「これからのまち、住まいを展望する」少子高齢化時代の住まい・まちづくり

創立40周年記念講演「これからのまち、住まいを展望する」
少子高齢化時代の住まい・まちづくり
高 田 光 雄*
1.はじめに
に変わります。真ん中で少し膨らんでいます。
今日は、少子高齢時代の住まい・まちづくり
についてお話しさせていただきます。私は、こ
れまで主として、住まい・まちづくりの研究を
膨らんでいる下の方がいわゆる団塊ジュニアと
言われる団塊の世代の子供たちです。
2050年のピラミッドは壺型と言われますが、
行ってきましたが、実際のプロジェクトと関わ
要するにどんどん若い人になるほど人口が減っ
りながら行った参加型研究が多いので、前半で
ていくのです。団塊ジュニア・ジュニアはどこ
は基本的な考え方を統計などを使って述べます
かと探しても、ほとんど見えない。
が、後半では私自身が参加したプロジェクトを
このような社会が近い将来必ず来ます。それ
紹介させていただきます。まず、少子高齢時代
がどういう社会なのかということは、これまで
をどう読むのかということについて話します。
の経験からだけでは必ずしも推測できません。
図-1は人口ピラミッドですが、一番左側は
1950年、将にピラミッド型をしています。ボト
おそらく経験したことがないことがたくさん起
きる社会です。
ムの上のあたりがいわゆる団塊の世代で、戦後
高齢社会とか少子社会とかいう言葉は今日広
のベビーブームの時に生まれた人たちの固まり
く普及しました。しかし、その社会像を考える
です。
前に、現在はこれまでとは違った構造の社会に
2000年になると、このピラミッドはつり鐘型
動いていくプロセスだという認識が非常に大事
だと思います。そういうことを最初に認識して
もらって、少子高齢社会という社会像について
考えていきたいと思います。
2.少子高齢化社会とはどういう社会か
少子高齢社会とは、素直に考えれば、高齢社
会ですから、高齢者が多い社会だということに
なります。それは間違いないことです。少子社
図-1
人口ピラミッドの変化
*TAKADA Mitsuo:京都大学大学院教授
2
会というのは、子供が少ない社会だと定義され
ます。少子高齢社会は、子供が少なくて高齢者
指標としては、合計特殊出生率、つまり、女性
が多い社会だということになりますが、子供の
が一生に産む子ども数の平均値がよく使われま
人数が減ってくると、高齢者の割合は当然増え
す。合計特殊出生率で少子化の傾向を見ると、
る。従って、少子高齢社会は、一言で言うと高
2003年現在、日本全体のそれは1.29です。東京
齢者が多い社会だと言うことができます。世界
や大阪などの大都市ではもっと数字は小さくな
中どこに行っても、特に先進諸国では、高齢社
ります。諸外国については、アメリカが2.01、
会の問題は注目されています。
ドイツ1.42、スウエーデン1.57、フランス1.90、
ところで、「高齢社会」という言葉は、厳密に
イタリア1.24、イギリス1.63で、日本もかなり少
は、「高齢化社会」と区別して使われます。高齢
子化が進んでいると言えます。時間軸で見ても、
化社会というのはaging societyの訳です。aged
少子化は進行します。これによって高齢化率は
society、要するに高齢化がある段階に達した社
さらに増えていきます。
会というのを高齢社会と言います。一般に、65
こうした状況をふまえると、とにかく高齢者
歳以上の高齢者が全人口に占める割合を高齢化
に配慮した住まい・まちづくりについて、早急
率と言いますが、WHO(世界保健機構)の定義
に対応しなければならないようにみえる。技術
に従うと、それが7%を超えるとaging society、
開発も必要であり、非常に重要な現代的研究課
つまり高齢化社会、14%を超えるとaged society、
題である。
つまり高齢社会になる。
例えば、バリアフリーデザイン、あるいはユ
しかし、日本にとって、こういう定義はどの
ニバーサルデザインの視点からみた住宅・都市
程度意味があるのか疑問です。日本の社会で、
設計が求められている。高齢者向け住宅の供給
高齢化社会や高齢社会という概念がどういう意
