、「統一特許保護の創成の領域
における拡大協力を実現する規則案」(2011年4月13日に提
案)として、欧州単一効特許を導入する規則、翻訳に関する規
則、及び統一特許裁判所に関する内容を含む法的パッケージ
について審議を行い、一部修正の上で採択しました。この議
決により、EUの大部分で統一的な効果を持つ特許を成立させ
る枠組がほぼととのったと言えます。しかし、この制度により
導入されることになる「欧州単一効特許」は、その名からも分かるように、まだ完
全な統一特許と呼ぶことはできません。今後、この欧州単一効特許の制度がどのよ
うに運用され、整備されていくかを注目する必要があります。なお、欧州単一効特
許を以下では単に統一特許と呼ぶことにします。
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採択されたパッケージ
今回、欧州議会に採択されたのは、以下の3つを含む、「統一特許パッケージ」と
呼ばれるものです。
• 欧州における統一効を持つ欧州特許(統一特許)を導入するための規則
• 統一特許に対して適用される言語的な枠組みを規定するための規則
• 特許について専属管轄を有する単一の裁判所(統一特許裁判所)を創立するため
の、EUメンバー国の間での国際協定
参加国は?
今回の統一特許の導入に参加する国は、EUの加盟国27カ国のうち、イタリアとス
ペインを除く25カ国です。統一特許裁判所の創立については、この25カ国にイ
タリアを加えた26カ国が参加します。スペインはどちらにも参加しません。
統一特許とは?
統一特許制度は、欧州特許庁の審査により特許査定が得られた出願について、25
カ国の全領域において同じ効果を有する特許権を発生させるという制度です。従来
の欧州特許のように、指定国ごとに別々の国内特許として権利化する制度からの大
幅な変更です。統一特許に関する裁判も、従来のように国ごとではなく、統一特許
裁判所により審理されることになります。EU全体に適用される真の統一特許制度へ
の大きな一歩ということができます。
言語は?
欧州の人と話していると、いずれも最低で3カ国語を話すことができ、人によっては
7カ国語が理解できるという人がいます。もちろん、欧州で使用されている言語が
互いに同じルーツを持つ何種類かの言語に分類されることにもよるのでしょう。こ
れは欧州内の民族が昔から互いに頻繁に接触・交流していることによります。例え
ばルーマニア語は、Romaniaという名前からも想像できるように、いわゆるロマン
ス語から発展したもので、フランス語、スペイン語、イタリア語、及びポルトガル
語等と同様のラテン系言語です。あるルーマニア人によると、彼はもちろんルーマニ
ア語が母語ですが、イタリア語、フランス語、スペイン語等はなんとなく分かるそ
うです。これは、これらの言語が互いにかなり類似していることによります。
一方で、欧州で使用される言語が数多くに分かれていることも確かです。例えばEU
の公用語は23言語だそうです。特に特許のように文章によって権利範囲を定める
場合には、使用される言語によって権利範囲の解釈が影響されることは必至です。
今回の枠組みでは、統一特許のための出願は、いかなる言語で行うこともできま
す。ただし、出願人は、出願の言語が英語、ドイツ語、及びフランス語(いずれも
EPOの公式言語)のいずれでもないときには、これら3言語のいずれかに出願を翻
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訳し欧州特許庁に提出する必要があります。したがって、統一特許は、EPOの公式
3言語の1つ、すなわち英語、ドイツ語、又はフランス語によって権利化されるこ
とになります。ただし、権利化前には、出願人は、クレームを、EPOの公式3言語
のうちの他の2言語に翻訳しなければなりません。
現在のように国ごとにその国で要求されている言語に翻訳する場合と比較すると、
翻訳コストははるかに少なくなることが期待されています。
ただし、最高12年を限度とする経過期間の間、ドイツ語又はフランスによる統一
特許(クレーム以外も含む)は、英語に翻訳しなければなりません。同じく、経過
規定として、英語による統一特許はEUの公式言語のいずれかに翻訳しなければなり
ません。これら経過規定は、オンラインの機械翻訳で高品質なものが利用可能とな
るまで適用されます。現在のところ、EUの公式言語のうち、13言語について、相
互の機械翻訳が利用可能となっています。
機械翻訳は以下のURL(欧州特許庁)で利用可能です。
http://www.epo.org/searching/free/patent-translate.html
統一特許を取得する方法
統一特許は、従来の欧州特許と同様、欧州特許庁で審査されます。審査により特許
可能となったときに、従来のように指定国を指定するかわりに「統一特許」を指定
すれば、前記した25カ国での統一特許を得ることが出来ます。なお、従来と同
様、国を指定してその国で国ごとに権利化することも出来ます。スペイン、イタリア
等はこの形で権利化することになります。また、欧州特許条約に加盟しているけれ
どもEUには加盟していない国(スイス等)も同様に指定することで権利化できると
思われます。
統一特許はすぐに取得できるでしょうか
残念ながら、統一特許を今すぐに取得することは出来ません。今回の規則等は、
2013年11月までの間に、参加国のうち、英、独、仏を含む13カ国が統一特許裁判
所に関する協定を批准しなければ発効しません。批准の前に参加国の間での協定に
署名する必要があり、署名は2013年の初めに行われるだろうと言われています。そ
の後に各国での批准が行われます。発効後に欧州特許庁で特許査定が出される出願
が対象になる筈ですので、最初の統一特許が発行されるのは2014年の4月頃ではな
いかと言われています。
「妥協」の統一特許裁判所
欧州特許裁判所は、今回の法案パッケージでは「単一」特許裁判所とされていま
す。にもかかわらず、合意によれば、欧州特許裁判所は以下のように3カ所に分かれ
て設置されることになりました。裁判所が設置される都市と、その都市で審理され
る出願の分野とを以下に示します。
•
ロンドン :化学、薬学、生活必需品
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•
ミュンヘン:機械工学
•
パリ :残り全て
EUの中でも、英、独、仏が特に重要な地位を占めていることは間違いありません。
そして、これら3カ国のうちのいずれが主導権を握るかが、EUの活動では常に問題
となります。今回のこの合意は、妥協の産物と言わざるを得ません。
関連資料ページ
• Council Regulation (EU) No 1260/2012 of 17 December 2012
implementing enhanced cooperation in the area of the creation of
unitary patent protection with regard to the applicable translation
arrangements (欧州連合にリンク)
• Regulation (EU) No 1257/2012 of the European Parliament and of the
Council of 17 December 2012 implementing enhanced cooperation in the
area of the creation of unitary patent protection (欧州連合にリンク)
• European Patent Office welcomes historic agreement on unitary patent
(http://www.epo.org/news-issues/news/2012/20121211.html) (欧州特許庁に
リンク)
清水敏特許事務所について
清水敏特許事務所は2001年に開設しました。昨年11月で、開設してから満11年
を迎えました。主に電機・ソフトウェア・機械関係の特許出願に注力してきました
が、3人の弁理士(清水敏、松本公雄、酒本裕明)により幅広い範囲で知的財産権
関係のお手伝いをいたします。 出張レクチャーも行います。 ご興味のある方は下記
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編集:清水敏(清水敏特許事務所)
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