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実践資料1
つまずきやすい内容に対する指導・援助を考えるための教材研究(例)
1.単元名
教材名
「物語を読んで、しょうかいしよう」
「一つの花」
今西 祐行 作
2.指導の立場
(1)単元について
本単元では、
「一つの花」を人に紹介する学習を位置付ける。また、戦争に関連する図書を仲間に紹介する
活動も位置付ける。二つの学習を通して、作品の中の大事な言葉や、場面の比較、題名の意図など、作者が
作品にこめた願いや思いを理解したり、
想像したりすることができる力を身に付けさせることが目的である。
その際、中心となる教材が「一つの花」である。この作品は、戦争という特別に困難な状況の中で、子を
持つ親が何を思い、どのように行動したかを描いた物語である。我が子に、満足な食事もさせられない親の
心情は、切なかったに違いない。また、喜びを与えることができなかったことも、残念であったろう。それ
以上に、我が子の成長を見届けられなかった父親の無念さが想像できる内容である。
この物語は、
「一つ」という言葉がキーワードだと考えられる。
そう考える理由の一つは、題名の「一つの花」である。理由二つ目は、
「一つだけちょうだい。
」という言
葉から、この作品が始まっていることである。三つ目は、繰り返し「一つ」という言葉がでてくることであ
る。そして、その「一つ」という言葉が、物語が展開していく上で、重要な意味を持っているように感じら
れるからである。例えば、幼いゆみ子は「一つだけ」という言葉を最初に覚えたとある。しかし、その「一
つだけ」ということばには、自分の分を削って分け与えても、満足に食べさせてやれない母親の悲しみが込
められているように読むことができる。また、戦争によって幼い娘の心がゆがめられているのにどうするこ
ともできない父親の無力感が込められているとも読むことができる。どちらもゆみ子への深い愛情が感じら
れる言葉である。
そして、最終場面では、ゆみ子の母親とゆみ子をたくさんのコスモスが包んでいる。最終場面は、戦争が
終わり平和な世の中になっている時のようである。戦争中の「一つの花」とは対比されるように描かれてい
る。父親が、今生の別れに手渡した一輪のコスモスとも対比されるように描かれている。
「一つの花」には、このようなキーワードがある。そして、キーワードから、家族が置かれた状況や、父
親や母親の心情が想像できる。また、作者の意図を想像することができる。だからこそ、作品を紹介する意
味がある。また、紹介することを通して、作品の特徴や内容を理解することができる。
また、これまでの学習との関連としては、3年生で「ちいちゃんのかげおくり」を学習している。そこで
は、
「かげおくり」というキーワードを通して家族の幸せと悲しみが描かれていた。この物語を通して、場面
ごとの出来事や様子を対比させながら読むことを学んでいる。そのため、出来事や様子について理解するこ
とはできている。また、うれしい出来事と悲しい出来事の対比や、不安な様子と安心した様子という対比な
どについても理解することができる。そこで、本単元では、場面の対比といった見方ができるようにも指導
をする。例えば作品中、戦争が激しかったころと戦争後の大きく二つで分けられる。そのことが、描写から
理解でき、どのような違いがあるのかに着目できるように指導する。
単元の出口の言語活動として戦争をテーマにした読書紹介を位置付ける。そのために、
「一つの花」が紹介
できるようにする。また、
「一つの花」を紹介できるようにするために、各場面の紹介ができるようにする。
児童が「戦争をテーマにした読書紹介をすることができるようになろう」という、単元を貫く課題に向かっ
て「一つの花」を読み、
「一つの花」でつけた読みの力を使って他の戦争を扱った本について読み進めること
ができるように指導したい。
(2)児童の実態
教材の戦争時代の生活を児童は知らない。そこで、単元の始めに、家族から戦争時代の生活について話を
聞くという宿題を出した。また、3年生で学習した「ちいちゃんのかげおくり」や児童のよく知っている「火
垂るの墓」を読み聞かせた。単元の第一時では、戦争時代について次のように確認した。毎日のように空襲
警報が出され、その度に防空壕にかくれたこと。爆弾が落とされて、全てが燃えてしまい、あらゆる物が十
分になかったこと。配給の切符でいろいろな物を手に入れ、ぜいたくはできなかったこと。甘い物はなく、
配給米は尐しで、雑炊や大根飯にして食べていたこと。芋やかぼちゃの蔓、イナゴやコオロギまで食べてい
たこと。それでも常に空腹であったこと。お父さんが出兵したり子どもが集団疎開したりして、家族が離れ
離れに暮らし、また家族を失うこともあったこと。戦争に反対すれば非国民として警察に捕まり、罰が与え
