高学年児童の疾走能力と跳躍能力の関連について

美作大学・美作大学短期大学部紀要
2009, Vol. 54. 1 ∼ 4
論 文
高学年児童の疾走能力と跳躍能力の関連について
Relationship between running and jumping ability at the upper-grade of elementary school
津 田 幸 保
キーワード:児童、疾走能力、跳躍、リバウンドジャンプ
1.はじめに
述べている1)。
児童期の疾走能力の発達は、身長の発達によるス
トライドの増加が主な要因である
6、8、9、10)
児童の疾走能力と立ち幅跳び、垂直跳び能力の関
。そのた
連を調べた研究はみられるものの 10、13)、リバウンド
め身長のばらつきが大きくなる小学校高学年におい
ジャンプ能力との関連を調べたものはほんど見当たら
ては、身長が高い児童は疾走能力も高くなる傾向にあ
ない。そこで、本研究では従来行われてきた立ち幅跳
る。しかし、宮丸らは3年生及び6年生男女に6週間
び、垂直跳びに、リバウンドジャンプパワーを加え、
のスプリントトレーニングを行わせ、6年生男子以外
小学校高学年期における疾走能力とどのように関連す
ではストライドの増加が認められたと報告しており、
るのかを明らかにする。
これは脚筋パワーの増大と関連していると述べてい
る 10)。また加藤らも疾走能力が優れている児童は、
2.方法
体力的要素も優れていたと報告している 6) 。つま
(1)対象
り、身長の低い児童でも、体力的要素が優れていれ
対象者は小学校5・6年生児童113名(男子58名、
ば、将来の体長の変化に応じ、疾走能力が著しく向上
女子55名)とした。対象者は同一校の児童である。
する可能性を秘めていると考えられる。そのため、疾
対象者の全体及び男女別の、身長、体重の平均値±SD
走能力と関連の強い体力要素をみつけることは、タレ
(標準偏差)を表1に示した。
ント発掘という観点からも意義深い。
Table1 Characteristics of subjects
図子らは陸上競技短距離・跳躍選手の体力要素の中
で、リバウンドジャンプパワーは疾走能力と強い関連
があると述べている 15)。リバウンドジャンプパワー
Height(cm)
Body mass(kg)
Entire (n=113)
144.9±8.0
37.8±8.3
とは0.2秒程度15)の短い踏切時間に発揮できるパワー
の大きさであり、0.1秒程度2)の接地時間である疾走
boys (n=58)
144.1±9.0
38.5±10.1
girls (n=55)
145.7±6.9
37.0±5.8
mean±SD
(2)実験内容
運動とは、筋の力発揮様式が類似している3、4、15)。
対象者に50m走(time)、立ち幅跳び(standing
このリバウンドジャンプパワーは垂直跳びや立ち幅跳
long jump:SLJ)、垂直跳び(Vertical Jump:VJ)、リバ
びと神経制御機構や力発揮に関する調節機序が異なる
ウンドジャンプを行わせた。50m走タイムは光電管
と報告されており
14)
、遠藤らもリバウンドジャンプ
計測器(Brower社製)を用い計測した。また側方より
の発達と垂直跳びの発達は必ずしも対応していないと
ビデオカメラ(canon社製:60f/s)でパンニング撮影
−1−
し、映像から50mの総歩数をカウントした。50mを総
た。ストライドはすべての項目と有意な相関がみられ
歩数で割ることで平均ストライドを、総歩数をタイ
た。ピッチは立ち幅跳び、垂直跳びと有意な正の相
ムで割ることで平均ピッチを算出した。立ち幅跳び
関が、身長、体重とは有意な負の相関がみられた。身
は砂場でメジャーを用いて計測した。垂直跳びはジャ
長比は立ち幅跳び、垂直跳び、RJPと有意な正の相関
ンプメーター(竹井機器製)を用いて計測した。リ
が、体重とは有意な負の相関がみられた。
バウンドジャンプは、発揮パワーをマットスイッチ
(DKH社製)を用いて計測した。5回連続ジャンプ
を行わせ、最もパワーの高いジャンプの値を採用した
(Rebound jump power:RJP)。いずれの計測も、十分
なウォーミングアップと練習動作の後行った。特に
リバウンドジャンプは動作に精通した陸上競技部員が
デモンストレーションを見せた後、練習、計測を行っ
た。すべての項目は2回通り計測を行い、高い数値を
分析対象とした。
Table2 Sprint and jumping ability of subjects
Time(s)
Stride(m)
SF(step/sec)
S/H(%)
SLJ(m)
VJ(cm)
RJP(w/kg)
Entire(n=109)
9.08±0.81
1.40±0.11
3.97±0.28
0.97±0.06
1.54±0.22
36.3±7.1
20.8±4.5
boys(n=57)
9.01±0.81
1.39±0.11
4.05±0.31
0.96±0.06
1.55±0.21
37.3±6.9
20.4±4.0
girls(n=59)
9.16±0.80
1.41±0.11
3.89±0.21
0.97±0.07
1.52±0.23
35.2±7.2
21.2±4.9
mean±SD
(3)統計処理
各測定項目の平均値および標準偏差を算出した。ま
た、各項目の関連は、Peasonの方法を用いて相関係数
を算出した。有意性は危険率5%未満とした。
3.結果
50m走タイム、ストライド、ピッチ(Step Frequency:
SF)、身長比(ストライド/身長)、立ち幅跳び、垂
直跳び、RJPの平均値±SDを表2に示した。また、こ
れらの項目に身長、体重を加えた9項目の相関係数を
表3に示した。50mタイムは体重以外すべての項目と
有意な相関がみられたが、身長との相関係数は低かっ
Fig.1 Relationship between RJP and S/H
Table3 Correlation of running and jumping factors
Time
Stride
SF
S/H
SLJ
VJ
RJP
Height
Body Mass
Time
Stride
−0.66***
SF
−0.47***
−0.35***
S/H
−0.60***
−0.72***
−0.12
SLJ
−0.81***
−0.62***
0.28**
0.48***
VJ
−0.74***
−0.58***
0.23*
0.46**
0.81***
RJP
−0.52***
−0.40***
0.15
0.52***
0.52***
0.50***
Height
−0.24*
−0.59***
−0.36***
−0.14
0.32***
0.28**
−0.03
Body Mass
0.02
−0.25**
−0.29**
−0.35***
0.03
0.05
−0.28**
0.76***
*:p<0.05 **:p<0.01 ***:p<0.001
−2−
4.考察
年児童の疾走能力がリバウンドジャンプの影響を受け
斉藤らは、児童期の疾走能力発達は①形態的な発
たという結果は、妥当なものであると考えられる。
達(下肢長の発達に伴うストライドの増加)と②機能
一方ピッチとリバウンドジャンプパワーには有
的な発達(下肢長が発達しても同じピッチを維持し、
意な相関がみられず、立ち幅跳びでは男子のみ(r
下肢長の増加による体質量と重量負荷の増加に対して
0.29)、垂直跳びでは女子のみ(r 0.28)有意な相関
さらにストライドが増加する)によるものであると述
がみられたが、相関係数は低かった。ピッチを高める
べており
11)
、同様に身長の発達によるストライドの
ためには、脚を大きく蹴り残さない、踵を臀部に引き
6、8、9、10)
付ける等の技術が必要になる 7)。そのため各跳躍能
増加を指摘する文献は多い
。本研究でも先
行研究と同様に、ストライドと身長には有意な正の相
力との関連は小さかったのだと考えられる。
関がみられた。一方ピッチと身長には負の相関がみら
本研究の結果から小学校高学年児童の疾走運動で
れ、斉藤らの指摘と一致した。
は、ストライドを増加させるためにリバウンドジャン
本研究ではこれらの結果を踏まえ、体長の発達では
プパワーを高めることが有効であり、女子のほうがそ
なく、筋力の発達が疾走能力にどのような影響を与え
の傾向が強いことが明らかになった。またピッチと跳
るかを調べようとした。そこで、ストライドを身長で
躍能力との関連は低いため、技術との関連が強いと推
除し、ストライドの身長比を算出した。これにより、
察された。
身長がストライドに与える影響を取り除くことができ
る。ストライド身長比と各跳躍能力の相関を調べる
5.まとめ
と、リバウンドジャンプパワーが最も相関が高く(全
本研究では従来行われてきた立ち幅跳び、垂直跳び
体:r 0.52,男:r 0.46,女:r 0.61)、立ち幅跳び(全
に、リバウンドジャンプパワーを加え、小学校高学年
体:r 0.48,男:r 0.34,女:r 0.57)と垂直跳び(全体:r
期における疾走能力とどのように関連するのかを明ら
0.46,男:r 0.37,女:r 0.59)はほぼ同値であった。これ
かにしようとした。その結果を以下のようにまとめる
は男女別でみても同じ傾向であった。また、3種類す
ことができる。
べてにおいて女子の相関係数が男子より高かった。リ
① 身長の影響を取り除いたストライド身長比と各跳
バウンドジャンプは接地時間が0.2秒程度であり
15)
、
躍能力の関連は、立ち幅跳び、垂直跳びよりRJP
筋の活動様式は伸張―短縮サイクル運動である。他の
2種目は接地時間が0.5∼1.0秒程度と長く
12)
の関連が最も高かった。
、筋の活
② ピッチは男女ともRJPとの関連はみられず、立ち
動様式は関節の伸展運動である。このような違いか
幅跳びとは男子のみで、垂直跳びとは女子のみ有
ら、接地時間が0.1秒程度である疾走運動では、垂直
意な相関がみられた。
跳びの能力よりもリバウンドジャンプの能力が高いほ
ど疾走能力が高いという報告がみられる
3、15)
③ 学校高学年児童の疾走運動では、ストライドを増
。しか
加させるためにリバウンドジャンプパワーを高め
し、これは陸上競技選手を対象とした研究であり、小
ることが有効であり、女子のほうがその傾向が強
学生児童を対象にした報告はみられない。したがって
かった。またピッチを増加させるためには、技術
本研究で明らかになった、高学年児童のストライドの
指導が必要であると推察された。
増加にリバウンドジャンプパワーが最も影響している
という結果は、児童の疾走運動のトレーニングに生か
せる新たな知見であると考えられる。遠藤らはリバウ
ンドジャンプ能力の発達は9 13歳ごろに、上手い下
手の差が拡がると報告しており 1)、本研究での高学
−3−
14)米田継武(1989). すばやい力発揮の制御 Japanese Journal
引用参考文献
of Sports Science,10,657-662
1)遠藤俊典・田内健二・木越清信・尾懸貢(2007). リバウ
15)図子浩二・高松薫・古藤高良(1993). 各種スポーツ選手
における下肢の筋力およびパワー発揮に関する特性 体育
ンドジャンプと垂直跳の遂行能力の発達に関する横断的
研究 体育学研究 ,52,149-160
2)福田厚治・伊藤章(2004). 最高疾走速度と接地期の身体
学研究 , 38, 265-278
16)図子浩二・高松薫(1995). バリステックな伸張−短縮サ
イクル運動の遂行能力を決定する要因−筋力及び瞬発力
重心の水平速度の減速・加速 : 接地による減速を減らす
ことで最高疾走速度は高められるのか 体育学研究 , 49,
29-39
に着目して−体力科学 , 44, 147-154
17)図子浩二(2008). 思春期後期の生徒における加速及び全
3)岩竹淳・鈴木朋美・中村夏実・小田宏行・永澤健・岩壁
達男(2002). 陸上競技選手のリバウンドジャンプにお
ける発揮パワーとスプリントパフォーマンスとの関係 体育学研究 , 47, 253-261
4)岩竹淳・山本正嘉・西薗秀嗣・河原繁樹・北田耕司・図
子浩二(2008). 思春期後期の生徒における加速及び全力
疾走能力と各種ジャンプ力及び脚筋力との関係 体育学研
究 , 53, 1-10
5)加 藤 謙 一・ 山 中 任 広・ 宮 丸 凱 史・ 阿 江 通 良(1992).
男子高校生の疾走能力および最大無酸素パワーの発達 体
育学研究 , 37, 291-304
6)加藤謙一(2004). 走能力の発育発達 金子公宥・福永哲夫
編 バイオメカニクス−身体運動の科学的基礎−杏林書
院 , 東京 , 178-185
7)川本和久(1987). 小学生の疾走動作に関する研究 福島大
学教育学部論集 , 41, 1-12
8)宮 丸 凱 史(1978). 走 る 動 作 の 発 達 体 育 の 科 学 , 28,
306-313
9)宮丸凱史(1995). 成長に伴う走能力の発達−走りはじめ
から成人まで − Japanese Journal of Sports Science,14(4),
427-434
10)宮丸凱史編(2001). 疾走能力の発達 , 杏林書院 , 東京 ,
81-86
11)斉藤昌久・伊藤章(1995). 2歳児から世界一流選手まで
の疾走能力の変化 体育学研究 , 40, 104-111
12)高松薫・図子浩二・会田宏・吉田亨・石島繁(1989).
デプスジャンプにおける台高と踏切中の膝曲げ動作の相
違が跳躍高および下肢にかかる負荷特性に及ぼす影響 昭
和 63 年度日本体育協会スポーツ科学研究報告 No.IX プ
ライオメトリックアクティブ筋力トレーニングに関する
研究−第2報− ,46-55
13)津田幸保
(2007). 児童期の立幅跳び能力が走運動のトレー
ニング効果に与える影響 美作大学紀要 , 40, 41-44
−4−
力疾走能力と各種ジャンプ力及び脚筋力との関係 体育学
研究 , 53, 1-10
美作大学・美作大学短期大学部紀要
2009, Vol. 54. 5 ∼ 17
論 文
高齢者の介護予防に果たす道の駅の役割と効果
―農村地域における介護予防活動の新たな取り組みのあり方―
Roles and effects of roadside station in care prevention for the elderly people
小坂田 稔
キーワード:道の駅 介護保険 介護予防 地域福祉 ソーシャル・キャピタル
1.はじめに
2.調査の方法
2006年の介護保険改正により、新たに介護保険制度
岡山県北部の道の駅の中でも特に活発な活動を行っ
の中に介護支援介護予防事業が加わり、以後、各市町
ている3カ所の道の駅出荷・出品者を対象として、配
村において様々な介護予防活動が取り組まれてきてい
票調査法による実態調査を実施。さらに当該道の駅管
る。こうした活動の多くが、訓練機器を使用した運動
理者への半指示面接法による聞き取り調査を実施し
や筋力向上体操を活動の中心プログラムとしている。
た。調査実施は、2006年10月から2007年7月まで、回
また、介護施設や病院、あるいは公民館などの地域施
答協力者101人であった。調査対象とした道の駅は次
設を開催場所としており、週1回程度そこに出かけて
の通りである。
(来てもらって)、予防運動や活動を行って帰るとい
・道の駅「久米の里」(津山市宮尾)
うスタイルでの取り組みとなっている。このように
・道の駅「奥津温泉(ふるさと物産館)」(苫田郡鏡
現在取り組まれている介護予防活動の多くは、特定の
(限定された)訓練プログラムにより、特定の場所
野町)
・ファーマーズマーケット「サンサンくめなん」(久
で、特定の日時に行われるものであり、普段の日常生
米郡久米南町)
活の中で、ごく自然に、継続的に取り組んでいける介
3.「道の駅」とは
護予防の取り組みとはなっていない。
こうした介護予防を農村部での高齢者の暮しとして
(1)「道の駅」の経緯
考えた時、日常生活で心身機能を最も働かせている場
「道の駅」は、1991年に山口県・岐阜県・栃木県に
は、田畑に出かけての農作物づくりや加工品づくりで
おいて実験的に設置したことに始まる。この成果を
ある。そして、最近は、その成果物を出荷・出品して
もとに、国土交通省(旧建設省)が、1993年度から始
いく道の駅活動が、生きがいや外出の機会づくりにつ
まった第11次道路整備5ヵ年計画策の一つとしてこれ
ながっており、特に高齢者の心身機能の維持・向上に
を位置付け、「『道の駅』の整備についての要綱」を
つながっているように思われる。
策定するなど、今日までその設置を積極的に推進して
本研究は、介護予防に果たすこうした道の駅活動に
きた。「道の駅」の名称は、1990年に開催された中国
注目し、道の駅活動が果たす役割と効果、さらにはこ
地域づくり交流会のシンポジウムおいて提案され、
れからの介護予防活動のあり方について考えていく。
使用されるようになった。その結果、全国に836箇所
(2008年9月現在)の道の駅が整備され、年々その数
−5−
は着実に増加してきている。その内、中国地区では78
市町村又は市町村に代わり得る公的な団体(第三セク
箇所(岡山県15、鳥取県22、島根県22、広島県13、山
ターなど)により設置・運営されている。施設として
1)
口県18)となっている
。(図1)
は、駐車場、トイレ、レストラン、物産館、案内所、
イベント広場、交流ホール、会議室等を整備し、道路
(2)道の駅の目的と機能
利用者のための「休憩機能」、地域振興のために、歴
「道の駅」は、長距離ドライブや女性・高齢者ド
史・文化・産物等に関する情報提供と交流の場として
ライバーの増加という状況において、道路利用者が安
の「情報交流機能」、地域と地域・町と町が手を結び
心して自由に立ち寄れ、利用できる、快適な休憩のた
活力ある地域づくりをともに行っていく「地域の連携
めの「たまり」空間、休憩施設として誕生した
2)
。
機能」の3つの機能を備えている3)。(図2)
「道の駅」は、道路利用者に快適な休憩の場を提供す
るとともに、道路情報や周辺観光、医療などの情報発
(3)道の駅と出品・出荷・販売活動
信を行い、地域連携の拠点とすることを目的として、
道の駅は、収入確保や生きがいづくり、地域おこ
地域の自主的な取り組みと発意に基づき、利用者の利
しなどを目的として、農家を主とした地域住民に季節
便性がよく、地域振興に役立ち、交通安全上問題ない
ごとの新鮮な野菜や果物、花卉などの農作物、炭製品
国道・県道沿いなどに設置されている。その運営は、
(炭俵や木酢など)、山野草・葛細工、味噌・豆腐・
漬け物・醤油などの加工品、さらには手芸品など、
様々な物品の出荷・出品の場としての機能を持たせ、
活発な販売活動を展開している。こうした活動展開の
ために、出荷・生産者組合を組織化し、野菜部会・加
工部会・冷蔵部会・手芸部会・穀物部会・園芸部会な
どの部会を作り、その運営を会員参加により行ってい
る所が多い。また、ほとんどの道の駅が、利用者(お
客)との交流を兼ねて、出荷者・出品者である会員自
図 1 中国地方の「道の駅」
資料;全国「道の駅」連絡会議 ㈶ 道路保全技術センター内)
図2 道の駅の持つ3つの機能
出所;国土交通省道路局ホームページ資料をもとに作成
http://www.mlit.go.jp/road/station/road-station_outl.html
写真;道の駅販売コーナー・加工品工場(筆者撮影)
−6−
身が交代で販売に参加している。さらに、食や地域の
一般国道53号線沿いにあり、JAによる運営となっ
特産物、郷土料理(食文化)等についての理解を深め
ている。観光客・道路利用者・地域住民など1日約
るため、利用者や地域の子どもや高齢者等を対象に加
500人∼600人程度の利用状況である。土ひねりが楽し
工体験学習等に取り組んでいる所もある。このように
める木造平屋の工房、もちやせんべいなどの食品類を
道の駅は、様々な出荷物・出品物の販売を通して、地
生産販売する食品加工施設のほかに、施設の中心には
域おこしをめざした活動を展開している。
「ふれあいの館」を配置している。
この「ふれあいの館」には、特産物販売コーナーや
4.調査対象「道の駅」の概要
情報コーナー、和風レストラン、軽食喫茶コーナーが
①道の駅「久米の里」(津山市宮尾)
あり、二階には和室と研修室があり、多くの地域住民
一般国道181号線沿いにあり、第三セクターによる
が利用できるようになっている。
運営となっている。観光客・道路利用者・地域住民
出荷者・出品者は、JA津山野菜部会加入者であ
など1日約500人程度の利用状況である。年間売上金
り、その数は286人となっており、常時ほぼ全員が出
総額は、約2億3,139万円(平成17年度)となってお
荷・出品している。
り、その額は年々増加している。
出荷・出品者は青空生産組合加入者であり、その数
③道の駅「奥津温泉(ふるさと物産館)」
(苫田郡鏡野町)
は260人、常時出荷者は130人となっている。主に、以
一般国道179号線沿いにあり、株式会社による運営
下の3つの館活動に取り組んでいる。
となっている。観光客・道路利用者・地域住民など
⃝特産物販売所「仙人館」
1日約800人程度の利用状況である。年間売上金総額
この館では、久米の豊富な特産品を販売とともに特
は、約3億7,932万円(平成18年度)となっており、
産物出荷組合・加工グループ等により久米地域の特産
その額は年々増加している。
品等のPRと情報発信等を行っている。
出荷・出品者は出荷組合加入者であり、その数は
⃝農産物特売施設「活菜館」
162人となっており、常時ほぼ全員が出荷・出品して
この館では、青空市生産組合が生産した「新鮮・安
いる。旬彩市場、特産品コーナーがあり、地元の新鮮
全・安心」な朝採り野菜等を出荷・販売している。
野菜、奥津で栽培された花、民芸品、手芸品などあふ
⃝農家レストラン「食遊館」
れている。
この館では、白鳳カツ御膳や仙人うどんなど、久米
地域の農産物等を使ったメニューを工夫し、販売して
5.道の駅出荷活動・出品者の状況
いる。
―調査結果から見えてくること
(1)性別・年齢構成
②ファーマーズマーケット「サンサンくめなん」(久
米郡久米南町)
回答者のうち、男性56%、女性44%と男性がやや多
くなっている。(図3)年齢構成では、70歳代が最も
多く35%、次いで60歳代31%、80歳代17%となってお
り、全体の83%が60歳以上となっている。(図4)出
荷者・出品者の平均年齢は68.6歳となっており、道の
駅の活動は、高齢者を主体とした取り組みといえる。
写真;道の駅「サンサンくめなん」(筆者撮影)
(2)健康状態
出荷者・出品者の健康意識では、「少し良くない」
−7−
者は14%と少なく、「大変良い」「まあまあ健康」
(3)外出状況
「普通」を合わせて86%の者が「健康である」と考え
外出先を見ると、「道の駅」が76人(75.2%)と
ている。(図5)このことは、わが国の60歳以上の高
最も多く、次が「田・畑」72人(71.3%)、農協53人
齢者で「健康である」と考えている者が64.4%である
(52.5%)なっている。(図9)このように主たる外
4)
ことと比べるとかなり高い割合を示している
。
食欲を見ると、「月に数回食欲がない」者が10人と
1割いるが、84人・約8割強の者が毎日食欲があると
答えている。(図6)また、毎日の睡眠状態では、58
人と約6割の者が熟睡できている。しかし、「ほぼ毎
日夜中に目が覚める」「時々眠れない日がある」者が
37人と約4割弱いる。(図7)
このように特に大きな病気はない一方で、かなりの
者が腰痛や膝痛、肩こりなどの症状を上げており、高
齢者特有の問題を抱えている。(図8)しかし、一般
図 5 健康状態
的な65歳以上高齢者の有訴者率は49.3%と約5割の者
が症状を自覚していることと比較すると低い割合と
なっている5)。
図3 性別
図 6 食欲の状況
図4 年齢
図 7 毎日の睡眠状況
−8−
出先が道の駅への出荷・出品に関係する所となって
(4)収入状況
いる。さらにその外出頻度も「1週間に3,4日程
道の駅への出荷・出品による1ヶ月当たりの収入
度」が33人(32.7%)く、次に「毎日外出している」
状況では、「1万∼5万円未満」が52人(65.3%)
が24人(23.8%)、「1週間に1,2日程度」12人
と最も多く、次いで「5万∼10万円未満」が19人
(11.9%)となっている。(図10)このように、69人
(18.8%)、10万円以上が14人(13.9%)となってい
(68.3%)の者が、道の駅に関係する外出を1週間に
る。(図11)こうした収入額について58.4%と約6割
1日以上行っており、高齢者の外出先として道の駅が
の者が「満足している」と答えている。(図12)
重要な役割を果たしていることが分かる。
道の駅出荷者・出品者の平均所得は約77.2万円と
なっており、全国の高齢者世帯の平均稼働所得(年
間)は54.5万円と比べて多い状況となっている6)。
図 8 気になる健康状況(複数回答)
図 10 道の駅での外出頻度(1ヶ月)
図 9 主たる外出先(複数回答)
図 11 道の駅出品による収入(1 ヶ月)
−9−
入者に商品が喜んでもらえること」43人、「仲間と話
をすること」38人、「健康づくりになること」35人、
「利用者と話をすること」22人と続いている。「外出
先があること」と答えた人も10人いる。(図14)この
ように様々な要因が重なって、「生きがい・やりが
い」につながっており、道の駅活動は、「高齢者自身
が、自分らしい生活や自己実現を実感できることに、
その本質がある。」[2]とする介護予防活動に重なる
図 12 出品収入満足度
6.介護予防に果たす道の駅活動の役割と効果
(1)介護予防とは
介護予防とは、高齢者が「要介護状態になること
をできる限り防ぐこと」(発生予防)と「要介護状
態になっても状態がそれ以上悪くならないようにす
ること」(維持・改善)の2つの予防を意味してい
る[1]。こうした介護予防は、「高齢者の心身の状態
図 13 道の駅への出品活動のいきがい度
像の変化、つまり要支援・要介護状態になることの
予防や、要介護状態の維持・改善を図るのみではな
く、いかなる状態にあっても高齢者自身が、自分らし
い生活や自己実現を実感できることに、その本質があ
る。」[2]といえる。道の駅への出荷・出品活動は、
こうした介護予防の本質的な意味からみると大きな効
果と意味を果たしてきているようにみえる。
(2)介護予防に果たす道の駅活動の役割と効果
1)生きがい・やりがいへの役割
道の駅への出荷・出品活動の果たす生きがい度を
見てみると「おおいになっている」と答えた者が63人
(62.4%)と最も多く、次に「少しはなっている」が
27人(26.7%)であり、全体の約9割の人にとって、
道の駅活動は「生きがい」となっている。(図13)こ
うした道の駅活動の何が「生きがい・やりがい」と
なっているかでは、「農作物を栽培すること」が58
人と最も多く、次いで「収入を得ること」57人、「購
− 10 −
図 14 道の駅出荷活動の生きがい等の内容
(複数回答)
ものといえる。
ように、道の駅出荷者・出品者にとっては、道の駅が
最も回数の多い外出先となっている。(図9)また道
2)心身の健康への役割
の駅に関係する所が外出先として多く上がっており、
道の駅への出荷・出品活動と健康との関係では、
道の駅に関する外出が回数的にも多いことから(図
先に見たように約9割の出荷者・出品者が「健康であ
10)、道の駅活動は、出荷者の生活空間の広がりに大
る」としている。この割合は、一般高齢者よりも約
きな役割を果たし、このことが生活機能の低下を防止
2割程度高く、道の駅活動への参加が、健康意識だ
している。[図15]さらに、「外出先があること」が
けではなく、食欲や睡眠など、高齢者の健康に影響を
「生きがい・やりがい」につながっていることからも
及ぼしていることが分かる。このことは、「道の駅へ
道の駅の「いきいきとした暮らしづくり」への役割は
の出荷・出品活動が健康に役立っているか」の質問
大きい。(図14)
に、出荷者・出品者の48人が「大変役に立っている」
と答え、「少し役立っている」の37人と合わせて85人
4)経済的自立への役割
(84.2%)が「健康に役立っている」としていること
高齢者の経済的な暮らし向きを見ると「家計にゆ
からも理解できる。(図15)「ストレスを出品活動で
とりがなく、多少心配である」「家計が苦しく、非
忘れることができた」「野菜づくりそのものが介護予
常に心配である」者が、合わせて37.8%と約4割を
防になっている」「収穫の喜びを味わうことができ
占めている 8) 。「家計にゆとりがなく、多少心配
る」など精神的な面での健康づくりにも役割を果たし
である」27.2%、「家計が苦しく、非常に心配であ
ている。道の駅活動は「70歳になっても80歳になって
る」10.6%、また、高齢就業希望者の就業希望理由で
も、自分の出番があり、仕事をきちんと評価されて楽
は、「健康を維持したい」(36.1%)とともに「収入
しい生活をしているから、生き生きとした、自然な笑
を得る必要が生じた」(13.3%)「失業している」
顔が生まれてきている。」
[3]
といえる。
(8.1%)の経済的理由が21.4%となっており、経済的
自立(保障)としての意味が大きい 9)。道の駅出荷
3)外出への役割
者・出品者の平均売り上げ所得が、全国の高齢者の平
高齢者の心身の虚弱を進める大きな要因の一つが
均稼働所得より多く、この収入に満足している人が多
「閉じこもり」であり、このことが要介護へとつなが
る7)。(図16)「5.の(3)」の「外出状況」でみた
図 16 生活空間からみた閉じこもりの要因
出典;安村誠司編著『地域ですすめる閉じこもり予防・支援』
図 15 道の駅出品活動と健康の関係
中央法規出版 35頁 2006年
− 11 −
いことは、介護予防の基本としての生活保障としての
なっている。(図17)高齢者人口に対する要介護認
役割を果たしているといえよう。
定者率は18.7%(要支援{要支援1・2}認定者率は
5.7%)である。
(3)まとめ
道の駅活動は、出荷者・出品者にとって、「生きが
以上、見てきたように道の駅活動は、主な出荷者・
い・やりがい」、「外出」、「健康」、「経済支援」
出品者である高齢者にとって、「生きがい・やりが
など、様々な面において大きな役割を果たしている一
い」「心身の健康」「外出」「経済的自立」など、
方で、農作業をしていても虚弱が進み、高血圧症を初
「高齢者の心身の状態像の変化、つまり要支援・要介
めとして、膝・腰・肩などの痛み、糖尿症など、様々
護状態になることの予防や、要介護状態の維持・改善
な症状を訴えている。(図8)こうした状況がこのま
を図るのみではなく、いかなる状態にあっても高齢者
ま続けば、せっかくの効果が薄れ、要支援者・要介護
自身が、自分らしい生活や自己実現を実感できるこ
者になっていく可能性が高いことが指摘できる。この
とに、その本質がある。」
[2]
とする介護予防にとっ
ようなことから、先の津山市における要介護認定者率
て、重要な役割を果たしているといえる。このことに
を基に、今回の道の駅調査対象高齢者84人について推
ついての認識を基に、道の駅活動を重要な介護予防活
測すると、将来的に約16人が要介護認定者に、約5人
動として位置づけ、その推進を組織的に図っていくこ
が数年内に要支援者になると推測される。(要介護者
とが必要といえる。
84人×0.187 要支援者84×0.057)
このため、道の駅活動に転倒予防などの介護予防
7.道の駅活動の介護保険に及ぼす影響
活動を組み込み、生産・加工・販売活動に組織化した
これまで見てきたように道の駅への一連の出荷・出
介護予防活動を行っていく新たな道の駅活動を実施す
品活動は、高齢者の介護予防にとって大きな役割を果
ることで、こうした方々の要介護への進行を防止すれ
たしている。こうした効果は介護保険にはどのような
ば、さらに大きな介護予防効果が生まれていく。
影響を及ぼしているのだろうか。
仮に5人が要支援になったとした場合の費用をみ
津山市の要介護認定者数は毎年確実に増え、平成
ると表1のようになる。この数値は単年度の計算
20年4月現在で4,913人(内、要支援者数1,491人)と
であり、5年間で見ると、それぞれ12,555,000円、
22,638,000円となる。この額は、要支援者の出現率が
これより高くなると、さらに増えることとなる。も
し、道の駅活動に農作業と介護予防活動の2つの活動
を組織的に組み込み、これを行うことにより、心身に
わたる健康を作り出すことができたとすれば、5年間
で支出される約1千万円(要支援2の場合は約2千万
円)の介護費用が抑制され、さらに出荷・出品による
収益が加われば、経費的にも大きな意味を持つことと
なる。(実際には、要支援状態が5年間継続するとは
考えにくく、要介護1・2になるとすればさらに大き
な介護支出が必要であり、抑制効果はさらに大きなも
のとなる。)
図 17 津山市要介護認定者数の推移
注:平成20年の数値は、平成20年4月の数値であり、実質的
には平成19年度の認定者数と重なる。
− 12 −
てきている。「ソーシャル・キャピタル(社会関係資
表 1 介護予防による費用効果
本)」とは、「相互利益のための調整と協力を容易に
■要支援 1 の場合
する、ネットワーク、規範、社会的信頼のような社会
・介護予防支援 4,000 円(1 ヶ月)
的組織の特徴を表す概念」[4]であり、「社会関係を
・介護予防通所介護
通じて獲得される関係的資源」[5]である。このソー
共通的サービス 22,260 円(1 ヶ月)
シャル・キャピタル(社会関係資本)が豊かな地域
選択的サービス 2,250 円(運動機能向上加算)
社会においては、「連帯と参加によって集合的な規範
1,000 円(栄養改善加算)
と信用が高まり、それにより全体の幸福が生成,維持
・介護予防訪問介護
されていく(Putnam 1993,1995a)。」[6]のであり、
週 1 回程度利用 12,340 円(1 ヶ月)
バットナムは、これが欠乏した地域社会ではその逆の
状況が生まれていることを明らかにしている。
合計 1 ヶ月 41,850 円
(2)道の駅活動とソーシャル・キャピタル(社会関
⃝ 5 人に必要な 1 年間の介護報酬費
係資本)
41,850 × 12 × 5 人= 2,511,000 円
道の駅の活動は、出荷者組合と組合員同士のつな
(ただし、本人負担 1 割を含む)
がりを組織運営の基礎としている。こうした組織形態
■要支援 2 の場合
により、出荷者・出品者同士の交流が進み、さらに
・介護予防支援 4,000 円(1 ヶ月)
地域住民としての相互理解とつながりが深まってい
・介護予防通所介護
る。このことは、今回のアンケート結果から明らかと
共通的サービス 43,530 円(1 ヶ月)
なった道の駅活動への参加による楽しみ・生きがい度
選択的サービス 2,250 円(運動機能向上加算)
の高まり(図13)や仲間との共同作業や会話が楽しみ
1,000 円(栄養改善加算)
となっている(図14)という状況が示している。さら
・介護予防訪問介護
に、「体は不自由であり、ひとりだけの暮らしであっ
週 2 回程度利用 24,680 円(1 ヶ月)
たが、道の駅へ出品をするようになり、道の駅への出
品活動や加工グループへの参加により仲間が増えると
合計 1 ヶ月 75,460 円
ともにいろいろな時に支えてもらえるようになった。
少々しんどくても参加するようにしている。みなさん
⃝ 5 人に必要な 1 年間の介護報酬費
に感謝している。」(70歳代・女性)というアンケー
75,460 × 12 × 5 人= 4,527,600 円
トの自由記述の内容が示すように、道の駅活動は単な
(ただし、本人負担 1 割を含む)
る交流から相互理解、地域支援・助け合い活動の形に
まで高まってきている。
8.ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)として
の道の駅の意味
このように道の駅活動は、単なる出品・出荷活動
から「個人間のつながり、すなわち社会的ネットワー
(1)
「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」と
は何か
ク、およびそこから生じる互酬性と信頼性の規範であ
る。」[4]ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)
地域におけるいきいきとした暮らしづくりのために
としての役割を持ち始めているといえる。少子・高齢
は、それぞれの地域におけるソーシャル・キャピタル
化、過疎化が進む農村地域では、特に「社会的ネット
(社会関係資本)の存在が重要であることが指摘され
ワーク」「互酬性」「信頼性」が必要であり、それを
− 13 −
基にした地域づくりや暮らしづくりが重要となってい
このように道の駅活動を通して、地域住民同士の信
る。パットナムの指摘するように、ソーシャル・キャ
頼感と互酬性の規範(お互い様意識とそれに基づく活
ピタル(社会関係資本)が、「連帯と参加によって集
動)、積極参加ネットワークが育ち、あたたかな地域
合的な規範と信用が高まり、それにより全体の幸福
づくりやいきいきとした暮らしづくりへとつながって
が生成,維持され」
[6]
た暮らしを実現していくとすれ
いく。道の駅が持つ機能の一つとされる「地域の連携
ば、道の駅活動は、農村地域におけるいきいきとした
機能」は、地域と地域、町と町の連携という当初の内
暮らしづくりに向けたソーシャル・キャピタルとして
容にとどまらず、最も重要かつ必要な、その地域住民
重要な社会資源となってきているといえる。
同士の「連携機能」へと発展し始めている。
「秋空の下でのおしゃべりの中でもこうした規範は
強化され」[7]るというように、加工・出品・出荷・
販売などの活動中のたわいのないおしゃべりを通し
9.まとめ
(1)介護予防機能を持った新たな道の駅の創造
て、助け合いの規範は強化され、「社会的信頼を支
本研究では、道の駅への出荷活動・出品活動が、
える規範に類した規範は、取引コストを逓減させ、
高齢者の介護予防に果たしている役割と効果について
協力を増進させるために少しずつだが発達」
[8]
して
考察した。その結果、一連の道の駅活動への参加が、
いるのである。さらに「社会的信頼は、相互に関連す
「生きがい・やりがい」や健康づくり、閉じこもり予
る二つの源泉−互酬性の規範と市民的積極参加のネッ
防、さらには経済活動などにおいて大きな役割と効
トワーク−から現れる可能性がある。」
[9]
との指摘
果を果たしていることが分かった。このことから、今
の通り、道の駅活動による互酬性の規範(お互い様意
後は道の駅活動を介護予防活動としても位置づけ、そ
識と約束)と地域住民の積極参加のネットワークによ
の視点から支援していくことが重要といえる。しか
り、より強い地域住民同士の社会的信頼(関係)が
し、その一方で出荷者・出品者の身体的な虚弱症状も
つくられていっている。道の駅という「社会資源」に
見られ、道の駅の持つ効果を継続性のあるものとして
より、お互い様の意識(感情)が生まれ・高まり、そ
いくためには、心身虚弱を防止していく介護予防への
のことにより相互支援としての地域活動・見守り活動
取り組みの必要性が見えてきた。すなわち、これまで
(行為/相互行為)が生まれ・進んでいく、そしてそ
の農作業や加工作業を中心とした活動をベースとしつ
れらは相互関係によりさらに効果を高め、進化してい
つ、道の駅のスペースを活用した転倒予防・筋力向上
くこととなる。(図18)
などの科学的な運動をプログラム化させた介護予防活
動の導入である。こうした介護予防活動への取り組み
は、「『道の駅』が長期にわたって機能すべき施設で
あることを考えれば、今後も社会状況や利用者のニー
ズが変化するものと予想され、これにも対応していく
必要がある。(略)具体的には、高齢社会における医
療・福祉の機能(略)などが想定される。」[10]とす
る道の駅の検討報告の内容・方向と一致するものでも
図 18 同類性原理
あり、道の駅の持つ「基本的機能」を確保しながら、
出典:Homans 1950;Lazarfeld and Melton 1954を修正作成
注:筒井淳也・石田光規・桜井政成・三輪哲・土岐智賀子訳
ナン・リン著『ソーシャル・キャピタル−社会構造と行
為の理論』ミネルヴァ書房 2008年 51頁
「発展的機能」を促進する方策として有効といえ、新
たな取り組みへの踏み出しといえる。(図19)
これからの介護予防は、単に心身機能の向上を限
定的な場所と期間の中で行っていくものではなく、高
− 14 −
それがもたらす成果は、私たちの想像以上にきわめて
生き生きとした
暮らし
支え合いの地域
休憩機能
大きなものとなってきている。しかし、現状では、道
の駅は、単なる休憩場所・情報交流場所・商品販売場
所、それに伴う活動の場所としての認識が強く、地域
住民(特に農村地域一人の住民)ひとりのいきいきと
した暮らしづくりにとって重要なキャピタル(資本)
地域
の連携
機能
情報
発信
機能
であるとの認識はきわめて薄い。
これからは、ソーシャル・キャピタル(社会関係資
本)としての道の駅の意味と役割を十分に認識し、活
介護予防機能
動の展開していくことが求められる。そして、その認
識により、行政と地域住民が連携し、道の駅を育てて
図 19 新たな道の駅の 4 つの機能
いく姿勢が必要となろう。
齢者の日常生活の中で(農村部では農作業の中で)、
生涯にわたって、継続して行っていくことが重要であ
(3)地域福祉としての道の駅活動の展開
る。そのためにも、道の駅のスペース活用により行う
介護予防活動として、またソーシャル・キャピタル
介護予防教室を最初の取り組みとして、ここでの学び
としての道の駅活動の視点は、地域福祉活動と重なっ
(プログラム内容など)を自宅での取り組みへとつな
てくる。介護予防は、その取り組みを通して、仲間づ
げ、農作業の間や自宅で行うことにより、さらにこの
くりを広げ、地域住民全体で取り組んでいく必要があ
効果は継続し、活動は幅を持ったものになる。
る。その点において「道の駅」活動および施設を活用
このように多様な形態による介護予防活動を道の
した介護予防の取り組みは、農村地域においてはなじ
駅活動の一環として組み込み、実施していくことによ
みやすく、特別な意識を持つことなく取り組めるもの
り、現在の生活の継続とともに「新しい生活・人生を
といえる。こうした取り組みの広がりを通して、介護
創りだす」
[11]
ことが可能となる。さらにこうした活
予防活動は、「地域」介護予防活動へと広がりを持
動の積み重ねは、要援護者(要支援者・要介護者)の
ち、地域を変えていく契機を持っていく活動となる。
減少へとつながり、介護保険への費用効果を引き出し
すなわちここでのつながりを基にした地域住民同士の
ていくことになる。このことは具体的な数値として先
お互い様としての支え合い意識と地域支援としての地
に示した通りである。
域福祉活動の展開である。この取り組みは、地域福祉
がめざす福祉コミュニティへの実践であり、「個人や
(2)ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)とし
ての道の駅活動の展開
家族が変革していくと同じように、地域自体の『共生
への変革のプロセス』ということになる。それはノー
道の駅活動は、人と人のつながりを作り、そのこと
マライゼーションへの道程と言い換えることもでき
を基とした地域支援・助け合い活動へと発展してきて
る。」[13]ものであり、「障害があるものもそうでな
いる。すなわち「ソーシャル・キャピタル(社会関係
いものも、安全にしかも安心して『普通』の生活が
資本)」としての役割である。ソーシャル・キャピタ
できるように地域が変わっていくこと」[14]をめざす
ルは「人々が何らかの行為を行うためにアクセスし活
「地域リハビリテーション」の概念とも重なるもの
用する社会的ネットワークに埋め込まれた資源」[12]
である。私たちは、単なる心身機能の向上という介護
であり、道の駅を基点とした地域住民のネットワーク
予防ではなく、たとえ病気や障害を抱えても、生き生
によりその機能を発揮していくこととなる。そして、
きとした日常生活の実現(生活権の保障)と住み慣れ
− 15 −
た地域の中でのそれまでの人間関係を保てた生活の実
そこにはある。しかし、このことを実現していく方法
現(生活圏の保障)という課題に挑戦していく介護予
を模索し、実践を積み上げていくことによって「やり
防をめざしていくことが今求められている。このこと
方によってはお上の下請けとしての地方自治を脱却し
は、道の駅への出荷者・出品者だけではなく、すべて
て、市民主権の地方自治を創り出す基軸となる可能性
の地域住民を包み込んだものであることはいうまでも
をも孕んでいる」[18]活動へと成長していく大きな可
ない。
能性を持っているように思える。道の駅活動が、新た
そして、この取り組みは、ソーシャル・キャピタ
な視点を基に新たな取り組みへと踏み出し、住民自治
ル(社会関係資本)としての役割を持ち始めている道
としての活動へと発展していくことを期待したい。
の駅の目指すべき方向と同じといえる。ソーシャル・
註
キャピタルとしての社会関係を活用していくことによ
り、福祉コミュニティをめざしていくという新しい形
態としての地域福祉実践がそこにはみえてくる。
1)道路連絡会議[(財)道路保全技術センター内]による
2008 年9月現在のデータ。なお、四国内には 48 カ所の
道の駅がある。
(4)これからの道の駅活動運営のあり方
2)国土交通省道路局ホームページ「道の駅」概要参照
これまでの福祉活動は、行政による取り組みが中
http://www.mlit.go.jp/road/station/road-station_outl.html
心として進められてきた。しかし、「今後のサービス
3)国土交通省「「道の駅」のあり方を考える研究会 検討報告」
は、NPOをはじめ、生協、JA、民間企業、社協、社
会福祉法人などが競争しあい、相互に補完しあいなが
(2001 年9月)1頁より
4)内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」
(平
成 18 年)によると「健康である」64.4%「あまり健康で
ら行われることになる。」[15]のである。
では、道の駅に介護予防機能や地域福祉の視点を組
み込んでいくことになれば、どのようなあり方が求め
あるとはいえないが、
病気ではない」
29.9% となっている。
5)厚生労働省「国民生活基礎調査」(平成 16 年)によると
最も高い有訴者率は 75 歳∼ 84 歳の女性であり、55.3%
られるのであろうか。
となっている。
私たちがこれからめざすのは、新たなあり方であ
6)厚生労働省「国民生活基礎調査」
(平成 18 年)によると、
り、「新しい高齢者福祉とは、民が主役で、公が支え
総所得 301.9 万円のうち稼働所得は 18.0% を占めている。
る仕組みなのである。」
[16]
とする「新しい民のシス
7)厚生労働省「国民基礎調査」(平成 16 年)によると高齢
による衰弱が原因で要介護となった割合は 16.3% となっ
テム」である。しかし、このシステムは、一方で危う
い側面を持っていることも事実である。
すなわち「新しい民のシステムが健全に機能する
ためには、−中略−、利潤追求と倫理、市場経済と福
ている。
8)内閣府
「高齢者の経済生活に関する意識調査」
(平成 19 年)
による
9)厚生労働省「国民生活基礎調査」(平成 18 年)および総
祉のバランスを保たなければならない。利潤追求に傾
務省「就業構造基本調査」(平成 14 年)による
きすぎれば倫理なき競争となり、福祉が強調されすぎ
引用・参考文献
ると市場が活性化しない。市場原理に依存する新しい
システムは、そういう不安定で危うい側面を本質的に
持っているということを忘れてはならない。」[17]と
の指摘がそれである。
道の駅が持つ経営体としての「利潤追求」と介護予
防や地域づくり、暮らしづくりという「福祉活動」と
[1]厚生労働省「地域包括支援センター業務マニュアル」
129 頁 平成 18 年9月
[2]岡山県長寿社会対策課「効果的な介護予防システムを
目指して」2頁 平成 19 年3月
[3]横石知二『そうだ、葉っぱを売ろう !』ソフトバンクク
のバランスをどのように保っていくのかという課題が
− 16 −
リエイティブ株式会社 212 頁 2007 年
[4]宮川公夫・大森隆編『ソーシャル・キャピタル』ロバー
ト・D・パットナム「ひとりでボウリング」東洋経済
新報社 58 頁 2008 年
[5]筒井淳也・石田光規・桜井政成・三輪哲・土岐智賀子
訳 ナン・リン著『ソーシャル・キャピタル 社会構造と
行為の理論』ミネルヴァ書房 56 頁 2008 年
[6]同上書 30 頁
[7]河田潤一訳 ロバート・D・パットナム著『哲学する民
主主義』NTT 出版 213 頁 2007 年
[8]同上書 225 頁
[9]同上書 212 頁
[10]国土交通省
「
「道の駅」
のあり方を考える研究会検討報告」
12 頁 2001 年9月
[11]大川弥生『新しいリハビリテーション』講談社 38 頁
2004 年
[12]前掲書[5]32 頁
[13]太田仁史編著『地域リハビリテーション論 Ver.3』三輪
書店 序 2007 年
[14]大田仁史『地域リハビリテーション原論 Ver.4』医師
薬出版株式会社 6頁 2007 年
[15]寄本勝美編著『公共を支える民』瀧井宏臣「民が主役
で公が支える高齢者福祉」コモンズ 186 頁 2008 年
[16]同上書 187 頁
[17]同上書 186 頁
[18]同上書 187 頁
[19]上田敏『リハビリテーション』講談社 2004 年
[20]小坂田稔編著『真の介護予防と地域包括支援センター』
中央法規出版 2006 年
[21]右田紀久恵『自治型地域福祉の展開』法律文化社 1993
年
[22]内閣府『平成 20 年版 高齢社会白書』2008 年
[23]農林水産省『食料・農業・農村白書』2008 年
[24]結城登美雄「『小さな村』には希望が有る」
『2004 年 現
代農業 11 月増刊』農山漁村文化協会
[25]国土交通省
「
『道の駅』
のあり方を考える研究会検討報告」
2001 年9月
[26]安村誠司編著『地域ですすめる閉じこもり予防・支援』
中央法規出版 2006 年
− 17 −
美作大学・美作大学短期大学部紀要
2009, Vol. 54. 19 ∼ 28
論 文
主観的側面に関する質問紙法の認知理論的検討
A problem of psychological questionnaire method : a cognitive theoretical aspect.
