特定非営利活動法人 九州大学こころとそだちの相談室 第5号 発行日 2010/5/30 こだち NEWS ■ 巻頭言 ■ ■ ■ ■ 「心理の人」への期待 九州大学大学院人間環境学研究院 針塚 進 目次: 特集「心理臨床のこれまで とこれから」 成瀬悟策 先生 村山正治 先生 2 H22年の事業計画 5 H22年3月決算報告 6 コラム・ご支援のお願い 7 掲示板 8 【今年度の事務局】 事務局の体制は、昨年度か ら若干の変更があります。 今年度の事務局は次の通り になっています。 理事長:田嶌 事務局長:中村 相談室長:増田 心理臨床部長:杉本 事務局:石坂 稲員 調 林 板東 宮原 宮本 誠一 俊夫 健太郎 浩利 昌子 修平 優子 寛子 充彦 里依子 知加子 (五十音順) どうぞ宜しくお願い致します。 臨床心理士という専門家の資格が出来て20年以上になり、「臨床心理士」とい う名称もいろいろなところで定着化してきていますが、今でも病院や福祉などの 領域では実際に患者さんや利用者の方への臨床的実践活動を行う人を「心理 の先生」とか「心理の人」という呼び方が普通のところもあるかと思います。私も35 年以上前の大学院生の頃、精神科の病院に非常勤の「心理」として週2回行って いました。その当時は資格もありませんでしたが看護師さんは私のことを「心理の 先生」と呼んでくれて、外来の看護師さんが「次は心理の先生のところで心理テ ストをしてもらいます」と患者さんを心理室に連れてきます。また、病棟では看護 師さんから「Y(統合失調症)さんが最近落ち着かないようなんです。T先生(医 師)は、薬は効いていると言っていて、心理の先生にYさんと話してもらったらと言 われましたので話してもらえませんか」と依頼される。それから、看護師さんと一 緒に心理劇をする時には「心理の先生がディレクターをしてくださいね」と念を押 されることもある。このように病院内での事務、検査技師、薬剤師などの他の職種 の人からも「心理の人」という呼び方で、心理テストをしたり、患者さんと話をしたり する人という役割が期待されていたように思えます。特に、統合失調症の患者さ んの落ち着きがない場合など、それは病気のせいということとは別に、何か不満 や言いたいことがあるようなので「心理の人」に聞いてもらい、患者さんが落ち着 くように、そして何が問題なのか教えてもらいたいという期待を感じました。 子どもの発達相談や不登校の相談での親面接をしていれば、「先生、どうゆう ふうに接すればいいのでしょうか」と具体的な対応を求められます。また、「主人 からも専門の心理の先生がどう言っているか聞いて来い、と言われています」な どと、子どもへの対応の正解を持っているだろうと思っていて、心理の先生は、自 分たちでは何とも理解できない子どもの気持ちや行動などの原因、そしてその対 処の仕方が分かる人という期待がある。 先日、障害者施設の非常勤指導員として働いている臨床心理の大学院生が、 激しい不適応行動をする人に対して「自分は指導員として対応するのか、心理の 専門家として対応するのか」ということに迷っていました。これは「心理の人(専門 家)」は何をするのかという考えや施設で期待されている自分自身の不安なので しょう。 現在は、臨床心理士が多くなり、多様な場で実践していますが、その「心理の 専門家」が来談者のみならず周囲の人から何を期待され、それにどのように対応 しているのかについて、どのように意識し、実践しているのでしょうか。さらに「心 理の人」が社会から信頼される専門家になれるよう一緒に考え、実践をしていき たいものです。 こだち NEWS 特集 心理臨床の これまでとこれから このたび当法人では、本邦において草創期より心理臨床の発展をリードして来られました成瀬悟策先 生、村山正治先生をお招きし、特別講演会「心理臨床のこれまでとこれから」を開催する運びとなりまし た。心理臨床のこれまでの発展について学び、これからの展開を考える機会としたいと考えております。 今回、講演会にあたって講師の先生方にご寄稿をいただきました。 心理臨床のこれまでとこれから ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 成 瀬 悟 策 吉備国際大学大学院教授、九州大学名誉教授 1.私論:これまでとこれから 表記のような主題でシンポをやるから出てこいとい う田嶌理事長の命令を承けるに当たって迷った。