スライド資料 - 室蘭工業大学

技術者倫理教育の現状と課題
2006.12.02
室蘭工業大学
立命館大学客員教授
中村 収三
技術者倫理教育
だれが(講師)
だれに(何年生)
なにを
どれだけ(何時間)
どのように教えるか?
百花繚乱
中村ら
2006.10.30
新田ら
百家争鳴
画一的な「技術者倫理教育」が
行われるよりは,はるかによい
が,
一人の学生が受けるのは,一つ
の「技術者倫理教育」だけ.
技術者OBの思い
われわれの学生時代には,日本でも,アメリ
カでも,工学倫理の授業などなかった.
技術者を,20年,30年つづけていると,倫
理的な問題に直面することが必ずある.
少しでも,工学倫理を学んでおれば,もっと
良い対応がとれたのに,と思うことが幾つも
思い出される.
この思いを後輩たちに伝えたい.
少しの意識づけで大きな効果が期待できる.
学生たちの感想か
ら
みじかく、たのしく、
役にたつ
家族みんなで読み
ま し た。
技術者OB共通の思い
われわれの学生時代には,工学倫理の授
業などなかった.
技術者を,20年,30年つづけていると,倫
理的な問題に直面することが必ずある.
少しでも,工学倫理を学んでおれば,もっと
良い対応がとれたのに,と思うことが幾つも
思い出される.
この思いを後輩たちに伝えたい.
(社)近畿化学協会
化学技術アドバイザー
工学倫理研究会
工学倫理教育は技術者OBに
お任せください!
技術者による
実践的工学倫理
−先人の知恵と戦いから学ぶ−
Ⅰ部 総論 工学倫理を考える
Ⅱ部 各論 技術者の知恵と戦いから学ぶ
1章 安全と工学倫理
2章 環境・資源問題と工学倫理
3章 リスクの評価と工学倫理
4章 技術者と法規
5章 知的財産権と工学倫理
科学・技術史家の発言から
「理工系の人間には社会リテラシーが不足
している.政治的,社会的な意思決定を,
理工系の専門家に委ねておくわけにはい
かない.」
「精緻な知識を要求される専門家は,小さ
な領域に沈潜し,全体を見渡す力を欠く.」
「21世紀の技術者は,自律的
な”Philosopher Engineer” にならねば
ならない.」
「実践的工学倫理」から
世界中どこでも,技術者は,元来,律儀で,
倫理レベルの高い職業と見なされてきた.
特に,日本の技術者たちは,信頼性の高い
製品を作り,世界に冠たる安全成績を達成
し,公衆の信頼と尊敬を勝ちとってきた.
にもかかわらず,技術者や企業の倫理が問
われる事件がたえない.
ある工学者による教科書の冒頭
20世紀は科学技術の発展により、人類に
計り知れぬ恩恵をもたらす一方で、知識の慎
重さを欠いた技術の運用から、地球環境の
汚染と破壊という危機を引き起こしてしまった。
多くの技術者は企業内におり、日本国家の
産業政策の中にあって、「裏マニュアル」の存
在をも肯定してきた。時には、技術者倫理に
反する行為がまかり通る運用が施されてきた。
「実践的工学倫理」から
古来,技術者は,安全と環境をまもるために,
壮絶な戦いを続けてきた.
そのために,あらゆる知恵を積み重ねてきた.
その結果,近来にない,安全で,きれいな社
会を実現した.
その一方,予想もしなかった新しい問題にも
直面している.
若い技術者たちには,勇気をもって,戦いに
参加してもらいたい.
プロメテウスの神話
(新田孝彦ら「科学技術倫理を学ぶ人のために」から)
ギリシャ神話によれば、技術は、ティタン神族の一人であるプロメテウス
によって人間に与えられた。この神話を、古代ギリシャの哲学者プラトン
は次のように伝えている。
[----] かつて神々が死すべき者どもの種族を創ったとき、これらの種族
にふさわしい装備をととのえ、能力を分かち与える仕事はエピメテウスに
委ねられた。彼は、いかなる種族も滅亡することがないようにそれぞれの
種族にさまざまな装備を与え、能力を分配し、食べ物を用意してやったが、
しかし彼はあまり賢明ではなかったために、人間には何も与えないうちに、
すべての装備や能力を分配しつくしてしまった。これを見て、兄のプロメテ
ウスは、神々のもとから「火」とともに「技術的な知」を盗み出して、人間に
与えた。これによって人間はなんとか生き延びることができるようになった
が、しかし最初のうちはばらばらにすんでいたために、物を作る技術だけ
では獣たちに太刀打ちできず、しだいに滅ぼされていった。また、獣たち
から身を守るために互いに寄り集まっても、「共同体をなすための技術」を
もっていなかったので、人間たちは互いに不正を働き合い、かくして再び
滅亡しかけた。そこで、人間の種族の滅亡を心配した主神ゼウスはヘル
メスを遣わして、人間たちに「つつしみ」と「いましめ」をもたらすことにした。
これが、国家の秩序をととのえ、友愛の心を結集するための絆になって、
ようやく人間たちは安全に暮らすことができるようになった。[----]
「実践的工学倫理」から
あらゆる近代技術は,危険なものを安全に
使いこなす知恵だといいかえてよい.それゆ
え,技術者には専門的な能力にくわえ,高い
倫理性が要求される.ほかの専門職の場合
と異なるのは,この一点につきる.「技術とは
危険なものを安全に利用する知恵だ」という
のは,近代技術にかぎらない.人類が火や道
具を使うようになって以来のことだ.そのころ
から「工学倫理」が芽生えたといえる.そう考
えれば,とくにむずかしい話ではない.