妻 藤 真 彦
キーワード:質問紙法、自伝的記憶、尺度評定、認知理論、記憶構造
questionnaire,autobiographical memory, scale rating, cognitive theory, memory structure
主観的側面に関する質問について“自分にどのく
しかし、妻藤(2007b)は他者の行動記述に対し
らい当てはまる”、あるいは“そのように感じること
て、どの程度意図的であったかを推定する質問紙につ
がよくあるかどうか”などを評定させるタイプの質
いて、その評定に関する確信の度合いも同時に測定
問紙は、心理学だけではなく広い分野で重要な研究
し、両者の間の関係を検討した。このような判断にお
の道具となっている(ただし、ここでは主観的側面と
いて数値的評定が実は不可能であり、意図的かそうで
いう言い方を用いるが、これは記述の便宜のためであ
ないかという2値判断しかできない場合であっても、
り、このような質問紙が意識内容を測定しているの
その判断に関する確信の度合いを変換して意図性の強
か、メタ意識的内容であるのか、あるいはそもそも意
さ評定としてしまう可能性も考えられる。この場合、
識内容自体に関する評定であるのかどうかも、未解決
各質問項目の中で意図性評定値と確信度の間の相関係
の問題だと思われる:この点に関する著者の立場と議
数(項目内個人間相関)を求めたとき、この係数はそ
論は以下を参照されたい、妻藤,1992;1994;2006;
の項目に関する意図性の平均値との間に直線関係(極
2007a)。
めて1に近い相関)を示すはずであり、また意図性の
尺度評定自体については、そのメカニズムの検討
平均値が尺度の中央の値より小さい項目では、負の値
は古くからあり詳細な理論まで発展している(e.g.,
であるが、中央の値より大きい項目では正になるは
Petrov & Anderson,2005)。しかし、これまでそのよ
ずである(この関係について詳細は、妻藤,2007b;
うな回答が、どのような情報を評定した結果であるの
2008a参照。確信度自体が何を示す尺度であるのかと
かという問題設定はほとんど見られなかった(妻藤,
いう問題については、Saito,1998;2003;2004を、
2006;2007a)。
また確信度と信号検出理論との関係については、妻
もちろん、回答の偏りや歪みを生じさせる要因につ
藤,2000;2004を参照)。妻藤(2007b)の結果で
いての検討は行なわれてきており、一般論的質問と個
は、単に具体的に行動だけを記述した文を呈示した条
別的質問では、同一回答者でも乖離を示す場合がある
件では、この値は極めて1に近かったが、その行動の
こと(e.g., Eiser, 1994)や、ある対象の印象(例えば
原因(その行動を行なったときの事情)や理由(その
色のイメージ)を尋ねる際に、実物を見せた場合と言
行動を行なった人物の内的理由)を付加した文を呈示
葉で示した場合とでは結果はかなり違ってくる(e.g.,
した条件では、この係数は0.9よりも小さくなった。
小嶋,1975)などの研究は古くからある。
妻藤(2008a)のシミュレーションの結果と比較する
− 19 −
と、前者は意図性に関する2値判断が確信度と合成さ
評定の性質が、絶対判断というよりも比較判断に近い
れて評定値になっていた可能性が強い。また後者は、
ことを示している。そうだとするならば自分自身の主
逆に、確信度の方が意図性の評定の難しさによって影
観的側面に関する評定は、次のようないくつかの要因
響されていた可能性が強いということになった。
によって変動する可能性があると考えられよう。ただ
まだ十分な証拠とは言えないが、このように殆ど同
しここでは、外部からアンカーが与えられない場合に
じタイプの質問項目である場合ですら、2値判断が基
限る。明るさ判断のように、基準になる明るさ刺激が
本になっていることを伺わせるものと、量的あるいは
与えられていたり、何かを見る(聞く等)の刺激呈示
量的なカテゴリー判断ができることを示唆するものが
に対して、そのときの印象や見えの評定も除く。ここ
あるとするなら、まだ質問紙法には解明すべき点が多
で問題にしているのは、“よく不安になる”とか“生
く残されているように思われる。
活に満足している”というように外部基準が与えられ
評定過程の性質について検討する方法の工夫は引き
ない質問であり、主観的側面の中でも感覚・知覚のよ
続き進んでおり、例えば椎名(2008)は、質問文と評
うな何らかの刺激に対して生じる意識現象でもないよ
定尺度直線をスクリーン上に呈示し、回答したい尺度
うなものの測定だからである。
値の位置にマウス・カーソルを移動させてクリックす
まず想定されるのは、基準の設定に関して生じる
るという新しい測定法を考案した。これによって質問
自分自身の中での比較である。これは2通り考慮する
文から回答への軌跡を計測でき、いったんある尺度値
べきだと思われ、(A)その質問セットの中での質問
の近くに移動した後で、さらに動揺を示した後、結局
間の比較、(B)特定項目に関する、本人の異なる時
その位置に留まるか他の尺度値に移動するなどの反応
点間の比較である。(B)が関与するのであれば、現
パターンが記録可能になるため、通常の反応時間測定
在の状態を評定するときですら、記憶が関与すること
よりも詳細な検討を行なうことができることである。
になる。ここで言う記憶はかならずしもエピソード記
このような方法を用いた評定判断過程の研究は、今後
憶であるとは限らず、後述するように自分自身に関す
新しい側面を開く可能性があるといえよう。
る意味記憶である場合も想定する必要があろう。さら
上記のように新しい方法の工夫が行なわれ始めて
に、自分だけではなく、社会的比較も関与する場合
いるが、本稿ではそれらを生かすための理論的な面の
があると考えておくべきである。つまり(C)周囲の
検討を行なう。主観的側面を測定しようとしたとき、
人々との比較であり、どのように周囲を認知している
どのような性質の情報が評定過程に入力されるのか、
かも関係するであろう。特にライフサイクルにおける
そしてその相違が評定の結果に影響する可能性を検討
大きな変化(入学など)が起こった前後では、この面
し、複数の理論対立を解消しようとするときの確証・
の影響が大きくなる可能性を考慮するべきであろう。
反証に質問紙のデータが使用されるなら、信頼性・妥
また(D)メディアからの情報との比較も影響するか
当性だけではなく評定過程への入力情報の性質をも考
もしれない。
慮する必要があることを指摘し、そして少なくとも区
別すべきだと想定される情報の種類をリストアップす
2.理論的問題点の整理
ることが本稿の目的である。もちろんこのリストは現
質問項目内での比較 Parducci(1965)は、各評定
時点で理論的議論から導かれるものであって、リスト
値間の間隔が等しくなるように回答しようとする傾向
の妥当性の検討は今後の問題である。
と、質問セットの中で各評定値の使用頻度を等しく
しようとする傾向の両方が働くという仮説を支持する
1.理論的問題設定
データを得ている。すなわち質問セット内で、各評定
織田(1978)は、5段階や7段階等で回答する尺度
値の使用頻度が質問セット内でほぼ等しいときと、頻
− 20 −
度分布に歪度があるときでは結果が異なってくる(文
す人がYを示す人より多い”であり、他方は逆の関係
脈効果)。そしてParducci(1982)は視覚刺激の評定
を予測するようなものなら、人間の頻度(確率)判断
について、頻度分布を操作して文脈効果の程度を検討
は錯覚を起こしやすいので(e.g., Lagnado & Sloman,
し、尺度の段階数が多くなるほどこれが減少して、マ
2004)、一定の手続きを踏んだ測定が必要となる。そ
グニチュード推定法になると、まったく消失するとい
うだとすれば、2つ以上の対立理論の研究が進んで各
う予測も確認した。またWedell & Parducci(1988)は
理論が精密なものになるにつれて、各々からの予測が
幸福感の評定についても仮説に合致する結果を得てい
微妙な相違になっていくために、数値的(量的)測定
る。
による検証でなければ、どの理論が生き残るべきか
ただし、Haubensak(1992)は回答を始めたごく初
を決定できなくなる。つまり複雑な測定法と統計法を
期の段階で評定の基準が決まってしまうというモデル
利用せざるを得なくなるのである。心理学研究の多く
でも、文脈効果を説明できると主張している。そし
で数値的測定が行なわれるのはこのためであり、人間
て、それへの反論(Parducci,1992)や、アンカー群
を数値で表現することが目的ではない。もちろん検査
の学習と競合を仮定する包括的な並列分散学習モデル
の開発と利用については、程度の判断基準やカットオ
も提案されている(Petrov & Anderson,2005)。
フを定めるために数値自体が重要になる場合もある。
議論は残っているとしても、これらの研究から導
そして後者だけではなく前者の場合であっても、各測
かれるのは、少なくとも質問紙の最初の方に、どのよ
定法が当該の現象に対して線型の(あるいはそれに近
うな項目が並んでいるか(どのような回答が多くなる
い)結果を生み出すのかどうかによって、否定すべき
か)が評定の内的基準を設定するということである。
でない理論を否定したり、あるいはその逆の結論を導
そうだとするならば、質問セットがすべての回答者に
いたりする可能性が出てきてしまう。
ついて同じ順番であったデータを因子分析等で分析し
すると、質問紙を各理論からの予測を確証・反証
たときの因子構造と、異なる順番に並べ替えたときで
する手段として(かなり実験による検証に近い手段と
は異なる結果が得られる可能性がある。もちろん、そ
して)用いるのであれば、質問項目の呈示順は回答
のような並びで得られた結果が一定の信頼性をもち、
者間でランダマイズされている必要があろう。少な
行動に関して妥当性を持つなら、実践的目的に合うよ
くとも複数の呈示順が用いられていて、評定の文脈効
うな“検査”として問題はない。しかしその測定結果
果を変化させたデータセットを合わせて分析するべき
を用いて心的機能あるいは内的現象を記述する理論の
である。とはいえこの問題点は、この方法で相当程
検証を行なおうとするときには、この点は看過できな
度解消できると考えてもよいと思われる。また妻藤
い問題となる。回答の尺度自体が変化した結果が混入
(2007b)が工夫したように、各質問項目の中で、あ
している場合、特定の理論にとって一見不利なデータ
る集計を行なってしまうことで、項目間の尺度変動が
だとみなされてしまうことがあり得るからである。
あっても最終的分析に影響しないようにする方法を、
もちろん対立理論の関係がかなり大きな相違を予測
より一般的に開発できればこの問題は基本的に解消す
する場合は話が別である。もしA説の予測が“特定の
る。
行動Xが起こる”であり、B説では“Yが起こる”と
いうようなものであれば測定自体が不要であって、単
3.異なる時点間の比較(記憶の問題)
に“見る”ことで、あるいは“発話内容・ナラティ
上記のように、項目各々に回答するうちに尺度の
ブ”を記録するだけで、どちらの理論を採用するか
基準が定まってくるだけなら、まだ対処しやすいと思
を決めるのに十分な場合もあろう。しかしそれだけ
われる。感覚・知覚判断の場合のように呈示された
では識別が難しいとき、例えば片方の説では“Xを示
刺激に対して判断するのであれば、判断を繰り返す
− 21 −
うちに、刺激セットの中で“もっとも明るい刺激”や
(自己の体験として想起)と、視覚的にイメージはで
“もっとも暗い刺激”、そして明るさの頻度の偏り等
きないが“そういうことがあったことを知っている”
は、その実験の中で参加者の尺度基準を(変動させな
というものがあり、また自己スキーマも含まれるとす
がらも)統計的にはある安定状態に導くことになる。
る立場から、これらをつないだ個人史やライフストー
“しばしば不安になることがありますか”という
リーまで含める立場まであり、定義上あいまいな面が
ような質問に関する評定を考えてみよう。その他の質
残るとされる。しかし自伝的記憶の中にエピソード
問として“しばしば先のことも考えずに行動してしま
記憶成分と意味記憶成分があることについて異論はな
う”という質問が、その前にあったとすると、不安に
い。
関する質問の評定基準は、その前の質問への回答に基
これまでエピソード記憶と意味記憶は、Squire &
づいて調整される。いくつかの質問に答える内に、評
Knowlton(1994)による分類に基づいて宣言的(陳述
定基準が一定のところに収束するか、あるいは各アン
的:declarative)記憶として一括される傾向が強かっ
カーは変動しながらも、競合の結果特定のアンカーが
たが、これを別の実体として(Tulving, 1983)分ける
勝つことで評定が収束していくかということになる。
べきだ(Baddeley, 2004)とする立場も強くある。し
もちろん、尺度値の使用頻度を均等化しようとする傾
かし統一トレース説も、保持について基本的には同じ
向がアクティブであれば、質問セットの並べ方によっ
トレース(あるいは脳内の部位)を仮定しつつ、記
ては、かなりの相違を生み出すことにはなる。
銘と保持については異なるプロセスが関与する(e.g.,
しかし、特定の質問に限って考えた場合、感覚・知
Kinder & Shanks, 2003)。この稿の文脈では保持(ト
覚実験のように“同じタイプの刺激が試行ごとに強度
レースの構造)ではなく想起が問題なので、多重ト
を変えながら呈示されていくこと”に相当するのは、
レース説(Moscovitch et. al., 2005)と区別する必要は
むしろそれまでの(不安を感じた)経験の記憶になる
特にない。むしろ以下の文脈で重要なのは、自己評定
場合があり得る。質問が“今食べた昼食メニューは気
過程の検討において、自伝的記憶の中のエピソード記
に入りましたか”であれば、まだ“現在”の時間枠の
憶成分と意味記憶成分各々について、想起の性質に相
中にあるその特定のエピソード記憶ひとつに対する評
違があることを考慮する必要があるかどうか、またそ
定である。このタイプの質問ばかりのセットであれ
れに関連して意識の様相の相違(後述するautonoetic
ば、おそらく上述の感覚・知覚実験の場合と(理論的
とnoetic)の違いも、自己評定に関与するのかどうか
には)同等に近いものだと考えてよいであろう。それ
である。
に対して、“しばしば不安になる”は、そのときに生
Moscovitch et al.(2005)のレビューによると、宣
じている感覚・感情等ではなく、頻度に関する判断を
言的記憶に関与する脳領域は非常に多いが、特に海
含んでいる。その判断の対象がこれまでの不安経験に
馬と乳頭体(mammillary body)そして前部視床核
関するエピソード記憶の集合であるのか、それとも自
(anterior thalamic nuculei)から成る海馬系システムに
己に関する意味記憶なのかという問題があると考える
損傷がある人は空間記憶と自伝的エピソードを代表す
必要がある。つまり自伝的記憶の構成成分の問題であ
る情報の想起に欠陥を示す。ただし再認は損なわれて
る。次節で示すように記憶システムの構造について、
いない。また海馬傍皮質も空間記憶に関係がある。他
まだ議論の多い面が残っているが、それでも各仮説の
方、嗅周皮質(perirhinal cortex)・視床背内側核から
共通部分を取り出してみると、すでに定説と見なして
成る嗅周皮質系システムが損傷した人は再認に支障を
よいような心理学的要因を列挙できると思われる。
示すようになる。他方、意味記憶は主に外側および前
記憶システムの構成 佐藤(2008)のレビューによ
部側頭皮質と腹外側前頭前皮質(通常は左半球)を含
ると、自伝的記憶には視覚的にイメージできるもの
むとする研究が多く、海馬・内側側頭葉のダメージに
− 22 −
よって生じる健忘が生じても、意味記憶はかなり生き
そうではなく、そういうことがあったことを“知っ
延びているとされる(ただし、意味記憶も記銘時には
ている”が、体験の具体的内容は想起されないとき
海馬系が必須である)。このように少なくとも想起と
(noeticな意識)に意味記憶と言う。そして宣言的
再認に関してエピソード記憶と意味記憶は各々異なる
(陳述的)記憶に関するTulvingの統合記憶モデル
システムが関与していることを示すデータがかなりあ
(SPI)は、符号化は系列的であり(serial)、保持は
り、彼らは想起・再認だけではなくトレース自体がエ
並列(parallel)、検索は独立(independent)だという
ピソード記憶と意味記憶では異なっているという多重
ものである。具体的には、知覚処理装置は、これ自体
トレース理論を提案している。
が知覚的経験情報を保存しており、単独で刺激・知覚
ただし機能的脳画像の研究も含め、まだ統一トレー
対象の識別(同定)を行なうことができる。このプロ
ス理論との対立を決定的に解消するデータが得られて
セスの上向出力が生じたときには、この情報が意味記
いるわけではないとされる。矛盾するデータが得られ
憶プロセスに入力され、ここで意味的情報(エピソー
る場合があり、その原因として脳損傷研究において障
ドの“存在”や“名称”等を含む)の把握と保持が生
害部位が一定ではなく広がりの個人差があって、なか
じ、このプロセスだけでも“○○の事実があった”、
なか決定的結論にいたらないこと、また機能的脳画像
“xはyである”などを検索できる(knowing)。そ
が得られても、そのときに参加者が行う心理学的課題
して、意味記憶システムからの上向出力が生じたな
の設定とコントロール条件がどのようなものであれば
ら、(自己、autonoeticな意識、および主観的時間が
良いのかについて、まだ心理学面の研究が不十分であ
含まれる)エピソード記憶が形成され、これを検索
るために生じている問題もあるとされている。遠隔
することで特定のエピソードを体験的に想起できる
記憶(remote memory)が関与する活動は、上記の他
(remembering)。
にも左右の半球に渡って広くあり、前頭前野や小脳の
このようにエピソード記憶と意味記憶について脳
関与まである(Moscovitch et. al., 2005)。つまり、特
領域の相違があることは確かだとしても、そのシステ
定の機能(例えば自伝的記憶の中の自己像スキーマ
ム構成・処理構造について、まだ統一理論が形成され
成分)について特異的に関与する部位を決定するに
ていない。しかも記銘材料によって検索等に前頭前野
は、どのような心理学的課題をコントロール条件(比
の関与の相違があるとする研究もある。ある種のエピ
較条件)として、両者の間の活動量や活動体積を引
ソード記憶、つまり課題として何らかの項目リストの
き算するべきなのかが問題になる(Moscovitch et al.,
記銘を行い、かつ想起するような状況での記憶(リス
2005)。言いかえると、脳スキャン中にどのような心
トのエピソード記憶)と、過去にあった出来事につい
理学的課題を行なわせて比較すればよいかは、心理学
て、自然に記憶したエピソードを想起するとき(追体
側で十分検証された理論あるいは法則が必要なのであ
験的自伝的記憶想起)では、前頭葉に関して(両方の
る。
場合で活動はあるにも拘わらず)活動部位の相違が発
またMoscovitch et al.(2005)は、繰り返し体験さ
見されており、リストのエピソード記憶では、右の背
れたエピソードから共通点が抽出されて意味記憶を
外側前頭前野中央部の活動の報告例が多いのに対し、
形成すると考えているが、Tulving(2002)はそれと
自伝的記憶想起では見られないこと、また左の腹内側
は逆の階層的処理システムの仮説を提案している。
前頭前野の活動が前者ではマレなのに、後者ではほと
彼の定義によると、想起の内容に自己が含まれてお
んど常に見られる(Gilboa, 2004)。彼の解釈では、
り、自分自身の体験としての知覚的成分を含んでい
自伝的記憶が直感的な“正しさのフィーリング”(活
るとき(自己、autonoeticな意識、および主観的時間
性化された自己スキーマと整合的であるかどうか)に
が含まれるとき)エピソード記憶であるとされる。
頼っており、他方リスト記憶では(抜け落ちや誤り、
− 23 −
不要な繰り返しを避けるため)より意識的に詳細化さ
ないが、高齢群では自発的想起が減少し、“うながさ
れたモニタリングを伴うとされる。
れて”あるいは想起手がかりが呈示されて思い出す割
また、もうひとつの方向での問題点として、ある状
合が増えているけれども、field視点(inside)での想
況で生じた感情を、他の人から隠そうとすること(表
起もなくなるわけではないので、この解釈の状況証拠
出抑制)が認知コストを持つとするなら、そのことが
はあるとしてよいであろう。
エピソード記憶の質や情報量を減少させる可能性があ
自己評定の記憶ソース このような記憶研究から、
るということである。まだ十分な証拠が蓄積されては
自分自身に関する質問紙への回答について、測定され
いなとされるが、実験的な条件操作(固定効果)と、
ている内容と評定の尺度自体の変容を検討するため
自生的現象間の相関の両方で、これを支持するデータ
に、現時点で考慮すべき記憶要因を挙げるとすると次
が報告されており、また表出の抑制だけではなく情動
のようなものが含まれるであろう。
自体を抑制しようとすることも同様の結果を示してい
主観的側面に関する評定が、何らかの刺激呈示あ
る(Richards & Gross, 2006)。
るいは記述文に対して(a)“質問に回答している
さらに自伝的記憶の意識的側面の研究では、年齢
時点という意味での今現在、それに対して感じる内
による相違も示されている。Piolino et al.(2006)は
容”の評定である場合、(b)最近の自分に関する
若年から高齢までを比較し、自伝的記憶のremember
評定、(c)過去の自分に関する評定。という区分が
反応(autonoetic意識の指標)が年齢によって減少し
必要であろう。ただし(b)と(c)は、さらに3つ
てknow反応(noetic意識の指標)が増えること、ま
に区分する必要がある。つまり(b)であっても、
たそれと同様に自分自身の視点での想起(field view::
また(c)の場合は当然、(bc-1)autonoeticで、かつ
空間イメージ系の研究ではinside perspective)が減少
field(inside)視点での想起が生じて、それに基づい
して、シーンを外から見ているような想起(observer
て質問への回答を判断する場合と、(bc-2)“その
view:空間イメージ系の研究ではoutside perspective)が
ようなことがあった”という記憶だけ(noetic)で
増えることを示している。この解釈として、高齢にな
あったり、あるいはシーンの想起があってもobserver
るにつれて知覚的詳細の想起が失われるにつれて、そ
(outside)視点になっている場合、そして(bc-3)自
のようなことがあったという意味記憶成分の方に基づ
己像スキーマ(自伝的記憶の中で抽象的意味記憶に
いてシーンが再構成されるために、外部視点に移行す
なっている成分)を評定値に変換するだけの場合であ
るのではないかとされている。
る。
Heaps & Nash (2001)は、実際にはなかった出来
さて、上述のようにエピソード記憶の集積から抽
事の虚記憶(false memory)が発生したとき、外部視
出された共通成分が意味記憶を構成していくという説
点で“想起”されることを見出しており、もし知覚的
と、むしろ意味記憶の方が先行するという仮説の両方
詳細が失われたときに、虚記憶の発生と同じような処
がある。この点が解決されないと(b)(c)の場合に
理によって、シーンを新たに作りだすと仮定すれば、
ついて完全な形での自己評定過程理論を構成できな
両者の結果は整合的だと思われる。ただし、Heaps &
いとしても、しかし両仮説を少し検討すると、当面は
Nash (2001)は、虚記憶を繰り返し“想起”すると
この問題を回避した形で評定過程の方の研究を行なう
内部視点に移行するという結果も得ており、この点の
ことも可能なように思われる。というのは、Tulving
解釈が必要である。つまり、Piolino et al. (2006)の
(2002)のSPI理論は機能的側面と主観的側面を統合
解釈が正しければ、高齢になっても、それまでにくり
した形のものであるのに対して、他の多くの研究者が
返し思い出していたような記憶の場合には、かならず
想定しているエピソード記憶と意味記憶の関係は機能
内部視点になっている必要がある。この点のデータは
的な面だけに基づいた仮説に、後から主観的側面を割
− 24 −
り当てているだけだからである。Tulvingはautonoetic
は、かなりの程度、感覚・知覚実験に近いということ
な意識が進化の上で後になって成立したはずであるこ
になる。もし質問セット内のすべての項目が(bc-1)
とを前提として、(“そのようなことを経験ずみで
であるのなら、“質問セット内の比較”と同様に考え
ある”という内容も含む意味での)意味記憶の方が先
ればよい。ただしそのエピソード記憶の正確さ、くり
に生じるとしている。この仮説では、一度だけの経験
返し“想起された”ことのある虚記憶が含まれていな
であっても“○○のような出来事・経験・事実”が存
いかどうかという点については、解釈上の配慮が必要
在したという意味記憶と、その出来事の知覚的体験を
である。しかし、このような質問セットの場合は、実
含むフィールド視点の“エピソード記憶”の両方が残
際にそれらの事象が起こった時点でどのように感じた
ることもある。それに対して、例えばMoscovitch et al.
かではなく、回答時点における自分自身について、そ
(2005)は、意味記憶について“複数の出来事の共通
のように意識しているのだと考えてもよいであろう。
情報”だとしており、実は同じ用語を用いていても微
他方、(bc-2)ではgenericな事象の意味記憶に基づ
妙に内容が異なっているからである。
く想起であるから、質問項目に各事象における感情や
Moscovitch et al. (2005)の研究は、むしろ宣言的
知覚的詳細からしか判断できない内容が含まれている
記憶の定着過程(consolidation)が終了することに
なら、その意味記憶に基づいた(observer視点での)
よって、想起に海馬系システムの関与が不要になると
シーン“再構成”に対して評定が生じるであろう。こ
いう従来の理論では説明できない現象の追求が主目的
の場合、(bc-1)とは異なって、その質問をしたこと
である。共通情報の抽出と蓄積に関する意味記憶は定
によって、そのような評定が生じたことを考慮しなけ
着過程を経て内側側頭葉ではない部位へと移行し、
ればならない。もしそのような質問がなされなかった
それによって海馬系システムの関与なしに想起でき
なら、回答者は自分自身について、そのような意識は
るようになる。他方特定の出来事に関する“エピソー
持たなかった可能性があるということになる。検証し
ド記憶”は、記銘だけではなく想起においても海馬系
ようとしている理論にもよるが、(bc-2)の可能性が
システムの関与が必要であり、そのために逆行性健
あるときは、本人が自生的に自分をそのようにとら
忘で中心的に失われるのに対して、genericな出来事記
えている(いた)という前提を置くことはできないの
憶や自己像スキーマに関係する意味記憶の損傷は少
で、理論・仮説の確証・反証の結論を保留する必要が
ないとされるのである。これは数種類の認知症に関
出てくるだろう。そのような場合には質問紙外のソー
する心理学的側面の区別・説明にも有用であると考え
スによる補足データが必要となろう。
られている。また単一事象のnoeticな検索は再認記憶
さらに(bc-3)の場合には、すでに自己像スキーマ
(familiarity有無の判断)として確認され、それは海
になっている意味記憶の評定であり、ここで生じるの
馬系システムではなく嗅周皮質系システムが関与す
は評定尺度のどの値を割り当てるかという判断だけ
るとして理論の中に取り込まれてはいる(ただし、
になる。すると測定自体については(bc-1)の場合と
noeticな“想起”についてはあいまいな点が残るよう
同様の考慮でよいということになろう。ただし、こ
には思われるが)。
の場合、“あのとき自分は問題への対処から逃げた”
そうだとするならば、本稿の目的からすると、単一
とか“自分は人づき合いが好きではないなあ”とい
事象のnoetic表象が成立することと、複数の事象にま
うような何らかのメタ認知的処理がすでに生じた結
たがる共通情報としてのnoetic表象の両方が成立し得
果の記憶だという可能性が強い。言いかえると、現
るということだけを考慮に入れることで、それらの成
時点でその時々に意識している自分とはズレている
立メカニズムは不問としてもかまわないと思われる。
内容であるかもしれない。これはいわゆる潜在的態
自己評定について、まずautonoeticである(bc-1)で
度(implicit attitude:e.g., Nosek,2005;Wilson, Lindsey, &
− 25 −
Schooler, 2000)と意識的態度の区別とは異なる。潜
てそのような検討を、質問紙の内部だけで行なうため
在的態度は、意識していない(あるいはできない)が
には、データを操作するための何らかの外部変数を持
行動や判断に影響するものであり、例えば質問紙では
ち込む必要がある。実験であれば例えば想起条件を
“専業主夫に違和感はない”と答える人が、一見別の
変えるというような、何らかの刺激を呈示することに
ことを測定しているように見える課題で、“家事は女
よって回答が変動することを確認できる(しかもこれ
の仕事だ”という方に偏っていることが、反応時間の
は固定効果であり、相関的データではない)。そのよ
差あるいは交互作用によって検出される。この区別と
うなことが難しい内容の質問セットである場合に、周
は違って、ここではどちらも意識的なのであるが、そ
囲の人等との比較が評定結果を変える可能性があるな
の事象生起時点の意識体験が、すでに形成されている
らば、それを比較条件に使うことができるのではない
自己像スキーマと矛盾する場合があり得ることを述べ
か。
ている。
妻藤(2007c;2008c)は、生きがい感質問紙(近
以上の3つの場合が生じやすい質問の形式は以下の
藤・鎌田、1998)の各質問文の一部を改変して高校2
ようになる:特定の具体的出来事に関する質問である
年生あるいは中学2年生のときに自分はどのようで
かどうか(“初めて成績が不可だったときに、あなた
あったかという質問セットを作り、大学生一年生の現
が感じたのは”)、ある事象の生起頻度に関する質問
在について、元の質問文への回答とを比較した。この
であるかどうか(“しばしば不安になりますか”)、
とき現在セットについて、生きがい感評定値の現在・
そして直接自己像を尋ねているかどうか(“自分が冷
過去差と各回答に対する確信度の現在・過去差の2つ
たい人間だと思いますか”)である。
の値を関係づける尺度を工夫すると、その尺度は質問
ただし、質問形式だけでは不十分であり、さらに
項目ごとの個人に渡る平均値に対して、かなり高い相
質問セットごとに検討する必要がある。例えば頻度を
関を示すことを見出した(2つのデータのどちらも、
尋ねていても、genericな意味記憶が成立していなけれ
殆ど同じ値を示している)。つまり高校卒業後、大学
ば、回答時点で特定のエピソード記憶を検索し続ける
に入学することによって生活が大きく変化することに
ことによって評定するかもしれない。また逆に自己像
なるが、そのとき生きがい感自体の評定値が変化する
スキーマから回答したなら、実は頻度を答えているの
だけではなく、評定値の変化(記憶の相違)とその評
ではなく、“その傾向の強さ”に関する“思い込み”
定がどの程度確からしいと思うか(メタ記憶の相違)
からの推定になる。
の変化の2つの相関を各項目内で計算すると、この値
は項目によって大きくばらついている。ところが、こ
4.周囲の人々やメディアとの比較
の値は評定値の個人に渡る平均値に対して、かなり高
この2つについて質問紙の問題としては、機能的
い相関を示すのである。このデータの解析は非常に複
に区別する必要はないであろう。どちらにしても質問
雑で別のテーマとして検討する必要があるため、この
項目セットと回答者個人の現在・過去の出来事以外の
相関が何を意味するかの解釈には触れないが、このよ
ソースからの影響である。これらについて関連の心理
うな相関が存在することだけからでも、個人に渡る平
学研究をレビューしようとすると膨大な作業になる
均値つまり社会的に多くの人に共通して起こる変化を
が、むしろこの要因については、詳細を問わなければ
反映する尺度が、各記憶の上に現れる現在と過去の相
質問セットの性質を検討するときの方法論の工夫に使
違自体と、その記憶へのメタ記憶に生じる時点差との
える面があると思われ、その点のみを簡単に述べる。
関係に対して影響している可能性があると言える。つ
前節での記憶に関する議論において、少なくとも
まりこの相関の存在は、大勢がいっせいに生活上の変
3つの場合を区別する必要があると結論された。そし
化を経験する卒業・入学・新生活を利用して、周囲の
− 26 −
人々からの影響を質問紙の内部だけから推測していく
引用文献
方法論を開発できる可能性を示している。
Baddely,A.D. (2004). The psychology of memory. In A.D.Baddeley,
M.D.Kopelman, & B.A.Wilson (Eds), Memory disorders for
5.結論と要約
評定尺度測定の中で、特に主観的側面の測定につい
て、結果に影響する可能性がある評定情報の種類をリ
ストする試みが行なわれた。探索的研究を行なう前に
必要だと思われる理論的検討が本稿の目的であった。
clinicians, pp.1-13, Chichester: John Willey & Sons.
Eiser, J.R. (1994). Attitudes, chaos, and the connectionist mind .
Oxford: Blackwell Publishers.
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理論的に必要として挙げられたのは、質問紙内で
neuroimaging studies. Neuropsychologia, 42, 1336-1349.
の項目セットが持つ回答の偏りと呈示順である。大半
Haubensak, G. (1992). The consistency model: A process model
の質問紙では、回答者全員に同一の質問呈示順が用い
for absolute judgments. Joural of Experimental Psychology:
られるが、理論的対立を検証する目的で用いられると
きには、カウンターバランスが必須であると議論され
Human Perception and Performance, 18, 303-309.
Heaps, C.M., & Nash, M. (2001). Comparing recollective
experience in true and false autobiographical memories.
た。
Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and
また記憶、特に自伝的記憶に関する研究の動向を参
照して、質問セットが次の3つのどれに相当する性質
を持っているかを考慮する必要があるとされた:(a)
Cognition, 27, 920-930.
Kinder,A. & Shanks,D.R. (2003). Neuropsychological dissociations
betw een pr iming and recognition: A s ingle-s ys tem
connectionist account. Psychological Review, 110, 728-744.
“質問に回答している時点という意味での今現在、
それに対して感じる内容”の評定である場合、(b)
小嶋外弘(1975). 質問紙調査法の技法に関する検討 . In 続有
恒 & 村上英治(Eds). 心理学研究法 9: 質問紙調査法 . 東
最近の自分に関する評定、(c)過去の自分に関する
評定である。そして(b)と(c)については、さらに
3つの場合分けが考えられる:(bc-1)autonoeticで、
かつfield(inside)視点での想起が生じて、それに基
づいて質問への回答を判断する場合、(bc-2)“そ
京大学出版会 .
近藤勉・鎌田次郎(1998). 現代大学生の生きがい感とスケー
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のようなことがあった”という記憶はあってもnoetic
Blackwell Handbook of Judgment & Decision Making,
Pp.157-176, Oxford: Blackwell.
な場合、あるいはシーンの想起があってもobserver
(outside)視点の場合、そして(bc-3)自己像スキー
Moscovitch, M., Rosenbaum, R.S., Giboa, A., Addis, D.R.,
Westmacott, R., Grady, C., McAndrews, M.P., Levine,
マ(自伝的記憶の純粋に意味記憶になっている成分)
B., Black, S., Winocur, G., & Nadel, L. (2005). Functional
を評定値に変換するだけの場合の3つである。これら
neuroanatomy of remote episodic, semantic, and spatial
の場合分け各々について、データから導かれる各種統
memory: a unified account based on multiple trace theory.
計量の解釈への理論的制約あるいは解釈が適用できる
範囲の制約について議論された。
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Nosek,B.A. (2005). Moderators of the relationship between implicit
周囲の人々やメディアから、評定の仕方への影響に
and explicit evaluation. Journal of Experimental Psychology:
ついては、予備的考察にとどまるが、しかしこれを利
General, 134, 565-584.
用して質問紙の内部での工夫によって、上記の場合分
けを推定する方法の開発は有望であると結論された。
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美作大学・美作大学短期大学部紀要
2009, Vol. 54. 29 ∼ 37
論 文
障害種別によるコミュニケーションの難易性と
母が受けるストレスとの関連
The relationship between the degree of communication difficulties depending
on the type of handicap and their mother's stress
中塚 善次郎・清重 友輝*
キーワード:コミュニケーション、ストレス、聴覚障害、視覚障害、自己・他己双対理論
M.L.&Gibby,R.G.,1958;Michaels&Schucman,1962;中
問 題
塚,1988)、両親の協力が望まれていても、実際には
危機的な状況に陥る場合もでてくる。
1.障害児をもつ母親のストレス
こうした際に、夫婦間でより大きな心理的圧迫感を
親の養育態度や家庭環境が、子どもの成長や発達に
感じるのは、家庭にあって障害児の養育の中心的な役
対して与える影響の大きさについては、数多くの研究
割を担っている母親であると考えられる。
者が指摘する通りである。それは研究によって立証さ
障害児の母親の心的ストレスに関しては、これまで
れたものというよりは、ごく当然のこととして、一般
にいくつかの研究が行われてきた。
的に受け入れられている事実といえる。そして、この
例えば、新美・植村(1980;1981;1982)は、1980
一般原則が、障害児の親子関係についても基本的には
年の研究において、25下位尺度、115項目からなる、
該当していることも、また明らかである。障害児が健
障害児の母親の生活全般に対するストレスを把握で
常児に比べ、個人として社会的ハンディキャップを背
きる尺度を構成した。1981年の研究では、この尺度を
負うことを顧みれば、むしろ家庭のありようは、より
使って25尺度中、全サンプルを対象とする20尺度につ
重要な意味を持つということができるだろう。
いて尺度間の相関行列を求め、因子分析を行った。そ
障害児をもつ家族の場合、健常児に比べて子どもを
こで得られた因子は、Ⅰ.家族外の人間関係から生ず
養育する負担が大きいことを考えると、両親が一致し
るストレス、Ⅱ.障害児の問題行動そのものから生じ
た養育観をもち、より直接的に養育を担う母親の精神
るストレス、Ⅲ.障害児の発達の現状及び将来に対す
的安定を図り、お互いに協力しあって、家庭内の養育
る不安から生じるストレス、Ⅳ.障害児を取り巻く夫
体制を確立することが望まれる(亀井,1999)。
婦関係から生じるストレス、Ⅴ.日常生活における自
ところが、障害児をもつ夫婦間では、子どもに対す
己実現の阻害から生じるストレス、の五つである。さ
る養育態度に不一致が起こりやすく、しばしば不和が
らに1982年の研究では、求められた因子得点を用いて
生じたり対立が起きることが指摘されており(Hutt,
各ストレス因子の背景要因を調べ、それらの因子のな
すパターンによって母親のストレスの類型化を試み、
*
ひびきのさと人間精神学研究所
各類型の特徴を記述している。
− 29 −
さらに別の研究では、稲浪・西・小椋(1980)が、
各人がいかなるストレスをどの強さで感じているかに
Holroyd(1974)の開発によるQRS(Questionaire on
ついての測定が不可欠である。さらに、測定によって
Resource and Stress)を用いて、障害児をもつ母親の
得られた結果が、どのような障害がある子どもの、ど
心的ストレスについて調べている。このQRSは15下位
のような親の適応に、どのような形で役立つのかが明
尺度、285項目からなり、障害児に対する親の態度、
らかにされる必要がある。
子どもが親やその家族に与える影響を調べるものであ
中塚(1984;1985)は、このような問題意識のも
る。
と、ストレッサーの存否を問うのではなく、それに対
そこでは、自閉症児の母親は、母親自身の不健康、
する母の感じ方、その受け止め方を問う質問紙を作
障害児に時間がかかりすぎること、過保護であるこ
成し、障害児をもつ母親を対象に調査を実施した。
と、障害児の活動性の乏しさ、障害児の人格上の問題
そして、その分析結果から、各尺度10項目からなる5
で、また肢体不自由時の母親は、家庭の経済的困難、
つのストレス尺度(Ⅰ「社会的圧迫感」、Ⅱ「養育負
障害児の身体能力欠陥において、有意に高い心的圧迫
担感」、Ⅲ「不安感」、Ⅳ「療育探求心」、Ⅴ「発達
が見出されている。また、同じQRSを使った一連の研
期待感」)を構成した。これは、従来の問題点を克服
究の中で、小椋・西・稲浪(1980)は、母親の心的ス
し、障害児をもつ母親の、現在のストレスをより直接
トレスに及ぼす要因の中で、子ども側の要因として障
的に、簡便に測定できる長所を備えている。詳細は表
害の違い、性別、母親側の要因として年齢、教育年数
1の通りである。
などで有意差を見出している。
尺度名を見てもわかるように、第Ⅰ∼第Ⅲ尺度は
障害児に対する圧迫感や負担感など、ネガティブなス
2.中塚(1984;1985)のストレス尺度
トレスを測定している。これに対し、第Ⅳ、第V尺度
以上に見たように、従来から、障害児をもつ母親へ
は、子どもの可能性を信じて、少しでもよい治療や教
の心理的援助を目的として、ストレス測定を試みた研
育をしてやりたいと考えるために生じる、ポジティブ
究は活発になされてきた。しかし、それらの研究にも
なストレスを測定している。
多くの点で課題が残されている。
例えば、新美・植村の研究は、障害児をもつ母親の
3.中塚のストレス尺度の応用研究
ストレスをかなり包括的・総体的に捉えてはいるが、
蓬郷・中塚ら(1987)は、このストレス尺度を用い
因子得点からの検討という、因子レベルでの探求にと
て、自閉症児、脳性まひ児、精神遅滞児、ダウン症児
どまっており、個々のケースでのストレスの発見と診
の4障害児群について、母親を対象に調査を実施して
断という臨床的な利用においては制限が生じるという
いる。
問題がある。
その結果、母親のストレスはダウン症児群で最も低
また、稲浪・西らが用いたQRSは、質問項目が多
く、自閉症児群の母親のストレスが、4群中もっとも
く、母親に回答を求めることが困難である点や、さら
高くなるという結果が得られている。自閉症児群内で
に1尺度中の構成項目数が最小6項目から最多32項目
の尺度間の比較では、Ⅰ「社会的圧迫感」、Ⅱ「養育
というように極端な差がある点で問題を含んでいる。
負担感」、Ⅲ「不安感」は同程度に高く、Ⅳ「療育探
母親への心理的援助を有効に行うことを前提とする
求心」はやや低め、V「発達期待感」になると目立っ
なら、測定の際に被験者の労力を軽減するために、質
て低い数値を示すという特徴が現れた。つまり、自
問項目が多すぎることは当然避けるべきである。
閉症児の母親は、全般的に高いストレスを抱えている
また、被験者全体としてのストレスの構造やストレ
が、特にネガティブなストレスは高く、ポジティブな
スのパターンを明らかにするだけでは不十分であり、
ストレスは低くなる傾向が明らかということである。
− 30 −
表 1 尺度名、尺度の説明、α係数、所属項目の例示
構成された尺度および尺度の説明
Ⅰ.社会的圧迫感
障害児をもつことによって、母親が社会から大きなス
トレスを感じていることを示す。
Ⅱ.養育負担感
障害児をもつことでいろいろ手がかかり、母親自身の
生活が乱されたりすることにより、心的負担がかかっ
ていることを示す。
Ⅲ.不安感
親の死後への不安をはじめとする将来の不安や現実の
生活上の悩みを示す。
Ⅳ.療育探求心
子どもの発達の可能性を伸ばすために、少しでも良い
治療や教育を受けさせてやりたいとする母親の願いを
示す。
Ⅴ.発達期待感
子どもの残された発達への期待を示す。
α係数
0.888
所属項目(所属10項目中、2項目の例示)
・この子を社会の目から隠したいと思うことがあります
か。
・この子がいるために、世間の無情さが身にしみますか。
0.872
・子どもの世話をするのがいやになることがありますか。
・この子の存在が家族の負担になっていると思いますか。
0.888
・この子の将来のことを考えると不安になりますか。
・この子のことを考えるとどうしてよいかわからなくなり
ますか
0.861
・今うけている治療・教育の内容に不満がありますか。
・もっと良い施設や教師がつけばこの子は良くなるにちが
いないと思いますか。
0.816
・いずれはこの子の症状がなおると思いますか。
・この子には普通の子と変わらない何かの能力があると思
いますか
すべての尺度において最も低いストレスを示した
障害児群に注目し、その特徴について検討することを
のは、ダウン症児群である。ダウン症児には人なつこ
目的とする。また、この検討の中で、障害児を持つ母
く、性格が朗らかで社交的であり、対人関係をとりや
親が感じるストレスの本質についても、理解を深める
すい等といった特性がある。このために、母親や家族
ことができるのではないかと考える。
との適応関係も良好なことが多い。社会性の障害を基
方 法
本障害とする自閉症児とは、こうした点できわめて異
なっているといえる。
1.被験者
目 的
関西地区や四国にある、主に特殊教育諸学校に在学
中の児童をもつ母親238名である。各校を通じ郵送で
本研究では、蓬郷・中塚(1987)らが取り上げた4
質問紙を配布、回収して調査を行った。
群に、新たに視覚障害児群と聴覚障害児群を加えた6
障害種別による人数の内訳は表2の通りである。
群とし、再び中塚のストレス尺度を用いて母親のスト
表 2 障害種別の構成人数(n)
レスを測定する。
視覚障害
聴覚障害
精神遅滞
ダウン症
脳性マヒ
自 閉 症
計
これまでの研究では、視覚障害児と聴覚障害児に
ついては、母親のストレスを測定したケースがほとん
どなかった。このために、この2つの障害と母親が感
じる心的ストレスとの関連性は十分に検討されておら
ず、ストレスの内容についても不明瞭なままであっ
44名
30名
89名
29名
23名
23名
238名
た。これでは、母親への援助も不適切なものとならざ
るを得ない。
2.実施した検査
本研究では、各障害児群のストレスの大きさやパ
中塚(1984;1985)の構成したストレス尺度を用い
ターンに着目するとともに、特に視覚障害児群と聴覚
る。これは先述したとおり、5つの尺度からなり、各
− 31 −
尺度には10の質問項目がある。回答は「大体あてはま
今回の調査で得られた結果で、最も顕著な特徴は、
る」「少しあてはまる」「あまりあてはまらない」
6つの被験者群の中では、聴覚障害児をもつ母親のス
「ほとんどあてはまらない」の4件法で求められる。
トレスが格段に高く、逆に、視覚障害児の母親のスト
なお、調査時期は1996年9月上旬∼10月下旬にかけ
レスは、他群と比較して明らかに低いというものであ
てである。
る。
この結果は、一見すると意外なものであるように
3.分析方法
思える。聴覚障害児と視覚障害児は、異なる感覚器官
子どもの障害種別ごとに、ストレスの各尺度得点
が障害されているという違いはあるものの、精神発達
の平均と標準偏差を算出する。ストレス尺度得点は、
という面から見れば、両者の間にほとんど差はない。
「大体あてはまる」を1点、「少しあてはまる」を2
他の4つの障害には、知的能力の低下や、精神面で
点、「あまりあてはまらない」を3点、「ほとんどあ
の発達の遅れが見られることが多いが、聴覚障害と視
てはまらない」を4点として採点する。従って、尺度
覚障害では、通常、そうした傾向は見られない。耳が
得点の低い方がストレスは高いことになる。
聞こえない(聞こえにくい)、目が見えない(見えに
くい)といったハンディキャップはあるものの、点字
結 果
や触覚を利用した教材、指文字、手話などを利用すれ
ば、学習面でも十分にカバーすることができる。
子どもの障害種別ごとの5つのストレス尺度得点の
こうした点から見れば、聴覚障害と視覚障害には、
平均と標準偏差の一覧を表3に、得点平均をグラフ化
違いよりもむしろ共通点のほうが多いとさえ言うこと
したものを図1に示す。
ができる。
障害種別によるストレス尺度得点の違いを見ると、
それにもかかわらず、母親のストレスは両者で大き
視覚障害児母親群では、Ⅴ「発達期待感」を除く4尺
な違いがある。これは、両者の間に母親のストレスに
度において、他群に比べて得点が高かった。
直接関係する決定的な違いが存在することを示唆して
逆に、聴覚障害児群は、すべての尺度において最も
いる。
得点が低かった。
それでは、聴覚障害と視覚障害の間にある決定的な
蓬郷・中塚ら(1987)の研究において、最も高いス
違いとは何であるのか。筆者らの考えでは、それは母
トレスを示した自閉症児母親群は、聴覚障害児母親群
子関係におけるコミュニケーションの難易性の違いで
ほどの突出した高さは示していない。だが、聴覚障害
ある。
児母親群を除けば、今回の調査でも、他の障害より全
「目は口ほどにものを言い」ということわざがある
般的に高いストレスを示している。
とおり、コミュニケーションにおける視覚やまなざし
また、蓬郷・中塚ら(1987)の研究で、最も低いス
の影響には大きいものがある。他者の表情や身振りが
トレスを示したダウン症児母親群は、視覚障害児母親
見えなければ、その分だけ、相手の心情を読み取るこ
群を除けば、今回も他群より低いストレスを示してい
とは制限される。それは確かに、コミュニケーション
る。
にとって有益ではないだろう。
しかし、そうした視覚情報の制限は、聴覚情報に
考 察
よってかなりの程度カバーすることができる。電話で
の会話時を思い浮かべるとよく分かると思うが、話し
1.聴覚障害児母親群の高ストレスと視覚障害児母親
群の低ストレスについて
声の強弱や高低は、相手の気持ちや雰囲気をよく表し
ている。それを感じることができれば、視覚情報がな
− 32 −
表 3 障害種別によるストレス尺度得点の平均(M)と標準偏差(SD)
視覚障害
(n=44)
障害種別
尺度名
聴覚障害
(n=30)
M(SD)
M(SD)
精神遅滞
(n=89)
M(SD)
ダウン症
(n=29)
M(SD)
脳性マヒ
(n=23)
M(SD)
自閉症
(n=23)
M(SD)
Ⅰ.社会的圧迫感
33.1(5.05)
26.6(6.22)
29.8(5.94)
32.0(5.07)
30.0(5.43)
29.1(6.50)
Ⅱ.養 育 負 担 感
33.4(5.41)
27.5(5.14)
28.1(6.58)
32.6(4.61)
27.9(7.33)
27.9(7.00)
Ⅲ.不 安 感
25.9(6.39)
19.5(3.98)
20.8(6.30)
24.3(5.72)
21.9(6.09)
21.8(6.24)
Ⅳ.療 育 探 求 心
27.8(6.44)
20.7(4.57)
24.0(5.98)
26.4(5.36)
23.3(5.09)
23.7(5.89)
Ⅴ.発 達 期 待 感
29.2(3.95)
24.7(4.68)
29.3(4.81)
32.0(4.56)
33.0(4.95)
28.4(4.47)
︵
↑
ス
ト
レ
ス
の
大
き
さ
︶
18
視覚障害(n=44)
聴覚障害(n=30)
精神遅滞(n=89)
ダウン症(n=29)
脳性マヒ(n=23)
自 閉 症(n=23)
20
22
24
26
28
30
32
34
Ⅰ.社会的圧迫感
Ⅱ.養育負担感
Ⅲ.不安感
Ⅳ.養育探求心
Ⅴ.発達期待感
各ストレス尺度得点
図 1 障害種別による各ストレス尺度平均得点
くても、相手と十分にコミュニケーションをとること
一次障害としての「聞こえの異常」が言語やコミュニ
ができる。つまり、視覚機能の障害は、コミュニケー
ケーションの障害の原因となり、さらに情緒や社会
ションに対して決定的なダメージを与えるものではな
性、ひいては人格形成全体にまで影響を及ぼしやすい
いと考えられるのである。
と述べている。
一方、聴覚機能を障害した場合には、相手の気持ち
また、聴覚障害児の心理傾向について従来から言わ
や意図をくみ取ることは、非常に困難になる。映画や
れていることに、次のようなものがある。
ドラマを音声を消して見れば、どうなるか。映像から
ある程度のストーリーは予測できるかもしれないが、
①情緒が不安定になりやすい、喜怒哀楽の起伏が一
十分に物語はわからないし、まったく感動もしないだ
ろう。これは、登場人物の心情がこちらにうまく伝わ
般に大きい。
②例えば乳幼児期に笑いが少ないなど快的感情の発
らないために、そうなる。視覚から得られる情報だけ
達が遅れがちになる。
では、相手の気持ちや雰囲気まで読み取ることは難し
③情動的行動が比較的多い。
い。つまり、相手が何を考えているかがわからず、常
④他人や物事に対する不安感、孤独感が強い。
に不安や疑心がつきまとうことになる。
⑤自立心が育ちにくく、他人への依存性が強い。
菅原(1989)は、聴覚障害児の心理傾向について、
− 33 −
これらの心理傾向は、健常児の場合でも発達の過
ては、コミュニケーションとしての意味がほとんどな
程において一般的に見られるものではあるが、聴覚障
い。他者が、子どもとコミュニケーションをとろうと
害児の場合は、それがかなりの長期間、すなわち学童
働きかけても、そこでの反応に豊かなこころが生まれ
期、さらには青年期まで解消せずに続くような場合が
なければ、やはりコミュニケーションとしてはきわめ
見受けられるとされている。
て不十分である。
さらに諸戸(1978)は、聴覚障害児は、障害の性質
そして、こころを欠いた真のコミュニケーションが
上、コミュニケーションに支障が生じるので、人の話
不足すると、人間の存在に関わる深刻なストレスが引
を聞き取ることや自分の意思を表明したりすること
き起こされる。今回の調査でも、こころの交流が困難
が得意でなく、そのため生活態度が消極的となり、自
である自閉症児をもつ母親は平均して高いストレスを
ら進んで困難な立場を訴えたり、声を大にして世間の
示しているし、逆に、こころの交流が比較的容易にで
理解を求めたりすることがほとんどないとする。しか
きるダウン症をもつ母親は、平均して低いストレスを
も、聴覚の障害というのは、黙ってさえいれば外見的
示している。これらの結果も、コミュニケーションの
には世間の人にまったく気づかれないこともあり、
難易性とストレスの関連を示すものと言えるだろう。
一般の人からはとかく見過ごされがちで、障害の深刻
聴覚障害児の場合は、コミュニケーションの成立そ
さを正しく認識してもらえないことが多いと述べてい
のものがきわめて困難であり、他者との間にこころの
る。
交流が起きにくい。コミュニケーションの難しさから
音声言語によるコミュニケーションは、聴覚障害
気持ちのすれ違いが生じやすくなり、双方が心理的に
児にとって最も困難なことであり、人の声が聞こえな
隔絶され、孤立してしまうことが考えられる。そのこ
いことは、心理的に孤独を引き起こすと田中(1990)
とがまたコミュニケーションに対して消極的な姿勢を
は述べている。聴覚障害児とその家族(母親)両者に
生むという悪循環が起こる可能性もある。聴覚障害児
とって、相互に主に言語を通してのコミュニケーショ
の母親がもつ高ストレスは、このように理解すること
ンがとれないために、子どもの気持ちを十分読み取れ
ができる。
ない(松本,1985)などの心理的要因が母親に生じる
ことは容易に推測される。つまり、障害児と母親の双
2.自己・他己双対理論とコミュニケーションの本質
方が、相手の気持ちや意図をくみ取ることが困難にな
これまで母親のストレスとコミュニケーションとの
ることで、結果として、両者ともに心理的ストレスが
関連性について述べてきたが、現代社会では、人間同
高まる可能性が高いということである。
士のコミュニケーションについて、必ずしも正しく理
ここで注意しておきたいのは、こうした問題は、言
解されていないようである。
語によるコミュニケーションがとれさえすればいい、
例えば、他者との交渉能力やコンピューターなどの
というものではないということである。
ツールやマシンを用いた情報操作、あるいは他者に対
コミュニケーションにおいては、松本も指摘してい
して自分の意見を表明する自己主張といったものが、
るように、親子相互に気持ち(こころ)を伝え合い、
コミュニケーション能力であると捉えられているよう
読みとり合うことが、言語のやり取り以上に大切であ
である。
る。つまり、こころの働きを含まない言語情報は、人
しかし、こうした事柄はコミュニケーションの本質
間によってほとんど意味を持たないといえる。その
とはほとんど関係がないと筆者らは考える。少なくと
ような情報をいくら与えられても、子どもの人間的な
も、障害児がそれらをうまくできたとしても、障害児
成長に影響を及ぼすことはないし、子どもの発する言
を持つ母親のストレスが解消されるとは考えにくい。
語にこころが乏しければ、それを受け取る他者にとっ
岡部(1973)は次のように述べている。
− 34 −
「他者とともにあるとき、われわれは真の自分自
(表4)。そして、各機能領域は、単に層構造をなし
身を見出すことができる。われわれはその自分自身と
ているだけでなく、領域間には密接な関連があり、こ
なることを目指してコミュニケーションを求めずには
れら機能領域間にも統合が存在する(図2)。
いられない。それも現実的コミュニケーションではな
さて、自己モーメントと他己モーメントが弁証法
く、自己の全存在を賭けてはじめて獲得できる実存的
的に統合された状態に至ると、人間は他者に信頼を寄
コミュニケーションを求めているのだ、というJaspers
せ、尊重し、心を通わせ合うことがそのまま自分自身
の思索のあとをたどるとき、コミュニケーションに対
の生きる意味として実感できるようになり、他者の喜
するわれわれの期待がいかに根深いかということにつ
びや悲しみが自分自身の喜びや悲しみと等しくなる。
いて、目を見開かれるような思いがしてならない」。
それは、自己への執着がなくなり、自分自身をまった
く客観的に見られるようになることでもある。自分と
岡部のいう「他者とともにあるとき、われわれは
他者が、完全に平等になると感じられることである。
真の自分を見出すことができる」とは、人間存在の根
それは、「自分」という存在が消えてなくなってし
本に言及した記述である。存在そのものを目指して
まうという意識ではない。自分の存在に対しては確固
コミュニケーションが求められるというのであるか
とした思いを保ちながらも、そのことが「自己のみ」
ら、コミュニケーションこそ、人間を真の存在たらし
という意識の中心化にはならない。
める働きを担うものである、ということになる。そし
て、障害児もまた、我々に人間存在のあり方を考え
人間は自己を肥大すればするほど、他己の縮退が進
させる存在である(この意味の詳細については、中塚
むことになってしまう。これは、両モーメントが矛盾
(1991)の『障害児響育要諦−教師と親のための指針
した弁証法的関係にあることの必然の帰結である。他
−』に示している)。従って、障害児とのかかわりで
己を失っていくとは、物質・生命を含めたあらゆる他
コミュニケーションを捉えるには、人間性に対する哲
者と相対的な関係にあるという、人間存在の根本的な
学的洞察を含んだコミュニケーション論が必要になる
あり方を喪失していくことに他ならない。人間は、他
と考えられるのである。
己の働きによって他者定位、外界定位ができているか
ここで、中塚(1994)の「人間精神の心理学モデ
らこそ、自分自身を安定した状態で維持することがで
ル」(表4・図2)をもとに、筆者らの考えるコミュ
きる。その安定が、自己と他己のバランスがとれてい
ニケーションの本質について述べておく。
る状態であり、先に紹介したJaspersの言葉を心理学的
中塚のモデルの主要点は、人間の精神構造が、「自
に敷衍すると以上のようになる。
己」と「他己」という2つの相矛盾する弁証法的モー
表3に示したように、自己モーメントに属する心理
メント(契機)から成り立っているとする点にある。
学的な精神機能は、自我+認知+感覚+情動であり、も
自己は「自分自身を知ることを目指して、より善く
う一方の他己モーメントでは、人格+言語+運動+感情
生きようとする」働きであり、他己は、「法を目指し
である。他者と関係をもつ目的やあり方には様々な
て、より善く社会的であろうとする」働きである。換
ものがあり、それに応じて主となる精神機能領域も変
言すると、人間精神は、自分自身を追求する内的な自
わってくる。言語によって状況や思想を伝えようとす
己と、他者や外界を求め指向する外的な他己との、2
る際には、主に関与するのは認知−言語機能領域にな
つのモーメントをもつ、弁証法的運動であると考えら
り、技術や動き、音などを伝える際には、それが感覚
れている。
−運動機能領域になる。さらに、欲望や情緒、気分を
この2つのモーメントに5つの機能領域があり、各
伝えようとするならば、主として情動−感情機能領域
機能領域ごとに統合された機能があると仮定している
が関わることになる。
− 35 −
表4 精神の弁証法的二重性と心理機能
(中塚,1994)
先に、自己と他己が弁証法的に統合された状態に
ついて述べたが、それは、この無意識下での自己と他
自己の
モーメント
他己の
モーメント
自我
人格
統合性・目的性・一貫性
認知
言語
知能、知識の創造と蓄積
え、自分とすべての他者がまったく平等で、一体で
感覚
運動
技能、外界への適応行動
情動
感情
通心、内界の心的な処理
あると実感できるようになる。従って、これこそがコ
個人的無意識
集合的無意識
遺伝形質と生の衝動
人類が共有する無垢なもの
己の統合・一体化が実現したときに、初めて可能にな
固有な機能
ることである。それが成ったとき、自己への執着が消
総 括
聴覚障害児をもつ母親には、自閉症児をもつ母親と
目的論的
4.自我・人格
たましい
徳性
ミュニケーションの極致といえる。
共通して、母親と子どもとの間に「コミュニケーショ
1.情動・感情
こころ
情性
ンのできにくさ」がきわめて深刻な問題として存在し
ており、それが心理的ストレスを規定する要因の一つ
になっていることが示唆された。こうした結果を得た
徳知的
0.無意識
知性
あたま
3.認知・言語
(かたらい)
ことは、母親への心理的な援助やこれからの障害児教
情感的
育のあり方を考えていく上で、大きな意義があるとい
感性(身性)
からだ
2.感覚・運動
(ふるまい)
えるだろう。親子の「コミュニケーションのできにく
さ」に働きかけ、親が「子どもと心が通じた」と実感
できるような具体的な支援が必要である。また、障害
児やその家族が社会的に孤立しないよう、きめ細か
機械論的
図2 精神機能領域の座標表示(中塚,1994)
な、そしてあたたかい心の通った援助の実現が求めら
れている。そのためには、筆者らが考えてきた、自己
そして、精神機能領域の最上部に位置する自我−
と他己の統合による真のコミュニケーションを社会の
人格機能は、それ以下の機能領域の統制や制御、監
中に回復することが必要になると考えられる。
視、評価を担っている。従って、ここではコミュニ
ケーションの目的が設定され、それを実行すべく各機
付記:表3と図1のデータは、中塚の指導・援助・
能領域が組織され、統合・制御され、その実行が監視
協力による木村みどりの鳴門教育大学大学院修
され、適切に成し遂げられたかどうか評価・反省され
士論文『障害児をもつ母親の心理的ストレスを
る。
規定する要因−社会支援との関連を中心にし
また、さらに重要なことは、コミュニケーションに
て−』(平成8年度提出)に基づくものであ
おける無意識領域の存在意義である。人間は生まれな
る。
がらにして、他者に関心を向け、一体になろうとする
文 献
傾向をもっているが、その根源は無意識の他己、集合
的無意識である。ここは無意識領域であるから、人間
が意識してコントロールしたり、そもそも意識化した
1)Holroyd,J.(1974) The questionnaire on resources and
りすることすらできない。集合的無意識はまったく無
条件な愛他心、利他心である。
− 36 −
stress:an instrument to measure family response to a
handicapped family member.Journal of Community
Psychology,2,1(1),92-94.