臨床 心理など未だないし、そんなものが成り立つなど全く 考えられなかった当時からの此の国の歴史が課題かと も考えたが、それよりも、その渦に巻き込まれた自分 のこれまでとこれからを話すことにした。 精神分析もカウンセリングも、共に内容中心だが、 私の心理臨床の経験では内容よりも仕方(様式)中心 がより有効の場合が多いと思われた。その立場には、 先ず催眠療法だし、ジェイコブソンの漸進弛緩、シュ ルツの自律訓練、エリクソンの暗示療法も挙げられる し、白隠の軟蘇の法から東洋的な呼吸法、座禅、気 功、動作法などもそれに与する。 2.催眠が今でも私の心理臨床の基盤 大学1年の時催眠に魅入られて現在まで、私の心理 4.面接の流れの中でもクライエント さて方法論はこれくらいにして、实際の心理臨床60 余年の経験から、ことに心理治療の流れの状況から、 そのプロセスをまとめてみると、おおよそ以下のよう なことがいえそうである。もちろんこれらは全く私の 私論だから、立場を異にする人たちからのご批判を仰 いで必要な修正を加えてゆきたい。ただ、これは始め に立場ありきではなく、臨床の事实に基づいたまとめ という意味で、公共的なものに育ててゆきたい為のた たき台と受け取っていただきたい。 先ずその内容よりも体験の様式(攻撃・退行・エロ など)の流れを堪能しながらよくなる場合が目立つ。 ばんきょ 臨床の基盤に盤踞したままだし、意識体験の背景で広 大な無意識活動を顕在化して、その活用を容易にする からである。催眠は暗示によるトランスで、イメージ と動作を实感化・現实感化するのが本質だし、催眠中 の体験の仕方が实感的であるほど心理臨床の効果があ がりやすい事实に何度も出会った。 3.遍歴の末に 催眠から始まった歴史の故もあって精神分析の教育 分析へ2年間ほど毎週通ったが、その説明が自分の臨 床経験にしっくりこない。当時始まったばかりの行動 療法に10年ほどの間本気で凝ったが、こころを軽視す る方法に馴染めない。そのうち未練の残る催眠中の体 験に舞い戻り、その扱い方を内容中心と仕方(様式) 中心に分けると、現代の心理臨床の在り方の全貌を眺 め易いことに気づいた。 Page 2 ごと またその人毎によくなるための治療体験というべきも のがあって、それが体験できるとよくなる。治療面接 の複雑・多彩な体験の中から、意識的・無意識的に必 要な体験を自分で選び、身につけてゆく。ある程度よ くなれば、それを契機に、その後は自分により適した やり方でよくなってゆく。 第5号 5.これからの心理臨床への提言・予言 A.こころとからだの一元的対応が必要 これまで主として述べてきた体験の仕方を変えよう とする療法では、これまでのこころを中心とするもの よりも、生けるからだを併せた両者一元的な見方・方 法・理論が必要。体験を広辞苑で引くと“身をもって 経験すること”とある。身とは生ける・生きようとす るからだを通しての経験であり、人間といえども生物 として生き、生理機能で活動し、内外環境へベストに 適応しようと努力している存在だから、みみずでも適 応しようとするのと同様、からだの活動を重視するこ ころの働きを体験論として提唱したい。 B.心理臨床は本来的に自己治療が基礎 この点を重視して私は従来から自己催眠・自己コン トロールなどを提案してきたが、人間の主体活動その ものが既に自己処理・自己選択・自己治療・自己自己 対応で生きようとしているという人間理解に基づく。 心理臨床でも治療者が治すための治療者の心構えや治 かな 療関係の在り方、治療理論に適う対応が重視され過ぎ て、治療者依存と過保護を助長し、クライエント側の 生ける力、生きようとする根源的な自己治療の力を嬌 めているのではないかという危惧に基づく。 C.カウンセリングと心理療法を明確に区別するこ とで両者が独自に発展すると予言 我が国ではことのほか両者が混同されたままだが、 これまで述べてきたように、体験への対応の仕方をカ ウンセリングでは意識と知力による合理性や論理性を 含む内容中心、心理療法では不合理・非論理を含む様 式(仕方)中心として区別。もちろん両者を厳密に分 けることは難しいが少なくとも概念的にははっきり区 別することが望ましいと考えている。 