技術者の倫理に
ゆだねられているものとは?
技術者の倫理が問われる場
合とは?
− 「工学倫理」の守備範囲 −
一口に技術者といっても(1)
(例)
技術者個人(単数/複数)
○山◇男
個々の製品・技術にかかわる技術者
A社エレベー
ター技術者
特定技術にかかわる技術者群
エレベーター
技術者
特定分野にかかわる技術者群
機械技術者
技術者全体
一口に技術者といっても(2)
研究者
開発技術者
設計技術者
製造技術者
据付・維持・修理技術者
一口に技術者といっても(3)
技術者社長
技術担当重役
技術者上級管理職
技術者中間管理職
担当技術者
工学倫理教育の目的は?
技術者を目指す工学生を勇気づけ,
不祥事を引き起こしたり,不祥事に巻
き込まれたりしないよう,
意識づけを行い,
そのためには,どうすればよいか,役
にたつ知恵を身につけさせる.
技術者と倫理
工学倫理教育の目的は,工学生や技
術者をより倫理的な人間に改造するこ
とでも,改めて倫理学的手法を学ばせ
ることでもない.
技術者として倫理的な判断をする場合
には,格別に高い倫理レベルで行わな
ければならないことを認識してもらうこと
にある.
清く,正しく,美しく?
動機や目的が何であれ,公衆の安全,
健康,福利のためになる判断ができれば
よい.
(純粋に)公衆のために?
自社の信用を考えて?
自社の長期的損益を考えて?
自分の気持ちを考えて?
○△□?
安全・衛生・環境
「工学倫理」は安全・衛生・環境など
に関連して問題になることが多いが,
安全・衛生・環境そのものは「工学倫
理」の対象ではない.各工学分野,ま
たは,安全工学,衛生工学,環境工
学の中で 具体論 としてとり扱う.
両者の境目をあいまいにすると混乱
も招く.
工学倫理
技術者は有史以来,安全や環境の問題と
壮絶な戦いを重ねてきた.(事例)
安全を確保し,環境を護ることは,技術者
の本務に属す.
これを全うするのが困難になったとき,技
術者は倫理的葛藤を経験する. (事例)
そのような倫理的葛藤とどのように向き合
えばよいか? これが工学倫理の中心課
題になる.
「実践的工学倫理」から
技術者個人(単数/複数)の倫理
=狭い意味での技術者倫理
=工学倫理
技術者群の倫理
=社会と技術のかかわり
=技術倫理
広い意味での技術者倫理は両者をふくむ
技術倫理
技術者にゆだねられている訳ではない
社会も様々な対応をしている
技術および技術者を規制する各種法規
安全・衛生・環境施策
技術評価
製造物責任法(無過失責任)
技術者と法規
法規は,社会がその技術をどのよう
に受け入れているかを規定している.
法規は技術者と社会の合意によって
作られる.
法規整備が進んでいない新しい技術
もある.
技術者の独りよがりで突っ走ることは
許されない.
法規は最低限の決まり
「規則」「基準」「手順書」などにも
あてはまる.
技術者は,プロの目で深く物事を捉え,
法規・規則・基準・手順書などに定めら
れていなくても,必要なことを実行しなけ
ればならない.
技術評価
一般大衆はもとより,技術者にも,自分自
身が開発した技術を評価することすら容易
でない場合が少なくない.
分野によっては,「技術評価」の専門家が活
躍するようになっている.
技術者は,自分が携わる技術について,可
能なかぎり客観的な「技術評価」がなされる
よう,常に留意している必要がある.
技術評価
技術評価は,安全だけでなく,資源・環境
問題なども包括的に評価するものでなくて
はならない.
安全と安心は別物
技術者は,社会が受け入れている既存技
術をより安全な物にするだけでなく,その
様な危険を内蔵しない新しい技術を開発
するように努めなくてはならない.