版 ,pp.96-110.
2)Hutt,M.L.,Gibby,R.G.(1958) The mentally retarded child.
18)田中美郷
(1990)聴覚障害児のコミュニケーション障害 . 教
Boston:Allyn and Bacon.
育と医学 ,38(6),55-62.
3)稲浪正充・西信高・小椋たみ子(1980)障害児の母親の
19)蓬郷さなえ・中塚善次郎・藤居真路(1987)発達障害児
心的態度の研究 . 特殊教育学研究 ,18(3),33-41.
をもつ母親のストレス要因(Ⅰ)−子どもの年齢、性別、
4)亀井陽一(1999)自閉症児・者の母のストレスとその父
母の価値指向性−中塚のストレス尺度と自己・他己双対
理論による検討− . 平成 10 年度鳴門教育大学大学院修士
論文 .
5)松本佳子(1985)難聴乳幼児をもつ母親の意識調査 . 聴覚
障害教育研究 ,18,2-7.
6)Michaels,J.,Schuman,H.(1962) Observations on the
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7)諸戸斉(1978)聴覚障害児の高等教育 . 障害児(者)の障
害と教育 2・聴覚障害 . 福村出版 ,pp.127-139.
8)中塚善次郎(1984)障害児をもつ母親のストレスの構
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9)中塚善次郎(1988)障害幼児に対する両親の養育態度
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10)中塚善次郎(1991)障害児響育要諦−教師と親のための
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11)中塚善次郎(1994)人間精神学序説−自他統合の哲学的
心理学の構築とその応用− . 風間書房 .
12)新美明夫・植村勝彦(1980)心身障害児をもつ母親のス
トレスについて−ストレス尺度の構成− . 特殊教育学研
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13)新美明夫・植村勝彦(1981)心身障害児をもつ母親の
ストレスについて−ストレスの構造− . 特殊教育学研
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14)新美明夫・植村勝彦(1982)心身障害児をもつ母親のス
トレスについて−ストレス・パターンの分類− . 特殊教
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15)小椋たみ子・西信高・稲浪正充(1980)障害児をもつ母
親の心的ストレスに関する研究(Ⅱ). 島根大学教育学部
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16)岡部慶三
(1973)
コミュニケーション論の概観 . 内川・岡部・
竹内・辻村編 講座現代の社会とコミュニケーション基礎理
論 . 東京大学出版会 .
17)菅 原 廣 一(1989) 感 覚 障 害 論 Ⅱ − 聴 覚 障 害 児 の 心 理
と教育 . 寺田晃編 障害児の心理と教育 . 日本放送出
− 37 −
障害種別要因の検討− . 鳴門教育大学学校教育センター
紀要 ,1,39-47.
美作大学・美作大学短期大学部紀要
2009, Vol. 54. 39 ∼ 46
論 文
1970 年代西ドイツの批判的教育学 (kritische Erziehungswissenschaft)
の学習指導案に関する一考察
A Consideration on the Lesson Plan of Critical Pedagogy (kritische Erziehungswissenschaft)
in West Germany in the 1970's
中 野 和 光
キーワード:批判的教育学、批判的リテラシー、解放的教育学、学習指導案、解放
1.研究の目的
スらに代表される)フランクフルト学派の批判理論
にまでさかのぼる5)。ランクシャー も、批判的リテ
オーストラリアのカリキュラム研究者グリーン
ラシーの背景の一つとして、西ドイツのハーバーマ
Bill Green は、これからの若者に必要な学力として、
ス Jürgen Habermas の知識理論をあげている。それに
読み書き能力、コンテンツ・リテラシー、批判的
よれば、知識には、技術的知識、実践的知識、解放的
リテラシーをあげている
1)
。批判的リテラシーに
知識があるが、技術的知識は、今日他の二つの知識を
はさまざまな定義がある。たとえば、マクドナルド
従属させている。解放的知識は、他の二つの適正な行
G,A,McDonald は、批判的リテラシーとは、「通常の
使のために必要である 6)。ハーバーマスは、このよ
意味の読み書き能力の概念を越えて、自己あるいは
うな理論にもとづいて、言語は、イデオロギー的に歪
世界のについての批判的思考、問い、変容を組み込む
曲されやすいが、話し手同士の相互性と自律性によっ
」と定義している。ドーザー Cheryl Dozier ら
て特徴付けられる理想的な会話の状況を通して、人々
は、批判的な読み書き能力を持つようになるとは、
が、コミュニケーションの「ゆがめられた」形態と
「読み書き能力は、社会的行為のためにあるという感
「ゆがめられていない」形態を区別し、解放的関心の
覚、人々がいかに彼ら自身のために読み書き能力を用
中で行為するようになると主張する 7)。ハーバーマ
いるかの自覚、自分自身が読み書きの主体であること
スのこの理論は、1960年代末から1970年代初めにかけ
こと
2)
の感覚、の形成することである
3)
」と述べている。
て勃興した批判的教育学ないし解放的教育学の基礎と
ランクシャー Colin Lankshearは、批判的リテラシー
なった。
は、「従属的な他者、周辺化された他者の解放と活性
「解放(Emanzipation)」という概念は、語源的に
化」と関連した場合のみ的を得ている
4)
、と述べて
は、父親の家族支配権力からの息子の解放という法律
いる。筆者自身は、一定の社会的背景と文脈の中で目
的行為という意味である 8)。教育学の中では、19世
的を持って生み出されたものであるという視点からテ
紀に使われ始めている。19世紀における意味は、「人
キストを読解し、作成する能力の意味で使っている。
類の自己解放の歴史的プロジェクト」である9)。
批判的リテラシーの「批判的」という概念の起源
1965年ごろ、「解放」という概念が、教育学の文献
は、マクドナルドが述べているように、(ハーバーマ
に現れた 10)。とりわけ、1960年代末から1970年代に
− 39 −
かけて勃興した批判的教育学ないし解放的教育学の場
解放的教授学について次のように説明されている。
合、「解放」とは、次の二つの意味で用いられた。
1960年代の終わりから、教育学文献の中で、「解放
1.抑圧された、恵まれない、雇用された個人や集団
的思考」が増え始めている。そのさい、自由、自己決
の解放
定、成年、のような精神科学的な基本的目標設定が、
2.(個人の生成発展に関して)教育の最終目的とし
社会的側面を取り入れるということの下で議論されて
ての成熟の方向への教育学的に支持された一歩一
いる14)。
歩の学習過程11)
解放的教授学 15)における解放概念については、次
のように説明されている。
長谷川榮は、批判的教授学は、授業の目標として
1.解放のためには、個々の解放的意思と能力が要求
「解放」を目指しているが、「目標は、『解放』の他
される。このような個人的模範は、全体社会にお
に、『自己決定と共同決定』や『成熟性』のような概
ける行為への置き換えがなかったら見せ掛けに終
念を用いることもある。この場合、常に個人の主体性
わってしまう。
の確立と社会生活の民主化を念頭に置き、個人的解放
と社会的解放の両方をさすのである
12)
」と述べてい
2.教師にとって、解放的行為とは、
a)制度的な学校の強制力からできるだけ子どもを
る。
遠ざけること
本論文は、批判的教育学ないし解放的教育学の「解
放的前提の具体化
13)
b)さらにこのことは次のことを意味する。
」としてのその学習指導案が、
伝達する内容を生徒の客観的興味に方向づける
具体的にどのように作成されていたかを明らかにする
その内容を本来の社会的政治的状況、それを変
ことを目的としている。
革する真の可能性を洞察できるようにする。
c)第3に、解放的授業は、学校の内外において、
2.批判的教育学(解放的教育学)の授業計画論(学
民主化を受容する準備を要求する16)。
習指導案)
解放的教授学の授業の目標、内容、形態について、
文献は、次の二つを用いる。
ワルター Helmuth Walter は、次のように説明してい
Werner Raith hrsg., Handbuch zum Unterricht Modelle-
る。
emanzipatorischer Praxis- Hauptschule, Raith Verlag,
1.授業目標
1973.(ハウプトシューレ用ハンドブック)
① 能力を批判的なやり方で学習する。
Rolf Tybl und Hellmuth Walter hrsg., Handbuch
zum Unterricht Modelle- emanzipatorischer Praxis-
② 新しい状況と問題への柔軟な知的な応用
③ 個々人がすでに持っている多数の経験を自由に
Grundschule, Raith Verlag, 1973.(基礎学校用ハンド
ブック)
創造的に役立てる問題克服の形態の促進
④ 問題克服の際に他の人間と共同的効果的に協力
ドイツの学校制度は、第1学年から第4学年までが
基礎学校(Grund Schule)である。中等学校は三分岐
する態度
⑤ 習得した能力の社会的実践への意味を反省する
型である。ハウプトシューレは、第5学年から第9学
年までの学校である。レアレシューレは、第5学年か
態度の形成と行動の準備
⑥ 社会的経験に合致して自主的に内容を設定する
ら第10学年までである。ギムナジウムは、第5学年か
ら第13学年までである。
能力の形成
⑦ 外から決定された社会的条件の変革にふさわし
この二冊のハンドブックのうち、基礎学校版の中で
− 40 −
い行動モデルの形成
2.授業内容
授業の意図
① 所与のカリキュラムの中から、生徒に対して、
事実的知識の最大限の達成、最小限の短い時間とわ
外からの決定のメカニズムを発見することに適
ずかの手段を用いて
した内容領域の選択
方法
② 社会的政治的に意味のある内容の優先的な選択
(以下略)
演示
教師による説明(時にメディアを用いて)
3.授業形態
① 生徒活動の重視、教師の活動の縮小
[解放的授業]
② 統制的な教師の活動の放棄
学習目標
③ 生産的な学習活動の重視、再生的学習活動の縮
伝統的授業と同じだが、授業の意図とはより狭く結
小
合している。
④ 拡散的な解決の探求の重視
日常的現象は、ひとつの説明を求める。
⑤ 社会的活動形態の重視
問題は次のように定式化される。
⑥ 生徒による批判が挑発され促進される
⑦ 無茶な成績競争の放棄
「一定の氷の結晶はなぜできるのか」
17)
ひとつの説明の可能性が追求される。
「雪はそれ自体は雨のようなもので冷たいだけ
実際の授業計画(学習指導案)について検討してみ
だ。」
よう。
方法
この2冊のハンドブックで扱われている教科は、次
観察、探究計画、生徒自身による探究を行う。
のとおりである。
検証
基礎学校:ドイツ語、地理、歴史、芸術、数学、
仮説の検証
音楽、理科(生物学)、理科(物理・化学)、宗教、
このような状態の変化は、他の物質でもあるかどう
性、社会−経済学、スポーツ
かの検証
ハウプトシューレ:労働、英語、地理、歴史、ドイ
一般的な法則を導き出す。
ツ語、芸術、体育、数学、音楽、理科(生物学)、理
物質は、一定の温度のもとでは、同じ物質でありな
科(物理・化学)、宗教、社会科
がら、他の状態に変化する
ここでは、基礎学校の理科(物理、化学)、音楽、
スポーツ、ハウプトシューレの社会科の学習指導案を
この学習指導案を見ると、伝統的授業が、教師に
検討してみたい。
よる演示、説明に終始しているのに対し、解放的授業
は、生徒による探究活動を重視している。その意味で
(1)基礎学校・理科(物理、化学)の学習指導案
18)
基礎学校第1学年理科「物質の状態の変化」の単元
は、解放的授業といっても教師中心の授業の代替案以
上のものではない。
(2)ハウプトシューレ社会科の学習指導案 19)
[伝統的授業]
学習目標
ハウプトシューレ第8学年社会科「アパート」
水は一定の温度でこおり、また、とけると述べるこ
とができる。
1時間目
:水は一定の状態にある。
テーマ「アパート」
− 41 −
目標:a)(新築の)アパートのありうる葛藤
1.住居はほとんどの場合、偽って建てら
b)アパートの通常の欠陥、不足
れる
c)その原因
―部屋の広さはかつかつ
授業過程
―最も小さい部屋は子供用
1.指摘
―最も広い部屋は寝室
a)発問:アパートに住んでいる生徒は何人いる
―音が筒抜け
か(古い、新築)
2.原因
b)言語的刺激:問題、アパート(とりわけ新
―住居は、最大限、お金を稼ぐための商
築)の困難
品
2.最初の局面
―家賃があまりに高いので、ほとんどの
a)葛藤の場面、問題を生徒が述べる
家庭は小さな住居にしかすむことがで
b)生徒が述べたことの重要なキーワードを板書
きない
する。
―間取りは子どものためではない
3.問題設定
―家主は、利益を上げるために安普請する
二つの典型的なタイプのアパートの概要(平面
b)生徒は板書をノートに写す
図)をOHPを使って説明する。
4.第2の報告の局面
2時間目
a)二つの間取り図をめぐって会話
子ども部屋がない
テーマ:「アパート」
子ども部屋が小さい
寝室は大きい
目標:次のことを認識する
大人のためには比較的場所がある
a)しばしばある借家人同士のトラブル
ひっくるめて住居が小さい
b)居住者心得の性格
b)教える会話
c)aとbの原因
原因
授業過程
小さい住居―家賃が高い
1.導入:問題設定
住居の計画や間取りのときの子どもに対す
a)前の時間との関係
る考え方
b)あらかじめ用意した板に描かれた絵を見せる
安っぽい建て方-家主が得をするように
トラブル
住居は商品である
1.隣人と
c)討論
2.階段室の中で
結論
3.家の回り
安くて広い住居
4.両親と
堅固なつくり
2. :経験の局面
別の間取り
a)トラブルの場合の要約をひとつひとつ教師が
5.結果の確認
a)板書による総括
話す
b)最初の三つの場合について、生徒たちに板書
住居
させる。
− 42 −
(1.ステレオの音、2.自転車の保管、3.
ボール遊び)
(3)基礎学校・音楽科の学習指導案 20)
基礎学校音楽「環境音」
c)両親とのトラブルと表札についてのトラブル
隣人への気遣いをあげ、入居人心得を考察さ
せなければならない
学習目標
―さらさらという音の認識
3.二つの報告へ向かわせる
―その識別学習
a)入居人心得の中の退去命令
―それらの音の記述
b)生徒はとりわけ下線を引いた部分を読む
―それらの音に気づく
4.第2の報告の局面
―それらの音を目的に合わせて作り出す
a)教師の話
―最新の音楽を知る
―誰が入居人心得を作ったのか
補助手段
―入居人心得の中で借家人はどのような役割
―録音テープ
を演じているか
―道路交通の絵
―家主はいかなる役割を演じているか
―作業用の絵
b)生徒による要約と板書
―共鳴箱
入居人心得
―最新の音楽を聴く例
関係者の共同生活の形態を決めているのでは
なく、家主がそれを決めている。
プロジェクトのスケッチ
c)トラブルとこのような入居者心得が成立する
原因を報告する
教師:通学路で何を聞きますか
(代替案:遊び場、教室、家の中、建設現場、
d)教師による要約と板書
父親の職場)
原因
生徒たちは、音のまねをしてそれらをあげる
―空間の不足と迷惑な騒音が聞こえることが
(代替案:宿題として録音テープをとってきて
過剰な規則と禁止事項を生む
それらを聴く。)
―過剰な気遣いで、人はその要求を十分に出
いくつかの音が選び出される。(たとえば、自
し切れない
動車、路面電車、自転車)
―所有は人に対する力を与える
そして正確に特徴付ける。
5.結果の確認
教師は道路交通の絵を見せる。
生徒は、入居者心得をそばにおいて、板書をノート
質問:この絵の中の乗り物と人間はどのような音を出
に書き込む
しますか。
生徒たちは、そのつど、音とその発生源をい
この学習指導案は、借家人の立場で、アパートの問
題を教材としている。「抑圧された、恵まれない、雇
う。
教師:通りを通過する乗り物で遊びます。ひとりは交
用された個人や集団の解放」を目指しているという意
味で、典型的な「解放的授業」の学習指導案の例であ
通を取り締まる警察官となります。
子どもたちはひとつにまとめることを提案す
る。
る。
子どもたちは、音の記号を可能な限り自分たち
で発見する。
− 43 −
その後、音の性質を言語化する。
一斉、ないし、討論、グループ学習
教師:私たちは、何の音がなっているか書きます。
用具:運動の手引き
このように人は音に気づくことができます。
授業過程
楽譜が助けを得て作成され、録音され、批判さ
1.個々の練習を言葉と視覚で表現する。
れ、書き直される。
2.練習の段階の組み立て、練習グループの編成、各
教師:私はここに一人の作曲家の楽譜を持っていま
グループをあらかじめ用意された段階へ割り当て
す。
る。
これにしたがって何か表現できますか。
3.各段階の練習の実演
生徒は、考えたことを発表し、彼らの楽譜と比
4.練習開始。短い練習時間の後、次の段階へ移る。
較する。
そして、全体の過程を終える。
教師:この作曲家の音楽を聴いて見ます。
5.子どもたちは最も楽しかった段階を言う。
教師と生徒はこの音楽を聴いて討論する。
6.子どもたちの選択を集約し、書かせる。
生徒は、次の乗物の音をシンボルで表現する。
7.教師による付け加え、討論、全体の過程の最終的
オートバイ
確認
歩行者
自転車の呼び鈴
この学習指導案において、目標にあげられているよ
パトカー
うに、子どもたちが決定過程に参加することが重んじ
路面電車
られている。
警笛
3.全体に対する考察
この学習指導案を見ると、子どもたちが、環境音を
聞いて、それを記号で表現し、音楽を作曲するという
解放的教授学は、授業において社会批判的能力を
プロジェクトとして計画されている。環境音で音楽を
育てる教授学であるとイメージが強い。実際に、学習
作るという当時の「最新」の音楽に触れさせるという
指導案を検討してみると、社会科は明らかに「抑圧さ
点では急進的であるが、社会変革に直接結びつくわけ
れた個人や集団の解放」を目指している。理科は、探
ではない。
究活動を重視しており、スポーツは、子どもたちが
決定過程に参加することを重んじている。ベンシュ
(4)基礎学校・スポーツの学習指導案
Manford Bönsch は、解放的教授学の目指している授
21)
教科固有の学習目標
業の方法として、1.教師中心の授業の代替案、2.自
練習教材、その組織化と過程、個々の運動の実現を
由活動、3.自主学習の演出、4.プロジェクト志向、
通した課題の具体化を知る
5.役割遊び、をあげている22)。理科とスポーツは、
解放的学習目標
社会批判というよりも、むしろ、教師中心の授業の代
授業過程の中で、意識過程を設定し、能力を形成
替案、自主学習の演出、を目指している。これらは、
し、内容を反省し、討論し、根拠づけることに貢献す
抑圧された、恵まれない、雇用された個人や集団の解
る。
放という第1の「解放」の意味ではなく、「教育の最
本質的目標は、授業における決定過程への参与であ
終目的としての成熟の方向への教育学的に支持された
る。
一歩一歩の学習過程」という第2の意味の「解放」を
授業形態
目指していると考えられる。
− 44 −
解放的教育学の学習指導案を検討してみていえるこ
とは、それらは、「抑圧された、恵まれない、雇用さ
れた個人や集団の解放」という意味と、「教育の最終
目的としての成熟の方向への教育学的に支持された一
歩一歩の学習過程」という二つの意味の「解放」を目
指して作成されているということである。
解放的教授学に対しては、今日、次のような批判が
4)Colin Lankshear and Peter L. McLaren,Critical Literacy, State
University of New York Press, 1993, p.xviii.
5)Gynthia A.McDaniel, op.cited,p.12.
6)Colin Lankshear and Peter L. McLaren, op. cited, pp.39-40.
7)J.J.Chambliss ed.,Philosophy of Education;An Encyclopedia,G
arland,1996,pp.117-118.
8)Jürg Ruhloff: Emanzipation. In;Dietrich Benner und Jürgen
Oelkers hrsg.; Historisches Wörterbuch der Pädagogik.
なされている。
Weinheim und Basel,Beltz,2004.
ルーロッフ Jörg Ruhloff は、次のように批判してい
る。
解放と道徳性に意味における成熟との区別が飛び
越えられている。依存性からのあいまいな自由と理性
的な自己決定能力の間には区別がある。解放への関心
を理論と実践を導く関心とみなすことは問題を実践家
9)a,a,O.,S.
10)a.a.O.,S.
11)Walter Horney usw., hrsg., Pädagogisches Lexikon, Erster
Band, Reinhard Mohn, Bertelsmann Fachverlag, 1970.
12)長谷川榮『教育方法学』協同出版 2008 年 36 ページ
13)W o l f g a n g K o l f g a n K e c k e i s e n : K r i t i s c h e
Erziehungswissenschaft. In; Dieter Lenzen und Klaus
の具体的な動機付けの問題とする見誤りを侵してい
Mollenhauer hrsg.: Enzyklopädie Erziehungswissenschaft
る23)。
Band 1:Theorie und Grundbegriffe der Erziehung und Bildung.
ベーム Winfried Böhm は、解放というスローガンに
Stuttgart, Klett, 1995,S.130.
よって、党派的な意識改革をカムフラージュする危険
14)Rolf Tybl und Hellmuth Walter hrsg.: Handbuch zum
Unterricht Modelle-, emanzipatorischer Praxis- Grundschule.
性がある。未熟な主体を社会的諸関係と早すぎる結
合を行う。教育学の誤った政治化を促進する。ベーム
は、このように批判しながらも、教育には、ハーバー
Starnberg,Raith Verlag, 1973,S.10.
15)教 授 学 の 定 義 は 多 様 で あ る。 ケ ッ ク ら Peter Köck und
Hanns Oft によれば、陶冶内容と教授計画の理論、教授
マスが述べているような解放機能があることも認めて
学習の理論、授業の理論というとらえ方の類型がある。
いる24)。
(Peter Köck und Hanns Oft: Wörterbuch für Erziehung und
自己決定、共同決定という教育目標に対しては、今
Unterricht.Donauwörth,Auer, 2002, S.135- 136.)
日では、それらは、教育の最上の目標ではない、とい
う批判がある
解放的実践の授業モデルを提示した基礎学校とハウプ
トシューレのハンドブックでは、解放的教授学という
25)
。
概念を用いている。ハーバーマスの批判理論の影響を
批判的リテラシーを育てる方法は、教育の目的の立
受けて勃興した教育学は、批判的教育学あるいは解放
て方も含めた検討が必要なことをこれらのことは示し
的教育学と呼ばれるが、ここでは、教授学習の理論を
ているように思われる。
対象とする批判的教育学の意味でこれ以後は、解放的
教授学の概念を用いる。
註
16)Handbuch,Grundschule,a.a.O.,S.13-14.
1)Bill Green,Subject-Specific Literacy and School Learning:
17)Werner Raith hrsg.:Handbuch zum Unterricht Modelleemanzipatorischer Praxis- Hauptschule. Starnberg,Raith
a focus on writing(1988), in David Scott ed., Curriculum
Studies,vol.IV, Routledge Falmer, 2003, p.12.
2)Gynthia A.McDaniel, Critical Literacy-A Way of Thinking, A
Way of Life, Peter Lang, 2006, p.5.
3)Cheryl Dozier,Peter Johnson and Rebecca Rogers, Critical
Literacy/Critical Teaching, Teachers College Press,2006,p.18.
Verlag, 1973,S.66-67.
18)Handbuch,Grundschule,a.a.O.,S.387-390.
19)Handbuch,Hauptschule,a.a.O.,S.516-520.
20)Handbuch,Grundschule,a.a.O.S.336-341.
21)Handbuch,Grundschule,a.a.O.,S.497-502.
− 45 −
22)Manfred Bönsch: Ideen zu einer emanzipatorischen Didaktik.
München, Ehrenwirth, 1978, S.86-132.
23)Jürg Ruhloff: Emanzipation,a.a.O.,S.
24)Winfried Böhm: Wörterbuch der Pädagogik. Stuttgart,Kroener,
2000.
25)Christian Böhm: Evaluation der Pädagogik Wolfgang Klafkis.
Hambourg,Verlag Dr.Kovac, 2008. S.55. 批判したのは、ビ
ラー Karlheinz Biller(1996) である。
− 46 −
美作大学・美作大学短期大学部紀要
2009, Vol. 54. 47 ∼ 53
論 文
小学校歌唱共通教材の日本音階に関する一考察
∼柴田南雄の分析法を中心に用いて∼
On the Japanese musical scale of the songs commonly used in elementary school singing textbooks :
an approach from Minao Shibata's analitical method
木 暮 朋 佳
キーワード:「小学校歌唱共通教材」「日本音階」「唱歌」「柴田南雄理論」「骸骨論」
1.歌唱教育の伴奏方法の現状と研究の目的
るかといえば、長唄や小唄や沖縄の島唄などの音楽ス
小学校学習指導要領音楽科の歌唱共通教材は平成20
タイルを使った三味線や三線の伴奏、宮城道雄の童
年の改訂で教科書への採用枠がすべての曲目に広がっ
曲 1)や地唄のスタイルを使った箏の伴奏、そして能
たものの曲目自体は変更されなかった。この曲目群の
楽にあり、アジアにも多い大小鼓や太鼓類による伴奏
音楽ジャンルは文部省唱歌として成立した歌を中心と
などをあげることができる。無伴奏も含め、太鼓類に
して、わらべうたと平安時代及び江戸時代後期等を源
よる伴奏は歌をピッチという呪縛から解き放ち、日本
流とする日本の歌で構成されている。しかし、すべて
人の昔からある音楽感覚に沿って、日本人の音楽と音
ピアノなどの鍵盤楽器やギターといった西洋音楽の楽
楽教育をもっと豊かで実り多いものにすることも可能
器で西洋音楽のシステムによる伴奏を前提において教
である。
材化されている。周知のように歌唱は前学習指導要領
以上のように現状を認識するが、本論の目的は、
から「自然で無理のない声」に象徴されるように様々
小学校歌唱共通教材を、主に柴田南雄の分析法によっ
な声で自然に歌うことを前提にしているわけだが、
て、日本音階の側面からその特徴を明らかにし、類例
ハーモニーすることを眼目においた西洋音楽のシステ
の曲を含めたこうした歌の伴奏を日本やアジアの音楽
ムや楽器を前提とした伴奏や編曲だけでは、日本人が
のシステムにより、工夫し演奏する際の理論的根拠を
声明からJポップへと長く培ってきたコブシに代表さ
つくることにある。
れる歌い方を音楽教育の中で取り戻したり、雅楽とい
う世界で一番長い歴史の音楽さえ持ち合わせる日本の
2.研究の方法
豊かな音楽文化とその音楽的感受性を持つ日本民族の
本研究は柴田南雄の領域説もしくは顎骨論 2)と言
これからの音楽と音楽教育をつくろうとするには誠に
われる旋律の音階分析法のもう一つの尺度として考え
貧弱な状態である。ほとんどの教科書で「ひらいたひ
出された音の出現頻度(頻度数)と持続の長短の価
らいた」「かくれんぼ」といったわらべうたや「うさ
(総音価数) 3)を主に用いる。これは音階構成音の
ぎ」「さくらさくら」「こもりうた」「越天楽今様」
各音の優劣が解り隠れた優勢な音階の存在を知ること
というような純粋に日本の歌と認められているものま
ができるが、この方法を小学校歌唱共通教材の旋律分
でこうした形であるのは慙愧に耐えないと考える。
析法として採用し、従来の西洋音楽のアナリーゼとは
では、どんな伴奏が日本の音楽の側から考えられ
異なる方向からこれらの歌を位置づけようとする試み
−47−
である。
「混合類7)」→東川清一の呼称
分析にあたっては、小泉文夫のテトラコード論とそ
※上の4つの音階の構成音はすべての移調形を含む。
の上に立つ柴田南雄の理論を中心に、東川清一の「混
◎柴田南雄の領域説(骸骨論)では核音から長1度程
合類」に代表される理論も可能な限り織り込みなが
度内の領域に隣接音がある状態としてこの4つのグ
ら、雅楽や俗楽などの旧来の日本の音階の呼称や良く
ループを包括して把握している。
使われている一般的な名称も使って、個別の曲の分析
をしていくこととする。
○他に「二六
(ニロ)抜き短音階
(陽音階に同じ)8)」、
「二六
(ニロ)抜き長音階(琉球音階に同じ)」、「呂陰
その上で個別の曲を日本音階(日本システム)と長
音階(四七抜き短音階に同じ)」等があるが、特殊な
音階(西洋システム)へと連続的に進む座標の上に整
例であり、混乱も予想されるので、ここでは 敢え
理・位置づけしていきたいと考える。
てグループに加えなかった。
なお、「音階」と「旋法」に関しては、本論ではす
べて「音階」の用語を用い、使用する旧来の日本の音
3.小学校歌唱共通教材の旋律分析結果
階名と小泉文夫及び東川清一の呼称等を以下のように
3
グループわけしておくことにする。
分析に以下のような表等を用いる。
①陽音階グループ
調性→
1.分析表の概説
使用音
頻度数
総音価
優先順
構成音 ド−♭ミ−ファ−ソ−♭シ−(ド)
「陽音階」「呂音階」→ 俗楽と雅楽の呼称
「民謡音階」「律音階」→ 小泉文夫の呼称
「陽類」→ 東川清一の呼称
音階→
「四七抜き音階4)」→ 一般的な呼称
①調性は西洋のシステムによる一般的な呼名を記す。
「四七抜き長音階」ともいう。
②陰音階グループ
( )内は終止音と終止のしかたを記す。
②使用音は♯と♭を使った伊語カタカナ(固定ド読
構成音 ド−♭レ−ファ−ソ−♭ラ−(ド)
み) 表記とする。左→右へ音高が順に高くなる。
「陰音階」→ 俗楽 (ただし、上の構成音は下行
形。 上行形は♭ラが♭シになる。5))
③頻度数は曲全体のその使用音の頻度回数。
④総音価は曲全体のその使用音の音の長さの合計。
「都節音階」→ 小泉文夫の呼称
(ここでは四分音符を「1」と換算する。)
「陰類」→ 東川清一の呼称
⑤優先順は使用音の有力性を順位で示す。
「四七抜き短音階
6)
」→ 一般的な呼称
頻度数+総音価の数値の多いものを有力とする。
③琉球音階グループ
⑥音階は主に日本のシステムからの呼名を記す。
構成音 ド−ミ−ファ−ソ−シ−(ド)
( )内は核音終止か隣接音終止かを記す。
「琉球音階」→ 沖縄音楽。
「沖縄音階」ともいう。
小泉文夫もこの呼称。
3
「琉球類」→ 東川清一の呼称
1)「うみ」(第一学年)
④混合音階グループ
調性→ト長調(主音の完全終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
構成音 ド−(☆)−ファ−ソ−(☆)−(ド)
☆は前後の音の間のどれかの音が入る。
小泉文夫の4つのテトラコードが混合してできる音
階を想定している。
2.分析結果
レ
3
2
5
ミ
4
2.5
4
ソ
6
7
1
ラ
5
5.5
2
シ
5
4
3
音階→四七抜き音階(核音の終止)
−48−
レ
1
1
6
2)「かたつむり」(第一学年)
だが四(ファ)が少なく、四七抜き音階に近い。
調性→ハ長調(主音の完全終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
ド
6
4
3
レ
6
2.25
4
ミ
10
6
2
ファ
1
0.25
7
ソ
11
5.5
1
ラ
1
0.5
6
ド
2
1
5
7)「虫のこえ」(第二学年)
調性→ハ長調(主音の完全終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
音階→七抜き音階(隣接音の終止)
七抜き音階だが四(ファ)が少なく四七抜き音階に
近い。
ド
1
1
6
ミ
8
5
3
ソ
20
16
1
ラ
17
8.5
2
シ
2
1
5
ド
7
4
4
音階→二四(フヨ)抜き音階(隣接音の終止)
二四抜き音階だが、オクターブで2つ存在するドを
3)「日のまる」(第一学年)
同一視すると七(シ)の優先順位が一番劣位になり、
調性→ヘ長調(主音の完全終止)
二(レ)もない四七抜き音階に近いと考えられる。
使用音
頻度数
総音価
優先順
ファ
5
5
3
ソ
5
5
3
ラ
7
7
1
ド
6
6
2
レ
4
4
5
8)「夕やけこやけ」(第二学年)
調性→ハ長調(主音の完全終止)
音階→四七抜き音階(隣接音の終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
4)「ひらいたひらいた」(第一学年)
調性→ハ長調(第6音の終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
ミ
3
1.5
4
ソ
ラ
13
18
6.75 10.75
2
1
シ
6
3
3
ソ
8
6.5
2
ラ
14
10
1
ソ
17
8.5
1
ラ
8
4
3
ド
8
6.25
2
レ
1
0.25
7
9)「うさぎ」(第三学年)
調性→ハ長調(第3音の終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
調性→ハ長調(第6音の終止)
ミ
6
3.25
4
ミ
7
5
3
典型的な四七抜き音階である。
5)「かくれんぼ」(第二学年)
レ
2
1.25
5
レ
5
3.5
5
音階→四七抜き音階 (隣接音の終止)
レ
1
0.5
5
音階→陽音階(核音の終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
ド
4
2
6
シ
8
5
3
レ
1
1
6
ミ
4
4
4
ファ
8
4.5
1
ラ
8
3.5
2
シ
6
4
3
ド
2
1
5
音階→陰音階(核音の終止)
上行形と下行形の異なる長唄「越後獅子」の「しん
く甚句∼」の部分にもある俗楽に多い典型的な陰音階
音階→陽音階(核音の終止)
である。小泉文夫の都節音階とはレが異なるが、レの
優先順は「6」であり、都節音階とも近いといえる。
6)「春がきた」(第二学年)
調性→ハ長調(主音の完全終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
ド レ ミ ファ ソ ラ ド
1
1
4
2 10 5
4
0.5 3 3.5 1
8 3.5 6
8
5
4
6
1
3
2
10)「茶つみ」(第三学年)
レ
2
2
5
ミ
1
1
7
調性→ト長調(主音の完全終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
音階→七抜き音階(隣接音の終止)
ド、レ、ミは1オクターブ違いの音を同一と見ると
レ
4
4
5
ミ
3
3
6
ソ
7
7
4
ラ
11
11.5
2
音階→陽音階(核音の終止)
ファの優先順が「8」となる。したがって七抜き音階
−49−
シ
19
18.5
1
レ
9
9
3
11)「春の小川」(第三学年)
15)「とんび」(第四学年)
調性→ハ長調(主音の完全終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
ド
3
3
6
レ
5
5
5
ミ
14
14
2
ソ
16
16
1
調性→ハ長調(主音の完全終止)
ラ
13
13
3
シ
1
1
7
ド
8
8
4
使用音
頻度数
総音価
優先順
ド
6
11
5
レ
6
5.5
6
ミ
13
9
2
ソ
15
12
1
ラ
10
10.5
3
ド
6
12
4
音階→四抜き音階(隣接音の終止)
音階→四七抜き音階(隣接音の終止)
シの優先順は「7」であり、四七抜き音階に近い。
典型的な四七抜き音階である。
12)「ふじ山」(第三学年)
16)「もみじ」(第四学年)
調性→ハ長調(主音の完全終止)
調性→ヘ長調(主音の完全終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
ド
6
8.5
5
レ
10
11.5
2
ミ
9
8.5
3
ファ ソ
5
12
3.5 14.5
6
1
ラ
8
8.5
4
シ
2
1
8
使用音
頻度数
総音価
優先順
ド
3
4
7
ド
3
3
5
ミ
3
1.5
7
ファ
15
16
1
ソ
11
11
3
ラ ♭シ
12
1
11.5 0.5
2
8
ド
9
9
4
レ
3
2
6
音階→長音階(隣接音の終止)
音階→長音階(隣接音の終止)
オクターブにあるドを併せて考えると優先順は
オクターブに2つあるドを合わせると優先順は
「2」となり、シが「8」のままであり、ファが
「2」となる。ミと♭シの優先順は「7」及び「8」
「7」となる。したがって、四七抜き音階に近いこと
となり、頻度及び総音ともに数値は他の音に比べて大
がわかる。
変小さい。したがって、四七抜き音階に近いことがわ
かる。
13)「さくらさくら」(第四学年)
調性→ハ長調(第3音の終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
シ
2
4
8
ド
4
3
7
ミ
10
8
3
ファ ラ
6
15
8
13.5
4
1
17)「こいのぼり」(第五学年)
シ
11
13.5
2
ド
2
2
9
調性→ヘ長調(主音の完全終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
音階→陰音階(核音の終止)
下行形のみの陰音階。都節音階。陰類
ド
2
2
7
レ
1
1
8
ファ
12
11
2
ソ
12
9
3
ラ ♭シ
17
12
17.5 4.5
1
4
ド
5
8
5
レ
2
3
6
音階→七抜き音階(隣接音の終止)
オクターブに2つあるド及びレをそれぞれに合わせ
14)「まきばの朝」(第四学年)
ると優先順は「4」、「6」となる。♭シの優先順は
調性→ハ長調(主音の完全終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
ド レ
8
7
11.5 9
3
5
ミ ファ ソ ラ
9
2 20 12
8 1.5 22.5 11
4
7
1
2
「5」となり、四七抜き音階の構成音のレより頻度と
シ
1
0.5
9
ド
4
7
6
レ
1
1
8
総音価ともに多い数値である。したがって、七抜き音
階であることは確実だが、四七抜き音階にはそう近く
ないことがわかる。
音階→長音階(隣接音の終止)
オクターブにあるド及びレをそれぞれ同一視する
と、ドの優先順は「2」となり、レは「4」となる。
よって、ファの優先順は「8」で、シはそのまま
「9」であり、四七抜き音階に近いことがわかる。
−50−
18)「子もり歌」二種(第五学年)
21)「越天楽今様」(第六学年)
調性→ハ長調、ハ短調(第2音の終止)
陽
使用音
陰
頻 度 数
総 音 価
優 先 順
ド
ド
4
4.5
4
レ
レ
4
5.5
3
ミ
♭ミ
3
2.5
5
ソ
ソ
7
5
2
ラ
♭ラ
6
6.5
1
調性→ハ長調(第6音の終止)
ド
ド
2
2
6
使用音
頻度数
総音価
優先順
シ
1
1
8
レ
4
4
5
ミ
11
12
2
ソ
7
5
3
ラ
17
21
1
シ
6
6
3
レ
4
4
5
ミ
2
2
7
音階→陽音階(核音の終止)
音階→陽音階、陰音階(核音の終止)
コンジャンクト結合による典型的な陽音階。
核音は下の音からシ−ミ−ラ−レである。
19)「スキーの歌」(第五学年)
調性→ト長調(主音の完全終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
シ
3
1.5
6
ド レ ミ ♯ファ ソ
3
16
4
2
13
1.5 11.25 1.25 1 13.5
6
2
5
8
3
22)「おぼろ月夜」(第六学年)
ラ
16
19
1
シ
11
15
4
ド
2
1
8
調性→ハ長調(主音の完全終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
音階→長音階(隣接音の終止)
ド
6
7
5
レ
9
6
3
ミ
13
11
2
ファ ソ
2
15
1
10.5
7
1
ラ
6
5.5
6
ド
8
5.5
4
レ
2
1
7
オクターブであるドは合わせると優先順が「5」と
音階→七抜き音階(隣接音の終止)
なる。それに伴ってミは「6」となる。シはオクター
オクターブにあるドを合わせると優先順は「1」
ブを合わせると優先順は「3」となる。四七抜き音階
となる。それにともないオクターブを合わせてもレの
のうち、ソラシレが他の音に比べて頻度と総音価とも
優先順は「4」となる。ファの優先順が一番劣位であ
にかなり強い数値である。しかし、優先順の「5」は
り、ドレミソラの四七抜き音階に近いことがわかる。
ドとなるので、はっきりと四七抜き音階が浮かびあが
らないが、次の優先順の「6」にミがある状態であ
23)「ふるさと」(第六学年)
り、四七抜き音階にそう遠くない位置とも考えられ
調性→ヘ長調(主音の完全終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
る。
20)「冬げしき」(第五学年)
調性→ヘ長調(主音の完全終止)
使用音
頻度数
総音価
優先順
ド レ ミ ファ ソ
5
1
4
8 10
7.5 0.5 2.5 8.5 10
4
9
6
3
1
ラ ♭シ ド
9
3
4
9 1.5 4
2
7
5
ド
1
1
7
ファ
8
9.5
2
ソ
9
8
3
ラ
10
9.5
1
♭シ
8
7
4
ド
6
6.5
5
レ
2
1.5
6
音階→七抜き音階(隣接音の終止)
レ
1
1.5
8
オクターブにあるドを合わせると優先順は「5」と
なる。四七抜き音階のファソラが頻度と総音価ともに
強いが、♭シがこれらの次であり、四七抜き音階の残
音階→長音階(隣接音の終止)
りの音のドとレより優位にある。したがって、四七抜
オクターブにあるドは合わせると優先順が「1」と
き音階とはやや遠い位置の七抜き音階であると考えら
なる。レは優先順が「8」でそのままである。四七抜
れる。
き音階のうちファソラドは頻度と総音価ともにかなり
強いが、優先順の「5」はミとなるので、はっきりと
四七抜き音階が浮かびあがらず、優先順の「8」にレ
がある状態である。したがって、四七抜き音階にある
程度距離のある近さであると考えられる。
−51−
24 )「われは海の子」(第六学年)
は「かたつむり」「春がきた」「こいのぼり」「お
ふじ山
春の小川
茶つみ
れぞれ一定の距離を持ちながら存在していることもわ
三年
いずれの場合でも陽音階グループの四七抜き音階にそ
うさぎ
ぼろ月夜」「ふるさと」と5曲に及ぶ。これらを含む
春がきた
抜き音階は「春の小川」と1例ずつだが、七抜き音階
二年
あるが浮かんできた。二四抜き音階は「虫の声」、四
虫のこえ
き音階、四抜き音階の存在 9)がすでに自明のことで
かった。
こいのぼり
越天楽今様
ふるさと
スキーの歌
冬げしき
子もり歌A
に位置すると考えるわけである。また、陽音階グルー
五年
抜き音階などの3つの音階は6音であるが、その中間
子もり歌B
いうことに基づいている。したがって、上にあげた七
まきばの朝
もみじ
や陰音階に代表される日本音階が最も日本的であると
とんび
する長音階及び短音階が最も西洋的で、5音の陽音階
四年
た。この表は、基本的な認識として、7音すべて網羅
さくらさくら
図1に小学校歌唱共通教材の曲の位置関係を図示し
プの四七抜き音階に関しては、終止音が核音ではなく
いえると考えるが、それはここでは触れずに、次の論
考を待つことにする。
尚、混合類を含む混合音階グループと思われる曲は
歌唱共通教材には存在しなかった。
−52−
われは海の子
ている。音の進行の仕方という尺度からもこのことが
六年
成ではあるが、やや西洋的であるという認識にも立っ
おぼろ月夜
隣接音で、主音の完全終止であり、陽音階と同じ音構
短音階
分析では、今までに呼称のない七抜き音階、二四抜
長音階
3.分析のまとめ
長音階︵四七が劣位傾向︶
一年
3
7 音
かたつむり
抜き音階に近いことがわかる。
長音階︵四七が劣位︶
て、レミ♯ファラシがかなり強く浮かび上がり、四七
←西洋
七抜き音階︵四が劣位でない︶
七抜き音階︵四が劣位︶
夕やけこやけ
る。レは優先順が「1」と最有力に変わる。したがっ
6 音
四抜き音階︵七が劣位︶
うみ日のまる
ままである。同じく♯ドの優先順も「7」のままとな
二四抜き音階︵七が劣位︶
四七抜き音階
オクターブにあるラを合わせても優先順は「1」の
音階
音階→長音階(隣接音の終止)
5 音
かくれんぼ
シ ♯ド レ
7
3
4
7.5 3.5 5
4
7
6
ひらいた
ひらいた
ラ
8
11
1
陽音階
ラ ♯ド レ ミ ♯ファ ソ
2
1
4
9
7
3
2 0.5 10.5 8.5 9 2.5
9
10
4
2
3
8
陰音階
使用音
頻度数
総音価
優先順
図1
日本←
調性→ニ長調(主音の完全終止)
4.おわりに
註
このように、はじめから日本の音階であるものをの
ぞいた小学校歌唱共通教材でも陽音階と陰音階に代表
される日本の音階と、長音階や短音階に代表される西
1)児童の演奏または鑑賞を目的として作曲された曲。箏曲
家鈴木鼓村が創始・命名し、宮城道雄が継承し た。宮城
洋の音階の折衷であることが、柴田南雄の分析法など
道雄の作品では「ロバサン」や「ワンワン ニャオニャオ」
で明らかにすることができた。純粋に長音階や短音階
が有名である。
であると言い切れる曲は歌唱共通教材の中には存在し
2)
「領域説」については、次の文献を参照されたい。
なかった。つまり、小学校歌唱共通教材は、はじめの
柴田南雄『音楽の骸骨のはなし』音楽之友社
項にあげたような日本の音楽の伴奏の方法で歌われる
1978 年 pp.28-44
ことが可能であり、音階から考えるとそれがむしろふ
さわしいのである。西洋音楽のシステムでふさわしい
ものを無理に選べば、歌詞の内容から「スキーの歌」
3)柴田南雄『音楽の骸骨のはなし』音楽之友社
1978 年 pp.45 L.1-2
4)ドレミファソラシを一二三四五六七(ヒフミヨイムナ)
に対応させたもの。つまりファとシのない長音階 をさす。
が浮かぶ程度である。また、「われは海の子」のよう
「ヨナ抜き音階」とカタカナで表記するこ ともある。
に、西洋システムに音階上は比較的近くても歌詞の内
5)上行形は小泉文夫のテトラコード論で考えると都 節テト
容が能楽の「高砂」や「松風」の内容から影響を受け
ラコードの上に民謡テトラコードがディスジ ャンクトで
接合した形である。
ている例もあり、日本のシステムによる伴奏がここで
も適当だといえる。したがって、これからの歌唱共通
教材の演奏は日本の音楽のシステムによる伴奏と楽器
6)ヨナ抜き音階のレ→♭レ、ラ→♭ラになった形。
ド−♭レ−ミ−ソ−♭ラの構成音となる。このグループ
の構成音のファがミになっている。小泉文夫の都節音階
をもっと多く取り入れた形を取るべきなのである。
や都節テトラコードの核音にずれがある形である。洋楽
また、それに伴ってピアノなどの西洋楽器とともに
の影響が強いと考えられる。
三味線や三線、箏や太鼓といった日本の楽器の演奏が
7)東川清一の「混合類」は小泉文夫のテトラコード 論に置
できて、こうした楽器を伴奏にこれらの歌の歌える教
き換えると律のテトラコードの上に都節テト ラコードを
師をもっとたくさん養成しなければならないというこ
ディスジャンクトした形だけであるが、ここの「混合音
ともいえるのである。
階グループ」はその他の組み合わせ も含む形を想定して
それはこれらの歌唱共通教材の曲一つ一つが要求し
ているともいえる。
いる。
8)この場合の「二六」を「ニロ」と呼ぶのは、四七 抜き音
階のように「ヒフミヨイムナ」ではなく、漢 数字の普通
の読み方の始めの音を採用していると考 えられる。
9)松井みさ「大正時代の唱歌に関する一研究∼永井 幸次作
品の音階構成を中心にして∼」
中国大学紀要(通号 6)2007 年 pp.176 L.18-25
ここでは、ナ抜き音階とヨ抜き音階の存在につい てと、
この 2 つの音階がヨナ抜き音階から派生した と考えると
言及している。
−53−
美作大学・美作大学短期大学部紀要
2009, Vol. 54. 55 ∼ 70
報告・資料
小学生の食生活の実態
An actual condition survey of dietary habits of elementary school children
山田 英明、小林 圓裕*1、河田 哲典*2、門田新一郎*2
キーワード:「小学生」「食生活」「学年別」「食品群摂取頻度」「食品摂取得点」
緒言
ている。また、2004年には、「食に関する指導体制の
栄養・食生活は、運動や休養とともに健康づくりの
整備について」(「食に関する指導体制」)が中央教
3本柱であり、生命の維持と子どもの健やかな成長、
育審議会から提出され、体育科、保健体育科、家庭科
そして人々が健康で幸せな生活を送るために欠かすこ
などの教科、給食の時間などの学級活動、総合的な学
とのできない要素である。しかしながら、朝食欠食率
習の時間などにおける食の指導に関する位置づけが示
の増加、加工食品や特定保健食品への過度の依存、過
され、小、中学校に栄養教諭が導入されている8) 。
度のダイエット志向、家族団らんの喪失による孤食の
さらに、2005年制定の食育基本法では、「生きる力」
増加など、食生活を取り巻く社会環境の変化による健
の基本となる「食育」を学校教育で推進することを求
康への影響が懸念され、個人の行動変容を支援する健
められている。
康づくりへの取り組みが必要とされている
1)
。