心理臨床のこれまでとこれから ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ -スクールカウンセラー事業の成果と知見からの発想- 村 山 正 治 東亜大学大学院教授、関西大学大学院客員教授、九州大学名誉教授 Ⅰ はじめに 私は平成7年から過去15年間、学校臨床心理士ワー キンググループ代表としてこの事業にかかわってきて いる。今回の特別企画では、この経験から学んだこ と、得られた知見から、主題にお応えしたいと思う。 平成22年5月30日に行われる特別講演会の話のポイン トを書いておきたい。 スクールカウンセラー事業(以下SC事業)は、過 去15年間にわたり、心理臨床のダイナミックな発展に とって大きな貢献をしてきたものと認識している。 臨床心理士の活躍の場を提供し、学校という新しい フィールドで、心理臨床に新しい学問的発展を促進し てきた事实がある。また臨床心理士の社会的認知をた かめてきている。 図1 スクールカウンセラー配置校数および予算額の推移(平成 7~19 年度) 予算額 予算額 配置校数 校 数 13,000 5,814 12,000 11,000 4,495 9,000 4,006 8,000 3,274 3,378 7,000 9,547 3,500 3,000 2,500 4,000 0 6,941 8,485 2,174 2,000 4,406 3,000 1,100 1,500 307 154 平成7 4,500 4,000 6,572 5,000 5,500 5,000 4,200 4,217 10,158 4,125 3,994 3,552 6,000 1,000 6,000 11,460 10,000 2,000 (単位:百万円) 6,500 553 1,065 8 9 1,661 Ⅱ SC事業の心理臨床的発展の意義 と成果 ①わが国の学校カウンセリングの歴 史において画期的な国家プロジェト である。15年継続し、現在も多大の 国費と公費を投入されている。 (図1参照) 1,000 2,015 2,250 ②SCは専門性と外部性を評価され、 日本臨床心理士資格認定協会認定の 臨床心理士が選考基準第一項に指定 されている。初めは時給7千円の設 定で事業が開始された。 500 0 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 (年度) ※「スクールカウンセラー活用調査研究委託事業」(平成7年度~12年度)・・・国の全額委託事業 「スクールカウンセラー活用事業補助(平成13年度~)・・・都道府県・指定都市に対する補助金 出所:文科省「児童生徒の教育相談の充実について(報告)」(2009年3月)10頁より Page 3 こだち NEWS Ⅲ SC事業には新しいシステムを創造して対応してき たこと ①学校臨床心理士WGの創設 日本臨床心理士資格認定協会、日本臨床心理士会、 日本心理臨床学会の団体の合同のシステムであること に特色・SCのバックアップシステムの構築 ②全国学校臨床心理士担当理事コーデネイターシステ ムの創設 この役割と機能は、学校臨床心理士WGの都道府県 版と理解していただくとわかりやすい。 ③毎年の全国研修会(15回目)でSCの専門性のレベル を維持拡大・経験知の蓄積・SC相互の情報交換と交 流・新人研修 ④学会シンポジュウムで、文部科学省の要人を招待し てSCに实態と研修の事实を見ていただくこと、SCのモ ラールの高揚など ⑤これまでの知見の出版刊行。 ⑥文部科学省との情報交換・連絡。 Ⅳ コラボレイーションと他団体方からの批判 ①学校臨床を学校臨床心理士だけで独占できなくなっ てきている。規制緩和、社会的問題の質的変化などか ら、21年度からスクールソーシャルワーカーが導入さ れている。 ②他団体から学校臨床心理士に対する独占の批判や、 注文を文科省へ提出する事態が起きている。ここで は、指摘するだけにとどめておきたい。 ③新人SCへの現場からの厳しい評価が出てきている事 实もある。 Ⅴ SCの発展のための4要因 ①社会が専門性の高いSCの必要性を認識しているこ と。社会的要請 ②社会的課題(不登校、いじめ、虐待などの心理的課 題)に教師と協力して対応できる専門家の存在と、そ の養成課程の信頼性、サポートシステムが明確である こと ③その専門家に対する報酬が確保できること ④専門家の仕事に対する政策科学的評価研究がきちん 成瀬悟策 先生 1924年岐阜県生まれ。 1950年東京文理科大学心理学科卒業後、東京文理 科大学助手、東京教育大学助手を経て、九州大学 教育学部助教授、教授、学部長、研究科長を歴 任。