こだち News - 九州大学こころとそだちの相談室

特定非営利活動法人 九州大学こころとそだちの相談室
第 10号
発行日 2012/2/27
こだち
News
■
■
■
■
■
巻頭言 心理臨床のパイオニアとしてのこだち
目次
特集 氏原寛先生講演会
2
会員の声
2
こだち事業報告
3
九州大学大学院人間環境学研究院
野島 一彦
わが国の心理臨床の世界で、九州大学はパイオニアとしていつも先陣を切ってきました。現在、
24,000人を越えるわが国最大の心理学会である日本心理臨床学会の初代理事長は本学の成瀬悟策先生で
したし、1982年の第1回の年次大会も本学で開催されました。現在の鶴光代理事長も本学出身です。
1988年から日本臨床心理士資格認定協会による臨床心理士の認定制度が発足しましたが、第1号は成
瀬先生です。1996年から臨床心理士養成のための指定大学院制度がスタートしましたが、本学は第1号
です。2005年から臨床心理分野の専門職大学院が立ち上がりましたが、本学は第1号です。
このような本学のパイオニア精神が、九州大学こころとそだちの相談室(こだち)の設立にも流れ
ています。というのは、臨床心理士養成の殆どの大学院は学内実習施設としての臨床心理施設(本学
は総合臨床心理センター)を持っており、そこでの実習を終えた人達が、臨床心理士の資格試験を受
けて臨床心理士となります。そして、臨床心理士の殆どは、何らかの安定した組織(病院、教育委員
会等)に<雇われる>形で仕事に就きます。しかし、臨床心理士が『成熟した職業』として社会的に
認められるためには、そのような形とともに、臨床心理士自身が<自立的>に自分たちの組織を設
立・運営して社会貢献ができなければならないと考えます。ただそのような組織は殆どない状況のな
かで、新しい自立的組織づくりにパイオニア的にチャレンジしようということで、2006年11月25日に
NPO法人としてのこだちが誕生しました。本学のこの行動は、ひいてはわが国の心理臨床の世界全体に
とってもパイオニア的行動ということになります。
しかし、志は高くスタートしたのですが、これまでの5年余を振り返ると、<自立的>な組織運営は
結構厳しいものがあります。レベルの高い事業(臨床心理サービス、研修・研究事業、協働事業)の
展開はかなりできてきているのですが、経済的な面での経営は綱渡りの状態です。しかし、『成熟し
た職業』を目指すためには、経済的な面でも安定化する必要があります。私達は「心理臨床活動」そ
のものについては自信がありますが、「心理臨床経営」については、まだまだ未熟であると言っても
よいと思います。しかし、「心理臨床経営」でも自信が持てるようにならなければ、『成熟した職
業』には至れないのではと思います。今後しばらくは、まだまだパイオニアとしてのこだちの苦労は
続きそうですが、あきらめずに前進していきます。皆様のご協力をよろしくお願い致します。
平成24年度は、次のようなイベントを企画しております。
第6回定時総会
日時:5月19日(土)11時~
場所:九州大学西新プラザ 大会議室
会員のみなさまはぜひご参加ください。
第6回総会特別企画 公開スーパービジョン
講師:山上敏子先生
日時:5月19日(土)午後
場所:九州大学西新プラザ 大会議室
※申込み方法等、詳細は次号に掲載予定です。
特集
こだち設立五周年記念
氏原寛先生講演会
2011年11月23日に、設立五周年記念として氏原寛先生(前帝塚山学院大学教授)を講師に「ひとを理解し、かか
わる―専門職にとってのカウンセリングマインド」として講演会を開催いたしました。
地に根付いた言葉で、時に笑いも交えながら、一人ひとりに語りかけ、問いかけるよう
な2時間となりました。その様子をご報告します。
当日はあいにくの雨模様でしたが、会場の九州大学
医学部百年講堂には臨床心理士や医師だけでなく、教
育や福祉関係者、あるいはそれらを目指す学生など300
名近い方が集まり、わが国の心理臨床の草分けのおひ
とりである氏原先生の言葉に耳をかたむけました。氏
原先生はご年齢をまったく感じさせない声と話しぶり
で、会場のだれもがひきこまれていくようでした。
氏原先生はまず表題のカウンセリングマインドにつ
いて、カウンセリングマインドがどれだけ生かされて
いるかで人間関係のよしあしが決まるというような間
違った考え方があること、さらにカウンセリングマイ
ンドが善意と混同され、善意さえあればカウンセラー
になれるというような誤解が生まれがちであることと