しかし、現在までに、小学生の食生活の重要性か
小学生においても生活環境の著しい変化がみられ、
ら、食生活の意識や食事の摂取状況などに関する調
彼らの食生活にも様々な影響を及ぼし、不規則な食
査9∼11)を検討した報告は多いが、小学校における食
事、栄養素等の摂取の偏りなどに起因する肥満や生活
育を推進するに当たって6年間の中でどのように食育
習慣病のリスクの増加など多くの問題が指摘されてい
を展開するのか調査、研究した報告は少ない。また、
る
2)
。これら小学生の食生活上の問題は、生涯を通
津山市教育委員会の調査においても3、6年生の調査
して生活習慣病の一次予防と、健康の維持・増進をは
の実施のみであった。
かり、QOLの向上を目指すことからも早急に解決す
そこで、本研究では、学校における食育に関する基
る必要があることが指摘されている 3)。これらのこ
礎資料を得ることを目的として、津山市内の小学生の
とから、小学生・中学生における「生きる力」の育成
全学年を対象に朝食摂取及び食品摂取頻度などの食生
は、既に公衆衛生審議会の意見具申
議会答申
5)
4)
や保健体育審
においても、生活習慣病の予防を重視し
活の調査を行い、食生活の学年別との関連を検討して
みた。
た小児期からの家庭教育や学校健康教育の必要性とし
て提言されており、小・中学校学習指導要領6、7)な
方法
どにおいて体育・健康に関する活動の実践が推進され
1.調査対象と分析対象
津山市内の公立小学校3校の全児童1,401名を対象
*1
*2
津山市教育委員会
岡山大学教育学研究科
とした。その内、無回答の項目がある者を除いた人数
を有効回答とした。有効回答の得られた1,221名(有
−55−
を用いてそれぞれχ2検定を行い、危険率5%未満を
効回答率は87.2%)を分析対象とした。
有意とした。
2.調査方法と時期
調査は、2007年7月中旬に行った。調査方法は、質
5.倫理的配慮
問紙調査法による無記名で選択式(択一式)とした。
本研究の調査内容及び回答者の個人情報の取扱いに
調査は各小学校の学級担任に依頼し、授業の一部を
ついては、美作大学・美作大学短期大学部 研究倫理
利用して調査を行った。低学年については家庭に持ち
委員会において審査を受け、承認を得た。
帰ってもらい、親が記入した。調査の目的、統計処理
の方法等調査の概略を説明し協力を得た。すなわち、
結果
学級担任から無記名式であること、得られた結果は個
食事及び嗜好品の摂取状況を表1に示した。食
人の資料として用いないこと、結果はすべて統計処理
事は、全校では「毎日食べる」が朝食94.3%、夕食
を行い、個人が特定できないこと、また結果は学校全
99.7%で、給食の「全部食べる」が74.9%であった。
体の食生活指導の目的以外には使用しないことなどを
嗜好品では「ほとんど毎日食べる(飲む)」がおやつ
説明した。
58.5%であったが、ジュース24.2%、インスタント食
品1.3%と摂取頻度は低値であった。これらを学年別
3.調査内容
で比較したところ、給食、おやつ、インスタント食品
食生活に関する調査の内容は、門田の既報
12、13)
に
と学年間に差がみられ(P<0.01 表1)、給食は低学
準じた。
年で食べ残しの傾向が多く、おやつの摂取頻度が高い
食生活については、食事及び嗜好品の摂取状況と食
傾向、高学年になるにつれてインスタント食品の摂取
品群摂取頻度について調査した。これらの項目には、
頻度が高い傾向であった。
それぞれ「毎日食べる」、「週2∼3日食べる(飲
学校別の摂取状況を表2、3、4で示した。学校規
む)」、「ほとんど食べない(飲まない)」の3つの
模がほぼ同じY小学校とK小学校は同じ傾向を示し、
選択肢を設けた。給食は「全部食べる」、「少し残
おやつは学年間で差がみられ(p<0.01 表2、4)、
す」、「半分以上残す」の3つの選択肢を設けた。
高学年になるにつれて低くなる傾向を示し、ジュー
食品群摂取頻度は、厚生労働省国民健康・栄養調
ス、インスタント食品の摂取状況は学年間で差がみ
査
14)
及び門田
13)
の調査を参考に11食品(緑黄色野
られ(p<0.05,P<0.01 表2、4)、高学年になるにつ
菜、淡色野菜、果実類、肉類、魚介類、卵類、牛乳・
れて高くなる傾向を示した。学校規模の小さいH小学
乳製品、大豆・豆製品、藻類、いも類、穀類)につい
校では給食の摂取状況に学年間の差がみられ(p<0.05
て、「毎日食べる」を3点、「週2∼3日食べる」を
表3)、給食の食べ残しが低学年で多く、おやつの摂
2点、「ほとんど食べない」を1点とし、計30点満点
取状況は他校と同様(p<0.01)の結果であった。
として食品摂取得点を算出した。
学年別の摂取状況を表5、6、7で示した。学年
別の学校間の関連を検討すると、低学年で学校間に差
4.資料の集計と分析
がみられ(p<0.01 表5)、給食の食べ残しにH小が低
収集した資料は、各項目について学年別および学
かった。また、中学年ではジュースの摂取に学校間の
校別と全体で集計した。実数で算出した食品摂取得点
差がみられた(P<0.01 表6)。
は、平均値と標準偏差の1/2を基準に3区分した。
11食品群の摂取頻度及び食品摂取得点について表8
学年別および学校別の比較、各項目間のクロス集計に
に示した。全校では、「毎日食べる」が50%以上を示
はアンケート集計・分析ソフト秀吉 Pro for Windows
した食品群は、淡色野菜、牛乳・乳製品、穀類の3食
−56−
品群であった。学年別で検討すると肉類、魚介類、卵
乳・乳製品のみに摂取頻度に差がみられ(P<0.05 表
類、大豆・豆製品およびいも類で学年間に差がみられ
14)、それぞれに学校間に摂取頻度の差があった。
(P<0.01 表8)、高学年になるにつれて肉類、魚介
類、卵類、大豆・豆製品の摂取頻度が低くなる傾向、
考察
いも類は高学年になるにつれて高い摂取傾向であっ
1998年の中央教育審議会答申において「生きる力」
た。11食品群から算出した食品摂取得点(平均値±標
とは、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主
準偏差)は25.4±3.4、低学年25.7±3.1、中学年25.6±
体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する能
3.4、高学年25.1±3.6であり、食品摂取得点のカテゴ
力、自らを律しつつ、他人と協調し、他人を思いやる
リは学年間に差がみられ(P<0.01 表8)、食品摂取
心や感動する心など豊かな人間性とたくましく生きる
得点は高学年になるにつれて低くなった。
ための健康や体力を指している。このことから、学校
学校別の摂取頻度及び食品摂取得点について表9、
における食育が「生きる力」の基本となるためには、
10、11に示した。「毎日食べる」が50%以上を示し
食生活を通じた人間関係の形成能力や健康的な食生活
た食品群は、Y小学校では牛乳・乳製品、穀類の2食
の指導の基盤として位置付けられなければならない。
品群、H小学校、K小学校では淡色野菜、牛乳・乳製
本研究は、小学生の食生活および食品摂取得点と
品、穀類の3食品群であった。学年別の摂取頻度は学
学年別の関連を検討した。朝食は1日の食事の基本
校間に違う傾向がみられ、Y小学校では肉類、牛乳・
とされ、青少年の食生活の問題の中で朝食欠食の改
乳製品、大豆・豆製品、藻類、いも類の摂取頻度およ
善が大きな課題となっており 8)、朝食の摂取につい
び食品摂取得点に学年間の差がみられ(P<0.05,P<0.01
ては、近年、児童・生徒の生活指導 15)において「早
表9)、肉類、牛乳・乳製品、大豆・豆製品の摂取頻
寝、早起き、朝ご飯」が提唱されている。また、津山
度および食品摂取得点が高学年になるにつれて低くな
市においても食育推進計画の中で「60・15キャンペー
る傾向を示し、また藻類、いも類の摂取頻度は高学年
ン」 16)が実施されている。60分早く就寝して、15分
になるにつれて高くなる傾向を示した。H小学校は魚
早く起床する運動である。その背景には、情報機器の
介類、藻類の摂取頻度に学年間の差がみられ(P<0.05
使用などによる生活時間の夜型化があると考えられて
表10)、魚介類の摂取頻度で高学年になるにつれて低
いる 17)。すなわち朝食を食べない理由として、夜型
くなる傾向を示し、藻類の摂取頻度は高学年になるに
化によって睡眠時間が減少し、起床時刻が遅くなり、
つれて高くなる傾向を示した。また穀類を毎日食べな
朝食を食べる時間がないことがあげられ、朝食摂取の
い、週2∼3日しか食べない児童が中学年に多くい
重要性が指摘されている。食品摂取得点はカテゴリカ
た。
ルな資料ではあるが、栄養素等摂取状況を推定する資
K小学校では肉類、卵類、藻類、いも類の摂取頻
料として利用でき、偏食や栄養のアンバランスを推察
度に学年間の差がみられ(P<0.05,P<0.01 表11)、肉
することができることから、これら朝食の摂取状況や
類、卵類の摂取頻度で高学年になるにつれて低くなる
食品摂取得点と学年別の関連を検討することは、学校
傾向を示し、藻類、いも類の摂取頻度で高学年になる
における食育の有用な基礎資料を与えるものと考えら
につれて高くなる傾向を示した。
れる。
学年別の摂取状況を表12、13、14で示した。学年別
まず、小学生の食生活を調べたところ、朝食を「毎
の学校間の関連を検討すると低学年では果実類、藻
日食べる」が全体で94.3%であり、低学年96.6%、中
類で摂取頻度に差がみられ(P<0.05,P<0.01 表12)、
学年95.1%、高学年91.9%となり、年齢が上がるにつ
中学年では魚介類、卵類、牛乳・乳製品の摂取頻度に
れて朝食欠食者の増加傾向が明らかになった。これは
差がみられた(P<0.05 表13)。また、高学年では牛
水津ら 18)の報告と同様であり、平成17年国民健康・
−57−
栄養調査成績 14)6∼12歳の成績「毎日食べる」比べ
以上のことは津山市の小学校3校は全国の平均的な
てもほぼ同値を示した。また、津山市教育委員会に
小学校に近い結果ではあるが、これは津山市中心部の
おいての「平成18年度食生活についてのアンケート調
小学校の実態であるので、今後さらに市内の各小学校
査」 19)では3年生と6年生の調査結果において平均
の調査を行い、津山市全体の傾向が全国の平均的な小
値87.6%であり、また、同市食育推進計画の朝食を毎
学校であるのかを把握する必要があると考えられる。
日食べるという目標値は93%であり、本研究の結果は
平成12年に厚生省が発表した成長期の食生活指
いずれの数値よりを上回っていた。これは、全学年の
針 21)において、学童期は食習慣の完成期として位置
調査と一部の学年の調査との差であり、平成17年国民
づけられている。この時期に食生活の基礎を十分に身
健康・栄養調査成績と大きな差はないことや学年が上
につけることは、生涯にわたってその心身の健康を保
がるにつれて朝食の欠食が増える傾向はどの小学校で
持増進していくために不可欠であると考えられる。本
もみられることから、学年別の朝食摂取の指導が必要
調査結果より低学年には朝食の欠食は少なく、食品摂
であると考えられた。
取得点、嗜好食品の摂取状況が良好だったことから、
また間食の摂取は低学年で多く摂取されているが、
家庭と小学校の連携を持ち高学年に向けて食生活の基
インスタント食品は高学年になるほど多く摂取されて
礎を十分に身につけることと、高学年からの家庭科
おり、食に対する嗜好について年齢が上がることで変
の教育のみならず、低学年からの生活や総合的な学習
化していることが表れていた。学校別で検討をしてみ
の時間等を利用した食育が必要であることが示唆され
ると学校差はなく、間食に換わるインスタント食品の
た。
摂取についての食教育が必要であること、さらに学校
別では2校にジュースの摂取、1校に給食の摂取と学
まとめ
年別の関連がみられ、摂取に対する指導が必要である
津山市内の小学校3校の1221名(有効回答率
と考えられた。
87.2%)を分析対象に、朝食摂取及び食品摂取頻度な
11食品群の摂取頻度では、穀類、牛乳・乳製品、
どの食生活の調査を行い、食生活の学年別との関連を
淡色野菜の摂取頻度は比較的高いが、逆に果実
検討した。その結果、朝食を摂取し、健康的な食品摂
類、魚介類、大豆・豆製品、藻類、いも類の摂取
取状況にあるのは低学年であり、高学年になるにつれ
頻度は低く、食品摂取得点と学年別の関連を検討
て食生活の内容は良くなかった。このことより、低学
した。食品摂取得点の23点以下は低学年で23.6%、
年から高学年に向けて食生活の基礎を十分に身につけ
中学年で27.9%、高学年で33.7%と年齢が上がる
ることと、その知識は高学年からの家庭科の教育のみ
につれて食品摂取得点の低い傾向の児童が多くな
ならず、低学年からの生活や総合的な学習の時間等を
り、食物摂取得点と学年別との間に関連がみられ
利用した食育が必要であることが示唆された。
た。また、学校別で検討したところ、3校すべて
が同じ傾向ではないことから、学校によっては食
本研究は文部科学省平成20年度助成金「子どもの健
品群の摂取についての指導の内容を検討する必要
康を育む総合食育推進事業」の一部として行ったもの
が示唆された。また、学校保健統計調査報告書
20)
である。
の生活習慣病へ関連する肥満は低学年から高学年にな
謝 辞
るに従い肥満傾向児が増加しているという結果は本調
査の食品摂取得点の学年別の変動と同様であり、生活
指導においても食生活指導と同様に学年別に行う必要
稿を終わるに当たって、調査にご協力いただいた津
があることが、本調査結果からも示唆された。
山市内の小学校の諸先生ならびに児童の皆さん、また
−58−
保護者の方々に感謝の意を表します。
17)日本学校保健会:児童・生徒の健康状態サーベイランス
事業報告書 , 2006.
18)水津久美子 , 穴井恭子 , 中村さゆり , 山本真弓:児童の食
文 献
生活に関する実態と保護者の意識との関連について−児
1)食育基本法:内閣府 , 2005.
童の元気創造を目指して− , 山口県立大学生活科学部研
2)金田雅代:栄養教諭と食に関する指導 , 日本食生活学会誌 ,
Vol.15, No.2, 2004.
究報告 , 31, 29-40, 2005.
19)津山市教育委員会:平成 18 年度食生活についてのアンケー
ト調査 , 2006.
3)厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会:今後の生活
習慣病対策の推進について(中間)とりまとめ , 2005.
20)文部科学省:学校保健統計調査報告書 , pp45, 2008.
4)公衆衛生審議会:生活習慣に着目した疾病対策の基本的
21)栄養調理関係法令研究会:栄養調理六法−平成 19 年度
版 健康づくりのための食生活指針 , pp425-426, 2007.
方針について(意見具申). 1996.
5)保健体育審議会:生涯にわたる心身の健康の僅持増進の
ための今後の健康に関する教育及びスポーツの振興のあ
り方について(答申), 1997.
6)文部科学省:小学校学習指導要領 , 国立印刷局 , 東京 ,
1998.
7)文部科学省:中学校学習指導要領 , 国立印刷局 , 東京 ,
1998.
8)中央教育審議会答申:食に関する指導体制の整備について ,
2004.
9)日本体育・学校健康センター:児童生徒の食生活等実態
調査報告書 , 2001.
10)濱名涼子 , 早渕仁美 , 南里明子 , 久野真奈見 , 赤崎尚子:
福岡県内の小学生を対象とした食生活と自覚疲労調査∼
学年・男女の比較∼ , 福岡女子大学人間環境学部紀要 ,
35, 47-54, 2004.
11)北面美穂 , 金福順 , 久野真奈見 , 松尾雅代 , 戸次真知子 ,
早渕仁美:河南省・吉林省・福岡市における小学生の
食生活・健康調査 , 福岡女子大学人間環境学部紀要 , 37,
7-13, 2006.
12)門田新一郎:高校生の健康習慣に関する意識 , 知識 , 態
度について∼食物摂取頻度調査との関連∼ , 栄養学雑誌 ,
62, 9-18, 2004.
13)門田新一郎:中学生の健康状態と食生活との関連につい
て∼簡易アンケート調査による検討∼ , 栄養学雑誌 , 45,
209-222, 1987.
14)健康・栄養情報研究全編:国民健康・栄養の現状 −平成
17 年厚生労働省国民健康・栄養調査報告より− , 第一出
版 , 東京 , 2008.
15)蔭山英男:蔭山英男先生の早寝・早起き・朝ご飯ノート ,
講談社 , 東京 , 2006.
16)津山市食育推進計画:pp39, 2007.
−59−
表1 食事および嗜好品の摂取状況の学年別比較(%)
項 目
カテゴリ
①朝食
1. 毎日食べる
(ごはん・パン、おかず、など) 2. 週3∼4日食べる
3. 週1∼2日食べる
4. ほとんど食べない
②給食
1. 全部食べる
2. 少し残す
3. 半分以上残す
③夕食
1. ほとんど毎日食べる
(ごはん・パン、おかず、など) 2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
④おやつ
1. ほとんど毎日食べる
(おかし、ケーキ、など)
2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
⑤ジュース
1. ほとんど毎日飲む
(ボトル、パック、ビン、カン、 2. 週2∼3日飲む
など)
3. ほとんど飲まない
⑥インスタント食品
1. ほとんど毎日食べる
(カップメン・ヌードル、など) 2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
低学年
n= 352
96.6
2.0
0.6
0.9
67.9
31.3
0.9
99.7
−
0.3
80.4
17.3
2.3
21.3
36.6
42.0
−
5.7
94.3
中学年
n= 412
95.1
3.2
1.2
0.5
73.5
24.8
1.7
99.8
0.2
−
54.6
35.2
10.2
26.2
41.3
32.5
1.9
16.0
82.0
高学年
n= 457
91.9
3.7
2.0
2.4
81.4
17.7
0.9
99.6
0.2
0.2
45.1
42.0
12.9
24.5
44.4
31.1
1.8
24.3
74.0
全体
N= 1221
94.3
3.0
1.3
1.3
74.9
24.0
1.1
99.7
0.2
0.2
58.5
32.6
8.9
24.2
41.1
24.7
1.3
16.1
82.6
χ2
ns
**
ns
**
ns
**
注)**はp< 0.01 で有意差あり。ns は有意差なし。
表2 食事および嗜好品の摂取状況の学校別における学年別比較(%)
Y小学校
項 目
①朝食
(ごはん・パン、おかず、など)
カテゴリ
1. 毎日食べる
2. 週3∼4日食べる
3. 週1∼2日食べる
4. ほとんど食べない
②給食
1. 全部食べる
2. 少し残す
3. 半分以上残す
③夕食
1. ほとんど毎日食べる
(ごはん・パン、おかず、など) 2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
④おやつ
1. ほとんど毎日食べる
(おかし、ケーキ、など)
2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
⑤ジュース
1. ほとんど毎日飲む
(ボトル、パック、ビン、カン、 2. 週2∼3日飲む
など)
3. ほとんど飲まない
⑥インスタント食品
1. ほとんど毎日食べる
(カップメン・ヌードル、など) 2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
低学年
n= 141
97.2
2.8
−
−
72.3
27.7
−
100.0
−
−
83.0
13.5
3.5
22.7
31.9
45.4
−
6.4
93.6
注)*はp< 0.05 で、**はp< 0.01 で有意差あり。ns は有意差なし。
−60−
中学年
n= 141
97.9
0.7
0.7
0.7
68.8
29.8
1.4
100.0
−
−
49.6
41.1
9.2
19.9
46.8
33.3
1.4
16.3
82.3
高学年
n= 187
93.6
2.7
2.1
1.6
77.0
21.4
1.6
100.0
−
−
47.1
39.6
13.4
25.1
42.8
32.1
1.6
24.1
74.3
全体
N= 469
95.9
2.1
1.1
0.9
73.1
25.8
1.1
100.0
−
−
58.6
32.2
9.2
22.8
40.7
36.5
1.1
16.4
82.5
χ2
ns
ns
ns
**
*
**
表3 食事および嗜好品の摂取状況の学校別における学年別比較(%)
H小学校
項 目
カテゴリ
①朝食
1. 毎日食べる
(ごはん・パン、おかず、など) 2. 週3∼4日食べる
3. 週1∼2日食べる
4. ほとんど食べない
②給食
1. 全部食べる
2. 少し残す
3. 半分以上残す
③夕食
1. ほとんど毎日食べる
(ごはん・パン、おかず、など) 2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
④おやつ
1. ほとんど毎日食べる
(おかし、ケーキ、など)
2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
⑤ジュース
1. ほとんど毎日飲む
(ボトル、パック、ビン、カン、 2. 週2∼3日飲む
など)
3. ほとんど飲まない
⑥インスタント食品
1. ほとんど毎日食べる
(カップメン・ヌードル、など) 2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
低学年
n=72
97.2
−
1.4
1.4
52.8
43.1
4.2
100.0
−
−
83.3
16.7
−
18.1
40.3
41.7
−
6.9
93.1
中学年
n=95
95.8
2.1
2.1
−
72.6
24.2
3.2
98.9
1.1
−
53.7
34.7
11.6
25.3
30.5
44.2
2.1
16.8
81.1
高学年
n=105
92.4
3.8
1.9
1.9
86.7
13.3
−
98.1
1.0
1.0
48.6
37.1
14.3
27.6
40.0
32.4
2.9
19.0
78.1
全体
N=272
94.9
2.2
1.8
1.1
72.8
25.0
2.2
98.9
0.7
0.4
59.6
30.9
9.6
24.3
36.8
39.0
1.8
15.1
83.1
χ2
ns
**
ns
**
ns
ns
注)**はp< 0.01 で有意差あり。ns は有意差なし。
表4 食事および嗜好品の摂取状況の学校別における学年別比較(%)
K小学校
項 目
①朝食
(ごはん・パン、おかず、など)
カテゴリ
1. 毎日食べる
2. 週3∼4日食べる
3. 週1∼2日食べる
4. ほとんど食べない
②給食
1. 全部食べる
2. 少し残す
3. 半分以上残す
③夕食
1. ほとんど毎日食べる
(ごはん・パン、おかず、など) 2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
④おやつ
1. ほとんど毎日食べる
(おかし、ケーキ、など)
2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
⑤ジュース
1. ほとんど毎日飲む
(ボトル、パック、ビン、カン、 2. 週2∼3日飲む
など)
3. ほとんど飲まない
⑥インスタント食品
1. ほとんど毎日食べる
(カップメン・ヌードル、など) 2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
低学年
n=139
95.7
2.2
0.7
1.4
71.2
28.8
99.3
−
0.7
76.3
21.6
2.2
21.6
39.6
38.8
−
4.3
95.7
注)*は p < 0.05 で、**は p < 0.01 で有意差あり。ns は有意差なし。
−61−
中学年
n=176
92.6
5.7
1.1
0.6
77.8
21.0
1.1
100.0
−
−
59.1
30.7
10.2
31.8
42.6
25.6
2.3
15.3
82.4
高学年
n=165
89.7
4.8
1.8
3.6
83.0
16.4
0.6
100.0
−
−
40.6
47.9
11.5
21.8
49.1
29.1
1.2
27.9
70.9
全体
N=480
92.5
4.4
1.3
1.9
77.7
21.7
0.6
99.8
−
0.2
57.7
34.0
8.3
25.4
44.0
30.6
1.3
16.5
82.3
χ2
ns
ns
ns
**
*
**
表5 食事および嗜好品の摂取状況の学年別における学校別比較(%)
低学年
項 目
カテゴリ
①朝食
1. 毎日食べる
(ごはん・パン、おかず、など) 2. 週3∼4日食べる
3. 週1∼2日食べる
4. ほとんど食べない
②給食
1. 全部食べる
2. 少し残す
3. 半分以上残す
③夕食
1. ほとんど毎日食べる
(ごはん・パン、おかず、など) 2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
④おやつ
1. ほとんど毎日食べる
(おかし、ケーキ、など)
2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
⑤ジュース
1. ほとんど毎日飲む
(ボトル、パック、ビン、カン、 2. 週2∼3日飲む
など)
3. ほとんど飲まない
⑥インスタント食品
1. ほとんど毎日食べる
(カップメン・ヌードル、など) 2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
Y小
n=141
97.2
2.8
−
−
72.3
27.7
−
100.0
−
0.3
83.0
13.5
3.5
22.7
31.9
45.4
−
6.4
93.6
H小
n=72
97.2
−
1.4
1.4
52.8
43.1
4.2
100.0
−
−
83.3
16.7
−
18.1
40.3
41.7
−
6.9
93.1
K小
n=139
95.7
2.2
0.7
1.4
71.2
28.8
−
99.3
−
−
76.3
21.6
2.2
21.6
39.6
38.8
−
4.3
95.7
全体
N=352
96.6
2.0
0.6
0.9
67.9
31.3
0.9
99.7
−
0.7
80.4
17.3
2.3
21.3
36.6
42.0
−
5.7
94.3
χ2
ns
**
ns
ns
ns
ns
注)**はp< 0.01 で有意差あり。ns は有意差なし。
表6 食事および嗜好品の摂取状況の学年別における学校別比較(%)
中学年
項 目
①朝食
(ごはん・パン、おかず、など)
カテゴリ
1. 毎日食べる
2. 週3∼4日食べる
3. 週1∼2日食べる
4. ほとんど食べない
②給食
1. 全部食べる
2. 少し残す
3. 半分以上残す
③夕食
1. ほとんど毎日食べる
(ごはん・パン、おかず、など) 2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
④おやつ
1. ほとんど毎日食べる
(おかし、ケーキ、など)
2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
⑤ジュース
1. ほとんど毎日飲む
(ボトル、パック、ビン、カン、 2. 週2∼3日飲む
など)
3. ほとんど飲まない
⑥インスタント食品
1. ほとんど毎日食べる
(カップメン・ヌードル、など) 2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
注)**はp< 0.01 で有意差あり。ns は有意差なし。
−62−
Y小
n=141
97.9
0.7
0.7
0.7
68.8
29.8
1.4
100.0
−
−
49.6
41.1
9.2
19.9
46.8
33.3
1.4
16.3
82.3
H小
n=95
95.8
2.1
2.1
−
72.6
24.2
3.2
98.9
1.1
−
53.7
34.7
11.6
25.3
30.5
44.2
2.1
16.8
81.1
K小
n=176
92.6
5.7
1.1
0.6
77.8
21.0
1.1
100.0
−
−
59.1
30.7
10.2
31.8
42.6
25.6
2.3
15.3
82.4
全体
N=412
95.1
3.2
1.2
0.5
73.5
24.8
1.7
99.8
0.2
−
54.6
35.2
10.2
26.2
41.3
32.5
1.9
16.0
82.0
χ2
ns
ns
ns
ns
**
ns
表7 食事および嗜好品の摂取状況の学年別における学校別比較(%)
高学年
項 目
①朝食
(ごはん・パン、おかず、など)
カテゴリ
1. 毎日食べる
2. 週3∼4日食べる
3. 週1∼2日食べる
4. ほとんど食べない
②給食
1. 全部食べる
2. 少し残す
3. 半分以上残す
③夕食
1. ほとんど毎日食べる
(ごはん・パン、おかず、など) 2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
④おやつ
1. ほとんど毎日食べる
(おかし、ケーキ、など)
2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
⑤ジュース
1. ほとんど毎日飲む
(ボトル、パック、ビン、カン、 2. 週2∼3日飲む
など)
3. ほとんど飲まない
⑥インスタント食品
1. ほとんど毎日食べる
(カップメン・ヌードル、など) 2. 週2∼3日食べる
3. ほとんど食べない
注)ns は有意差なし。
−63−
Y小
n=187
93.6
2.7
2.1
1.6
77.0
21.4
1.6
100.0
−
−
47.1
39.6
13.4
25.1
42.8
32.1
1.6
24.1
74.3
H小
n=105
92.4
3.8
1.9
1.9
86.7
13.3
−
98.1
1.0
1.0
48.6
37.1
14.3
27.6
40.0
32.4
2.9
19.0
78.1
K小
n=165
89.7
4.8
1.8
3.6
83.0
16.4
0.6
100.0
−
−
40.6
47.9
11.5
21.8
49.1
29.1
1.2
27.9
70.9
全体
N=457
91.9
3.7
2.0
2.4
81.4
17.7
0.9
99.6
0.2
0.2
45.1
42.0
12.9
24.5
44.4
31.1
1.8
24.3
74.0
χ2
ns
ns
ns
ns
ns
ns
表 8 食品群摂取頻度および食品摂取得点の学年別比較(%)
低学年
n=352
47.2
46.9
6.0
52.3
42.3
5.4
24.7
55.1
20.2
46.3
52.3
1.4
20.2
75.0
4.8
36.9
56.0
7.1
67.9
24.7
7.4
26.1
67.0
6.8
18.2
69.9
11.9
12.8
76.7
10.5
96.0
3.4
0.6
23.6
49.4
27.0
項 目
カテゴリ
①緑黄色野菜
1. 毎日食べる
(ほうれんそう、にんじん、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
トマト、など)
3. ほとんど食べない
②淡色野菜
1. 毎日食べる
(キャベツ、レタス、だいこん、 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
③果実類
1. 毎日食べる
(バナナ、オレンジ、りんご、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
④肉類
1. 毎日食べる
(牛肉、豚肉、とり肉、など)
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑤魚介類
1. 毎日食べる
(魚、かまぼこ、ちくわ小魚、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
⑥卵類
1. 毎日食べる
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑦牛乳(コップ 1 杯)・
1. 毎日食べる
乳製品(ヨーグルト、チーズ、 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
⑧大豆・豆製品
1. 毎日食べる
(とうふ、なっとう、など)
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑨藻類
1. 毎日食べる
(こんぶ、わかめ、のり、など) 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑩いも類
1. 毎日食べる
(じゃがいも、さつまいも、など)2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑪穀類
1. 毎日食べる
(ごはん、パン、うどん、など) 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
1. 23 以下
食品摂取得点
2. 24 ∼ 27
3. 28 以上
注)**はp< 0.01 で有意差あり。ns は有意差なし。
−64−
中学年
n=412
48.8
44.4
6.8
53.4
39.3
7.3
25.2
53.6
21.1
34.2
60.0
5.8
24.5
68.0
7.5
33.0
52.9
14.1
67.0
23.8
9.2
31.1
57.0
11.9
34.0
57.3
8.7
19.2
69.4
11.4
94.7
4.9
0.5
27.9
41.0
31.1
高学年
n=457
48.8
44.0
7.2
47.9
47.3
4.8
29.5
48.4
22.1
29.1
61.7
9.2
19.9
68.9
11.2
30.9
54.7
14.4
64.1
24.5
11.4
25.4
54.3
20.4
30.4
52.1
17.5
23.6
58.6
17.7
93.0
5.7
1.3
33.7
39.8
26.5
全体
N=1221
48.3
45.0
6.7
51.0
43.2
5.8
26.7
52.1
21.2
35.8
58.4
5.8
21.5
70.4
8.1
33.3
54.5
12.2
66.2
24.3
9.5
27.5
58.9
13.6
28.1
59.0
12.9
19.0
67.5
13.5
94.4
4.8
0.8
28.8
43.0
28.2
χ2
ns
ns
ns
**
**
**
ns
**
**
**
ns
**
表 9 食品群摂取頻度および食品摂取得点の学校別における学年別比較(%)
Y小学校
低学年
n=141
48.2
46.8
5.0
49.6
46.8
3.5
31.9
52.5
15.6
50.4
48.9
0.7
18.4
77.3
4.3
30.5
63.1
6.4
70.2
24.8
5.0
23.4
73.0
3.5
18.4
74.5
7.1
14.2
75.2
10.6
93.6
5.0
1.4
20.6
52.5
27.0
項 目
カテゴリ
①緑黄色野菜
1. 毎日食べる
(ほうれんそう、にんじん、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
トマト、など)
3. ほとんど食べない
②淡色野菜
1. 毎日食べる
(キャベツ、レタス、だいこん、 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
③果実類
1. 毎日食べる
(バナナ、オレンジ、りんご、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
④肉類
1. 毎日食べる
(牛肉、豚肉、とり肉、など)
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑤魚介類
1. 毎日食べる
(魚、かまぼこ、ちくわ小魚、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
⑥卵類
1. 毎日食べる
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑦牛乳(コップ 1 杯)・
1. 毎日食べる
乳製品(ヨーグルト、チーズ、 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
⑧大豆・豆製品
1. 毎日食べる
(とうふ、なっとう、など)
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑨藻類
1. 毎日食べる
(こんぶ、わかめ、のり、など) 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑩いも類
1. 毎日食べる
(じゃがいも、さつまいも、など)2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑪穀類
1. 毎日食べる
(ごはん、パン、うどん、など) 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
1. 23 以下
食品摂取得点
2. 24 ∼ 27
3. 28 以上
注)*はp< 0.05 で、**はp< 0.01 で有意差あり。ns は有意差なし。
−65−
中学年
n=141
48.9
45.4
5.7
54.6
41.1
4.3
23.4
54.6
22.0
32.6
61.0
6.4
22.0
68.8
9.2
27.7
60.3
12.1
71.6
24.8
3.5
33.3
51.8
14.9
36.2
56.7
7.1
14.2
71.6
14.2
98.6
1.4
−
23.4
49.6
27.0
高学年
n=187
50.3
43.3
6.4
45.5
49.7
4.8
32.6
44.4
23.0
27.3
63.1
9.6
21.9
67.4
10.7
30.5
54.5
15.0
64.7
23.5
11.8
23.0
52.9
24.1
28.3
50.3
21.4
22.5
59.4
18.2
92.0
5.9
2.1
34.8
42.8
22.5
全体
N=469
49.3
45.0
5.8
49.5
46.3
4.3
29.6
49.9
20.5
35.8
58.2
6.0
20.9
70.8
8.3
29.6
58.8
11.5
68.4
24.3
7.2
26.2
58.6
15.1
27.7
59.5
12.8
17.5
67.8
14.7
94.5
4.3
1.3
27.1
47.8
25.2
χ2
ns
ns
ns
**
ns
ns
*
**
**
*
ns
*
表 10 食品群摂取頻度および食品摂取得点の学校別における学年別比較(%)
H小学校
低学年
n=72
48.6
45.8
5.6
55.6
37.5
6.9
26.4
55.6
18.1
40.3
59.7
−
25.0
70.8
4.2
38.9
51.4
9.7
69.4
20.8
9.7
31.9
56.9
11.1
19.4
55.6
25.0
13.9
70.8
15.3
100.0
−
−
26.4
41.7
31.9
項 目
カテゴリ
①緑黄色野菜
1. 毎日食べる
(ほうれんそう、にんじん、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
トマト、など)
3. ほとんど食べない
②淡色野菜
1. 毎日食べる
(キャベツ、レタス、だいこん、 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
③果実類
1. 毎日食べる
(バナナ、オレンジ、りんご、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
④肉類
1. 毎日食べる
(牛肉、豚肉、とり肉、など)
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑤魚介類
1. 毎日食べる
(魚、かまぼこ、ちくわ小魚、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
⑥卵類
1. 毎日食べる
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑦牛乳(コップ 1 杯)・
1. 毎日食べる
乳製品(ヨーグルト、チーズ、 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
⑧大豆・豆製品
1. 毎日食べる
(とうふ、なっとう、など)
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑨藻類
1. 毎日食べる
(こんぶ、わかめ、のり、など) 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑩いも類
1. 毎日食べる
(じゃがいも、さつまいも、など)2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑪穀類
1. 毎日食べる
(ごはん、パン、うどん、など) 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
1. 23 以下
食品摂取得点
2. 24 ∼ 27
3. 28 以上
注)*はp< 0.05 で、**はp< 0.01 で有意差あり。ns は有意差なし。
−66−
中学年
n=95
47.4
44.2
8.4
51.6
37.9
10.5
33.7
48.1
17.9
30.5
61.1
8.4
33.7
55.8
10.5
42.1
40.0
17.9
70.5
18.9
10.5
37.9
51.6
10.5
34.7
55.8
9.5
22.1
65.3
12.6
89.5
9.5
1.1
28.4
36.8
34.7
高学年
n=105
51.4
41.9
6.7
56.2
40.0
3.8
28.6
50.5
21.0
35.2
55.2
9.5
16.2
71.4
12.4
32.4
56.2
11.4
74.3
21.0
4.8
32.4
47.6
20.0
33.3
54.3
12.4
23.8
60.0
16.2
99.0
1.0
−
29.5
37.1
33.3
全体
N=272
49.3
43.8
7.0
54.4
38.6
7.0
29.8
51.5
19.1
34.9
58.5
6.6
24.6
65.8
9.6
37.5
49.3
13.2
71.7
20.2
8.1
34.2
51.5
14.3
31.1
55.1
14.7
20.6
64.7
14.7
96.0
3.7
0.4
28.3
38.2
33.5
χ2
ns
ns
ns
ns
*
ns
ns
ns
*
ns
**
ns
表 11 食品群摂取頻度および食品摂取得点の学校別における学年別比較(%)
K小学校
低学年
n=139
45.3
47.5
7.2
53.2
40.3
6.5
16.5
57.6
25.9
45.3
51.8
2.9
19.4
74.8
5.8
42.4
51.1
6.5
64.7
26.6
8.6
25.9
66.2
7.9
17.3
72.7
10.1
10.8
81.3
7.9
96.4
3.6
−
25.2
50.4
24.5
項 目
カテゴリ
①緑黄色野菜
1. 毎日食べる
(ほうれんそう、にんじん、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
トマト、など)
3. ほとんど食べない
②淡色野菜
1. 毎日食べる
(キャベツ、レタス、だいこん、 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
③果実類
1. 毎日食べる
(バナナ、オレンジ、りんご、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
④肉類
1. 毎日食べる
(牛肉、豚肉、とり肉、など)
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑤魚介類
1. 毎日食べる
(魚、かまぼこ、ちくわ小魚、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
⑥卵類
1. 毎日食べる
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑦牛乳(コップ 1 杯)・
1. 毎日食べる
乳製品(ヨーグルト、チーズ、 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
⑧大豆・豆製品
1. 毎日食べる
(とうふ、なっとう、など)
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑨藻類
1. 毎日食べる
(こんぶ、わかめ、のり、など) 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑩いも類
1. 毎日食べる
(じゃがいも、さつまいも、など)2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑪穀類
1. 毎日食べる
(ごはん、パン、うどん、など) 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
1. 23 以下
食品摂取得点
2. 24 ∼ 27
3. 28 以上
注)*はp< 0.05 で、**はp< 0.01 で有意差あり。ns は有意差なし。
−67−
中学年
n=176
49.4
43.8
6.8
53.4
38.6
8.0
22.2
55.7
22.2
37.5
58.5
4.0
21.6
73.9
4.5
32.4
54.0
13.6
61.4
25.6
13.1
25.6
64.2
10.2
31.8
58.5
9.7
21.6
69.9
8.5
94.3
5.1
0.6
31.3
36.4
32.4
高学年
n=165
45.5
46.1
8.5
45.5
49.1
5.5
26.7
51.5
21.8
27.3
64.2
8.5
20.0
69.1
10.9
30.3
53.9
15.8
57.0
27.9
15.2
23.6
60.0
16.4
30.9
52.7
16.4
24.8
57.0
18.2
90.3
8.5
1.2
35.2
38.2
26.7
全体
N=480
46.9
45.6
7.5
50.6
42.7
6.7
22.1
54.8
23.1
36.3
58.5
5.2
20.4
72.5
7.1
34.6
53.1
12.3
60.8
26.7
12.5
25.0
63.3
11.7
27.3
60.6
12.1
19.6
68.8
11.7
93.5
5.8
0.6
30.8
41.0
28.1
χ2
ns
ns
ns
**
ns
*
ns
ns
**
**
ns
ns
表 12 食品群摂取頻度および食品摂取得点の学年別における学校別比較(%)
低学年
Y小
n=141
48.2
46.8
5.0
49.6
46.8
3.5
31.9
52.5
15.6
50.4
48.9
0.7
18.4
77.3
4.3
30.5
63.1
6.4
70.2
24.8
5.0
23.4
73.0
3.5
18.4
74.5
7.1
14.2
75.2
10.6
93.6
5.0
1.4
20.6
52.5
27.0
項 目
カテゴリ
①緑黄色野菜
1. 毎日食べる
(ほうれんそう、にんじん、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
トマト、など)
3. ほとんど食べない
②淡色野菜
1. 毎日食べる
(キャベツ、レタス、だいこん、 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
③果実類
1. 毎日食べる
(バナナ、オレンジ、りんご、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
④肉類
1. 毎日食べる
(牛肉、豚肉、とり肉、など)
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑤魚介類
1. 毎日食べる
(魚、かまぼこ、ちくわ小魚、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
⑥卵類
1. 毎日食べる
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑦牛乳(コップ 1 杯)・
1. 毎日食べる
乳製品(ヨーグルト、チーズ、 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
⑧大豆・豆製品
1. 毎日食べる
(とうふ、なっとう、など)
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑨藻類
1. 毎日食べる
(こんぶ、わかめ、のり、など) 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑩いも類
1. 毎日食べる
(じゃがいも、さつまいも、など)2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑪穀類
1. 毎日食べる
(ごはん、パン、うどん、など) 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
1. 23 以下
食品摂取得点
2. 24 ∼ 27
3. 28 以上
注)*はp< 0.05 で、**はp< 0.01 で有意差あり。ns は有意差なし。
−68−
H小
n=72
48.6
45.8
5.6
55.6
37.5
6.9
26.4
55.6
18.1
40.3
59.7
−
25.0
70.8
4.2
38.9
51.4
9.7
69.4
20.8
9.7
31.9
56.9
11.1
19.4
55.6
25.0
13.9
70.8
15.3
100.0
−
−
26.4
41.7
31.9
K小
n=139
45.3
47.5
7.2
53.2
40.3
6.5
16.5
57.6
25.9
45.3
51.8
2.9
19.4
74.8
5.8
42.4
51.1
6.5
64.7
26.6
8.6
25.9
66.2
7.9
17.3
72.7
10.1
10.8
81.3
7.9
96.4
3.6
−
25.2
50.4
24.5
全体
N=352
47.2
46.9
6.0
52.3
42.3
5.4
24.7
55.1
20.2
46.3
52.3
1.4
20.2
75.0
4.8
36.9
56.0
7.1
67.9
24.7
7.4
26.1
67.0
6.8
18.2
69.9
11.9
12.8
81.3
10.5
96.0
3.4
0.6
23.6
49.4
27.0
χ2
ns
ns
*
ns
ns
ns
ns
ns
**
ns
ns
ns
表 13 食品群摂取頻度および食品摂取得点の学年別における学校別比較(%)
中学年
Y小
n=141
48.9
45.4
5.7
54.6
41.1
4.3
23.4
54.6
22.0
32.6
61.0
6.4
22.0
68.8
9.2
27.7
60.3
12.1
71.6
24.8
3.5
33.3