られたこと。児童は、この戦争時代は怖く大変な時代で、もしも自分が生きていたら我慢できるのかと考え
た。そしてその不安な時代の中でも生き抜いた自分の祖父や祖母の子供時代は、今の自分とは大きく違うこ
とが実感できた。
またこれまでの学習で、児童は「読み取りの目」や「読み取りの技」を使って一人読みを進めてきた。
「読
み取りの目」とは、文章中から着目するとよい言葉や表現(会話、繰り返し、たとえ、倒置法、文末など)
である。また「読み取りの技」とは、
「読み取りの目」で着目した言葉を抜き取ったり、置き換えたり、つな
げたりする言語操作によって、自分の読みを進めていく方法である。例えば、
「白いぼうし」の学習では、
「つ
っ立って」を「立って」と言葉を抜き取ったり、
「つまみ上げたとたん」を「つまみ上げると」に置き換えた
りして意味の違いを比べ、様子を詳しく想像した。児童は「読み取りの目」によって言葉に着目することは
できるようになってきているが、
「読み取りの技」
を活用して自分の読みを作ることは、
まだ十分にできない。
しかしこの2つの手法は、自分の考えを交流する段階での発言の根拠となるため、継続指導によって力を付
けていきたい。
(3)本時について
本時は、
「ゆみ子が父親と別れる場面を紹介する」学習を行う。そのために理解をしておかなければならな
いことがある。どうして「汽車が入ってくるというとき」や「汽車に乗って行ってしまいました」が問題に
なるのか。どうして「ゆみ子の『一つだけちょうだい。
』
」が問題になるのか。これらの意味が理解できてい
なければ、この場面を紹介することはできない。それは、ゆみ子の父親は汽車で戦地に向かうのであり、二
度と帰ることがない可能性が高い状況であることを理解する必要があるからである。同時に、ゆみ子との別
れだけでも、父親として無念であろうに、泣く子を置いたまま行かなければならない父親としては一層切な
いであろうと想像することが期待されるからである。
その上で、
「みんなおやりよ、お母さん。おにぎりを-----。
」という父親の優しさを紹介したいと考える児
童があるかもしれない。また、
「あわてて帰ってきたお父さんの手には、一輪のコスモスの花がありました。
」
という父親のけなげな行動を紹介したいと考える児童もあるだろう。また、
「さあ、一つだけあげよう。一つ
だけのお花、大事にするんだよ---。
」と別れの言葉とも思えない、ある意味思い余った父親の言動を紹介した
いと考える児童があるに違いない。こうした紹介をするための本文理解のための読み取りができるようにす
るため、
「読み取りの目」と「読み取りの技」を活用する。会話文や地の文にある倒置法やダッシュに気付き、
そこに込められた父親の思いを想像させたい。特に、キーワードの「一つだけ」に着目し、前の場面までの
意味を確かめながら、本場面での意味を考えさせたい。
また、
「ゆみ子が泣いてしまった時、どうしてお父さんは、高い高いをしないで、一つだけあげよう。と言
って、花を渡したのか。
」と発問し、一つだけの花に対する父の願いを考えせたい。今までの学習場面と対比
させて考えさせたい。
ただし、この発問は児童にとって混乱をきたす発問となるかもしれない。大人にとっても、おにぎりのか
わりにコスモスの花ということは唐突に感じる。むしろ、
「高い高いをする」ほうが、前場面までに描かれた
父の言動からすれば説得力がある。まして、なすすべもなく「高い高いをする」父親の方が、切実感を感じ
るように思う。しかし、父親は「コスモスの花」を一輪だけもってくる。余程の意味があると理解をせざる
を得ないが、
「コスモスの花」にその意味を負わせることは、非常に酷なことだと感じる。だから、児童が、
「高い高いをする」ほうがよかったのではないかとの考えをもったとしても、その考えを認め評価したい。
それは、率直なとらえ方だと思う。その意味で、教師側からの問いかけというよりも、児童からの疑問とし
て取り上げることができればよいと考えている。
3.研究テーマに関わって
国語部会研究テーマ
小・中の国語教育をなめらかに連結するための言語活動の具現
~C領域を中心とした小・中の系統的言語活動の具体的指導について~
読むことの能力を育てるための指導事項
小学校 第3学年及び第4学年
小学校 第5学年及び第6学年
ウ 場面の移り変わり注意しなが
エ 登場人物の相互関係や心情、場
ら、登場人物の性格や気持ちの変
面についての描写をとらえ、優れ
化、情景などについて、叙述を基
た叙述について自分の考えをま
に想像して読むこと。
とめること。
(本単元において)
◆紹介をするために、登場人物の立 ◆登場人物の関係や心情、場面の情
場や気持ちの変化、気持ちと関連
景から、特に優れていると考える
する情景について、想像できるよ
叙述を選択することができるよ
うにする。
うにし、その内容を紹介できるよ
うにする。