システムも更に整備しなければならない。ある
味を持つのか、あるいは、住まいやまちづくり
いはそうしたシステムを研究しなければいけな
にとって、どういう意味を持つのか、まだまだ
い。高齢者向けの地域施設やサービスも、整備
研究しなければなりません。
したり、検討したりしなければならない。これ
2003年の統計によると、日本の65歳以上の人
らの課題は、当然のことながら、取り組みが現
口は2,430万人、高齢化率は19%です。2010年に
在強く求められています。また、様々な所で
は26%、人口の4分の1以上が高齢者、2050年に
様々な方々が研究開発に努力をされています。
は人口の3分の1が高齢者です。
私も微力ながらこうした研究もやっています。
高齢化率は、現在、既に14%を超えているか
ただし、今日はこういう話は一切しないでお
ら、先ほどのWHOの定義に従えば、日本は当然、
こうと思います。なぜかというと、今申した事
高齢社会ということになる。しかし、決して安
柄はすべて少子高齢化社会が高齢者が多い社会
定している状態ではない。まだまだ変化してい
だと考えたときに問題になってくることだから
る。京都府立大学名誉教授の広原盛明先生が使
です。少子高齢社会は高齢者が多い社会である
われている言葉ですが、「高齢社会への移行期」
ということは紛れもない事実で、当然重要なこ
と考えた方が自然です。これが安定した高齢社
となのですが、今日、私が話したいと思うのは
会だというふうに考えてしまうと、様々な誤解
このような発想だけではまずいのではないか、
を生む。どんどん動いているという認識が重要
ということなのです。少子高齢社会が高齢者が
です。
多い社会として認識される、これは重要だが、
人口予測の国際比較では、諸外国に比べ、こ
そのことだけで少子高齢社会を語るということ
れまで急速な高齢化を遂げてきた日本は、21世
は不十分ではないかという趣旨の話をさせてい
紀に入り、突出した高齢化率を示している。と
ただきたいのです。
にかく諸外国に比べて高い高齢化率を今後とも
キープしていくことがわかります。
一方、少子化についての話ですが、統計的な
GBRC
119 2005・1
それでは、どういう別の意味があるのかとい
うことですが、少子高齢社会は高齢者が多い社
会であるとともに、人の一生が長い社会、つま
3
り長寿社会という意味合いがあるのです。これ
あって、これはどんな人でもそれほど大きく変
は同じことではないかと思われる方があるかも
わることはなかった。
しれませんが、高齢者が多い社会という意味と
ところが、一生が段々長くなってくると、例
人の一生が長くなるというのはかなり意味が違
えば夫の定年退職後の時間が、余生を送るとい
っています。
うにはあまりにも長くなる。子育てが終わって
人生が長くなるという問題は、小さい子供で
からの時間も長くなる。男性にとっても女性に
も中高生でも、どういう年齢の人にとっても自
とっても、今までだとそれほどそこに何のプロ
分自身の問題として大変重要な意味を持つ。高
グラムもなくても過ぎていった時間がそうはい
齢者が多くなるというのは、高齢者自身の問題
かなくなる。このことは、よくよく考えてみる
であると同時に高齢者を抱える社会の問題、あ
と、社会のシステムさえ整えば、いつ結婚する
るいは家族の問題ですが、若い人にとって自分
か、いつ子供を育てるか、いつ仕事をするか、
自身の問題は将来の自分の問題ではあるが、当
いつ勉強するかというようなライフストーリー
面の自分の問題ではない。
を自由に描くことができるということを意味し
これが少子高齢社会に対する2つの解釈の違い
ているようにみえます。
ですが、少子高齢社会を人の一生が長くなる社
事実そのような傾向はどんどん強まってきて
会だと考えた場合に、もっと本質的な問題がい
います。まだまだ社会の仕組みが、好きな時に
ろいろと起こってきます。住宅計画やまちづく
働いて、好きな時に勉強して、好きな時に子供
りにおいて、人の一生が長くなる、人生が長く
を育てということに十分対応できない点がたく
なるということの意味合いをもっとよく考えな