51.8
14.9
36.2
56.7
7.1
14.2
71.6
14.2
98.6
1.4
−
23.4
49.6
27.0
項 目
カテゴリ
①緑黄色野菜
1. 毎日食べる
(ほうれんそう、にんじん、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
トマト、など)
3. ほとんど食べない
②淡色野菜
1. 毎日食べる
(キャベツ、レタス、だいこん、 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
③果実類
1. 毎日食べる
(バナナ、オレンジ、りんご、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
④肉類
1. 毎日食べる
(牛肉、豚肉、とり肉、など)
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑤魚介類
1. 毎日食べる
(魚、かまぼこ、ちくわ小魚、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
⑥卵類
1. 毎日食べる
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑦牛乳(コップ 1 杯)・
1. 毎日食べる
乳製品(ヨーグルト、チーズ、 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
⑧大豆・豆製品
1. 毎日食べる
(とうふ、なっとう、など)
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑨藻類
1. 毎日食べる
(こんぶ、わかめ、のり、など) 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑩いも類
1. 毎日食べる
(じゃがいも、さつまいも、など)2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑪穀類
1. 毎日食べる
(ごはん、パン、うどん、など) 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
1. 23 以下
食品摂取得点
2. 24 ∼ 27
3. 28 以上
注)*はp< 0.05 で有意差あり。ns は有意差なし。
−69−
H小
n=95
47.4
44.2
8.4
51.6
37.9
10.5
33.7
48.4
17.9
30.5
61.1
8.4
33.7
55.8
10.5
42.1
40.0
17.9
70.5
18.9
10.5
37.9
51.6
10.5
34.7
55.8
9.5
22.1
65.3
12.6
89.5
9.5
1.1
28.4
36.8
34.7
K小
n=176
49.4
43.8
6.8
53.4
38.6
8.0
22.2
55.7
22.2
37.5
58.5
4.0
21.6
73.9
4.5
32.4
54.0
13.6
61.4
25.6
13.1
25.6
64.2
10.2
31.8
58.5
9.7
21.6
69.9
8.5
94.3
5.1
0.6
31.3
36.4
32.4
全体
N=412
48.8
44.4
6.8
53.4
39.3
7.3
25.2
53.6
21.1
34.2
60.0
5.8
24.5
68.0
7.5
33.0
52.9
14.1
67.0
23.8
9.2
31.1
57.0
11.9
34.0
57.3
8.7
19.2
69.4
11.4
94.7
4.9
0.5
27.9
41.0
31.1
χ2
ns
ns
ns
ns
*
*
*
ns
ns
ns
ns
ns
表 14 食品群摂取頻度および食品摂取得点の学年別における学校別比較(%)
高学年
Y小
n=187
50.3
43.3
6.4
45.5
49.7
4.8
32.6
44.4
23.0
27.3
63.1
9.6
21.9
67.4
10.7
30.5
54.5
15.0
64.7
23.5
11.8
23.0
52.9
24.1
28.3
50.3
21.4
22.5
59.4
18.2
92.0
5.9
2.1
34.8
42.8
22.5
項 目
カテゴリ
①緑黄色野菜
1. 毎日食べる
(ほうれんそう、にんじん、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
トマト、など)
3. ほとんど食べない
②淡色野菜
1. 毎日食べる
(キャベツ、レタス、だいこん、 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
③果実類
1. 毎日食べる
(バナナ、オレンジ、りんご、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
④肉類
1. 毎日食べる
(牛肉、豚肉、とり肉、など)
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑤魚介類
1. 毎日食べる
(魚、かまぼこ、ちくわ小魚、
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
⑥卵類
1. 毎日食べる
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑦牛乳(コップ 1 杯)・
1. 毎日食べる
乳製品(ヨーグルト、チーズ、 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
など)
3. ほとんど食べない
⑧大豆・豆製品
1. 毎日食べる
(とうふ、なっとう、など)
2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑨藻類
1. 毎日食べる
(こんぶ、わかめ、のり、など) 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑩いも類
1. 毎日食べる
(じゃがいも、さつまいも、など)2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
⑪穀類
1. 毎日食べる
(ごはん、パン、うどん、など) 2. 週 2 ∼ 3 日食べる
3. ほとんど食べない
1. 23 以下
食品摂取得点
2. 24 ∼ 27
3. 28 以上
注)*はp< 0.05 で有意差あり。ns は有意差なし。
−70−
H小
n=105
51.4
41.9
6.7
56.2
40.0
3.8
28.6
50.6
21.0
35.2
55.2
9.5
16.2
71.4
12.4
32.4
56.2
11.4
74.3
21.0
4.8
32.4
47.6
20.0
33.3
54.3
12.4
23.8
60.0
16.2
99.0
1.0
−
29.5
37.1
33.3
K小
n=165
45.5
46.1
8.5
45.5
49.1
5.5
26.7
51.5
21.8
27.3
64.2
8.5
20.0
69.1
10.9
30.3
53.9
15.8
57.0
27.9
15.2
23.6
60.0
16.4
30.9
52.7
16.4
24.8
57.0
18.2
90.3
8.5
1.2
35.2
38.2
26.7
全体
N=457
48.8
44.0
7.2
47.9
47.3
4.8
29.5
48.4
22.1
29.1
61.7
9.2
19.9
68.9
11.2
30.9
54.7
14.4
64.1
24.5
11.4
25.4
54.3
20.4
30.4
52.1
17.5
23.6
58.6
17.7
93.0
5.7
1.3
33.7
39.8
26.5
χ2
ns
ns
ns
ns
ns
ns
*
ns
ns
ns
ns
ns
美作大学・美作大学短期大学部紀要
2009, Vol. 54. 71 ∼ 77
報告・資料
生涯学習のための「染付」制作技術の検討
A technical investigation of a way of making“Sometsuke”for recurrent learning
高橋 徹、福田 恵子、田所 由加、大谷 典子、登川 真理
小川 博子、宇津井鈴子、原 朋美、具志堅彩乃、福田 高志
キーワード:「生涯学習」「染付」「呉須」「釉薬」
1.はじめに
高さと扱いやすさから家庭用食器のほとんどが磁器で
日本における生涯学習は、ユネスコから生涯教育
あることを鑑み、その器への文様描きや彩色は生涯学
の提案がポール・ラングランによってなされたのと機
習の対象として、また、生活の楽しみや質の向上にも
を同じくし、1965年、中央教育審議会の「後期中等教
つながる。
育の拡充整備について」の中で必要性が訴えられたこ
陶芸教室で展開される学習の多くは、成形→(乾
とから始まる。自治体を中心とした社会教育として取
燥)→素焼き→施釉→本焼きといったように、陶器の
り組まれ、高度経済成長による所得の向上を背景と
制作を中心とした造形の楽しみを味わうプログラムで
して、1970年代以降、民間のカルチャー事業としても
あることが多い。一方、磁器については、磁土の成型
発展してきた。教育・文化・スポーツといった幅広い
には熟練した技術を要することもあり、既成の素焼き
学習観と官民の連携は、日本独自のシステムと発展経
生地への下絵描き→施釉→本焼き→上絵描き→焼付け
1)
、高等教育機関による職
といった染付や色絵註2)等の彩色を中心としたプログ
業能力の開発や上級の職業資格取得のための学習を中
ラムが主流であり、開講教室は陶器に比べると少数で
心とした欧米の取り組みとは異なった様相を呈する。
ある。それは、絵画的なセンスと筆技法等に加え、特
1990年代半ば以降、日本においても個人のキャリア開
に、呉須註3)や色絵具濃度と焼成後の発色の度合いに
発の側面から高等教育機関での学習機会の拡大が提言
関する熟練した感覚が関係していると考えられる。濃
2)
緯上の特徴を有しており
されるようになったが、高等教育機関の果たす役
度と発色に関する感覚は、指導者の経験と感性に頼り
割は個人のキャリア開発に限らないことはいうまでも
ながら、満足の域に達するまでには多くの試作つまり
なく、これまでの日本の文化・風土で醸成された日本
時間とコストを費やすプロセスの中で培われる。よっ
型生涯学習の流れもまた高等教育機関が関わることに
て、制作における専門的技能とリスク、コスト等の要
よって、より充実するものと考える。
因と受講者の満足度や達成感との均衡が図りにくい分
陶芸は、その創作性と実用性の高さから幅広い年齢
野であると推察される。しかし、指導者の感性に頼る
層から支持される学習分野註1)であり、本研究は陶芸
プロセスを科学的に指標化することによって、制作時
の中でも「染付」の彩色技法の開発を対象とする。染
のリスクやコストを下げ、個性や芸術性の高い磁器制
付とは、白地に藍色一色で図柄を表わした磁器の総称
作に取り組むことは可能である。
である。磁器は、薄手で破損しにくく、ガラス質に近
そこで本研究は、染付の呉須の作り方と藍色の発色
いなめらかな美しさを特徴とする器である。実用性の
に関する熟練者の感覚を指標化し、より簡易かつ効果
−71−
的な染付技法を開発することを通じて、染付分野の生
2­2.釉薬の厚さに対する検討
涯学習の発展に寄与することを目的とし、呉須の調整
線描き後に釉薬を掛ける作業を行う。この作業を釉
方法および釉薬の掛け方に関する技術を数値化した。
掛けというが、染付では釉薬に浸して掛ける方法が一
般的である。釉薬は、その厚さによって、焼成後の器
2.方法
の厚さや呉須の色に影響を与える。そのため釉薬を浸
2­1.呉須の色見本の制作
す時間や回数と釉薬の厚さの関係を明らかにした。
呉須溶液の材料として、古代呉須(新日本造形株
釉薬は染付で一般的な長石釉(株式会社丸兄商社)
式会社)や濃紺呉須(新日本造形株式会社)、カル
を一般的な使用方法にならい、原液のままで用いた。
ボキシメチルセルロースナトリウム(以後CMC、新
濃度不明のため、水分含量を常温加熱乾燥法によって
日本造形株式会社)、茶汁、カオリン(和光純薬)、
測定した。すなわち、110℃2時間で通風乾燥機を用
灰(麦わら灰)を用いて調整した(表1)。いずれの
いて乾燥させて重量から水分含量を計算した。その結
材料も染付の制作には一般的に用いられるものであ
果、水分含量は51%であった。釉薬の厚さは、釉薬を
3)
る
。古代呉須、濃紺呉須、カオリン、灰は、粉末ま
掛けて室温で乾燥させた後に、器を割るあるいは器表
まで30分乳鉢で擂ってから用いた。CMCは水道水に
面の釉薬を一部取り除いて、ノギスで測定した。
0.75g/100mlの濃度で溶解し、CMC水溶液とした。水
浸す方法は、素焼きの高台を手で掴んで浸す方法
を加える際に、CMCは塊を形成するため、その塊を
と、専用の釉掛けハサミ(新日本造形株式会社)で素
薬サジでつぶしながら溶解した。茶汁は、滋賀県土山
焼きの器を保持して浸す方法の2種類を用いた。しか
産の雁が音(辰岡製茶株式会社)2gに対して、100ml
し、手で掴んで浸す方法では、器の保定が難しいた
の水で5分間煮出して調整した。それぞれの組成を表
め、釉薬から素焼きの器を取り出す行程に15秒および
1の分量で混合して、57種類の呉須溶液を制作した。
20秒程度の時間がかかり、時間設定が難しかった。素
制作した呉須溶液を、1度ずつ使って素焼き五寸
焼きの高台を手で掴んで浸す方法では釉薬の厚さはそ
皿(株式会社丸兄商社)に放射状に線描きをした(図
れぞれ1000μmと1200μmであった。
1)。ただし、比較を容易にするため、5種類の呉須
そこで、専用の釉掛けハサミで素焼きの皿を挟んで
溶液(番号5、6、9、21、22、表1)については複
保持する方法で、釉薬を浸す時間や回数を設定して、
数回用いている。なお、呉須による線描きの前に鉛筆
釉薬の厚さを測定した。素焼きの器を釉薬に浸す時間
で下書きをしているが、鉛筆の線は焼成の際には消失
は1秒、5秒、10秒とした。浸す時間はそれぞれ1秒
するため、鉛筆の線を消去していない(図1)。
とした場合、浸す回数は1、2、3、4回とした。な
線描きに先立ち、素焼きの表面の線描きする場所に
お、釉薬を掛ける作業に先立ち、高台に撥水剤(CP
対して水を充分含ませたスポンジで2、3度撫でるよ
−C水性、新日本造形株式会社)を塗っておいた。こ
うにして、水を染み込ませた。水を浸さないで線描き
れは高台に釉薬が掛かるのを防止するためで、焼成の
した場合、筆先が素焼きの表面に着いてしまうことが
際に窯の下板に器の高台が付着するのを妨げる目的が
あり、筆の滑りが悪くなる。これを防止して滑らかな
ある。
線を描くために水を用いた。呉須の色見本は同じ線描
呉須の色見本皿2枚については、釉薬に浸す回数は
きのものを2枚制作した。
1回とし、浸す時間は1秒と12秒とした。それぞれの
誤った呉須の線は、指や紙やすりなどで素焼きの表
釉薬の厚さは250μmと750μmであった。図2に釉薬
面を擦って素焼きの表面ごと削る方法で消去できる。
を掛けた状態を示す。
色見本皿の線描きの際、実際に誤った線を指で擦って
消去した。
−72−
表 1 呉須溶液の組成
番号
古代呉須
(g)
濃紺呉須
(g)
水
(ml)
0.75g/100mlCMC*
水溶液(ml)
茶汁
(ml)
カオリン
(g)
灰
(g)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
0.25
0.25
0.25
0.25
0.5
0.5
0.5
0.5
0.75
0.75
0.75
0.75
1
1
1
1
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
0.25
0.25
0.25
0.25
0.1
0.2
0.3
0.4
−
−
−
−
0.5
0.5
0.5
0.5
0.25
0.25
0.25
0.25
0.5
0.5
0.5
0.5
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
0.25
0.25
0.25
0.25
0.5
0.5
0.5
0.5
0.75
0.75
0.75
0.75
1
1
1
1
0.25
0.25
0.25
0.25
0.4
0.3
0.2
0.1
0.5
0.5
0.5
0.5
−
−
−
−
0.25
0.25
0.25
0.25
−
−
−
−
0.5
0.5
0.5
0.5
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
−
−
−
−
0.75
0
0.75
0
0.75
0
0.75
0
0.75
0
0.75
0
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
1.5
1.5
1.5
1.5
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
1.5
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
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−
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−
−
−
−
−
−
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−
−
−
0.75
1.5
0.75
1.5
0.75
1.5
0.75
1.5
0.75
1.5
0.75
1.5
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
0.5
0.5
−
−
0.5
0.5
−
−
0.5
0.5
−
−
0.5
0.5
−
−
0.5
0.5
−
−
0.5
0.5
−
−
0.5
0.5
−
−
0.5
0.5
−
−
0.5
0.5
−
−
−
−
−
−
0.5
0.5
−
−
0.5
0.5
−
−
0.5
0.5
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
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−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
0.75
0.75
−
−
0.75
0.75
*
CMC:カルボキシメチルセルロースナトリウム
−73−
2− 3.焼成プログラム
0 . 5 g / 1 . 5 m L が 適 当 で あ っ た。 ま た 、 1 g /1 . 5 m L で
焼成は、釉薬の厚さが250μmと750μmの色見本五
は呉須が焦げてしまうことが見られた(番号15、
寸皿、釉薬の厚さが1,000μmと1,200μmの五寸皿、
16、図3)。そのため、線描きの場合0.5g/1.5mL、
釉薬の厚さ不明(釉薬に浸す時間5秒、浸す回数3
0.75g/1.5mLを用いる際においても、二度塗りをする
回)のマグカップを行った。焼成には電気窯を用い、
と呉須の焦げが起こる可能性があるので、二度塗りは
酸素を取り除かないで焼く、酸化焼成で行った。焼成
出来るだけ控えた方がよい。
の際の温度調節は既存の書籍を参考にしながら
4)
、
色見本の焼き上がりを観察すると、呉須の線に沿っ
平川忠先生やアースワーク部の高木氏の指導の下設定
て、器の表面に凹みが生じていた。釉薬の厚さが
した。最初の段階では、窯の蓋を空けて1時間あた
250μmの皿で、表1の番号1−16の呉須の描いた線
り100℃で温度を上昇させていき、400℃に到達した時
について、線に沿った凹みの深さをノギスで測定し
点で蓋を閉めた。その後も1,200℃までは1時間100℃
た。呉須の種類、CMCの有無、カオリンの有無を要
で上昇させた。1,200−1,280℃の間は2時間掛け、
因とした三元分散分析を行ったところ、二元および三
1,280℃に到達後は20分間温度を1,280℃のままに維持
元の交互作用で有意差は認められず(P>0.3)、呉須
した後、電気窯の電源を切った。
の種類の影響も認められなかった(P>0.9)。CMC
添加で凹みが深くなり(P<0.0001)、カオリン添加
2− 4.経費
で凹みが浅くなった(P=0.003)(表3)。呉須と水
料金については、乳鉢(外径110mm、含乳棒):
3,100円、面相筆(細):500円、釉掛けハサミ:7,875
円、古代呉須、濃紺呉須(750g):ともに1,260円、
表2 釉薬に素焼きの器を浸す回数あるいは時間と釉
薬の厚さの関係
釉薬20L:5,000円、素焼き五寸皿:250円、素焼きマ
グカップ:450円、CMC(20g):231円、カオリン
浸す回数(回)
浸す時間(秒)
釉薬の厚さ(μm)
(500g):1,300円、陶磁器用撥水剤(100mL):682
1
2
3
4
1
1
1
1
1
1
5
10
250
350
450
650
400
550
円、灰:0円であった。
3.結果と考察
3−1.呉須の色や風合いについて
呉須の色見本を図3に示した。CMCの影響が最も
顕著であり、滑らかで深みがある発色であった(図
表3 CMC およびカオリンが器表面の凹みに与える
影響
3)。呉須とCMC溶液で調整した呉須溶液では、
組成*
線描き時の筆の動きについても滑らかであった(図
3)。茶汁は若干であるが落ち着いた発色を呈した。
水
CMC添加
水
CMC添加
カオリンと灰は含量が多すぎたため筆のカスレが目
立った(図3)。発色にはそれ程影響を与えなかっ
た。
CMC添加の影響
カオリン添加の影響
線描きの時は濃い呉須溶液を用い、塗る時は薄い
呉須溶液を用いることが一般的である
4)
。呉須の濃
度に関しては線描きの場合は0.5g/1.5mL、0.75g/1.5mL
の濃度が適当であり、塗る場合は0.25g/1.5mLか
凹みの深さ
(μm)
−
−
カオリン添加
カオリン添加
42±16
122±62
22±26
83±35
Probability
<0.0001
0.003
呉須の種類の影響は認められなかったため(DF=24、P=
0.9)、呉須の違いはプールしてく凹みの深さを計算した。
二元および三元の交互作用(P>0.3)は認められなかった。
−74−
のみの場合と比べてCMC添加で凹みが80μm程度深く
間を1秒に設定して浸す回数を2−4回程度にするの
なったが、CMCにカオリン添加した場合40μm程度浅
が適当かもしれない。
くなることが示された(表3)。一方、釉薬の厚さが
以上の方法で、実際に染付の皿を製作した例を図
750μmの皿では、この凹みはほとんどなかった。
5に示す。呉須溶液の作製や釉薬の掛け方などのデー
染付の器では呉須の線に沿って凹みが生じるのは珍
タから、このような染付皿は比較的簡易に制作可能で
しくない。また、釉薬を厚くすれば、凹みも目立たな
あった。なお、図5の文様についてはクッキングー
い。しかし、釉薬の厚さが250μmの皿ではCMC添加
ペーパーと鉛筆を用いて複写している。クッキング
による凹みが顕著であったため、CMC添加で顕著な
ペーパーは鉛筆の粉が通る程度の穴が空いていおり、
凹みをカオリンで埋めることが理想であるかもしれな
素焼きの上に乗せて上から鉛筆でなぞると、鉛筆の粉
い。しかし、今回用いたカオリン含量では筆のカスレ
が素焼きの表面に付く。そのため、図5のような同じ
を誘引するので、より低濃度で用いることが理想的だ
文様を描く皿を制作する場合に便利である。
と推測した。なお、凹みに対する茶汁の影響は認めら
以上に述べた技術以外に、美しい染付制作には絵画
れなかった。
的なセンスと筆技法などが不可欠である。しかし、染
線描き前に、スポンジで素焼きに表面に水で浸した
付分野の生涯学習の発展に着目した場合、使用可能な
が、本稿ではこの水による呉須の希釈や色に対する変
染付の器を低リスクで制作することが求められる。本
化は検討してこなかった。そのため、含水の度合いが
稿では経験に頼っていた技術の一部、すなわち呉須の
呉須の色の濃度に影響を与えるか不明である。含水は
制作や釉薬の掛け方について数値化した。これにより
線描きの場合には必須であるが、ダミといわれる呉須
簡易な染付制作方法の一例を示した。染付制作は書籍
による塗りつぶす作業の場合は行わない。ダミの場合
が少ないため、素人では敷居が高い印象を受ける。技
は、図3の線描きの色よりも濃くなる可能性がある。
術の数値化によって染付制作をより簡易にし、生涯学
習での染付の普及に貢献できればと考えている。
3−2.釉薬の厚さ
謝 辞
釉薬に浸す時間あるいは浸す回数と釉薬の厚さに
ついての関係を表2に示した。素焼きの器を釉薬に浸
す時間、浸す回数ともに、釉薬の厚さに影響を与えた
平川忠先生、ならびにアースワーク部の皆さん、お
(表2)。
よび高木氏のご指導やご協力に記して謝意を表する。
釉薬の厚さは器の重量にも影響した。素焼きの五寸
皿の重量は193gであり、釉薬の厚さ250μmと750μm
註
の五寸皿の焼成後の重量はそれぞれ207gと235gであっ
た。すなわち、釉薬の掛け方の違いで28gの重量差が
見られた。また、釉薬の厚さが1,200μmの五寸皿で
1)インターネット上に情報公開されている岡山県内の陶芸
教室は約 35 カ所あり、その他、公民館や小・中学校の
は釉薬が器表面を被覆していない個所が見られた(図
学習講座、生涯学習センターやカルチャーセンター等の
4)。釉薬の厚さについては800μm程度が理想的だ
とされているが5)、厚さ750μmの皿では、呉須の色
教室を含めると、かなりの数にのぼる。
2)釉薬を掛けて本焼した白地の上に、赤、藍、黄、紫、金
が見えづらい部分があったため、釉薬が厚過ぎると判
などの色絵具で文様を描き、
再び低温焼成(700 ∼ 800 度)
断した。すなわち、釉薬に素焼きの器を浸す時間が12
したもの。
秒では長過ぎると判断した。釉薬に素焼きの器を浸す
3)呉須。酸化コバルトを含む鉱物で、彩色に用いる顔料の
1回の場合では浸す時間は5秒程度にするか、浸す時
ことをさす。約1,300度の温度で焼成することで藍色に発
−75−
色する。
参考文献
1)瀬沼克彰.日本型生涯学習の特徴と振興策.東京,学文社,
2001,378p.
2)第3期生涯教育審議会.地域における生涯学習機会の充
実方策について(答申)
.1996 第4期生涯教育審議会.
学習の成果を幅広く生かす(答申)
.1999
3)阿部秀一.「炎芸術」特別編集シリーズやきもの入門−
基礎から学ぶ本格陶芸−はじめて作る染付の器,東京,
阿部出版株式会社,2000
4)田中見依 基礎陶芸3 器の絵付け 美術出版社、東京、
2004
5)新日本造形図工・美術教材カタログ 2008 年版
−76−
図1 呉須で線描き終了時の素焼きの色見本五寸皿。
番号は表1に対応している。
図2 呉須で線描きを終え
釉薬を掛けた色見本皿。
図 4 釉 薬 が は げ て し ま っ た
器。釉薬を厚く塗り過ぎたのが
原因である。矢印は釉薬がはげ
た所を示している。
図 3 焼成後の色見本皿。
番号は表1に対応している。
図5 染付皿の製作例
−77−
美作大学・美作大学短期大学部紀要
2009, Vol. 54. 79 ∼ 86
報告・資料
島根県における町村福祉事務所設置及び県福祉事務所廃止動向の調査
The trend of opening municipal welfare offices and closing prefectural welfare offices in Shimane Prefecture
石飛 猛、中島 大棋*
キーワード:「町村福祉事務所」「ソーシャルワーク」「地方分権」「地方自治権」「地方交付税」
本報告では、以上のような動向について報告する。
はじめに
ただし、すべての町村への聞き取り調査が出来ていな
福祉に関する事務所は、市部については市設置、
いため途中経過であることをお断りしておく。
町村部については都道府県が設置することになってい
第 1 章 町村福祉事務所
る。島根県では、町村を所管する県設置の福祉事務所
から町村設置の福祉事務所への転換がすすんでおり、
平成21年3月末で町村福祉事務所は13ヶ所となり、県
1.町村福祉事務所の状況
福祉事務所は全廃の予定である。全国の町村福祉事務
福祉事務所は、都道府県及び市(特別区を含む)は
所は平成20年4月では20ヶ所で、このうち島根県の町
義務設置であるが、町村は任意設置と規定されている
村福祉事務所は11ヶ所、55%を占めている。
(社会福祉法第14条)。このため、平成16(2004)年
島根県では、平成15年9月の『市町村への権限委譲
10月では、福祉事務所総数1226ヵ所のうち都道府県設
計画』のなかで県福祉事務所の業務を町村に権限委譲
置321ヵ所、市設置900ヵ所で、町村福祉事務所は5ヶ
することを検討したことが記載されている。そこへ
所 1)でしかない。町村福祉事務所の近年の増減を見
16・17年度の市町村合併で市福祉事務所地域が拡大
ると、平成18(2006)年では、広島県の町村福祉事務
し、残る町村地域が減少し飛び地状になったため、町
所5ヶ所、島根県1ヵ所が増え、大阪府、奈良県で
村地域を県福祉事務所が管轄することは非効率とさ
各1ヵ所が減り計8ヵ所 2)となる。平成19(2007)
れ、県福祉事務所を全廃する方向になったものと考え
年には島根県の町村福祉事務所が6ヵ所、鹿児島県が
られる。
1ヵ所増え、全国で15ヵ所となる。平成20(2008)年
この間の動向の中で、町村側からは町村福祉事務所
では、島根県が4ヵ所、岡山県が1ヵ所増加して全国
設置を地方自治拡充・権限拡充の戦略としてとらえる
で20ヵ所となるが、島根県の町村福祉事務所が55%を
動きはあまり見られず、県、行財政改革に協力せざる
占めている。(表1参照)
を得ないという消極的な動きが大半のようである。こ
の背景には、県市町村ともに地方交付税頼みの財政構
2.町村福祉事務所をめぐる状況に関する議論
造であることや高齢化率の一層の上昇などによる閉塞
京極は、近著のなかで、「郡部福祉事務所そのも
感があるように思われる。
ののあり方についての問題群」 [1] と題して、郡部
(県)福祉事務所と町村福祉事務所についてふれてい
*
島根県 中山間地域研究センター
る。
−79−
表1 町村福祉事務所数
2004/10/1
奈良県榛原町(S26年)
十津川村(S31年)
島本町(S47年)
大阪府美原町(H10年)
大崎上島町(H16年)
2006/10/1
2007/10/1
十津川村
島本町
十津川村
島本町
十津川村
島本町
大崎上島町
安芸太田町
北広島町
世羅町
神石高原町
飯南町
大崎上島町
安芸太田町
北広島町
世羅町
神石高原町
飯南町
東出雲町
奥出雲町
海士町
西ノ島町
知夫村
隠岐の島町
長島町
大崎上島町
安芸太田町
北広島町
世羅町
神石高原町
飯南町
東出雲町
奥出雲町
海士町
西ノ島町
知夫村
隠岐の島町
斐川町
邑南町
津和野町
吉賀町
長島町
西粟倉村
20ヶ所
島根11ヶ所
5ヶ所
2008/4/1
8ヶ所
島根1ヶ所
15ヶ所
島根7ヶ所
人口(2005国調)
06年1月宇陀市
奈良県
4,390人
大阪府
29,025人
05年2月堺市
広島県
9,236人
広島県
8,238人
広島県
20,857人
広島県
18,866人
広島県
11,590人
島根県
5,979人
島根県
14,193人
島根県
15,812人
島根県
2,581人
島根県
3,486人
島根県
725人
島根県
16,904人
島根県
27,444人
島根県
12,944人
島根県
9,515人
島根県
7,362人
鹿児島
11,958人
岡山県
1,684人
*厚生労働省社会・援護局「福祉事務所現況調査」(平成16年10月1日現在)厚生労働省HPおよび全国福祉事務所長会議資料
(2007.4.25)
「福祉事務所別データ(18年10月時点)」、長島町HP、西粟倉村HPほかより作成
京極論文の論点は、①県と町村の関係 3) ②マン
②マンパワーの確保については、社会福祉士など資
パワーの確保について ③他行政機関との関係 であ
格要件を制度化し、その財源を交付税措置すべきであ
る。以下、これに沿って、町村福祉事務所をめぐる状
るという京極の見解4)は肯定できる。
況と京極論文を検討する。
③他行政機関との関係については、京極は保健と福
①県と町村の関係のうち、郡部福祉事務所と町村
祉の連携の視点から保健所と福祉事務所のエリア的な
福祉事務所の関係は、京極の指摘するように、生活保
ずれを指摘し、「別途の検討」が必要としている。
護事務以外の福祉五法は市町村が実施責任を持ってお
以上の議論を踏まえた結論として、京極は「地方
り、県福祉事務所は形骸化している。そして、京極
分権化の推進からは、近年の市町村合併からまぬがれ
は、フィールド機能と給付機能を持った町村福祉事務
た町村は比較的足腰が強いところが大部分であること
所を持つべき時代にきているという。京極の指摘のう
を鑑みて、都道府県の郡部福祉事務所の権限を移管し
ち、自治体の規模の問題ではなく、住民福祉の視点を
た町村福祉事務所の義務化は避けられない検討課題と
判断基準にするべきという点および給付機能だけで
なっている」[2]としている。
なく、フィールド機能を持つべきという点を評価した
つまり、
「町村福祉事務所の義務化は避けられない検
い。
[3]
討課題」
であるというのが京極論文の結論である。
−80−
2.島根県の概要
第 2 章 島根県の状況と町村福祉事務所
島根県の人口規模は、平成17(2005)年10月では
約74万人で、47都道府県中の46位である。人口の特
1.島根県の財政状況と権限委譲(町村福祉事務所)
徴は、①人口の社会減、自然減ともに近年拡大傾向
島根県の財政規模は、一般会計歳出決算額でみると
で人口減少が予想され、②老年人口と年少人口の割
平成18(2006)年度は5,258億円で47都道府県中の35
合は平成7(1995)年に逆転し、高齢化率は27.1%
位である。『島根県の姿』
[4]
によると財政状況の特
(H17)で、③高齢化が進行し人口が減少した集落で
徴は、①歳入の多くを国庫支出金や地方交付税に依存
は社会的共同生活が困難なところが生じていることで
する構造であったところ、②県税収入の伸び悩みと地
ある7)。
方交付税減額で、③一般会計当初予算額は連続減少、
島根県の産業規模は、平成17(2005)年度の県内総
④1兆円を超える地方債残高もあり、⑤財政再建団体
生産(名目)24,966億円で、47都道府県中の45位であ
への転落が危惧される非常事態にあるという点に尽き
る。産業の特徴は、①製造品出荷額は約1兆円で推
る。
移、②農林水産業産出額は減少傾向にあり、③観光
島根県の権限委譲計画は、平成15(2003)年9月、
客入り込み延べ客数は、2,600万人程度で推移してい
平成19(2007)年3月の2種類 5) があり、平成19
るが、④製造業における雇用者数は減少し、農業の担
(2007)年のものは改訂版と位置づけられている。
い手は高齢化しており、⑤建設業、政府サービスの
平成15(2003)年9月の『市町村への権限委譲計
ウェートが高い産業構造であることである8)。
画』[5]では、生活保護業務を町村に権限委譲するこ
島根県の所得は、平成16(2004)年度の一人あた
とを検討した結果、委譲しないとしているが、平成
り県民所得は全国平均の85.8%、全国で35位で住民所
18(2006)年9月の『市町村への権限委譲計画(改訂
得の公的部門への依存度が高い 9)。所得・雇用の特
版)素案』[6]では、生活保護業務に関連して「福祉
徴は、①H16(2004)年度の実質県内経済成長率は
事務所の設置運営」を市町村に委譲する方針が示され
0.8%で、国の成長率よりも下回っており、②住民所
ている。具体的には、「福祉事務所が行なう事務につ
得は公的部門への依存度が46.9%で全国平均を約10ポ
いても、町村福祉事務所の設置促進などにより市町村
イント上回り、約19%を年金に依存しており、③一人
への事務権限の委譲を進めていく」[7]と記載されて
あたり県民所得は全国で35位で、④有効求人倍率は全
いる。
国を下回り、⑤県内就職率は低下傾向にあることであ
そして、平成19(2007)年3月の計画には「平成の
る10)。
大合併が進み平成17(2005)年10月には本県市町村が
県民所得の公的部門依存度については、県の調査が
21の体制へと大きく様相が変わった」
[8]
ことから、
圏域毎に分析11)し、年金依存を明らかにしている。
計画を改定したと記されている。新計画でも町村福祉
3.市町村合併と福祉事務所の動向
事務所に関する記述は変化していない。
以上のように町村への福祉事務所権限委譲の背景と
しては、平成18年の『地方分権改革推進法』
6)
島根県は平成の大合併を経て21市町村体制(8市12
があ
町1村)となった。市町村数は、地方自治法施行時の
るが、それ以上に県税収入の伸び悩みと地方交付税削
249市町村から昭和45(1970)年の市町村合併特例法
減による財政の危機的状況が大きな要因と考えられ
改正時に59市町村に激減し、さらに平成の大合併で半
る。
減以下の21市町村に減少している。
経過をみていくと、昭和22(1947)年5月3日、
地方自治法施行時は、249市町村(3市28町218村)で
−81−
表2 平成の市町村合併経過
平成成16年度
平成成17年度
安来市(安来市・広瀬町・伯太町が新設合併)
江津市(江津市に桜江町が編入合併)
美郷町(邑智町・大和村が合併)
邑南町(羽須美村・瑞穂町・石見町が新設合併)
隠岐の島町(西郷町・布施村・五箇村・都万村)の新設合併
雲南市(大東町・加茂町・木次町・三刀屋町・吉田村・掛合町が新設合併)
益田市(益田市に美都町・匹見町が編合併)
飯南町(頓原町・赤来町が新設合併)
出雲市(出雲市、平田市、佐田町、多伎町、湖陵町、大社町が新設合併)
松江市(松江市、鹿島町、島根町、美保関町、八雲村、玉湯町、宍道町、八束町が新設合併)
津和野町(津和野町・日原町が新設合併)
大田市(大田市・温泉津町・仁摩町が新設合併)
浜田市(浜田市・金城町・旭町・弥栄村・三隅町が新設合併)
吉賀町(柿木村・六日市町が新設合併)
あったが、昭和45(1970)年4月1日から市町村合併
合は、地方交付税算定の対象となり、地方財政措置が
特例法改正時の平成11(1999)年7月8日までは、59
なされるとしている。町村福祉事務所については、特
市町村(8市41町10村)となり、平成16・17年に大幅
別地方交付税算定による措置となる14)。
に減少し、平成18(2006)年3月では21市町村(8市
「人的支援その他の支援措置」については、『島根
12)
12町1村)となっている
。(表2参照)
県の健康福祉』(平成20年度版)の「生活保護費の給
町村福祉事務所は、平成18(2006)年4月に1ヵ
付事業」で3点をあげており 15)、聞き取りでも確認
所、平成19年4月に6ヵ所、平成20年4月に4ヵ所が
できた。
設置され、現在、市部8ヵ所と県所管(川本町と美
郷町を所管)1ヵ所の計20ヵ所で、平成21年度に川本
5.聞き取りの結果
町と美郷町が福祉事務所を設置、県所管は全廃とな
⑴ 県庁関係課の聞き取り
る
13)
。
県市町村課(権限委譲推進スタッフ)では、『市町
県福祉事務所は、上述のような町村の市への合併や
村への権限委譲計画』(平成15(2003)年9月)にあ
雲南市の誕生、町村福祉事務所の設置により組織再編
る福祉事務所設置関連の検討が、どのような経過で行
が行なわれた。(図1・2参照)
なわれ記載されたか尋ねたが、具体的ないきさつは不
明であり、町村福祉事務所設置という原案は県庁内の
4.町村福祉事務所に関する支援措置
福祉サイドから出されたものかもしれないとのことで
島根県は『市町村への権限委譲計画』のなかで、
あった。
「移譲された事務・権限が市町村において円滑に実施
県健康福祉部健康福祉総務課(総務情報スタッフ)
されるよう」、「県は市町村に対して」「財源措置
では、町村福祉事務所に対する財源措置について尋ね
及び人的支援その他の支援措置」を講ずるとしてい
たところ、特別交付税による財源措置を行なっている
る
[9]
。
との説明を受け、後日、資料を提供していただいた。
「財源措置」については、①「条例による事務処理
県健康福祉部地域福祉課(生活保護支援スタッフ)
の特例(自治法§252の17の2)」による移譲の場合
では、生活保護支援を担当する立場からは、町村福祉
は、「しまね市町村総合交付金(事務処理特例交付
事務所に対しては相談・指導が不可欠との意見が聞か
金)」による措置、②事務・権限が法定移譲される場
れた。日常的に電話等での相談支援を行なっており、
−82−
図1 福祉事務所地図(島根県庁作成 2002. 4)
図2 島根県市町村図(2008)
−83−
監査より相談支援が重要である。業務の正確な執行の
6.島根県と町村会の覚書
ためにも、町村福祉事務所からの相談に丁寧に対応す
町村福祉事務所の設置に当たって、町村会は知事と
る必要があるという見解は十分説得力があった。そし
の間で覚書[10]を交わしている。覚書のなかで町村会
て、町村の職員が専門職として育ってほしいという意
は、町村福祉事務所の設置の意義について、「住民に
見は、今後どうなるのか不安があるということであろ
身近な市町村において一元的に提供されることが望ま
うと理解した。町村の今後の人事管理次第で町村福祉
しいという共通認識に立って、町村の福祉事務所の
事務所の専門性・力量が決まってくると考えられる。
設置に向けた取組みを進める」としている。ここから
⑵ 町村役場の聞き取り
は、県からの町村福祉事務所の設置の要請を受けて、
3町で聞き取りを行ったが、福祉事務所設置・生活
行財政改革ではなく、身近な町村への一元化という大
保護移管について、職員の能力的には特段の問題はな
義名分によって町村会をまとめようとしたことが伺え
いようであった。
る。
①斐川町福祉事務所 斐川町は人口27,444人(平成
しかし、町村会は、本来、福祉事務所の設置は県が
17年国勢調査)で、工業出荷額が県内第1位である。
行うものとして、町村福祉事務所の設置を強要しない
斐川町福祉事務所は健康福祉課を福祉事務所として
ように求めるとともに、県の多面的な支援を求めてい
おり、健康係、高齢障害福祉係、子育て支援係、介護
る。とりわけ財源確保については、県に対して、特別
保険係、生活支援係からなる。関連組織として、地域
交付税措置額が「現行方式による算定額を大幅に下回
包括支援センター、保育所がある。生活保護業務の移
り福祉事務所の運営に支障を及ぼすような事態となっ
管に当たっては、県職員の派遣はなく、派遣研修を行
た場合には財政上の配慮から適切な対応を行なう」よ
い、日常的には県と連絡を取りながら業務を遂行して
う求めている。そして、特別交付税による措置という
いるとのことであった。
現行制度について「市分と同様普通交付税による措置
②東出雲町福祉事務所 東出雲町は人口14,193人
とする」よう制度改正を国に働きかけるとしている。
(平成17年国勢調査)で、工場の集積地である。東出
また、「特別交付税の配分に当たって福祉事務所関
雲町福祉事務所は保健福祉課を福祉事務所としてお
係経費の措置額」の明示を求めている。この点に関し
り、福祉グループ、子育て支援グループ、保健衛生グ
て、町村福祉事務所での聞き取り調査では、「特別交
ループ、介護保険グループからなる。関連組織とし
付税による福祉事務所関係経費の措置額」は、他の交
て、地域包括介護支援センター、子育て支援センター
付税措置額との総額で交付されるため、福祉事務所サ
がある。生活保護業務の移管に当たっては、特段の問
イドではわからないという声が聞かれた。
題はなかったようで、県職員派遣はない。スーパーバ
まとめ
イザーは兼務で、保護担当は2名(うち1名兼務)。
③飯南町福祉事務所 飯南町は、人口5,979人(平
成17年国勢調査)の山間地である。飯南町福祉事務所
島根県と町村会の覚書にみられるように、町村の福
は保健福祉課のなかにあり、他に福祉担当、保健担当
祉事務所設置の目的に関する認識は、要約すれば、①
があり、飯南病院と診療所を設置している。担当者に
行政サービスの提供が市町村に一元化されるべきとい
面談したが、生活保護の業務では地域が狭いため、顔
う時代の趨勢だから、②生活保護等の行政サービスも
見知りの関係がマイナスになることもあるという話が
身近な市町村で担当するほうがよいので、③県が町村
印象的であった。福祉事務所業務について特別に困難
福祉事務所を設置せよというなら設置しようというも
はないとのことで、今後の人事異動や経験の蓄積、研
のである。これが各町村長の共通認識なのであろう。
修が課題と思われる。
しかし、このような消極的な認識でよいのだろう
−84−
か。住民生活を地域で守るのが町村役場の任務であ
めにも、そのための財源確保が不可欠である。具体的
る。地方自治権を拡充するために権限委譲を求める視
には京極のいうように「交付税に町村の福祉事務所職
点すなわち住民生活を守るという自治体本来の業務を
員および措置義務に伴う手当費を組み込むなどの工
実行するために町村福祉事務所を設置し、そのための
夫」[12]が必要なのである。
財源措置を求めるという姿勢こそ本来の姿ではないだ
引用・参考文献
ろうか。
そのような理念に基づいて、地域自治の推進とりわ
け地域福祉を中心にすえた町村福祉行政を展開するた
めに全国の町村が福祉事務所を設置すべき時である。
すなわち京極が指摘する「町村福祉事務所の義務化」
を検討すべき時期に来ているのである[11]。
[1]
『生活保護改革と地方分権化』京極高宣 2008 ミネルヴァ
書房 第9章第3節3
[2]同上 p155
[3]同上 p156
[4]
『 島 根 県 の 姿 』 島 根 県 ホ ー ム ペ ー ジ http://www.pref.
shimane.lg.jp/admin/seisaku/keikaku/hatten/index.data/
それにもかかわらず、多くの町村福祉事務所では、
旧来型の人事異動で福祉担当者を短期間で交代させて
いる。なぜ、福祉の専門機関としての専門性を確保す
るという方針を持とうとしないのか。
専門性を確保しなければ町村福祉事務所を設置し
ても住民生活を守るという地方自治の目的は果たせな
shimaneken_no_sugata.pdf
[5]『市町村への権限委譲計画』市町村課 平成 15 年9月
[6]
『市町村への権限委譲計画(改訂版)素案』市町村課 平成 18 年 10 月
[7]
同上 p12
[8]
『市町村への権限委譲計画』市町村課 平成 19 年3月
い。町村福祉事務所の職員を短期間で異動させること
をやめ、社会福祉士等の専門職員の採用・養成をあわ
p1
[9]
『市町村への権限委譲計画』市町村課 平成 19 年3月
p11
せて専門性を確保するべきである。
そのうえで京極のいうように「フィールド機能と
給付機能の両面」をあわせ持つ福祉事務所を創ってい
く必要がある。この「フィールド機能」をソーシャル
ワーク機能と理解すれば、福祉事務所は生活保護等の
[10]「町村福祉事務所の設置に関する覚書」(平成 19(2007)
年2月 26 日)島根県知事と島根県町村会
[11]前掲 京極 p156
[12]前掲 京極 p154
給付機能だけでなく、ソーシャルワーク機能を併せ持
註
つべきなのである。
そして、そのための財源措置が不可欠である。上
述の通り、町村福祉事務所の財源措置は、普通地方交
付税ではなく不安定な特別交付税 16)による財源措置
であるので、せめて、特別交付税による措置を市福祉
1)厚生労働省社会・援護局「福祉事務所現況調査」(平成
16 年 10 月1日現在)厚生労働省
2)全国福祉事務所長会議資料(2007. 4.25)「福祉事務所別
データ(平成 18 年 10 月時点)」
事務所と同様に普通交付税による措置に改正するべ
3)県と町村の関係のうち県福祉事務所について、「生活保
きで、この点は、島根県・町村会の覚書のとおりであ
護と児童扶養手当に特化しており」、「機能が生活保護中
る。
心となり、福祉五法関係の事務は形骸化してしまってい
町村福祉事務所の専門職員確保については、社会
福祉士の採用が一つの方策と考えられるが、そのよう
な事例は島根県内の福祉事務所設置町村の一部 17)で
しかない。町村福祉事務所が専門職を採用して専門
性を確保し住民生活を地域で守る専門機関になるた
−85−
る」とする。町村職員については、「社会福祉基礎構造
改革で福祉五法は市町村が実施責任を持って」おり、
「生
活保護事務はほとんど関係を持たなくてよい仕組みに
なっている」とする。そのうえで、「本来としては自治
体規模の問題ではなく、いわば住民福祉の点から町村も
郡部福祉事務所を一部事務組合としてか、あるいは単独
見ると、隠岐圏域が最も高く、これに大田、雲南、益田
の町村福祉事務所を持つべき時代にきているのではなか
圏域が続く。また、公的部門の内訳を見ると、年金への
ろうか」と指摘している。そして、
「フィールド機能と
給付機能の両面から、市町村の福祉部局と別の組織の福
依存割合が高い。」としている。
12)『島根県の地名鑑』平成 19 年1月島根県市町村課編集に
祉事務所を設置せよ、というわけでなく、むしろ市町村
よる。
の福祉部局と並存ないし合併した形でソーシャルワーク
13)「中国新聞」2008. 1. 1による
機能をきちんと持たせれば、何ら問題はない」と提案し
14)地方交付税法第 15 条で額の算定、16 条で交付時期が定
ている。
められ、町村福祉事務所分は特別交付税に関する省令第
4)京極の指摘するとおり、町村が福祉事務所を持つ場合は
3 条で 12 月交付とされている。省令は基準財政需要額の
「人材の確保自体が極めて困難で」あるが、
「社会福祉士
算定に用いた算定方法に準じて算定すると定める。算定
の存在を重視し、その有資格者を人材登用で生かし、ま
基礎の生活保護費単位費用(19 年度 6,580 円)には生活
たそうした有資格の職員を採用すればそうした困難をか
保護費と社会福祉事務所費(行政権能差分 0.155)を含む。
なり解決できる」し、「一定の資格要件(社会福祉士の
町村福祉事務所の特別交付税は、単位費用×人口×補正
活用など)を制度化すれば市町村ごとの人材格差は基本
係数で算定する。県資料では、市部と同等になるよう説
的に生」じないと考えられる。その際の財源確保につい
明している。A 町(人口約6千人)で、
生活保護費分 6,900
て京極は、「交付税に町村の福祉事務所職員および措置
万円、社会福祉費分(行政権能差分)1,600 万円(2億
義務に伴う手当費を組み込むなどの工夫」を提案してお
600 万円−既算入分1億9千万円)を算定している。
り、この点も実現可能な提案と評価したい。そして、京
『平成 19 年度地方交付税制度解説』(財)地方財政協会
単位費用編 p183、補正係数編 p257 ほか
極は「あながち町村も福祉事務所を設置することができ
ないわけではない」と結論づける。
15)『島根県の健康福祉』(平成 20 年度版)p36 生活保護費
5)経過をみると、「平成 12 年の『地方分権推進一括法』の
の給付事業
施行を受け、平成 14 年から市町村と県とで市町村への
①生活保護業務を担当する県職員の派遣(奥出雲町、津
権限委譲のあり方等について検討を進め、平成 15 年9
和野町、吉賀町)②生活保護支援スタッフ(本庁)、西
月に『市町村への権限委譲計画』を策定」とされている。
部福祉事務所による実地指導(月1回程度)③町村福祉
6)
『地方分権改革推進法』平成 18 年 12 月 15 日法律第 111
号
事務所を対象とする研修の実施
16)「普通交付税の総額が・・・算定した合算額をこえる場
7)
『島根県の姿』島根県ホームページ p6
合においては、当該超過額は、・・・特別交付税の総額
8)
『平成 17 年度県民経済計算』内閣府 http://www.esri.cao.
