ローイング ボートを始めたばかりの人、これからやってみたいと思って いる人のためのガイドブック イギリスボート協会(ARA) (本編はイギリスボート協会監修のガイドブック Know the Game: Rowing から抜粋・編集したものです。) 0 ローイングで使う器材には多様なものがあり、それを覚えるだけでも大変です。ここでは、オール、 艇、ローイングマシンなどの主要なものを取り上げて、それらがどのように使用されるものか説明し ます。 (※訳注:ボートを漕ぐという運動のことをローイング(rowing)と言います。本編では「ボート(艇)」は乗るための 器材を指し、運動としての「ローイング」と用語を使い分けています。) オール オールは、しばしば「ブレード」とも言われます(※訳注、 日本では、オールとブレードを同義語として使うことはありません。 普通、ブレードとはオールの先についている、水を掻く部分を指しま す。 )が、漕手がそれをてことして使って水面上で艇を進める ものです。初心者はオールの先端部分が水中を動くものと思 いがちですが、よく見ればその理解は正しくないことがわか ります。 艇の動きを注意深く見ると、艇の方がオールの先端にでき た「泡」を通り越して進んでいることがわかるでしょう。オ ールの先端部分(スプーンとも呼ばれる) (※訳注、上述のよう に、日本ではブレードと呼んでいる)は本当のところ水中を掻き ▲この写真は艇が進むにつれて前方の漕手がオー ルで泡を作っているのに、後方の漕手は泡の群れを すっかり置き去りにして進んでいる様子を示して います。 進むわけではないのです。それはオールにとって固定点にな り、てこの作用で艇を前に押し出す支点となっています。下 の図を参照してください。 ブレード(泡)の位置は動かずに、艇の方が動い ていることに留意。 スライディングシート レース艇を見ると、シート部分が車輪に乗っており、 前後にスライドできるようになっていることがわかるで しょう。また、あなたが履くことになる靴は艇に固定さ 1 れています。こうした特徴によって漕手はより長く、より 木製艇の艇体は、非常に薄い板材の層を重 効率的にオールを引くことができるようになっています。 そのおかげで艇はより遠くに押し進められることになりま ね合わせて作られていました。アメリカイン ディアンの軽量カヌーと似た構造です。現代 す。 のレース艇はレース用自動車と同じ技法で製 作されているのです。実際、両方とも同じ工 艇の構造 1970 年代後半までは木製の艇が使用されていました。素 場で製作されている例がよく見られます。 晴らしい木工細工の艇が多くのクラブで見られたものです。 もしそんな艇を目にする機会があったら、どんなに素晴ら しい木工技術が駆使されていたか、よく見てください。 現代の艇はグラスファイバーや、ケブラー、炭素繊維、 エポキシ樹脂などの複合素材などの多様な素材が使用さ れています。艇やオールは今や非常に先進的な設計および 技術の賜物になっているのです。おかげで、艇は軽量であ りながら強度が高く、より少ない力で水面上を進むことが できます。 ▲現代の軽量レース艇 リガーとクラッチ 昔、オールは艇の両舷に直接ねじこまれたクラッチ(※ z 訳注、英語では普通ローロックあるいはオールロックというだが、 損傷は、水面上よりも艇庫の中で発生し 日本ではなぜか英語風のクラッチで通用している。しかし、クラッ チは海外では通用しない用語なので注意。同じ英語圏でもイギリス ています。 z では、ゲイトと言っているからややこしい)の中で回動するよう になっていました。艇が細くなるにつれて、クラッチはリ ガーの先端に取り付けられるようになりました。 (艇の両側 に突き出ている金属製の三角形をした構造物。正式にはア ウトリガーといいますが、それを短縮した呼び名が定着し ています。)クラッチにはねじで開閉するオール保持用の 部品があり、ねじ止めを外して持ち上げ、オールを中に入 れてからねじを締めつけてオールが外れないように留め ます。 ▲ 現代の艇におけるリガー(三角形のフレー ム構造物)とオールを保持するクラッチ ク ラッ チのラッ チを し っか り締めて いな いと、オールがはずれ て 転覆 する恐れ があ るので要注意。 2 艇は非常に繊細に作られています。艇の 艇を運搬するとき、ラックの角とか他の 艇のリガーなどの鋭利なものにぶつけな いように注意しましょう。 ローイングとスカリング ローイングとは各漕手がそれぞれ1本のオールを受け持 つ漕ぎ方で、スイープ漕ぎとも言います。