さんありますから、急激には社会は変化しませ
ければいけないと私自身は思っています。その
んが、原理的にはそういうことが起こっている。
ことについて、今日は話したいと思います。
例えば我々のような大学では、学生は今まで
だと若いものと決まっていましたが、この頃は
3.生活単位の個人化
社会人入学など制度を使って、様々な年齢の人
人の一生が長くなると何が変わるか具体的に
が学生として入ってくるようになりました。仕
考えてみましょう。図-2は、ちょっと古いデー
事をしてから勉強する。その後、また、仕事に
タですが、1955年と1990年とを比べて、夫婦の
出るという人生の選択肢が増えていることを大
人生がどのように変わったかを具体的に表した
学にいると実感できます。他の職場でも同じよ
ものです。物理的にはこれだけ人生が長くなっ
うなことが起こっている。人生が長くなること
た。今までだと人の一生というのは、何歳かで
は、人生の選択肢が増える、一生をどう送るか
結婚して、子供が生まれて、末子が学校を出て、
という複数のルートが出てくることを意味して
子育てが終わって、仕事が定年になって、後は
います。
余生を送るという、こういう考え方が基本的に
長
子
結誕
婚生
末
子
誕
生
末
子
就
学
末
子
学
卒
夫
定
年
決定する社会であると言える。これが少子高齢
1955年
社会のもう一つの側面ではないかと思います。
夫
人生を自己決定するということが非常に重要で、
1990年
長
子
結誕
婚生
末
子
誕
生
末
子
就
学
末
子
学
卒
誰かが決めてくれたり、自動的に決まるという
夫
定
年
わけではない。自分でそれを決めていかなけれ
1955年
ばならない。これはある意味では、選択肢、自
妻
由度が増える社会の進行ですが、一方では自己
1990年
決定を社会が求めている。個人が自立すること
20
30
図-2
4
そう考えると、長寿社会とは、結局、個人が
自分のライフストーリー、自分の一生を自分で
40
50
長寿化の進行
60
70
80(歳)
を社会が求めているから、個人の自立を促す社
会が進行しているととらえることもできる。
事実、個人の自立は、とりわけ近年、様々な
た。女性の社会参加が進むと、夫婦は1単位でな
場面で我々が直面している重要な概念です。生
く夫婦は2単位であると考えなければ不都合が生
活における自立をめぐっては様々な議論もある。
じます。夫婦は、最初からずっと2単位で、2つ
今日はそこまで触れるつもりはないが、いずれ
の自立した個人の集合だと考えるのです。女性
にしても、何となく過ごしていくとか、ある社
の社会参加によって、生活単位の個人化は進行
会の一般的な慣習とかルールに基づいて一生は
します。少子高齢社会では、住まい方や女性の
終わっていくのではなくて、人生のあちこちで
社会参加等の条件を考えると、ますます生活単
自ら何らかの選択をしながら長い人生を生きて
位の個人化が進んでいくと考えられます。
いく。このように進行していくのが長寿社会だ
と思います。
4.家族・コミュニティの再編
その場合に一人一人違うライフストーリーを
ここまでお話しして、生活単位の個人化と言
作ることになるから、生活の単位がどんどん個
いますと、理解はできるけれど感覚的には受け
人化していくことは必然です。従って、少子高
入れられないと思われる方が多いのではないか
齢社会、長寿社会は、生活単位が個人化する社
と思います。少なくともネガティブな印象を持
会だということができます。生活単位の個人化
たれたと思います。何故かと言うと、個人化が
の傾向は随分前から起こっています。ただし、
進むというと、人が皆ばらばらに生きていくと
高齢化が進行すればするほど、個人化もどんど
理解されるからです。
ん進行していくと考えることができます。もっ
確かに、生活単位の個人化が進むと、個人が
とも、より本質的には、先ほど言ったように、
ばらばらに生活するという可能性も強まってい
自分のことを自分で決める、自分の人生を自己
きます。とりわけ、現存する住まいや都市の空
決定していくということが重要です。
間をそのまま放置すると、多分、個人がばらば
さらに、住宅の住まい方についてもみてみた
