こだち News - 九州大学こころとそだちの相談室

特定非営利活動法人 九州大学こころとそだちの相談室
第 13号
発行日 2012/11/23
こだち
目次
News
■
こだち
臨床活動紹介
2
フィンランド
訪問記
3
掲示板
4
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■
こだち6周年―「こころ」の臨床の文化を育てるために―
六周年記念特別講演会
「私たちの臨床での
こころの理解」
講師:松木 邦裕先生
(京都大学大学院教授)
2012年11月23日(金・
祝) 14時~16時
九州大学西新プラザ 大会
議室
司会:徳田智代先生
(久留米大学准教授)
今年度もこだちは、みなさまの
ご支援をいただきながら、さま
ざまな活動を行っております。
◇カウンセリングルームこだ
ち、家庭学習支援、居場所活
動ここりーと
◇九大こだちゼミナール(市民
向け公開講座)、臨床動作法
研修会、こだちロールシャッ
ハ研修会、こだち研修会「病
院臨床を学ぶ」
◇山上先生公開スーパービジョ
ン(5月19日開催)
◇公務員・企業管理職・対人援
助職等研修会(派遣講師:増
田健太郎、針塚進、菊池悌一
郎、本山智敬、姫島源太郎)
宍戸 靖子
九州大学こころとそだちの相談室 理事
「こころと法律の相談会」とい
う、弁護士と、臨床心理士や精神保
健福祉士とが二人一組で、市民の相
談を受けるイベントに参加した。そ
こで、弁護士が、短時間で来談者の
話の要点をつかみ、法的な立場から
助言するのをまのあたりにした。そ
れは、来談者自身のこころの迷いや
葛藤に時間をかけてよりそう心理臨
床とは、随分違う相談活動のやり方
だった。医療なら薬という具体的な
もの、法律の相談なら的確なアドバ
イスという効力のあるものが提供さ
れるが、目にみえない「こころ」に
むかいあう私たち心理職は、いった
い何を提供できるのだろうか。
人生のなかでぶつかる悩みのある
ものは、医療や法律などの援助の対
象になる。しかし、私たちの悩みの
なかには、そうした援助で解消でき
ないものもある。家族にも友達にも
誰にもいえないこころの苦悩を、一
人で抱えてきている人もいるだろ
う。その孤独がつらすぎる時や問題
が重すぎて抱えきれない時、人がい
るところでそれを話すことは助けに
なる。「こころ」の臨床では、一人
ひとりの悩みや迷いや不安に耳を傾
ける。「聴くこと」こそが、私たち
が提供できる第一のものである。
ところが、「聴くだけですか」と
いわれることがある。また、聴くこ
とは副作用があるとの意見も、私た
ち心理職の内部にもある。それは、
聴き方の問題だと、私は考える。悩
みを抱えて相談に来られる方は、そ
の悩みで孤軍奮闘し、さまざまな情
報を調べ、いろいろなアドバイスを
ためし、苦しい努力をしてこられる
ことが多い。たとえば、不登校の子
どもをもつ母親は、誰よりも子ども
にむかいあい、一日中子どもを思い
心配しておられるだろう。それなの
に、相談員が、目の前の母親の気持
ちをくむより、子どもの代弁をして
しまったら、来談された母親は気持
ちが伝わらない感じがするだろう
し、自分を責める思いを強めてしま
うだろう。残念ながら、そうした失
敗を、私もしてしまうことがある。
気持ちが伝わらないと来談者が感じ
る時、「聴くだけではダメなんで
す」ともやもやした不満からアドバ
イスを求めたり、話したことを後悔
して不安になったりするのだと思
う。よりよく聴くには、私たちは来
談者が伝えようとする体験をまだ充
分にはわかっていないという自分の
限界をみとめ、もっと理解するため
に対話を続ける必要がある。
6周年を迎えた「こだち」の活動
は、社会的に認知されてきている。
これまで、「こだち」を支えてくだ
さった皆さまに感謝したい。「ここ
ろ」の臨床が地域社会に根付くこと
をめざして、私たちはいっそう研鑽
にはげまなければならない。
こだち臨床活動の紹介
こだちでは、様々な心理臨床活動を行っています。今回は、そんな活動について紹介します。
カウンセリングルーム「こだち」
こだちでは、臨床心理士資格をもつ相談員が面接を行っています。対象は子どもから大人までさまざまで、相談内容も子育
てや家庭に関する悩み、自分自身に関する悩みなど多岐に渡っています。
初回6,000円、その後の継続面接は1回50 分で4,000円(本人と保護者の並行面接は6,000円)となっています。その他、心
理検査は面接料金とは別に2,500円(簡易なものは1,000円)、SVの部屋の提供も1時間1,000円で行っています。申し込みは
相談者からの電話にて受け付けています。お申し込みののち事務局にて担当相談員や引き受け可能なケースかを検討し、
折り返し初回の日程をご相談させていただきます。なお、申し込みから初回の日まで2~3週間程度かかります。