ローイング(ス イープ)に対して、スカリングでは両手で2本のオールを 持ちます。 ローイングとスカリングのそれぞれの艇の種類 次のページに描かれている図は各種のレース艇を模式図 スカリング で表したものです。水上で見かけた艇がどれに該当するか 見分けてください。 エイト艇には艇の舵取りをするコックスと呼ばれる人が かならず乗っています。フォア艇の一部、そしてほぼすべ てのペア艇、ダブルスカル艇、シングルスカル艇にはコッ クスはいません。大会プログラムを見ると、艇の種類はこ んな具合に表現しています:1x、2x、2-、4-、4+、4x、4x+、 8+、8x+。これらが何を表しているか、想像できますか? ローイング また、これらの艇の種類の前に W とか M をつけているの にも気がつくでしょう。これは女子種目あるいは男子種目 であることを表しています。 エイト クオドルプル フォア ペア ダブルスカル オクトプル 3 シングススカル ボートを漕ぐ水域 ▲沿岸の海で漕ぐコースタルローイングと いわれるものではかなりの荒波も乗り越え ていきます。 ローイング活動の大部分は河川で行われます。しかし、 中には風波に耐えられるよう特別に設計された艇を使用 して、レクリエーションとしてのローイングやレースを海 で行うものもあります。 海でのローイング 沿岸部の海域で漕ぐローイングの人気が上昇しています。 もともとは、こうしたローイングは水先案内人が大きな船 に乗り込むときに使うような伝統的な種類の艇で行われて いたものでした。現代の艇もこうした艇のデザインに基づ いていますが、現代の材質で製作されています。伝統的な 木製艇は今も小舟レースという形で使われていますが、こ 青少年のローイング: ローイングはスカリングよりも体に かかる負担が大きいので、16歳以下 の青少年にはスカリングが推奨されて います。 れは主にテームズ川で行われています。 インドア(屋内)でのローイング ローイングマシン(エルゴメータ、あるいは単にエルゴ と称されている)の出現でインドアローイングというもの が非常な勢いで伸びています。イギリスでは一般大衆が参 加するスポーツとしてはもっとも急速に成長しています。 見積もりでは、フィットネスのため、あるいは競技として、 50万人以上もの人々が定期的にローイングマシンを使 用しているものと思われています。 今では市、地域、国、そして世界で幅広い年令層と種別 の選手権大会が行われています。 最新のエルゴでは、進んだ電子技術とコンピュータのお かげで、モニター上に使用者(参加者)がどれほど頑張っ て引いているか、どれほどのエネルギーを消費したか、そ して一定の距離をどれほどのタイムで漕げるか予測数値 4 ▲インドアローイング大会の人気上昇中 を示してくれます。 エルゴメータ: 下図の表示装置画面に見える 1: 51 という数字は、500m z の距離を漕ぎ進むと1分51秒になるでしょうという予測 語のエルゴンとメトロンという言葉か 値を表しています。つまり、あなたが現在のペース(短時 間当たりの引きの回数と発揮する力)を維持できたとした ら来ています。 z ら・・という予測値です。レースは通常 1,000m あるいは 2,000m の距離で行われます。ですから、500m での予測値 エルゴンは仕事を、メトロンは測定を意 味しています。 z というのは、あなたがレース時の目標タイムにどれほど近 いかを示してくれていると言えるでしょう。 「エルゴメータ」という名前はギリシャ エルゴメータには使用者のパワー出力 をワットで表示します。 z 仕事量をジュール数で知りたい場合は、 ワット数にパワーを発揮していた時間 (秒数)を乗じます。 チームレース 今ではフォアとかエイトなどのクルーとしてローイング 最大のレース: 英国インドアローイング選手権大会は、毎 マシンでのレースができるようになりました。応援の人た ちは大型スクリーンで2艇の仮想ボートが競り合う様子を 見られるのです。また、インターネットを通じて他の個人 年、バーミンガムの国立インドア競技場で開 催されています。 z あるいはクルーと競技することもできます。 3,000 人以上もの参加者があり、世界最 大のインドアローイングレースとなっ ています。 水上練習に移行する前に インドアローイングはそれ自体で新たなスポーツとも言 えるほどの発展を遂げていますが、水上練習の機会が身近 にない、あるいは水上に出ることができないような状況に おいて、ローイングの動作を教えたり、トレーニング用と z また、イギリスで行われる屋内スポーツ としては最大の参加者を誇っています。 