らに生活せざるを得ない状況が進行するだろう
い。世帯分類は、単独世帯、夫婦のみ世帯、核
と思われます。しかし、生活単位の個人化の本
家族世帯(親と子供の世帯)、それから、3世代
質をとらえると、必ずしも個人がばらばらにな
同居世帯となっています。現在日本では、全体
るのではないことがわかります。
の2割ぐらいが単独世帯です。ちなみに、大阪市
これまで、血縁でつながり一緒に生活をする
では、三十数%、4割近くが単独世帯です。つま
家族や、地縁でつながる地域コミュニティが人
り、大阪市の住宅の中でもっとも一般的なもっ
の関係だと考えられてきました。しかし、自立
とも普通の住まい方というのが単身ということ
した個人同士は、血縁や地縁を超えて、様々な
になる。2人世帯は4分の1ぐらい。従って、1人
状況の下で、もっと多様な人々と、もっと多様
ないし2人で住んでいる世帯を合わせると3分の2
な関係をとり得るのです。1人の人が様々な所で
近くということになる。全国でも小家族化が進
様々なネットワークに参加して、様々な関係を
んでいるが、とりわけ大都市ではそれが顕著に
構築する。しかも、1人の人が様々な所で様々な
現れています。
ネットワークに参加して、様々な関係を構築す
社会全体の仕組みの中で個人が自立していく
る。それが、生活単位の個人化を前提とした生
ようになるが、人の住まい方から見ても、物理
活像です。社会に対しては、個人の自立を支援
的にも1人居住とか2人居住が進行していく。こ
するとともに、自立した個人同士が交流し、多
れがまた生活単位の個人化に拍車をかけていく
様な関係をつくる仕組みとか、空間とか物が求
のです。
められているのです。
さらに、もう一つ重要なことが女性の社会参
具体的な話をします。まず家族の問題です。
加です。これまでは夫婦は2人で1単位だと考え
先ほど言ったように単身世帯が増えているとと
られてきました。紛れもなく戦後の住宅計画や
もに家族関係が多様化している。現代の家族と
団地計画はそういう考え方で立てられてきまし
いう概念は従来のように血縁があったという関
GBRC
119 2005・1
5
係ではない。むしろ、家族であるというファミ
リー・アイデンティティを共有しているかどう
かというのが家族という概念の定義になってい
る。
これまで住宅供給は世帯を単位に行われてい
5.生活単位の個人化を支える住まい
ちょっと抽象的な話になりましたので、これ
から具体的な話をしたいと思います。
まず、住宅の問題です。生活単位の個人化を
支える住まいは一体どうものかを考えます。
たが、家族全員が一軒の家にまとまって住むの
戦後の住宅はnLDK型プランと言われる平面を
ではなく、多様な家族構成があらわれたり、個
中心に発展してきました。その計画原理は、京
人単位で複数の家に住んだりするため、世帯単
都大学名誉教授の西山先生による庶民住宅の研
位の計画はだんだんうまくいなかなくなってい
究に見いだされます。図-3は、それを基礎に東
る。むしろ個人を単位とした住宅供給を考えな
京大学吉武研究室が開発した最初の2DK公営住
いといけない。
宅です。ちょうど1951年に公営住宅法ができた
ただし、個人は必ずしもばらばらに生活する
年に作られた標準設計です。2つの部屋とダイニ
わけではない。もし個人がばらばらにしか生活
ングキッチンからなる平面で、後の公共住宅の
しないのであれば、日本の住宅はワンルームマ
原型になったと言われています。
ンションばかりになってしまう。そうはならな
ここで想定されている家族像は、いわゆる核
いだろうし、そうなることが望ましいわけでは
家族です。夫婦プラス子供が2∼3人、4人世帯の
ない。むしろ、多様な関係が構築できるような
ことを標準世帯とも呼びました。
住まいづくりを考えないといけない。
一方、地域コミュニティはどうでしょうか。
ところが、nLDK型のプランは、生活単位の個
人化が進むと、必ずしも使い勝手がよくなくな
以前は、地縁的、強制的コミュニティと言われ
る。個人と家族と社会との関係が複雑になって
るように、ある所に住むと自動的にあるコミュ
いく中で、nLDK型の住宅はそれらの関係になか