に加算」(地方交付税法第6条の3)としている点や 12
go.jp/jp/sna/toukei.html
月交付である点、内訳が明示されない点から不安定であ
『島根県の姿』島根県ホームページ p16 − 18
る。
9)
『島根県の姿』島根県ホームページ p11
17)川本町が平成 20(2008)年4月採用、津和野町と西ノ島
10)前掲『島根県の姿』p10 − 13
町が平成 21(2009)年4月採用予定しているだけである。
11)
『経済構造分析』(平成 19(2007)年 3 月)
調査目的は、「県内の各地域は、公共事業依存度など経
済構造に相当の差異があり、地域特性に応じた施策展開
を進める必要がある。そこで、県内を広域市町村圏の7
つの圏域(通勤圏等概ね経済的なまとまりのある圏域と
判断できる圏域)に分け、圏域毎に調査分析を」行なう
とされている。「平成 15 年度の・・・住民所得(雇用者
所得と年金受給額の合計)のうち公的部門から生じる所
得の割合(公的依存割合)を見ると、
・・・全国平均は
37.6%であり、各圏域とも公的依存度が高い。圏域別に
−86−
美作大学・美作大学短期大学部紀要
2009, Vol. 54. 87 ∼ 95
報告・資料
障害や障害のある人への理解を広める取り組みの向上をめざして
―地域住民への意識調査から―
An attempt to improve an activity for promoting understanding on disability and persons with disabilities :
A consciousness research of community residents
薬師寺明子、岡 幸代 1)、岡本 章裕 2)、定兼めぐみ 3)
春名 佑二 4)、神谷 結泉 5)、安田 大輔 6)
キーワード:障害や障害のある人・理解を広める取り組み・美作福祉部隊リカイヒロメタインジャー・
地域住民・意識調査
1.はじめに
る人や障害に対する理解が必要不可欠である。しか
2001年第54回WHO総会において、WHO国際障害
し、平成19年に実施した内閣府の「障害者に関する世
分類(ICIDH)の改訂版として、国際生活機能分類
論調査」において、「障害のある人に対して、障害を
(ICF)が採択された。ICFの最も大きな特徴は「環
理由とする差別や偏見があるか」について尋ねている
境因子(environmental factors)」の分類が加えられた
が、その結果、「少しはあると思う」と回答した人を
点である。この「環境因子」とは人々が生活し、人
含め、「あると思う」と回答した人は82.9%を占めて
生を送っている物理的な環境や社会的環境、人々の
いる3)。
社会的な態度による環境を構成する因子のことであ
障害者基本計画での「共生社会」の実現には、ICF
る
1)
。地域の人々の無理解は、偏見や差別、権利侵
における「環境因子」の1つでもある地域住民が障
害という社会的な態度につながる恐れも考えられる。
害及び障害のある人に関する理解を促進し、併せて、
しかし、理解することができれば、良好な社会的態度
障害のある人への配慮やナチュラルサポートが重要に
につながると考えられる。
なってくると考えられる。
2002年12月に閣議決定された障害者基本計画の基本
そこで、平成18年度より筆者のゼミにおいて、障害
的な方針の中で「21世紀に我が国が目指すべき社会
や障害のある人への理解を広める取り組み「美作福祉
は、障害の有無にかかわらず、国民誰もが相互に人格
部隊リカイヒロメタインジャー」として活動を行って
と個性を尊重し支え合う共生社会とする必要がある」
おり、この活動の向上を図ることをねらいとして、地
とある。そして、「共生社会においては、障害のある
域住民の障害や障害のある人への意識を明らかにする
人は、社会の対等な構成員として人権を尊重され、自
ことを目的とした。
己選択と自己決定の下に社会のあらゆる活動に参加、
参画するとともに、社会の一員としてその責任を分担
する」とある
2)
。「共生社会」の実現には障害のあ
2.障害や障害のある人への理解を広める活動
1)活動の経緯
筆者のゼミ学生(3期生)の卒業研究「自閉症児を
1)∼6)
美作大学生活科学部福祉環境デザイン学科
持つ親が抱える「生活のしづらさ」−親の思いと地域
−87−
住民の意識から−」4)をゼミの後輩(5期生)が読み
である主人公がスーパーで障害のある人と出会い、高
「学生としてできること」というテーマで議論した。
校生や大学生向けのシナリオでは学生である主人公が
議論の結果、学生全員で取り組むことができ、地域住
登校途中や学校で障害のある人と出会いストーリーが
民が受け入れやすく、容易に理解できること、マスコ
展開していく。
ミも活用できるものというような実践していく上で必
③「知的障害のある人」疑似体験
要なポイントが挙がり、結果として「劇」を用いて公
その1:じゃけじゃけ共和国に入国してみよう!
演していくことに決定した。そして地域の人々に障害
参加者の一人にゲストとして参加してもらい、
のある人や障害に対する理解を広げることを目的とし
「じゃけじゃけ(岡山県の方言)」としか喋らない人
て、「美作福祉部隊リカイヒロメタインジャー」(以
との関わりを通して、言葉や意思が「伝わらない」こ
降「リカヒロ」)として啓発活動を行うこととなった。
との大変さを体験する。そして、知的障害や自閉症の
2)活動内容
人と関わる時に大切なポイントとコミュニケーション
(1)学習
方法について理解できるよう説明する。
学生が個々やグループで、障害や障害のある人に
ついて調べ、発表するという形で行った勉強会や、直
接障害のある人やその家族と出会えるボランティア活
動、学外で行われている講演会等を通して学習を重ね
た。また、当事者の気持ちを直接聞く機会を設け、当
事者の置かれている現状や気持ちを伺った。このよう
な学習を通して学生の知識だけでなく、想いも育み、
活動の内容を充実させていった。
(2)公演内容
写真 1:劇「えぇがん」の場面
①オープニング
既存の歌謡曲の歌詞をアレンジして「リカヒロ」の
テーマソング「えぇがん」の中で、活動のモットーで
その2:ペットボトルをのぞいてみよう!
ある「障害があってもえぇがん」という想いを歌や踊
加工したペットボトルを用いて、自閉症の障害特性
りを通して表現する。
であるシングルフォーカスを体験し、ゲームやわかり
②劇「えぇがん」
やすい例えを用いて、理解してもらうことを目的とし
主人公が地域で生活する中で出会う「不思議な
ている。
人々」との関わりを通して、天使が主人公に対してレ
クチャーを行う形で障害やICFについてわかりやすく
説明する。その後、悪魔が登場し、「気持ち悪い、怖
い」等の納得できなかった部分を指摘するが、それら
に対して天使が一つひとつ応えていき、主人公が障害
について少しずつ理解していくという内容。
なお、参加者が主人公の立場を実感できるように
参加者の年代や立場を考慮し、身近な場面で障害のあ
る人と出会う設定等の工夫したシナリオを作成してい
る。例えば高齢者や中高年向けのシナリオでは、主婦
−88−
写真 2:「ペットボトルをのぞいてみよう」の場面
その3:折り紙を折ってみよう!
知的障害のある人の中には、手先の細かい動きが苦
手な人もおり、それを軍手を二重にはめて折鶴を折る
という体験を通して理解すると共に、「けなす」「褒
める」という声かけを行うことによって、支援される
側の心理状況も体感する。
以上の①∼③の内容を約90分間で行う。③の疑似体
験は先駆的な活動を行っている二つの団体5)6)での
実践を参考にし、工夫を加えた。②劇「えぇがん」に
写真 4:広報ポスター(A4 両面印刷)
ついては「リカヒロ」オリジナルである。
写真5:(左)学生向けの広報ポスター (右)Tシャツ
写真 3:
「軍手で折り紙を折ってみよう」の場面
(4)フィードバック
(3)広報活動
公演内容に関する感想等を記入するアンケートを
本活動は基本的に依頼を受け、公演を行っているた
行い、フィードバックに活かしている。主なアンケー
め、地域住民に広く知ってもらうことからが活動であ
トの結果は、高齢者は「若い人たちが必死に伝えてい
る。広報ポスターを作成し、公共施設等への掲示、福
る様子を見て感動した」という意見が多くあり、高
祉フォーラム等での配布を行った。また、公演の様子
校生は、「障害のある人も私たちと同じ」等が多く
を新聞やインターネット、テレビのニュースで取り上
あった。専門職は「新たな事に気づかされる公演だっ
げてもらうこともあった。これらの広報活動により、
た」、当事者の親は、「学生の活動をみて将来への期
多くの依頼を受けることができた。また、ロゴ入りの
待が持てた」という意見が多くあった。全体的に「自
オリジナルTシャツも多くの人々の印象に残り、人伝
分自身が持っていた偏見に気づいた」という意見が目
えでの広報に効果があった。
立った。
これらのアンケート結果や公演中の参加者の反応、
準備や練習過程を踏まえた学生個々の反省を挙げ、公
演ごとにフィードバックを行っている。このフィード
バックは、本活動の向上や公演ごとに伝えるべき、理
解してもらうべき点を全員で再確認するだけでなく、
学生の活動意欲を増進する場ともなっている。
−89−
(5)活動歴
4.結果
主な公演活動は、市社会福祉協議会主催の地域住
1)基本属性
民向け研修会、ふれあいサロン、高等学校の総合学
性別は、男性305人、女性774人、平均年齢37歳で
習、養護学校等のPTA研修会、手をつなぐ育成会のブ
あった。
ロック大会、民生委員の研修会、福祉関係のフォーラ
2)障害のある人との関わりについて
ム、小学校等で行い、2007年1月から2008年12月末ま
「障害のある人と関わったことがあるか」という問
で公演回数27回、2000名以上の人々に伝えてきた(表
に対して、「はい」と答えた人が77.3%(839人)、
1)。
「いいえ」と答えた人が22.5%(244人)であり、
「無回答」が0.3%(3人)であった。この質問で
表 1 主な公演活動
年月日
2007.2.27
2007.6.25
2007.6.27
2007.9.9
2007.10.13
2007.11.14
2007.11.25
2008.3.29
2008.6.21
2008.8.20
2008.10.22
2008.1029
2008.10.30
2008.11.3
2008.11.16
2008.12.7
2008.12.21
「はい」と答えた人のうち、「障害のある人との関
場所等
わりが多いと思うか」という問に対して「はい」が
ふれあいサロン
養護学校PTA研修会
市社会福祉協議会
手をつなぐ育成会近畿ブロック大会
ヘルパースキルアップ講座
高校2年生 総合学習
福祉フォーラム
民生委員研修会
小学校PTA人権研修会(児童・保護者)
高校2年生 出前講座
高校2年生 総合学習
町社会福祉協議会
小学校PTA人権研修会(児童・保護者)
ダウン症親の会
児童通園施設保護者会
子ども会 クリスマス会
子ども会 クリスマス会(2ヵ所)
31.6%(265人)が「いいえ」が67.6%(567人)であ
り、「身近に障害のある人がいるか」という質問で
は、「はい」が45.7%(496人)、「いいえ」が52.6%
(571人)であった。そして、「身近にいる障害のあ
る人との関係」については、「同じ町内に住んでいる
人」、「友人・知人」、「両親」の順に多かった(図
1)。
さらに、「障害のある人との関わりが多いと思う
か」という問に対し、身近な障害のある人が「同じ町
内に住んでいる人」、「友人・知人」、「学生時代の
同級生」と答えた人は、「両親」、「兄弟姉妹」、
「おじ・おば」と答えた人より「関わりが少ない」と
3.方法
感じている(図2)。
1)調査対象及び調査内容
3)障害のある人や障害のある人への福祉に対する印
地域住民の障害や障害のある人への意識について
象、理解、意識について
明らかにするために、岡山県内の一般成人及び高校
「障害や障害のある人に対して理解できていると思
生、大学生を対象として、2008年4月5月に配票によ
うか」という問に対して、「とても理解できていると
る無記名自記式質問紙法による調査を行った。55.7%
思う」が4%、「理解できていると思う」が69%、で
(1097人)の回収率のうち、回答漏れ等を分析から
あり、7割以上の人が障害や障害のある人に対して
削除し、有効回答数が1085人、有効回答率を55%とし
「理解できていると思う」と考えていることがわかっ
た。
た。
2)調査内容
障害のある人に対する印象については、身体障害・
「基本属性」及び、「障害のある人と関わった経験
知的障害・精神障害と障害種別ごとに質問した。な
と関係」、「障害のある人や障害のある人への福祉に
お、この調査結果については自由記述であったため、
対する印象、理解、意識について」、「障害の要因に
結果は調査者でまとめた(図3)。
ついて」、「障害や障害のある人の情報源」、「障害
(1)身体障害に対する印象
について得たい情報について」等14項目。
身体障害では、「大変そう」が164人と最も多く、
−90−
(人)
140
120
111
関わりが多いと思う
105
(%)
100
関わりが少ないと思う
20.0
80
57
60
11.7
45 38
36 35 34
40
8.3
10.0
7.8 7.26.9
27 25 23
20
7.2
4.2 3.7
3.7
6.4
3.2
2.9
6
2.5
0.4
0.0
0
同
�
町
内
�
住
�
�
�
�
人
図 1 関わったことがある障害者との関係
大変そう
具体的な症状
99
22
75
27
44
分からない
かわいそう・辛そう・気の毒
51
特にない
38
32
22
健常者と変わらない
30
13
家族・周囲が大変
生活が不自由・送りにくい 0
66
55
70
70
57
58
35
35
36
18
23
8
0
関わりたくない・近づきたくない
学
生
時
代
�
同
級
生
111
41
24
理解・援助・周りの配慮が必要
�
�
�
�
�
107
17
0
兄
弟
姉
妹
164
87
77
0
両
親
42
24
援助したい・応援したい
祖
父
母
図 2 障害のある人との関わりの状況
その他
怖い
同
�
町
内
�
住
�
�
�
�
人
友
人
�
知
人
友 両 学 � 祖 我 � 兄 甥 義 孫
父
人 親 生 � 父 � � 弟 �
姪 母
�
時 �
� 母 子 � 姉
知
妹
代 �
人
�
同
生
級
13
18
0
何を 考えている のか理解できない
個性 0
0
見た目では分からない
誰でもなりそう 0
健常者と違う 0
0
6
6
11
身体障害
11
知的障害
8
10
7
7
精神障害
4
5
20
40
60
80
100
120
図 3 身体障害者・知的障害者・精神障害者に対する印象
−91−
140
160
180 (人)
次いで「援助・応援したい」が107人であった。その
いう結果であり、他の施設に比べ反対意見が多かった
他として、「健常者中心の街づくりのなかでの生活
(図4)。
は苦労があるだろうなと思う」、「人事ではないと思
また、「身体障害関係」に「賛成」と回答した人の
う」等があった。上位の具体的内容は、『大変そう』
身体障害のある人に対する印象は「大変そう」、「援
では「日常生活が大変そう」、「バリアフリーでない
助・応援したい」、「かわいそう・辛そう・気の毒」
所はとっても大変そう」、『援助・応援したい』では
のような肯定的な意見が多くあった。しかし、「精神
「助けてあげられることは手伝ってあげたい」、「頑
障害関係」に「反対」と回答した人の精神障害のある
張って生きている、応援したくなる」等であった。
人に対する印象は「怖い」、「犯罪を起こしそう」、
(2)知的障害に対する印象
「異常行動をしそう」、「関わりたくない」、「近づ
知的障害では、「関わり方が難しい」が74人で最も
きたくない」という意見が多くあった。
多く、次いで「かわいそう・辛そう・気の毒」が66人
4)障害の要因について
であった。その他として「喜怒哀楽が激しい」、「大
「障害が起こる要因について何が考えられるか」
きな声を出す」等があった。上位の具体的内容は、
という質問に対して、身体障害、知的障害ともに、
『関わり方が難しい』では「コミュニケーションがと
「生まれつき」、「事故」、「病気」、「遺伝」、等
りにくい」、「どう接してよいのか分からない」等、
の回答が多かった。その他の回答として、身体障害で
『かわいそう・辛そう・気の毒』では、「他の子と一
は、「全て霊的なものだと思う」、「先祖のバチ」、
緒にできないのがかわいそうだしつらい」、「自分の
「運命」、知的障害では、「医学的なことではないか
意志で障害を背負っているわけではないので気の毒に
と思う」、「親が原因」等があった。精神障害に関し
思う」等であった。
ては、「ストレス」、「ショック」、「生活環境」
(3)精神障害に対する印象
精神障害では、「怖い」が99人と最も多く、次い
で「具体的な症状」が75人、「分からない」が70人で
あった。その他として「今のこの世の中にも問題が
反対
賛成
79
66
89
953
976
931
無回答
105
(人)
119
あると思う」、「環境が招いた不幸」等があった。上
位の具体的内容は、『怖い』では「家から出ないで欲
しい」、「人を殺しそうで怖い」、「何を考えている
か、どんな行動をとるのか分からないので怖い」等、
『具体的な症状』では「感情のコントロールが難し
671
819
い」、「うつ病」、「ストレスがたまっている」、
「心の病をもっている」、「統合失調症」、「引きこ
もり」、「気分や精神面が不安定」等であった。
295
(4)福祉施設や福祉サービスに対する住民意識
「居住している地域への福祉施設や福祉サービス
の事業所が建設されることについてどう思うか」とい
う質問に対して、「児童関係」、「高齢者関係」、
「身体障害者関係」の福祉施設や福祉サービスに関し
ては、「反対」が5%前後であるが、「知的障害者関
係」は15%、「精神障害者関係」においては、27%と
−92−
53
43
65
児
童
関
係
高
齢
者
関
係
身
体
障
害
者
関
係
161
知
的
障
害
者
関
係
精
神
障
害
者
関
係
図 4 近隣への福祉事業所建設に対する意見
が多数あった。 その他の回答として、「親の普段の
「関わり方」等であった。そして、「障害のある人と
行い」、「遺伝や世の中の状況も大きく影響している
関わった経験のある人」では、「関わった経験が無い
と思う」、「本人の責任のないもの」等という意見が
人」のものに加え、「障害のある人の気持ち」、「障
あった。
害のある人の家族の気持ち」等の情報を得たいと感じ
5)障害や障害のある人に関する情報源
ている人が多かった(図6)。
「障害や障害のある人に関する情報はどこから得
ているか」との質問に対して、「ドキュメンタリー番
5.考察
組」、「テレビニュース」、「ドラマ・映画」等メ
今回の調査から地域住民の障害や障害のある人への
ディアからの情報が多かった(図5)。
意識には、いくつかの特徴があることが明らかになっ
6)障害や障害のある人に関する得たい情報について
た。
「障害や障害のある人について知りたいことはある
1)障害のある人との関わりの影響
か」という質問に対して、64.5%(700人)が「知り
障害のある人との関わりの状況が障害や障害のある
たい」と答えている。知りたい情報としては、「障害
人に対する意識を左右しやすいと考えられる。「関わ
特性」「障害のある人の気持ち」「関わり方」等の
りが多い」と思っている人は「両親」や「兄弟姉妹」
障害のある人と直接関わる際に必要な内容が多くあっ
等の家族や親戚に障害のある人がいた場合にはよく関
た。
わっている印象があるようであるが、「友人・知人」
「障害のある人と関わった経験が無い人」の得た
や「同じ町内」等のように、身近に障害のある人は多
い情報としては「障害特性」、「障害の発生原因」、
くいるが、実際に関わる頻度は少ないと考えられる。
(人)
(%)
100
800
700
680
障害者と関わったことがある人
600
80
538
500
障害者と関わったことが無い人
412
60
400
304 283
300
215 214 203
200
40
115 73 51
100
33.4 34.2 32.0
22.5
20
0
�
�
�
�
�
�
�
�
番
組
�
�
�
�
�
�
�
�
�
�
�
映
画
本
�
雑
誌
新
聞
公
演
会
�
研
修
会
学
校
�
�
授
業
�
�障
�
�害
�者
�
��
�日
�常
�
�的
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�
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友わ
人�
�
��
知�
人
友
人
�
知
人
�
�
他
�
�
�
�
�
�
�
16.8
27.6 25.7
23.8 23.0
23.3
22.7
16.0
14.8 16.0
14.3
7.4 7.2
5.3
0
関
わ
�
方
図 5 障害や障害のある人に関する情報源
障
害
者
�
気
持
�
障
害
特
性
�
特
徴
�
障
害
�
発
生
原
因
障
害
者
�
家
族
�
気
持
�
障
害
者
福
祉
等
�
情
報
障
害
者
�
種
類
障
害
者
�
実
態
専
門
用
語
�
意
味
図 6 障害や障害のある人に関する得たい情報
−93−
しかし、障害のある人と関わったことがある人は、関
調査研究から以下の現状、課題が明らかになった。
わったことのない人に比べ、障害や障害のある人に対
1)参加者の年齢層や立場に応じた内容の提供
して多くの情報を得たい、より理解を深めたいと感じ
これまで依頼があり、公演を行ってきた対象の年
ている。実際に関わる経験が障害のある人に対して前
齢は小学1年生から80歳代の高齢者まで幅が広い。ま
向きに関っていこうとする原動力になっていると考え
た、学生や小学生の親、ボランティアや福祉施設で働
られる。
いている人、障害児の親等立場も様々である。こうし
2)障害の種別による印象の差異による影響
た参加者の状況に応じてシナリオや表現方法の工夫が
精神障害や知的障害者では「怖い」、「関わりた
必要である。
くない」、「理解できない」、「犯罪や異常行動を起
2)学習やフィードバックの充実
こしそう」との印象があがったが、身体障害に対して
8名のゼミ活動で始まった取り組みであるが、現
は、全くなかった。また、身体障害に対しては「大変
在では1年生から4年生まで約40名の学生が「リカヒ
そう」164人、「援助したい・応援したい」104人で
ロ」の隊員として活動している。そのため学生自身の
あったが、知的障害者はそれぞれ42人、41人、精神障
障害や障害のある人に対する理解をより深めていく必
害は24人、24人という結果であった。こうした結果か
要がある。公演依頼が多く、公演の準備や練習に時間
ら、障害の種別によって印象が大きく異なっているこ
をとられているのが現状であるが、今後はこれまでよ
とが明らかになった。そして、この結果は、福祉施設
り積極的に学習を深めていく必要がある。また、今回
や福祉サービスに対する住民意識にも大きく影響して
の調査結果を活用して参加対象者像の理解についても
いることが明らかになった。精神障害者関係や知的障
努め、より伝えるべきものや工夫する点を明らかにす
害者関係の福祉施設建設に対する反対意見は身体障害
ることで、公演の内容の充実をはかっていきたい。
者関係に比べそれぞれ4.5倍、2.5倍にも及んだ。障害
さらに、学生から「表現方法」について学びたいと
のある人に対する印象が障害のある人の地域生活の幅
の意見もある。「人に伝える」ことの難しさを感じて
を左右する一つの要因であると考えられる。
いると共に、「もっと伝えたい」との思いがあるので
3)障害や障害のある人に関する情報について
はないだろうか。こうした学生の思いに応え「表現」
地域住民の障害に関する主な情報源は気軽に見るこ
について外部から講師を招いての学習も行っていきた
とができる「ドキュメンタリー番組」「テレビニュー
い。
ス」、「ドラマ・映画」等のテレビ等のメディアが最
3)障害の種別に特化した内容の工夫
も多いことが明らかになった。障害のある人と日常的
障害種別によって印象が大きく異なることが今回の
に関わる機会が少ないかもしれないが、関わることよ
調査で明らかになった。精神障害や知的障害のある人
りもテレビから気軽に情報を得るということが最も身
に対して「怖い」、「関わりたくない」、「理解でき
近な情報源である。そのため、昨今のテレビ報道や取
ない」等の印象があったが、特に精神障害では「人を
材方法等で行き過ぎた行動が多く指摘されているが、
殺しそうで怖い」や「犯罪や異常行動を起こしそう」
情報の供給源であるマスコミの障害や障害のある人へ
との印象があがった。こうした偏見とも思える印象を
の理解や権利に対する意識が重要になってくると考え
払拭するためにも、内容やシナリオの工夫が大切だと
られる。
考える。そのためには、学生自身が積極的に障害のあ
る人やその家族、周囲の支援者等多くの人々と関わ
6.まとめ及び今後の課題
り、問題意識をもって「リカヒロ」に取り組んでくれ
障害や障害のある人への理解を広める取り組みの向
ることが重要である。今後も積極的なボランティア活
上につなげていくために、これまでの活動及び今回の
動や福祉従事者との関わり等を勧めていきたい。
−94−
4)ニーズに応じた公演内容の工夫
引用・参考文献
この取り組みは当初「知的障害」や「自閉症」とい
う内容について公演を行ってきた。活動を続けるうち
に「発達障害」や「精神障害」の内容を希望する依頼
も来るようになった。また、小学生の場合「障害とい
う言葉を入れないで」という依頼もある。また、「援
助したい・応援したい」「理解・援助・周りの配慮が
必要」といった意見や、「関わり方」、「障害のある
人の気持ち」等の情報を得たいと思っていること等の
支援に対して積極的な意見があることが明らかになっ
1)世界保健機関(WHO)『ICF 国際生活機能分類−国際障害
分類改定版−』中央法規出版 2002 年 .
2)内閣府『障害者白書』178 頁 .
3)内閣府『障害者白書』21 頁 .
4)嘉陽真由美『自閉症児を持つ親が抱える「生活のしづらさ」
−親の思いと地域住民の意識から−』
5)座間市「手をつなぐ育成会」実践ビデオ .
6)P&A 大阪『アドボカシー・インストラクター養成講座』
た。こちらが「できるもの」だけではなく、地域住民
の「理解したい」という積極的なニーズに応じて内容
やシナリオを工夫していくことも重要である。
公演活動が始まって約2年であるが、この活動を
通して様々な多くの人々と関わることができた。これ
は学生にとって大きな原動力となっている。この活動
に対する学生の意識の高さにも驚かされるばかりであ
る。今後は、これまで関わってきた学生の「想い」
を育み、それを継承させていくことが大きな課題であ
る。
また、本活動を通し、障害のある人が地域でいきい
きと暮らしていくためには地域住民の理解が必要であ
ることを改めて実感させられた。公演がきっかけとな
り、地域住民が障害や障害のある人について考え、理
解が少しでも広がっていくことを願い今後も活動を展
開していきたいと思う。障害の有無に関わらず、人々
がいきいきと暮らすことの出来る地域になることを目
指し、今後も美作福祉部隊リカイヒロメタインジャー
は力強く活動を続けていきたい。
−95−
美作大学・美作大学短期大学部紀要
2009, Vol. 54. 97 ∼ 108
報告・資料
美作大学附属幼稚園における研究プロジェクトについて(第 3 報)
About the reseach project at Mimasaka University attached kindergarten (The Third Report)
長谷川勝一 *1、本郷 順子、大岩 玲子、山田 宏子、竹田 理香 *2
キーワード:養育態度、行動特性、土踏まず、生活習慣、園内歩数
調査時期:足裏の撮影は年中児クラスである平成18年
研究の目的
5月と11月に、生活調査および園内における歩数調査
は平成18年10月下旬から11月上旬にそれぞれ行った。
美作大学附属幼稚園では、平成17年度より、大学附
保護者の養育態度と子どもの行動特性に関する調査は
属幼稚園として美作大学との研究分野での連携を充実
年長児クラスである平成20年3月に行った。
させるため、園内職員による複数のプロジェクトチー
調査方法:足裏の撮影はスキャナと強化ガラスを組
ムを結成した。大学との合同研究により、幼稚園での
み合わせた独自の機材により、子どもの足裏をコン
教育のあり方をより発展させていくためである。
ピュータに画像データの形式で取り込んだ。子どもは
それらのプロジェクトの中で、「身心共に健康なか
木枠の上に設置した強化ガラス上で立位姿勢をとり、
らだを作るために」を研究テーマとしたチームが中心
前方のマークを見つめた状態で足裏の撮影を行った。
となって身体的発達に関する研究に取り組んだ。平成
生活調査は園児の保護者を対象に、各園児の起床
18年度から平成19年度にかけて同一幼児を対象に継続
時刻、朝食に摂取した品目(ご飯、味噌汁、パン、牛
的に複数の調査を行っている。これらの経緯について
乳、野菜、果物、その他)、歯磨きの有無、排便の有
は先行報告
1)2)
を参照されたい。
無、朝に自宅を出る時刻、降園後の外遊びの時間、降
本稿では、研究プロジェクトチームが取り組んだ調
園後に外遊びをした友達の人数、テレビの視聴時間、
査研究の中から、保護者の養育態度と保護者から見た
就寝時刻を記名式で調査用紙に記入し、毎日提出して
子どもの行動特性が、過去に調査した生活習慣、園内
もらった。回収率は100%であった。
歩数および土踏まずの形成とどのように結び付いてい
園内における歩数調査は、園児一人ずつに山佐時計
るのかについて分析し、報告することを目的とする。
機器株式会社製万歩計MK 365を腰の位置に装着し、
午前中の100分間(9時40分から11時20分)の歩数を
研究方法
計測した。測定にあたり、測定機器に子どもが慣れる
ためのダミーの計測日を設定し、その後、本調査と
研究対象:美作大学附属幼稚園児70名(男児34名、女
して3日間の計測を行うこと、園児に対し、戸外(園
児36名)。
庭)で自らが選択した遊びをするように指導するこ
と、教師は観察者となり、測定時間中は主導的な援助
*1 美作大学
*2 美作大学附属幼稚園
を行わないこと、の条件を統一した。このとき、園児
とは約束として「好きなことをして遊ぶこと」「教師
−97−
と遊ばないこと」「室内ではなく、園庭で遊ぶこと」
査の評価基準にしたがい、保護者の養育態度を示すM
の3条件を提示した。
得点、P得点と、子どもの行動特性を示すH得点、G得
保護者の養育態度および子どもの行動特性調査は
点、さらに質問に対する保護者の心の構えを示すL得
適性科学研究センターのMP親子関係診断検査を使用
点を算出した。M得点とP得点から保護者の養育態度
し、園児の保護者宛に直接調査用紙を配布して回答を
として、スパルタ型(理念型)、放任型、過干渉型、
依頼した。回収された調査用紙は63名(90%)であっ
過保護型の4分類を、H得点とG得点から子どもの行
たが、欠損分は園児が転出したためである。採点は保
動特性として、いきいき型、がんばり型、ほがらか
護者が行わず、園側で行うこととした。
型、ひっそり型の4分類をそれぞれ判定した。各型の
判定基準および解釈は検査の手引き書である「MP親
研究の手続き:足形は、左右の足ごとにHラインによ
子関係診断検査活用手引」「家庭教育機能点検読本」
る土踏まずの形成の有無を測定した。形成しているも
によった。
のを1、形成していないものを0として評価した。さ
保護者の養育態度および子どもの行動特性をそれぞ
らに、両足とも土踏まずの形成が認められれば土踏ま
れ基準変数とし、土踏まず評価点、生活習慣に関する
ず評価点を2、片足だけが形成していると判断した場
調査項目、歩数の平均値ならびに最大値を説明変数と
合は1、両足とも未形成であると判断した場合は0と
して、各分類ごとの差をKuraskal-Wallis検定を用いて
して算出した。なお、先行研究
2)
では、両足形成を
検定した。
3、片足形成を2、両足とも未形成を1として処理し
統計上の有意水準はいずれも両側検定で5%とし
ている。
た。
生活調査は、起床時刻、朝に自宅を出る時刻、降園
結果と考察
後の外遊びの時間、テレビの視聴時間、就寝時刻につ
いてそれぞれ60進数の結果を10進数に変換し、量的変
数として扱った。また、就寝時刻と翌日の起床時刻か
一連の調査で得られたデータのうち、土踏まずの
ら睡眠時間を、起床時刻と朝に自宅を出る時刻から起
形成の有無ならびに土踏まず評価点の左右別、性別の
床から朝に家を出るまでの時間を算出した。調査期間
度数分布、生活習慣調査ならびに園内歩数における人
中に休日を挟んでいたため、睡眠時間については実質
数、平均値、標準偏差については先行研究1)2)にお
5日間分のデータとした。これらのすべての項目にお
いて示しているのでここでは割愛する。
いて、調査期間である一週間(睡眠時間は5日間)
今回、新たに調査して追加されたデータである保護
の平均値をそれぞれ求めた。朝食に摂取した品目(ご
者の養育態度および子どもの行動特性について、性別
飯、味噌汁、パン、牛乳、野菜、果物、その他)につ
の度数分布を示したものが表1である。本研究におけ
いては毎朝の摂取品目数から一週間の総摂取品目数を
る性別とは子どもの性別のことを示す。また、保護者
算出した。歯磨きの有無、排便の有無については一週
の養育態度と子どもの行動特性とのクロス集計を行っ
間の回数をそれぞれ算出した。外遊びをした友達の人
たものが表2である。
数については一週間の平均値を算出した。いずれも回
保護者の養育態度ならびに子どもの行動特性のい
答がないものについては欠損値として扱った。
ずれも顕著な性差があるとは認められないので、以
園内歩数は、3日間の歩数から歩数の平均値と3日
後においては性別による検討を行わないが、説明
間の最大値を求め、それぞれ園内歩数平均値と園内歩
変数である歩数に関しては性差があることを先行研
数最大値とした。
究 2)において指摘しているので、分析に際して配慮
保護者の養育態度と子どもの行動特性については検
が必要である。
−98−
まず、変数間の関係をみるため、相関係数を求め
家を出るまでの時間の週間平均値(0.30370)、睡眠
たものが表3である。なお、養育態度ならびに行動特
時間の週間平均値( 0.30051)、一週間の排便回数
性の4分類については名義尺度であるため、ここでは
(0.27539)があった。いずれも統計的に有意な相関
素点となるM得点、P得点、H得点、G得点を用いてい
を示している。
る。また、これらの得点および土踏まず評価点は順序
それぞれの得点は次のような指標となってい
尺度であるため、スピアマンの順位相関係数を用いて
る3)。M得点、P得点はいずれも保護者の子どもへの
分析を行った。
接し方を示している。M得点が高いほど保護者は子ど
今回の調査で保護者の養育態度ならびに子どもの
もを情緒的に受け入れ、かわいがって育てようとす
2)
る傾向を示し、P得点が高いほど保護者は子どもを知
での分析において、子どもの活動量を示す指標として
的に理解し、躾を厳しくして立派に育てようとする傾
採用した園内歩数を軸に足の発達と生活調査結果との
向を示す。H得点、G得点はいずれも保護者から見た
関係を確認したところ、生活調査に関しては朝の排便
子どもの様子を示している。H得点が高いほど、保護
回数という生活習慣が軸になっていることが判明した
者は子どもがのびのびとしているように感じており、
が、一方で、園内歩数や足の発達に関連する要因とし
G得点が高いほど子どもが頑張ってなにかに挑戦しよ
て、生活習慣以外には他になにがあるのだろうかとい
うとしているように感じている。L得点は保護者の心
う疑問があったことによる。
の構えであり、この得点が高い場合、理想を高く持ち
相関係数による分析では、たとえばM得点と
すぎる、自分には甘い、自分を実際より立派に見せた
相関が高い項目として、5月の土踏まず評価点
い、という気持ちが強いことを示す。この傾向が強い
( 0.30458)、P得点( 0.31131)、G得点
ことで子どもに無理を強いる形となり、様々な面で子
( 0.38770)があった。同様に、H得点と相関が高
どもに問題が起こりやすくなると考えられる。
い項目として、起床時刻の週間平均値( 0.34721)
今回の結果から、相関係数による分析では、子ども
とL得点(0.26135)が、L得点と相関が高い項目とし
をかわいがって育てる傾向にある保護者(M得点が高
て、起床時刻の週間平均値( 0.33465)、起床から
い)においては、5月の土踏まずの形成がよくない、
行動特性を調査項目として加えたのは、先行研究
表 1 性別の保護者の養育態度および子どもの行動特性の度数分布
保護者の養育態度
子どもの行動特性
スパルタ型
放任型
過干渉型
過保護型
合計
いきいき型 がんばり型 ほがらか型 ひっそり型
男児
20
2
7
2
31
20
3
6
2
合計
31
女児
15
4
7
6
32
22
3
4
3
32
合計
35
6
14
8
63
42
6
10
5
63
表 2 保護者の養育態度と子どもの行動特性のクロス集計表
保護者の養育態度
行動特性
スパルタ型
放任型
過干渉型
過保護型
合計
いきいき型
26
5
7
4
42
がんばり型
3
0
2
1
6
ほがらか型
1
1
5
3
10
ひっそり型
5
0
0
0
5
合計
35
6
14
8
63
−99−
表 3 調査項目間の順位相関係数表
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
起床時刻(10進数)の週間平均値
変数名
1.000
0.603
0.075
0.532
朝食摂取食品数の週間平均値
0.051
0.135
3)
朝、家を出る時刻(10進数)の週間平均値
-0.195
-0.603
0.066
2)
-0.195
1.000
0.183
-0.059
-0.012
4)
起床から家を出るまでの時間の週間平均値
0.051
0.183
1.000
-0.184
5)
降園後の外遊びの時間10進数の週間平均値
0.066
0.135
-0.322
テレビ視聴時間(10進数)の週間平均値
0.075
1.000
0.270
就床時刻(10進数)の週間平均値
0.532
0.373
-0.057
0.039
7)
-0.059
-0.278
-0.057
6)
-0.184
-0.278
0.079
0.270
1.000
8)
睡眠時間(10進数)の週間平均値
-0.028
-0.322
-0.053
-0.046
-0.313
-0.797
0.268
0.129
-0.094
0.051
0.132
-0.016
-0.017
-0.098
0.051
0.135
0.244
0.315
-0.085
0.238
0.259
-0.202
0.099
0.172
-0.059
-0.037
1)
9)
一週間の歯磨き回数
10)
一週間の排便回数
11)
総品目数
12)
一日平均の総品目数
13)
園内歩数平均値
14)
園内歩数最大値
15)
M得点
16)
0.603
-0.603
18)
-0.364
0.219
-0.192
-0.195
0.998
0.089
-0.193
0.998
-0.061
-0.185
0.119
-0.038
P得点
-0.114
G得点
-0.155
0.216
-0.051
0.081
20)
年中児5月の土踏まず形成評価
21)
年中児10月の土踏まず形成評価
0.049
-0.111
-0.016
L得点
19)
-0.012
-0.098
-0.058
-0.080
H得点
17)
1.000
-0.098
-0.347
0.083
-0.335
0.163
-0.088
0.040
-0.104
-0.029
0.052
-0.209
0.143
-0.121
0.304
0.002
0.105
-0.024
0.134
-0.030
0.078
1.000
0.133
-0.108
0.049
0.039
0.200
-0.059
-0.059
0.157
0.140
-0.087
-0.108
-0.183
0.090
0.373
0.079
-0.039
-0.010
-0.012
-0.045
-0.077
0.042
-0.068
-0.048
0.080
0.149
0.145
-0.070
0.150
0.103
-0.100
-0.130
0.022
0.172
0.065
0.025
-0.192
-0.085
保護者に厳しさが足りない(P得点が低い)、子ども
検査の判定基準により4項目に分類した。保護者の
に頑張りが足りないと感じている(G得点が低い)こ
養育態度としてはスパルタ型(理念型)、放任型、過
とが考えられる。同様に、保護者が、子どもがのびの
干渉型、過保護型に、保護者から見た子どもの行動特
びとしていると感じている(H得点が高い)場合、子
性はいきいき型、がんばり型、ほがらか型、ひっそり
どもの起床時刻が遅い、保護者の心の構えが強い(L
型である。生活習慣調査や歩数調査、土踏まずの形成
得点が高い)。心の構えが強い保護者は、子どもの起
評価において、これらの型による差がないかKuraskal-
床時刻が遅い、起床してから家を出るまでの時間が長
Wallis検定を用いて検討を行ったものが表4と表5で
い、睡眠時間は短い、一週間の排便回数は多い、とい
ある。
う相関関係があることが指摘できる。
養育態度については年中児5月に測定した土踏まず
しかしながら、今回調査に採用したMP親子関係診
評価点において統計的な有意差がみられた。対比較で
断検査は、交流分析という手法を用いている 3)。そ
検討したところ、スパルタ型と過干渉型において有意
れぞれ異なる観点の特性項目を表す指標をX軸、Y軸
差が確認された。しかしながら、統計量的には過干渉
とし、各自の得点を座標上にプロットして、プロット
型以外の放任型、過保護型においてもスパルタ型より
された位置から養育態度や行動特性を提示するもので
数値が低い。すなわち、スパルタ型の保護者の子ども
ある。このため、素点となる得点のみで項目間の相関
の土踏まず形成率がよいと考えることができる。この
をみることは本来あまり意味がない。
関係をクロス集計したものが表6であるが、両足とも
そこで、M得点とP得点、H得点とG得点から保護者
土踏まずが形成されている子どもの率は、スパルタ型
の養育態度と子どもの行動特性それぞれを親子関係
が82.9%であるのに対し、放任型は66.7%、過干渉型
−100−
8)
9)
10)
11)
12)
13)
14)
15)
16)
17)
18)
19)
20)
21)
-0.028
-0.080
-0.364
-0.193
-0.195
-0.061
-0.016
0.119
-0.114
-0.347
-0.155
-0.335
-0.051
-0.088
-0.111
-0.104
-0.192
-0.094
-0.098
0.244
0.238
-0.209
-0.024
-0.121
-0.030
0.002
0.051
-0.059
0.078
0.105
-0.046
0.133
0.129
0.132
0.135
0.022
0.080
0.065
-0.016
-0.059
-0.059
0.090
0.149
-0.070
0.172
0.200
-0.183
0.103
-0.058
-0.058
-0.192
0.145
-0.227
-0.048
-0.037
-0.219
-0.301
0.002
0.149
0.275
-0.058
-0.053
-0.313
0.089
-0.029
0.219
0.268
0.051
-0.038
0.315
0.259
-0.202
-0.108
-0.037
-0.012
-0.045
-0.077
0.089
-0.191
-0.220
-0.127
0.124
-0.187
-0.086
-0.041
1.000
0.911
-0.039
0.011
1.000
-0.227
0.064
1.000
0.218
0.219
-0.058
0.092
0.218
1.000
0.998
-0.058
0.089
0.219
0.998
1.000
-0.070
-0.191
0.047
-0.187
-0.185
0.072
-0.127
-0.155
-0.041
-0.037
0.002
0.015
0.056
-0.020
0.031
0.002
-0.219
-0.301
0.053
-0.003
0.011
-0.220
0.124
-0.110
-0.132
0.064
0.002
-0.010
-0.085
0.998
-0.797
1.000
-0.017
0.998
0.092
-0.086
-0.085
-0.185
0.157
-0.070
0.047
-0.185
0.140
-0.020
0.002
-0.085
0.911
1.000
-0.038
-0.022
-0.038
0.084
0.083
0.087
0.149
0.219
0.216
0.021
-0.010
0.275
0.163
0.163
0.014
0.064
0.080
0.081
0.106
-0.013
0.039
0.040
0.184
0.088
0.173
0.172
0.123
0.124
0.037
-0.061
0.116
0.196
0.099
-0.087
0.172
0.052
-0.108
-0.068
0.072
0.031
0.042
0.083
0.143
0.002
0.216
0.134
0.015
0.163
0.304
0.150
0.056
0.081
-0.100
0.040
0.025
-0.130
-0.085
-0.110
-0.132
0.053
-0.003
-0.155
0.088
0.173
0.084
0.219
0.163
0.080
-0.038
0.172
0.083
0.216
0.163
0.081
0.040
-0.022
0.123
0.087
0.021
0.014
0.106
0.184
-0.038
0.124
0.037
0.196
-0.311
-0.061
0.116
1.000
-0.010
-0.070
-0.305
-0.248
0.140
0.261
0.112
0.217
-0.311
0.003
-0.388
-0.070
-0.305
-0.248
1.000
-0.147
0.003
-0.147
1.000
-0.388
-0.098
0.207
0.064
0.186
-0.013
0.039
0.040
-0.098
0.140
1.000
0.064
0.017
0.076
0.207
0.261
0.064
1.000
0.035
0.186
0.112
0.017
0.035
1.000
-0.098
0.040
0.217
0.076
-0.098
0.586
0.586
1.000
は42.9%、過保護型は57.1%となっている。
関心をもつ教育熱心な保護者が多いことが推測され
土踏まずの形成は身体的な発育の要因と強く関係
る。今回の調査のみの結果では断定は出来ないが、
しており、通常であれば加齢に伴い発達を示すが、一
年中児クラスの5月ではスパルタ型の保護者の子ども
方で運動能力などとの関連も指摘されている。都市部
の土踏まずの形成率がよいことは、少しでも子どもの
の調査においては、小学校の児童年齢に到達してもな
教育や発達を進めたいと考える教育熱心な保護者の心
お未形成であるケースが多くなってきているという報
情と関係があるのではないか。しかし、スパルタ型と
告
4)
もある。
異なり、どうしても過保護的な面をもつ過干渉型の保
スパルタ型の保護者は子どもを甘やかすのではな
護者の場合は、甘やかしが普段の生活の中で出てしま
く、子どもとの間に距離をおき、厳しく躾教育をして
い、発育が中途段階にある土踏まずに関しては数値的
いこうと考えていると判断される。過干渉型は子ども
な差異となっているのではないかという仮説も考えら
をかわいがると同時に躾も厳しくおこない、教育を
れよう。
しっかりしようと考える傾向がある。放任型は子ども
なお、本研究における足形測定は2年間にわたり同
との関わりを強くもとうとしないタイプである。過保
一園児を継続して調査しているが、その後の経過はど
護型は甘やかしが強く、情緒的に子どもを愛するが躾
うなるのであろうか。参考資料としてその後の経過に
などは厳しく行わないタイプとされる。
ついて触れておくと、調査対象園児の足形は年中児ク
附属幼稚園の保護者の特徴として、スパルタ型
ラスであった平成18年の5月、11月以降にも測定を行
を示した例が一番多く(55.6%)、ついで過干渉型
い、年長児クラスであった平成19年の5月、平成20年
(22.2%)であった。子どもの身体的な発育にも興味
の1月の合計4回のデータが得られている。
−101−
表 4 保護者の養育態度別の Kuraskal-Wallis 検定
起床時刻(10 進数)の週間平均値
人数
スパルタ型
放任型
順位和
一週間の歯磨き回数
平均順位
35
1075.0
30.714
χ2 値
2.154
自由度
3
p値
0.5411
人数
スパルタ型
順位和
平均順位
35
1179.0
33.686
6
140.0
23.333
放任型
6
140.5
23.417
過干渉型
14
493.5
35.250
過干渉型
14
428.5
30.607
過保護型
7
244.5
34.929
過保護型
7
205.0
29.286
朝食摂取食品数の週間平均値
人数
スパルタ型
放任型
平均順位
1147.5
32.786
χ2 値
4.997
自由度
3
p値
0.1720
人数
スパルタ型
順位和
平均順位
35
1157.5
33.071
6
225.0
37.500
放任型
6
231.0
38.500
過干渉型
14
456.5
32.607
過干渉型
14
362.0
25.857
過保護型
7
124.0
17.714
過保護型
7
202.5
28.929
朝、家を出る時刻(10 進数)の週間平均値
スパルタ型
放任型
順位和
平均順位
35
1088.0
31.086
2.931
自由度
3
p値
0.4023
人数
スパルタ型
順位和
平均順位
35
1148.5
32.814
6
129.5
21.583