参加者の年令は 11 才から 90 才以上までに わたっており、その中には多くの英国代表チ ームメンバーも含まれています。 して素晴らしい手段となっています。 今やほとんどのローイングクラブはエルゴマシンを持っ ており、体力向上の進度の目安を得たり、初心者が初めて ボートの水上練習に乗り出す前に正しい漕ぎの動作の感 覚を身につけさせるために使用しています。 5 ▲ エルゴ競技会の模様: 選手は自分たちの艇の進み具合 を大きな画面で確認できます。 6 それでは漕いでみましょう この章では漕ぎの動作を分解して、それぞれの部分を表す用語を説明します。また、艇を進めるため に筋肉の力を最大限に発揮するための姿勢についても説明します。 (※訳注、ボートの漕ぎは同じ動作を繰り返し行うものですが、その 1 回の漕ぎを「ストローク」といいます。日本語 では1本、2 本・・と数えます。) 完璧なストローク 漕ぎ方の学び始めでは簡単な動作から行います。以下に一連 の写真を示しますが、この写真の動作があなたの目標とする模 範です。 ドライブ段階 (ポイント1) 右の写真の姿勢がドライブ段階の始まりです。 ブレードを水中に入れ(この動作を「キャッチ」と言います)、 脚と体の大きな筋肉群を使って艇を前方に押し出します。 z 脚のすねが垂直になるまで曲げ、上体は猫背にならずに背 筋を伸ばしたまっすぐな姿勢で、腿に接触するくらいに前 に伸び出します。 z そこで両手を矢印方向にわずかに持ち上げれば、ブレード ポイント1での間違い動作: は水中にしっかりと「固定」されます。 シートが肩よりも先に後方に動き始め る。このことをボート用語で「尻逃げ」 と言います。この状態では脚の蹴りの 力が著しく弱められてしまいます。 (ポイント2) ボートを漕ぐという動作は腕で引くことだと思ったら間違い です。しかし、えてして多くの初心者はそうしてしまいます。 z ここでは脚が仕事の大部分をするのです。腕はリラックス させ、背筋は伸ばしたまま、そして前傾姿勢を保持したま まであることに留意してください。 z 両手は矢印のように水平に引きます。そのときの感覚は、 オールのハンドルにぶらさがる気持ちです。 ポイント2での間違い動作: オールを平行ではなく、やまなりに引くため、ブレードが 水中に深くもぐりこんでしまう。 7 (ポイント3) ドライブ段階の終了間際になってから上体を後傾させ、両腕 はオールのハンドルの勢いを保つように引き込みます。 ポイント3での間違い動作: オールを胸に向かって平行に引ききらないで、ハンドルを 握った両手をお腹に向かって落とし込んでしまう。そうす ると、ブレードはストロークをしっかり引ききらないうち に浮き上がって水面上を引っかくだけに終わってしまう。 これを、俗な言葉ですが「かっぱく」と言います。 (ポイント4) 両手を軽く下向きにコツンという感じでおろすとブレード はスパッと水から抜け出ます。 z 両脚は膝を伸ばしたまま押さえておきます。 z 背筋は真っ直ぐにして、やや 後傾姿勢になります。腹筋 が上体を支えていることが感じられるでしょう。 以上でドライブ段階の終了です。 ポイント4での間違い動作: 後傾姿勢が不十分で上体が突っ立ったままになっており、前腕が垂れ下 がってしまう。その結果、ストロークが短くなってしまう。 一方、 後傾姿勢が大きすぎるとリカバリー動作が遅れる。 リカバリー段階 (ポイント5) リカバリーの始まりでは、矢印のように、両手を下げて体か ら離していくように動かします。 (これを Hands away ハンザ ウエイと言います。) z 両腕を体から離すよう伸ばします。このとき上体は真っ直 ぐにバランスを保つにようにしますが、膝は伸ばしたまま 押さえておきます。 z 膝の緩めが早すぎるために水面に平 腕、肩、首はリラックスさせます。写真に示したような姿 勢・動作により、ストロークのために力を費やした状態か ら体を休め、水面上で艇のバランスを保つことができます。 z ポイント5での間違い動作: 上体は背筋を伸ばしたまま、骨盤の大腿関節あたりから前 8 行に移動するはずの両手の動きのじ ゃまになってしまう。 に倒し、それから膝を緩めてシートを前方にスライドさせ ます。 (ポイント6) ポイント6での間違い動作: z 両手の高さが写真の位置よりも高くなってしまう。 z 上体が写真の姿勢よりも前傾が足りない。 z キャッチに向かってゆっくりと伸び出すことがで きていない。 (ポイント7) ポイント7での間違い動作: 上体が突っ立ったままで、腕も十分に伸ばしきれていな い。 (ポイント8) このときの姿勢はキャッチの姿勢です。十分前方に伸びだし、 脚のすねは垂直になるまで曲げられ、次のストロークの開始さ れる用意ができました。 ポイント8での間違い動作: z 伸びだしが足りないために長いストロークがとれ ない。 z 上体が猫背になってかがみこんでしまう。 z すねが垂直になっていない。 9 見て学んで欲しいこと クルーの一員であること: 特に初心者は見ること、聞くことで学ぶことが クルーの中に入ってローイングを学び始めるときは 多いはずです。どういうところに注目すべきか、 まごつき、いらいらすることも多いでしょう。一人で いくつか挙げてみましょう。 漕ぐならいざ知らず、クルーの中では全員が同時に同 じことをしなければなりません。しかし、いったん習 他の初心者の漕ぎも参考に 得してしまえば、共にローイングをすることから来る クルーに入った初心者はクルーの他の人たちと スピード感や皆との一体感がすばらしい感覚を呼び タイミングを合わせてブレードを水に入れ、ある 覚ましてくれるでしょう。 いは抜くという動作がうまくできないということ があなたにも見て取れるでしょう。他の人たちと みだした部分があると艇の固定・可動部分にひっ 完璧に動作を合わせるというのがローイングを学 かる恐れがあります。 ぶ上での大きなチャレンジのひとつなのです。 薄手のものを重ね着するのがいいです。寒い時 レース艇はカヌーよりもずっと幅が狭く、ブレ 期ほど重ねる枚数が多くなります。その方が、気 ードがリカバリー段階で水から抜かれたときに、 象の変化に応じて、脱いだり、着たりできます。 まるで綱渡りのようにバランスが微妙であること 要は、暑すぎたり、寒すぎたりになってしまうこ に気がついたことでしょう。初心者どうしが初め とを避けることです。また、クルーの皆さんが飲 て一緒にボートを漕いだら、右に左に傾いてうま みものを持ち込んでいることに気がつくでしょう。 く漕げません。 きつい練習で脱水症状にならないようにする必要 があります。 艇のバランスの保持 初心者が多く乗っている艇では、少なくとも2 人はまったく漕がずに、ブレードを水面に平らに おいたまま、じっと座っていることが多いでしょ 初 めて乗 艇練習 に出る とき う。この漕いでいない人たちは幼児用の自転車の は、ぴったり身についた薄手 補助輪に似た役割を果たしているのです。つまり、 のものを重ね着して、水ボト 水面上で艇の安定を保っているわけです。 (※訳注、 こうやってバランスを保つことを英語では “Sit the boat” ルを持参してください。だぶ だぶの半パンツや、T シャツ と言います。Baby-sitting と同じようでしょうか。)熟練 のすそが垂れ下がったような したクルーはブレードを水面から離していても完 ものはだめです。 璧にバランスを保つことができます。 しかし、熟練したクルーでも2人がバランスを 保持した状態で練習する場面を目にすることがあ るでしょう。 衣類について どんな気象条件であれ、衣類はぴったり身につ いたものでなければなりません。ゆるい衣服やは 10 コックスの号令を聞いてください さて、いよいよ漕ぎ出します コックス(舵手)がいないタイプの艇: すべての艇にコックスがいるわけではありませ ん。舵手なし艇では、通常、舵取りを担う漕手が 号令を発します。 クルーのローイングに入る際に、コックスはま た一連の号令を発します。「バックストップから、 用意、ロー!」という具合です。バックストップ の姿勢とはドライブの終わりの姿勢です。漕ぎ出 すときの姿勢としては、ほとんどのクルーはリカ バリー段階からスタートします。 (※訳注:漕ぎ出す 際の漕手の姿勢はクラブにより、クルーによりさまざまで 艇を水に出すまで す。この例ではリカバリーからとなっていますが、キャッ 艇を艇庫から出し、水辺まで運ぶとき、コック チの姿勢で「ロー!」の号令を待つクルーも多いです。) スが一連の号令を発しますが、その号令で: z 艇を慎重に持ち上げ、 z 艇を艇庫から運び出し、 z 艇を水に浮かべます。 艇を止める クルーに漕ぐことを止めさせるとき、コックス は動作の号令の前に予令というものを発して漕手 クルーが完全に一斉の動作を取らないと、艇を に心の準備をさせます。予令の例としては、 「次の 落としたり、障害物に当たって艇に損傷を受けた ストロークで!」