1988年九州大学定年退官後、1993年まで九州 女子大学・九州女子短期大学学長を務める。現在 は九州大学名誉教授・吉備国際大学教授。日本心 理臨床学会初代理事長、日本リハビリテイション 心理学会理事長・日本臨床動作学会理事長。医学 博士、臨床心理士。2001年、勲二等瑞宝章受章。 Page 4 とされること。ユーザーからの厳しい評価に耐える实 力を維持できること、事例や統計的研究も含める幅広 い評価システムを発展させること SCのこれからの発展の方向 現在の事態に対応するには、これまでの学校臨床心 理WGにとらわれない新しいシステムの創造で対応し て行くことが必要である。私が関心を持っている方向 を列挙しておきたい。 ①15年間にわたる臨床経験から学校臨床心理士のなか から「SCスペシャリストが続々誕生している。この専 門家群が創造的に活躍できる場を用意できるか。 ②臨床心理士プラス新しい養成システムの創造 新人SCの学校からの評価が厳しいことは認識してい る。これは、新人の個人的問題ではなく、2年間の養 成課程では、SCの訓練が不十分であることはさけられ ない。そこで、たとえば、臨床心理士資格プラス1年 間の訓練課程を創設する必要がある。 ③臨床心理士の緊急支援活動は社会や自治体から高い 評価を得ている。SC事業と関連しながら注目していい ことである。九州モデル、兵庫モデル、大阪モデルな どさまざまなモデルがある。コミュニテイ援助学やグ ループなど新しいアプローチが役立つフィールドであ る。 ④地方の時代の到来 SCの発展でもっとも注目しなけ ればならない課題である。 ⑤SC評価のため、独自のシステムの開発が必要であ る。先日触れたスペシャリスト集団がメンバーとして 入るプロジェクトの結成が必要である。 Ⅵ Ⅶ 終わりに SC事業を通じて、これからの心理臨床の発展とその 方向を見てきた。発展の方向は、私のまったく個人的 な意見であることを明記しておきたい。 これから心理臨床を担っていく若い院生の皆さんの 刺激になればありがたいことである。 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 村山正治 先生 1934年東京都生まれ。 京都大学教育学研究科博士課程修了。京都市教育 委員会カウンセラーを経て九州大学教養部助教 授、教育学部助教授、教授、学部長、研究科長を 歴任。1997年九州大学定年退官。 現在は東亜大学大 学院教授・関西大学大学院実員 教授・九州大学名誉教授。人間性心理学会理事。 PCAグループ、学校臨床心理士WG代表。 教育学博士、臨床心理士。 第5号 H22年度の事業計画 -行政と大学との協働による展開- 当法人は、大きくは「臨床心理サービス事業」「協 働事業」「研修事業」「研究事業」の4つの枠組みで 事業を展開をしています。 平成22年度の主たる事業計画として、臨床心理サー ビス事業ではカウンセリングルーム「こだち」の運営 を中心に、家庭学習支援事業、思春期居場所支援事業 (ここりーと)を継続的に展開する他、九州大学の先 生方の協力の下に一般市民を対象とした臨床心理学講 座「九大こだちゼミナール」を企画实施します。研修 事業では昨年度に引き続いて「こだちロールシャッハ 研修会」「セラピスト・フォーカシング研修会」を企 画します。加えて、一昨年度に企画し好評を得ました 「現場で实践するための心理アセスメント講座」を改 めて企画いたします。協働事業においては、カウンセ ラーや講師の派遣を継続的に实施する他、地域のニー ズに応じた臨床心理学的支援の展開を試みていきたい と考えています。 以上のこだちで展開する事業に加えて、今年度は大 学との連携による「心理臨床人材育成事業」、そして 福岡市との共働事業として「メンタルサポート事業」 が予定されています。 福岡市共働事業「学校生活の適応に困難を 抱える児童生徒へのメンタルサポート事業」 福 岡 市 共 働 事 業 提 案 制 度 と は、平 成 20 年 度 か ら 「NPOと市がともにはたらくプロジェクト」として導 入されている新しい事業展開の形です。行政やNPOの どちらか一方の主導による従来の委託や補助事業とは 異なり、NPOからの事業提案をもとに、企画段階から NPOと市が対等な立場で協議・調整を行い、事業採択 後は、市とNPOが共働協定書を締結し、实行委員会を 組織して事業を实施していくことが特徴です。 