技術者の本来業務
本質安全設計
安全防護
・フェイル・セイフ
・フール・プルーフ
残存リスク・警告表示
許容リスク(社会とのかかわりで決
まる)
リスクアセスメントの構図
製造者が実施する方策
リスク
本質安全設計
安全・防護策
残存リスク・警告表示
社会が実施する方策
規制・法規・基準
インフラ整備
使用者が実施する方策
訓練・資格取得
使用法遵守
保護具
許容可能な
リスク(変動
する)
全ての方策を講じた後
の残存リスク
信頼と責任
技術者は,公衆の信頼をうけて
専門的な職務を行なっている
技術者は公衆に対し,専門職と
しての責任を負っている
「技術倫理」
技術者もこれに関心を持ち,
主体的に考えなければならな
いことは言うまでもない.
技術者に求められる素養
専門とする技術についての知識・能力
その技術が社会に及ぼす影響と,その影響
を制御する技術についての専門的な知識
関連する法規についての知識
社会の議論についての理解
すべてを備えた人を 専門技術者 という
必要な素養を欠く者が専門的職務を行うの
は,はじめから工学倫理に反する.
工学倫理
「工学倫理」は,技術者個人
がそれら全てを踏まえて,
実際に仕事をする中で出会う
倫理的葛藤をとり扱う.
工学生たちの反応から
授業を受けて自分は生まれ変わった.
技術者OBの体験談に目を覚まされた.
経営者にこそ倫理教育を行うべきだ.
工学倫理的には, かくかくしかじか
の行動をとるべきだが,自分にはでき
ないだろう.今はできたとしても,家族
をもつとできないと思う.
だから技術者にはなりたくない.
改善活動
集団活動
KAIZEN
TQC
Total Quality Control
集団安全活動
集団安全活動がすぐれた成
果をあげ,世界に冠たる安全
成績をあげてきた.
日本は世界に立派な手本を
示した.
工学倫理にも
集団安全活動の考え方を!
THE FOUNDATION OF A MAJOR INJURY
1
MAJOR INJURY
29
MINOR INJURIES
300
NO-INJURY ACCIDENTS
UNSAFE
PRACTICES
000?
UNSAFE
CONDITIONS
H. W. Heinrich, Industrial Accident Prevention – A Scientific
Approach, 4th Ed., 1959, McGraw-Hill (1st ed. 1931)
ハインリッヒの法則(拡張)
死亡事故
休業災害
不休業災害
かすり傷・無傷事故
ヒヤリハット
不安全行動
安全意識の不徹底
ハインリッヒの法則(工学倫理)
致命的な不祥事 倒産/免職・刑事訴追
重大な不祥事
重大な損失*/降格
軽微な不祥事
軽微な損失*/昇進遅れ
ヒヤリハット
不倫理行為
工学倫理意識の不徹底
*経済損失・信用失墜
工学倫理にも集団活動を
いたずらに,個人で責任を負うことを避
け,集団で当たろうと言うのではない.
各企業,組織が実際にどのように対応
するかはともかく,技術者としては,とも
かくまわりの人達と話し合うことが第一.
倫理に関することこそ,独りで考えるとろ
くなことはない.
集団安全活動
全社安全会議
各部安全会議
各課安全会議
トップ・ダウンとボトム・アップが相和していることが肝要
ボトム・
アップ
トップ・
ダウン
各事業所安全会議
実践的技術者倫理
―― 組織人のこころえ ――
・ あらゆる言動は業務 (給料) の一部とこころえよ
・ 報告・連絡・相談 “ほうれんそう” を忘れるな
・ 意見やアイディアの表明は積極的に
―― 備えあれば憂いなし ――
・ 日頃からまわりの人と何でも話し合う
・ グループ活動の場があれば,日頃から積極的に参加する
・ 日頃から組織内に尊敬できる相談相手をつくっておく
・ 日頃から相談すべき部署を知っておく
―― 仕事の上で倫理に関わる問題に出会ったら ――
・ ともかく,まわりの人たちと話し合う
・ グループ活動の場があれば,そこへ持ち出す
・ 尊敬できる人に相談する
・ 担当部署に相談する
・ 自分や関係者の言動を正確に記録する
実践的技術者倫理
組織の中で仕事をする上での,普通
の知恵と変わらない.
倫理にかぎらず,正しいと思うことをつ
らぬくのは,必ずしも容易ではない.
記録を取ることは,強力な抑止力にな
る.
予防にまさる治療なし
工学倫理にも集団活動を
工学倫理についても
世界の手本になれるはずだ
工学倫理よ,どこへ行く?
「工学倫理教育」が独り歩きをはじめ
ていないか?
「工学倫理教育」がエスカレートしてい
ないか?
「工学倫理教育」が目的になってし
まっていないか?
大学教育再考
大学で教えられることは限られている.
科学と工学の基礎を最優先に.
安全,環境・資源,リスク,法規,知財
などについて,最低限の理解を.
倫理については,最低限の意識づけを.
地位と責任に応じた継続教育に重点を.
心にしみる教育とは?
なにやってんだ
またやったな
よくできたね
またがんばろうね
?
?
今後「工学倫理」
の問題に出くわし
たときには、わた
くしの話を思い出
してください。
皆さんが事件など
に巻き込まれるこ
とがないよう祈っ
ています。
さようなら!