というのがあります。その上で、 りしかねません。 次のストロークの始まりのタイミングで「イージ ーオール(easy oars)!」 (※訳注、日本のクルーは、 「用意できたらバウから番号!」 だいたい、 「次のストロークで!」を省略して、 「イージー (※訳注、「バウ」とは艇のもっとも前方の位置にいる漕 オール!」とだけ号令している。乗艇中にコックスはクル 手のこと) ーにいろいろな動作をさせるべく号令を発するが、次の動 ボートを水に浮かべ、オールをきちんとセット 作の内容を予令として指示し、実際にその動作を取らせる したら、コックスはクルーに乗艇を指示します。 タイミングで「さあ、行こう!」と号令する。号令のあり 漕ぎ出す前に、コックスは「用意できたらバウか 方もクルーの熟練度合で変わり、極端に簡単化されること ら番号!」と号令を発して全員の用意ができたか がある。特にレース中。) 確認します。(※訳注、この号令に対して、バウは「バ 初心者に対しては、コックスはストロークのタ ウよし」と応答し、それを聞いた2番手は「2番よし」と イミングに合わせて号令を発します。「次の・・」 いう具合に次々に声を発して、最後にストローク手(コッ の「つ」という音、「イージーオール!」の「イ」 クスの目の前に位置する漕手)が「ストロークよし」と言 の音はキャッチのタイミングに合わせる、という えば全員準備よしということがコックスに分かるわけで 具合です。また、「イージーオール!」中の「オ」 す。) の音はブレードを水から抜くときのタイミング (フィニッシュという)に合わせ強く発声します。 用語や手順にはいろいろな変形がありますが、 11 様子を見ていればコックスの号令に対してどんな クの態勢に入ることが重要です。そうすることで、 動作をとればよいか分かるようになります。 艇は次のストロークまでの間、勢いを落とすこと なく前進します。これは効率的に艇を進める上で コーチが言っていることを聞き分けよう 重要なことです。 「泡が小さい!」 コーチがクルーに向かって話している(怒鳴っ 泡というのはブレードを水から抜くときにでき ている?)ことに耳を傾けてください。きっとこ る渦のことです。この泡がむくむくと大きいほど んな言葉が聞こえてくるはずです。 一生懸命漕いでいる証拠です。ですから、コーチ 「スライドを抑えて、キャッチに向かってゆっく はクルーにもっと強く引けとはっぱをかけていま り出ろ!」 す。 キャッチしようと急いで前に突っ込むと艇の前 「バランス!」 進の勢いを止めてしまうことになるし、ブレード コーチが、艇のバランスが完全には取れていな をうまくコントロールできなくなります。 いことに気がつき、これを直せとクルーに望んで います。クルーは足を通じて艇との一体感を感じ 「早めにブレードをスクエアにするんだ!」 取り、腰かけているあたりを微妙に重心移動する リカバリー段階ではブレードはフェザーといっ 必要があります。 て、平らになっています。これは風の抵抗を減ら すために重要なことです。しかし、遅くまでフェ 「手、上体、スライドだ!」 ザーのままにしていると、強い漕ぎに必要な垂直 な位置(スクエアといいます)に戻すのに間に合 ここでは、コーチはクルーに対して、リカバリ わない恐れがあります。ですから、コーチはクル ーの初めの手順を思い起こさせています。つまり、 ーに対してもっと早めにブレードをスクエアにす まず両手を先に伸ばし(ハンザウエイ)、それにつ るよう求めているわけです。 いて行く形で上体を腰の部分から倒す感じで回し、 その後にシートがレールを転がり始める手順です。 コックスの役割のひとつはクルーに対してコー 「2番、早い!」 これは、2番手がクルーの他のメンバーと合っ チの教えを思い起こさせることです。ですから、 ていない、この場合はちょっと早すぎる、という あなたはコックスがこれらに類した注意をするの ことを言っています。 を耳にすることになるでしょう。 「3番、尻逃げ!」 3番手のストロークの始めで、スライドは後方 に動いているが上体の動きがそれについていって いないと注意しているのです。 「ボートを走らせろ!」 ストロークのリカバリー段階ではリラックスし てバランスを保持し、ゆっくり出て次のストロー 12 基礎技術練習 ローイングを始めたばかりのあなたはたくさんの基礎技術練習をすることになるでしょう。技術練習 は、体の動かし方、ブレードのコントロール、加減速、バランスのとり方などなど、ローイングのあ らゆる分野におけるあたなの進歩の助けになるものです。 