放任型
6
225.0
37.500
14
511.5
36.536
過干渉型
14
456.5
32.607
過保護型
7
224.0
32.000
過保護型
7
123.0
17.571
起床から家を出るまでの時間の週間平均値
スパルタ型
放任型
順位和
平均順位
35
1118.5
31.957
0.234
自由度
3
p値
0.9719
人数
スパルタ型
順位和
平均順位
35
1147.5
32.786
6
193.0
32.167
放任型
6
225.0
37.500
14
442.5
31.607
過干渉型
14
456.5
32.607
過保護型
7
199.0
28.429
過保護型
7
124.0
17.714
降園後の外遊びの時間 10 進数の週間平均値
スパルタ型
放任型
順位和
平均順位
35
1169.0
33.400
1.597
自由度
3
p値
0.6601
人数
スパルタ型
順位和 平均順位
35
1195.0
34.143
6
185.0
30.833
放任型
6
148.0
24.667
14
368.5
26.321
過干渉型
14
468.0
33.429
過保護型
7
230.5
32.929
過保護型
8
205.0
25.625
テレビ視聴時間(10 進数)の週間平均値
スパルタ型
放任型
順位和
平均順位
35
1222.5
34.929
3.081
自由度
3
p値
0.3792
人数
スパルタ型
順位和 平均順位
35
1223.0
34.943
6
146.5
24.417
放任型
6
148.0
24.667
14
385.5
27.536
過干渉型
14
441.0
31.500
過保護型
7
198.5
28.357
過保護型
8
204.0
25.500
就床時刻(10 進数)の週間平均値
スパルタ型
順位和
平均順位
χ2 値
0.807
自由度
3
p値
0.8478
人数
1103.0
31.514
6
155.5
25.917
放任型
過干渉型
14
473.5
33.821
過保護型
7
221.0
31.571
睡眠時間(10 進数)の週間平均値
人数
スパルタ型
順位和
平均順位
χ2 値
0.057
自由度
3
p値
0.9965
スパルタ型
順位和
平均順位
35
715.0
20.429
6
168.0
28.000
過干渉型
14
682.5
48.750
過保護型
8
450.5
56.313
自由度
3
χ2 値
5.091
自由度
3
χ2 値
4.997
自由度
3
χ2 値
2.491
p値
0.4344
p値
0.1652
p値
0.1720
自由度
p値
3
0.4769
χ2 値
2.879
自由度
p値
3
0.4107
χ2 値
40.992
自由度
3
P 得点
人数
35
1096.0
31.314
6
193.0
32.167
放任型
過干渉型
14
434.5
31.036
過保護型
7
229.5
32.786
放任型
2.734
M 得点
35
放任型
χ2 値
園内歩数最大値
χ2 値
過干渉型
人数
p値
0.2713
園内歩数平均値
χ2 値
過干渉型
人数
3
一日平均の総品目数
χ2 値
過干渉型
人数
自由度
総品目数
χ2 値
過干渉型
人数
3.910
一週間の排便回数
順位和
35
人数
χ2 値
スパルタ型
順位和
平均順位
35
1404.0
40.114
6
44.0
7.333
過干渉型
14
507.0
36.214
過保護型
8
61.0
7.625
−102−
χ2 値
33.080
自由度
3
p値
0.0000
p値
0.0000
***
***
表 5 子どもの行動特性別の Kuraskal-Wallis 検定
起床時刻(10 進数)の週間平均値
H 得点
人数
スパルタ型
順位和
平均順位
35
1043.5
29.814
χ2 値
3.323
自由度
3
人数
p値
いきいき型
0.3444
順位和
平均順位
41
1117.5
27.256
6
254.5
42.417
がんばり型
6
252.5
42.083
過干渉型
14
488.0
34.857
ほがらか型
10
392.0
39.200
過保護型
8
230.0
28.750
ひっそり型
5
191.0
38.200
放任型
人数
順位和
平均順位
35
1244.5
35.557
χ2 値
13.683
自由度
3
p値
0.0034
人数
**
いきいき型
順位和
平均順位
41
1397.0
34.073
6
294.0
49.000
がんばり型
6
201.5
33.583
過干渉型
14
303.5
21.679
ほがらか型
10
191.5
19.150
過保護型
8
174.0
21.750
ひっそり型
5
163.0
32.600
放任型
人数
順位和
平均順位
35
1169.5
33.414
χ2 値
2.335
自由度
3
人数
p値
いきいき型
0.5058
順位和
平均順位
41
1244.5
30.354
6
144.5
24.083
がんばり型
6
259.0
43.167
過干渉型
14
486.5
34.750
ほがらか型
10
317.0
31.700
過保護型
8
215.5
26.938
ひっそり型
5
132.5
26.500
放任型
人数
順位和
平均順位
35
1256.5
35.900
χ2 値
8.456
自由度
3
p値
0.0375
人数
*
いきいき型
順位和
平均順位
41
1428.0
34.829
6
186.5
31.083
がんばり型
6
181.0
30.167
過干渉型
14
326.5
23.321
ほがらか型
10
241.5
24.150
過保護型
7
183.5
26.214
ひっそり型
5
102.5
20.500
放任型
人数
順位和
平均順位
35
1175.5
33.586
χ2 値
5.114
自由度
3
人数
p値
いきいき型
0.1636
順位和
平均順位
41
1321.5
32.232
6
243.0
40.500
がんばり型
6
208.5
34.750
過干渉型
14
377.0
26.929
ほがらか型
10
227.0
22.700
過保護型
8
220.5
27.563
ひっそり型
5
196.0
39.200
放任型
p値
0.0770
χ2 値
5.636
自由度
3
p値
0.1307
χ2 値
3.064
自由度
3
p値
0.3819
χ2 値
4.949
自由度
3
p値
0.1756
降園後の外遊びの時間 10 進数の週間平均値
年中児 10 月の土踏まず形成評価
スパルタ型
3
起床から家を出るまでの時間の週間平均値
年中児5月の土踏まず形成評価
スパルタ型
自由度
朝、家を出る時刻(10 進数)の週間平均値
L 得点
スパルタ型
6.846
朝食摂取食品数の週間平均値
G 得点
スパルタ型
χ2 値
* p<0.05
** <0.01
*** p<0.001
χ2 値
3.559
自由度
3
p値
0.3132
テレビ視聴時間(10 進数)の週間平均値
人数
いきいき型
順位和
平均順位
41
1334.5
32.549
がんばり型
6
160.5
26.750
ほがらか型
10
323.0
32.300
ひっそり型
5
135.0
27.000
χ2 値
0.886
自由度
3
p値
0.8287
就床時刻(10 進数)の週間平均値
人数
いきいき型
順位和
平均順位
41
1222.0
29.805
がんばり型
6
291.5
48.583
ほがらか型
10
275.5
27.550
ひっそり型
5
164.0
32.800
χ2 値
6.249
自由度
3
p値
0.1001
睡眠時間(10 進数)の週間平均値
人数
いきいき型
順位和
平均順位
41
1275.5
31.110
がんばり型
6
114.0
19.000
ほがらか型
10
401.5
40.150
ひっそり型
5
162.0
32.400
−103−
χ2 値
5.212
自由度
3
p値
0.1569
H 得点
一週間の歯磨き回数
人数 順位和
平均順位
いきいき型
41
1317.0
32.122
がんばり型
6
191.5
ほがらか型
10
ひっそり型
5
χ2 値
3.448
p値
自由度
3
人数
0.3275
42
1575.0
37.500
31.917
がんばり型
6
33.0
5.500
257.0
25.700
ほがらか型
10
375.0
37.500
187.5
37.500
ひっそり型
5
33.0
6.600
順位和
平均順位
いきいき型
41
1319.5
32.183
がんばり型
6
176.0
ほがらか型
10
ひっそり型
5
χ2 値
0.535
自由度
3
人数
0.9112
いきいき型
1609.0
38.310
29.333
がんばり型
6
239.0
39.833
286.0
28.600
ほがらか型
10
131.0
13.100
171.5
34.300
ひっそり型
5
37.0
7.400
平均順位
1398.0
34.098
がんばり型
6
201.5
33.583
ほがらか型
10
190.5
19.050
ひっそり型
5
163.0
32.600
χ2 値
5.730
自由度
3
順位和
平均順位
41
1397.0
34.073
がんばり型
6
201.5
33.583
ほがらか型
10
191.5
19.150
ひっそり型
5
163.0
32.600
人数
0.1255
いきいき型
χ2 値
5.636
自由度
順位和
平均順位
42
1486.0
35.381
がんばり型
6
134.5
22.417
ほがらか型
10
232.5
23.250
ひっそり型
5
163.0
32.600
3
p値
人数
0.1307
いきいき型
園内歩数平均値
3
χ2 値
26.214
自由度
3
χ2 値
5.549
自由度
3
p値
0.0000
p値
0.0000
***
***
p値
0.1358
順位和
平均順位
41
1383.5
33.744
がんばり型
6
142.5
23.750
ほがらか型
10
256.5
25.650
ひっそり型
5
170.5
34.100
χ2 値
4.403
自由度
3
p値
0.2211
年中児 10 月の土踏まず形成評価
人数
順位和
平均順位
42
1394.0
33.190
がんばり型
6
243.0
40.500
ほがらか型
10
331.0
33.100
ひっそり型
5
48.0
9.600
χ2 値
8.970
自由度
3
p値
0.0297
人数
*
いきいき型
人数
順位和 平均順位
いきいき型
42
1383.0
32.929
がんばり型
6
265.0
44.167
ほがらか型
10
301.0
30.100
ひっそり型
5
67.0
13.400
2
χ値
8.007
自由度
p値
3
0.0459
M 得点
人数
順位和 平均順位
42
1207.5
28.750
がんばり型
6
228.0
38.000
ほがらか型
10
448.0
44.800
ひっそり型
5
132.5
26.500
χ2 値
7.471
自由度
p値
3
0.0583
P 得点
人数
順位和
平均順位
42
1332.0
31.714
がんばり型
6
230.0
38.333
ほがらか型
10
223.0
22.300
ひっそり型
5
231.0
46.200
χ2 値
6.621
自由度
3
順位和
平均順位
42
1424.5
33.917
がんばり型
6
139.5
23.250
ほがらか型
10
336.0
33.600
ひっそり型
5
116.0
23.200
χ2 値
5.052
自由度
3
p値
0.1680
* p<0.05
** <0.01
*** p<0.001
園内歩数最大値
いきいき型
自由度
年中児 5 月の土踏まず形成評価
人数
いきいき型
29.447
L 得点
p値
一日平均の総品目数
いきいき型
平均順位
42
41
いきいき型
順位和
いきいき型
順位和
χ2 値
G 得点
p値
総品目数
人数
平均順位
いきいき型
一週間の排便回数
人数
順位和
*
p値
0.0850
−104−
その後の経過を示したものが表7、表8、表9で
児から連続して3回の測定において両足の土踏まずが
あるが、最終的(卒園時)に両足の土踏まず形成率が
形成されていたのに卒園時の測定では未形成として判
100%を示したのは放任型であり、スパルタ型は94.3%
定されたケースであり、土踏まずが一時的に崩れたも
(未形成園児2名)、過干渉型は85.7%(同2名)、
のであると判断できる。これは除外するとして、残り
過保護型は75.0%(同2名)となっている。各グルー
が2名いるが、いずれも在園中は土踏まずが未形成の
プの人数も異なるため、パーセンテージによる比較は
ままであった。これらの園児の特徴を示したものが表
安易すぎるが、スパルタ型でどうしても両足とも土踏
10である。心の構えを示すL得点は8点を超えなけれ
まずが形成されなかった子どもが2名、過保護型で1
ば問題はないが、今回の調査におけるL得点の平均値
名存在している。このうちスパルタ型の1名は、年中
は2.444(標準偏差2.107)であり、いずれも高めであ
表 6 保護者の養育態度別の年中児 5 月の土踏まず形成評価度数分布
両足とも未形成
片足のみ形成
両足とも形成
合計
スパルタ型
3
3
29
35
放任型
1
1
4
6
過干渉型
5
3
6
14
過保護型
3
0
4
7
合計
12
7
43
62
表 7 保護者の養育態度別の年中児 11 月の土踏まず形成評価度数分布
両足とも未形成
片足のみ形成
両足とも形成
合計
スパルタ型
4
4
27
35
放任型
0
0
6
6
過干渉型
4
2
8
14
過保護型
3
0
5
8
合計
11
6
46
63
表 8 保護者の養育態度別の年長児 5 月の土踏まず形成評価度数分布
両足とも未形成
片足のみ形成
両足とも形成
合計
スパルタ型
1
2
32
35
放任型
0
0
6
6
過干渉型
3
1
10
14
過保護型
3
0
5
8
合計
7
3
53
63
表 9 保護者の養育態度別の年長児 1 月の土踏まず形成評価度数分布
両足とも未形成
片足のみ形成
両足とも形成
合計
スパルタ型
2
0
33
35
放任型
0
0
6
6
過干渉型
0
2
12
14
過保護型
1
1
6
8
合計
3
3
57
63
−105−
る。L得点が高い保護者の子どもがすべて土踏まずが
一時的に崩れたと考えられるもので、もう1名がスパ
未形成であるということではないが、L得点が高い保
ルタ型の親とひっそり型の子の組み合わせであった。
護者については子どもとの関係において見栄が強く反
いずれも該当する事例数が少ないため、断言すること
省や注意が必要である。
は出来ないが、親の養育態度だけではなく、子どもの
なお、今回の研究結果では、スパルタ型と放任型
行動特性との組み合わせも重要であることを示唆して
において卒園時の土踏まず形成率が逆転している。原
いよう。このことについては後述したい。
田は先行研究において、スパルタ型(理念型)の親に
行動特性においては園内歩数の平均値および最大
育てられた子は運動能力、意欲、情緒の安定、仲間関
値に統計的に有意な差がみられた。すなわち、園内歩
係、群れ遊びへの参加などすべての項目において好
数の平均値においては、いきいき型とひっそり型、が
ましく、次いで放任型が優れており、過保護型、過干
んばり型とひっそり型、ほがらか型とひっそり型の間
渉型は放任型よりも劣っていることを指摘している
で、園内歩数の最大値においては、いきいき型とひっ
5)
。今回の事例においては、前述した通り、スパル
そり型、がんばり型とひっそり型の間で対比較が有意
タ型の未形成児2名のうち、1名は土踏まずの形成が
となっている。いずれもひっそり型の子は園内歩数の
表 10 土踏まず未形成児の事例
事例
項目
性別
全体
ケース1
ケース2
男児
女児
平均値
標準偏差
起床時刻(10進数)の週間平均値
6.67
6.75
6.85
0.44
朝食摂取食品数の週間平均値
1.57
1.00
3.13
1.11
朝、家を出る時刻(10進数)の週間平均値
8.00
8.24
8.19
0.36
起床から家を出るまでの時間の週間平均値
1.33
1.49
1.33
0.38
降園後の外遊びの時間10進数の週間平均値
0.36
0.58
0.56
0.45
テレビ視聴時間(10進数)の週間平均値
0.80
1.00
0.94
0.67
就床時刻(10進数)の週間平均値
21.86
22.14
20.97
0.71
睡眠時間(10進数)の週間平均値
8.87
8.70
9.95
0.64
一週間の歯磨き回数
7.00
7.00
6.61
0.97
一週間の排便回数
4.00
5.00
3.07
2.37
総品目数
11.00
7.00
21.90
7.86
一日平均の総品目数
1.57
1.00
3.13
1.11
園内歩数平均値
423.00
541.33
1636.02
658.21
園内歩数最大値
546.00
654.00
2155.33
861.97
M得点
6
10
5.84
2.95
P得点
10
6
8.56
3.06
H得点
10
14
12.24
1.57
G得点
4
14
8.76
3.32
L得点
4
8
2.44
2.11
養育態度
行動特性
スパルタ型
過保護型
ひっそり型
いきいき型
年中児5月の土踏まず形成評価
両足とも未形成
両足とも未形成
年中児11月の土踏まず形成評価
両足とも未形成
両足とも未形成
年長児5月の土踏まず形成評価
両足とも未形成
両足とも未形成
年長児1月の土踏まず形成評価
両足とも未形成
両足とも未形成
−106−
数値が小さい。
あり、子どもが「自分は親に理解されている」という
各行動特性の特徴を簡単に説明すると、今回の調
気持ちを持つために子どものストレスは比較的低いと
査は保護者から見た(感じた)子どもの特性評価であ
考えられるが、一方で頑張りを示すG得点が低いため
る。4つの分類のうち、いきいき型は、保護者から見
に、保護者の厳しさが不足する場合は甘やかされてい
て、子どもがのびのびと、一生懸命に頑張って張りの
ることになりやすい。ひっそり型は、G得点、H得点
ある生活を送っていると判断しており、がんばり型
ともに低い傾向を示し、子どもが頑張って物事をやろ
は、子どもが何かをやろうと頑張っていると感じてい
うとしていないと保護者が感じていることを示すが、
る。いずれも子どもに対する評価としてはG得点が高
保護者がスパルタ型や過干渉型であれば子どもが萎縮
い傾向を示す。異なるのはのびのびさを示すH得点で
し、放任型の場合は愛情表現が不足、過保護型である
あって、いきいき型は子どもを甘く評価する傾向があ
場合は甘やかしによる弊害がある可能性がある3)。
るのに対し、頑張り型は厳しい評価をしており、頑張
今回の調査でひっそり型を示している子どもは5
り型の場合は保護者が厳しくいろいろなことを要求し
名存在したが、これらの特徴を示したものが表11であ
ている場合もある。ほがらか型はH得点が高い特徴が
る。いずれも保護者の養育態度はスパルタ型であり、
表 11 スパルタ型とひっそり型の親子関係を示す園児の事例
事例
項目
性別
全体
ケース1
ケース2
ケース3
ケース4
ケース5
女児
女児
男児
女児
男児
平均値
標準偏差
起床時刻(10進数)の週間平均値
7.14
6.89
6.67
6.99
7.27
6.85
0.44
朝食摂取食品数の週間平均値
2.43
4.43
1.57
4.14
3.14
3.13
1.11
朝、家を出る時刻(10進数)の週間平均値
8.01
8.20
8.00
8.13
8.23
8.19
0.36
起床から家を出るまでの時間の週間平均値
0.87
1.25
1.33
1.14
0.95
1.33
0.38
降園後の外遊びの時間10進数の週間平均値
0.79
1.00
0.36
0.43
0.71
0.56
0.45
テレビ視聴時間(10進数)の週間平均値
1.00
0.55
0.80
0.64
0.57
0.94
0.67
就床時刻(10進数)の週間平均値
22.17
20.62
21.86
20.58
20.14
20.97
0.71
睡眠時間(10進数)の週間平均値
8.80
10.35
8.87
10.42
11.03
9.95
0.64
一週間の歯磨き回数
7.00
7.00
7.00
7.00
7.00
6.61
0.97
一週間の排便回数
7.00
2.00
4.00
4.00
0.00
3.07
2.37
総品目数
17.00
31.00
11.00
29.00
22.00
21.90
7.86
一日平均の総品目数
2.43
4.43
1.57
4.14
3.14
3.13
1.11
園内歩数平均値
1407.00
751.00
423.00
564.67
1126.00
1636.02
658.21
園内歩数最大値
1578.00
1378.00
546.00
1003.00
2083.00
2155.33
861.97
M得点
4
5
6
6
3
5.84
2.95
P得点
10
10
10
12
12
8.56
3.06
H得点
10
10
10
10
8
12.24
1.57
G得点
5
4
4
6
1
8.76
3.32
L得点
5
2
4
0
1
2.44
2.11
養育態度
行動特性
スパルタ型
スパルタ型
スパルタ型
スパルタ型
スパルタ型
ひっそり型
ひっそり型
ひっそり型
ひっそり型
ひっそり型
年中児5月の土踏まず形成評価
両足とも形成 両足とも形成 両足とも未形成 両足とも形成 両足とも形成
年中児11月の土踏まず形成評価
片足だけ形成 両足とも形成 両足とも未形成 片足だけ形成 両足とも形成
年長児5月の土踏まず形成評価
両足とも形成 両足とも形成 両足とも未形成 両足とも形成 両足とも形成
年長児1月の土踏まず形成評価
両足とも形成 両足とも形成 両足とも未形成 両足とも形成 両足とも形成
−107−
P得点が10点以上である反面、M得点が7点を超える
ずしも結果をそのまま鵜呑みには出来ないこともあ
ケースはなかった。親子の関係においてはどちらか一
る」と記したが、親子関係を調査した結果は個々の子
方の問題だけではなく、相互の関係が大きな問題の原
どもの姿に比較的よく適合していたのではないかとい
因に繋がることがあるが、スパルタ型の保護者とひっ
うのが現場を知る教員からの感想である。
そり型の子どもの関係は「子どもの行動に口を出す
なぜこの子の園内歩数が少ないのか。その疑問に対
ことが多く、子どもが萎縮している傾向があるので反
して別の観点からの回答を得たことは、幼児教育にお
省が必要」
3)
であり、子どもが家庭内だけではなく
いて園内のみの教育活動や展開を視野に入れただけで
園内においても、自由遊びで活動的に遊ぶことが出来
は不十分であることを示唆している。この子にとって
ず、萎縮している可能性が指摘できよう。
どういう働きかけが有効なのか、その指針を考えるに
先行研究を含む一連の報告では、園内歩数を活動量
あたって今回の結果は大いなる示唆を含んでいるので
の基準として考えてきたが、子どもの行動特性におい
はなかろうか。
ても園内歩数による差異が認められたことで、やはり
謝 辞
園内歩数が子どもの様子を反映した指標であったと考
えることができる。
本研究を行うにあたり、長期間にわたりご協力をい
結 論
ただきました附属幼稚園平成19年度卒園児ならびにそ
の保護者の皆様にお礼を申し上げます。
保護者の養育態度ならびに保護者からみた子どもの
註
行動特性についてMP親子関係診断検査を用いて調査
したところ、養育態度と年中児クラス5月の土踏まず
形成評価点において統計的に有意な差がみられた。ま
1)長谷川勝一他
「美作大学附属幼稚園における研究プロジェ
クトについて」
『美作大学・美作大学短期大学部紀要』通巻
た、行動特性では3日間測定した園内歩数の平均値お
よび最大値において統計的に有意な差がみられた。
第 52 巻 , 2007。
2)長谷川勝一他
「美作大学附属幼稚園における研究プロジェ
クトについて(第 2 報)」『美作大学・美作大学短期大学
おわりに
部紀要』通巻第 53 巻 , 2008。
3)杉田峰康他「家庭教育機能点検読本」適性科学研究セン
今回の研究では、保護者の養育態度と保護者から
みた子どもの行動特性を軸に園内歩数や土踏まずの形
成、生活調査結果との関係を検討した。先行研究 1)
において「子どもの成長は園内での生活と家庭内での
ター
4)正木健雄「ヒトになる , 人間になる。」創教出版 , 2001,
59 ∼ 60 頁。
5)原田碩三
「新版幼児健康学」
黎明書房 , 1997, 121 ∼ 122 頁。
生活という両輪があって成立するものである」ことを
指摘したが、保護者と子どもの関わり方という問題が
子どもの園内での活動や発達に影響を及ぼしているこ
とが伺えるのは興味深い。調査の結果分析を通じてそ
の思いはますます強く感じている。
同じく先行研究 2)において「調査結果を数値で追
いかけることは客観性を得るために重要なことではあ
るが、個々の子どもの姿と照らし合わせていくと、必
−108−
美作大学・美作大学短期大学部紀要
2009, Vol. 54. 109 ∼ 120
報告・資料
大学生に書かせる自分史の試み・1
−自分史の誕生と広がりの中で−
An attempt to have college students write their 'Jibunshi' autobiography : part one
宮地 啓介
キーワード:自分史、歴史叙述、社会科概論、大学生
きたものである。少し遠回りにはなるが、この報告で
はじめに
は、まず授業での自分史作りの背景的な部分をまとめ
ることを目標としたい。
自らの人生について書き綴る「自分史」。この言葉
自分史導入の経緯と授業の展開
は今や一般語といってよいであろうが、市民権を得た
のは比較的最近のことである。その背景には、庶民が
意識的に個人の歴史を語ろうとする試みとしての自分
現在、自分史作りを行っている授業は、美作大学
史が、ある時期以降に多くの人々によって書かれるよ
生活科学部児童学科の「社会科概論」という科目であ
うになった事実がある。
る。話の都合上、先にこの科目のカリキュラムにおけ
本報告は、平成2(1990)年から19年にわたって大
る位置付けや19年間の変遷を概観しておこう。平成20
学生に自分史を書かせる取り組みを続けてきた授業の
年度からの児童学科専門教育科目は、科目群が7つの
記録である同時に、その内容を振り返る、いわば「授
領域に整理・配列されており、「社会科概論」は教科
業とその担当者の自分史」である。これまでに授業
関連領域に分類される。児童学科で取得できる小学校
のレポートである自分史作品は通算500編を超えてい
教諭免許状と関連して、小学校社会科で扱われる内容
る。その経過を記録しておくことが目的の1つであ
に関する概論という位置付けである。
る。また、今では趣味活動や生涯学習活動の1つとし
社会科関連の概説科目はかつて複数存在し、科目
て広く行われるようになっている自分史作りである
名称も何度か変更がある。平成元(1989)年までは、
が、それを授業に取り入れ、大学生という若い年齢層
「社会通論Ⅰ」と「社会通論Ⅱ」の2科目で、「歴史
の人々に自分の歴史を書かせることにはどのような意
学(倫理社会を含む)」と備考の付くⅠが筆者の担当
味があるのか。この点を考えるのが第二の目的であ
であった。自分史を取り入れた平成2(1990)年から
る。
は「社会通論Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」の3科目体制となり、「歴
ただ、この19年にわたる「自分史」は、他の多くの
史学・含倫理社会」のⅡを担当(同時に「社会環境と
自分史がそうであるように、その時代背景とともに記
人間生活」を扱うⅠも担当することになった。)平成
録しておきたい。授業での自分史作りは、まさに自分
10(1998)年からは地理・政治経済分野のⅢが廃止さ
史が社会に広まり定着していくのと同時進行で続けて
れて2科目体制に戻り、Ⅱは「社会科概論」と備考が
−109−
付くようになった。平成12(2000)年から、生活科と
の導入で、これまで行ってきた「手仕事によるモノ作
関連するⅠは内容に合わせて「生活概論」となり、
り ̶昔の人々の知恵に学ぼう̶」に加え、「自分史
Ⅱは「社会通論」と改称、平成15(2003)年に現在の
作り ̶自分のことを材料に歴史を書いてみよう̶」
「社会科概論」の名称に落ち着いている。わざわざこ
という新テーマを学生に呈示した。前者は先輩たちの
のような曲折を記したのは、現在の科目名称を見て
取り組みがレポートとして残っており、具体例を挙げ
いるだけでは、自分史作りとのつながりがすぐにイ
て学生を誘い込むことができたが、自分史の方は実例
メージし難いからである。自分史作りを取り入れた頃
がまだ何もない状態である。前述の『自分史のつくり
は、3つある社会科関係の概論の1つが筆者の担当科
方』からの抜粋を参考資料として配布し、事前に考え
目であり、しかも歴史学の内容を含むという条件も付
た自分史作りの趣旨を語った。そのような急ごしらえ
随していた。広範囲にわたる社会科関連の内容を半期
の勧誘に乗ってくる学生がよくいたものだと今になっ
15コマですべて網羅することはそもそも無理な話であ
て思うが、最初の年には4人が自分史作りに挑戦し
るが、概論は他に2科目あり、自分がカバーしきれな
た。自分史作りの指導はまだ手探り状態で、現在の授
かった部分は他の担当者がある程度補ってくれるだろ
業を考えると、その頃の指導内容は多くの部分が取り
うという気楽さと、筆者の専門である歴史関係の内容
組む学生任せであったように思う。それでも、選択者
という恵まれた事情のおかげで、「社会通論Ⅱ」と自
に恵まれて、この年の作品には後年と比べても遜色の
分史作りが結びついたのである。
無い自分史が含まれていた。自分史の場合、書く人が
では、その「社会通論Ⅱ」で自分史を書かせてみよ
書きたいことを持っていれば、それなりに書けるもの
うと思い立ったのはなぜか。これには次のような3つ
のようである。もっとも、これは自分史に指導者は不
の事情が絡んでいる。まず、この概論を担当するよう
要という意味ではない。授業として学生に取り組ませ
になって2年間、前任者から引き継いだ「モノ作り」
る以上、各人各様の個性ある歴史が書けるように配慮
に学生とともに励んでいたが、常に何か新しい自分独
しつつ、全体としては授業の目的に適合させる努力が
自のものを盛り込みたいという欲求を感じていた。そ
要求されるのは当然である。この点はまた稿を改めて
のような時、『自分史のつくり方』と題する一般向け
論じることにしたい。
の趣味・実用誌[主婦と生活社、平成元年11月刊]を
こうして4人からスタートした自分史作りである
手に入れて興味を覚えたわけである。「モノ作り」と
が、翌年が8人、3年目に23人と二桁台に乗り、その
同じように、「自分の歴史を作る」でもよいだろうと
後はだいたい20人台から40人前後の範囲で今に続いて
考えたのである。あと1つは、「授業で取り組む『自
いる。すでに述べたように、授業のテーマはモノ作り
分史』」という新聞記事で、芝浦工大柏高校(現芝浦
と2本立てとなっており、期末レポートは受講者がど
工大柏中学高等学校)教諭、矢吹浩二氏の実践と「自
ちらか希望の方を選択する。この基本方針は今も変わ
分史図書館」の話題を目にしたことである。この新聞
らない。自分史で書く内容の多くがプライバシーに関
記事は、平成3(1991)年に自分史選択者用の資料
わる事柄であり、それを授業で全員に強制する訳にも
で、前年の作例に続く「その他の自分史の例」として
いかないだろうという配慮もある。そのため、2つ
使っている。恐らく、授業で自分史作りを始めたばか
のテーマの選択者数は毎年変動し、多くの受講者がモ
りであったため目にとまったのであろう。「高校生で
ノ作りに流れる年もあれば、自分史が大半を占める年
成功している実例があるのなら、大学生にもできない
もある。グループ作業がふつうのモノ作りに対し、自
ことはないだろう」と、この記事が自分史導入を後押
分史のレポートはその性質上1人1作である。自分史
1)
ししてくれたように思う 。
が多いとその分読まなければならないレポート数も増
ともあれ、平成2年度の「社会通論Ⅱ」では、初回
え、成績評価の際に大変になる。後で報告にまとめる
−110−
計画があったわけではなく、今となっては正確な数は
場の職業人をめざしている。そのような学生から成る
把握し難いが、平成18年度までで500編を超え、平成
「人懐っこい」クラスの雰囲気が、他人の前で自分を
20年度に20人余りが取り組んでいるのを入れると550
語ることへの抵抗感を和らげていること。また、現在
編余りになる。
の開講学年である2年次は、その年度にほとんどの者
この550余りという数であるが、先述の芝浦工大柏
が20歳の誕生日・成人式を迎える時期に当たる。これ
高校の場合、昭和55(1980)年の同校開校以来の独自
を1つの区切りに、記念の成長記をまとめておこうと
の必修教科ということもあり、記事の時点で約3000人
いう意識が働くという事情が考えられる。
が自分史を書いていた。これと比べれば、550という
自分史とは何か
数はささやかなものである。ただ、学科全体の学生数
と授業の選択者数、その中での自分史選択者の数を考
えれば、10数年にわたって毎年少なくとも20名以上の
「自分史」という言葉はどのように捉えられ、使わ
学生が自分史を書き続けてきたことは、それなりに評
れてきただろうか。また、自分史作りはどのようにし
価してよいと思う。美作大学(平成14年度までは美作
て広まってきたのだろうか。本章では、自分史とは何
女子大学)は岡山県北の地方都市に所在し、生活科学
かというその発想の根幹に関わる点も含みつつ、自分
部1つの小規模な大学である。児童学科の入学定員は
史普及の背景を見ていく。
80名(平成18年度までは60名)であるが、自分史を
導入した頃は学生数が少なかった時期に当たり、平成
1.自分史の誕生と普及
2年度の3年生(授業開講の学年)は40名程度であっ
自分の歴史という意味での自分史という言葉は、
2)
た 。
古くから存在したはずである。しかし、それを歴史
昨今、人前であらたまって自分自身について語るこ
叙述の1つの方法論として意識的に提起したのは、
とに抵抗がある若者も少なくないが、そのせいで自分
色川大吉『ある昭和史̶自分史の試み』(中央公
史が敬遠されるというわけでもないようだ。また、共
論社、1975年)が最初である。エリートの歴史に
学化により平成16年度からは男子も「社会科概論」を
対する「民衆史」を模索中であった色川は、単なる
受講するようになった。しかし、これまでのところ、
全体史に対する個人の歴史ではインパクトに欠ける
実数として自分史を書いた男子学生はそれほど多くな
と考えた。主観を排し客観的記述を旨とするのが
い。ただ、児童学科における男女比と自分史選択者の
常識とされていた当時の歴史学会において、「自
変動を考えると、自分史が男女どちらかにとくに好ま
分」を全面に打ち出すことはかなり挑戦的なことで
れている(あるいは敬遠されている)ということはな
あったが、「自分の主体性」を意識し、激動の昭和
いようである。当面は自分史の選択者は無くなりそう
を生き抜いた「庶民が主人公」になり貴重な体験を
にないし、担当者が授業内容を見直してこのテーマを
書き残すという2つの意図を込めて、あえて「自分
廃止しない限り、これから先も存続していくだろう。
史」という名称を使ったと述べている 3)。これは、
授業で自分史作りをさせる目的とは別に、なぜ自分史
必ずしも色川が自分史という言葉を最初に使ったと
を書くのか、学生たちの思いは自分史作りの意義を考
いう意味ではないし、彼自身が後にこれを振り返っ
察する際にまた検討しなければならないが、さしあた
て「叙述としては失敗だった」と自己採点してい
り、受講者の性質として次の2点を指摘しておいてよ
るように、まだこの時点では、理論の実際への適
いだろう。1つには、児童学科に入ってくる学生はも
用という点で模索段階であったのかもしれない 4)。
ともと子ども(広くは人間)に興味・関心があり、多
ともあれ、色川はそれまで定まった名称のなかった
くの者が幼稚園や小学校の先生など人々を指導する立
庶民の生き様を書き記す文章運動の成果に、理論的基
−111−
礎を備えた「自分史」という用語を与え、その方法論
度の新鮮さも持ち合わせていたのであろう。後述する
に基づく実例を呈示した。こうして、歴史の専門家に
ように、自分史関係の様々な賞や団体の創設が相次ぐ
よって、無名の庶民の人生を書き記すことに価値が認
のもちょうどこの頃であり、90年代半ばは1つの画期
められ、1つの名前が与えられたことで、進むべき道
と見ることができる。
筋が見えてきたのである。それ故に、今日そう見なさ
初めて「自分史」を取り上げたのがどの辞典であっ
れているように、この分野の開拓者が色川であること
たのか確認できた訳ではないが、岩波書店『広辞苑』
は間違いないし、今に続く自分史ブームの出発点は、
の第五版(1998年)では「平凡に暮らしてきた人が、
5)
1970年代半ばと考えてよいだろう 。
自身のそれまでの生涯を書き綴ったもの。自伝。」と
「自伝」や「自叙伝」という表現はその後も使われ
記されている。「平凡に暮らしてきた人が…」と但し
続けるが、やがてより新鮮で現代風の表現として「自
書きが付いていることに留意すべきであろう。ここで
分史」を名乗る例が現れ、その言葉を目にする機会が
は、文字通りに自分の人生について自分で書くという
増えるにつれて、一般の人にもなじみのあるふつうの
ことだけでなく、ごく普通の庶民が書くという点に、
言葉になっていく。次は、このような過程を言葉の定
従来の「自伝」との違いが意識されている。同様の
着という面から検討してみよう。
ニュアンスの違いを出そうとする意識は、『岩波国語
「自分史」という用語が誕生したのは70年代であっ
辞典』第六版(2000年)にも見ることができ、語義の
たが、定着したのは比較的最近である。そのため、筆
解説の後に「従来の自叙伝よりも自由に自分の体験や
者が授業に導入した1990年頃は、時々見かける言葉に
気持ちを綴ったもの」と補足的説明がついている。
はなっていたが、まだ国語辞典には収録されていな
「従来の自叙伝よりも」と比較対象を明確にした上
かった。これと同じ頃、自分史講座の内容を本にまと
で、それより内容・形式、さらには執筆の姿勢などに
めた中里富美雄は、身近な言葉として目にするように
おいていっそう自由なものと認識されている。この他
なったのはここ10年くらいのことであり、「まだどの
に、要領よくまとめているのが、小学館『日本国語大
辞書にも入っていない新語ですが、やがて私たちの愛
辞典』第二版(2001年)である。
6)
用語になるだろうと思います」と書いている 。
「自分自身の歴史。特に、自分のこれまでの人生
この経過を代表的な辞典類に当たってみた範囲で紹
をつづり、本にまとめたものをいう。著名人の書く自
介すると、以下の通りである。例えば、三省堂『大辞
伝、自叙伝に対して、庶民の個人史という意味合いで
林』の第三版(2006年)では、「自分史」とは「自分
用いられ、昭和末期ごろからブームとなった。」
の人生をみずから書きつづった記録。自伝。」とされ
この解説は、先の『広辞苑』などと同様に「庶民の
ている。これはもともと「自伝」ないしは「自叙伝」
個人史」という自伝・自叙伝との違いを意識するとと
の項で記されていた内容であり、90年代半ばまで多く
もに、「本にまとめたもの」と「昭和末期からブーム
7)
の辞典では「自分史」の項は設けていなかった 。言
に」という2つの特徴を付記している。
葉の公的な認知という点では、平成7年度の『国民生
以上のような辞典採録の経過から見ると、自分史
活白書』(経済企画庁)が「戦後50年の自分史̶̶多
ブームは昭和から平成に移り変わる時期に本格化し、
様で豊かな生き方を求めて」という副題を付けて刊行
10年くらい経過する間にふつうの人が自分の人生につ
されたことが注目される。色川も、自らの著作集への
いて書くことが一般化するとともに、「自分史」とい
解説・解題の中で、「自分史」という言葉の定着の指
う言葉も広く知られるようになったこと、その際、ほ
標としてそのことに触れている8)。恐らく、その頃ま
ぼ「自伝」や「自叙伝」の同義語ではあるが、もう少
でには、この言葉は一般国民にとって違和感のない程
し自由で庶民的なニュアンスの伴う言葉として定着し
度に普及していたと同時に、まだ陳腐さを感じない程
てきたことがうかがえる。
−112−
それからさらに10年くらい経過した現在(2008
分量があれば、前述した辞書の説明のように、本とし
年)、言葉の使用状況はどうなっているであろうか。
て出版するのが最もオーソドックスなやり方であろ
ここでは、CiNiiの論文検索で得られたデータを利用
う。自分史がしばしば自費出版とセットで語られ、自
し、別な材料から言葉の使用歴をたどってみよう。
費出版を振興する団体が自分史を対象にした賞を設け
検索の結果、得られた該当件数は「自分史」が570件
ているのも故無しとしない10)。ただ、自分史ブームが
であったのに対し、「自伝」は2062件、「自叙伝」
始まった頃は、まだ現在ほど自費出版を引き受けてく
は660件であった。[2008年8月19日検索]この結果
れる出版社も多くなかったはずである。ワープロが普
では総数が一番少ないのが「自分史」であり、「自
及し、さらにワープロソフトで作成した原稿がそのま
伝」・「自叙伝」は通算の数が多いだけでなく、最近
ま入稿できるようになるまで、一般の人にとって「活
でもよく使われていることが判明した。
字にすること」、とりわけ本を出版することは、費用
「自伝」・「自叙伝」の該当項目の中には、「自分
と手間の点でかなり敷居が高いことであったと想像で
史」と言葉を置き換えても何ら問題ないような事例も
きる。ブーム初期の80年代には、文章を書くサークル
含まれている。その場合は、「自伝」は昔からよく使
等が刊行する同人誌やそれに類する冊子類が、経済的
われてきたなじみの言葉であるとか、短くて簡潔であ
にも文章量の点でも負担が少なく、発表の場としては
るからなど、使う人の好みで選択されていることにな
中心であったと考えられる。この部分は今回の検索対
る。しかし、多くの例は何らかの意味での有名人に関
象には含まれていない。他方、公的な性格の強い学会
わる記事であり、今でも辞書の定義にある「自分史」
誌、業界誌などにおいても、特定分野の関係者が過去
との使い分けは意識されているようだ。ちなみに、筆
を振り返る記事が掲載されることが少なくない。この
者が授業導入時に参考にした一般向け実用誌の「自分
種の記事は確実に拾われている。
史あれこれ」によれば、自分史の実物を参考に見てみ
今の話と関連して、検索結果の一覧を眺めていて
たいと思っても、自費出版している人は少なく、な
気が付いたことがある。一般に、自分史は文章を書く
かなか実物にお目にかかる機会がないものであるが、
ことから「文芸」のイメージが強い。また、自分史講
いわゆる有名人が書いた「自伝や回顧録も見方を変え
座の指導者に国語や文学関係の人が多いのも事実であ
9)
ればすべて自分史」である 。ここでは、自分史が自
る。ところが、「自分史」の検索結果では、意外にも
伝・回想録とは別の独立した新ジャンルであるかのよ
理系の技術者が書いた自分史が多い。とくに初期に目
うに書かれているのが興味深い。
立つ傾向で、80年代初めからしばしば登場する。その
また、この検索でヒットするのは雑誌の論文・記事
後は全体の数が増えて比率こそ下がっているものの、
のタイトル(含副題)である。タイトルに使うからに
今でも技術分野では「自分史」がタイトルによく使わ
は、たまたま文中で言及するのとは違い、意識してか
れている。面白いことに、「自伝」や「自叙伝」の検
必要があって「自分史」という言葉を選んでいると考
索結果ではこのような傾向は見られない11)。これには
えてよい。ただ、雑誌といっても、データベースの性
先述のデータベースの性格も関係しているはずだが、
格上、一般誌よりも学会誌、紀要類、業界専門誌の比
技術者が(趣味活動としてではなく)本業で自分の足
率が高く、発表の場という点を考慮すると偏りが予想
跡を振り返ろうとすれば、発表の場が学会誌や専門業
される。作成された自分史の一部しか拾われていない
界誌などに限られるという事情もあるようだ。
可能性があるからである。
それにしても、だれかが「自分史」という新しい言
どのように公表するかということも、執筆内容と
葉を採用しなければ、技術分野でそのような「流行」
は別に、書き上げた自分史を多くの人々に読んでもら
は生まれなかったはずである。そのことは、検索結果
う上では重要である。ある程度以上文章のまとまりと
を利用する際の注意点も想起させる。ある雑誌で「自
−113−
分史特集」が企画されると、その特集関係の記事がま
に「自分史のすすめ」的な特集である。いかにすれば
とまって該当するし、連載では特定の人の書いた記事
簡単に充実した自分史が書けるか、様々なアイデアを
が何件も登場する。これは全体数の少ない初期にはか
紹介しながら、自分史作りを勧める連載記事であるこ
なり影響がある12)。件数の多さがそのまま自分史作り
とが多い。一方、数は少ないが、自分史の方法論を真
の社会的な広がりを反映する訳ではない(とくに初期
正面から考察するものもある。それと関連するのが、
はそうである)ことに注意しなければなるまい。
③素材・手法として自分史を使った研究である。歴史
このような限界はあるものの、おおまかな普及経
に限らず幅広い分野で、個人の記録が研究材料として
過をつかむことは可能であろう。検索結果では、70年
使われるだけでなく、心理学の分野などにおいて、自
代には年に1件該当結果があるかないかという状態
分史を書かせることが手法として用いられる場合も多
であったものが、80年代には特集的なもので時折多
い14)。書く人しだいで、このように多様な自分史とそ
い年があるようになる。明らかに一段と増えるのが
の利用法があることは、自分史作りが多くの魅力と可
90年代後半からで、平成8(1996)年に20件を超えて
能性を含んでいることの証拠でもあろう。
以来、30件前後の年が続いている。今回の検索結果に
表れる範囲でいえば、次のような事情もある。平成10
2.自分史の内容と形式
(1998)年春に、野口悠紀雄『「超」自分史ガイド』
直前に述べたように、多様な自分史があり得るとい
がダイヤモンド社から出版され、それを機にしばらく
うことは、自分史の「内容の広がり」という「社会へ
自分史のすすめ的な特集が『週刊ダイヤモンド』で
の広がり」とは別の問題も提起する。
続いた。それはさらに創刊85周年記念の事業として
色川は橋本義夫の「ふだん記」運動を自分史の前
「自分史」大賞創設へとつながり、この賞は第5回ま
身・開拓者的な役割を果たしたものと見なしており、
で実施されたが、そのたびに同誌で関連記事が掲載さ
「ふだん記」は自分史的なものを含むもっと広範囲
れたこと、なによりも「超」⃝⃝法で有名な野口氏の
の概念としている。そして、「ふだん記」には「時
知名度、これら一連のできごとが一般の人々に「自分
間軸を立て、ある一貫性をもって記述した自伝に近い
史」を広める上で影響力があったと考えられる。この
もの」である「生い立ちの記」、主題毎に書かれて統
ような増加傾向は、すでに述べた言葉の定着や自分史
一性のない回想記、(詩や画文・エッセイなど)形
関係の賞・団体の登場時期とも一致している。代表的
式を問わない庶民の体験記録など、雑多な内容の文章
な自分史関係の賞を挙げると、「北九州市自分史文
を包摂していたという15)。一見すると、この説明は、
学賞」、「シニア自分史大賞」、「私の物語・日本自
色川の考えで自分史と言って良いものは「生い立ちの
分史大賞」、「日本自費出版文化賞」などがあり、最
記」であると読めそうであるが、はたしてそうであろ
近でも町おこし関連の事業として自分史コンクールが
うか。というのは、別の箇所では、自分史は「各人各
創設されている。これらのうち、森鴎外をはじめとす
様、それぞれの個性によってスタイルも論点も中身も
るゆかりの作家が多く、市立文学館も有する北九州市
違っていてよい」と断言し、「文章表現だけに狭く限
の文学賞は、筆者の授業と同じ平成2(1990)年とス
定する必要はない」とも述べているからである16)。辞
タートが早いが、他はいずれも90年代中頃の創設であ
書の定義にもあったように、一般に自分史は旧来の自
13)
る 。
伝・自叙伝に比べてより自由なものと見なされている
また、検索結果に登場する記事・論文の内容は、大
ことも想起すべきである。つまり、いかにも自伝らし
きく3つに分けることができる。①個人史としての自
い形を備えた「生い立ちの記」だけでなく、他の回想
分史。最も多いのがこれである。②自分史執筆につい
記や体験記録なども、その人の人生について書き綴っ
ての考察。大半を占める一般向けの記事では、要する
たものと見なせれば、一応自分史と考えられるのであ
−114−
る。
を書く際にそのような意図を込めることはまずないだ
他の例も挙げてみよう。中里富美雄は、厳密には自
ろう20)。それに対して、自分史は自分のことを他人に
分史は自伝・自叙伝と多少違いがあると述べている。
説明する立場で書く。そのため、自分のことをまった
つまり、自伝・自叙伝は自分史の中の1形式であり、
く知らない人が読んでも解るように説明しなければな
それに対して、自分史はもっと広く自由なもので、文
らない。その際、自分の想いや記憶だけに頼らず、で
章でなくとも自分の歴史を示すものであればよいとい
きるだけ客観的なデータを援用して書いた方が記述も
う。先にも紹介した一般向け実用誌では、自分史のつ
客観的に仕立てやすいのであるが、重要なのは、説明
くり方には決まったルールはなく、好みによりどんな
の都合上、これまで自分が関わってきた人々のことも
内容・テーマでもよいとして、幼年記、青春記、子育
書かなければならないという点である。いつも授業で
て記、趣味・スポーツ記、旅行記、半生記が例として
話すことだが、「名前は自分史だが、自分以外の人の
17)
紹介されている 。
ことも書く」ことになるのである。また、②日記はそ
このように、自分史についてはその「幅広さ」が目
の時々の記録であり、書いた時点での自分が記録され
につく状況である。橋本が唯一無二のものである「自
ている。それに対して、自分史は現在の自分が過去の
分の歴史を書くことから、庶民は文章を始めるべきで
足跡を振り返って書くものであり、今の自分が捉えた
ある」と勧め、色川が歴史と切りむすぶ主体性、すな
自分がそこに表現されている。これは「だれが」書く