オ 文章を読んで考えたことを発 オ 本や文章を読んで考えたこと
表し合い、一人一人の感じ方につ
を発表し合い、自分の考えを広げ
いて違いのあることに気付くこ
たり深めたりすること。
と。
(本単元において)
◆3・4年との違いは、紹介を双方
◆物語の場面や全体について、自分
向にすることと考える。つまり、
が印象に残ったことや理解でき
一方的に紹介するだけではなく、
たことを紹介することができる
紹介したり、紹介を聞いたりした
ようにする。また、紹介すること
後に、自分の紹介と比較をし、補
を通して、自分とは異なった内容
足や修正を行うようにする。
や表現に着目する仲間があるこ (予定教材)
とに気付くことができるように
わらぐつの中の神様
する。
やまなし
中学校 第1学年
ウ 場面の展開や登場人物などの
描写に注意して読み、内容の理解
に役立てること。
◆小5・6学年の指導内容を踏まえ
つつ、他の作品などについても積
極的に紹介できるようにする。
オ 文章に表れているものの見方
や考え方をとらえ、自分のものの
見方や考え方を広くすること。
◆小学校との違いは、紹介する内容
を、ものの見方や考え方にするこ
とと考える。小学校では、文学的
な文章であったが、中学校では説
明文について紹介をするという
方法も考えられる。
(予定教材)
大人になれなかった弟たちに
読み取るための手法「読み取りの目」
「読み取りの技」を身に付ければ、高学年や中学生になっても、自分の
読みの基盤となると考える。また、深めの発問によって話し合うことで、仲間の考えとつなげたり比べたりし
ながら、自分の考えを深めていけると考える。
○「読み取りの目」
・・・どの言葉に着目するとよいかが分かって文章を読み、文章中から言葉を抜き出す目。
・題名(キーワード)-主人公の名前ではないかと想像する。
物語の中で重要な役割をしている物の名前などではないか
と想像する。
関心や疑問をもたせたい言葉ではないかと想像する。
・ダッシュ
-何か言いたいのに言えない心情を想像する。
言葉にできない複雑な心情を想像する。
何も言わなかったことを強調する理由を想像する。
・繰り返しの表現
-登場人物の動作や心情を強調していることを想像する。
動作や心情が、長い時間続いていることを想像する。
・比喩
-わかりやすく、または想像しやすくなっているかどうかを確
認する。
ユーモアや楽しさを感じさせるものになっているかどうか
を確認する。
・倒置法
-もともとの表現の仕方と比較して、前にもってきた言動や情
景を印象づけたり、強調しようとしていたりすることを理解
する。また、強調されている理由を想像する。
・文末表現
-特に、疑問や投げかけの表現から、問いかけの理由やなげか
けられた内容を想像する。
昔のことを表現しているのか、今のことを表現しているのか
に注意して、どうしてなのかを想像する。
丁寧な言い方か、普通の言い方かに注意して、どうしてなの
かを想像する。
断定的なのか、想像をしているようなのかなどに注意して、
どうしてなのかを想像する。
・心情を表す言葉
-登場人物がどう思ったのか、どう感じたのかを表現している
言葉に注意して、登場人物のどんな言動とつながっているの
かを想像する。
登場人物の心情が、他の登場人物にどんな影響を与えている
のかを想像する。
・様子、態度を表す言葉-登場人物がどんな様子なのか、どんな態度なのかを表現し
ている言葉に注意して、登場人物のどんな心情とつながっ
ているのかを想像する。
登場人物の様子や態度が、他の登場人物にどんな影響を与
えているのかを想像する。
○「読み取りの技」
・・・着目した表現から自分なりの解釈を生み出していく手法。
・抜き取る(あるなし読み) -表現がない場合と比べて、どんなことが付け加えら
れたり、どんなことが強調されたりするのかを想像
する。
・置き換える(おきかえ読み)-同じ様な別の言葉と比べてみて、どうしてこの言葉
を使った方がよいのかを想像する。
・意味を考える(辞書読み) -どんな時に使われる表現なのかを辞書や他の文章で
調べ、この文章での使われ方や意味をあらためて想
像する。
・つなげて考える(つなげ読み)-他の言葉や内容とのつながりを想像し、新しく気
がついたことがないかを確かめる。
同じ様なことを表現しているはずなのに、表現の
仕方を変えている理由などを想像する。
場面によって、繰り返されていることについて、
その理由などを想像する。
場面によって、尐しずつ変化していることについ
て、その理由などを想像する。
・挿し絵や作者の他の作品と比べるなどして、気付いたことで考える(気づき読み)
-文章に表現されていることがさし絵にどう表されてい
るかを考えながら見て、作者の意図などを想像する。
作者の他の作品や作風から連想し、作者の意図などを
想像する。
作品の中で、キーワードの役目について考え、作者の
意図などを想像する。