ェザーしようとする悪癖に陥らないよう、直 共通的な練習項目 角のまま水から抜くという感覚に集中する ことができます。 次の三つはローイングをやる誰もがやる練習で 2. す。 1. 2. 腕漕ぎ:つまり、脚を伸ばした状態で腕だけ これは、当然、スイープ種目のローイングの を使って漕ぎます。 場合であって、スカル種目には当てはまりま 腕と上体だけの漕ぎ:上体を前後に揺らして せん。) 外側の手(ハンドルの端を握る手)はキャ 長いストロークを漕ぎます。 3. 片手漕ぎ:片手だけで漕ぎます。(しかし、 クォータースライド漕ぎ:スライドをその前 ッチでより大きい負荷を受け持ち、ドライブ 兆の4分の1(クォーター)だけ使って漕ぐ の終わり(フィニッシュ)ではハンドルを押 のでこう呼ばれます。同様に、ハーフスライ し下げる役割を担います。内側の手はブレー ド、4分の3スライドという漕ぎも練習しま ドをスクエアにしたり、フェザーしたりする す。 役目を果たします。 3. こうした練習はストロークを部分々々に分解す ストロークの最初の部分、ブレードを水に入 ることになり、各部分の技術を向上させることに れるまでの練習(ロールアップと呼ばれてい つながります。また、ウォームアップとして、こ ます) これはリカバリーの終わりにスライドの の順序で漕ぎ進むことがよく行われています。 動きを抑えるように意識してゆっくり出て、 リラックスした状態でわずかに両手を上げ その他の技術練習 てブレードを水に入れることを練習するも 技術練習の使い方: のです。 技術練習は初心者だけのものではありません。 4. 世界のトップ級の選手もルーチンとして同様の技 ポーズ漕ぎ:リカバリー段階で、いろいろな 個所で動きをいったん止めます。 術練習をしていることを目にすることでしょう。 これは姿勢を確認し、バランスの感覚を身 そうすることで彼らも技術の維持向上を図ってい に着けるためのものです。足先の圧力と腰か るのです。 けているあたりの微妙な重心移動によって 艇との一体感をつかみます。 1. ブレードスクエア:つまり、フェザーしない で、直角のまま漕ぐこと スクエアブレードで漕ぐことにより、正し いポイント(キャッチ)でブレードを水に入 れ、またブレードがまだ水の中にあるのにフ 13 給水、栄養、衛生 給水、栄養、衛生は、選手がスポーツに対するときの非常に重要なポイントです。クラブ内のトレー ニングだろうが、国際的な大会であろうが、これらはパフォーマンスに大きな差異をもたらしてくれ るものです。 給水 水分を失うことの影響 運動前後に体重を計測することによりどれほど水分 を失ったか確認できます。 汗として失った体重 影響 2% パフォーマンス低下 4% 筋力低下 5% 熱による疲労 7% 幻覚 10% 心臓発作、死に至ることも 人間の肌は体温をコントロールする主要な部分 た、練習直後の回復用の軽食というものも考えて になっています。きつい練習をしているとき、官 おく必要があります。きつい運動の後は、体の免 選が開いて肌の表面に薄い水分の膜を形成します。 疫システム機能が低下していることがあります。 この水分は体温から来る熱エネルギーによって蒸 運動を終えてから10分以内に摂る炭水化物の軽 発しますが、それが結果的に体を冷却することに 食は免疫システムを急速に回復させてくれます。 なるのです。 目安としては、回復用軽食として次のような量 あなたの冷却システム(つまりは、あなたの体 (体重 1.5kg あたり)が必要です。 内にある水の量ということですが)は肌の表面か 軽いトレーニングの後: ら失った液(汗)の量だけ定期的に補ってあげる z 炭水化物 0.5g 必要があるのです。あまり汗をかいていないとし z たんぱく質 0.05-0.1g ても、激しくなった呼吸によって口から水分を失 きついトレーニングの後: っています。運動時に、その分の液量を飲み物に z 炭水化物 1.0g よって補充しないと、脱水症状になったり、体温 z たんぱく質 0.1-0.2g が上がりすぎたりします。 たとえば、体重 60kg の人は、軽いトレーニング の後、 栄養 食物は体にとっての燃料ですから、体内の燃料 タンクを満タンにしておくために健康的な食餌を z 炭水化物 60/1.5 x 05g = 20g z たんぱく質 60/1.5 x 0.05 = 2g を摂取する必要があります。 計画することは大切なことです。運動選手は、ま この程度の栄養の量は、スナックバーや果実ベ 14 衛生 ースの飲みものに含まれています。