ニティに属することになり、そのコミュニティ
なか対応しない。こういう問題意識は住宅の研
以外の関係は持たないと考えられてきた。近年
究者や建築家が随分以前からもっているもので、
ではそういう地域的なコミュニティが衰退し、
nLDK型の住宅をどのように乗り越えるのかとい
同時に、個人が選択して地域の中で様々な関係
う議論が続けられてきた。
を持つことが活発になっている。こういう選択
個人と家族と社会との関係についてこれまで
的コミュニティ、都市的コミュニティが徐々に
どういう議論があったか、主だったものについ
育ってきていることを認識しなければならない。
て簡単に紹介する。
そのうえで、個人の自立を核として個人個人
が様々な関係が持てるような交流拠点を「まち」
図-4は、昭和女子大学教授の友田さんが提唱
されているLホール型住宅と言われているもの
としてどのように確保することができるか、あ
るいはアクセスする仕組みをどのように確保し
ていくかを考えねばならない。
ところで、個人が自立するためには、自立で
きない人を応援する、または支援する仕組みと
いうのが要る。個人の自立を支援する仕組みと
して機能する施設とかサービスとかという、「交
流空間」が必要となる。自立と交流を支援する
ような社会の仕組みというのを長寿社会の仕組
みと考えたい。個人をベースとした住まい・ま
ちづくりでは、自立を支援する交流を実現して
いくことが課題だと思う。
(寸法単位:mm)
図-3
6
公営住宅標準設計51C型
です。子供をめぐる様々な問題がある時期から
い方が実現し、関係性を持ち続け、あるいは自
社会問題になってきた。この住宅は、ある意味
立支援が可能かというと必ずしもそうではない。
では4LDKですが、ただ4部屋とLDKが並んでい
日本大学の教授をされている建築家の黒沢隆
るというわけではない。友田さんは、部屋と部
さんは、1960年代から、個室群住居論という独
屋との関係が重要であると考えた。個室はすべ
特の主張をされてきた。60年代には、必ずしも
て真ん中のリビングを介してつながっている。
世論が後押ししなかったが、非常に先駆的な仕
子供の個室は、必ず家族の部屋を通ってアクセ
事をされたと私は思っています。
スする。子育てにはこういう空間が適している
個室群住居とは、簡単に言えば、先ほどの、
という提案を、住まい方調査や設計活動を通し
社会−家族−個人となっていたモデルから家族
て構想し、主張された。中央教育審議会がこれ
を取ってしまうことです。つまり、社会−個人
に着目するところとなり、子どもの教育と住宅
という関係です。4人家族であったら、4人の家
の間取りの関係が議論された。空間構造は、社
族が社会にダイレクトにつながるような空間構
会−家族−個人です。
造とする。図-5は2階建ての戸建て住宅ですが、
しかし、これはいわゆる子育て期の家族の住
あえて個室を2階に4つ並べています。個室に行
宅計画です。少子高齢社会では、子供のいる家
くのにだれも居間の中を通らない。先ほどの友
族は少数派です。社会の構成員は大部分大人で
田さんのLホール型とは全く違う考え方です。
す。大人が住む空間として、部屋と部屋との関
外からダイレクトに個室に入るという構造です。
係が論じられる必要があります。社会−家族−
個人という空間論だけで、果たして多様な住ま
それでは、このリビングとかダイニングは、
何をするところだということですが、これはダ
イレクトに社会につながっている空間としても
計画すべきだという主張です。ここは、家族同
士が使うとともに、例えば、家族の一人が友人
を集めてパーティをする空間としても活用する。
そのために、都市に直結した空間としてリビン
グが計画されている。非常に明快なコンセプト
で、黒沢さんは、こういう考え方で戸建て住宅
や集合住宅の提案をされてきた。こういう考え
方もあるのです。
しかしながら、この考え方は必ずしも普及は
しなかった。それからまた、生活単位の個人化
図-4
という視点からいうと、このモデルは、やや単
Lホール型住宅の例
(2F)
(1F)
図-5
GBRC
119 2005・1
個室群住居の例(黒沢隆)
7