こだち面接室(一番右は待合室)
コラム ~カウンセリングあれこれ~
こだちでは個人面接一回につき4,000円の面接料金をいただいています。これはもちろん、こだちという組織を社会的に成り立
たせていくために使わせていただいているものですが、実はこの面接料金、カウンセリングをカウンセリングたらしめるためにも重
要な意味を持っています。
カウンセリングでは、誰にでもは話すことのできない個人的な、でも重要なテーマについて話し合われることがよくあります。その
ようなとき、語る人はどこかで「こんな話をしてしまって」といった申し訳なさや「馬鹿にされるのでは」といった不安などが出てきて
しまうものです。お金を支払うことによってそのような気持ちが低減し、カウンセリングの時間を目一杯自分のた
めに使うことができるという効果もあるのです。
他にも信頼性を強めたり、サービスの保証を表したり、面接の枠組みになってくれるなど、面接料金ひとつとっ
ても、いろいろな役割があります。お金というものはいろいろな感情や意味が乗せられやすいものなんですね。
家庭学習支援事業
家庭学習支援事業とは、不登校や発達障害などの背景から、「学習」と「こころ」の両面からの支援が必要なお
子さんに、「家庭学習支援員」を派遣し、ご自宅での学習サポートを行う、というものです。家庭学習支援員は、
九州大学及び大学院で心理学を専攻している学生が中心となっています。特別な指導法を持っている訳ではありま
せんが、心理学的な知識や経験を活かし、また学生ならではの熱心さを持って、お子さんとの信頼関係の構築を目
指します。学習を中心とした厳しい現実に向き合うのに、支援員との信頼関係は不可欠だからです。また、その関
係を作る過程自体にも、人との間で傷つきを抱えたお子さんにとっては、大きな意義があると考えています。
支援員を派遣するにあたり、保護者の方には定期的にこだちにて面接を受けていただき、お子さんの支援につい
てともに考え、支援員への指導に活かします。また、支援員には、こだちでの研修を受けて、資質の向上に努める
ことも求められます。
こだちでは「現実を扱うことは、心を扱うことである」という考えのもと、ご家庭に支援員を派遣
し、学習サポートを通した支援を行っています。学力向上や成績向上を主な目的とはしていませんの
で、雑談や遊びが中心となることもあります。事業は①支援員の派遣(1回6,000円)、②保護者との
面接(通常の面接料金をいただきます)、③相談員と支援員との連携活動とで構成されています。対
象は小学生から高校生(高校卒業後1年目まで)のお子さんです。お申し込みはお電話で。
2
第 13号
フリースペース「ここりーと」
そこに行けば、誰かと出会い、他愛もない話をし、のんびり過ごすことができる…人は誰でも、そういう場所や
時間があることで、少し元気になれたり、希望を持てるのかもしれません。ここりーとは、自由にゆったりと子ど
もたちが子どもらしくその場にいることのできる空間の提供を目的とした居場所活動です。子どもたちが置かれて
いる環境やそれぞれの個性や特徴はさまざまです。
人との間で「ちょっとつかれたなぁ…」という思いをしてきた子どもたちが、家庭の外にも安心して居られる場
所があることに気づいていける場所になればと考えています。子どもの
中には、安心して人と関われるようになることでエネルギーを蓄え、次
第に次の居場所(高校やフリースクール)へと足を踏み出した子どもた
ちもいます。
毎回のスタッフ同士でのシェアリング、保護者面接担当者との情報共
有から、子どもの様子を考えながら活動を進めています。内部で連携す
ることでスタッフも安心感をもってかかわることができています。ま
た、大学院生を中心としたスタッフも一人のメンバーとして、自由に主
体的に参加できる場所であってほしいと思っています。
対象はこだちにて本人もしくは保護者が面接
を継続している、10~18歳の男女。活動日時は水
曜日と金曜日の13時~16時、こだちのプレイルームで数人の子どもと数人のスタッフ(合計
5~6人程度)で活動しています。活動内容は、その日の利用者の希望や状態によって決ま
り、話したり遊んだりと自由です。時には誕生日会やBBQ等のイベントを行うこともあり
ます。利用料金は月5,000円です。
フィンランド訪問記(増田健太郎
こだち専務理事)
皆さんは、フィンランドと聞いて何を思い浮かべますか。ムーミン?サンタクロース?オーロラ?サウナ?でしょうか。教育関係
者の間では、2000年にPISAの学力調査で上位を占めたことから、「なぜ、学力が
高いのか」と注目が集まりました。
この秋私は、九州大学の研究のフィールドワークの一環としてフィンランドに行き、
ホームステイをしながらオウル大学での授業、幼稚園から小中学校での授業観
察・面接、小1から中3までの授業を行ってきました。フィンランドの正式名称は