昨年度を通して、教育委員会教育相談課をパート ナーとして協議を進めた結果、「学校生活の適応に困 難を抱える児童生徒へのメンタルサポート事業」とし て今年度の实施を採択されました。 福岡市教育委員会教育相談課との共働にて、学校現 場へのスクールメンタルサポーター派遣の運営および 「こころの授業」(ストレスマネジメント授業,構成 的エンカウンターグループ等)の实施を展開します。 また、当法人の思春期居場所支援活動「ここりーと」 との活動を拡充し、教育相談課との連携した支援を 行っていきます。 九州大学P&P「心理臨床人材育成事業」 九州大学教育研究プログラム・研究拠点形成プロ ジェクト(P&P)は、教育と研究の一層の発展を図る ことを目的として九州大学に設けられているもので、 このたび心理臨床に携わる人材の育成システムの構築 を目標に、大学とNPOの共同プロジェクトとして採択 されました。 臨床心理学に対する関心が高まる現代社会におい て、多様な期待・ニーズに応えられる、より实践的な 实務能力を備えた臨床心理士が求められています。一 方で、現場では新たに臨床心理士の立場や役割を築い ていかなければならない状況も多く、そのような中で 初心者は戸惑い、苦労することも多いかと思います。 当法人は臨床心理学の発想にもとづく地域貢献を展 開するとともに、臨床心理学の文化を普及していくこ とを志しており、将来、心理臨床の現場で活動をする 人材の育成も我々のミッションの一つと考えていま す。当法人の支援活動には大学院生も携わっており、 そこでの経験が大学院生の研修に活かせるようシステ ムの構築を図ります。また、当法人の活動で得られる 地域の専門家との関わりも、将来の实践の糧となる “生きた”人的ネットワークを構築することに役立て られるのではないかと考えています。 そのほか、大学院と協働によって初心者・若手の心 理臨床専門家に対する特別講演会の開催を計画してお り、また有効な卒後研修の企画立案に向けて検討をし ていきたいと思います。 平成18年10月にNPOとして正式に認可されて以来、 会員の皆さまや関係の方々に支えられ、おかげさまで 当法人の活動も4年目を迎えることとなりました。当 初に比べると幅広く事業が展開され、当法人と臨床心 理援助に寄せられる期待の大きさを感じます。上記の よう、今年度は大学や行政と協働した事業展開によ り、より一層の発展を志していきたいと存じます。 一方、地域社会のニーズに応えていくためにも、よ り安定した体制を作る必要があります。事業を展開す る一方で当法人の内部体制の充实・効率化を図ってい く所存です。 今後とも、ご支援ご協力のほどを何卒よろしくお願 い申し上げます。 心理臨床部長 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 杉本 ■ 浩利 ■ ■ Page 5 こだち NEWS H22年3月決算報告並びにH23年3月期計画 会費収入 事業収入 事業費・管理費 経常収支差 H23年3月期計画 H22年3月期決算 1,156千円 22,831千円 23,360千円 626千円 1,368千円 15,247千円 16,981千円 △231千円 H22年3月期は、会費収入が前期比94千円増額し ました。 事業内容としては、このNPO法人の主要業務であ る臨床心理サービス事業のうち、カウンセリング ルーム「こだち」における心理面接業務は、前期 が1277回だったのに対し、今期は1328回と増加 し、家庭学習支援業務も年間20件の利用がありま した。また、フリースペース「ここりーと」事業 も継続的に活動しています。 研修事業では新たに立ち上げた「こだちロール シャッハ研修会」を含む3企画を实施しました。 学校・企業等との協働事業では前年より講師の依 頼が増加したことが特徴で、臨床心理学に対する 多様なニーズを感じさせられました。また介護福 祉職を対象とした心理教育研修も展開しました。 事業収入総額では前期比55千円の増額となりまし た。 - H21年3月期決算 1,274千円 15,192千円 16,576千円 △68千円 一方、事業・管理費では、臨床心理サービス業務 等事業の拡大および管理体制の強化に伴う人件費の 増加等により405千円増となり、この期の経常収支 は前期に続いて赤字となりました。 