純すぎるところがある。人の生活はもう少し複
雑なのです。
その後、現在、工学院大学教授で、建築家の
山本理顕さんが図-6の図式を提案された。例え
ば、図-6が家族の空間だとすると、社会があっ
て、家族があって、個人があるのではなくて、
現代家族とは家族というアイデンティティを共
有している個人の集まりだという考え方です。
アイデンティティの共有とは、それを象徴する
ような空間、あるいは少なくとも共同で何かを
するような空間としてのコモンがもっともよく
守られた、社会からは遠い奥まった位置にある。
まちと直結しているのではなくて、むしろ個人
が社会につながっている。
写真-1
熊本県営保田窪団地
この考え方に基づいて、戸建て住宅や集合住
宅の設計が行われた。写真-1は熊本の保田窪団
地の航空写真です。集合住宅全体が図-6の図式
の構造となっていて、各住戸が個室のようにな
り、真ん中の広場はその住人たちのコモンスペ
ースです。従って真ん中の広場には外部からは
直接は入れない。だれかが受け入れた人なら入
ることはできるので、外部の人が全く入れない
ということはないが、構成員のフィルターを通
してしか入れないという設計提案が行われてい
る。
図-7は、10年間にわたって居住実験を行って
いる大阪の実験集合住宅NEXT21の1住戸、自立
図-7
NEXT21自立家族の家(シーラカンス)
家族の家です。設計はシーラカンス。外部廊下
からの入り口は全部個室についている。社会−
家族−個人ではなく、社会−個人−家族という
配列がここでも提案されています。
社会、個人、家族(集団)の空間配列に関わ
るこのような試みは日本ではまだそれ程多くな
図-6
8
個室とコモンスペースの空間図式(山本理顕)
図-8
シェアード・ハウジング
いが、諸外国を見ると、多様な住まい方がある。
その中で2つ、典型的なものを紹介します。
図-8はシェアード・ハウジングです。1つの住
固定的な住まい方になる。
先ほど、住戸の例として示したNEXT21はこ
の方式によるもので、1993年に竣工しています。
宅を、例えば若者や学生が共同で使う住み方を
その時、実はスケルトン&インフィルだけでは
シェアード・ハウジングという。シェアされる
なくクラディングという概念が導入され、スケ
ことを前提にして新築される集合住宅もある。
ルトン、クラディング、インフィルという考え
図-8は計画的に作られたシェアード・ハウジン
方で構築されました。
グの例です。4人の単身者が入って、各個室には、
外壁とか戸境壁を意味するクラディングとい
外部の廊下からの出入り口がある。各個室の中
う言葉は、もともと都立大学の深尾教授が名づ
には、ベッドルームとトイレやシャワー、小さ
け親です。クラディングは、多様な関係性の構
なサニタリー空間がある。その奥に共同の部屋
築に決定的に重要です。住戸が安定的に存在す
がある。共同のキッチンと共同のダイニングテ
ると考えるとクラディングは必ずしも要らない。
ーブルとバスタブのあるバスルームが用意され、
ところが、住戸が大きくなったり小さくなった
4人でシェアをします。別に4人で一緒に集まっ
りする、あるいは住戸という概念を解体して、
て食事をすることを意図しているのではなくて、
多様な居住形態に変化していくと考えると、ク
4人が個々に持っていなくてもいいものを真ん中
ラディングは決定的に重要となってくる。
にまとめて持つという考え方です。真ん中の空
間には外部からは直接は入れません。
NEXT21は、100年以上の耐用年数を考えて設
計されている。100年先の家族や社会の動きを読
阪神・淡路大震災後、日本でも一般的に使わ
み込んで、その可能性に対応するため、戸境壁
れるようになったコレクティブ・ハウジング。
を移動し、住戸規模や空間構造を変更できる組
コレクティブ・ハウジングとは、単身者や小家
み立てが考えられたわけです。
族が、共同居住のメリットを求めて、疑似家族
図-9は、このスケルトン、クラディング、イ
を作って一緒に暮らす住まい方。例えば、女性
ンフィルという考え方を展開した東大阪のふれ
の単身の方が家事を共同化するために一緒に住
っくすコート吉田という公的賃貸住宅です。