包装に記載さ 回復用軽食を食べる前に手を洗ってください れているデータを確認してみましょう! ね!軽食は免疫システムを増強してくれるものな のに、それを食べているときに手から感染してし 回復用軽食は、あくま まったのではお話になりません。また、運動のあ で本来の食餌を補う と、シャワーを浴び、衣類も清潔に保ちましょう。 ものでしかなく、食事 の代わりになるわけ ではありません。 役割責任 条件が急激に危険な状態に変化することがある水上スポーツにおいて、安全は非常に重要なことです。 ローイングを安全なスポーツとして保つためにあなた自身および他の人たちが果たす役割を理解して おくことが重要です。 初心者の役割責任 あなたが18歳以下の人であれば、両親(保護責任者) があなたについて責任を有しています。保護者は、あなた が負うことになる次のような責任事項の確認に関わるこ とになります。 z 自分が抱えている健康上の問題を開示すること。たと えば、喘息など。ほとんどのクラブでは、受けた開示 内容に基づいて安全にローイングに参加できるような 態勢を整えてくれるでしょう。 z クラブが定める最低限の距離を泳げること。その土 地々々の条件によって距離は変わるかもしれません。 z 環境に適合した衣類を着用すること。この点について は事前にアドバイスがあるかもしれませんが、薄手の ものを多く準備しておくのがよいでしょう。 z コーチの助言、指導を受け入れること。 事故があった際、救命胴衣をつ あなたが18歳以上であれば、それはもう自己責任です。 15 けていれば浮いていられます。 クラブで説明を受けた後、以下事項についてはあなた自 転覆 身で行うことになります: z 練習中に転覆してしまったときには、 あなたが使用する器材の安全確認。たとえば、艇の先 次のことを思い起にして下さい。 端部にバウボールを備えているか(※訳注、艇の先端部 z はむきだしのままでは尖っていて危険なので、ボールをかぶ せて保護することになっています)、転覆時に艇の浮力を 確保する空間部のハッチ蓋はきちんと閉められてい 艇から離れて泳いで行こうとして はいけません。 z 艇につかまったまま泳いで押し、近 くの岸に寄りついて下さい。 るか、など z 救命胴衣の操作要領を理解・修得し、着用しなくても よろしいと言われるまでは着用。コックスをやるとき は着用 z 艇が転覆してしまったとき、あるいは沈み始めたとき の対応の承知 z 水中にいる人に向かって投げる綱などの緊急備品の ローイングは、風、流れ、 使用法の承知 潮の干満、橋脚などによ z 地点特有の危険・障害や航行のルールの承知 z 艇の乗り降りの安全な方法の承知 z 艇、装備品の持ち上げ方、運搬の安全な方法の承知 z 艇、装備品を安全に元に戻し、損傷を生じた場合や不 っ て 危 険 な こと が あ り 具合を報告 z 不適切な衣類、靴は不使用のこと(長靴は転覆時に危 険) z 練習日誌をつける たいへんなリストのようですが、あなた自身および一緒 に漕ぐ人たちの安全を守るために必要なことです。 コックスの役割責任 長さ 18m、幅 6m、最高速度 10 ノットの川舟の船長にな ったと想像してみて下さい。あなたがエイトのコックスを つとめることになったとしたら、それがあなたの指揮する 艇の大きさとスピードなのです。 コックスは安全を確保するための非常に重要な役割を果 たします。コックスは、特に、自信を持って明確な号令を 下し、クルーに有益なフィードバックを与えることにより、 その信頼を勝ち得なければなりません。そうすることによ 16 ます。どうかな?と思っ たら出艇しないこと! って、クルーは素早く、はっきりと反応してくれます。 クルーが艇を持ち上げ、艇庫から出る用意が整ったときか コックスになろう! ら始まり、艇を洗い、オールを格納し、艇をラックに戻す コックスはクルーがパフォーマンスを発揮 まで、コックスが指揮をとります。コックスは、以下のよ する上で大きな貢献をします。もしこの役割 うな責任を果たします。 に興味があったらクラブに連絡してくださ い。多くののクラブはコックス不足なので、 ローイング水域の環境、条件の把握: 会費は無料でトレーニングも無料で受け入れ z 航行ルール てくれます。 