いった指摘から話を始められました。
そして、善意には限界があり、善意と「専門家とし
ての」受容、共感、純粋さとの違いを吟味すべきであ
るということ、加えて、カウンセリングで当然生じて
くるネガティブな感覚をクライエントにどう伝え返し
ていくかということについても、難しいことだが「カ
ウンセラーはやらねばならない」としました。
また、“クライエントは何を感じているのか”を理
解すること(思考的共感)が重要視されているが、
“自分がクライエントに対して何を考え、何を感じさ
せられているか”(感覚的共感)も大切にする必要が
あるのではないかと、私たちが日ごろからなじみ深い
共感という言葉についても、
かえりみる示唆を与えられま
した。
さらに、現代は取り替え可
能な対象との関係が多いと指
摘し、そうなると自分はいてもいなくてもいい存在に
なってしまう危険性があると“かけがえのない存在”に
ついての話題が続きました。自分の子どもがまだ小さい
頃にふと「こいつとビールを飲みたい」と思ったという
エピソードから「『こいつじゃないとダメ』であって、
ほかならぬ自分がほかならぬこいつと飲みたいと思うの
であり、このとても小さなものから自分のアイデンティ
ティが確かめられ、それが生きる意味につながるのでは
ないか」と語られました。カウンセリングでは治療構造
という“かけがえのある”中で“かけがえのない”関係
をつくっていくことになり、それは逆説的で困難な問題
ではあるが、それに取り組まなければならないと結びま
した。
私たちが日ごろ深く意識せずに使っている言葉のひと
つひとつを掘り下げ、真摯に問いなおしていくという先
生のご姿勢は、参加者の心を大きく揺り動かしたのでは
ないかと思います。
氏原先生自身のご経験や故河合隼雄先生とのやりとり
も交えた講演となりました。アンケートからも参加者の
満足度が非常に高いことがうかがえました。
会員のひろば
こだち会員のみなさまの近況や、みなさまからのご案内などを掲載します。
樋口
友理
様(九州大学病院)
先日、こだち記念講演会に参加し、ご高
名な氏原寛先生のお話を聴く貴重な機会を
いただきました。そこで、先生が長年、臨
床家として真摯に向き合われてきたお姿を
垣間見ることができました。私は病院臨床
家としてまだまだ未熟者ですが、患者さん
に「共感的」に寄り添えるようになること
が、これからの目標となりました。
Page 2
金子
周平
様(鳥取大学)
こだちの理事である野島一彦先生の九州
大学ご退職は、とても寂しいことです。し
かし大学やこだちとのつながりをもちなが
ら、九大の臨床が全国に広がると思うと、
どこか嬉しくもあります。野島研究室OBで
ある私も、鳥取県米子の地で、学校でのグ
ループ臨床、遺伝相談、糖尿病患者の支援
などの新しい領域で頑張っています。
第 10号
こだち事業報告
平成23年度もこだちではさまざまな活動を行いました。一年間の活動をご報告します。
◇講演会等
○第5回定時総会特別企画:成田善弘先生を講師にお迎えし、公開スーパービジョンを開催しました。
○設立五周年記念講演会:氏原寛先生をお招きし、「ひとを理解し、かかわる―専門職にとっての
カウンセリングマインド」と題した講演会を開催しました。
◇研修会
○こだちゼミナール:一般の方々を対象に、九州大学の心理学の講師陣が「臨床心理学のエッセン
スに触れる1年」をテーマに、少人数のゼミ形式で実施しました。
○こだちロールシャッハ研修会:事例を通したロールシャッハテストの研修会として、吉岡和子先
生(福岡県立大学)、吉田加代子先生(静岡大学)を講師に、全7回で実施しました。
○セラピスト・フォーカシング研修会:セラピストの面接中の体験にまつわる「感じ」をフォーカシングでゆっく
りと味わい確かめていくセラピスト・フォーカシング法を、吉良安之先生(九州大学)を講師に、全6回で実施
しました。
○現場で使える臨床動作法:成瀬悟策先生(九州大学名誉教授)、針塚進先生、大場信惠先生、遠矢浩一先生(以
上、九州大学)を講師に、その他複数の実技指導の先生をお迎えしてワークショップ形式で実施しました。
○発達障害児の保護者へのかかわり~原田剛志先生事例検討会~:パークサイドクリニック院長の原田剛志先生を
お招きして、講義と事例検討会を合わせた研修会を行いました。
◇学会発表・シンポジウム
○日本心理臨床学会第30回大会にて、シンポジウムとポスター発表を行いました。
いずれの会も、多くのみなさまにご参加いただきました。ありがとうございました。