もうという場合、個人としてのニーズは住戸で
次の事例は、実施案ではありませんが、青森で
一応満たし、さらに、共同のダイニングルーム
行われた公営住宅の国際コンペ応募案で、私の
があって、そこで当番制で食事を作ったりしな
研究室で提案した次世代スケルトン&インフィ
がら生活をしていくという考え方です。1人にな
ル方式の提案です。先ほど述べたシェアード・
ろうと思えばなれるし、一緒に暮らそうと思え
ハウジングやコレクティブ・ハウジングなどが、
ば集団の中に入っていけばいい。コレクティ
単身者や一般の家族用の住宅のクラディング変
ブ・ハウジングには様々なタイプがあります。
個人と家族と社会の関係とは、必ずしも核家
族をベースにした住宅ではなく、多様な住まい
方の可能性がある。長寿社会の中では多様な関
係性の構築が求められています。これを技術的
にサポートする方法が重要だと思います。たと
えば、私自身、随分前から関わってきたスケル
トン&インフィル方式が有効だと考えています。
最近ではSI住宅とか、オープンビルディングと
いう言い方で呼ばれています。スケルトンとイ
ンフィルを組み合わせて作る住宅の建設方法で、
多様な関係性の構築という目的には非常に役に
立つ。あるいは逆にこういう方法をとらないと、
GBRC
119 2005・1
図-9
大阪府住宅供給公社ふれっくすコート吉田の
建築システム
9
更によって実現でき、かつ、それに対応した設
ちりと考える。そのことに付随した作業をやら
備配管、配線の変更が合理的にできるシステム
ないと、単にアンケートをして、どういう部屋
を提案しています。
が必要ですか、どういうものがあったらいいで
すかというマーケティングをやっても、ほんと
6.
「いえ」に住む から「まち」に住む へ
次に、個人の自立と交流を支援するために、
うに必要なものが出てこない。この作業は、住
まい手がかなり苦しむことになりますので、そ
「まち」のレベルでの取り組みについて考えてみ
れをできるだけ楽しくやる方法を考えて支援す
ます。「まち」のレベルでは、ある所に住めばあ
る必要があります。将来の自分の生活をみずか
る状態、つまり、利用する施設やつきあう住戸
ら真剣に考えるための手法です。
などが決まってしまうというのではなく、個人
一つの例ですが、共働き世帯の家族が将来ど
レベルで多様な関係が作れるということが重要
ういう空間を求めるかということを実験しまし
です。関係性のデザインと呼んでいるのですが、
た。住戸の改修計画の中で5組の共働きの夫婦の
主としてアクセスの問題と交流空間の問題があ
方10名に参加をしていただいて、それぞれ自分
ります。多様な関係性を実現する空間をどうし
の生活の将来像を個人を単位として考えてもら
て現代の都市の中で構築していくかということ
い、生活シナリオを作成してもらいました。そ
が課題になります。フィジカルには先ほどのス
の上で、夫婦に共同して個人のシナリオを重ね
ケルトン&インフィルという考え方がここでも
合わせた空間構造を考えてもらう。このような
役立ちます。住棟単位で考えるのではなくて、
作業をしていく。これをもとにして空間構造を
街区単位で立体的な「まち」を作っていく提案
分析して、10組の人たちが考えたシナリオに対
です。立体街区とも呼んでいます。それにソフ
応するような住宅を計画しました。
トなさまざまな仕組みが加わって、多様な関係
が実現するのです。
この住宅には、家族の玄関とは別に、夫の個
室と妻の個室それぞれに出入り口があり、それ
ぞれの個人としての生活、家族としての生活、
7.少子高齢時代の住まい・まちづくり戦略
ところで、多様な関係を作りながら「まち」
あるいは社会などとの多様な関係が成り立つよ
うな空間構造をもっています。先ほどお見せし
に住むためのハードな技術提案は進んでいます
た自立家族の家という4つの個室に出入り口のあ
が、ソフトな技術提案はまだまだ不十分です。
る住宅の改良案という見方もできる。さらに、
数年前から開発を試みているソフトな技術にシ
この住宅では、将来、間取りが変わっていくか
ナリオ・アプローチという計画手法があります。
ら、廃棄物を出さないように空間構造が変えら