z 水門、橋などの障害物、および川の流速あるいは潮の 干満の状況 z コーチとも話し合った上で、またクルーの熟練度に合 った、気象と水面状況の危険度の判断 出艇前の確認事項: z 艇の損傷有無の点検、バウボールはついているか、ヒ ールのひもは結ばれているか(※訳注、転覆時に足が靴か ら容易に抜けるよう、靴のかかとをストレッチャーに結びつけ ておく、ひものこと) 、ハッチ蓋は閉じられているか z 練習メニューについてコーチと打ち合わせ z 自分自身の衣類の確認、救命胴衣着用 水上に出たら: z クルーに明確な号令を下し、全体をコントロールする ▲ バウボール とともに、舵取りを行う z 水面を共有することになる釣り人とかモーターボー トなどの状況に気を配る z ローイングの基本的なポイントについて、クルーにフ ィードバックを与え、激励する z 条件が悪化したら、早めに切り上げるなど、状況の変 化に気を配る 練習後: z 艇の損傷有無の確認。問題があれば報告 z クルーの反省会に参加。良かった点、改善すべき点に ついてフィードバック z クルーのパフォーマンス向上のためにどうしたらよ いか考える ヒールストリングの例 17 ておく必要があります: ストローク席に座る人の役割 z 水域の障害物、および航行ルール 2人以上の漕手が乗る艇では、艇尾にもっとも z 救急箱の所在場所 近い漕手を「ストローク手」と呼びます。1 分間 z 事故時の緊急対応要領 に何回のレートで漕ぐか、また漕ぎのリズム(※訳 z 救命道具の使用法 注、ブレードが水中にある時間と水面上を戻る時間の比率) z 漕手が水泳テストに合格しているか、転覆時 の回復訓練を修了しているかの確認手段 を決めるのはストローク手の役割です。 z 児童保護における適切な実施事項 コーチの役割責任 出艇にあたっては: スポーツとしてのローイングは、なかなか自分 z ひとりで始められるものではありません。ローイ 漕手の熟練度に合った、気象と水面状況の危 険度の判断 ングは技術的に難しいところがあるし、高価な器 z 材を使用するし、危険な状況に陥らないとも限ら 使用する艇と器材の安全確認が十分になされ ていることの再確認 ないスポーツです。ですから、ローイングを学ぶ z にはコーチが必要になります。 着衣が適切かどうか、健康に問題がないかの 確認 ほとんどのコーチはボランティアとして働いて z いるわけですが、彼らは自分たちが教えた人たち 現実的なトレーニング目標の同意、および決 定 が選手として進歩していくさまを見守ることがで z きるという形で報われるわけです。進歩というの (コックスつきの艇にあっては)コックスと 練習メニューの打ち合わせ はレースに勝つということを必ずしも意味しませ z ん。体を鍛えたい、シングルスカルを一人で操り な姿勢でいること たい、人と交わるためにグループで漕ぎたいなど、 個人的な目標を達成することも進歩であり得ます。 漕手の状況あるいは対応振りについては柔軟 z 終了後、漕手と対話して、良かった点、改善 すべき点を強調すること コーチは、あなたがあなた自身の目標を達成す るよう手助けしてくれるでしょう。 漕手の悪いところばかり指摘するネガティブな コーチの責任事項としては次のようなものがあ ります: 指導は過去のものになりました。現代のコーチン z 初心者であれ、経験者であれ、新メンバーに グの考え方は、参加者側の目線に立って、褒める、 対する活動内容と安全の説明 激励する、やる気を持たせることに重点を置いて z クラブの施設と器材の安全点検 います。ほとんどのコーチは、今や、人々が修得 z 各グループのレベルに応じて、それぞれのト するにはいろいろな道筋があるものだということ レーニング計画の立案 を十分に理解しており、それに従って自分のやり 最善のやり方について、最新情報を仕入れて 方を順応させています。コーチングというのは、 おくこと 参加者の声を聞き、フィードバックを与え、彼ら コーチとして、自らの専門性を高めておくこ がどのようにして学ぶのがベストかを理解するの と を手助けする過程のことなのです。 z z コーチは次のような事項に関する知識を修得し 18 コーチになるには: コーチになるには、基礎的な用語やストロ ークの構成、成り立ちを理解しているのはた しかに役立つものではありますが、かつて自 分は選手であったということは必ずしも必要 ではありません。あなたがコーチングに関心 があれば、クラブの人に連絡して、そこのコ ーチと行動を共にしてみてください。イギリ スボート協会が提供するコーチング課程がど んなものか下調べをするのもいいでしょう。 19
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