H23年3月期は、新たに福岡市との共働事業や九州 大学P&Pなど、行政や大学と連携・協力をした事業 展開を行う計画です。また、九州大学の教員の協力 を得て、市民を対象とした臨床心理学講座を企画实 施いたします。 一方、大学・社会人等支援の協働事業が前期で契 約が終わっており、次期以降の経営の安定のために は、自主事業の発展や新たな事業の開拓を図る必要 にせまられています。 今後も、福岡に臨床心理学の文化を普及させるた め、法人経営の安定化を目指し、私達はあらゆる面 で努力する所存です。 市民向け臨床心理学講座 - ~臨床心理学のエッセンスに触れる1年間~ 「九大こだちゼミナール」では、九州大学の臨床心理学を専門とする教授陣が、一般市民の皆さまに対して、 毎回様々なテーマでわかりやすく講義を行います。皆、臨床心理士の資格を持ち、現場での実践と研究を積み重 ねてきたプロフェッショナルばかりです。2010年度のテーマは、「人間関係とストレス」です。 ■ 日 時(1回2時間:13~15時、全8回) 第1回 6/19 (土) 「概論-対人関係とストレスコーピング-」 増田健太郎 准教授 第2回 7/17 (土) 「ストレスとじょうずにつきあう―実習を交えて」 田嶌誠一 教授 第3回 8/21 (土) 「人との付き合い、自分との付き合い」 福留留美 教授 第4回 9/18 (土) 「自分の日々の生活体験を振り返る」 吉良安之 教授 第5回 10/9 (土) 「こどものこころとストレス」 松崎佳子 教授 第6回 11/13(土) 「ストレスの効用」 佐々木玲仁 准教授 第7回 12/18(土) 「人間関係力を高めるグループアプローチ」 野島一彦 教授 第8回 1/22 (土) 「動作法によるストレスマネジメント」 針塚進 教授 ■ ■ ■ 場 所 九州大学西新プラザ 中会議室(福岡市早良区西新2-16) 受講料 30,000円(2010年度NPO会員は27,000円) 定 員 30名(先着順) Page 6 第5号 ■ コラム ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 防衛省陸上自衛隊湯布院駐屯地 臨床心理士 佐竹圭介 旬のもの ある飲み会の席で「一番好 きな食べ物」の話になったこ とがあります。みんなそれぞ れ,あれが好きだ,これがお いしいなどと話していたとき,ある先輩が「僕は”旬 のもの”を食べるのが好きだねえ」と言われました。 そのことばは实にその先輩らしい(変わった)ことば ではあるのですが,それ以来,私は「旬」ということ を意識するようになりました。 『大辞林』(三省堂)によると「旬」は「①魚介 類・野菜などの,味のよい食べ頃の時期。出盛りの時 期,②物事を行うのに最適の時期,③その時期に注目 され,話題となっていること」などとされています。 心理臨床の仕事には特に2番目の「旬」が重要な意味を 持ちます。「いかに適当な時期に適当な援助を適当な 度合でおこなうか」,つまり「旬」を見極めるという ことが,かかわりの質を決めるとも言えます。そこに は「待つ」というかかわりが重要なときもあります。 作物が生長するのを見守るように。 例えば,不登校のお子さんを抱える母親や教員は少 なからずこう感じます。「どのタイミングで学校に 誘ったら良いのか?」。そのタイミングを計るのが難 しいのは,その子の「旬」を計りかねているからに 他なりません。そして,問題がこじれてしまうの は,その子の「旬」が無視されていたり,こどもと おとなの「旬」が食い違ってしまったからだと言え ます。 「旬」は常に自然とつながっています。「考え」 や「慣れ」,「外からの圧力」などに歪められず に,自然の流れをそのまま味わうことができていた ら「旬」はおのずと立ちあらわれてくるものです。 もしかすると,わたしたちが食材の「旬」に鈍感に なっていることと,何か動き始めるときの「旬」を 感知することが苦手になっていることとは案外,関 係しているのかもしれません。 「旬」を楽しむことで,季節の移り変わりを味わ い,その大きな流れの中に自分が存在する,という ことをしみじみと感じる,そんな豊かな文化が日本 にはあります。今夜の夕飯に一品,旬のものを使っ てみてはいかがですか? ご支援のお願い 九州大学こころとそだちの相談室(こだち)が 発足して、4年が経とうとしてます。 地域にも定着し、住民に貢献できる「こだち」に 事業を継続するには、収支の安定が求められます が、上記の様に経常収支は厳しいものがありま す。 