SUOMI-FINLAND、スオミとはフィンランド語で美しい湖という意味です。面積は日本
よりやや小さく、人口は450万人です。
驚いたことは、学校が非常にきれいで機能的であること、教室にスマートボードが
完備されていることでした。学級の人数は15名前後でアシスタントティチャーもおり、
教育環境は非常に恵まれています。学力の理由のひとつはこの環境にあるのだと
思います。「教育は幼稚園から大学まで無償」です。
ゆったりとした職員室(上)
学校にはスクールセラピストとスクールソーシャルワーカーがいて、子供達の問題
は担任ではなく専門家と管理職が対応していました。先生達は、休憩時間は北欧
大学での授業風景(下2枚)
のすてきなソファでお菓子とティで談笑し、午後3時には帰宅。ビジネス
マンも午後4時には帰宅し、午後6時には家族そろってディナーです。そ
の後は、家族で白夜を庭で楽しみます。
「どうしてこのような生活をして学力が高いのか」と聞くと、「読書をする
習慣があることと家族の会話、そして、自然環境に触れながら探求心を
養う教育をしているからではないか」との答えでした。ワーク&ライフバラ
ンス、日本でもずっと言われてきたことですが、フィンランドはまさにそれ
を行っている国です。なおかつ、EUの中では経済的に安定している。先
生もビジネスマンも、仕事とプライベートをしっかりと分けて考えていて、
バカンスも8週間しっかりと楽しんでいます。私もウィークエンドには、郊外のコッテージに行き、ハイ
キング・ブルーベリー狩り、サウナ、そして、湖に飛び込むという貴重な体験をしました。
教育政策・福祉政策とも見習うべき点がたくさんある国だと実感しました。親日家がとても多く、
東京からヘルシンキまで9時間半です。皆さんも一度、尋ねてみられてはと思います。
3
掲示板
こだちよりお知らせ
書籍紹介
研修会のご案内
コンセンサスロールシャッハ法
青年期の心理臨床実践にいかす家族関係理解
髙橋靖恵 著
金子書房
「働く人のこころの健康を支えるために」
福岡県精神保健福祉協会 平成24年度冬期講座
福岡県精神保健福祉協会では、上記テーマ
で職場における心の病気や対応について理解
を深めることを目的に研修会を開催します。
近年話題になっている認知行動療法につい
ても取り上げる予定です。
多様化する現代青年の心の
問題とその家族の理解と支援
について。青年と家族にかか
わる心理アセスメントにとど
まらず、フィードバックを心
理療法にいかすためのコンセ
ンサスロールシャッハ法の理
論と実践を、豊富な事例を用
いて詳解する(金子書房ホームページより)
2月にはこだちロールシャッハ研修会でも
特別講師をお引き受けいただいています。青
年とその家族を見つめ続けてきた著者の、臨
床経験の結実と言える本になっています。ご
一読ください。
期日:平成24年12月12日(水)
場所:春日市原町3-1-7 クローバーホール
対象:保健師、医療・福祉関係職員、教諭、その
他関心のある方
講師:中村純(医師、産業医科大学教授)、中島
美鈴(臨床心理士)
定員:300名
受講料:2,000円
問い合わせ:092-584-8720
(福岡県精神保健福祉協会)
○入会のご案内
こだちは今年で7年目を迎えます。地域に定着した心理臨
床サービスを継続するには、収支の安定が求められます。
NPO法人の会員となって私たちの活動を支えていただけ
ると幸いです。会員になっていただける方はぜひこだちま
でご連絡ください。なお、会費は1年毎の更新制です。よ
ろしくお願いします。
交通のご案内
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○ご支援のお願い
当NPO法人では会員以外の方からも、ご寄付をおまちし
ております。関心や興味をもたれた方はぜひご連絡くださ
い。
編集後記 気がつけば今年も残すところ1カ月余り、こだち
にも木造建築の寒さと戦う冬がやってきます。今号のこだち
NEWSでは、日々の臨床活動をあらためて知っていただきたい
と思い、特集を組みました。さまざまな活動がありますが、ど
の活動でもみなさまにあたたかなかかわりが提供できるよう、
これからも継続していきたいと思っています。(H)
特定非営利活動法人
■ ■ 地下鉄でお越しの方 ■ ■
福岡市営地下鉄空港線西新駅下車後
7番出口より徒歩にて約10分
九州大学こころとそだちの相談室
〒814-0002
福岡市早良区西新2-16-23
九州大学西新プラザ内
産学交流棟
TEL 092-832-1345
FAX 092-832-1346
HP http://www.geocities.jp/npo_kodachi/
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