平成24年度のこだち研修会(予定)
平成23年度同様、こだちロールシャッハ研修会、こだちゼミナール、動作法研修会、セラピスト・フォーカシ
ング研修会を実施する予定です。また、新たに次の研修会を企画しています。
○病院臨床を学ぶ会(仮):薬物療法や病態の見立て等病院臨床に関するトピックを学び、検討しなが
ら、心理士が一人職場になりがちな病院臨床を支えるネットワークにつながる会を企画しています。
おしらせ
フリースクール・寺子屋みらいの会主催
精神科医・斎藤環先生 ひきこもり支援勉強会/
講演会「思春期はいつまでか?~ひきこもりの若者を通して~」
〈勉強会〉
日時:2012年3月24日(土) 10:00~12:00
会場:立岩公民館(飯塚市役所向かい)
対象:今、悩む保護者・支援者
定員:30名<予約優先>
参加費(資料代含む):1名5000円
〈講演会〉
日時:2012年3月24日(土) 13:30~16:00
会場:立岩公民館(飯塚市役所向かい)
対象:青少年育成・若者に関心のある方
定員:100名(事前申し込み必要)
参加費:無料 資料代はカンパ(志納制)
詳細はいずれも090-3035-8050(フリースクール・寺子屋みらいの会)まで
支援型自動販売機設置のお願い
現在当法人では、活動費の補助となる「支援型自動販売機」の設置にご協力いただける個人・法人を募集してい
ます。支援型自動販売機は、当法人の名前がデザインされた自動販売機で、売り上げの一部が当法人の活動資金と
して提供されるというものです。設置と設置後の管理はコカコーラウエスト株式会社に委託します。設置にご協力
いただける方、関心がおありの方は事務局までお問い合わせください。
Page 3
掲示板
こだちよりお知らせ
書籍紹介
グループ臨床家を育てる
野島一彦監修
高橋紀子編集
ペアレント・トレーニング実践ガイドブック
福田恭介編著
創元社
「グループを見立て、手立てを考える力を育む、ファ
シリテーター養成システムの具
体的方法を、養成する側される
側両方の視点から紹介する」
(出版社HPより抜粋)
心理臨床において今後ますま
す重要になるグループ臨床につ
いて、それを十分にファシリ
テートできる臨床家を育ててい
く具体的方法とその実績を余す
ことなく紹介した本です。
当法人理事の野島一彦が監修
し、九州大学野島研究室の卒業生が中心となって編ま
れました。章ごとに監修者のインタビューがあり、直
接声をかけられているような読後感があります。
あいり出版
「ペアレントトレーニングは、子どもではなく親(保
護者)をトレーニングしようとす
るプログラムです。これによっ
て、直接子どもをトレーニングす
るよりも、その後の経過が良好に
なってきます」(出版社案内より
抜粋)
子どもの悩みを親を通じて支援
することを目指したペアレントト
レーニングについての著書です。
福岡県立大学の福田教授が中心
となり、当法人理事の吉岡和子も著者のひとりとして
携わっています。実際に活用されているトレーニング
が手順から結果に至るまで詳細に載せられており、実
践的、実用的な1冊です。
○会費納入のお願い
こだちは、昨年11月に5周年を迎えることができまし
た。これもひとえに、こだちの活動をご支援いただいてい
る会員の皆様のおかげだと思っております。会員の方で、
今年度分の会費をまだ支払われていない方は、会費の納入
にご協力をお願いいたします。会費振込用紙は以前お送り
しておりますが、お手元にない方はこだちまでお問い合わ
せください。
交通のご案内
■■■■■■
○入会のご案内
NPO法人の会員となって私たちの活動を支えていただけ
る方を募集しています。会員には臨床心理士対象の正会員
の他にも、準会員、学生会員、賛助会員を設けておりま
す。詳細をお知りになりたい方、会員になっていただける
方はぜひこだちまでご連絡ください。
編集後記 今年度もおかげさまで色んな企画を実施できま
した。内容の検討は大変ですが、やりがいを感じられる部分
でもあります。来年度もどうぞよろしくお願いします。(I)
特定非営利活動法人
■ ■ 地下鉄でお越しの方 ■ ■
福岡市営地下鉄空港線西新駅下車後
7番出口より徒歩にて約10分
九州大学こころとそだちの相談室
〒814-0002
福岡市早良区西新2-16-23
九州大学西新プラザ内
産学交流棟
TEL 092-832-1345
FAX 092-832-1346
HP http://www.geocities.jp/npo_kodachi/