わち自分と歴史の接点を書くことから「自分×史」な
のかという問題ともつながっている。ともあれ、日記
18)
のだと述べているように 、基本には「自分の歴史を
はどちらかといえば史料であり、自分史の材料になる
書く」ことが厳然とあるのだが、その書き方や語り口
ものと位置づけられる21)。
はいろいろあってよいという考えである。色川は歌に
以上のような違いを踏まえると、第一に、他人に
託しても詩で綴ってもよいと言い、中里は自分史の形
読んでもらうという前提(執筆姿勢)の有無が重要で
式として、自伝・エッセイ集・文集・日記・写真集な
ある。色川は自分史の限界に関連してこうも述べてい
19)
ど、10種類のスタイルを紹介している 。
る。自分史は個性的である方がよいとはいえ、「自己
このような許容範囲の広さが、一般の人々にとっ
流すぎて他者との共通性(他人にも理解できる要素)
て取っ付きやすさにつながると考えることもできるの
を全く欠いてしまうのも困る」のだと22)。そのため、
で、これはこれで自分史のメリットといってもよい。
あまりにも断片的すぎる記述(できごとを列挙した
ただ、自由が気楽でよいといえるのは、ある程度まで
だけの年表など)やイメージ中心の詩や画像などは、
の範囲に限られる。趣味として追究するのなら、内
そのままでは他の人が共有できる部分(接点)が少な
容も形も人それぞれの好みで決めればよいことである
くて具合が悪い。日記と並んで、写真も自分史に利用
が、授業として複数の人が取り組む場合は、評価の都
できる代表的な材料である。写真のイメージ喚起力
合から目的・手段・方法など統一しなければならない
は日記以上に強力である。自分史の準備作業で一番楽
条件もある。この点について、筆者が授業の際に使っ
しいのが、アルバムを開いて昔の写真を眺めている時
ている例でもう少し説明を続けよう。
だというのもよく聞く話である。だから、「写真アル
自分史と日記はどこが違うのだろうか。両者の間に
バムも立派な自分史」といえなくはないのであるが、
は、①執筆の姿勢と②記録の時点による性格、この2
そのままでは断片的すぎて、他人にはそれらが何の
点で違いがある。①日記はふつう自分自身のために書
写真なのか、どのようなつながりがあるのか解らない
くものであり、他人が読むことは想定されていない。
のがふつうである。1枚1枚について、いつどこで
もちろん、作家などが後々公開や出版をされることを
撮ったものか、写っているのはだれなのかなど、背景
意識して書く日記という例はあるが、一般の人が日記
説明が必要になる。つまり、写真だけでは欠落して
−115−
いる情報を補うために説明を次々に作っていくこと
限り事実に基づいた客観的な記述を心がけるべきだ」
が、そのまま自分史の叙述を作ることになるのであ
という主張である。もちろん、筆者もその通りだと考
23)
る 。やはり、他人が読む際には、話のつながりをた
えているが、だからといって、同じできごとを描いて
どれる程度の、連続性のある説明があった方がよいの
も、同じ歴史叙述にはならないことも明らかである。
である。
それは、必ずしも歴史家の未熟・過誤・怠慢・無能な
これはさらに、第二点の、自分史は現在の自分が過
どのせいで客観性が損なわれた結果、生じるわけでは
去の全体を振り返って書くものという性格とも関連し
ない。歴史には、過去のできごとなど、客観的なもの
てくる。今の自分が捉えた世界がそこに表現されると
自体としての、いわゆる「存在としての歴史」の側面
いっても、実際には全体像を一度に書き出すことは不
もある一方で、それらの事実を「どう捉えるか」、さ
可能である。ずばり1枚の絵や写真で表現することは
らに、捉えた歴史を「どう語るか」、つまり認識や表
できなくはないが、それでは他人が理解し難い。話を
現に関わる側面もある。そのような多面性を併せもっ
整理し、(説明しやすさの点で)時間の流れに沿って
た歴史を、主観と客観という二元論できれいに割り切
順々に、少しずつ話題を書き連ねていくのがふつうで
ろうというのがそもそも無理な話なのである。
あろう。つまり、その時その時の、点の記録である日
自分史の話に戻ると、同じ人の半生であったとして
記や写真などの材料は、整理し説明を補うなどの「ま
も、描く人である自分自身が歳とともに変わっていけ
とめる」作業をして、線につないでいくことで歴史叙
ば、捉えられ表現された自分の半生も違ってくるのは
述になっていく。授業のテーマとして「歴史を書いて
当然である。これは「大学生が書く」意義とも関連す
みる」と掲げているからこじつけるわけではなく、結
る問題であるが、どの年齢層の人についても共通して
局、ある程度連続性のある話の方が、書く人も読む人
いえることでもある。一般的に、その人のもつ表現力
も解りやすいのである。したがって、様々なスタイル
は歳とともに豊かになっていく。とくに文章で表現す
を許容はするが、「望ましい形式は、やはり自分の言
る場合は、語彙力や文章を書く経験が大きく影響し、
24)
葉で自伝風に書き綴ったもの」 という話に落ち着く
それとともに記述の一貫性・統一性など、完成度の差
のではないだろうか。
も生じる。さらに、その人の人間的・社会的成熟が、
世界の広がりとそこにおける自身の位置付けの違い
3.だれが、何のために書くのか
を生む。授業で、20歳の頃に書いた自分史と30歳・40
自分史について、「だれが」書くのかという問いは
歳で書く自分史とは違うから、機会があればまた自分
決して愚問ではない。書くのは自分自身と決まってい
史作りをしてみたら、と勧めているのはそのためであ
ても、その自分というのがいかなる人間なのか、それ
る。自分史は自己認識の表現である。生まれてから現
自体が問題となるからである。歴史一般についてそう
在までの半生を通して語ることは、まさに自分は「い
であるだけでなく、自分史とは自身を見つめ直す自己
かなる生まれ育ちの人間であるか」を説明しているの
認識の試みでもあるという点で、叙述者はいっそう重
であり、それはすなわち自分の「人となり」を語るこ
要な問題である。
とに他ならない。社会のできごと等に関する一般的な
今どき「真実は1つなのだから、歴史はだれが書
歴史と違って、自分史では執筆者の人柄が色濃く(悪
いても同じになるはずだ」と信じている人はどのくら
くいえば露骨に)出やすいものなのである。
いいるのだろうか。そこまで単純素朴な信仰でなくと
では、執筆者はそういう性格のものだとして、自分
も、逆に、およそ歴史を専攻する人なら、ほとんどす
史を書くのは何のためだろうか。色川は、「神は細部
べての人が同意しそうな主張もある。例えば、「歴史
に宿る」を言い換えて、どんな無名の庶民(細部)に
叙述は、主観に頼った恣意的な解釈を排して、可能な
も、その時代の真実(神)が宿っているのだから、そ
−116−
れを認識し、表現することに意味があるという。とこ
う傾向は、提出された自分史を見れば明らかである。
ろで、別な箇所で色川は、実践家・教育者としての橋
一読すれば、作者の達成感や充実感の差は歴然として
本と対比して、自分は庶民の人生記録を貴重な歴史資
いるからである。だが、授業として書かせているから
料と見る歴史研究者であると、2人の違いを述べてい
には、作者が満足していればそれでよいというわけに
る。筆者も、期末レポートとして集まった自分史の山
はいかないだろう。学生にとって自分史作りの価値と
を見ると、つい後者のような思いにかられてしまうこ
は何か、これは紙幅の関係で次回の課題としよう。
とがあるが、色川によれば、そういうことは歴史研
結局、効用はいろいろ考えられるが、それらは「後
究者の勝手な理屈にすぎない。「自分史は虚心に自分
から付いてくるもの」と考えた方がよいようである。
の人生の真実を書けばいいのであって、それが社会に
それより、自分史作りでは、まず書く人自身が興味を
とってどれほど役に立つかということを考慮する必要
持ち面白いと思って取り組むこと、これが何より大事
25)
はない」というのである 。
なことだと思う。最近読んでなるほどと思った一文を
「社会にとって」などと肩肘張らずに、「思い出
次に紹介しておこう。「意味や効用があるから歴史を
世界へ時間旅行」(野口悠紀雄『「超」自分史ガイ
書くのではない。」それは人生のようなものである。
ド』)と、軽い構えで楽しんでもよい。自分史作りに
われわれが人生の意味や効用を知って生まれてきたわ
はいくらでもその効用を見つけることができる。も
けではないし、それを知っているから生きているので
ちろん、筆者が授業の課題として書かせる場合の効用
もないように26)。
は、それなりに考えている。「社会科概論」という授
業であるから、自分史には「自分の視点や経験を軸に
4.どのように描くのか−叙述の立場・視点に
ついて
社会を捉えてみる」という理由が付けられている。だ
が、それは授業担当者の「理屈」であって、学生一人
自分史作りに何らかの意義があるのは確かだとす
一人にとって自分史を書くべき理由になるとは限らな
れば、「後から付いてくる」効用をあれこれ考える前
い。また、庶民の生活記録・人生記録として価値があ
に、まずどこかの部分を書いてみることが肝要であ
るのは確かであるが、授業のレポートとして提出され
る。その際、どのようにすれば最初の一歩を踏み出
た自分史は、成績評価が済んだらそれぞれの学生に返
しやすくなるのか、さらにその後も滞ることなく充実
却している。プライベートな内容を記した私的な著作
した内容の自分史を作っていけるのか、これらは自分
物であるから、筆者の手元に残っても困るのである。
史作りを指導する人が常に考えることであり、多く
一応、後輩たちの参考とすべく、できの良さそうな作
の「自分史のすすめ」特集や自分史マニュアル本がそ
品を選んで写真を撮って記録を残しているが、それら
れぞれ説くところである27)。筆者の場合も、長年「社
は一部に過ぎない。書いた学生にしても、それに手
会科概論」の授業で意図する自分史を書いてもらうた
を加えて後で印刷出版したという話は聞かない。とい
めの工夫をこらしてきた。実は文章表現を主にする場
うことは、20年近く自分史作りを続けてきながら、毎
合、叙述の問題は自分史の大半を占める本文の書き方
年、貴重な歴史資料を散逸させているといえなくもな
の指導に直結するのだが、それについては次回の報告
いのである。その一方で、筆者が期末レポートとして
で扱うこととして、ここでは自分史の理念に関して叙
自分史を読む際に、社会的価値という観点から評価を
述の立場・視点に関する議論を片付けておこう。
しているわけではないのも事実である。むしろ、「虚
自分史は「自分でつくる、人生のドキュメンタリー
心に」書かれて飾り気のない、その人らしさが素直に
ドラマ」。筆者が参考にした雑誌の、「自分史とは何
出た自分史が読んでいて好ましい。当然予想できるこ
か」という章の小見出しである28)。これに比べると、
とだが、真剣に取り組んだ者ほど得るものも多いとい
それに続く「自分史は1冊の立派な草の根の民衆史と
−117−
なりえるものです」などといった解説文は、どこか
る29)。
らか借りてきたような表現で説教臭い。それはともか
一方、人は楽しいことはよく覚えているし、その
く、「ドキュメンタリードラマ」というのはイメージ
時は辛く苦しかったことも、時間が経てば懐かしい思
的によく分かる表現である。では、自分がVTRカメラ
い出になったりするものである。いわゆる記憶の浄化
のような記録装置になったつもりで、ひたすら事実関
作用は、それはそれで活用すればよいという主張があ
係を書き出していけば、自然にドキュメンタリードラ
る。現実社会で使用する履歴書を改ざんしては問題
マができ上がるのだろうか。ことはそのように単純で
であるが、自分の頭の中で「美化されたノスタルジア
はない。
の世界に遊ぶ」のであれば、その人の自由である。事
第一に、叙述の素材となるデータの性質が問題で
実関係に手を加えなくても、事実に対する評価をプ
ある。庶民の場合、有名人と違って、親がつけていた
ラスに修正する手もある。これらを積極的に活用すれ
育児日誌などを除けば、ふつうは他人が自分について
ば一種の自己カウンセリングにもなるというのであ
の詳しい記録をまとめてくれているなどということは
る30)。
ないものである。もちろん、写真、手紙、母子手帳、
このように、多くを当事者の記憶に頼る点につい
通信簿、昔自分が書いた絵や作文、テストや連絡帳な
てはメリット・デメリット両面の見方がある。とはい
ど、様々な記録物が保存されていて、自分史でも客観
え、叙述の厳密さや精確さにこだわるのは歴史研究者
的なデータは利用できなくはない。だが、多くの場
の場合であって、一般の人が初めて自分史を書いてみ
合、それらは断片的で未整理のままである。長期にわ
ようという場合には、むしろそれを気にしすぎない
たって日記を書き続けてきた人以外は、自分の昔のこ
方がうまくいくことが多いようである。もちろん、ド
とについて知る上で一番頼りになるのはやはり本人の
キュメンタリーであるから、改ざんや意図的な脚色は
記憶である。自分で覚えている部分が少ない幼少期に
しないのが基本原則である。ただ、それは「虚心に真
ついては親兄弟などの年長者に尋ねることになるが、
実を語る姿勢を意識する」という程度でよいのではな
その場合もだれかの記憶が頼りである。ここで記憶の
いだろうか。
性質をあれこれ議論している余裕はないが、VTRのよ
データの客観性が議論になるのは、しばしばデー
うな均質で一定不変の記録と同じでないことは確かで
タの記録と保存(記憶)装置を、ドラマの編集者(と
あろう。それを限界と取るか、積極的に活用するか、
同時に主演者)自身が兼ねているためであるが、この
見解は分かれる。
話はさらにカメラの視点はどこにあるべきなのかとい
記憶はしばしば曖昧で時には変容するものである
う議論に発展する。同時代を対象としたドキュメンタ
が、ここでの議論に関わるのは、叙述のために記憶を
リーであっても、取材と編集の過程は時間的にも空間
呼び起こして使おうとする時の問題である。色川は、
的にもズレがある。自分史の場合、できごとと叙述の
現在の位置から過去を振り返る回顧的な方法につい
場の間には、近況であっても2・3年、昔の話なら若
て、「人は自らの過去の経験を現在の価値意識によっ
い人で数年、年配の人なら数十年の隔たりがあること
て選別したり、『時のフィルター』にかけて取捨した
になる。では、ドラマを写すカメラは、人生の各時点
りするものだ」という問題点を挙げている。実は、自
である歴史の現場か、それともドキュメンタリー制作
分の過去をありのまま正直に書くのは案外難しいこ
の場である現在か、どちらにあるように叙述するのが
とで、自分に都合の悪いことは書きたくないというの
よいのだろうか。
はよくある話である。色川は「とくに他者との特殊な
この点は、色川が初めて自覚的な同時代史のため
関係を書く場合には、ペンを折ったり空白にしたりす
の自分史に挑戦した時にも悩んだことであり、後に2
る例が多い」と指摘し、そこに自分史の限界を見てい
つの立場・視点を無自覚に混用したため区別が曖昧に
−118−
なったと反省している31)。すなわち、叙述の方法とし
らも自分史作りを授業に取り入れて間もない頃に出版
ては、①追体験的方法と②省察的な方法があり、①は
されたものである。当時、それらを授業の参考用に入
「かつて自分が体験したその状況に身を置いて…その
手したことは明らかであるが、なぜかこれまでじっく
渦中の人として自己を描く」のに対し、②は「今自
りと読んだことがなかった。とくに、後者は文章表現
分が立っている現在の位置から、かつての時代の枠
など具体的な指導に使える話がたくさん入っているの
に縛られていた自分の行動と思想とを反省的に観察す
に、あまり活用した記憶がない。むしろ、自分史作り
る。」色川は、②は過剰な主観の抑制や自己相対化の
の開始後は、授業での学生たちの反応を手がかりに、
認識を深めるために補助的に使うべきで、十分に抑制
試行錯誤で積み上げた自己流指導でやってきた。
の効いた①が叙述の基本だとしている。2つの方法に
ところが、書架で背表紙だけ眺める状態になって
はそれぞれ欠点というか注意すべき点があるのだが、
いた両書を久しぶりに取り出して読んでみると、なん
②の現在からの回顧的手法は、超越的視点にとらわれ
とも平凡な結果が見えてきたのである。つまり、表面
て「上から見下ろす」危険があるというのである。こ
上の形こそ自分独自ではあるが、筆者が悩みながらい
れは個人史を描きながらも常に全体史を意識する、歴
ろいろ工夫してきたと思っていたことは、そのほと
史家ならではの懸念であろうが、はたして大学生に
んどがすでに先達が悩み工夫してきたことだったので
そのような超越的な視点があるだろうか。確かに、②
ある。その意味では十数年も遠回りをしたことになる
を強調すると過去を恣意的に再編してしまう危険性は
が、この間の経験があるからこそ理解でき気が付く
あるが、筆者はむしろ、②の立場・視点を取り入れる
ことができた箇所も少なくない。20年近い勉強のおか
ことが(色川も認めるように)自己相対化・客観化の
げで、偉大な先輩たちの言葉に共感できる部分が少し
きっかけになるとも考えている。ただし、ドキュメン
だけ見えるようになってきたわけである。次の報告で
タリーとしては①の方法による叙述が中心になるはず
は、それらを生かしながら、自分史作りの指導と学生
であり、歴史の現場に身を置き、ありのままの姿を伝
たちの反応についてまとめていくことにしたい。
える叙述法を主とすべきであるということに異論はな
註
い。
1)あいにく、新聞記事は切り抜きの現物が行方不明で、日
おわりに
付部分の入っていないコピーが手元に残っているだけで
あるが、内容と前後の経緯から平成 2 または 3(1990
メインタイトルの「大学生に書かせる試み」とい
∼ 91)年の前半に『朝日新聞』に掲載されたものと推察
う割には、経過報告や背景に属する話が多くなってし
される。矢吹氏に問い合わせたところ、氏自身はすでに
まった。とくに、前半部はそうである。授業での指導
担当ではないが、同校での自分史の制作は今も続いてい
など具体的で面白そうな話は次稿に先送りした部分が
多いので、ますますその印象が強くなっただろう。し
るとのことであった。
2)受講者の数もその時々の事情でかなり変動がある。平成
かし、90年代以降の自分史の普及・定着という文脈の
中で自分史作りを振り返ることが、今回の目標だった
という事情もある。
また、筆者にとっては、今回改めて「自分史とは
2 年度 17 名、平成 3 年度 25 名であったのが、小学校
免許の資格取得の履修要件が変更されたため、平成 4
年度からは当該学年のほぼ全員が受講するようになり
80 人前後の時期が続いた(平成 10 年度は最多の 50 人が
自分史を執筆)。平成 15 年度からは児童学科で保育士資
何か」という基本的なイメージをたどり直したことで
格が取得可能になったことで、全体に取得希望の資格と
見えてきた収穫もある。本稿でたびたび引用した色川
受講科目の分散化が進行。また、「社会科概論」への名
大吉『自分史』と中里富美雄『自分史入門』は、どち
称変更で小学校関係という位置付けが明確になったこと
−119−
で、保育士希望者がほとんど取らなくなり、受講者は減
である日本自分史文学館を平成4
(1992)年に開設。また、
少傾向にある。平成 20 年度は 48 名。
「日本自費出版文化賞」(平成9年創設)は色川大吉が審
3)色川大吉『自分史―その理念と試み』講談社、1992 年、
15; 245 頁。
査委員の1人である。他の賞は前掲
(10)のサイトを参照。
14)社会学では調査手法の 1 つとしてライフ・ヒストリー
(生
4)同書、15-16 頁。
活史)法があり、生活記録の 1 つとして自分史が利用
5)後述のように、
色川は橋本義夫の「ふだん記」を「自分史」
される。詳しくは、谷富夫編『ライフ・ヒストリーを学
の前身と評価しており、彼が橋本の業績を紹介したこと
ぶ人のために』世界思想社、1996 年(新版;2008 年刊
が「庶民の文章運動の一つとしての自分史を流行させる
行予定)を参照。
ことになった」と述べている。色川大吉『自分史』15 頁。
6)中里富美雄『自分史入門』東京書籍、1991 年、20-24 頁。
『自分史のつくり方』(主婦と生活社)10 頁。
15)色川大吉『自分史』17 頁。
16)同書、37; 247 頁。
17)中里富美雄、前掲書、20-24 頁。『自分史のつくり方』(主
7)小学館『言泉』初版(1986 年)
;講談社『日本語大辞典』
婦と生活社)36-37 頁。
初版(1988 年)『大辞林』初版(1989 年)
;岩波書店『広
18)色川大吉『自分史』17; 24 頁。
辞苑』第四版(1991 年)
;角川書店『大字源』初版(1992
19)同書、37 頁。中里富美雄、前掲書、64-98 頁。
年)
;講談社『新大字典』初版(1993 年)など。
20)例外を挙げだすときりがないが、日記的な文をネットで
8)色川大吉『常民文化論 色川大吉著作集第3巻』筑摩書房、
公開するブログについては、また別に議論する必要があ
1996 年、507 頁。
る。
9)例えば、黒柳徹子の『窓際のトットちゃん』は小説風に
21)この違いは日記形式で自分史を書くこととは別の話であ
まとめた自分史である等々。作家・タレントなどの文化
る。例えば、
『自分史のつくり方』
(主婦と生活社)
26-27 頁、
人、スポーツ選手、政治家、実業家など、多くの有名人
「書簡集や日記も自分史になる」を参照。
の回想本が紹介されているが、
「自分史」という語を題
22)色川大吉『自分史』39 頁。
に使っている本は1つもない。
『自分史のつくり方』
(主
23)『自分史のつくり方』(主婦と生活社)19; 25 頁。
婦と生活社)26-28 頁。
24)中里富美雄、前掲書、24 頁。
10)自費出版ネットワーク主催の「日本自費出版文化賞」な
ど。現在、各地で開催されている自分史コンクールの公
25)色川大吉『自分史』18; 246 頁。
26)升味準之輔『なぜ歴史が書けるのか』千倉書房、2008 年、
募情報は、日本自分史普及協会の HP(http://www.csc-21.
com/newpage11.html)で参照できる。
308 頁。
27)すでに引用した中里富美雄『自分史入門』などの他、色
11)最初の事例 :『農業技術』36–(1∼6)
(1981/01 ∼ 06)の
川が紹介する、橋本義夫『だれもが書ける文章』講談社、
児玉賀典「農業経営覚書 試験研究機関での自分史」と題
1978 年 ; 鈴木政子
『自分史・それぞれの書き方とまとめ方』
する連載もの6編。また、80 年代の掲載誌は他に『技術
日本エディタースクール出版部、1986 年の2著も、早い
と人間』、『金属』、『計測と制御』
、
『建設機械』がある。
時期の自分史マニュアルの代表である(『自分史』18-36
12)一例として、昭和 57(1982)年の該当件数はその前後と
頁。)また、質問に答えて必要事項を書き込んでいけば
比べて突出して多いが、61 件のうち 59 件は、
『計測と制
自分史ができ上がるという手軽な記入式本も何種類か出
御』
(計測自動制御学会)に連載された学会創立 20 周年
版されている。野口悠紀雄『「超」自分史ガイド』も後
記念企画の記事で、会員である各技術者が 20 年を振り
半の第2部は「私の記録」という記入欄である。
返った「計測と制御に関する自分史」である。他にも、
28)『自分史のつくり方』(主婦と生活社)18-19 頁。
データベースへの登録の進捗状況に左右される部分もあ
29)色川大吉『自分史』40-41 頁。
る。この種のデータは常に変動するものであり、利用に
30)野口悠紀雄、前掲書、1-3; 19-20 頁。
あたってはあくまで検索時点での結果と心得るべきであ
31)色川大吉『自分史』15-16 頁。
ろう。
13)
「私の物語・日本自分史大賞」
(平成8年創設)は日本自
分史学会主催で、同会の土橋寿会長は自分史専門図書館
−120−
美作大学・美作大学短期大学部紀要
二〇〇九,第五十四号
一∼九
史料紹介
定試験、若しくは師範学校程度に準じ、公、私学であるかを問わず、独
立せられ、また小、中、
︵高等︶女学校等に付設される、あるいは正規
の教育課程のうちに含まれる等、多様な形態により、明治三十年前後か
ら全国的にも頻見された郡市立准教員養成所、後年には私学による実践
をも取り込みながら、専ら小学校教員の供給を目的として設置された教
員養成機関を指す。
そこでは、県の指導、監督のもと、数ケ月から数年の修業期間により、
一方で教職歴、あるいは教員養成歴を問わず、一定の学歴を備える者を
教員社会に誘導し、新規に免許状の取得が、他方で学歴を問わず、現職
私立有漢教員養成所学則︵その一︶
An introduction to historical documents : rules and
教員及び有資格者に研修の機会を提供し、上位免許状の取得が期待され
立岡山女子教員養成所︵現清心女子高等学校︶
、真庭教員養成所、生石
報告者の調査により、現時点でもこれ以外に、私立養浩教員養成所、私
﹃岡山県教育史﹄下巻においては、有漢保姆養成所を例外
ところで、
︶ し か し、
として含みながらも、二十六の養成所が紹介されている ︵2。
員社会への確保が図られた。
検定との極めて緊密な関係のもと、円滑な免許状の取得と共に、その教
た。そして、修了者には、検定試験受験に係る特典が付与され、養成と
regulations of Ukan Private Institute of Teacher Training (1)
遠
藤
健
治
キーワード 教員養成、尋常小学校准教員、岡山県、私立有漢教員養成所
一、小論の目的
教員養成所︵現おかやま山陽高等学校︶
、香登教員養成所の五養成所の
。また、非常設の形態をもって設置された郡市立
准教員養成所を含めると、更に多くを数えるものと推測される。かくし
︵3︶
︶
禎男氏所蔵である岡山県上房郡私立有漢教員養成所編、
﹃沿革史﹄ ︵1、
て、今後、岡山県下に展開された養成所の全貌を明らかにするには、継
所在が確認された
発行年不明︵大正五年頃と推測される︶
、七ページから十一ページに掲
続的な調査が必要である。
小論においては、岡山県下に展開された小学校教員養成所のうち私立
有漢教員養成所を取り上げ、元有漢町教育委員会社会教育指導員 蛭田
載される﹁私立有漢准教員養成所学則﹂を紹介し、その閲覧の機会を、
に相跨がる視点に立ち、師範学校といった公学の一方で、養成所の多く
広く世に供することを目的としている。
ここでの小学校教員養成所は、
﹁訓令第八十五号︵明治三十四年十一
月六日 ︶
﹂による﹁郡市立准教員養成所ニ関スル規程﹂
、
﹁ 県令第二十七
が私学であったことに鑑み、それによる教員の養成と輩出とに係る実相
そして、こうした研究は、近年の教員養成史研究における﹁教員養成
︶ 両者
ルート﹂と﹁教員輩出ルート﹂の解明とによる進展を踏まえ ︵4、
号︵明治三十七年三月二十六日︶
﹂による﹁小学校教員養成所規程﹂
、再
の解明へと繋がるものと思われる。
もっとも、現存する関連史料は僅少で、尚且つそれは極めて稀にしか
閲覧に供されていない。小論で取り上げる﹁学則﹂に限るならば、真庭
度﹁小学校教員養成所規程﹂の名称のもと、両者を統合した﹁県令第七
号︵明治四十一年一月二十三日︶
﹂
、更にそれを発展的に改めた﹁県令第
五十八号︵大正十一年八月二十二日︶
﹂により、免許状取得のための検
−1−
報
告
・
資
料
︵現興譲館高等学校︶
、私立岡山実科女学校教員養成所︵現就実高等学校︶
郡立准教員養成所、阿哲郡立准教員養成所、私学興譲館附属教員養成部
年、定員を五〇名に改定
一 〇 〇 名、 女 子 准 教 員 養 成 所 修 業 期 間 を 一 ケ
有漢村費補助開始
女子准教員養成所、女学校別科に分離
。ただし、調査の過程で、個人や後継
上房郡費補助開始
︵5︶
学校、あるいは国立公文書館等に所蔵されている関連史料も確認され
女子准教員養成所、女学校から独立
に係るそれらに止まっている
︶ してみれば、そうした史料の発掘はもとより、その公開も相俟っ
た ︵6。
明治四十二年四月
ケ年、定員八十名︶
小学校裁縫専科正教員養成所開校︵修業期間二
て、小学校教員養成所研究は更なる発展の可能性を秘めていると言えよ
う。
大正二年四月
男子准教員養成所定員を二〇〇名、女子准教員
養成所定員を一〇〇名に改定
そこで、小論においては、その端緒として﹁私立有漢准教員養成所学
則﹂を紹介する。それにより、岡山県に展開された養成所を通し、県下
教員養成の実際、延いては戦前の日本における小学校教育達成の一端を
女子寄宿舎建設
四月
一二〇名に改定
女子尋常小学校本科正教員養成所定員を
男子寄宿舎建設
岡山県費補助開始
女子寄宿舎建設
八十名︶
女 子 尋 常 小 学 校 本 科 正 教 員 養 成 所 開 校︵ 定 員
に改定
小学校裁縫専科正教員養成所定員を一〇〇名
女子寄宿舎建設
文部省より財団法人有漢教員養成所として認可
明らかにすべく、その手掛かりを供することを目的としている。
大正四年六月
そして、そこには、過去の教員養成制度を検討し、現在の、その問題 に係る解決の糸口を探るといった現代的な問題意識も込められている。
大正六年四月
大正八年四月
二、私立有漢教員養成所の沿革
私立有漢教員養成所は、明治三十七年七月に男女准教員養成所の開校 大正十一年四月
以降、大正二年四月には小学校裁縫専科正教員養成所、大正十一年四月
には女子尋常小学校本科正教員養成所、大正十三年四月には高梁に男子 九月
大正十二年四月
小学校本科正教員養成所、そして大正十四年四月には女子小学校本科正
大正十三年三月
教員養成所が設けられ、大正末期に最盛期を迎えたものの、昭和三年三
。
男子小学校本科正教員養成所、高梁に開校︵定
有漢教員養成所閉校
昭和三年三月
さて、私立有漢教員養成所は、日露戦争出兵に伴う教員不足を背景に、
裁縫学校、農業補習学校といった男女中等教育機関の拡充と、それらを
名︶
女 子 小 学 校 本 科 正 教 員 養 成 所 開 校︵ 定 員 五 十
男子准教員養成所、女子准教員養成所開校︵男
︵7︶
月、高梁所在の男子小学校本科正教員養成所を除く、何れもが閉校した。
明治三十七年七月
大正十四年四月
員五十名︶
男 子 准 教 員 養 成 所 修 業 期 間 を 一 ケ 年、 定 員 を
右に伴い定員を五十名に改定
業補習学校は閉校
男子准教員養成所、農業補習学校から独立、農
有漢女学校に併設︶
︵修業期間九ケ月︶
子養成所は有漢農業補習学校に、女子養成所は
その沿革は次の通りである
明治三十九年四月
明治四十年四月
−2−
併設する近代的校舎を持つ有漢尋常高等小学校建設に象徴される﹁文化
の四種に亘り、設置可能な養成所の総てが揃って開校されたことからも
学校裁縫専科正教員、尋常小学校本科正教員、小学校本科正教員養成所
︵8︶
。
︵ ︶
︶ しといった独自の文化が生み出された。また、女子の
﹂
そして、こうした女子の多さからも、自宅通学以外は寄宿制が取られ
︵男子は当初自宅、または下宿︶
、
﹁和煦タル春風ノヨク、嫩芽ヲ萌生セ
明らかである
、農業補習学校の不振を直接
的な村づくり﹂が推し進められるなか
。
︵9︶
の契機に、その生徒募集のため構想された。かくなる経緯は、次のよう
に触れられている
明治三十五年七月一日、有漢農業補習学校ヲ設置セシモ、生徒僅少
︵
みならず男子も含め、文武会と称し、
﹁本所教養ノ趣旨ヲ体シ、其足ラ
シムルガ如
其翌三十七年三月第一回ノ卒業生、男僅ニ二名、第一学年修了ノモ
︶ する、生徒と職員、同窓生を加えた現在の部活動に
﹂
教育科ヲ加設シ、新ニ准教員養成所ヲ併置セントシ、有力者県会議
る。
相当する活動も、そこから醸成された文化のひとつに挙げることができ
立者トシテ設置認可ヲ申請シ、同年七月一日認可、同年七月十一日
授業ヲ開始ス、
︵
︶ ま た 卒 業 後 も、
、
﹁卒業生三千ノ内、教
17
ツヽアリ
︵ ︶
﹂と報ぜられたことからも窺われる。
朝鮮コレニ次ギ、ソノ他卒業生原籍地タル各府県、北海道、満州、支那
︶ と、女子教員の養成、とりわけ裁縫教員養成への舵取りが功を
﹂
ずにいた。ただし、
﹁裁縫専科正教員部、女子尋常本科正教員部、及ビ
︵
等、各地ニ散点碁布シテ、各其職責ヲ全ウシ、国家教育ノタメニ尽瘁シ
員就職ハ一千二百人ニシテ、岡山県下在勤者最モ多ク、兵庫、広島、台湾、
た海外からも入学者を集め
を中心に、近畿、北陸、更には北海道、沖縄県、果ては台湾、朝鮮といっ
このような養成所の隆盛は、上房郡等は勿論のこと、各種教員養成機
員佐藤晋一ニ計リシニ、大ニ其挙ヲ賛シ、同年六月、佐藤晋一ヲ設
関が林立した岡山市を始め県内各所から、それに止まらず中四国、九州
治郎、上房郡視学真野猪惣太ト相謀リ、生徒募集ノ策トシテ、更ニ
︵
サル所ヲ裨益
15
ノ男四名ナリキ、斯ク微々トシテ振ハザルヲ以テ、時ノ校長片山泰
ニシテ、翌三十六年三月、第一学年ヲ修業セルモ︵ノ ︶
、男十五名、
14
16
女子小学校本科正教員部ヲ相次ツイデ開校スルト共ニ、逐次志望者激増
シ
18
高まりを受けながらも、
﹁良教師に乏ぼしく、而も此等教員養成の機関
︵
︶ と、女子教育を担う教員が不足し、そのための
﹂
未だ備はらず、県下各郡を通じて尤も困難を感ぜるは、裁縫専科正教員
有資格者の得難き
三、史料の解説
19
︵
︶ そのため、そこから派生する女子教育への意識の高さは、養成
。
学校本科正教員養成所に止められたのに対し、女子のそれは准教員、小
所に限ってみても、男子のそれが准教員養成所と、高梁に設けられた小
た
ところで、有漢は県中西部の中心である高梁に近隣し、明治以降いち
早く西洋文化が流入し、とりわけキリスト教文化の影響も少なくなかっ
在したことによる。
﹁私立有漢准教員養成所学則﹂は、
﹁四十年四月一日開所ニ際シ、学令
養成機関が未発達でもあり、なかでも裁縫専科正教員への強い需要が存
︶ する必要に迫られ制定された。それは、
改正ニ伴ヒ学則ヲ改正 ︵ ﹂
﹁総
12
ところで、既に県からは、養成所に係る規程として、前述のように﹁訓
令第八十五号﹂﹁県令第二十七号﹂
が発せられていた。しかし、
右にある
﹁学
び四書式から構成された。
業料﹂
﹁寄宿舎﹂
﹁入学及退学﹂
﹁褒賞及懲戒﹂
﹁職員﹂の九章二十七条及
則﹂
﹁修業年限、
学年、
学期、
休業日﹂
﹁学科課程及教授時数﹂
﹁成績考査﹂
﹁授
20
−3−
?
もっとも、こうして開校された養成所であったが、当初、
﹁志願者ハ、
︶ と、期待通りの成果を収められ
殆ンド村内及ビ隣村ニ限ラレタリ ︵ ﹂
10
奏し、養成所は発展を遂げた。これは、折からの女子教育に係る気運の
しかし、高梁への全面的な移転をきっかけとして、養成所は二十四年
︶
間の歴史に幕を閉じた ︵ 。
11
13
史科に四時間、理科に二時間、図画科に二時間、唱歌科に三時間、体操
そして、第二十条第五号表により、標準教授時数として、修身科に二
時間、教育科に四時間、国語科に六時間、算術科に四時間、地理科、歴
令改正﹂は、その近似性から、むしろ本則より後に制定される﹁県令第
次ニ定ムル所ニ依ルヘシ、
⋮
七号﹂が該当したと考えられる。
︶
先ず、
﹁県令第七号﹂第三条を引用するならば、次の通りである ︵ 。
⋮
三、尋常小学校准教員 一箇年
第十八条
尋常小学校准教員養成所ノ学科目及其ノ程度ハ、小学校
令施行規則第百十二条ノ規定ニ依ルヘシ、
第三条
学則中ニ定ムヘキ事項、凡ソ左ノ如シ、
一、養成セントスル教員ノ種別、及定員
一、修業年限、学年、学期、休業日ニ関スル事項
一、学科課程、教授時数等ニ関スル事項
一、授業料、入学料ニ関スル事項
一、寄宿舎ニ関スル事項
科に三時間、裁縫科︵女子︶に三時間の計三十時間︵女子は三十三時間︶
一、生徒ノ入退学、及懲戒ニ関スル事項
︶
一、職員ノ服務ニ関スル事項
を配するよう例示されていた ︵ 。
一、其他、必要ナル事項
こうして本則においては、その構成を始め、定員、入学者の条件、修
﹁県令第七号﹂による八事項と、独自に﹁成績考査﹂ 業期間、養成科目及び程度、教授時数等の具体的内容に至るまで、最早、
こうして本則は、
を加え構成された。更に、後述するように定員、入学者の条件、修業期
養成所の裁量が発揮される余地はなく、
﹁県令第七号﹂を通し、県の教
間、養成科目及び程度、教授時数等、養成に係る具体的な内容も、
﹁県
令第七号﹂によるそれらがほぼそのまま受入れられた。してみれば、予
め改正内容が養成所へ指令、指示され、それに準拠し、前もって学則が
四、史料の紹介
員養成に係る意向がほぼそのまま反映された。
23
改められたのであろう。
私立有漢准教員養成所学則
﹁県令第七号﹂における関連各条を引用するならば、次の通
●第一章 総則
そこで、
︶
りである ︵ 。
第一条
本所ハ私立有漢准教員養成所ト称ス
シ、
第 十 二 条
尋 常 小 学 校 准 教 員 養 成 所 ニ 入 学 ヲ 許 可 ス ヘ キ モ ノ ハ、 高等小学校︵修業年限 旧令四箇年 ︶ヲ卒業シタルモノタルヘシ、
新令二箇年
第 十 四 条
小 学 校 教 員 養 成 所 ノ 修 業 期 間 ハ、 各 其 ノ 目 的 ニ 随 ヒ、
タルベシ
二、高等小学校︵修業年限旧令四ケ年、新令二ケ年︶ヲ卒業シタ
ルモノタルベシ
−4−
21
第六条 小学校教員養成所ニ於テハ、一学級ノ人員、⋮准教員ニア 第二条
本所ハ尋常小学校准教員ヲ養成スルヲ以テ目的トス
第三条 本所ノ事務及ビ教授ハ岡山県上房郡有漢尋常高等小学校内
リテハ五十名ヲ超ユルコトヲ得ス、
ニ於テ之ヲ行フ
第九条
小学校教員養成所ニ入学ヲ許可スヘキモノハ、身体健全、
品行方正ニシテ、第十条乃至第十三条ノ学力ヲ有スルモノタルヘ 第四条
生徒定員ヲ百名トス
第五条
入学健志望者ハ左ノ資格ヲ具フルヲ要ス
一、身体建全品行方正ニシテ小学校教員トナル志望確実ナルモノ
22
績
第十四条 病気又ハ止ムヲ得ザル事故ニ依リテ卒業試験ヲ受クルコ
ト能ハザルモノハ平素ノ成績ヲ考査シ追試験ヲ行フ事アルベシ
第十三条
卒業ノ成績ヲ考査スルニハ該試験評点ノ二倍ニ各学期末
成績ノ評点ヲ加へ五除シテ之ヲ定ム
第十二条
学期末ノ試験ヲ考査スルニハ該試験ノ評点ニ日課点ヲ以
テ評点ニ代フルコトアルベシ
所修ノ学業ニ就キテ試問スルモノトス
第十一条
試験ヲ分チテ学期末試験卒業試験ノ二種トシ学期末試験
ニ於テハ其期間所修ノ学業ニ就キテ試問シ卒業試験ニハ学年間
●第四章
成積考査
●第二章
修業年限学年学期休業日
第十条
第六条 修業年限ハ一ケ年トス
成績ヲ考査スルニハ日課点並ニ試験ノ成績ニ拠ル
但シ百
点ヲ以テ定点トス
第七条
学年ハ四月一日ニ始リ翌年三月三十一日ニ終ル之ヲ左ノ三
学期ニ分ツ
第一学期四月一日ヨリ七月三十一日ニ至ル
第二学期八月一日ヨリ十二月三十一日ニ至ル
第三学期翌年一月一日ヨリ三月三十一日ニ至ル
第八条
休業日ヲ定ムル事左ノ如シ
一、祝日
大祭日
二、日曜日
三、夏期休業日八月一日ヨリ同三十一日ニ至ル
六
四
二
整数、諸等数、小数、分数、比例、歩合算
講読、作文、習字
教授法ノ大要
道徳ノ要旨
第二十条
本所職員ハ寄宿生徒ヲ監督ス
●第七章 入学及退学
第二十一条
入学志願者ハ第二号書式ノ入学願書ニ第三号書式ノ履
歴書ヲ添へ所属町村長ノ証明ヲ得テ本所長ニ提出スベシ
●第六章 寄宿舎
第十九条
生徒ハ本所指定ノ寄宿舎又ハ公認下宿ニ入ルベシ但シ特
ニ許可シタルモノハ此限ニアラズ
第十八条
授業料ハ出席日数ノ如何ニ係ラズ徴収ス但シ学校ノ休業
又ハ停学全月ニ渉リタルトキハ之ヲ徴収セズ
●第五章
授業料
第十七条 授業料ハ一ケ月金一円トシ毎月五日以内ニ其月分ヲ納付
スベシ
第十五条 各学年ノ評点四十点以上通約平均六十点以上ニシテ操行
尋常以上ノモノヲ合格トス
四、冬期休業日十二月二十五日ヨリ翌年一月七日ニ至ル
五、学年末休業日七日間
●第三章
学科課程及教授時数
第十六条
所長ニ於テ卒業セリト認メタルモノニハ第一号書式ノ卒
業証書ヲ授与ス
但シ卒業ヲ認定スルニハ出席日数ヲ参照ス
四
課
程
四
自在画
博物、物理、化学ノ初歩
二
単音唱歌及楽器使用法
日本歴史ノ大要
日本地理及外国地理ノ大要
二
普通体操及兵式体操、遊戯
三〇
三
三
毎週教
授時数
第九条
学科課程及毎週教授時数左ノ如シ
学科課程表
学科目
修
身
教 育
国
語
算 術
歴
史
地 理
理
科
図 画
唱
歌
体
操
計
第二十二条
入学ノ許可ヲ得タルモノハ父兄又ハ後見人ヲ以テ保証
−5−
第一号︵用紙鳥ノ子︶
人ト定メ第四号書式ノ在学証書ヲ差出スベシ
第二十三条
入学志願者ノ数本所定員ヲ超過スルトキハ選抜試験ヲ
卒 業 証 書
行フ
族
籍
第二十四条
入学ノ上ハ妄リニ半途退学ヲ許サズ但シ止ムヲ得ザル
所印
氏
名
事故アルトキハ事実ヲ詳具シ保証人連署ニテ本所長ニ願出スベ
生年月日
右者本所所定ノ教科ヲ履修シ其業ヲ了ヘタリ
シ
仍而茲ニ之ヲ証ス
●第八章
褒賞及懲戒
年 月 日
岡山県上房郡
割印
私立有漢准教員養成所長
氏名
第二十五条
操行学業共ニ優等ナルモノ若クハ特ニ善良ナル行為ア
リテ他生徒ノ模範トナルベキ者ハ之ヲ褒賞ス
第二十六条 本所ノ規則ヲ犯シ訓誨ニ服セズ其他生徒タルノ本分ヲ
−6−
前書出願ニ付調査候処族籍氏名生年月日等相違
無之小学校令施行規則第百四条ノ各号ニ該当セ
ズ且教員タルニ不都合ノ行為ナキ者タルコトヲ証
明候也
年
月
日
郡町村長
氏
名
汚シタルモノハ左ノ各号ニ依リ懲戒ス
第何号
一、戒飭
第二号︵用紙半紙︶
二、謹慎
三、停学
入
学
願
原 籍 県郡町村大字地番
四、退学
現住所
県郡町村大字地番
●第九章
職員
族
籍
第二十七条
職員ハ教育ニ関スル勅語ノ趣旨ヲ奉体シ誠実ニ其職務
氏
名
ニ服スベシ
生年月日
右貴所へ入学仕度入学ノ上ハ御規則堅ク相守リ
第二十八条
所長ハ所務ヲ整理シ所属職員ヲ統督ス
申ベクニ付御許可相成度別紙関係書類相添へ此
第二十九条
職員ハ所長ノ指揮ニ従ヒ教授ヲ担任シ且之ニ属スル業
務ヲ掌ルベシ
段相願候也
右
年
月
日
氏
名
㊞
岡山県上房郡私立有漢准教員養成所長氏名殿
印長所
第三号︵用紙半紙︶
履
歴
書
原 籍 県郡町村大字番地
現住所
県郡町村大字番地
華士族平民戸主誰男弟等
氏
名
生年月日
一
学
業
一
何年何月ヨリ何年何月マデ県郡市町村立何
︵尋常高等︶小学校卒業其証書写
尋常︵高等︶
別紙ノ通
一 何々
二 職
務
一 何年何月ヨリ何年何月マテ何職ニ従事シ又
ハ何学校何ニ雇ハル
三
賞
罰
一
何年何月尋常科第何学年成績優等ニ付何ヲ
受ク
一
何年何月何科何年皆勤ニ付何ヲ受ク
一 何年何月何ニ付何ヨリ何賞又ハ何罰ヲ受ク
右ノ通リニ候也
右
年
月
日
氏
名
㊞
第四号︵用紙半紙︶
在 学 証 書
住所族籍誰男弟又ハ戸主
氏
名
生年月日
右今般入学御許可相成候ニ付テハ御規則堅ク相
守ラセ申スベク尚本人在学中ノ事件ハ一切引受
申スヘク候也
住所族籍父兄後見人
年
月
日
氏
名
㊞
岡山県上房郡私立有漢准教員養成所長氏名殿
員養成所学則﹂
﹁寄宿舎規則﹂
﹁有漢教員養成所公認宿舎規定﹂
﹁紀
註
︶﹃沿革史﹄には小論で紹介する﹁私立有漢准教員養成所学則﹂
︵1 以外にも、
﹁私立有漢女子准教員養成所学則﹂
﹁私立有漢専科正教
年大会開催並ニ同窓会組織趣意書﹂
﹁有漢教員養成所同窓会規則﹂
﹁私立有漢教員養成所附設有漢幼稚園設立趣意書﹂
﹁有漢教員養成
﹁ 校舎建築寄附募集趣意書 ﹂
﹁ 記念
所附設 私立有漢幼稚園々則 ﹂
校舎建設趣意書﹂が掲載されている。
︶ 岡山県教育史刊行会、
﹃ 岡山県教育史 ﹄下巻、昭和三十六年、
三一三ページ∼三一五ページ。
︵ ︶ 岡山県立図書館所蔵による﹃岡山県学事関係職員録﹄に限定し
︵
ても、私立養浩教員養成所は﹃岡山県学事関係職員録﹄大正二年
版、十二ページほか、私立岡山女子教員養成所は私立岡山県教育
会、
﹃岡山県学事関係職員録﹄大正三年七月十日発行版、十二ペー
ジ、 真 庭 教 員 養 成 所 は 岡 山 県 教 育 会、
﹃
︵
﹃備作教育﹄第一九九
号付録︶岡山県学事関係職員録﹄大正十二年六月三十日発行版、
九十九ページ∼一〇〇ページ、生石教員養成所、香登教員養成所
は岡山県教育会、
﹃
︵
﹃備作教育﹄第二二三号付録︶岡山県学事関
係職員録﹄大正十四年六月三十日発行版、二十七ページほかによ
り所在が確認される。なお、小論において用いている各養成所の
名称は﹃岡山県学事関係職員録﹄による。
︵ ︶ 近年の教員養成史研究においては、
﹁教員養成ルート﹂と﹁教
員輩出ルート﹂の解明とが相俟って、進展がもたらされている。
前者のうち、例えば松本裕司は﹁従来の教員養成史研究は、そ
の多くが師範教育史に焦点があてられ、実態の解明がなされてき
た。それに対して、師範学校以外の養成機関の研究は⋮未だ十分
な解明がなされているとは思われない﹂
︵
﹁日田地域における教員
二重構造的特質に関する実証的研究
︱
戦前日本における地方
養成の歴史﹂
[野村新、佐藤尚子、神崎英紀編、
﹃教員養成史の
−7−
2
3
4
∼二二三ページ、私学興譲館附属教員養成部は井原市史編纂委員
大し、各地教育会の教員養成事業に本格的な照明をあてるべきで
学園、
﹃就実学園百年史﹄
、平成十七年、三七二ページ∼三八〇ペー
ジ∼八四四ページ、私立岡山実科女学校教員養成所は例えば就実
﹄
、渓水社、平成十三年、八〇ページ]
︶
、また
実践例の解明
会、
﹃井原市史﹄ 近現代史料編、井原市、平成十五年、八四一ペー
︱
梶山雅史は﹁教員史研究は師範学校史研究を越えて研究領域を拡
ある﹂
︵
﹁教育会史研究へのいざない﹂
]梶山雅史編著、
﹃近代日本
︵ ︶ 例えば国立公文書館所蔵簿冊のうち、佐藤和洋裁縫女学校教員
養成部規則︵現ベル学園高等学校︶は﹃岡山実科女学校学則︵岡
ジに学則が掲載されている。
V
教育会史研究﹄
、学術出版会、二〇〇七年、三十二ページ]
︶と主
張し、
﹁教員養成ルート﹂の解明を進めている。
これに対し例えば井上惠美子は﹁検定制度については、梶山を
含む先行研究では真正面から取り上げられていない﹂
︵
﹁はじめ
に﹂
]研究代表者井上惠美子、
﹃戦前日本の初等教員に求められた
教職教養と教科専門教養に関する歴史的研究
︱ 教員試験検定
︱ ︵平成 年度∼
の主要教科とその受験者たちの様態の分析
平成 年度科学研究費補助金︵基盤研究︶
︵ ︶研究成果報告書︶
14
﹃真庭郡誌﹄全、真庭郡役所、
︵ ︶ 真庭郡立准教員養成所は真庭郡、
大正十二年、二八六ページ∼二八九ページ、阿哲郡立准教員養
あると考える。
検定との緊密な関係のもとに成立した小学校教員養成所研究で
修了者への検定試験受験に係る特典の付与に象徴される、養成と
や欠けているようにも思われる。そして、
それを可能とするのが、
や梶山、井上等によっても、こうした両者に相跨がる視点にはや
る、いわば両者を併せ繋ぐ視点も求められるのではないか。松本
ト﹂と﹁教員輩出ルート﹂とが如何に連動をなしたのかに注目す
が
﹁教員養成ルート﹂
の進展を促してきた。ならば、﹁教員養成ルー
﹁教員養成ルート﹂の
しかし、両者は当然に密接に関連付き、
進展が﹁教員輩出ルート﹂の進展を、
﹁教員輩出ルート﹂の進展
出ルート﹂の解明を進めている。
み、自ずと師範学校卒業生以外の者を主たる対象とし、
﹁ 教員輩
山県第二冊 第二教育門 わ一ノ十八乙︶
﹄に、また岡山裁縫教員
養成所学則︵現倉敷翠松高等学校︶は﹃片山女子高等技芸学校設
置︵岡山県第二冊 第二教育門を十四︶
﹄に所収されている。
︵何
れの確認も岡山県立記録資料館所蔵複製史料﹃文部省公文書﹄に
よる。
︶
︵ ︶ 本沿革は、主に蛭田禎男、
課題番号
︶
﹄
、八ページ]
︶と批判し、如何なる養成機関
﹃有漢教員養成所﹄
、有漢町教育委員
14310137
を経たのかを問わず、しかし戦前の小学校における教員構成に鑑
会、昭和六十年と、岡山県上房郡私立有漢教員養成所編、
﹃ 沿革
B
6
養成所、女子准教員養成所開校﹂に伴う、修業期間や定員も史料
る﹂等を参考にしている。なお、明治三十七年七月﹁男子准教員
ジにある﹁明治四十年四月⋮女子生徒は女学校別科に分離してい
編纂委員会、
﹃高梁市史︵増補版︶
﹄下巻、平成十六年、二六七ペー
四十年四月⋮女子生徒は女学校別科に収容﹂
、高梁市史︵増補版︶
﹃上房郡誌︵復刻版︶
﹄全、名著出版、七八一ページにある﹁明治
養成所認可セラル﹂との整合性を勘案しつつ、
私立上房郡教育会、
シニ、同四十二年、設立者佐藤晋一ニ対シ、私立有漢女子准教員
シ女子准教員養成所独立ノ必要ヲ認メ、四月三日設置認可申請セ
る﹃沿革史﹄の記述、すなわち﹁創立以来、有漢女学校ニ併設セ
記述と異なる。これは、
﹁私立有漢女子准教員養成所学則﹂に係
四十二年四月﹁女子准教員養成所、女学校から独立﹂は、蛭田の
明治四十年四月﹁女子准教員養成所、女学校別科に分離﹂
、明治
史﹄
、発行年不明、蛭田禎男氏所蔵を参考に作成した。その際、
7
によって異なる記述が頻見される。
−8−
17
成所は阿哲教育会、
﹃阿哲郡誌﹄下巻、昭和六年、二一八ページ
5
︶ 前出﹃有漢教員養成所﹄
、十六∼十七ページ。
︵
、三ページ∼四ページ。
︵ ︶ 前出﹃沿革史﹄
、六十一丁オモテ、蛭田禎男氏所蔵。
︵ ︶ ﹃昭和二年 有漢村治要覧﹄
︶ 同前、六十一丁オモテ∼ウラ。
︵
大正三年三月二十一日刊、
︵ ︶ 私立有漢教員養成所、﹃会報﹄第二号、
一〇ページ、蛭田禎男氏所蔵。
、十六ページ。
︵ ︶ 前出﹃有漢教員養成所﹄
︵ ︶ 同前、三十三ページ、五十八ページ∼七十三ページ。
、六十五丁ウラ。
︵ ︶ 前出﹃昭和二年
有漢村治要覧﹄
、一ページ。
︵ ︶ 前出﹃沿革史﹄
、三十四ページ。
︵ ︶ 前出﹃有漢教員養成所﹄
、六十三丁オモテ。
︵ ︶ 前出﹃昭和二年 有漢村治要覧﹄
、八十二ページ。
︵ ︶ 前出﹃有漢教員養成所﹄
、七ページ。
︵ ︶ 前出﹃沿革史﹄
︵ ︶﹃岡山県報﹄第一三五号、明治四十一年二月十日刊、岡山県立
記録資料館所蔵。
︵ ︶ 同前。
︵ ︶ 同前。
︵謝辞︶
小論の発表にあたり、県下小中学校々長を歴任され、有漢町教育委
員会社会教育指導員を務められた蛭田禎男先生、高梁市有漢公民館長
から生じる史料保存に係る高いご見識に敬意を示すと共に、快くその
である秋葉將先生に一方ならぬご教示を賜りました。先生方の郷土愛
閲覧、複写をご許可下さいましたご厚情に心より感謝申し上げます。
これを機に、戦前の小学校教育が決して恵まれた環境にあらず、また
名はなくとも、多くの心ある先生方に支えられ発展してきたことを改
めて感じ入り、それを後世に僅かながらでも伝えるよう努めることが
使命であると再確認した次第です。
−9−
8
12 11 10 9
21 20 19 18 17 16 15 14 13
23 22
平成二十一年三月一日印刷
平成二十一年三月十日発行
︽非売品︾
八五一一︶
︵〒七〇八 ―
編 集 者
岡山県津山市北園町五〇
発 行 者
美
作
大
学
美 作 大 学 短 期 大 学 部
編集者代表
桐
生
和
幸
〇〇三五︶
︵〒七〇〇 ―
印 刷 所 岡山市高柳西町一 ―
二三
友 野 印 刷 株 式 会 社