NPO法人として、臨床心理サービス事業を維持 し拡充するには、皆さま方のご支援が頼りです。 会員になっていただき、私達の活動を支えていた だけないでしょうか。 また、会費は入会金ではなく1年毎の更新制です ので、会員の方で、これまでの会費をまだ支払わ れていない方は、是非お支払の程宜しくお願い致 します。 何口でも構いません。会員になっていただけ る方は、「こだち」までご連絡下さい。 よろしくワン☆ 会員・会費とは、 正会員:この法人の趣旨に賛同し、その目的実現のた めの事業を推進する個人のうち、臨床心理 士の資格を有する方、及び同等以上の能力を 有すると理事会が認証した方 年会費(一口 5,000円) 準会員:この法人の趣旨に賛同し、その目的実現のた めの事業を推進する個人のうち、正会員・ 学生会員以外の方 年会費(一口 5,000円) 学生会員:この法人の趣旨に賛同し、その目的実現の ための事業を推進する個人のうち、臨床心 理学を専攻する大学院に在籍する方及び修 士課程終了後1年以内の方 年会費(一口 1,000円) 賛助会員:この法人の趣旨に賛同し、事業を賛助して いただける方、及び団体 年会費(個人一口 5,000円、 団体一口 10,000円) Page 7 掲示板 こだちよりお知らせと募集 研修会のお知らせ こだちロールシャッハ研修会 現場で実践するための心理アセスメント講座 ロールシャッハテストはクライエントの内的世 界の理解に役に立つ心理検査として様々な臨床場 面で利用されています。こだちでは、検査から得 られた情報を総合的に理解するために、事例を通 した研修会を行っています。 昨年度ご好評につき、今年度も、6/27から全7回 実施します。 日 程 第1回 2010年 7月18日「心理アセスメント総論」 第2回 2010年 8月29日「医療領域における質問紙法とアセスメント」 第3回 2010年 9月19日「児童福祉領域の発達アセスメント」 第4回 2010年11月14日「知能検査と発達障がいのアセスメント」 第5回 2010年12月12日「描画法によるアセスメント」 第6回 2011年 1月30日「箱庭療法におけるアセスメント」 講 師 講師補佐 対 象 講 対 定 員 受 講 料 吉岡 和子 先生(福岡県立大学 講師) 吉田 加代子 先生(賀来メンタルクリニック) 臨床心理士有資格者又は現在現場で ロールシャッハを施行している方 先着30名 25,000円(当法人会員:22,000円) 師 象 定 員 受講料 第一線で活躍する現場経験豊富な講師が交代で担当 臨床心理士の有資格者または臨床現場で 心理アセスメントを实践している方 先着30名 30,000円(当法人会員:27,000円) ●受講希望者受付中です。お気軽にお問い合わせ下さい。 研修会のお知らせ セラピスト・フォーカシング研修会 交通のご案内 ■■■■■■■■ 臨床面接の場におけるセラピストの体験をフォーカ シングを用いて、ゆっくり味わい確かめていくセラピ スト・フォーカシングの研修会です。 ご好評につき、今年度も9/12から全6回実施します。 講 対 師 象 吉良 安之 先生 (九州大学大学院教授) 心理臨床経験または心理臨床实習経験があり 守秘義務を有する方。大学院生の参加可能。 定 員 先着15名 受講料 25,000円 (当法人会員:22,000円、学生:20,000円) 会 場 九州大学西新プラザ 3F和室 ●受講希望者受付中。お気軽にお問い合わせ下さい。 ■ ■ ■ ■ 地下鉄でお越しの方 ■ ■ ■ ■ 福岡市営地下鉄空港線西新駅下車後 7番出口より徒歩にて約10分 編集後記 こだちにいて感じるのは、何といっても人の縁。 こだちは、先生方から大学院生まで、様々な形で関 わっています。今後もご縁を大切にしつつ、心理臨 床のこれからに携わっていけたらと思います。(m) 特定非営利活動法人 お 願 い 駐車スペースが限られておりますので なるべく公共の交通機関をご利用下さい。 九州大学こころとそだちの相談室 〒814-0002 福岡市早良区西新2-16 九州大学西新プラザ内 産学交流棟 TEL 092-832-1345 FAX 092-832-1346 HP http://www.geocities.jp/npo_kodachi/
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