これからの住まいやまちづくりは、先ほど自己
れるような計画を提案しています。
決定と言いましたが、住まい手が自分で自分の
次は、実現したものではありませんが、神戸
ことを決めることが重要になります。住まいや
で計画したコレクティブ・ハウジングの事例で
まちづくりの計画を専門家だけでやるのではな
す。この住宅に住みたいという単身者の方12名
くて、住まい手自身が行う、住まい手が参加し
に集まってもらって、シナリオを作りながら空
て生活空間を作っていく方法を確立しないと、
間構造を考えるワークショップを行いました。
いくらハードを用意しても何の役にも立たない。
コレクティブ・ハウジングの住まい方が具体化
では、どのようにして住まいづくりやまちづ
くりに住まい手が参画し、住まい手の自己決定
するとともに、空間的にも多様な形態が生まれ
ました。
を支援していくのか。シナリオ・アプローチに
今度は「まち」のレベルでの試みです。少子
よる計画手法をいろいろと試みてみました。ま
高齢社会とは人口減少社会でもあります。縮ん
ず、住宅レベルの計画手法から説明します。要
でいく都市圏を想定すると、結局、少子高齢時
は自分で自分の将来の住まい方を真剣に考える。
代の都市像とは個性ある地域のネットワークだ
今の生活を反省して、将来の自分の生活をきっ
と考えるべきだろうと思います。どのようなプ
10
ロセスでそれを実現するかが問題です。
一方、高齢者の問題は大事ですが、高齢者を
65歳以上と一固まりのグループとして考え、か
つ、様々な問題を抱えている社会の負荷になる
ような集団だと考えるのはおかしい。とりわけ
65歳から75歳の前期高齢者は相当元気です。団
塊の世代がこれから徐々に高齢期を迎えます。
私は、今後、10年ないしは15年の間、この団塊
の世代がどれだけまちづくりの戦力として地域
の中で活躍するかということがこれからの都市
では決定的に重要だと考えています。それがも
写真-2
アーバネックス三条
しできなかったら、最初にお見せした人口ピラ
ミッドの変化が進行しますので、非常に悲惨な
状態になることは目に見えています。
8.京都における取り組み事例
最後ですが、写真-2は京都の例です。現在は
団塊の世代が地域のまちづくりで活躍できる
店舗併存賃貸集合住宅ですが、もともと非常に
ような仕組みを作っておくことが非常に重要で
激しいマンション紛争があった敷地です。分譲
す。それを支援するプログラムを作らねばなら
マンション計画が一旦白紙撤回となって、今度
ないと思います。
は地域のまちづくりに貢献し、採算もとれる事
兵庫県の初期のニュータウンの明舞団地で行
業をディベロッパーと地域住民が一緒になって
ったニュータウン再生計画は都市レベル、まち
模索する活動が生まれました。全国的にも大変
づくりのレベルでのシナリオアプローチの例で
珍しい事業です。
す。ここでは、「まち」のシナリオと「個人」の
新たな住まい手の検討では、新聞記事などを
シナリオという2つの段階を設けてワークショッ
通じて集まった入居希望者とまちなか暮らしの
プ方式で作業を進めました。「まち」のシナリオ
シナリオをつくるワークショップを行いました。
とは、まちがどのように変わっていくかを資料
地域の住民と新たな住まい手の関係について
に基づき想定した上で、複数のシナリオを作り
も議論しました。べたべたではなくあっさりと
ます。「個人」のシナリオでは、参加者一人一人
した適度の関係を保ちながら、しかし地域の資
に、どういう変化があった場合にはどのように
源を生かしたまちなか暮らしの実現をめざした
生活するのかを考えてもらいます。その成果を
様々な活動が入居後も継続して行われています。
分析して、明舞団地の将来像を住民の方々と一
緒に考えていきました。
こうした、作業を積み重ねながら、住民が自
らのライフストーリーを描くことと、まちづく
以上、少子高齢社会における住まい・まちづ
くりのあり方について、考えていることをいく
つかお話しさせていただきました。
ご清聴、ありがとうございました。(拍手)
りの計画をつくることが同時並行で進んでいく
ことを期待しています。
GBRC
119 2005・1
11